特許第5738345号(P5738345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738345
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20150604BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08L23/08
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-100393(P2013-100393)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234326(P2013-234326A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】61/645,203
(32)【優先日】2012年5月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/662,401
(32)【優先日】2012年6月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/718,590
(32)【優先日】2012年10月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/718,596
(32)【優先日】2012年10月25日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒内 正博
(72)【発明者】
【氏名】角 洋幸
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−028264(JP,A)
【文献】 特開平09−241489(JP,A)
【文献】 特開平10−060241(JP,A)
【文献】 特開2003−342457(JP,A)
【文献】 特表2005−535762(JP,A)
【文献】 特表2011−529978(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
C08L 23/00 − 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレン/エチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマー、エチレン/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマー、およびこれらの組み合わせから選択されるエチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)ハロゲン化ポリマー、ハロゲン化エポキシ難燃剤およびこれらの混合物から選択される難燃剤1〜40重量%
(e)任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む組成物であって、
(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定される、成形された場合の前記組成物のガードナー衝撃が、少なくとも4.2Jであり、
前記成分(d)がハロゲン化ポリマーから選択される場合、前記組成物はカーボンブラックを含まない、組成物。
【請求項2】
(a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレン/エチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマー、エチレン/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマー、およびこれらの組み合わせから選択されるエチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)ハロゲン化ポリマー、ハロゲン化エポキシ難燃剤およびこれらの混合物から選択される難燃剤1〜40重量%
(e)任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む、溶融混合組成物を成形するステップを含む、物品を製造する方法であって、
(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定される、前記物品のガードナー衝撃が、少なくとも4.2Jであり、
前記成分(d)がハロゲン化ポリマーから選択される場合、前記組成物はカーボンブラックを含まない、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、そのすべてが係属中であり、かつその全体が参照により本明細書に援用される、以下の:2012年10月25日出願の米国仮特許出願第61/718,596号明細書;2012年10月25日出願の米国仮特許出願第61/718,590号明細書;2012年6月21日出願の米国仮特許出願第61/662,401号明細書;および2012年5月10日出願の米国仮特許出願第61/645,203号明細書からの優先権を主張する。
【0002】
低温耐衝撃性を有する組成物、さらに具体的には、ポリエステル、エチレンコポリマーを含む強化剤、コポリエーテルエステルエラストマー、任意選択的に難燃剤を含む組成物、ならびに光起電性接続箱およびコネクター、および低温耐衝撃性が必要とされる他の物品の製造のためのその利点が記述されている。
【0003】
再生可能な発電源の開発に現在重点が置かれていることから、光起電力[PV]セル技術は常に、研究および改良の主題である。PVセルから生成される電力は通常、接続箱を通して送られており、接続箱は、PVパネルをPVパネルの電気出力に接続し、かつ環境から電気の接続を保護するのに役立つ。接続箱は、広い範囲の温度に対する曝露に耐えることができなければならない。ポリマー材料から製造する場合、PVパネルからの電力生成を失敗する原因となり得る、構造的損傷を防ぐために、接続箱は低温耐衝撃性を有するべきである。
【背景技術】
【0004】
(特許文献1)には、ポリエステル組成物から製造された接続箱が開示されている。(特許文献2)には、ポリエステル、エチレンアクリレートコポリマー、および熱可塑性エラストマーポリエステルを含むポリエステル組成物であって、滑らかな表面を必要とする部品の製造に有用であると主張されているポリエステル組成物が開示されている。(特許文献3)には、ポリエステル、エチレンアクリレートコポリマー、および熱可塑性エラストマーポリエステルを含むポリエステル組成物が開示されている。(特許文献4)には、ポリエステル、エチレンアクリレートコポリマー、および熱可塑性エラストマーポリエステルを含むポリエステル組成物であって、向上した結晶化速度を有すると主張される組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/139648号パンフレット
【特許文献2】欧州特許第1622979B1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0176938号明細書
【特許文献4】米国特許第6,986,864号明細書
【特許文献5】米国特許第4,753,980号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)任意選択的に、難燃剤;
(e)(d)が組成物中に存在する場合に、任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む組成物であって、
(a)の重量に対する(b)+(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定された、成形された場合の組成物のガードナー衝撃(Gardner impact)が、少なくとも4.2Jである組成物が記述される。
【0007】
本明細書に記載の組成物のいずれかの変形形態において、コポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬さは、20〜約50未満の範囲であってもよいのに対して、(c)の重量に対する(b)の重量の比は0.3〜2.5の範囲であってもよく、(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比は0.40〜0.85の範囲であってもよい。さらに、これらの組成物のいずれかの変形形態において、強化剤は、少なくとも1種類のエチレンコポリマー強化剤である。これらの組成物のいずれかにおけるポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)またはこれらの混合物であり得る。これらの組成物のいずれかの変形形態は、少なくとも1種類の難燃剤、少なくとも1種類の難燃剤相乗剤、および/または少なくとも1種類の着色剤を含んでもよい。
【0008】
本明細書に記載され、かつ溶融混合された、組成物のいずれかの変形形態を成形する工程を含む、物品を製造する方法もまた、本明細書に記述される。本明細書に記載の組成物のいずれかを含む物品および/または本明細書に記載の方法によって製造された物品、特に光起電性接続箱である、または光起電性接続箱を含む物品もまた、本明細書に記述される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義および略語
以下の定義および略語は、明細書で論述され、かつ特許請求の範囲に記載される用語の意味を解釈するために使用される。
【0010】
本明細書で使用される、ポリマー鎖における単位に適用される「長鎖エステル単位」という用語は、長鎖グリコールとジカルボン酸との反応生成物を意味する。適切な長鎖グリコールは、末端(または可能な限り末端に近い)ヒドロキシル基を有し、かつ約400〜約6000、好ましくは約600〜約3000の数平均分子量を有するポリ(アルキレンオキシド)グリコールである。
【0011】
本明細書で使用される、コポリエーテルエステルエラストマーのポリマー鎖における単位に適用される「短鎖エステル単位」という用語は、分子量約550未満を有する低分子量化合物またはポリマー鎖単位を意味する。これらの単位は、分子量約250未満を有する、ジオールまたはジオールの混合物をジカルボン酸と反応させて、エステル単位を形成することによって生成される。
【0012】
本明細書で使用される、「脂肪族ジカルボン酸」という用語は、それぞれが飽和炭素原子に結合しているカルボキシル基2個を有するカルボン酸を意味する。本明細書で使用される、「芳香族ジカルボン酸」という用語は、炭素環式芳香族環構造の炭素原子にそれぞれが結合しているカルボキシル基2個を有するジカルボン酸を意味する。両方のカルボキシル官能基が同じ芳香族環に結合している必要はなく、複数の環が存在する場合、脂肪族もしくは芳香族二価ラジカルまたは−O−もしくは−SO−などの二価ラジカルによって、それらは結合することができる。
【0013】
本明細書で使用される、「ジオール」という用語は、言及されるものなど、等価なエステル形成誘導体を含む。分子量の条件は、その誘導体ではなく、相当するジオールを意味する。
【0014】
本明細書で使用される、「ショアD硬さ」という用語は、ASTM D2240 Type Dに従って決定されるポリマー材料の硬さを意味する。
【0015】
本明細書で使用される、「ガードナー衝撃」、「ガードナー衝撃強さ」とは、ASTM D5420に従って測定される物品の耐衝撃性を意味する。この試験法では、落錘によって衝撃を受けるハンマーを用いて、平らな、硬質のプラスチック試験片の耐衝撃性が測定される。このため、ガードナー衝撃強さは、落槍衝撃強さ(Falling Dart impact strength)とも呼ばれ、衝撃強さ、つまりプラスチック材料の靱性が評価される。衝撃を伴う用途に適した材料を同定するために、またはプラスチックの耐衝撃性に対する、二次的な仕上げ作業または他の環境要因の影響を評価するために従来から使用されている試験測定法である。
【0016】
本明細書で使用される、「重量比」という用語は、組成物中の2つの成分の重量比を意味する。組成物中の他の成分の濃度は使用されず、重量比の計算に影響はない。例えば、成分A10グラムと成分B20グラムが組成物に使用された場合、成分Aと成分Bの重量比は0.5である。
【0017】
範囲
本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、その終点を含む。かかる対が本明細書に別途開示されているかどうかにかかわらず、ある範囲としての量、濃度、または他の値もしくはパラメーターの明確な記載は、あらゆる範囲の上限およびあらゆる範囲の下限の対から形成されるすべての範囲を包含する。本明細書に記載のプロセスおよび物品は、記述内容におけるある範囲を定義するために示される特定の値に限定されない。
【0018】
好ましい変形形態
本明細書に記載の材料、方法、工程、値、および/範囲等(好ましい変形形態として確認されているかどうかにかかわらず)、プロセス、組成物および物品に関するあらゆる変形形態の本明細書における開示内容は具体的に、かかる材料、方法、工程、値、範囲等のいずれかの組み合わせを含むいずれかのプロセスおよび物品を開示することが意図される。特許請求の範囲の詳細かつ十分なサポートを提供する目的のために、開示されるかかる組み合わせは具体的に、本明細書に記載のプロセス、組成物、および物品の好ましい変形形態であることが意図される。
【0019】
通例
少なくとも1種類のポリエステル、エチレンコポリマー強化剤、少なくとも1種類のコポリエーテルエステルエラストマー、および任意選択的に、難燃剤;難燃剤が組成物に存在する場合、任意選択的に難燃剤相乗剤を含む組成物が本明細書において開示される。これらの組成物は、衝撃強さおよび同時に収率を向上させる添加剤を比較的低いレベルで含むという技術的な問題を解決し、成形された場合に、その物品は、極限温度に連続的にさらされる間、確実に操作するのに十分なガードナー衝撃強さを有する。具体的には、これらの組成物は、エチレンコポリマー強化剤と、ショアD硬さ20〜50、好ましくは45未満を有する少なくとも1種類のコポリエーテルエステルエラストマーとを記載の比で含ませることによって、この技術的問題を解決する。
【0020】
さらに具体的には、本明細書に記載の組成物において、ポリエステル(a)の重量に対するエチレンコポリマー強化剤(b)とコポリエーテルエステルエラストマー(c)の合計重量の比は、約0.40〜約0.85、好ましくは0.45〜0.85、さらに好ましくは0.55〜0.85の範囲である。
【0021】
この比の計算は、式1に従って行われる。
【0022】
【数1】
【0023】
例えば、本明細書に記載の組成物がエチレンコポリマー強化剤11グラム、コポリエーテルエステルエラストマー14グラムを有する場合、合計重量は25グラムとなる。組成物中のポリエステルの重量が55グラムであった場合には、式2で計算されるように、その比は0.45である。
【0024】
【数2】
【0025】
さらに、本明細書に記載の組成物において、コポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬さは20〜50の範囲であり、ASTM D5420に従って−40℃で測定されたガードナー衝撃は少なくとも4.2Jである。さらに、これらの組成物において、コポリエーテルエステルエラストマーの重量に対するエチレンコポリマー強化剤の重量の比は、約0.3〜約2.5の範囲である。この比の計算は式3に従って行われる。
【0026】
【数3】
【0027】
ポリエステル(a)の重量に対するエチレンコポリマー強化剤(b)とコポリエーテルエステルエラストマー(c)の合計重量の比が約0.4未満である場合、コポリエーテルエステルエラストマーの硬さがショアD50未満であったとしても、成形した場合の組成物のガードナー衝撃は、相対的に低いであろうことを明らかにすることが重要である。さらに、この比が約0.85を超える場合、成形した場合の組成物のガードナー衝撃はまだ好ましいかもしれないが、その他の物理的性質はおそらく低下するだろう。
【0028】
したがって、成形した場合のこれらの組成物の新たな功績は、ポリエステルの量に比べて少ない、等量のエチレンコポリマー強化剤+コポリエーテルエステルエラストマーを使用して、適切なガードナー衝撃値を提供することである。この功績によって、これらの組成物は、特にポリマー光起電性接続箱および極限温度への長時間の曝露に耐えるのに十分な衝撃強さが必要とされる他の用途において有用となる。
【0029】
さらに、これらの組成物のその他の新たな功績は、組成物の全重量に対してハロゲン化エポキシ難燃剤を15〜35重量%添加することによって、成形組成物のガードナー衝撃が少なくとも7J、好ましくは少なくとも10J、さらに好ましくは、少なくとも20Jに増加することである。これらのガードナー衝撃値は、難燃剤がハロゲン化ポリスチレン難燃剤である同じ成形組成物と比較すると驚くべき値である。
【0030】
ポリエステル(a)
本明細書に記載の組成物は、1種または複数種の芳香族ジカルボン酸および炭素原子2個以上を有する1種または複数種のジオールから誘導されるポリエステルを含み得る。その1種または複数種の芳香族ジカルボン酸はエステルを含み得る。好ましいポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸のうちの1種または複数種およびこれらの組み合わせが挙げられる。ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸をコモノマーとして使用してもよい。
【0031】
本明細書に記載のポリエステルの製造に有用なジオール成分としては、HO(CHOH(I);HO(CHCHO)CHCHOH(II);およびHO(CHCHCHCHO)CHCHCHCHOH(III)(式中、nは2〜10の整数であり、mは平均で1〜4であり、zは平均で約7〜約40である)のうちの1種または複数種が挙げられる。(II)および(III)(mおよびzは変動するが、mおよびzは平均値であるため必ずしも整数ではない)は、化合物の混合物であってもよい。
【0032】
適切なリエステルとしては、限定されないが、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレン2,6−ナフトエート)(PEN)、およびコポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、およびポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)が好ましく、PBTが最も好ましい。市販のポリエステルの例としては、Crastin(登録商標)PBTポリエステル樹脂、Rynite(登録商標)ポリ(エチレンテレフタレート)ポリエステル樹脂、およびSoronaポリエステル樹脂が挙げられ、すべてE.I.du Pont de Nemours and Co.,Wilmington,DEから入手可能である。
【0033】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の利用可能なデータに基づいて、これらの3種のポリエステルは、少なくとも4.2Jのガードナー衝撃値を提供する。したがって、PBT、PET、およびPTTおよびこれらの混合物を含む本明細書に記載の組成物は、ASTM D5420に従って−40℃で測定された、少なくとも4.2Jのガードナー衝撃を示すと予想される。
【0034】
これらの組成物において、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートである場合には、ポリエステルの重量に対してエチレンコポリマー強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が約0.45を超え、かつ0.85までの範囲である場合に、最良の耐衝撃性が得られる。ポリエステルがポリトリメチレンテレフタレートである場合には、ポリエステルの重量に対してエチレンコポリマー強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が約0.55を超え、かつ0.85までの範囲である場合に、最良の耐衝撃性が得られる。
【0035】
本明細書に記載の組成物におけるポリエステルは、組成物の全重量に対して30〜65重量%、好ましくは30〜60重量%、さらに好ましくは30〜55重量%の範囲である。
【0036】
エチレンコポリマー強化剤(b)
本明細書に記載の組成物は、1種または複数種のエチレンコポリマー強化剤を含む。エチレンコポリマー強化剤は一般に、比較的低い融点、一般に200℃より低い、好ましくは150℃より低い融点を有するエラストマーである。
【0037】
本明細書に記載のエチレンコポリマー強化剤は、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルエチルアクリレート、酢酸ビニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−イソシアナトエチルアクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種類のモノマーと共重合されたエチレンモノマーを含む。
【0038】
そのアルキル基は、C1〜C8アルキル基、好ましくはC1〜C4アルキル基、さらに好ましくはC1〜C2アルキル基から選択される。アルキル基は、直鎖状、分岐状、または環状であり得る。グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−イソシアナトエチルアクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、およびメタクリル酸は、官能基化モノマーである。
【0039】
エチレンコポリマー強化剤が、少なくとも1種類の官能基化モノマーを含む場合、エチレンコポリマー強化剤における共重合された官能基化モノマー(1種または複数種)の合計重量%は、エチレンコポリマー強化剤における共重合モノマーの全重量に対して0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0040】
エチレンコポリマー強化剤における共重合エチレンモノマーの濃度は、エチレンコポリマー強化剤における共重合モノマーの全重量に対して、40〜99.5重量%、好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは50〜75重量%の範囲である。存在する場合には、エチレンコポリマー強化剤における、その少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルエチルアクリレート、および/または酢酸ビニル共重合モノマー(1種または複数種)の濃度は、エチレンコポリマー強化剤における共重合モノマーの全重量に対して10〜60重量%、好ましくは15〜35重量%の範囲である。
【0041】
好ましい強化剤としては、その一部が参照により本明細書に組み込まれる、(特許文献5)の第3欄:20−61に記載のものが挙げられる。特に好ましいエチレンコポリマー強化剤は、エチレン、エチルアクリレート、およびグリシジルメタクリレートの共重合モノマーを含むエチレンコポリマー、およびエチレン、ブチルアクリレート、およびグリシジルメタクリレートモノマーを含むエチレンコポリマーである。
【0042】
これらの組成物におけるエチレンコポリマー強化剤は、組成物の全重量に対して7〜25重量%、好ましくは9〜20重量%、さらに好ましくは9〜15重量%の範囲である。
【0043】
コポリエーテルエステルエラストマー(c)
本明細書に記載のポリエステル組成物における適切なコポリエーテルエステルエラストマーは、エステル結合を介してヘッドトゥーテール結合された多数の長鎖エステル反復単位と短鎖エステル反復単位を有し、前記長鎖エステル単位は式(A):
【0044】
【化1】
【0045】
によって表され、前記短鎖エステル単位は式(B):
【0046】
【化2】
【0047】
によって表され、
上記式中、Gは、数平均分子量約400〜約6000、または好ましくは約400〜約3000を有するポリ(アルキレンオキシド)グリコールからヒドロキシル末端基を除去した後に残る二価ラジカルであり;Rは、分子量約300未満を有するジカルボン酸からカルボキシル基を除去した後に残る二価ラジカルであり;Dは、分子量約250未満を有するジオールからヒドロキシル基を除去した後に残る二価ラジカルである。
【0048】
長鎖エステル単位は、長鎖グリコールをジカルボン酸と反応させることによって形成される。好ましいポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、これらのアルキレンオキシドのコポリマーグリコール、およびエチレンオキシド−キャップ化ポリ(プロピレンオキシド)グリコールなどのブロックコポリマーが挙げられる。これらのグリコールの2つ以上の混合物を使用することができる。
【0049】
短鎖エステル単位は、低分子量ジオールまたはジオール(分子量約250未満)の混合物をジカルボン酸と反応させて、上記の式(B)で表されるエステル単位を形成することによって製造される。適切な短鎖エステル単位を形成するための低分子量ジオールの中には、非環式、脂環式および芳香族ジヒドロキシ化合物が含まれる。エチレン、プロピレン、イソブチレン、テトラメチレン、1,4−ペンタメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、ヘキサメチレンおよびデカメチレングリコール、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン等の炭素原子約2〜15個を有するジオールが好ましい。炭素原子2〜8個を含有する脂肪族ジオールが特に好ましく、1,4−ブタンジオールがさらに好ましいジオールである。適切なビスフェノールの中には、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンが含まれる。ジオールの等価なエステル形成誘導体も有用である。
【0050】
これらの材料は、低分子量ジオールまたはジオール(分子量約250未満)の混合物をジカルボン酸と反応させて、上記の式(B)で表されるエステル単位を形成することによって製造される。これらのエラストマーにおける適切な低分子量ジオールとしては、非環式、脂環式および芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。好ましいジオールは、エチレン、プロピレン、イソブチレン、テトラメチレン、1,4−ペンタメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、ヘキサメチレンおよびデカメチレングリコール、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン等の炭素原子約2〜15個を有するジオールである。特に好ましいジオールは、炭素原子2〜8個を含有する脂肪族ジオールであり、さらに好ましいジオールは1,4−ブタンジオールである。使用することができるビスフェノールの中には、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンが含まれる。ジオールの等価なエステル形成誘導体も有用である。
【0051】
コポリエーテルエステルエラストマーを製造するために、上述の長鎖グリコールおよび低分子量ジオールと反応させることができるジカルボン酸は、低分子量の、つまり約300未満の分子量を有する脂肪族、脂環式または芳香族ジカルボン酸である。本明細書で使用される、「ジカルボン酸」という用語は、コポリエーテルエステルエラストマーの形成でグリコールおよびジオールとの反応において実質的にジカルボンと同様に働く、カルボキシル官能基2個を有するジカルボン酸の機能的等価物を含む。これらの等価物としては、エステルおよびエステル形成誘導体、例えば酸ハロゲン化物および無水物などが挙げられる。分子量の条件は酸に関係し、その等価なエステルまたはエステル形成誘導体には関係しない。
【0052】
したがって、相当する酸が約300未満の分子量を有するという条件で、300を超える分子量を有するジカルボン酸のエステルまたは300を超える分子量を有するジカルボン酸の機能的等価物が含まれる。そのジカルボン酸は、コポリエーテルエステルエラストマーの形成を実質的に妨げない、いずれかの置換基(1つまたは複数)または組み合わせを含有し得る。
【0053】
脂肪族ジカルボン酸は、飽和炭素原子にそれぞれ結合する2個のカルボキシル基を有するカルボン酸である。カルボキシル基が結合している炭素原子が飽和炭素原子であり、環にある場合には、その酸は脂環式である。共役不飽和を有する脂肪族または脂環式酸は、単独重合が起こるため、使用することができない場合が多い。しかしながら、マレイン酸などの一部の不飽和酸を使用してもよい。
【0054】
芳香族ジカルボン酸は、炭素環式芳香族環構造において炭素原子にそれぞれ結合する2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸である。使用することができる、代表的な有用な脂肪族および脂環式酸としては、セバシン酸;1,3−シクロヘキサンジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸;アジピン酸;グルタル酸;4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸;2−エチルスベリン酸;シクロペンタンジカルボン酸デカヒドロ−1,5−ナフチレンジカルボン酸;4,4’−ビシクロヘキシルジカルボン酸;デカヒドロ−2,6−ナフチレンジカルボン酸;4,4’−メチレンビス(シクロヘキシル)カルボン酸;および3,4−フランジカルボン酸が挙げられる。好ましい酸はシクロヘキサンジカルボン酸およびアジピン酸である。
【0055】
代表的な芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸およびイソフタル酸;二安息香酸;ビス(p−カルボキシフェニル)メタンなど、2つのベンゼン核を有する置換ジカルボキシル化合物;p−オキシ−1,5−ナフタレンジカルボン酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸;2,7−ナフタレンジカルボン酸;4,4’−スルホニル二安息香酸およびC1〜C12アルキルおよびその環置換誘導体、例えばハロ、アルコキシ、およびアリール誘導体が挙げられる。芳香族ジカルボン酸も使用される限り、p−(β−ヒドロキシエトキシ)安息香酸などのヒドロキシ酸も使用することができる。
【0056】
本明細書に記載のコポリエーテルエステルエラストマーを製造するために、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族酸の中では、炭素原子8〜16個を有する酸が好ましく、特に単独での、またはフタル酸および/またはイソフタル酸との混合物での、テレフタル酸が好ましい。
【0057】
本明細書に記載のコポリエーテルエステルエラストマーは好ましくは、上記の式(B)に相当する短鎖エステル単位を約15〜約99重量%含み、その残りは上記の式(A)に相当する長鎖エステル単位である。さらに好ましくは、本明細書に記載のコポリエーテルエステルエラストマーは、短鎖エステル単位を約20〜約95重量%、さらに好ましくは約50〜約90重量%含み、その残りは長鎖エステル単位を含む。さらに好ましくは、上記の式(A)および(B)においてRで表される基の少なくとも約70%が1,4−フェニレンラジカルであり、上記の式(B)においてDで表される基の少なくとも約70%が1,4−ブチレンラジカルであり、1,4−フェニレンラジカルではないR基と、1,4−ブチレンラジカルではないD基のパーセンテージの合計が30%を超えない。コポリエーテルエステルエラストマーを製造するために第2ジカルボン酸が使用される場合、イソフタル酸が好ましい;第2低分子量ジオールが使用される場合、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、またはヘキサメチレングリコールが好ましい。
【0058】
2種類以上のコポリエーテルエステルエラストマーの混合物を本明細書に記載の組成物に使用することができる。つまり、使用されるエラストマーが1種類であろうと、混合物であろうと、コポリエーテルエステルエラストマーの重量%は、本明細書に開示される短鎖エステル単位および/または長鎖エステル単位の範囲内に入らなければならない。例えば、等量の2種類のコポリエーテルエステルエラストマーを含有する混合物において、一方のコポリエーテルエステルエラストマーは短鎖エステル単位を60重量%含むことができ、もう一方の他の樹脂は、短鎖エステル単位45重量%の加重平均(weighted average)に対して短鎖エステル単位を30重量%含むことができる。
【0059】
好ましいコポリエーテルエステルエラストマーとしては、限定されないが、(1)ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール;(2)イソフタル酸、テレフタル酸およびこれらの混合物から選択されるジカルボン酸;および(3)1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールおよびこれらの混合物から選択されるジオール;を含むモノマーから、または(1)ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール;(2)イソフタル酸、テレフタル酸およびこれらの混合物から選択されるジカルボン酸;および(3)1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールおよびこれらの混合物から選択されるジオール;を含むモノマーから、または(1)エチレンオキシド−キャップ化ポリ(プロピレンオキシド)グリコール;(2)イソフタル酸、テレフタル酸およびこれらの混合物から選択されるジカルボン酸;および(3)1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、およびこれらの混合物から選択されるジオール;を含むモノマーから、製造されるコポリエーテルエステルエラストマーが挙げられる。
【0060】
好ましくは、本明細書に記載のコポリエーテルエステルエラストマーは、テレフタル酸および/またはイソフタル酸、1,4−ブタンジオールおよびポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールまたはポリ(トリメチレンエーテル)グリコールまたはエチレンオキシド−キャップ化ポリプロピレンオキシドグリコールのエステルまたはエステルの混合物から製造されるか、あるいはテレフタル酸、例えばジメチルテレフタレート、1,4−ブタンジオールおよびポリ(エチレンオキシド)グリコールのエステルから製造される。さらに好ましくは、コポリエーテルエステルエラストマーは、テレフタル酸、例えばジメチルテレフタレート、1,4−ブタンジオールおよびポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールのエステルから製造される。適切なコポリエーテルエステルエラストマーの例は、E.I.du Pont de Nemours and Company,Wilmington,Delaware州から商標Hytrel(登録商標)で市販されている。
【0061】
これらの組成物におけるコポリエーテルエステルエラストマーは、組成物の全重量に対して5〜25重量%、好ましくは9〜25重量%、さらに好ましくは7〜15重量%の範囲である。
【0062】
難燃剤(d)
任意選択的な難燃剤は、限定されないが、以下の:金属酸化物(この金属は、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅およびタングステンであり得る)、金属粉末(この金属は、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅およびタングステンであり得る)、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムおよび炭酸バリウムなどの金属塩、金属ホスフィン酸塩(この金属は、アルミニウム、亜鉛およびカルシウムであり得る)、ハロゲン化有機化合物、例えばデカブロモジフェニルエーテルおよびハロゲン化エポキシ化合物、ハロゲン化ポリマー、例えばポリ(ブロモスチレン)および臭素化ポリスチレン、臭素化スチレンのポリマー、ハロスチレンとグリシジル(メタ)アクリレートのコポリマー、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、リン含有化合物、例えばポリホスファゼン、有機リン酸塩および金属ホスフィン酸塩、メラミンピロリン酸塩、メラミン含有化合物(シアヌル酸メラミンなど)、ポリリン酸メラミン、赤リン、およびこれらの組み合わせから選択され得る。
【0063】
存在する場合、難燃剤は、組成物の全重量の約1〜40重量%、好ましくは約5〜35重量%、さらに好ましくは約10〜30重量%を占める。
【0064】
これらの組成物における好ましい難燃剤としては、ハロゲン化ポリスチレンおよびハロゲン化エポキシ難燃剤が挙げられる。ハロゲン化エポキシ難燃剤は、好ましくは臭素化および/または塩素化エポキシ難燃剤、さらに好ましくは臭素化エポキシ難燃剤である。臭素化エポキシ難燃剤の一例は、テトラブロモビスフェノールAとエポキシ化合物の反応から製造される臭素化エポキシ難燃剤である。
【0065】
難燃剤がハロゲン化ポリスチレンである場合、その濃度は、組成物の全重量に対して約1〜約40重量%、好ましくは約5〜35重量%、さらに好ましくは約10〜約30重量%の範囲である。
【0066】
難燃剤がハロゲン化エポキシ難燃剤である場合、その濃度は、組成物の全重量に対して約1〜約40重量%、好ましくは約15〜35重量%、さらに好ましくは約20〜約30重量%の範囲である。
【0067】
難燃剤相乗剤(e)
本明細書に記載の組成物が難燃剤を含む場合、組成物は任意選択的に、難燃剤相乗剤を含んでもよい。適切な難燃剤相乗剤としては、限定されないが、酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛およびこれらの組み合わせのいずれかが挙げられる。
【0068】
本明細書に記載の組成物において使用される場合、難燃剤相乗剤の濃度は、組成物の全重量に対して2〜10重量%、好ましくは4〜10重量%の範囲である。
【0069】
付加的な成分
付加的な成分が組成物の物理的性質に悪影響を及ぼさない限り、本明細書に記載の組成物はさらに、1種または複数種の熱安定剤、1種または複数種の酸化安定剤、1種または複数種の紫外線安定剤、1種または複数種の潤滑剤、着色剤、滴り防止剤(drip suppressant)、および他の成分を含んでもよい。
【0070】
1種または複数種の熱安定剤は、銅塩および/またはこれらの誘導体、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン酸化防止剤、およびこれらの組み合わせであり得る。1種または複数種の酸化安定剤としては、限定されないが、リン酸化防止剤(例えば、亜リン酸または亜ホスホン酸安定剤)、ヒンダードフェノール系安定剤、芳香族アミン安定剤、チオエステル、および高温用途で熱によって誘発されるポリマーの酸化を妨げるフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0071】
組成物の製造および本明細書に記載の物品
本明細書に記載の組成物は、溶融混合ブレンドであり、すべてのポリマー成分が互いに十分に分散されており、ブレンドが統一体を形成するように、すべての非ポリマー成分が十分に分散されている。ポリマー成分が溶融物または溶融状態である限り、組成物は、任意の順序または組み合わせで、いずれかの簡便な温度で成分をブレンドすることによって製造される。ブレンドまたは混合温度は、当業者によって容易に決定される。
【0072】
いずれかの溶融混合法を用いて、ポリマー成分と非ポリマー成分を混合することができる。例えば、一軸もしくは二軸スクリュー押出機;ブレンダー;一軸もしくは二軸ニーダー;またはバンバリーミキサーなどの溶融混合機に、ポリマー成分と非ポリマー成分を一段階の添加によってすべて一度に、または段階的様式で添加し、次いで溶融混合する。段階的様式でポリマー成分と非ポリマー成分を添加する場合、ポリマー成分と非ポリマー成分の一部が最初に添加され、溶融混合され、残りのポリマー成分と非ポリマー成分は続いて添加され、十分に混合された組成物が得られるまで、さらに混合される。電気コネクターおよび他の物品の成形に今後使用するために、これらの組成物のペレットを製造することができる。
【0073】
本明細書に記載の組成物は、射出成形、吹込み成形、射出吹込み成形、押出し成形、熱成形、溶融成形、真空成形、回転成形、カレンダー成形、スラッシュ成形、フィラメント押出し成形および紡糸などの当業者に公知の方法を用いて物品に形成することができる。
【0074】
本発明の組成物は、自動車用の様々な電気および電子部品および電気コネクター、自動車の電気および電子部品用ハウジング、例えばセンサー、ECU(エンジン制御ユニット)ボックスおよびヒューズ箱、巻型、ボビンおよび様々なソレノイドなど様々な電気および電子部品用のハウジング、および光起電性パネル用の電気接続箱などの成形または押出成形物品の製造において使用することができる。
【0075】
本明細書に記載の組成物を含む物品の製造は、
(a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)任意選択的に、難燃剤;
(e)(d)が組成物に存在する場合、任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む溶融混合組成物を成形するステップを含み、
(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定される、物品のガードナー衝撃が、少なくとも4.2Jである。
【実施例】
【0076】
本発明は、制限されないが、以下の実施例(E)および比較例(C)によって説明される。
【0077】
材料
本明細書に記載の組成物の実施例および比較例は、以下の材料を含み得る。別段の指定がない限り、実施例および比較例で使用される各材料の重量%は、組成物の重量に対する%である。表1は、実施例および比較例における各材料の重量%を示す。
ポリエステルA−E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから入手可能なポリブチレンテレフタレート
ポリエステルB−E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから入手可能なポリエチレンテレフタレート
ポリエステルC−E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから入手可能なポリトリメチレンテレフタレート
強化剤−E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから入手可能なエチレンn−ブチルアクリレートグリシジルメタクリレートコポリマー
PEEE−A−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)5556として入手可能な、融点203℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート7g/10分(220℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ55Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
PEEE−B−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)4556として入手可能な、融点193℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート12g/10分(230℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ45Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
PEEE−C−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)4056として入手可能な、融点150℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート5.3g/10分(190℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ40Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
PEEE−D−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)G3548Lとして入手可能な、融点156℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート10g/10分(190℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ35Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
PEEE−E−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)3078として入手可能な、融点170℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート5g/10分(190℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ30Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
PEEE−F−E.I.Du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DEからHYTREL(登録商標)7246として入手可能な、融点218℃(ISO11357−1/−3)、メルトフローレート12.5g/10分(240℃,2.16kg)、公称デュロメーター硬さ72Dを有するコポリエーテルエステルエラストマー
難燃剤A(FR−A)−GBR66NCとしてGbr Yulu Industry Co.,Ltd.,中国から入手可能な臭素化ポリスチレン
難燃剤B(FR−B)−SR−T20000,臭素化エポキシ難燃剤
難燃剤相乗剤−PE FR80としてShenzhen Jiefu Corp.,日本から入手可能な三酸化アンチモン
カーボンブラックは、Cabot PE3324であり、Cabot Corp.,Boston,MAによって製造されている、ポリエチレン担体中のカーボンブラックである。
酸化防止剤は、Ciba Specialty Chemicals,Inc.,Tarrytown,NYから市販のIrganox(登録商標)1010である。
【0078】
方法
実施例および比較例で使用される上記の材料を互いに混合し、押出し成形温度270℃にてZSK−40二軸スクリュー押出機で溶融し、溶融混合組成物が得られ、次いでそれを押出機の出口に位置するダイを通して押出し、それによってストランドに成形され、次いでそれを冷却し、ペレットにする。
【0079】
ASTM D5420に従って射出成形機で長さ100mm×幅100mm×厚さ2mmの試験プレートに、ペレット化組成物を成形した。シリンダーでの溶融温度は260℃であり、金型温度は80℃であった。
【0080】
プレートをチャンバー内で−40℃にて4時間冷却し、次いでそれを取り出して、ガードナー衝撃(J)を測定した。
【0081】
ガードナー衝撃
試験プレートのガードナー衝撃をASTM D5420に従って決定した。この方法を用いて測定される最大衝撃は36.3Jである。
【0082】
考察および結果
この考察では、表1〜3の結果を評価し、本明細書に記載の組成物の実施例および比較例から作製された試験プレートのガードナー衝撃(J)を報告する。
【0083】
比較例C1を実施例E1〜E4と比較すると、コポリエーテルエステルエラストマーが約50を超えるショアD硬さを有する場合、ガードナー衝撃は、コポリエーテルエステルエラストマーが50未満のショアD硬さを有する場合よりもかなり低かったことがわかる。実施例E1〜E4はそれぞれ、範囲30〜45のショアD硬さのコポリエーテルエステルエラストマーを有し、それぞれが最低で5.27Jから最高で7.31Jの範囲のガードナー衝撃を有した。これらのJ値のそれぞれが、比較例C1のJ値よりも少なくとも29%高かった。
【0084】
比較例C2および比較例C3から、ポリエステルの濃度に対して強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの濃度が非常に低い、20部未満の場合には、ショアD硬さ40のコポリエーテルエステルエラストマー(比較例C2)を用いた場合でさえ、ガードナー衝撃値が非常に低い、つまり1未満であることが分かる。
【0085】
それにもかかわらず、比較例C5から、非常に高い濃度の強化剤およびコポリエーテルエステルエラストマーによって、有用なガードナー衝撃値が達成されたことが分かる。しかしながら、組成物の他の特性に負の影響を及ぼすことから、このような高いレベルの強化剤およびコポリエーテルエステルエラストマーは望ましくない。
【0086】
比較例C6から、ショアD硬さ72を有するコポリエーテルエステルエラストマーと組み合わせた非常に高い濃度の強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーによって、不適切なガードナー衝撃の組成物が得られたことが分かる。
【0087】
比較例C4〜実施例E5を比較すると、ポリエステル濃度に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの濃度が等しい場合には、コポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬さが50未満である場合のみ、適切なガードナー衝撃が得られたことが分かる。C4はコポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬さが72だった。
【0088】
実施例E6〜E11については、ポリエステルはポリエチレンテレフタレート[PET]であり、PETの重量に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が約0.45を超える場合に、最良のJ値が得られた。
【0089】
実施例E12〜E17については、ポリエステルはポリトリメチレンテレフタレート[PTT]であり、PTTの重量に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が約0.55を超える場合に、最良のJ値が得られた。
【0090】
実施例E18〜E24については、ポリエステルはポリブチレンテレフタレート[PBT]であり、特定のコポリエーテルエステルエラストマーは範囲30〜45のショアD硬さを有した。PBTの重量に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比は0.45〜0.70の範囲であった。強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの比は0.43〜2.33の範囲であった。これらの実施例のそれぞれが、8.1以上のガードナー衝撃を有した。PBTの重量に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が約0.45を超える場合に、J値が最も高かった。
【0091】
比較例E7および比較例E8から、PBTの重量に対する強化剤とコポリエーテルエステルエラストマーの合計重量の比が0.30であった場合、コポリエーテルエステルエラストマーがショアD硬さ値30〜40を有するとしても、ガードナー衝撃値は4.2J未満であることが分かる。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表4は、ハロゲン化エポキシ難燃剤と難燃剤相乗剤の両方を含む、本明細書に記載の組成物から作製された試験プレートのガードナー衝撃(J)値を示す。比較例C9を実施例E25〜E28と比較すると、ハロゲン化難燃剤が臭素化ポリスチレンである場合には、そのガードナー衝撃が、難燃剤がハロゲン化エポキシ難燃剤である場合よりもかなり低いことが分かる。
【0096】
【表1】
以下、本明細書に記載の主な発明について列記する。
(1) (a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)任意選択的に、難燃剤;
(e)(d)が組成物に存在する場合、任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む組成物であって、
(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定される、成形された場合の前記組成物のガードナー衝撃が、少なくとも4.2Jである、組成物。
(2) 存在する場合に、前記難燃剤が、ハロゲン化ポリマー、ハロゲン化エポキシ難燃剤、およびこれらの混合物から選択される、(1)に記載の組成物。
(3) (a)ポリエステル30〜65重量%;
(b)エチレンコポリマー強化剤7〜25重量%;
(c)範囲20〜50のショアD硬さを有するコポリエーテルエステルエラストマー5〜25重量%;
(d)任意選択的に、難燃剤;
(e)(d)が組成物に存在する場合、任意選択的に難燃剤相乗剤;
を含む、溶融混合組成物を成形するステップを含む、物品を製造する方法であって、
(a)の重量に対する(b)と(c)の合計重量の比が0.40〜0.85の範囲であり;
(c)の重量に対する(b)の重量の比が0.3〜2.5の範囲であり;
ASTM D5420に従って−40℃で測定される、前記物品のガードナー衝撃が、少なくとも4.2Jである、方法。
(4) 存在する場合に、前記難燃剤が、ハロゲン化ポリマー、ハロゲン化エポキシ難燃剤、およびこれらの混合物から選択される、(3)に記載の方法。
(5) (2)に記載の組成物を含む、物品。