(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、溶融金属面より高い位置に、溶融金属面と平行な方向に互いに対向して配置された請求項1に記載の溶融金属レベル測定装置。
前記送信アンテナによって送信される電磁波及び前記受信アンテナによって受信される電磁波の位相差を検出することによって、前記モールド内の溶融金属レベルを測定するように構成された請求項1から3のいずれかに記載の溶融金属レベル測定装置。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造方法は、溶融金属を連続的にモールドに注入し、冷却・凝固させて所定の形状の鋳片を製造する方法である。
【0003】
モールド内の溶融金属の面のレベルを測定する溶融金属レベル測定装置として、電磁波を使用する装置が提案されている(特許文献1乃至3)。このような電磁波を使用する従来の装置は、溶融金属の面以外の物体に反射される電磁波の影響を軽減するため、指向性の高い電磁波を使用し(特許文献1の第2頁右上欄第16行目から同頁左下欄第3行目及び特許文献3の段落[0037])、また、モールド壁部などに反射防止用の電波吸収体を設けていた(特許文献2第2頁右下欄第2行目から第9行目)。さらに、電磁波を使用する従来の方法は、指向性の高い電磁波用のアンテナを小型化するために、10GHz以上の高い周波数の電磁波を使用していた(特許文献1の第3頁右上欄第6行目から第11行目及び特許文献3の段落[0019])。
【0004】
しかし、高い周波数の電磁波は、ケーブルによる信号ロスが大きく取り扱いが困難であり、装置の構造が煩雑で高価となる。また、指向性の高い電磁波を使用すると、溶融金属面の局所的なレベル変動が溶融金属レベル測定に過大な影響を与えることとなり、溶融金属面の局所的なレベル変動に対してロバスト性の高い溶融金属レベル測定装置が得られない。このように、従来の溶融金属レベル測定装置は、構造が煩雑で高価であり、溶融金属面の局所的なレベル変動に対するロバスト性が低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、構造が簡単であり、溶融金属面の局所的なレベル変動に対するロバスト性が高い溶融金属レベル測定装置に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の溶融金属レベル測定装置は、モールド内の溶融金属のレベルを測定する溶融金属レベル測定装置であって、無指向性の送信アンテナと、無指向性の受信アンテナと、信号処理部と、を備え、該送信アンテナによって該モールド内に放出した、極超短波帯域の電磁波を使用して該モールド内の溶融金属レベルを測定する溶融金属レベル測定装置である。
【0008】
本態様の溶融金属レベル測定装置は、極超短波帯(周波数300MHz−3GHz)の電磁波を使用するので、より高い周波数の電磁波を使用する装置と比較して構造が簡単である。また、本発明の溶融金属レベル測定装置は、無指向性のアンテナを使用するので、溶融金属面の局所的なレベル変動に対するロバスト性が高い。本態様の溶融金属レベル測定装置においては、モールドの壁面及び溶融金属の面によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属面における反射波を利用することによって溶融金属面のレベルが測定される。
【0009】
本発明の第1の実施形態による溶融金属レベル測定装置において、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、溶融金属面より高い位置に、溶融金属面と平行な方向に互いに対向して配置されている。
【0010】
本実施形態によれば、溶融金属面より高い位置に、溶融金属面と平行な方向に互いに対向して配置された送信アンテナ及び受信アンテナによって、モールドの壁面及び溶融金属の面によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属面における反射波を受け取ることができる。
【0011】
本発明の第2の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、2種類の周波数の極超短波帯域の電磁波を使用するように構成されている。
【0012】
本実施形態によれば、2種類のうち一方の周波数の搬送波によって、受信アンテナ付近に定在波の節の部分が形成され、電磁波の信号が小さくなる場合であっても、他方の周波数の搬送波を使用して測定を行うことができる。
【0013】
本発明の第3の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、前記送信アンテナによって送信される電磁波及び前記受信アンテナによって受信される電磁波の位相差を検出することによって、前記モールド内の溶融金属レベルを測定するように構成されている。
【0014】
本実施形態によれば、送信される電磁波及び受信される電磁波の位相差を利用することにより高い精度で溶融金属面のレベルを測定することができる。なお、本発明においては、従来の装置において使用される電磁波よりも周波数の低い極超短波帯域の電磁波が使用される。このため、電磁波の位相差から一意的に求めることのできる距離の範囲は大きくなり好都合である。
【0015】
本発明の第4の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、前記送信アンテナから放出される信号を周波数f
1の疑似ランダム信号で拡散し、前記受信アンテナが受信した信号を周波数f
2(f
2<f
1)の同一パターンの疑似ランダム信号で逆拡散し、疑似ランダム信号の1周期の波数をNとして、
T
B =N/(f
M1−f
M2)
によって定まる測定サイクルT
Bごとに溶融金属レベル測定を行うように構成されている。
【0016】
本実施形態による溶融金属レベル測定装置によれば、電磁波の伝播時間は、f
M1/(f
M1−f
M2)倍だけ時間的に拡大され、測定が容易になる。また、疑似ランダム信号の拡散及び逆拡散を利用しているのでノイズの影響を大幅に低減することができる。
【0017】
本発明の第5の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、第4の実施形態による溶融金属レベル測定装置であって、測定サイクルT
Bごとに、2種類の周波数の極超短波帯域の電磁波を切り替えて使用するように構成されている。
【0018】
本実施形態による溶融金属レベル測定装置は、測定サイクルT
Bごとに、2種類の周波数の極超短波帯域の電磁波を切り替えて使用するように構成されているので、定在波の節の位置にかかわらず安定した測定を行うことができる。
【0019】
本発明の第2の態様の溶融金属レベル測定方法は、モールド内の溶融金属のレベルを測定する溶融金属レベル測定方法であって、無指向性の送信アンテナによって極超短波帯域の電磁波を放出するステップと、無指向性の受信アンテナによって、溶融金属面に反射された電磁波を受信するステップと、前記送信アンテナによって放出された電磁波の信号及び前記受信アンテナによって受信された電磁波の信号を、信号処理部によって処理して溶融金属面のレベルを求めるステップと、を含む溶融金属レベル測定方法である。
【0020】
本態様の溶融金属レベル測定方法は、極超短波帯(周波数300MHz−3GHz)の電磁波を使用するので、より高い周波数の電磁波を使用する方法と比較して使用する装置の構造が簡単である。また、本発明の溶融金属レベル測定方法は、無指向性のアンテナを使用するので、溶融金属面の局所的なレベル変動に対するロバスト性が高い。本態様の溶融金属レベル測定方法においては、モールドの壁面及び溶融金属の面によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属面における反射波を利用することによって溶融金属面のレベルが測定される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態による溶融金属レベル測定装置の構成を示す図である。
【0023】
タンディッシュ301内に蓄えられた溶融金属は、モールド303内に注入され、モールド303内で凝固してモールド303から送り出される。一定時間において、注入される溶融金属の量が送り出される金属の量よりも多い場合には、モールド内303内の溶融金属の面401のレベルが上昇し、一定時間において、送り出される金属の量が注入される溶融金属の量がよりも多い場合には、モールド内303内の溶融金属の面401のレベルが下降する。本実施形態による溶融金属レベル測定装置は、このような状況において、モールド内の溶融金属の面401のレベルを測定する。
【0024】
本実施形態による溶融金属レベル測定装置は、送信アンテナ101、受信アンテナ103及び信号処理部200を備える。本実施形態において、送信アンテナ101及び受信アンテナ103は、モールド303の上面に、水平方向に互いに対向して設置されている。信号処理部200は、送信信号を生成し、送信アンテナ101に送る。送信アンテナ101は、電磁波の送信信号を放出する。受信アンテナ103は、モールド内303に放出され、溶融金属の面401によって反射された電磁波を受信信号として受け取り、信号処理部200に送る。信号処理部200は、上記の送信信号及び受信信号を処理することによって、モールド303の上面からモールド303内の溶融金属の面401までの距離データ、すなわちモールド内の溶融金属の面401のレベルを求める。信号処理部200の詳細については後で説明する。
【0025】
ここで、発明者は、モールド303の壁面及び溶融金属の面401によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属の面401における反射波を測定することによって、溶融金属の面401の位置を求めることができるという新たな知見を得た。
【0026】
従来の電磁波を使用する測定方法は、溶融金属の面に向けて指向性の高い電磁波を送り、当該面からの反射波を測定することにより当該面の位置を求めるものであった。当業者は、SN比(信号対ノイズ比)を上げるためには、指向性の高い電磁波を使用する方が有利であると考えていた。このため、当業者は、モールド303の壁面及び溶融金属の面401によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属の面401における反射波を利用することに想到することはなかった。仮に想到することがあったとしても、十分なSN比が得られないであろうという先入観が存在していたため、十分に検討されることがなく、モールド303の壁面及び溶融金属の面401によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属の面401における反射波を測定することによって溶融金属の面の位置を求めることができるという上記の知見が得られることはなかった。
【0027】
発明者によるこの新たな知見に基づく測定原理は、溶融金属面に向けて放出され、反射された指向性の高い電磁波を測定する、従来の考え方による方法と以下の点が異なる。
【0028】
第1に、モールドの壁面及び溶融金属の面によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送り、溶融金属の面における反射波を利用するので、特定の対象物に向けた指向性の高い電磁波を使用する必要がない。すなわち、無指向性の電磁波を使用することができる。この点については、実験結果に基づいて後で説明する。
【0029】
第2に、無指向性の電磁波を使用するため、アンテナを小型化するために電磁波の周波数を高くする必要がない。したがって、極超短波帯(周波数300MHz−3GHz)の電磁波を使用することができる。
【0030】
図2は、送信アンテナ101、受信アンテナ103、及びモールド303の壁面及び溶融金属の面401によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間の関係を示す図である。
図2は、送信アンテナ101によって放出される電磁波の範囲101A及び受信アンテナ103によって受信される電磁波の範囲103Aを概念的に示している。
【0031】
図3は、定在波を説明するための図である。
図3において、進行波を点線、反射波を一点鎖線、定在波を実線で示す。Tは進行波及び反射波の周期である。tは、時間の経過を表す。進行波は反射端Rで反射されて反射波が生じる。進行波及び反射波が合成されて定在波が形成される。時間が経過しても、定在波の腹の位置(A)及び節の位置(N)は変化しない。定在波の腹の位置(A)及び節の位置(N)は、周期T(送信される電磁波の周波数)及び反射端の位置によって定まる。本実施形態において、溶融金属の面401が反射端Rに相当する。
【0032】
モールド303の壁面及び溶融金属の面401によって形成される、モールドの上面以外が閉じた空間に電磁波を送ると、溶融金属の面401を反射端として定在波が形成される。定在波の腹の位置及び節の位置は、送信される電磁波の周波数及び反射端、すなわち溶融金属の面401の位置によって変化する。電磁波を受け取る受信アンテナ103の位置が、定在波の節の位置の周辺であると、電磁波の信号レベルが小さくなる。この対策については、後で説明する。
【0033】
送信アンテナ101及び受信アンテナ103には、無指向性のアンテナとしてディスコーンアンテナを使用してもよい。
【0034】
図4は、ディスコーンアンテナの構成を示す図である。ディスコーンアンテナは、ディスク(直径D)、円錐(高さA、底面の直径B)及び同軸ケーブルから形成される。
【0035】
つぎに、信号処理部200の詳細について説明する。
【0036】
図5及び
図6は、信号処理部200の構成を示す図である。
【0037】
信号処理部200は、2種類の周波数の搬送波を発生させる2個の搬送波発生器201及び203、周波数がわずかに異なる2種類のクロック信号を発生させる2個のクロック発生器217及び219、周波数がわずかに異なる2種類のクロック信号を使用して同一パターンの疑似ランダム信号を発生させる2個の疑似ランダム信号発生器(PN符号発生器)221及び223、搬送波の直交位相成分を取り出す2個の直交位相分配器209及び211、並びに直交位相成分から位相を求める2個の位相検出部257及び259を含む。
【0038】
2個の搬送波発生器201及び203によって発生させられた2種類の周波数の搬送波は、高周波スイッチ205によって交互に切り替えて使用される。一例として、2種類の周波数は、1GHz及び1.7GHzである。2種類の周波数の搬送波の切り替えについては後で説明する。使用される搬送波は、分配器207によって分配され、一方は送信信号に使用され、他方は受信信号の処理に使用される。
【0039】
分配器207によって供給される搬送波は、PN符号発生器221によって生成された第1の周波数の疑似ランダム信号と掛け算器213によって掛け合わされて送信信号が生成される。送信信号は、送信アンプ215によって増幅された後、送信アンテナ101から電磁波として放出される。
【0040】
受信アンテナ103によって受信された電磁波は、受信アンプ227によって増幅された後、PN符号発生器223によって生成された第2の周波数の疑似ランダム信号と掛け算器229によって掛け合わされて測定用信号が生成される。
【0041】
測定用信号は、4分配器231によって4個の信号に分けられ、直交位相分配器211及び209によって供給される2種類の周波数の搬送波の直交成分と、それぞれ掛け算器233、235、237及び239によって掛け合わされる。直交成分と掛け合わされた4個の測定用信号は、それぞれローパスフィルタ243、245、247及び249を経て、角度演算器251及び253によって位相角度が求められる。角度演算器251及び253によって求められた位相角度は、それぞれ位相検出部257及び259へ送られる。
【0042】
2個の直交位相分配器211及び209は、交互に使用される2種類の周波数の搬送波のそれぞれに使用される。使用されていない周波数の搬送波について、直交位相検波は行われない。
【0043】
他方、PN符号発生器221によって生成された第1の周波数の疑似ランダム信号及びPN符号発生器223によって生成された第2の周波数の疑似ランダム信号は、掛け算器225によって掛け合わされ、ローパスフィルタ241を経て、トリガ信号生成部255へ送られトリガ信号が生成される。トリガ信号を、基準信号とも呼称する。
【0044】
ここで、基準信号について説明する。以下の説明において、疑似ランダム信号はM系列信号であり、第1及び第2のM系列信号の周波数を、それぞれf
M1及びf
M2で表す。一例として、
f
M1=100.05MHz
f
M2=100.00MHz
である。
【0045】
上記の基準信号が最大値となる周期をT
Bとすると、T
B間に含まれる第1のM系列信号と第2のM系列信号の波数の差がちょうどM系列の1周期の波数Nになる。
T
B・f
M1=T
B・f
M2+N
この式を整理して以下の式が得られる。
T
B =N/(f
M1−f
M2) (1)
2つのM系列信号の周波数の差が小さいほど、基準信号が最大値となる周期T
Bは大きくなる。ここで、M系列の1周期の波数Nは、nがシフトレジスタの段数であるとして、一般的に以下の式によって表せる。
N=2
n−1 (2)
n=7であれば、N=127である。また、(f
M1−f
M2)は以下のとおりである。
【0046】
f
M1−f
M2=100.05MHz−100.0MHz=50kHz
ここで、基準信号が最大値となる時刻から、つぎに最大値となる時刻までの期間を測定サイクルと呼称する。式(1)に上記の数値を代入すると、本実施形態における測定サイクルは、
T
B =127/50kHz=2.54msec
である。
【0047】
つぎに、送信アンテナ101Aから放出された、第1のM系列信号によって拡散された搬送波が受信されるまでの時間をτとし、受信された信号を第2のM系列信号によって逆拡散して得られた測定用信号において、有効な測定信号が発生する時刻について、基準信号の発生時刻からの時間差をT
Dとする。T
D間に発生する第2のM系列信号の波数は、T
D間に発生する第1のM系列信号の波数より、時間τに発生する第1のM系列信号の波数だけ少ないので、次式が成立する。
T
D・f
M2=T
D・f
M1−τ・f
M1
上式を整理するとT
Dは次の以下の式で与えられる。
T
D=τ・f
M1/(f
M1−f
M2) (3)
すなわち、伝播時間τは、f
M1/(f
M1−f
M2)倍だけ時間的に拡大され、あるいは低速化されたT
D として測定される。
【0048】
一般的に、電磁波の伝搬距離lとラジアンを単位とする位相差θとの関係は、波長をλとして以下の式で表せる。
【数1】
【0049】
本実施形態において、モールドの上面から溶融金属の面までの距離(溶融金属の面のレベル)をxとし、固定長を2αとすると
l=2x+2α
である。上記の式を式(4)に代入して以下の式が得られる。
【数2】
【0050】
したがって、送信アンテナ101によって放射され、溶融金属の面によって反射された後、受信アンテナ103によって受信された電磁波の位相差θを求めれば、式(5)から溶融金属の面のレベルxを求めることができる。
【0051】
なお、電磁波の位相差から距離を求める場合には、距離が電磁波の波長の1/2未満でないと一意的に距離が定まらない。すなわち、互いに波長の整数倍の差を有する複数の位相差に対応する複数の距離が存在する。本実施形態において、上述のように、測定サイクルT
Bは、2.54ミリ秒である。そこで、測定サイクルにおける溶融金属の面のレベル変化量が、搬送周波数1.7GHzの電磁波の波長の1/2、すなわち、約88mm未満である必要がある。ここで、2.54ミリ秒に88mm変化する溶融金属の面のレベル変化速度は、毎秒34645mmに相当し、現実的な速度をはるかに上回る。したがって、実際の溶融金属の面のレベル変化に対しては、電磁波の位相から距離を一意的に定めることができる。このように、本実施形態においては、位相差を利用することにより高い精度で溶融金属面のレベルを求めることができる。
【0052】
信号処理部200においては、2種類の周波数の搬送波の位相差を求めることにより、溶融金属面のレベルが求められる。
【0053】
図7は、搬送波の切り替えを説明するためのタイムチャートである。本実施形態において、トリガ信号(基準信号)によって、測定サイクルごとに2種類の周波数の搬送波を切り替える。
図7において、測定サイクル1においては、周波数1GHzの搬送波Aが選択され、測定サイクル2においては、周波数1.7GHzの搬送波Bが選択され、測定サイクル3においては、再び周波数1GHzの搬送波Aが選択され、以下このような選択が繰り返される。測定サイクルごとに、位相検出部257または259によって位相が求められ、最終的に、位相検出部261によって、選択された搬送波によって求められた位相から距離データが求められる。
【0054】
このように2種類の周波数の搬送波を使用するのは、
図3に示すように、モールド303の壁面及び溶融金属の面に囲まれた、モールドの上面以外が閉じた空間に形成される定在波の腹及び節の位置が溶融金属の面のレベルによって変化し、受信アンテナ103によって受信される電磁波が定在波の節の周辺であると、受信される電磁波の信号が小さくなるためである。2種類の周波数の搬送波を交互に使用すれば、一方の周波数の電磁波の受信される部分が定在波の節の周辺であっても、定在波の節以外の部分に相当する他方の周波数の電磁波を受信することにより十分に大きな信号が得られる。
【0055】
2種類の周波数は以下のように選定する。2種類の周波数は、互いに素であるように選定する。共通の約数がなければ、定在波の節の部分が一致することはない。また、第1の周波数の節の部分に第2の周波数の腹に近い部分が来るのが好ましい。ただし、第1の周波数の節の部分と第2の周波数の腹の部分が一致すると約数が存在することとなる。さらに、仮に2種類の周波数に約数が存在しても、モールド内の測定範囲で節の部分が一致しなければよい。
【0056】
つぎに、本発明の一実施形態による溶融金属レベル測定装置による測定実験について説明する。実験は、一片の長さが140mmの正方形の開口部断面を有し、深さが600mmである仮想モールドを使用して行った。溶融金属の面として、金属板を使用した。溶融金属レベル測定装置の、2種類の搬送波周波数、第1及び第2のM系列信号の周波数f
M1及びf
M2、M系列の1周期の波数Nは、上述のとおりである。送信アンテナ及び受信アンテナは、
図1に示すように、モールドの上面に、水平方向に互いに対向して設置した。
【0057】
図8は、本発明の一実施形態による溶融金属レベル測定装置の、実験による測定結果を示す図である。
図8の横軸は、モールド上面からの鉛直方向の距離を表す。
図8の縦軸は、理論値、測定値及び偏差を表す。理論値とは、実際の溶融金属面(金属板)の位置に対応する値である。
図8の縦軸の左側の目盛りは、理論値及び測定値を表す。
図8の縦軸の右側の目盛りは、測定値の理論値からの偏差を表す。溶融金属面(金属板)の位置が、モールドの上面から50mmから550mmまでの範囲で変化した場合に、測定値の偏差は、−20mmから+10mmの範囲に収まる。
【0058】
本発明の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、極超短波帯(周波数300MHz−3GHz)の電磁波を使用するので、より高い周波数の電磁波を使用する装置と比較して構造が簡単である。また、本発明の実施形態による溶融金属レベル測定装置は、無指向性のアンテナを使用するので、溶融金属面の局所的なレベル変動に対するロバスト性が高い。