特許第5738461号(P5738461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5738461
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】弁尖サイザー
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
   A61F2/24
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-182150(P2014-182150)
(22)【出願日】2014年9月8日
【審査請求日】2014年9月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507320502
【氏名又は名称】尾崎 重之
(73)【特許権者】
【識別番号】513249851
【氏名又は名称】株式会社日本医療機器開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 重之
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−505785(JP,A)
【文献】 特許第5106019(JP,B2)
【文献】 特表2012−517278(JP,A)
【文献】 米国特許第7258698(US,B2)
【文献】 米国特許第6110200(US,A)
【文献】 米国特許第4211241(US,A)
【文献】 国際公開第03/015618(WO,A1)
【文献】 特開2007−037570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓弁の大きさに応じた弁尖のサイズを決定するための弁尖サイザーであって,
生体に当接される円弧面状の正面(10)と,
前記正面(10)の反対面側に位置する背面(20)と,
前記背面(20)から突出した手術器具によって挟み持つことのできる摘み部(30)と,を有し,
前記正面(10)は,左右の両端の間の中央部分が前記生体側に向かって張り出す円弧面状に形成されている
弁尖サイザー。
【請求項2】
前記正面(10)は,前記左右の両端に,前記弁尖の左右の交連部に当てられる左右の触針部(11,12)を有する
請求項1に記載の弁尖サイザー。
【請求項3】
前記背面(20)は,前記正面(10)と同じ方向に向かって張り出す円弧面状に形成されている
請求項1又は請求項2に記載の弁尖サイザー。
【請求項4】
前記摘み部(30)は,前記背面(20)の左右の後端(21,22)よりも突出しない長さに形成されている
請求項3に記載の弁尖サイザー。
【請求項5】
前記摘み部(30)の少なくとも左右の側面(31,32)は,滑り止め防止部材(71)によって形成されているか,又は滑り止め防止加工(72)が施されている
請求項1から請求項4のいずれかに記載の弁尖サイザー。
【請求項6】
前記摘み部(30)は,少なくとも一部分が,上方に向かって傾斜している
請求項1から請求項5のいずれかに記載の弁尖サイザー。
【請求項7】
前記触針部(11,12)よりも上方に向かって高く延出し,人手によって把持されるハンドルを備えていない
請求項2に記載の弁尖サイザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,心臓弁を構成する弁尖のサイズを測定するための弁尖サイザーに関する。弁尖サイザーは,例えば,大動脈弁形成術や大動脈弁再建術を行うにあたり,人工膜又は生体膜から心臓弁の弁尖素材を形成する際に用いられる。
【背景技術】
【0002】
心臓は,大動脈を介して血液を全身に送給するポンプの役目を果たしている。ここで,例えば,心臓の左心室から大動脈へ血液が流出する出口に形成された心臓弁(大動脈弁)は,薄い膜でできた椀型の3枚の弁尖によって構成されている。血流の流体圧が低い状態においては,各弁尖の内膜同士が合わさって心臓弁が閉じられ,血流が遮断される。他方,血流の流体圧が高まると,各弁尖の内膜同士が離れて心臓弁が開かれ,血流が心臓から大動脈へと流れこむ。また,各弁尖は,それぞれの左右両端に相当する交連部において,大動脈の内壁と一体となっている。
【0003】
ところで,年齢とともに動脈硬化などが進むと,弁尖にカルシウムが付着して,弁尖が石灰化して硬化するとうい現象が起こる。これにより,弁尖の動きが制限されて十分に開かず,大動脈弁狭窄症という疾患をひき起こす。その結果,左心室の壁が分厚くなって肥大化し,心臓筋肉の壁が分厚くなりすぎると,冠動脈によって供給される血流では栄養や酸素が不足するため,心臓は心筋虚血(栄養・酸素不足の状態)となる。特に,運動時など,酸素需要が高まったときに心筋虚血をきたすと,胸痛や失神といった症状を引き起こされるおそれがある。
【0004】
ここで,このような疾患の治療法として,本発明者は,鋭意研究の結果,従来の弁置換術に代えて,大動脈弁成形術を確立した。大動脈弁形成術は,カルシウムの付着によって硬化した弁尖のうち,石灰を除去することによって弁尖として使用できるものはなるべく残しておきつつ,使用できなくなった弁尖のみを切除して,切除した弁尖を自己の生体膜などから形成した大動脈弁に置き換えて修復するという術法である。このように,自己の心膜などから弁尖を形成し,新たな大動脈弁として用いることにより,拒絶反応を起こしたり,血液凝固反応(血栓)を起こしたりする問題を回避することができ,さらには高価な人工弁を購入する必要がなくなる。ただし,大動脈弁成形術では,患者の大動脈の太さに適合した弁尖を平らな心膜から切り出す必要があるが,どのようにして,患者の大動脈の太さに適合する弁尖のサイズを決定するのかが問題となっていた。
【0005】
そこで,本発明の発明者は,患者の弁尖のサイズを正しく測定して,大動脈の太さに適合した弁尖を形成するための弁尖形成器を開発した(特許文献1)。この特許文献1には,大動脈弁成形術に用いられる弁尖形成器が開示されている。この弁尖形成器は,複数の弁尖サイザーとテンプレートを有する。このうち,弁尖サイザーの例は,特許文献1の図2に示されている。また,実際の弁尖サイザーの写真を,本願の図7に示している。図7などに示されるように,従来の弁尖サイザーは,サイザーブロックと,このサイザーブロックに取り付けられたハンドルとを有している。サイザーブロックには,弁尖の交連部の中心角に応じた角度で円柱を切断した形状の円弧面が形成されている。また,サイザーブロックには,円弧面の両端部を,弁尖の交連部に位置決めする触針部が設けられている。また,特許文献1に開示される弁尖形成器は,その図1に示されるように,複数種類のサイズのサイザーブロックが,それぞれ人手によって把持されるハンドルと接続された構成となっている。
【0006】
また,大動脈弁形成術は,尾崎重之「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」人工臓器39巻3号2010年157頁〜161頁(下記非特許文献1)において紹介されている。この非特許文献1においても,上記のとおり,サイザーブロックとハンドルとを有する弁尖サイザーが用いられている(非特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5106019号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】尾崎重之「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」人工臓器39巻3号2010年157頁〜161頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,従来の弁尖サイザーは,サイザーブロックのそれぞれにハンドルが取り付けられたものであるため,全体のサイズが大きく,取り扱いにくいという問題があった。つまり,従来の弁尖サイザーは,本願の図7に示されるように,長く延出したハンドルが必要であり,また,サイザーヘッドにこのハンドルを取り付けるための部位を確保しておく必要がある。このため,従来の弁尖サイザーは,サイザーヘッドを狭い大動脈の基部に挿入しにくく,また,血管壁にサイザーヘッドが接触して傷つかないように配慮する必要があった。
【0010】
さらに,従来の弁尖サイザーは,サイザーブロックのそれぞれにハンドルが取り付けられたものであるため,例えば特許文献1の図1に示されるように,複数種類の弁尖サイザーを収納する収納容器の容積が大きくなるという問題がある。収納容器が大きくなると,術者の手元に置いたままにしておくことができない。このため,複数種類の弁尖サイザーを,手術野から離れた場所に置いておき,弁尖サイザーのサイズを変える度に,術者と介助者の間で弁尖サイザーの受け渡しを行う必要がある。このような受け渡し作業は,手術時間のロスに繋がるおそれがあった。
【0011】
従って,現在では,小型で取り扱い易い弁尖サイザーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで,本発明の発明者は,上記の従来発明の問題点を解決する手段について鋭意検討した結果,従来の弁尖サイザーからハンドルとこのハンドルの取付部位をなくし,その代わりに,鉗子やピンセットなどで把持することのできる摘み部を形成することで,弁尖サイザーの必要な機能を残しつつ,そのサイズを劇的に小型化することができるという知見を得た。そして,本発明者は,このような知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
【0013】
本発明は,弁尖サイザーに関する。弁尖サイザーは,心臓弁の大きさに応じた弁尖のサイズを決定(測定)する用途で用いられる外科手術器具である。
本発明の弁尖サイザーは,生体に当接される円弧面状の正面10と,この正面10の反対面側に位置する背面20と,この背面20から突出した摘み部30と,を有する。
【0014】
上記構成のように,弁尖サイザーの背面20に摘み部30を設けることで,この摘み部30を鉗子やピンセットによって把持することができる。このため,弁尖サイザーに,人手によって把持されるハンドルを設ける必要がなくなる。このハンドルは,従来の弁尖サイザーにとって,その構造の大部分を占めていた部材である。従って,ハンドルが省略可能となったことにより,本発明の弁尖サイザーは,劇的に小型化されたものとなる。このように小型化された弁尖サイザーは,狭い大動脈の基部であっても,容易に挿入することができる。また,弁尖サイザーが大動脈の血管壁に接触して,生体を傷つけてしまうリスクを低減させることができる。さらに,弁尖サイザーを小型化することで,サイズの異なる複数種類(例えば9種類)の弁尖サイザーを揃えても,複数種類の弁尖サイザーのセットを小型の収納容器に収納することができる。これにより,大動脈弁形成術などの手術を行う際に,弁尖サイザーのセットを術者の手元付近に置いておくことが可能となるため,手術時間を短縮することができる。
【0015】
本発明の弁尖サイザーは,正面10に,弁尖の左右の交連部に当てられる左右の触針部11,12を有することが好ましい。
【0016】
上記構成のように,正面10に触針部11,12を設けることで,患者の弁尖のサイズをより適切に決定(測定)することが可能となる。
【0017】
本発明の弁尖サイザーは,背面20は,正面10と同じ方向に向かって張り出す形状(例えば円弧面状)に形成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成のように,背面20を正面10と同じ方向に向かって張り出す形状とすることで,弁尖サイザーをさらに小型化することができる。すなわち,従来の弁尖サイザー(図7参照)は,背面20にハンドルの取付部位を設ける必要があるため,この背面20が,正面10と反対方向に向かって張り出すものとなっていた。しかし,このような形状では,弁尖サイザーのヘッド部分が大きくなり,狭い大動脈に挿入しづらくなる。そこで,本発明の弁尖サイザーでは,ハンドルの取付部位を削り取って,背面20を,正面10と同じ方向に張り出す形状(例えば円弧面状)としている。これにより,弁尖サイザーを狭い生体部位に挿入しやすくなる。
【0019】
本発明の弁尖サイザーは,摘み部30が,背面20の左右の後端21,22よりも突出しない長さに形成されていることが好ましい。
【0020】
上記構成のように,摘み部30の長さを一定以下に規定することで,弁尖サイザーを適切な大きさに調整できる。つまり,摘み部30の長さを,背面20の後端21,22から突出しないように調整することで,弁尖サイザーを大動脈に差し込む際に,この摘み部30が血管壁に接触して障害となることを防止できる。
【0021】
本発明の弁尖サイザーにおいて,摘み部30の少なくとも左右の側面31,32は,滑り止め防止部材71によって形成されているか,又は滑り止め防止加工72が施されていることが好ましい。
【0022】
上記構成のように,摘み部30に滑り止め防止のための工夫を施すことで,鉗子やピンセットによって把持しやすくなる。
【0023】
本発明の弁尖サイザーにおいて,摘み部30は,少なくとも一部分が,上方に向かって傾斜していることが好ましい。なお,摘み部30が傾斜している場合には,摘み部30が,弁尖サイザーが置かれた設置面に対して垂直に起立している場合も含まれる。
【0024】
本発明の弁尖サイザーは,術者により,鉗子などを介して,上側から把持されることを想定した構造となっている。このため,上記構成のように,摘み部30の一部分が上方に向かって傾斜ものであると,術者が摘み部30を把持しやすくなる。
【0025】
本発明に係る弁尖サイザーは,触針部11,12よりも上方に向かって高く延出し,人手によって把持されるハンドル(図7参照)を備えていないことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば,小型で取り扱い易い弁尖サイザーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は,弁尖サイザーの例を示した斜視図である。
図2図2は,弁尖サイザーの例を示した正面図である。
図3図3は,弁尖サイザーを模式的に示した平面図である。
図4図4は,図2に示したA−A線における断面図である。
図5図5は,弁尖サイザーの他の例を示した斜視図である。
図6図6は,弁尖サイザーの他の例を示した断面図である。
図7図7は,従来の弁尖サイザーを示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
なお,本願明細書において,「A〜B」とは,「A以上B以下」であることを意味する。
【0029】
図1は,本発明に係る弁尖サイザー100の一例を示している。図1では,弁尖サイザー100が,ピンセットや鉗子などの器具によって把持されている様子を模式的に示している。弁尖サイザー100は,大動脈弁形成術などにおいて用いられる外科手術器具である。大動脈弁形成術で弁尖サイザーを使用する方法については,特許文献1や非特許文献1において詳しく説明されている。このため,本願明細書において大動脈弁形成術の説明は割愛する。特許文献1の内容は,本願明細書に組み込まれるものである。
【0030】
図1に示されるように,弁尖サイザー100は,患者の生体(具体的には大動脈の血管内壁)に当接される正面10を有している。この正面10は,患者の生体側に向かって中央部分が張り出すような円弧面状に形成されている。また,正面10の左端には左触針部11が形成され,正面10の右端には左触針部12が形成されている。左右の触針部11,12は,弁尖の左右両端に位置する交連部に当てがわれる部位である。
【0031】
具体的に説明すると,例えば3つの弁尖から構成される大動脈弁から一つの弁尖を切除した後,大動脈に弁尖サイザー100を挿入し,その切除された弁尖の両隣りに位置する残された弁尖の交連部に,弁尖サイザー100の左右の触針部11,12を当てがう。また,左右の触針部11,12の間に位置する正面10は,様々なサイズのものが用意されている。つまり,手術の際に用意される複数種類の弁尖サイザーは,それぞれ,左右の触針部11,12の間に位置する正面10のサイズが異なっている。図1に示した例では,左右の触針部11,12の間の円弧の長さが約35mm(±2mm程度であれば許容範囲)となっている。このため,弁尖サイザー100には,“35”という表示が記されている。なお,正面10を形成する円弧の全体長さは,左右の触針部11,12の間の円弧の長さよりも少し大きくなってもよい。また,図示は省略するが,左右の触針部11,12の間のサイズ(円弧の長さ)は,例えば15〜35mm程度の範囲で複数種類用意される。このため,弁尖サイザー100の左右の触針部11,12を弁尖の交連部に当てつつ,弁尖サイザー100の種類を変えながら,適切な大きさの弁尖サイザー100を選択することで,患者の弁尖のサイズを測定(決定)することができる。
【0032】
図2には,弁尖サイザー100の正面図が示されている。図2に示されるように,弁尖サイザー100の正面10は,触針部11,12が形成されている左右両端の高さH1が,左右方向の中心部分の高さH2よりも高くなっている。これにより,触針部11,12の上端を,交連部に当接させて,弁尖のサイズを測定しやすくなる。
【0033】
また,図1に示されるように,正面10と反対面側には,背面20が存在する。そして,本発明の弁尖サイザー100は,この背面20から突出するように,摘み部30が設けられている。すなわち,摘み部30は,正面10が存在する方向とは反対の方向に向かって,背面20から突出している。図1に示されるように,摘み部30は,背面20の左右方向の中心線上に位置していることが好ましい。
【0034】
摘み部30は,術者によって,鉗子やピンセットなどの手術器具を介して把持される部位である。このため,摘み部30は,手術器具によって把持可能な幅(厚み),高さ,及び長さを有していればよい。摘み部30の形状は,特に限定されないが,基本的には,図1に示されるように直方体状であることが好ましい。また,図示は省略するが,摘み部30は,その他の形状としてもよい。
【0035】
図1に示した弁尖サイザー100の例では,正面10と背面20の間にある程度の厚みが存在している。このため,弁尖サイザー100には,正面10と背面20との間を繋ぐように,上面40,下面50,及び側面60が存在する。ただし,本発明の弁尖サイザー100は,正面10と背面20の間が非常に薄く,図示したような上面40,下面50,及び側面60を観念できないような構造であってもよい。
【0036】
ここで,図1に示されるように,弁尖サイザー100の背面20は,正面10と同じ方向に張り出す形状となっている。つまり,背面20は,正面10側に向かって窪んだ形状となっている。例えば,背面20は,正面10と同様に,円弧面状であることが好ましい。また,背面20と正面10は,互いに平行な面であってもよい。ただし,背面20は,円弧面状に限られず,多角形状の面であってもよい。また,背面20と正面10は平行な面でなくても特に問題はない。
【0037】
図3は,弁尖サイザー100を上面40側から見た平面図を模式的に示している。また,図3は,弁尖サイザー100を設計するための補助線が,点線によって示されている。図3に示されるように,弁尖サイザー100は,大動脈弁の交連部の中心角に応じた角度で切断した扇型(部分円柱)を基本形状としている。図に示した例では,大動脈弁が3つの弁尖によって構成されており,大動脈弁の3つの交連部の中心角が120度の等角となっていることを想定している。図3に示されるように,弁尖サイザー100の正面10は,円弧状となっている。そして,弁尖サイザー100の正面10に設けられた左右の触針部11,12の間の円弧の長さが,交連部の中心角に応じた長さとなる。すなわち,図3に示した例では,左右の触針部11,12の間の円弧は,120度の中心角に対応した長さとなる。
【0038】
なお,図示は省略するが,大動脈弁が2の弁尖によって構成されている場合もある。この場合,大動脈弁の交連部は2つとなる。この場合を想定すると,正面10の円弧は,180度の中心角に対応した形状とすることもできる。
【0039】
また,図3に示されるように,弁尖サイザー100の上面40には,中央指標13と,左方指標14と,右方指標15が形成されていることが好ましい。中央指標13は,左右方向の中心に形成される。また,左方指標14と右方指標15は,それぞれ,左触針部11と右触針部12の上面40側に形成される。図3に示した例において,中央指標13と左方指標14は60度間隔で設けられ,同様に,中央指標13と右方指標15は60度間隔で設けられている。各指標13,14,15は,弁尖サイザー100を利用して切除された弁尖のサイズを測定する際に,術者によって目視される指標となる。各指標13,14,15が存在することにより,術者は,弁尖サイザー100の正面10と左右の触針部11,12の位置決めを行いやすくなる。
【0040】
また,図3において,円弧面状に形成された背面20の左右の後端が,符号21,22で示されている。この場合に,背面20から突出する摘み部30は,背面20の左後端21及び右後端22から突出しない長さで形成されていることが好ましい。図3では,背面20の左後端21と右後端22を仮想的な直線で繋いでいる。この場合に,摘み部30は,この左後端21と右後端22を繋ぐ仮想的な直線を超えない長さとなっている。このようにすることで,摘み部30が背面20によって形成された窪みの内部に収まるようになる。これにより,弁尖サイザー100を大動脈内に挿入する際に,摘み部30が障害になることを防止できる。なお,摘み部30の長さLは,背面20の左右の後端21,22から突出しないという条件を満たしつつ,少なくとも5mm以上又は10mm以上の長さを有するものであることが好ましい。摘み部30の長さLが短すぎると,鉗子やピンセットによって摘み部30を把持しにくくなるが,摘み部30の長さLが5mm以上とすることで,鉗子などによって適切に摘み部30を把持できるようになる。
【0041】
また,図3において,摘み部30の幅が,符号Wで示されている。摘み部30の幅Wは,鉗子やピンセットで挟みやすい幅とすればよい。例えば,摘み部30の幅Wは,3mm〜20mm,4mm〜15mm,又は5mm〜10mmとすればよい。
【0042】
図4は,図3に示したA−A線における断面の概要を示している。つまり,図4は,摘み部30が形成された箇所における弁尖サイザー100の断面図である。図4に示されるように,正面10の中心部分の高さH2と,背面20の高さH3を比較すると,背面20の高さH3の方が低くなっている(H3<H2)。例えば,背面20の高さH3は,正面10の中心部分の高さH2に対して,20%〜80%,又は30%〜50%程度であることが好ましい。また,図3に示されるように,正面10と背面20は,互いに平行な面となるように起立していることが好ましい。
【0043】
上記のように,背面20の高さH3が正面10の高さH2よりも低くなっているため,この正面10と背面20を繋ぐ上面40は,傾斜している。図4に示されるように,上面40は,断面が曲線となる緩やかな曲面で形成されていることが好ましい。ただし,上面40を,断面が直線となる平坦面とすることもできる。他方,正面10と背面20を繋ぐ下面50は,断面直線状の平坦面で形成されている。このように,下面50を平坦面としておけば,弁尖サイザー100を自立させやすくなる。
【0044】
また,図4に示された例において,背面20の高さH3と摘み部30の高さH4が一致している(H3=H4)。ただし,摘み部30の高さH4は,背面20の高さH3よりも低いものであってもよいし,高いものであってもよい。摘み部30の摘みやすさを考慮すると,摘み部30の高さH4は,背面20の高さH3よりも高くすることが好ましい(H4>H3)。
【0045】
続いて,図5及び図6を参照して,弁尖サイザー100の改良例について説明する。
【0046】
図5は,弁尖サイザー100の摘み部30に,滑り止めの改良を施した例を示している。図5(a)に示した例において,摘み部30に,滑り止め防止部材71が取り付けられている。例えば,滑り止め防止部材71は,シリコーンゴムなどの摩擦係数の高い素材で形成されていることが好ましい。すなわち,滑り止め防止部材71を形成する素材は,弁済サイザー100の本体部分を形成する素材よりも,高い摩擦係数を持つ素材であることが好ましい。滑り止め防止材料としては,適宜公知のものを採用することができる。図5(a)に示した例においては,滑り止め防止部材71は,一部が開口となったキャップ状となっており,摘み部30全体を覆っている。ただし,摘み部30は,その左右の側面31,32を挟むようにして摘み持たれるものであるため,滑り止め防止部材71は,少なくとも左右の側面31,32に位置していればよい。例えば,滑り止め防止部材71を,左右の側面31,32にのみ取り付けることもできる。また,滑り止め防止部材71を,摘み部30と一体成型することも可能である。
【0047】
図5(b)に示した例において,摘み部30の左右の側面31,32に,滑り止め防止加工72が施されている。滑り止め防止加工72の例としては,摘み部30の側面31,32を粗面として摩擦係数を高めたり,摘み部30の側面31,32に刻み目(凹凸)を形成して鉗子やピンセットの先端が嵌りやすくすることが考えられる。
【0048】
図5(a)及び図5(b)に示されるように,滑り止め防止加工72を設けて,鉗子やピンセットで摘み部30を挟んだときに滑りにくくすることで,本発明に係る弁尖サイザー100を利用した手術の安全性を高めることができる。
【0049】
図6は,弁尖サイザー100の摘み部30を把持しやすくするための改良を施した例を示している。図6(a)に示した例において,摘み部30は,上方に向かって立ち上がるように,背面20に対して所定角度θで傾斜している(設置面に対して垂直に起立する場合を含む)。例えば,角度θは,0度〜80度,20度〜60度,30度〜45度とすることができる。また,図6(a)に示した例では,弁尖サイザー100が平坦面に置かれている状態において,摘み部30が,この平坦面から浮き上がった状態となる構造となっている。このように,摘み部30を傾斜させることで,鉗子やピンセットを利用して,弁尖サイザー100を上側から把持しやすくなる。
【0050】
図6(b)は,摘み部30が,非傾斜部分35と傾斜部分36とから構成されている例を示している。非傾斜部分35は,背面20から延出した部位であり,傾斜部分36は,この非傾斜部分35から延出した部位である。まず,摘み部30の非傾斜部分35は,背面20に対して直角となるように延出している。また,摘み部30の傾斜部分36は,上方に向かって立ち上がるように,背面20に対して所定角度θで傾斜している(設置面に対して垂直に起立する場合を含む)。例えば,傾斜部分36の角度θは,0度〜80度,20度〜60度,30度〜45度とすることができる。このように,摘み部30の一部を非傾斜部分35とすることで,弁尖サイザー100をより安定的に自立させることができる。また,摘み部30の一部を傾斜部分36とすることで,鉗子やピンセットを利用して,弁尖サイザー100を上側から把持しやすくなる。
【0051】
図6(c)は,摘み部30の上面33を傾斜させた例を示している。図6(c)の例では,摘み部30の後端における高さH4が,背面20の高さH3よりも高くなるように,摘み部30の上面33が傾斜面となっている。例えば,摘み部30の高さH4(最大高さ)は,背面20の高さH3に対して,110%〜200%とすればよい。また,背面20に対する摘み部30の上面33の傾斜角度θは,0度〜80度,20度〜60度,30度〜45度とすることができる。他方,摘み部30の下面34は,背面20に対して直角に延出している。従って,弁尖サイザー100が平坦面に置かれている状態において,摘み部30が,この平坦面から離れない構造となっている。このようにすることで,弁尖サイザー100の摘みやすさを向上させつつ,弁尖サイザー100の自立の安定性を確保することができる。
【0052】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は,心臓弁を構成する弁尖のサイズを測定するための弁尖サイザーに関する。本発明は,医療機器の分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10…正面 11…左触針部 12…右触針部
13…中央指標 14…左方指標 15…右方指標
20…背面 21…左後端 22…右後端
30…摘み部 31…左側面 32…右側面
33…上面 34…下面 35…非傾斜部分
36…傾斜部分 40…上面 50…下面
60…側面 71…滑り止め防止部材 72…滑り止め防止加工
100…弁尖サイザー
【要約】      (修正有)
【課題】小型で取り扱い易い弁尖サイザーを提供する。
【解決手段】心臓弁の大きさに応じた弁尖のサイズを決定するための弁尖サイザー100に関する。本発明に係る弁尖サイザー100は,生体に当接される円弧面状の正面10と,前記正面10の反対面側に位置する背面20と,前記背面20から突出した摘み部30と,を有する。このように,従来の弁尖サイザーからハンドルとこのハンドルの取付部位をなくし,その代わりに,鉗子やピンセットなどで把持することのできる摘み部30を形成することで,弁尖サイザーの必要な機能を残しつつ,そのサイズを劇的に小型化することができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7