特許第5738468号(P5738468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738468シリカ含有改質天然ゴム材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738468
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】シリカ含有改質天然ゴム材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/25 20060101AFI20150604BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20150604BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150604BHJP
   C08C 1/02 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C08C19/25
   C08L7/00
   C08K3/36
   C08C1/02
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-500674(P2014-500674)
(86)(22)【出願日】2013年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2013053420
(87)【国際公開番号】WO2013125415
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-37322(P2012-37322)
(32)【優先日】2012年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 治
(72)【発明者】
【氏名】河原 成元
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359714(JP,A)
【文献】 特開2006−152156(JP,A)
【文献】 特開2006−225462(JP,A)
【文献】 特開2007−203903(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/138890(WO,A1)
【文献】 特開2006−219618(JP,A)
【文献】 特開平09−176385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00−19/44
1/00−1/16
C08K 3/00−3/40
C08L 7/00−7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーを該天然ゴムラテックス中のゴム分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下添加して、天然ゴム粒子に該ビニルモノマーをグラフト共重合させると共に、該アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカを生成させることにより得られるシリカ含有改質天然ゴムラテックスを固形化して得られ、
シリカを含むグラフト鎖からなるマトリックスに天然ゴム粒子が分散されてなり、
該シリカの粒子径は10nm以上150nm以下であることを特徴とするシリカ含有改質天然ゴム材料。
【請求項2】
前記アルコキシシランを有するビニルモノマーは、主鎖の一端にアルコキシシランを、他端にビニル構造を有する請求項1に記載のシリカ含有改質天然ゴム材料
【請求項3】
天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーと重合開始剤とを添加して、天然ゴム粒子に該ビニルモノマーをグラフト共重合させると共に、該アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカを生成させるグラフト共重合工程と、
得られたラテックスを乾燥する乾燥工程と、
を有し、
該アルコキシシランを有するビニルモノマーの添加量は、該天然ゴムラテックスのゴム分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカの補強性を利用して強度の大きなゴム製品を製造可能な、シリカ含有改質天然ゴムラテックス、シリカ含有改質天然ゴム材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ない等の優れた性質を有する。このため、天然ゴムは、タイヤ、防振部材等の原料として用いられている。製品特性を向上させるため、天然ゴムの補強材として、カーボンブラック、シリカ等が配合される。シリカは、天然由来の材料であり、多量に存在する。また、カーボンブラックを配合した場合のように、製品が黒く着色されることもない。しかし、シリカの表面は、親水性のシラノール基で覆われている。一方、天然ゴムは疎水性を有する。したがって、天然ゴムにシリカを混練した場合、両者の親和性が低く、天然ゴムとシリカとの界面で剥離が生じやすい。これにより、充分な補強性が得られないという問題があった。
【0003】
この問題の解決策として、シランカップリング剤により処理したシリカ粒子を、天然ゴムに配合する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、特許文献3には、ジエンゴムラテックスをシランカップリング剤により改質処理した後に、アルコキシシラン化合物を添加して、ゾルゲル法によりシリカ粒子を生成、分散させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−174034号公報
【特許文献2】特開2008−7770号公報
【特許文献3】特開平9−176385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリカの表面をシランカップリング剤で処理することにより、天然ゴムに対する親和性は向上する。しかしながら、特許文献1、2に記載されているように、加硫前のゴム組成物と、表面処理されたシリカと、はバンバリーミキサー等により混練される。シリカは、残存するシラノール基の水素結合により凝集しやすい。このため、従来の混練法では、ゴム材料中にシリカを均一に分散させることが難しく、補強性の向上には限界がある。また、表面処理されたシリカとゴム組成物との反応を進行させるためには、120℃以上の温度で混練する必要がある。しかし、高温下で長時間混練すると、ゴム成分が劣化するおそれがある。また、混練中に熱が発生するため、反応の制御も難しい。
【0006】
一方、特許文献3に記載された方法においては、液(改質ジエンゴムラテックス)中にてシリカ粒子を生成し分散させる。具体的には、まず、ジエンゴムラテックスとシランカップリング剤とを反応させて、ゴム粒子にシランカップリング剤をグラフト結合させる。次に、シランカップリング剤で改質されたジエンゴムラテックスに、アルコキシシラン化合物を添加して、ラテックス中にシリカ粒子を生成し分散させる。このように、特許文献3に記載された方法においては、生成したシリカ粒子とゴム粒子との親和性を改善するために、予めゴム粒子にシランカップリング剤を結合させている。
【0007】
特許文献3に記載された方法においては、(1)ゾルゲル反応によるシリカ粒子の生成、(2)生成したシリカ粒子とゴム粒子にグラフト結合されたシランカップリング剤との反応、という二段階の反応が必要である。このため、生成したシリカ粒子を均一に分散させた状態で、シランカップリング剤と反応させることは難しい。よって、上記混練法と同様に、シリカ粒子の分散性は充分ではない。また、生成したシリカ粒子の全てを、ゴム粒子と確実に結合させることも難しい。未反応のアルコキシシラン化合物が、ゴム粒子の周りに残存するおそれもある。したがって、特許文献3に記載された方法により得られたゴム材料においても、補強性は充分とはいえない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、シリカを均一に分散した状態で天然ゴム粒子と結合させることにより、強度の大きなゴム製品を製造可能な、シリカ含有改質天然ゴムラテックス、シリカ含有改質天然ゴム材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスにアルコキシシランを有するビニルモノマーを添加して、天然ゴム粒子に該ビニルモノマーをグラフト共重合させると共に、該アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカを生成させることにより得られることを特徴とする。
【0010】
天然ゴムラテックスとしては、天然ゴムの他、蛋白質を除去した脱蛋白質化天然ゴムのラテックスを使用することができる。本明細書において、アルコキシシランとは、ケイ素原子に1〜3個のアルコキシ基(−OR、R:アルキル基)が結合した構造を意味する。また、ビニルモノマーとは、ビニル構造を有するモノマーを意味する。ビニル構造は、ビニル基(−CH=CH)の他、ビニル基の水素原子がメチル基(−CH)等の置換基で置換された態様(−C(CH)=CH)を含む。
【0011】
アルコキシシランを有するビニルモノマーは、ビニル構造により天然ゴム粒子にグラフト結合される。同時に、グラフト結合されたビニルモノマーのアルコキシシランが加水分解および縮合することにより、シリカが生成される。このように、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーを反応させるという一段階の反応により、製造される。つまり、天然ゴムラテックスを、予めシランカップリング剤により処理しておく必要はない。また、生成されたシリカは、グラフト結合された当該ビニルモノマーの一部として、確実に天然ゴム粒子に結合される。このため、シリカが天然ゴム粒子から剥離しにくく、補強効果が高い。また、天然ゴムにシリカを混練したり、シランカップリング処理した天然ゴムにシリカを反応させて結合させる場合と比較して、シリカが凝集しにくい。このため、天然ゴム粒子の周りに、シリカを均一に分散させることができる。したがって、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスから得られるゴム材料においては、シリカの凝集塊が少ない。つまり、破断基点が少なくなるため、強度が大幅に向上する。また、シリカの分散性が向上すると、シリカの表面積が大きくなる。これにより、補強性が向上する。
【0012】
(2)また、本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料は、上記本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスを固形化して得られ、前記シリカを含むグラフト鎖からなるマトリックスに前記天然ゴム粒子が分散されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料は、グラフト共重合したビニルモノマー(グラフト鎖)から形成されるマトリックスに、天然ゴム粒子が分散されたナノマトリックス構造を有する。グラフト鎖は、天然ゴム粒子の周りを囲んでいる。グラフト鎖は、生成したシリカを含む。すなわち、微細なシリカ粒子が、天然ゴム粒子の周りに分散して結合している。このため、本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料の引張強さは、単にシリカを混練した従来の天然ゴム材料と比較して、大きい。したがって、本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料は、強度を必要とする種々のゴム製品の製造に好適である。
【0014】
(3)本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法は、天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーと重合開始剤とを添加して、天然ゴム粒子に該ビニルモノマーをグラフト共重合させると共に、該アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカを生成させるグラフト共重合工程と、得られたラテックスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
上記(1)において説明したように、グラフト共重合工程においては、アルコキシシランを有するビニルモノマーが天然ゴム粒子にグラフト結合されると共に、当該ビニルモノマーのアルコキシシランが加水分解および縮合することにより、シリカが生成される。生成されたシリカは、天然ゴム粒子の周りに均一に分散した状態で、確実に天然ゴム粒子に結合される。したがって、得られたラテックスを乾燥することにより、強度が大きなシリカ含有改質天然ゴム材料を製造することができる。
【0016】
また、グラフト共重合工程において、反応時の撹拌速度、天然ゴムラテックスのpH等を調整することにより、生成するシリカの粒子径を調整することができる。例えば、シリカの粒子径が小さいと、シリカの表面積が大きくなる。これにより、補強点が多くなる。したがって、より少量のシリカで、補強性を向上させることができる。また、液(天然ゴムラテックス)中で反応させるため、混練法の場合よりも低温で反応させることができる。このため、ゴム成分が劣化しにくく、反応率も高い。
【0017】
本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法によると、天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーを反応させるという一段階の反応でよい。したがって、二段階の反応が必要な上記特許文献3の方法と比較して、製造工程を削減することができる。すなわち、本発明の製造方法によると、より簡便かつ低コストに、上記本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2のゴム材料のTEM写真を示す(倍率:10,000倍)。
図2】同ゴム材料の拡大TEM写真を示す(倍率:30,000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックス、シリカ含有改質天然ゴム材料およびその製造方法について、それぞれ詳細に説明する。
【0020】
<シリカ含有改質天然ゴムラテックス>
本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスの製造においては、天然ゴムラテックスとして、天然ゴムの他、蛋白質を除去した脱蛋白質化天然ゴムのラテックスを使用することができる。脱蛋白質化天然ゴムを使用すると、グラフト共重合における反応率を向上させることができる。
【0021】
天然ゴムとしては、例えば、フィールドラテックス、フィールドラテックスにアンモニアを加えて処理されたラテックス(ハイアンモニアラテックス)等を使用すればよい。また、天然ゴムの脱蛋白質化は、種々の公知の方法を採用することができる。例えば、(i)天然ゴムラテックスに、蛋白質分解酵素またはバクテリアを添加して蛋白質を分解させる方法(特開平6−56902号公報参照)、(ii)天然ゴムラテックスを、石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法、(iii)天然ゴムラテックスに、次の一般式(1)で表される尿素系化合物およびNaClOからなる群から選択された蛋白質変性剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変性処理した後に除去する方法(特開2004−99696号公報参照)等が挙げられる。
RNHCONH ・・・(1)
[(式(1)中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基である。]
アルコキシシランを有するビニルモノマーとしては、主鎖の一端にアルコキシシランを、他端にビニル構造を有するものが望ましい。この場合、アルコキシシランとビニル構造とは直接結合していてもよく、アルコキシシランとビニル構造との間に、炭素鎖(酸素原子を含んでいてもよい)、芳香族環等が介在していてもよい。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
天然ゴムラテックスと、アルコキシシランを有するビニルモノマーと、の反応については、後のシリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法の説明において、詳述する。
【0023】
<シリカ含有改質天然ゴム材料>
本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料は、上記シリカ含有改質天然ゴムラテックスを固形化して得られる。固形化は、シリカ含有改質天然ゴムラテックスを乾燥すればよい。例えば、シリカ含有改質天然ゴムラテックスを基材表面に塗布したり、基材をシリカ含有改質天然ゴムラテックスに浸漬して得られた塗膜を、加熱するなどして乾燥すればよい。得られたシリカ含有改質天然ゴム材料において、天然ゴム粒子にグラフト共重合したビニルモノマー(グラフト鎖)は、マトリックスを形成する。グラフト鎖からなるマトリックスは、生成したシリカを含み、天然ゴム粒子の周りを囲んでいる。すなわち、本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料は、シリカを含むグラフト鎖からなるマトリックスに、天然ゴム粒子が分散されたナノマトリックス構造を有する。
【0024】
シリカの表面積を大きくして、補強効果を高めるという観点から、マトリックス中のシリカの粒子径は、150nm以下であることが望ましい。100nm以下であるとより好適である。一方、アルコキシシランの加水分解および縮合反応の制御が可能な範囲として、シリカの粒子径は、10nm以上であることが望ましい。15nm以上であるとより好適である。シリカの粒子径としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した画像において、シリカの最長部分の長さを採用すればよい。
【0025】
<シリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法>
本発明のシリカ含有改質天然ゴム材料の製造方法は、グラフト共重合工程と、乾燥工程と、を有する。以下、各工程について順に説明する。
【0026】
(1)グラフト共重合工程
本工程は、天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーと重合開始剤とを添加して、天然ゴム粒子に該ビニルモノマーをグラフト共重合させると共に、該アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカを生成させる工程である。
【0027】
天然ゴムラテックス、およびアルコキシシランを有するビニルモノマーについては、上述した通りである。天然ゴムラテックスのゴム分(乾燥ゴム質量、以下同じ)濃度は、特に限定されない。ゴム分濃度が低すぎると、得られるゴム材料が少なくなり経済的ではない。反対に、ゴム分濃度が高すぎると、ラテックス中のゴム成分が不安定になる。このため、ゴム粒子同士の凝集が起きやすく、グラフト共重合反応を均一に進行させにくくなる。例えば、ゴム分濃度を、10質量%以上60質量%以下とすることが望ましい。
【0028】
アルコキシシランを有するビニルモノマー(以下適宜、単に「ビニルモノマー」と称す)の添加量は、天然ゴムラテックス中のゴム分100質量部に対して、5質量部以上60質量部以下とすることが望ましい。ビニルモノマーの添加量が5質量部未満の場合には、所望の補強効果が得られない。10質量部以上とするとより好適である。反対に、ビニルモノマーの添加量が60質量部を超えると、本来天然ゴムが有する粘弾性が阻害されるおそれがある。30質量部以下とするとより好適である。
【0029】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸アンモニウム(APS)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHPO)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、等の過酸化物が挙げられる。重合温度を低くするという観点からは、レドックス系の重合開始剤を使用するとよい。レドックス系の重合開始剤として、過酸化物と組み合わされる還元剤には、例えば、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。レドックス系の重合性開始剤として好適な組み合わせ例としては、TBHPOとTEPA、過酸化水素とFe2+塩、KPSと酸性亜硫酸ナトリウム等がある。重合開始剤の添加量は、天然ゴムラテックス中のゴム分100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下とするとよい。
【0030】
天然ゴムラテックスのpHは、特に限定されない。例えば、pH8〜10程度が好適である。天然ゴムラテックスには、予め乳化剤を加えておいてもよい。乳化剤としては、公知の種々のアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤のいずれも使用することができる。アニオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンエーテル系、多価アルコール脂肪酸エステル系等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、アルキルアミン塩型、イミダゾリニウム塩型等が挙げられる。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤が好適である。
【0031】
本工程は、天然ゴムラテックスに、アルコキシシランを有するビニルモノマーと重合開始剤とを添加して、室温下で0.5〜12時間程度、攪拌して行えばよい。これにより、天然ゴム粒子にビニルモノマーがグラフト共重合されると共に、アルコキシシランの加水分解および縮合によりシリカが生成する。生成したシリカは、天然ゴム粒子の周りに分散した状態で、グラフト結合されたビニルモノマーの一部として天然ゴム粒子に結合される。本工程により、シリカ含有改質天然ゴムラテックスが製造される。
【0032】
(2)乾燥工程
本工程は、先のグラフト共重合工程にて得られたシリカ含有改質天然ゴムラテックスを、乾燥する工程である。ラテックスの乾燥方法は、特に限定されない。例えば、ラテックスを基材表面に塗布したり、基材をラテックスに浸漬して得られた塗膜を、加熱するなどして乾燥すればよい。乾燥時の温度は、熱によるゴムの劣化を考慮して、効率良く水分を除去するという観点から、50〜200℃程度とすることが望ましい。このようにして、シリカ含有改質天然ゴム材料が製造される。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0034】
<脱蛋白質化天然ゴムラテックスの製造>
天然ゴムラテックスとして、ゴールデンホープ社(マレーシア国)製のハイアンモニアラテックス(ゴム分濃度60.2質量%、アンモニア分濃度0.7質量%)を使用した。まず、ハイアンモニアラテックスを、ゴム分濃度が30質量%となるように希釈した。次に、希釈したラテックス1200gに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS:アニオン系界面活性剤)1.2gを添加して、ラテックスを安定させた。続いて、同ラテックスに、尿素12gを添加して、室温で10分間、回転速度200rpmで攪拌することにより、蛋白質分解処理を行った。その後、蛋白質分解処理が完了したラテックスを、回転速度8000rpmで45分間、遠心分離した。そして、分離された上層のクリーム分を、SDS水溶液に再分散して、回転速度300rpmで30分間撹拌した。このような遠心分離および再分散を、三回繰り返して、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを製造した。なお、再分散に用いたSDS水溶液の濃度は、一回目1質量%、二回目0.5質量%、三回目0.1質量%とした。
【0035】
<シリカ含有改質天然ゴムラテックスおよびシリカ含有改質天然ゴム材料の製造>
[実施例1]
まず、ゴム分濃度が20質量%に調製された脱蛋白質化天然ゴムラテックス200gを、ステンレス製容器に入れ、30℃で回転速度200rpmで撹拌しながら、窒素置換を1時間行うことにより、ラテックス中の溶存酸素を除去した。次に、当該ラテックスに、室温下で、重合開始剤のTBHPO0.238gおよびTEPA0.500gを添加した。さらに、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)8gを滴下して、2時間攪拌することにより、グラフト共重合を行った。このようにして、シリカ含有改質天然ゴムラテックスを製造した。得られたラテックスをシャーレに移し、50℃で乾燥して、厚さ1mmのシート状のシリカ含有改質天然ゴム材料を製造した。製造したシリカ含有改質天然ゴム材料を、実施例1のゴム材料と称す。
【0036】
[実施例2]
MPTMSに代えて、ビニルトリエトキシシラン(BTES)を滴下した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のゴム材料を製造した。
【0037】
[実施例3]
MPTMSに代えて、p−スチリルトリメトキシシランを滴下した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のゴム材料を製造した。
【0038】
<TEM観察>
実施例1〜3のゴム材料を、TEM(Hitachi H−800、加速電圧200kV)を用いて観察した。超薄切片は、ウルトラミクロトーム(Sorvall MT−6000)を用いて、−90℃で作製した。一例として、図1に、実施例2のゴム材料のTEM写真を示す(倍率:10,000倍)。図2に、同ゴム材料の拡大TEM写真を示す(倍率:30,000倍)。
【0039】
図1に示すように、天然ゴム粒子(白色部分)の周囲には、シリカ粒子(黒色部分)を含むマトリックス層が観察された。すなわち、実施例2のゴム材料は、シリカを含むグラフト鎖からなるマトリックスに、天然ゴム粒子が分散されたナノマトリックス構造を有することが、確認された。また、図2に拡大して示すように、シリカとして、粒子径が約150nmの大粒子と、粒子径が約20nmの小粒子が確認された。なお、実施例1、3のゴム材料のTEM写真においても、実施例2のゴム材料と同様に、天然ゴム粒子の周囲にシリカ粒子を含むマトリックス層が観察された。
【0040】
<引張り特性>
実施例1〜3のゴム材料について、引張強さ(TS)と切断時伸び(E)を測定した。これらの測定は、JIS K 6251(2010)に準じて行った。試験片としては、ダンベル状7号形を使用した。測定結果を、表1に示す。表1には、比較のため、原料の脱蛋白質化天然ゴムの引張強さと切断時伸びの値を、併せて示す。
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例1〜3のゴム材料の引張強さは、脱蛋白質化天然ゴムの引張強さと比較して、大幅に大きくなった。以上より、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックス、およびそれを乾燥して得られるシリカ含有改質天然ゴム材料は、大きな強度を有することが確認された。また、本発明の製造方法によると、強度の大きなシリカ含有改質天然ゴム材料を、容易に製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックス、およびそれを乾燥して得られるシリカ含有改質天然ゴム材料によると、強度の大きなゴム製品を製造することができる。したがって、本発明のシリカ含有改質天然ゴムラテックスおよびシリカ含有改質天然ゴム材料は、合成ゴムの代替材料として、例えば、タイヤ、防振ゴム部材等の原料に有用である。
図1
図2