特許第5738511号(P5738511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738511回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法及び回転電機巻線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738511
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法及び回転電機巻線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20060101AFI20150604BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20150604BHJP
   H02K 15/06 20060101ALI20150604BHJP
   G01R 31/06 20060101ALI20150604BHJP
   G01R 31/34 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   G01R31/12 A
   H02K15/04 E
   H02K15/04 F
   H02K15/06
   G01R31/06
   G01R31/34 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2008-167233(P2008-167233)
(22)【出願日】2008年6月26日
(65)【公開番号】特開2010-8199(P2010-8199A)
(43)【公開日】2010年1月14日
【審査請求日】2011年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】院南 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】浜口 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】廣島 聡
(72)【発明者】
【氏名】望月 資康
(72)【発明者】
【氏名】平野 恭男
(72)【発明者】
【氏名】花井 隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明人
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−227271(JP,A)
【文献】 特開平9−43302(JP,A)
【文献】 特開平4−313074(JP,A)
【文献】 特開昭62−245976(JP,A)
【文献】 特開2006−38688(JP,A)
【文献】 特開2004−274946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/06
G01R 31/34
H02K 15/04−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造工程内において、前記巻線の絶縁状態を評価するための試験方法であって、
前記鉄心に三相巻線を装着し、それら巻線の中性点の接続及び成形を行った後に、インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を部分放電検出装置により確認するインパルス放電試験を実行すると共に、
前記インパルス放電試験において前記インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間に印加されるインパルス電圧は、予め回転電機の運転時における異相間サージ分担電圧を測定しておくと共に、そのサージ電圧にてワイヤ接触があった場合に放電が発生する可能性のある巻線部分を確認しておくことにより、当該巻線部分における放電発生の検出が可能な必要最低限の大きさの電圧に設定され
前記インパルス放電試験においては、前記巻線の二相の電源端子間に、ある極性にてインパルス電圧を印加し、その後、同じ電源端子間に逆極性でインパルス電圧を印加することが行われることを特徴とする回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法。
【請求項2】
鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造工程内において、前記巻線の絶縁状態を評価するための試験方法であって、
前記鉄心に三相巻線を装着し、それら巻線の中性点の接続及び成形を行った後に、インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を部分放電検出装置により確認するインパルス放電試験を実行すると共に、
前記各相の巻線は、夫々k個の単位コイルを直列接続して構成されており、予め、異相間の絶縁状態が正常なもの、及び、各相の巻線を構成する単位コイルのうち電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルに夫々絶縁異常を模擬的に生じさせておいた複数のテスト用巻線を作製し、それら各テスト用巻線に対し夫々の放電開始電圧を測定しておき、
前記インパルス放電試験においては、電圧を低圧から次第に高圧に上昇させていきながら、インパルス電圧を印加し、部分放電が発生した場合の電圧と、前記テスト用巻線に関して測定された放電開始電圧とを比較することに基づいて異常部分を想定することを特徴とする回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法。
【請求項3】
前記部分放電検出装置は、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナを用いて、部分放電の発生に伴う電磁波の発生を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法。
【請求項4】
前記部分放電検出装置は、電圧印加ラインに設けた高周波電流プローブを用いて、部分放電の発生に伴う高周波電流を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法。
【請求項5】
前記部分放電検出装置は、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナを用いた部分放電の発生に伴う電磁波の発生の検出と、電圧印加ラインに設けた高周波電流プローブを用いた部分放電の発生に伴う高周波電流の検出とを同時に行うように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法。
【請求項6】
鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造方法において、
前記鉄心に各相の巻線を装着する装着工程と、
前記各相の巻線の中性点を電気的に接続する中性点接続工程と、
前記各相の巻線を成形する成形工程と、
前記巻線に対する電気的な試験を行う電気的試験工程とを含み、
前記電気的試験工程において、請求項1ないし5のいずれかに記載のインパルス試験を実行することを特徴とする回転電機巻線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造工程内において、巻線の絶縁状態を評価するための回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法、及び、鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用の回転電機(電動機及び発電機として機能)としては、インバータ駆動型の三相誘導モータが採用される。この三相誘導モータは、固定子鉄心に、U相、V相、W相の三相巻線を巻装して構成される固定子巻線を備えて構成される。このとき、各相の巻線は、複数個の単位コイルを直列接続したものを、複数(例えば2回路)並列に接続して構成されるケースが多くなっている。従来の一般的な固定子巻線の製造工程を、図7に概略的に示す。
【0003】
即ち、まず、ステップ1では、固定子鉄心に対し、U相、V相、W相の各巻線を、各相巻線間に相間絶縁紙を配置しながら挿入(装着)する工程が実行される。次のステップ2では、各相の中性点をかしめ接続する工程が実行される。ステップ3では、巻線の接続側及び反接続側のコイルエンドを規定寸法に成形し、縛り糸で緊縛する工程が実行される。ステップS4では、各相の巻線の電源側線を、各相別に端子にかしめ接続する工程が実行される。
【0004】
この後、ステップ5では、組立てられた固定子巻線の電気的健全性を調べるためのワニス処理前の電気試験工程が実行され、ステップ6では、巻線に対するワニス処理を行う工程が実行される。最後のステップ7では、ワニス処理後の電気試験の工程が実行される。上記した各電気試験の工程において実行される試験の中には、巻線の絶縁品質を評価(検証)するための試験がある。具体的には、対地間耐電圧試験、対地間部分放電試験などの巻線と鉄心間を対象とした絶縁試験、及び、インパルス試験による巻線間を対象とした絶縁試験が行われている。
【0005】
ところが、それら電気試験を行う際には、巻線の中性点の接続(ステップ2)が既になされているので、異相の巻線間での絶縁異常を確認することができなかった。この場合、対地間、素線間の絶縁検証のみでは、最も電位分担の高い異相間で、絶縁紙抜け等の絶縁異常があった場合に、運転中に絶縁破壊に至る虞がある。そこで、特許文献1では、異相間の絶縁試験を行うために、巻線の中性点の接続を製造工程の最後に回し、その前に、異相の巻線間の絶縁試験を行うことが提案されている。
【特許文献1】特開2005−80359号公報(図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、巻線のコイルエンドの成形も終った後の段階で、巻線間の中性点の接続を行う必要があるため、中性点のかしめ接続部分をコイルエンド上に配置せざるを得ず、コイルエンド寸法ひいては全体が大形化してしまう等の不具合を招く。尚、同相に例えば並列2回路を有する巻線においては、同相巻線間の絶縁評価も必要となるが、その試験は中性点を接続した状態で行われるため、先に中性点を接続しておき、その後再度中性点の分離を行わなければならない不都合が生ずる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、異相の巻線間での異常を確認するための絶縁試験を、巻線の中性点の接続後にも行うことができる回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法及び回転電機巻線の製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鉄心に三相巻線を巻装して構成される回転電機巻線の製造工程内において、巻線の中性点の接続後であっても、巻線の二相間にインパルス電圧を印加した際に、相間絶縁紙の抜けといった絶縁不良があった場合には、特に電源端子側の巻線間などの最も電位分担の高い部分で、部分放電が発生することを確認した。そして、回転電機巻線の製造工程の最終段階であっても、巻線の二相間にインパルス電圧を印加して部分放電の発生を監視することにより、異相巻線間の絶縁状態を評価することができることを確認し、本発明を成し遂げたのである。
【0009】
即ち、本発明の第1の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法は、鉄心に三相巻線を装着し、それら巻線の中性点の接続及び成形を行った後に、インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を部分放電検出装置により確認するインパルス放電試験を実行すると共に、前記インパルス放電試験において前記インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間に印加されるインパルス電圧は、予め回転電機の運転時における異相間サージ分担電圧を測定しておくと共に、そのサージ電圧にてワイヤ接触があった場合に放電が発生する可能性のある巻線部分を確認しておくことにより、当該巻線部分における放電発生の検出が可能な必要最低限の大きさの電圧に設定され、前記インパルス放電試験においては、前記巻線の二相の電源端子間に、ある極性にてインパルス電圧を印加し、その後、同じ電源端子間に逆極性でインパルス電圧を印加することが行われるところに特徴を有する(請求項1の発明)。これにより、中性点の接続後の回転電機巻線の製造工程の最終段階であっても、巻線の二相間にインパルス電圧を印加して部分放電の発生を監視することにより、異相巻線間の絶縁状態を評価することができる。
【0010】
しかも、インパルス放電試験における印加電圧を適切なものとすることができ、インパルス放電試験による巻線損傷を最小限とすると共に、運転時のインバータサージによる巻線損傷を発生させずに済ませることができる。
【0011】
更に、上記インパルス放電試験においては、巻線の二相の電源端子間に、ある極性にてインパルス電圧を印加し、その後、同じ電源端子間に逆極性でインパルス電圧を印加するように構成した。このような極性の入替えにより、各巻線に関して高い電位分担で絶縁性を試験することができる。
【0012】
また、本発明の第2の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法は、鉄心に三相巻線を装着し、それら巻線の中性点の接続及び成形を行った後に、インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を部分放電検出装置により確認するインパルス放電試験を実行すると共に、前記各相の巻線は、夫々k個の単位コイルを直列接続して構成されており、予め、異相間の絶縁状態が正常なもの、及び、各相の巻線を構成する単位コイルのうち電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルに夫々絶縁異常を模擬的に生じさせておいた複数のテスト用巻線を作製し、それら各テスト用巻線に対し夫々の放電開始電圧を測定しておき、前記インパルス放電試験においては、電圧を低圧から次第に高圧に上昇させていきながら、インパルス電圧を印加し、部分放電が発生した場合の電圧と、前記テスト用巻線に関して測定された放電開始電圧とを比較することに基づいて異常部分を想定するところに特徴を有する(請求項2の発明)。これによれば、異常があった場合に、巻線のどの部分で絶縁異常があるかを十分な確かさで想定することが可能となる。
【0013】
上記した部分放電検出装置を、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナを用いて、部分放電の発生に伴う電磁波の発生を検出するように構成することができる(請求項3の発明)。これにより、インパルス放電試験を行うにあたり、部分放電の発生を感度良く検出でき、また周囲のノイズの影響を受けにくいものとなる。
【0014】
或いは、部分放電検出装置を、電圧印加ラインに設けた高周波電流プローブを用いて、部分放電の発生に伴う高周波電流を検出するように構成することもでき(請求項4の発明)、インパルス放電試験を行うにあたり、運転時のインバータサージが高い場所である、電源端子に近いコイル部分の部分放電を、感度良く検出することができる。
【0015】
さらには、部分放電検出装置を、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナを用いた部分放電の発生に伴う電磁波の発生の検出と、電圧印加ラインに設けた高周波電流プローブを用いた部分放電の発生に伴う高周波電流の検出とを同時に行うように構成することもできる(請求項5の発明)。これにより、インパルス放電試験における部分放電の検出の信頼性を、より一層高めることができる。
【0016】
本発明の回転電機巻線の製造方法は、鉄心に各相の巻線を装着する装着工程と、前記各相の巻線の中性点を電気的に接続する中性点接続工程と、前記各相の巻線を成形する成形工程と、前記巻線に対する電気的な試験を行う電気的試験工程とを含み、前記電気的試験工程において、請求項1ないし5のいずれかに記載のインパルス試験を実行するところに特徴を有する(請求項6の発明)。これにより、中性点の接続後の回転電機巻線の製造工程の最終段階において、インパルス試験を実行することにより、異相巻線間の絶縁状態を評価することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の回転電機巻線の製造工程内絶縁試験方法及び回転電機巻線の製造方法によれば、鉄心に三相巻線を装着し、それら巻線の中性点の接続及び成形を行った後に、インパルス電圧印加装置により前記巻線の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を部分放電検出装置により確認するインパルス放電試験を実行するようにしたので、異相の巻線間での異常を確認するための絶縁試験を、巻線の中性点の接続後にも行うことができ、ひいては回転電機巻線の信頼性を高めることができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(1)第1の実施例
以下、本発明を、電気自動車やハイブリット車等の車両駆動用に用いられるインバータ駆動方式の三相電動機の固定子巻線(固定子)の製造に適用した第1の実施例について、図1ないし図4を参照しながら説明する。まず、図2及び図3を参照して、本実施例に係る回転電機巻線たる固定子巻線1の概略構成について述べる。図2に示すように、固定子巻線1は、固定子鉄心2に、三相巻線即ちU相巻線3、V相巻線4、W相巻線5を巻装して構成されている。
【0019】
前記固定子鉄心2は、複数枚の鋼板が積層されて一体的に結合されて形成された円環形状をなしており、図示はしないが、その内周側には、前記各相の巻線3,4,5が挿入される複数個のスロットが形成されている。本実施例では、外周側(スロットの奥側)から内周側に向けて、U相巻線3、V相巻線4、W相巻線5が順に装着されている。このとき、スロットの内周面にはスロット絶縁(図示せず)が施され、また、各相の巻線3,4,5間には相間絶縁紙6が介在されるようになっている。そして、各巻線3,4,5(コイルエンド部)の上部には、U相電源端子7、V相電源端子8、W相電源端子9が設けられる。
【0020】
図3は、前記三相巻線3,4,5の等価回路を示している。本実施例では、U相巻線3は、例えば4個(k=4)の単位コイル3a1〜3a4を直列接続してなるコイル群3aと、4個の単位コイル3b1〜3b4を直列接続してなるコイル群3bとの並列回路から構成されている。尚、4個の単位コイル3a1〜3a4、及び4個の単位コイル3b1〜3b4を区別する添え字は電源端子7側から近い順に1,2,3,4と付されている。
【0021】
同様に、V相巻線4は、4個の単位コイル4a1〜4a4を直列接続してなるコイル群4aと、4個の単位コイル4b1〜4b4を直列接続してなるコイル群4bとの並列回路から構成され、W相巻線5は、4個の単位コイル5a1〜5a4を直列接続してなるコイル群5aと、4個の単位コイル5b1〜5b4を直列接続してなるコイル群5bとの並列回路から構成されている。そして、コイル群3a,4a及び5aは中性点N1によってスター結線され、コイル群3b,4b及び5bは中性点N2によってスター結線され、それらが三相の電源端子7,8,9の間に並列に接続されている。
【0022】
さて、図1は、上記した固定子巻線1を製造するための本実施例に係る製造方法(ワニス処理の前までの製造工程)を概略的に示している。即ち、ステップ101では、スロット絶縁が予め配置された固定子鉄心2に対し、U相、V相、W相の各巻線3、4、5を、各相巻線間に相間絶縁紙6を配置しながら挿入(装着)する装着工程が実行される。この装着工程では、まずU相巻線3を装着し、そのコイルエンド部を固定子鉄心2の外周方向に拡開させるように成形を行い、相間絶縁紙6を挟んだ状態で、V相巻線4を装着する。次いで、V相巻線4のコイルエンド部を固定子鉄心2の外周方向に拡開させるように成形を行い、相間絶縁紙6を挟んだ状態でW相巻線5を装着し、同様に成形する。
【0023】
次のステップ102では、各相巻線3,4,5の中性点N1、N2をかしめ接続する中性点接続工程が実行される。この中性点接続工程では中性点N1、N2をかしめ接続した後、各接続部分の絶縁処理を行い、各相巻線3,4,5のコイルエンド部の所定箇所に配置することが行われる。ステップ103では、各相巻線3,4,5のコイルエンド部を規定寸法に成形し、前記中性点N1、N2のかしめ接続部分を含めて、図示しない縛り糸で緊縛して固定する成形工程が実行される。
【0024】
ステップ104では、各電源端子7,8,9のかしめ接続前における、同相の異回路巻線間の絶縁試験として、部分放電試験の工程が行われる。この試験は、例えばU相巻線3の場合、コイル群3a及びコイル群3bの電源端子側の端部において、夫々、予め長くしておいた巻線端部の素線のエナメル被膜を剥離し、それらの間に電圧を印加し、部分放電の発生の有無を確認することにより行われる。この際の電圧は、2本の健全な素線のエナメル被膜間の放電開始電圧よりも低い電圧であって、運転時に同相異回路間に印加されるサージ電圧を考慮した大きさとされる。これにより、並列に設けられた同相のコイル群間の巻線損傷などの絶縁異常の有無を検証することができる。
【0025】
ステップ105では、各相の巻線3,4,5(各コイル群3a,3b、4a,4b、5a,5b)の電源側の線を、各相別に端子にかしめ接続して電源端子7,8,9を形成する工程が実行される。またこれと併せて、各相巻線3,4,5のコイルエンド部のレーシング処理が行われる。これにて、ワニス処理前の固定子巻線1が形成されるのである。
【0026】
次のステップ106では、各種の電気的試験の工程が実行される。本実施例では、詳細には、この電気的試験工程として、(A)巻線抵抗試験、(B)インパルス試験、(C)インパルス放電試験、(D)絶縁抵抗・耐圧試験、(E)対地間部分放電試験、の5種類の試験が順に行われる。尚、そのうち(C)のインパルス放電試験を除く残りの4つ(A、B、D、E)の試験については、既に知られている試験であるため、以下、簡単な説明で済ませ、(C)のインパルス放電試験については詳述する。
【0027】
(A)の巻線抵抗試験では、固定子巻線1の温度を測定し、その後、U相電源端子7、V相電源端子8、W相電源端子9の2端子間の巻線抵抗を測定し、基準値と比較することが行われる。この試験では、各相巻線3,4,5の接続部異常、巻線パラ本数異常、巻線ターン数異常などを検出することができる。
【0028】
(B)のインパルス試験では、電源端子7,8,9の2端子間、つまり、U相電源端子7−V相電源端子8間、V相電源端子8−W相電源端子9間、W相電源端子9−U相電源端子7間の夫々に関して、インパルス電圧を印加し、その際の応答電圧波形から、各相の巻線3,4,5における短絡(レアショート)を検出するものである。この試験では、予め、正常な巻線に関しての応答波形を調べて記憶しておき、試験品とその正常品との電圧波形のずれから各相の巻線3,4,5のレアショートの有無を検証することができる。
【0029】
(D)の絶縁抵抗・耐圧試験では、まず、各相巻線3,4,5と、固定子鉄心2との間に、直流高電圧(500V或いは1000V)を印加し、吸収電流の落ち着いた時点(例えば30秒後)における漏れ電流値を測定し、絶縁抵抗を算出することが行われる。その絶縁抵抗を、予め設定されたしきい値と比較することにより、対地間の絶縁異常の有無を確認することができる。引続き、各相巻線3,4,5と固定子鉄心2との間の耐電圧測定が実行される。ここでは、各相巻線3,4,5の電源端子7,8,9に、例えば交流2kV程度の高電圧を1分間印加し、そのときの漏れ電流が測定される。漏れ電流の電流値を、予め設定されたしきい値と比較することにより、対地間の絶縁異常が検出される。
【0030】
(E)の対地間部分放電試験では、各相巻線3,4,5と固定子鉄心2との間に、交流電圧を印加し、部分放電の発生の有無を確認することが行われる。この試験では、上記耐電圧試験で検出できなかった対地絶縁の損傷等を検出することができる。
【0031】
さて、上記(C)のインパルス放電試験について、図2及び図4も参照して述べる。このインパルス放電試験は、各相巻線3,4,5の二相間にインパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を確認することにより、各相巻線3,4,5の異相間の絶縁異常(相間絶縁紙6の抜け)を検出しようとするものである。この試験は、各相巻線3,4,5の異相間に相間絶縁紙6の抜けがあった場合には、各相巻線3,4,5間の素線同士の接触が生ずるため、インパルス電圧の印加に伴い異相間の巻線3,4,5に分担される電圧によって部分放電が発生することに基づくものである。
【0032】
図2は、このインパルス放電試験の様子を概略的に示すものである。インパルス放電試験には、インパルス電圧印加装置10、及び、部分放電検出装置11が用いられる。本実施例では、部分放電検出装置11は、ギガヘルツ帯の電磁波を検出する電磁波アンテナ11aと、この電磁波アンテナ11aに接続された部分放電検出回路11bとを備えて構成される。
【0033】
図2に例示するように、インパルス電圧印加装置10の2本の出力端子が電源端子7,8,9のうち2つに接続され(図ではU相電源端子7−V相電源端子8間)、電磁波アンテナ11aが各相巻線3,4,5に接近された状態で、インパルス電圧が印加される。その際に部分放電の発生があると、電磁波アンテナ11aにより電磁波が検出されるので、部分放電の発生を、部分放電検出装置11により短時間で感度良く検出することができ、また周囲のノイズの影響を受けにくいものとなる。これにより、相間絶縁紙6の抜け等の相間絶縁不良を容易に検証することができる。
【0034】
このとき、インパルス電圧印加装置10により印加されるインパルス電圧については、相間絶縁紙6の抜けによる異相間の巻線3,4,5の素線同士の接触を検出することができる大きさとする必要があるが、電圧が高すぎると、健全な巻線3,4,5にダメージを与えてしまったり、特に電源端子7,8、9側に近い巻線部分同士間(例えば単位コイル3a1と単位コイル4a1との間等)での分担電位による放電発生により健全な巻線を異常と判断したりする虞がある。
【0035】
そこで、この際のインパルス電圧を設定するにあたっては、図4に示すように、予めインバータの実運転時における異相間サージ分担電圧を測定しておき、そのサージ電圧にてエナメル線接触により放電する可能性のある巻線部分を確認しておくことができる。図4の例では、横軸が巻線の位置(左が電源端子側で、右へ行くほど中性点側に近くなる)を示し、縦軸が端子電圧に対する分担比率を示している。太い破線で囲んだ部分が、放電発生領域(例えばサージ電圧が600V以上)を示している。そのサージ電圧(例えば600V)で、放電が発生する巻線部分までの異相間接触が、インパルス電圧の印加により放電発生として検出できる電圧(例えば3000V)を設定することによって、必要最低限のインパルス印加電圧を設定することができる。
【0036】
また、上記したインパルス電圧の印加は、まず、U相電源端子7をプラス側、V相電源端子8をマイナス側とし、次に、V相電源端子8をプラス側、W相電源端子9をマイナス側とし、次に、W相電源端子9をプラス側、U相電源端子7をマイナス側として行う。この後、夫々の逆相、すなわち、U相電源端子7をマイナス側、V相電源端子8をプラス側とし、次に、V相電源端子8をマイナス側、W相電源端子9をプラス側とし、次に、W相電源端子9をマイナス側、U相電源端子7をプラス側として行うといった順とすることができる。これにより、異相間分担電圧を極力均等とすることができる。
【0037】
このように本実施例によれば、三相巻線3,4,5の中性点N1,N2の接続後であっても、巻線3,4,5の二相間にインパルス電圧を印加した際に、相間絶縁紙の抜けといった絶縁不良があった場合には、部分放電が発生することに基づき、固定子巻線1の製造工程の最終段階の電気的試験の工程(ステップ106)において、巻線3,4,5の二相間にインパルス電圧を印加して部分放電の発生を監視するインパルス放電試験を実行するようにした。
【0038】
従って、異相の巻線3,4,5間での相間絶縁異常を確認するための絶縁試験を、巻線3,4,5の中性点N1,N2の接続後にも行うことができ、ひいては固定子巻線1の信頼性を高めることができるという優れた効果を得ることができる。この場合、異相間の絶縁試験の後に巻線の中性点の接続を行っていた従来のものと異なり、コイルエンド寸法の大形化を未然に防止できることは勿論である。
【0039】
また、特に本実施例では、インパルス放電試験におけるインパルス電圧を、予め回転電機の運転時における異相間サージ分担電圧を測定しておき、そのサージ電圧にてワイヤ接触があった場合に放電が発生する可能性のある巻線3,4,5部分を確認しておき、当該巻線3,4,5部分における放電発生の検出が可能な必要最低限の大きさの電圧となるように設定したので、インパルス放電試験における印加電圧を適切なものとすることができ、インパルス放電試験による巻線損傷を最小限とすると共に、運転時のインバータサージによる巻線3,4,5の損傷を発生させずに済ませることができる。
【0040】
さらに本実施例では、部分放電検出装置11を、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナ11aを用いて、部分放電の発生に伴う電磁波の発生を検出するように構成したので、インパルス放電試験を行うにあたり、部分放電の発生を感度良く検出でき、また周囲のノイズの影響を受けにくいものとなる利点を得ることができる。
【0041】
(2)第2、第3の実施例、その他の実施例
図5及び図6は、本発明の第2の実施例を示すものである。この第2の実施例が上記第1の実施例と異なる点は、インパルス放電試験に用いる部分放電検出装置21の構成にある。即ち、図5に示すように、この部分放電検出装置21は、高周波電流プローブ21a、バンドパスフィルター21b、放電検出回路21cを備えて構成されている。そのうち高周波電流プローブ21aは、インパルス電圧印加装置10の電圧印加ラインに流れる電流を検出するように設けられるようになっている。
【0042】
このとき、高周波電流プローブ21aにより検出される電流は、インパルス電圧の印加に伴う電流と、部分放電の発生に伴う高周波電流とが含まれるが、バンドパスフィルター21bによりそれらが分離される。そして、放電検出回路21cにより、部分放電の発生に伴う電流が検出される。
【0043】
これにより、上記第1の実施例と同様に、ワニス処理前(中性点N1、N2の接続後)の固定子巻線1に対し、インパルス電圧印加装置10により各相巻線3,4,5の二相間(例えばU相電源端子7とV相電源端子8との間)にインパルス電圧を印加し、部分放電検出装置21によってその際の部分放電の発生の有無を確認することにより、各相巻線3,4,5の異相間の絶縁異常(相間絶縁紙6の抜け)を検出するインパルス放電試験を実行することができるのである。
【0044】
図6は、このインパルス放電試験において検出される電流波形の例を示しており、(a)は相間絶縁が正常に行われている健全品、(b)は例えばU相巻線3とV相巻線4との間の相間絶縁紙6の抜け等がある異常品の場合を示している。相間絶縁に問題がなければ、(a)のように高周波電流が検出されることはない。ところが、U相巻線3とV相巻線4との間に絶縁異常がある場合には、部分放電の発生に伴い高周波電流の電流波形が観測されるようになり、これにて、異相間の絶縁異常を検出することが可能となる。
【0045】
このような第2の実施例によっても、上記第1の実施例と同様に、異相の巻線3,4,5間での相間絶縁異常を確認するための絶縁試験を、巻線3,4,5の中性点N1,N2の接続後にも行うことができ、ひいては固定子巻線1の信頼性を高めることができるという優れた効果を得ることができる。また、インパルス放電試験を行うにあたり、運転時のインバータサージが高い場所である、巻線3,4,5の電源端子7,8,9に近い部分の部分放電を、感度良く検出することができる。
【0046】
最後に、図示はしないが、本発明の第3の実施例について述べる。この第3の実施例においては、インパルス放電試験において、インパルス電圧印加装置10により印加するインパルス電圧を、低圧(例えば1kV)から高圧(例えば4kV)まで所定刻み幅(例えば数100V刻み)で段々と上昇させていく。そして、部分放電が発生した場合の電圧と、予めテスト用巻線に関して測定された放電開始電圧とを比較することに基づいて、巻線3,4,5のうち異常部分を想定できるようになっている。
【0047】
この場合、各相の巻線3,4,5が夫々k個(例えば4個)の単位コイルを直列接続して構成されている場合に、予め、異相間の絶縁状態が正常なもの、及び、各相の巻線3,4,5を構成する単位コイル3a,4a、5aのうち電源端子7,8,9側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイル3a,4a、5aに夫々絶縁異常を模擬的に生じさせておいた複数のテスト用巻線を作製し、放電の発生する電圧を測定できる装置を用いて、それら各テスト用巻線に対し夫々の放電開始電圧を測定し記憶しておく。これにより、インパルス放電試験において、巻線3,4,5の相間絶縁が健全かどうか、さらには異常があった場合に、巻線3,4,5のどの単位コイル3a,4a、5a部分で絶縁異常があるかを十分な確かさで想定することが可能となる。
【0048】
尚、本発明は、上記し且つ図面に示した各実施例に限定されるものではなく、例えば次のような拡張、変更が可能である。即ち、上記第1の実施例では、ステップ106の電気的試験の工程において、全部で5種類の試験を行うようにしたが、(C)のインパルス放電試験を除く残りの4つ(A、B、D、E)の試験については、必ずしも全て行う必要はなく、必要に応じて一部のみ行うようにしても良い。同様に、ステップ104の部分放電試験についても、必要に応じて行うようにすれば良い。
【0049】
また、本発明においては、インパルス放電試験に用いられる部分放電検出装置を、ギガヘルツ帯の電磁波アンテナを用いた部分放電の発生に伴う電磁波の発生の検出と、電圧印加ラインに設けた高周波電流プローブを用いた部分放電の発生に伴う高周波電流の検出とを同時に行うような構成とすることもでき、これにより、インパルス放電試験における部分放電の検出の信頼性を、より一層高めることができる。
【0050】
そして、本発明においては、インパルス放電試験について、上記した複数の試験方法(各請求項2〜5に記載されたインパルス放電試験)を組合せて行うようにしても良い。例えば、「規定のインパルス電圧を印加する方法」と、「インパルス電圧を低圧から次第に高圧に上昇させながら印加する方法」とを併せて試験することもできる。その他、巻線の具体的構成(単位コイルの個数)やインパルス電圧などの具体的数値についても、一例を示したに過ぎない等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の第1の実施例を示すもので、固定子巻線の製造工程を概略的に示す図
図2】インパルス放電試験の様子を概略的に示す図
図3】三相巻線の等価回路を示す図
図4】巻線の位置と分担電位との関係を、放電発生領域と共に示す図
図5】本発明の第2の実施例を示すもので、図2相当図
図6】インパルス放電試験における、健全品(a)及び絶縁異常があった場合(b)のインパルス電圧波形に対する放電検出波形の例を示す図
図7】従来例を示す図1相当図
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は固定子巻線(回転電機巻線)、2は固定子鉄心(鉄心)、3,4,5は三相巻線、6は相間絶縁紙、7,8,9は電源端子、10はインパルス電圧印加装置、11,21は部分放電検出装置、11aは電磁波アンテナ、21aは高周波電流プローブ、N1,N2は中性点を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7