(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、液圧転写印刷として用いるものであり、そのフィルムの膜厚は20〜50μmが一般的であり、好ましくは23〜47μm、特に好ましくは25〜45μmである。フィルム厚みが上記範囲より薄すぎると印刷フィルムの膨潤が速く転写に不向きとなり、上記範囲より厚すぎると転写物にフィルムが残留したり、転写浴における水中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の上昇が速く排水負荷が大きくなる。
【0011】
また、本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、特定のフィルム特性を有するものであることが必要であり、その特定のフィルム特性とは、フィルムの幅方向に対して、一方の端部から全幅の30%以内の領域(S
1)及び他方の端部から全幅の30%以内の領域(S
2)におけるフィルム表面のたわみ率(T)(%)がそれぞれ3%以下、好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2%以下、特に好ましくは1.5%以下である。かかるフィルム表面のたわみ率(T)が上記範囲を超えると意匠の印刷加工の際、シワ入りの原因となり加工生産性に支障をきたすこととなる。なお、かかるフィルム表面のたわみ率(T)の下限値は通常0.1%である。
【0012】
また、本発明では、フィルムの幅方向に対して、一方の端部から全幅の30%以内の領域(S
1)及び他方の端部から全幅の30%以内の領域(S
2)以外の他の領域(S
3)におけるフィルム表面のたわみ率(T)(%)も3%以下であることが、印刷適正の点で好ましく、より好ましくは2.5%以下、特に好ましくは2%以下である。かかるフィルム表面のたわみ率(T)が上記範囲を超えると水溶性フィルムへの意匠の印刷加工時にシワが入り印刷不良となる傾向がある。なお、かかるフィルム表面のたわみ率(T)の下限値は通常0.1%である。
【0013】
なお、本発明において、フィルム表面のたわみ率(T)は以下のように測定される。
即ち、23℃×50%RHの環境下、所定幅(w)のベースフィルム(以下、単にフィルムともいう)を巻いたロールサンプルからフィルムを巻き出し、巻き出したフィルムを2m離れて同じ高さに設置した水平な2本のガイドロール(直径120mm)の上を通過させた後巻き取る装置において、フィルムを巻き出してから任意の長さのところで、フィルム幅1mあたり1kgの張力をかけて2本のガイドロールの上で一旦静止させ、その時に、
図1に示すように、ガイドロール上をフィルム1が通る高さを基準にして、ガイドロール間で、フィルム1の領域(S
1)、(S
2)及び(S
3)のそれぞれにおいて、各領域中の一番垂れ下がっている部分までの高低差の最大値(h)を測り、その距離を基にたわみ率を以下のように算出する。なお、高低差を測定するにあたっては、フィルム1上を幅方向で水平に超音波式変位センサー(キーエンス社製UD−300)を走行させて検出する。また、流れ方向のセンサー設置位置は2本のガイドロールから等しい距離となる中央部とする。
【0014】
たわみ率(T)(%)=100×h/w
h:フィルム1中の一番垂れ下がっている部分までの高低差の最大値(mm)
w:フィルム幅(mm)
【0015】
また、本発明において、上記フィルム幅(w)とは、製造直後におけるフィルム幅、製造後に各製品サイズに端部をスリットした後のフィルム幅のいずれも含める意味であるが、好ましくは端部をスリットした後のフィルム幅であることが印刷適性の点から有利である。
このときスリットされる端部は通常、製造直後のフィルム全幅に対して2〜50%、特に好ましくは5〜30%であり、スリットされる端部は片方のみでもよいが通常は両端部がスリットされる。
【0016】
上記の如く本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは以下の通り製造される。
即ち、本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とし、好ましくは可塑剤を含有してなるフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなるものである。なお、本発明において、上記「主成分とし」とは、フィルム形成材料が主成分のみからなる場合も含める趣旨である。
【0017】
上記PVA系樹脂は、単独のみならず必要に応じて2種以上混合して用いてもよい。また、未変性であっても変性であってもよく、変性の場合は、主鎖中に本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば10モル%以下、好ましくは7モル%以下の範囲において、他の単量体を共重合させることができる。
【0018】
上記他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。これらの他の単量体は、単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0019】
また、PVA系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることも好ましく、かかる側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(ア)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(イ)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(ウ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(エ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0020】
本発明では、上記PVA系樹脂の4重量%水溶液の20℃における平均粘度が、10〜70mPa・sの範囲であることが好ましく、15〜60mPa・sの範囲であることがより好ましい。かかる4重量%水溶液の平均粘度が低すぎると、ベースフィルムに意匠(パターン,柄等)を印刷する際のフィルム強度が不足するため印刷斑が発生する傾向がみられ、また、ベースフィルムの溶解が促進されて転写時間が短くなるという問題が生じたり、水に浮かべた際のフィルムに印刷された意匠が安定せず、付き廻り性が低下したりするという傾向がみられる。一方、4重量%水溶液の平均粘度が高すぎると、印刷された意匠の被転写体への転写時に被転写体と本発明のベースフィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)との密着性が低下して、皺や剥離が発生する傾向がみられたり、また、水面での膜の伸展を抑制することはできるが、転写時間が遅延する他に粘度が高く製膜が困難となる傾向がみられる。なお、上記4重量%水溶液の20℃における平均粘度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0021】
さらに、上記PVA系樹脂の平均ケン化度が、通常70〜98モル%の範囲であることが好ましく、より好ましくは75〜96モル%の範囲である。かかるPVA系樹脂の平均ケン化度が低すぎると、転写後のベースフィルムの溶解に長時間を要する傾向がみられ、高すぎると、ベースフィルムの溶解時間が遅延し、転写時の膜強度が高いために転写時に折れ皺が発生したり、転写がなされたとしても脱膜不良となる傾向がみられる。なお、上記ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0022】
上記可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパンなどがあげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0023】
上記可塑剤の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、更には5重量部以下、特には0.05〜4重量部であることが好ましい。上記可塑剤の含有量が多すぎると、フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く、高精細な印刷が困難となる傾向がみられる。なお、上記範囲より少なすぎると、可塑効果が低く、得られるベースフィルムの破断の原因となる傾向がある。
【0024】
上記フィルム形成材料には、上記PVA系樹脂および可塑剤以外に、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0025】
例えば、ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として、界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0026】
上記界面活性剤の含有量については、PVA系樹脂と可塑剤の合計100重量部に対して通常0.01〜5重量部であることが好ましく、0.03〜4.5重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ、逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられる。
【0027】
さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、無機粉末(二酸化ケイ素等)、有機粉末(澱粉、ポリメチルメタクリレート等)、さらには他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等を添加しても差し支えない。
【0028】
本発明のベースフィルムは、例えば、つぎのようにして製造される。まず、上記PVA系樹脂、可塑剤等の各原料を所定の配合量にて配合し、フィルム形成材料を調製する。フィルム形成材料は、通常、水に溶解または分散され、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜35重量%に調製され、製膜工程に供給される。つぎに、Tダイからフィルム形成材料を製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延させ、乾燥させることによりフィルム状化させ、好ましくはさらに熱処理することにより製造される。
【0029】
上記熱処理の方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、熱ロール(カレンダーロールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等の方法があげられる。また、熱処理される面は、製膜ベルトまたは製膜ドラムに接する面と反対側となる面が好ましいが、ニップしても問題はない。また、熱処理を施すフィルムの水分含有量は、通常、4〜8重量%程度であることが好ましい。さらに、熱処理された後のフィルムの水分含有量は通常、3〜7重量%であることが好ましい。
【0030】
より詳しく述べると、上記製膜ベルト、または製膜ドラムのうち製膜第一ドラムから剥離した後巻き取るまでに、表面温度50〜140℃、好ましくは60〜130℃の熱処理ロールを1本以上通すことが好ましい。ここで、上記製膜ベルトとは、一対のロール間に架け渡されて走行する無端ベルトを有し、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を無端ベルト上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記無端ベルトは、例えば、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げが施されているものが好ましい。
【0031】
また、上記製膜第一ドラムとは、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を1個以上の回転するドラム型ロール上に流延し乾燥させる製膜機における最上流側に位置するドラム型ロールである。
【0032】
そして、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムから剥離した後巻き取るまでとは、Tダイ等から吐出されたフィルム形成材料が製膜ベルト上あるいは製膜第一ドラム上において乾燥されフィルム状になり、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムから剥離され、好ましくは熱処理機を経て、巻き取り機により巻き取られるまでの過程を示す。
【0033】
上記熱処理機による熱処理は、通常50〜140℃で行うことが好ましく、より好ましくは60〜130℃である。上記熱処理の温度が低すぎると、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムに接する面のカールが強く、印刷および転写工程で不具合となる傾向がみられ、熱処理の温度が高すぎると、転写後のベースフィルムの水溶性が低下してしまう傾向がみられる。さらに、上記熱処理に要する時間は、熱処理ロールの表面温度にもよるが、通常0.5〜15秒間に設定することが好ましい。上記熱処理は、通常、フィルム乾燥のための乾燥ロール処理に引き続き、別体の熱処理ロールにて通常行われる。
【0034】
かくしてベースフィルムが得られるが、本発明においては上記の通り特定のフィルム特性を有するものでなければならない。
【0035】
上記たわみ率(T)を有するベースフィルムを得るためには、均一なフィルム表面にすることが重要であり、例えば、(1)フィルム形成材料が製膜ベルト上あるいは製膜第一ドラム上に流延され乾燥されてフィルム状になった後に製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムから剥離される際に、剥離応力が均一となるように剥離する方法、(2)フィルム形成材料を水により溶解または分散する際に、水中の金属成分、例えば、ケイ素、カルシウム、ナトリウム等の少ない水を用いる方法、などにより行われる。
【0036】
具体的には、(1)の場合では、例えば、剥離速度を調整することが重要であり、キャスト面の速度に対して剥離の速度を1.1倍以下にすることが好ましく、より好ましくは1.08倍以下、特に好ましくは1.06倍以下である。剥離速度を遅くすれば剥離応力が下がり、たわみ率は小さくなる傾向にあり好ましいが、剥離速度を速くしすぎると剥離性に無理を来すこととなり、剥離応力が上昇して、たわみ率が高くなる傾向となる。
【0037】
また、(2)の場合では、例えば、水中の金属成分が100ppm以下の水を用いることが好ましく、より好ましくは80ppm以下、特に好ましくは60ppm以下である。かかる金属成分としてケイ素を含む場合、ケイ素の含有量が100ppm以下、特には75ppm以下、更には50ppm以下、殊には5ppm以下である水を用いることが好ましい。かかる金属成分の含有量が多すぎると、フィルムを連続製膜する場合に水中のケイ素やカルシウム、ナトリウム等の金属成分が原因でロール表面に不純物被覆が発生することとなり、それが剥離応力の上昇を招きたわみ率が高くなる傾向となる。ここで、上記の水としては、例えば、イオン交換水や蒸留水等が挙げられる。なお、水中の金属成分、特にケイ素などは可能な限り少ないほうが好ましい。
【0038】
更に本発明においては、ベースフィルムの水分率が、2〜6重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜5重量%である。水分率が小さすぎると、転写時にフィルムがカールする傾向があり、水分率が大きすぎると、カールは小さくなるが印刷などの実使用上で印刷の見当ずれなどの不具合を生じる傾向がある。なお、ベースフィルムの水分率は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定することができる。
【0039】
上記ベースフィルムの水分率の調整方法としては、例えば、下記に示す方法があげられる。すなわち、下記に示す水分率の調整方法に従い、上記範囲内のベースフィルムの水分率に設定することが可能となる。
【0040】
(1)PVAを溶解したドープを乾燥して製膜する際の乾燥機温度を上下させてベースフィルムの加湿・除湿を行う方法により水分率の調整を行う。ドープの温度は、その温度により乾燥効率に対して影響を及ぼすため、70〜98℃の範囲内にて調整する。また、乾燥に際しては、好ましくは150〜50℃の間で、より好ましくは145〜60℃の間で温度勾配を有する少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中にて、1〜12分間、より好ましくは1〜11分間乾燥を行うことが水分調整という観点から好ましい。
【0041】
上記乾燥温度の勾配範囲が大きすぎたり、乾燥時間が長すぎたりすると、乾燥過多となる傾向があり、逆に乾燥温度の勾配範囲が小さすぎたり、乾燥時間が短すぎたりすると、乾燥不足となる傾向がある。
【0042】
上記温度勾配は、150〜50℃の間で段階的に乾燥温度を変えていくものであり、通常は、乾燥開始時から温度を徐々に上げていき、所定の含水率になるまで一旦設定した乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることにより最終的に目的とする含水率とすることが効果的である。これは結晶性や剥離性、生産性等を制御するために行われるものであり、例えば、120℃−130℃−115℃−100℃、130℃−120℃−110℃、115℃−120℃−110℃−90℃等の温度勾配設定があげられ、適宜選択され実施される。
【0043】
(2)ベースフィルムの巻き取り前に調湿槽に通過させることによりベースフィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0044】
(3)ベースフィルムの巻き取り前に、熱処理を行うことによりベースフィルムの除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0045】
上記において製膜して得られたベースフィルム(原反フィルム)は、例えば、先に述べた水分率に変化が生じないように従来公知の防湿包装の処理を行い、10〜25℃の雰囲気下、宙づり状態にて保存することが好ましい。
【0046】
なお、本発明においては、必要に応じて、製膜後のフィルムに対して巻き取りを行う前にそのままフィルム端部を製品サイズにスリットした後巻き取る(オンラインスリット)か、あるいは、一旦製膜後のフィルムを巻き取った後に再度巻き出し製品サイズにフィルム端部をスリットし巻き取る(オフラインスリット)かするなどして、フィルムロールとして上記の通り宙づり保存される。
【0047】
上記で得られる製膜後(スリット前)のフィルム幅としては、製品サイズの大きさ等により適宜選択されるが、通常は300〜4000mmであることが製品スリット得率の点で好ましく、特には500〜3000mm、更には700〜2000mmであることが好ましい。
更に、フィルム全体のフィルム長さとしては、通常500m以上、特には700m以上、更には1000m以上であることがフィルムを使用する効率の点で好ましい。なお、フィルム長さの下限としては通常100mである。
【0048】
また、本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、液圧転写印刷として用いるものであり、そのフィルムの膜厚は20〜50μmが一般的であり、好ましくは23〜47μm、特に好ましくは25〜45μmである。フィルム厚みが上記範囲より薄すぎると印刷フィルムの膨潤が速く転写に不向きとなる傾向があり、上記範囲より厚すぎると転写物にフィルムが残留したり、転写浴における水中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の上昇が速く排水負荷が大きくなる傾向がある。
【0049】
次に、本発明のベースフィルムを用いて、意匠を印刷し、転写を行う方法について説明する。
本発明のベースフィルムを用いた液圧転写方法としては、連続方式による液圧転写方法、バッチ方式による液圧転写方法があげられる。
【0050】
まず、上記連続方式による液圧転写方法について述べる。
すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に1.25倍以下の規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして、固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0051】
一方、上記バッチ方式による液圧転写方法について述べる。
すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、上記連続方式と同様、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムに対して縦横それぞれの方向に1.25倍以下の縦横規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべる。そして、静止状態にて上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体に転写し充分に固着することにより液圧転写印刷が行われる。固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0052】
このような工程を経由する液圧転写方法により、ベースフィルム面に印刷された意匠を、被転写体に転写することができる。なお、上記ベースフィルム面に印刷される意匠としては、特に限定するものではなく、木目調,各種柄,画像等、印刷可能なものであればいかなるものであってもよい。
【0053】
上記意匠印刷面に塗工する活性剤としては、特に限定するものではなく、ベースフィルム面に印刷された意匠を再活性化しうる溶剤に樹脂を添加したもの等が用いられ、さらに体質顔料、可塑剤、硬化剤等を適宜に添加することができる。例えば、ブチルメタクリレートに、顔料、可塑剤、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテートを混合したものが用いられる。また、上記活性剤の塗工方法としては、グラビアロールやスプレーを用いた塗布方法があげられる。
【0054】
なお、上記意匠印刷面に活性剤を塗布する工程は、ベースフィルムを液面に浮かべる前であっても、液面に浮かべた後であってもいずれでもよく、意匠が印刷されたベースフィルム上方から被転写体を押し当てる前であれば特に制限されることはない。
【0055】
本発明の液圧転写方法における被転写体の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック成形体、金属成形体、木質成形体、ガラス等の無機質成形体等を用いることができる。さらに、その形状に関しても特に限定するものではなく、平面であっても各種立体形状を有していてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「%」、「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0057】
以下の通り評価を行った。
〔たわみ率(T)(%)〕
23℃×50%RHの環境下、所定幅(w)のフィルムを巻いたロールサンプルからフィルムを巻き出し、巻き出したフィルムを2m離れて同じ高さに設置した水平な2本のガイドロール(直径120mm)の上を通過させた後巻き取る装置において、フィルムを巻き出してから任意の長さのところで、フィルム幅1mあたり1kgの張力をかけて2本のガイドロールの上で一旦静止させ、その時に、
図1に示すように、ガイドロール上をフィルム1が通る高さを基準にして、ガイドロール間で、フィルム1の領域(S
1)、(S
2)及び(S
3)のそれぞれにおいて、各領域中の一番垂れ下がっている部分までの高低差の最大値(h)を測り、その距離を基にたわみ率を以下のように算出する。なお、高低差を測定するにあたっては、フィルム1上を幅方向で水平に超音波式変位センサー(キーエンス社製UD−300)を走行させて検出する。また、流れ方向のセンサー設置位置は2本のガイドロールから等しい距離となる中央部とする。
【0058】
たわみ率(T)(%)=100×h/w
h:フィルム1中の一番垂れ下がっている部分までの高低差の最大値(mm)
w:フィルム幅(mm)
【0059】
〔水分率〕
得られたベースフィルムの水分率を、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定した。
【0060】
〔印刷適性〕
得られた転写印刷用ベースフィルムの表面に転写用の意匠(パターン、柄)を印刷したときに、かかるフィルムの外観を目視観察し、以下の通り評価した。
○・・・外観不良なし
×・・・シワあり
【0061】
〔実施例1〕
4%水溶液粘度26mPa・s(20℃)、平均ケン化度88モル%のPVA100部に、可塑剤としてグリセリン2部、澱粉5部、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得た。そして、上記水分散液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により、10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させ、PVAフィルムを得た後、フィルム両端部をスリットし、ベースフィルムを2週間連続して作製した(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:300m毎に巻き替え、フィルム膜厚:30μm)。なお、上記で使用した水はイオン交換水(モリブデンブルー法により測定されるケイ素含有量:0.01ppm以下)であり、ベルト表面には不純物被覆のない清面で製膜時のフィルム剥離に必要な張力は1kg/m、キャスト面の速度に対して剥離の速度が1.04倍であった。また、領域(S
1)のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%、領域(S
2)のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%、領域(S
3)のフィルム表面のたるみ率(T)は0.5%であり、水分率は3.5%であった。
得られたベースフィルムを用いて、印刷適性の評価を行った。
【0062】
〔実施例2〕
4%水溶液粘度26mPa・s(20℃)、平均ケン化度88モル%のPVA100部に、可塑剤としてグリセリン2部、二酸化ケイ素2部、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得た。そして、上記水分散液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により、10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させ、PVAフィルムを得た後、フィルム両端部をスリットし、ベースフィルムを2週間連続して作製した(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:300m毎に巻き替え、フィルム膜厚:40μm)。なお、上記で使用した水はイオン交換水(モリブデンブルー法により測定されるケイ素含有量:4ppm)であり、ベルト表面には不純物被覆のない清面で製膜時のフィルム剥離に必要な張力は2kg/m、キャスト面の速度に対して剥離の速度が1.06倍であった。また、領域(S
1)のフィルム表面のたわみ率(T)は2%、領域(S
2)のフィルム表面のたわみ率(T)は2%、領域(S
3)のフィルム表面のたるみ率(T)は0.5%であり、水分率は3.8%であった。
得られたベースフィルムを用いて、印刷適性の評価を行った。
【0063】
〔比較例1〕
実施例1において、剥離速度を30m/minに変更し、剥離に必要な張力を5kg/mとした以外は同様に行い、ベースフィルムを得た。なお、上記で使用した水はイオン交換水(モリブデンブルー法により測定されるケイ素含有量:0.01ppm)であり、ベルト表面には不純物被覆のない清面で製膜時のフィルム剥離に必要な張力は5kg/mであった。また、領域(S
1)のフィルム表面のたわみ率(T)は4%、領域(S
2)のフィルム表面のたわみ率(T)は4%、領域(S
3)のフィルム表面のたわみ率(T)は1%であり、水分率は4.5%であった。
得られたベースフィルムを用いて、印刷適性の評価を行った。
【0064】
〔比較例2〕
実施例1において、イオン交換水を井戸水に変更した以外は同様に行い、ベースフィルムを得た。なお、上記で使用した水は無機物、特にケイ素を40ppm含む水(モリブデンブルー法により測定)であり、ベルト表面には水中の金属成分による不純物被膜があり、製膜時のフィルム剥離に必要な張力は4kg/mであった。また、領域(S
1)のフィルム表面のたわみ率(T)は4.5%、領域(S
2)のフィルム表面のたわみ率(T)は4.5%、領域(S
3)のフィルム表面のたわみ率(T)は1%であり、水分率は3.5%であった。
得られたベースフィルムを用いて、印刷適性の評価を行った。
【0065】
上記実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記表1の結果から、実施例では、ベルト面の不純物被覆もないため、剥離に必要な張力も小さく、フィルム表面のたわみ率も3%以下であり、印刷時のシワ入りなどの不具合は見られなかった。これに対して、比較例1では、製膜速度以外を実施例と同様の条件で行ったところ、製膜速度が速すぎると剥離に必要な張力は大きく、結果としてフィルム表面のたわみ率は大きな値を示した。また、比較例2では、ベルト面に不純物被覆がある以外を実施例と同様の条件で行ったところ、フィルムの剥離性が低下して、結果としてフィルム表面のたわみ率は大きな値となった。そのため、意匠の印刷時にシワが入る等の不具合が発生して満足な印刷加工を行うことができなかった。従って、比較例品では、転写印刷用ベースフィルムとして実用に供することはできないものであった。