【実施例1】
【0018】
実施例1による垂直磁気記録ヘッド1の構成について説明する。
図1A及び
図1Bは記録ヘッドを構成する主要部の拡大図である。
図1Aは記録媒体に対面する浮上面から見た図、
図1Bは
図1AのX−X線断面図であり、主磁極11の中心での断面図である。主磁極11は浮上面100に伸張し、その断面は逆台形である(主磁極の両側にテーパを有する)。主磁極11の上部(トレーリング側)に非磁性膜19−1が、両側に非磁性膜19−2が設けられている。これら非磁性膜を介して磁気シールド60が設けられている。磁気シールド60の上部は第1磁性膜となる補助磁極17と磁気的に接続されている。磁気シールド60の奥行き方向には、飽和磁束密度の異なる軟磁性膜が連接されて設けられており、浮上面98に露出して高い飽和磁束密度の第1軟磁性膜12が設けられ、第1非磁性膜となる非磁性膜13を介して浮上面から後退した位置に相対的に低い飽和磁束密度の第2軟磁性膜14が設けられている。記録トラック幅は、主磁極11の上部(トレーリング側エッジ)で規定される。
【0019】
本実施例では第1軟磁性膜12の奥行き方向の長さを50nm、非磁性膜13の長さを1nm、第2軟磁性膜14の長さを100nmに設定した。従って、磁気シールド60のトータルの奥行き方向の長さは約150nmである。第1軟磁性膜12の奥行き方向の長さは、第2軟磁性膜14の長さに比べ短く設定されている。このシールド構成は記録磁界の勾配を急峻化する為のものであり、第1軟磁性膜12の奥行き方向の長さが、第2軟磁性膜14の長さの50%以下のときに記録磁界勾配急峻化の効果があり、50%を超えると高い飽和磁束密度の第1軟磁性膜の単層膜に近くなり、記録磁界勾配急峻化の効果が不十分になる。なお、非磁性膜13は、スパッタ法により成膜した。非磁性膜13を導電性金属膜とした場合、第2軟磁性膜14を形成する際のメッキシード層を兼ねることができることは容易に理解される。また、第1軟磁性膜12の形成後に、酸化処理をすることにより非磁性膜13を形成することもできる。
【0020】
図1Bには主磁極11に磁束を誘導するための上部コイル18−2が、非磁性膜19−1及び第2非磁性膜となる非磁性膜20を介して配置される様子を示す。特に非磁性膜20の端部は浮上面98から後退した位置に設定されており、磁気シールド60の後端側が非磁性膜20を乗り上げた構成となっている。また、補助磁極17と上部コイル18−2との間には絶縁を確保する目的で絶縁膜21が設けられる。
【0021】
図4に上記主要部を含めた垂直磁気記録ヘッド1の断面図を示す。記録ヘッド10及び再生ヘッド40はスライダ基板30上に形成される。再生ヘッド40はスライダ基板30上に設けられた絶縁層(下地層)31を介して、下部シールド32、上部シールド33、磁気情報を検出する再生素子50から基本的に構成される。
【0022】
記録ヘッド10は、非磁性層15により再生ヘッド40と分離される。既に
図1A及び
図1Bに示したように、主磁極11の3方には非磁性膜19−1及び非磁性膜19−2を介して第1軟磁性膜12、第1非磁性膜13、第2軟磁性膜14、が存在する。第1軟磁性膜12、第2軟磁性膜14は閉磁路を形成するための補助磁極17と磁気的に接続される。補助磁極17はその後端で第2磁性膜となる磁性膜16と磁気的に接続され、更に磁性膜16と主磁極11は磁気的に接続される。これらから構成される閉磁路内に上部コイル18−2が配置される。但し、磁性膜16を設けなくても、主磁極11の後端と補助磁極17の後端を磁気的に接続することはできるので、磁性膜16は省略することができる。
【0023】
主磁極11に効率良く磁束を導入させる目的で本実施例では、補助磁極17と平行に下部補助磁極42を設けた。下部コイル18−1は下部補助磁極42と磁性膜16間に設けられ、上部コイル18−2と両端部が接続されて、主磁極11及び磁性膜16に対してスパイラル状に巻かれる(本発明はヘリカル巻きコイル構成にも何ら問題なく適用可能であり、この場合、上下層コイルは螺旋状に接続される)。下部コイル18−1と下部補助磁極42及び磁性膜16との電気的な絶縁を確保する目的で、アルミナの絶縁膜22、23が設けられている。なお、非磁性膜19−1にはアルミナ膜を用い、非磁性膜20としては非磁性金属膜ないしは高分子樹脂膜を用いた。以上述べた全ての素子部を保護する目的で、非磁性かつ絶縁性の保護膜24として厚さ約25μmのアルミナ膜が被着される。
【0024】
下部コイル18−1、上部コイル18−2に電流が流れることにより磁性膜16及び主磁極11に磁束が発生し、主磁極先端部に収束する。この磁束は、記録媒体に流れ込むと同時に、第1軟磁性膜12と第2軟磁性膜14にも導かれる。記録媒体を通った磁束は補助磁極17と下部補助磁極42に戻る。下部補助磁極42は再生素子50への記録磁界の影響を弱める働きを有する。
【0025】
ここで、第1軟磁性層12と主磁極11との磁気的な空隙を形成する非磁性膜20は、主磁極11から発生する磁束の一部を補助磁極17に戻す量を決定するものである。すなわち、相対的に飽和磁束密度の低い第2軟磁性層14が非磁性膜20に乗り上げている構成を取ることで磁束は主に第1軟磁性層12を通過することになり、記録磁界の勾配を高めることになる。従って、上記実施例1の構成は、特許文献2で必要とされるコイル発熱と磁性膜のキュリー温度の制限を適用せずとも、常に浮上面側に磁束を収束させる機能を有する。
【0026】
上記実施例1では、主磁極11として飽和磁束密度2.4TのNiFeCo系合金を用いた。膜厚は概ね160nmとした。第1軟磁性膜12には、厚さ約400nm、奥行き約50nm、飽和磁束密度2.28TのNiFeCo系合金を用いた。第2軟磁性膜14としては厚さ約350nm、奥行き約100nm、飽和磁束密度1.68TのNiFe系合金を用いた。第1非磁性膜13には、厚さ約400nm、奥行き長1nmのCr系合金、Ti系合金又は酸化膜を用いた。補助磁極17としては、膜厚約1.2μmのNiFe系合金を用いた。磁性膜16には、膜厚約1.0μmのNiFe系合金を用いた。コイル18−1,18−2には、膜厚2μmの銅を用いた。下部補助磁極42には、膜厚約1.2μmのNiFe系合金を用いた。
【0027】
次に
図5を参照して、上記実施例において、強磁界、高磁界勾配が達成できる理由について説明する。
図5は、相対的に高い飽和磁束密度の第1軟磁性膜12の奥行き方向に厚さ1nmの第1非磁性膜13を介して相対的に低い飽和磁束密度の第2軟磁性膜14を配した場合の計算結果である。比較のため、磁気シールド60を相対的に低い飽和磁束密度の軟磁性膜(1.68T)で構成した計算結果を”normal”として合わせて示す。計算は、相対的に高い飽和磁束密度の第1軟磁性膜12として飽和磁束密度2.4Tを仮定し、奥行き方向の長さを25nm、50nm、100nmの3種類変化させたものについて行った例である。また、相対的に低い飽和磁束密度の第2の軟磁性膜14としては1.68Tを仮定し、第1非磁性膜13の奥行き方向の長さは1nmを仮定した。これらのトータルの奥行き方向の長さは約150nmに固定した。この調整は相対的に低い飽和磁束密度の第2軟磁性膜14の奥行き方向の長さを調整する事で行った。また、記録ギャップを構成する非磁性膜19−1の膜厚を25nm、第2軟磁性膜14が乗り上げる非磁性膜20の膜厚は50nm、端部位置は浮上面から50nmに固定した。
【0028】
図5の横軸Heff_T.C.は記録ヘッドのトラック幅中心での有効磁界の値、縦軸dHeff_T.C.はヘッド磁界勾配の値を示す。
図5の下部には記録ヘッドの有効磁界の最大値:Heffmaxと、磁界勾配の最大値dHeffmaxTrackCenterを示す。同表におけるdtHiBs-WASは相対的に高い飽和磁束密度の第1軟磁性膜12の奥行き方向の長さ、Thickness Mainpoleは主磁極11の膜厚、BevelAngleは主軸の両側に設けた傾斜角、TrailingGapは非磁性層19−1の膜厚、Twwは主磁極11の幅(逆台形の上部の幅)、tWASは磁気シールド60の膜厚、Height_RPは補助磁極17の浮上面での膜厚、SideGapは主磁極11と第1軟磁性膜12との距離(19−2)、Hymaxはヘッド磁界の垂直方向成分値を示す。この結果に着目すると、高飽和磁束密度の第1軟磁性層12を挿入した全てのケースは、有効磁界の最大値:Heffmaxが略同じ強度であるにも関わらず、破線で示す相対的に低い飽和磁束密度の軟磁性膜のみで構成した場合に比べ磁界勾配が高くなっていることが分かる。これは磁気シールド60を相対的に低い飽和磁束密度の軟磁性膜から主に構成することで高い記録磁界を得ると共に浮上面側に高飽和磁束密度膜を配する事で高い磁界勾配を得ることができたものである。
【0029】
また、本実施例の構成を採用した場合、dtHiBs-WASの変化に対する磁界勾配dHeffmaxTrackCenterの変化が少ない事が分かる。これは本実施例で得られる磁界勾配の改善が高飽和磁束密度の第1軟磁性膜12の奥行き長に強く依存しないためと言える。これにより、第1軟磁性膜12の奥行き長に精度を要求されないので、第1軟磁性膜12の後端は非磁性膜20の先端傾斜面に乗り上げて形成される。すなわち、第1軟磁性膜12の奥行き方向の長さにマージンをもたせることができる。この傾向は磁気ヘッドを製造する上で品質の安定化、歩留まりの観点で優れている。この効果は、高飽和磁束密度の第1軟磁性膜12を浮上面側に配置し、かつ後退する位置に非磁性膜を介して相対的に低い飽和磁束密度の第2軟磁性膜14を配置した本実施例の効果と言える。ちなみに磁気シールドの全体を高飽和磁束密度の単膜で構成した場合、最大磁界が約9KOeとなり、満足できる記録性能を得る事ができなかった。また、第1軟磁性膜12と第2軟磁性膜14を連続成膜した場合(非磁性膜13を介さない場合)、実際の素子では発生磁界がばらつき、素子歩留まりが低下した。この原因としては、第1軟磁性膜12と第2軟磁性膜14間の交換結合磁界の影響、結晶成長に絡む異方性磁界の影響等が考えられる。非磁性膜13を介することでこれらの影響が低減されたものと推定される(1nmの非磁性層による交換結合磁界の低減効果は、特に記録媒体の分野で良く知られるところである)。すなわち、非磁性膜13により、第1軟磁性膜12を通る磁束と第2軟磁性膜14を通る磁束は互いに独立して流れ、干渉しない(あるいは大幅に低減できた)ためと思われる。
【0030】
以上述べたように本実施例の構成では、磁気シールドの主体を相対的に低い飽和磁束密度の軟磁性膜から構成することで隣接する主磁極からの漏れ磁界を低減させ、この結果として高い記録磁界を得ると共に、浮上面側に高飽和磁束密度膜を配することで高い磁界勾配を実現している。また、非磁性膜20に相対的に低い飽和磁束密度の第2軟磁性膜14が乗り上げる構成とすることで、磁界勾配をさらに高めることができる。
【0032】
次に上記実施例による記録ヘッドを製造する素子工程の概略を
図6A〜
図6Lを用いて説明する。
図6Aは下部コイル形成後に非磁性膜23を成膜し、しかる後、第2磁性膜となる磁性膜16の形成後、主磁極11を成膜した状態である。
図6Bではこの上に端部に傾斜面を有する非磁性膜20と非磁性膜19−1を成膜する。
図6Cではこの上に第1軟磁性膜をめっき成膜するためのシード膜51を被着する。このシード膜51は非磁性膜19−1と兼ねる事も可能である。
図6Dではこの上に第1軟磁性膜を選択的に成膜するためのレジストパターン52を形成する。レジストパターンのエッジは非磁性膜20の端部を若干乗り上げた位置に設定されている。
図6Eではレジストパターン52をマスクに第1軟磁性膜層12を成膜する。
図6Fではレジストパターン52を除去した後、非磁性膜13を被着する。本素子工程ではこの非磁性膜13を導電性非磁性膜とすることで第2軟磁性膜成膜時のシード膜を兼ねさせた。
図6Gではこの上に第2軟磁性膜を選択的に成膜するためのレジストパターン55を形成した。
図6Hでは非磁性膜13に通電することで第2軟磁性膜14を形成した。
図6Iではレジストパターン55を除去すると共にシード膜として用いた非磁性膜13の不要部を除去した。しかる後、
図6Jに示すように非磁性膜21を設けることで上部コイルとの絶縁を図り、かつ、その上面をCMP(ケミカルメカニカルポリッシュ)法にて平滑化し、後の工程に備えた。
図6Kでは平滑面上に第1の磁性膜となる補助磁極17を形成した状態を示す。但し、
図6Kでは補助磁極17を模式的に示しているので、上部が平坦に見えている。以降は通常の磁気ヘッド製造工程と同じ工程を経て最終的に工程を終了する。
図6Lは全てのウエハ工程が完了した後に機械研磨法にて切り出されたABS98を想定した断面図を示す。浮上面98に露出する第1軟磁性膜12、非磁性膜13を介してその後端に第2軟磁性膜14が配されている様子が分かる。特に上記プロセスにて非磁性膜20の端部に乗り上げている第1軟磁性膜12の様子が分かる。また、上記プロセス特有の構成として第1軟磁性膜12をめっき成膜した際のシード膜51が浮上面側に残る点と非磁性膜13が第2軟磁性膜14の下部に残る点がある。シード膜51を高飽和磁束密度の磁性導電性膜とすることで第1軟磁性膜12と同じ機能を持たせることが可能である。また、シード膜51に非磁性導電性膜を用いた場合、非磁性層19−1と同じ機能を持たせられることは言うまでもない。また、非磁性膜13をあえて成膜することなく、第1軟磁性膜12の形成後にその後端壁を酸化処理し、第1軟磁性膜12と第2軟磁性膜14との間に非磁性膜13を存在させることもできる。この場合、非磁性膜13の厚さは概ね1nm程度となる。これが非磁性膜厚の最小の厚みと言える。
【0033】
また言うまでもなく、第2軟磁性膜下部の非磁性膜13の存在は、非磁性膜19−1の機能と同じであり、これらの膜の存在の有無は大きくその作成方法に依存すると言える。また、非磁性膜13が厚く残存することは主磁極11と第2軟磁性膜14との磁気的な距離が遠くなることを意味し、遠くなるほど主磁極11にて記録を行った際に残留した磁荷が第2軟磁性膜14に作用し難くなることは明白である。この影響からポールイレーズの問題が生じる場合があった。この程度は主磁極11に用いた材料の残留磁荷特性によっても変化するが、概ね主磁極幅程度,約100nmを上限とする範囲でポールイレーズを防ぐことができた。従って、第1軟磁性膜12、第2軟磁性膜14間に配置する非磁性膜13の膜厚としては概ね1nmから100nmを上限とする範囲で設定される必要がある。以上、種々の素子作成方法により各構成要素の膜厚は種々異なるが、記録ヘッドとしての機能を満足させるために必要となる最低限の膜厚等の要件は同業者であれば容易に理解される。従って本実施例では更なる高磁界勾配を可能とするための最低要素に関してあえて開示するものである。