(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2記載の装置において、前記弁開度調整手段はピエゾアクチュエータを含み、該ピエゾアクチュエータの伸縮により前記開時弁体退避距離が調整されることを特徴とする超臨界流体用圧力制御装置。
請求項1〜3のいずれかに記載の装置において、弁開度調整手段は、検出圧力値が目標圧力値から外れたら、開時弁開度を調整し、検出圧力値と目標圧力値との圧力差が最小となる最適隙間量を自動調節することを特徴とする超臨界流体用圧力制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、超臨界流体システムでは、超臨界流体の性質上、少しの圧力変化によって流体の密度が大きく変化してしまうため、圧力制御に伴う弁の開閉作動で起きる僅かな圧力変動も、測定に影響を与えていた。したがって、超臨界流体システムにおける圧力の安定化には、開閉周期やそのデューティー比によってシステムを目標圧力となるように制御するとともに、弁体のストローク長による弁開度調整によって前記制御に伴うシステムの圧力変動を抑えることが必要であると考えられた。特に、超臨界流体の圧力、流量、組成などの分析条件を時間的に変化させる測定では、該条件変化に応じた綿密な圧力制御に伴い、該制御時の圧力変動を最小にするストローク長にその都度調整する必要が生じる。
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、このようなストローク長による弁開度調整は考慮されておらず、測定毎に弁体のストローク長を手動で調整していたに過ぎなかった。したがって、前述のような分析条件が変化する測定においては、条件変化に応じて適切なストローク長に調整することは実際上不可能であった。そのため、従来の圧力制御装置では、弁体の進退に伴う圧力の変動が大きくなってしまうことがあった。また、手動による調整では、大きな手間や個人差による調整誤差が伴うほか、長期使用による機械要素の変化等により、調整の具合にも変化が生じることがあった。
【0007】
また、従来の圧力制御装置では、アクチュエータの駆動によって弁の開閉周期及び/又はデューティー比を制御して分析条件の変化に対応していた。しかし現実的に、要求される分析条件に対し、アクチュエータの駆動力、応答周波数には限度があった。また、アクチュエータで駆動される弁体は流体中を動く上に、シール材からの摩擦抵抗も受ける。そのため、弁体をアクチュエータ自身(無負荷状態)の性能の通りに動かすことは困難であった。
【0008】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、分離向上等の目的で分析条件を時間変化させる測定においても圧力変動の小さい超臨界流体用圧力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者等が鋭意検討を行った結果、弁の開閉を利用した超臨界流体システム(SFE/SFC)の圧力制御装置において、弁体の適切な可動範囲、すなわちストローク長を調整して弁開度を制御する手段を設けることにより、システム使用中の圧力変動が抑制され、SFEにおける抽出物の安定な回収やSFCにおける高精度なクロマトグラム測定が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
つまり、弁体を常に往復運動させるだけではなく、弁開度を適切に調整することで弁開閉による圧力変動を小さくできる。
【0010】
すなわち、本発明にかかる超臨界流体圧力制御装置は、
(a)(1)超臨界流体が通る流路に設けられた弁室と、
(2)該弁室内に配置され、弁閉時に弁室へ先端部が嵌め合わされ、弁開時に弁室より退避するよう電気的に操作された弁体と、を備えた弁と、
(b)前記弁室の上流側又は下流側の流路内超臨界流体圧力を検出する圧力検出手段と、
(c)前記圧力検出手段により検出された圧力が、目標圧力となるように制御する開閉制御手段と、
(d)前記超臨界流体の状態により開時の弁開度を調整する弁開度調整手段と、
を備えたことを特徴とする。
また、前記装置において、弁開度調整手段は、
(e)前記弁体の退避を阻むことにより弁開時の弁体退避距離の制限を行う退避量規制部と、
(f)最適弁開度を特定し、前記退避量規制部に対し前記弁開度を指示する退避量指示部と、
を備えることが好適である。
【0011】
また、前記装置において、前記弁開度調整手段はピエゾアクチュエータを備え、該ピエゾアクチュエータの伸縮により前記開時の弁体退避距離が調整されることが好適である。
また、前記装置において、弁開度調整手段は、超臨界流体の圧力、流量、組成の少なくともいずれかと、弁開時の隙間量との関係を示すテーブルを備えていることが好適である。
なお、隙間量とは、弁開度を機械的具現化するための概念に相当する。後述するが、通常、隙間量が長くなると弁開度は大きくなり、隙間量が短くなると弁開度も小さくなる。
また、前記装置において弁開度調整手段は、検出圧力値が目標圧力値から外れたら、弁開時弁開度を調整し、検出圧力値と目標圧力値との圧力差が最小となる最適隙間量を自動調節することが好適である。
また、前記装置において、弁開度調整手段は検出圧力値の変動を監視し、該変動が最小となる最適隙間量を自動調節することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、弁体が最も退避するときの弁開度を調整する弁開度調整手段を備え、該弁開度を分析条件に対応した値とすることで、圧力の変動を小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1には、本実施形態にかかる超臨界流体用圧力制御装置10の概略構成が示されている。
同図において、圧力制御装置10は弁室12が形成された弁本体14と、該弁本体14の弁室12に気密に嵌合する弁体16と、前記弁室12と連通する入口流路18及び出口流路20と、を備える。
そして、弁体16が上昇状態(
図1の状態)で入口流路18−弁室12−出口流路20が連通し、入口流路18より流入する超臨界流体は弁室12を経由して出口流路20から流出する。
【0015】
これに対し、
図2に示すように弁体16が下降状態では、弁体16先端が弁室12に嵌め合わされ、超臨界流体の導通は遮断される。
本実施形態において、弁体16の上下動は圧力検出手段22及び開閉制御手段24により制御される。
すなわち、圧力検出手段22は入口流路18側の圧力を検出しており、開閉制御手段24は圧力検出手段22よりの検出圧力値とあらかじめ設定された目標圧力値26とを比較し、検出圧力値が目標圧力値よりも高い場合には弁体が上昇状態にある時間が長くなるように、また検出圧力値が目標圧力値よりも低い場合には弁体が下降状態にある時間が長くなるように弁体16の上下動を制御する。
なお、本実施形態においては、弁体16の上下動は開閉制御手段24の指示を受けたソレノイド28の励磁(下降)、解除(図示を省略したバネによる上昇)により駆動されている。
上記の弁開閉機構は従来知られており、典型的には本出願人による「特公平8−30989号公報」に開示されるものを使用できる。
【0016】
なお、弁本体14の構造を
図3に示す。弁本体14において、ソレノイドのプランジャー54は弁体16を上昇/下降させる。プランジャー54は、ソレノイド28が励磁されるとリターンスプリング56に抗して下降し、励磁が解除されるとリターンスプリング56に押されて上昇する。
ヘッド62内には、弁体16と弁室壁の隙間にはシール材58が充填されており、弁体16の先端部と出口流路20とが接する部分には、弁座60が設置されている。
【0017】
本発明にかかる超臨界流体圧力制御装置は、前記弁開閉機構にさらに弁開度を調整する弁開度調整手段30を備えたことを特徴としている。弁開度調整手段30は、励磁解除状態での弁体16位置を規制する退避量規制部32と、退避量指示部34を有する。前記退避量規制部32は、弁体末端部36が突き当たることにより弁体の退避を阻む可変軸38と、該可変軸38と螺合する可変軸ホルダ40と、可変軸38と連動するプーリ42と、モータ44の回転軸46とプーリ42とを連動させるリンクベルト48(部分断面)と、該モータ回転軸46の回転位置を検出する位置出プレート50および位置センサー52とを備える。
そして、退避量指示部34の指示により、モータ44がその回転軸46を所定角度回転させ、リンクベルト48及びプーリ42を介して可変軸38を回転させる。この結果、可変軸38は可変軸ホルダ40に対して相対的に回転して螺合位置を変化させ、可変軸ホルダ40に対する上下位置が変化する。そして、可変軸38の下端部は、前述したように弁体末端部36が突き当たり、弁体の退避を阻むことが可能となっている。これにより、弁体16が上昇したとき、すなわち弁が開放された時の弁開度を調整できる。
【0018】
本実施形態において、弁体16のストローク長の調整は、圧力検出手段22よりの検出圧力に基づく最適な弁開度を、前記退避量指示部34が特定して退避量規制部32へ指示し、指示に応じた可変軸38の螺合位置調整によって弁体末端部の退避量が規制されることにより行われている。つまり、可変軸38が下降して弁体末端部36の突出量が小さくなる(すなわち、弁開時の弁体退避距離が小さくなる)ほどストローク長で表される隙間量が短くなり、隙間量に応じて弁開度も小さくなる。
【0019】
前記
図1は、可変軸38が最も上昇しており、弁体のストローク長が最長となっている状態を示している。このような状態において、弁開時の弁体16先端と弁室底壁との間隙、すなわち隙間量は最も大きくなり得る。
これに対し、
図4に示す状態では、可変軸38は最も下降しており、弁体のストローク長は最短となっている。このような状態では、弁開時の弁体16先端と弁室底壁との間隙、すなわち隙間量は最も小さくなり得る。
つまり、本実施形態は、可変軸38を上昇/下降させて弁体16の可動範囲であるストローク長を制御することにより、適切な隙間量の調整を可能とする。前記ストローク長を決める可変軸38の上昇/下降は、設定条件や圧力変動に応じた退避量指示部34の指示に従い、退避量規制部32が自動的に該可変軸の螺合位置を調整して行われる。そして、隙間量と弁開度は後述する相互関係を有していることから、隙間量の制御によって弁開度調整が実行できる。
退避量規制部32と退避量指示部34とを備えた弁開度調整手段30によるこのような弁開度調整によって、超臨界流体を利用したクロマトグラフィー分析や分取、抽出を行う際に圧力や流量の条件を分析や抽出の途中で大きく変化させる場合であっても、弁の開閉周期やデューティー比から受ける制限範囲を超えて幅広い流量、圧力の条件下で変動の小さい圧力制御を自動的に行える。
【0020】
なお、本願において「隙間量」とは、弁開時に流体が流出入できる隙間を量的に表した値であり、実質的には弁の開閉に伴う弁体の移動量に等しい。つまり、上述の
図1、2、4に示す実施形態の場合、隙間量は、弁開時の弁体16先端と弁底壁の間の距離(もしくは、弁閉時の弁体末端部36と可変軸38下端部の間の距離)で表され、本願でストローク長と呼ぶ弁体退避距離と一致する。
また、前記隙間量(ストローク長)によって決まる「弁開度」は、弁開時の弁の開放レベルを最大開放位に対する度合で表したもので、「(現開放位での隙間量)/(最大開放位での隙間量)」で表される。最大開放位とは、使用する弁機構において弁が限界まで開放された状態であり、必然的に弁開時の隙間量はその弁機構における最大値となる。つまり、
図1、2、4の実施形態では、可変軸38が最も上昇し、ストローク長(すなわち隙間量)が最長である
図1の状態が最大開放位ということになる。この状態では、(現開放位での隙間量)と(最大開放位での隙間量)は等しく最大値であるため、弁開度は1(100%)となる。
一方、
図1、2、4の実施形態において、可変軸38が最も下降し、ストローク長(隙間量)が最短となった
図4の状態では、弁開度は「(
図4での隙間量)/(
図1(最大開放位)での隙間量)」で表され、弁開度は最小となる。
【0021】
弁開度調整について
図5は、弁開度による、弁体位置と圧力制御装置の入口側圧力の変化とを表したグラフである。
図5(A)は、目標圧力に対して弁体のストローク長が過度に長い状態を表している。この場合、ストローク長が長いため、一回の弁の全開/全閉で流入する超臨界流体の量は相対的に大きくなる。ゆえに、弁の開閉に伴う入口側圧力の変動は必然的に大きくなる。つまり、同図は、弁の開閉周期やデューティー比の調整によって平均圧力を目標圧力に合わせることは可能であるが、大きな圧力変動を伴うことを示している。すなわち、弁の開閉周期やデューティー比の調整のみによって測定圧力を目標圧力に調整しようとすると、圧力の変化が生じるのである。
これに対し、
図5(B)は、目標圧力に対して弁開度が調整され、弁体のストローク長が適切となった状態を表している。ストローク長が適切な長さであると、一回の弁の全開/全閉で流入する超臨界流体の量が(A)の場合に比べて小さくなる。そのため、
図5(B)に示すように、弁の開閉周期を短くでき、圧力を目標圧力へ合わせる際に装置の圧力変動を小さくすることができる。
なお、弁体のストローク長が短すぎると、一回の弁体の全開/全閉で流入する超臨界流体の量が過度に小さくなって、所定流量の流体を全て通過させることができなくなるため、圧力制御はできない。
【0022】
ところで、
図5(A)のように弁体のストローク長が過度に長い場合でも、より応答が速く、力の大きいアクチュエータを用いれば、目標圧力へ合わせる際の圧力変動を小さくできると考えられる。しかしながら、寸法や価格などの制限を考慮すると、この要求を満たすアクチュエータは非現実的である。そのため、本発明者らは弁開度を調節することとした。
【0023】
超臨界流体クロマトグラフィーにおいては、一定条件下の分析では分離が不十分である場合、あるいは分析時間が長時間に亘る場合において、流量、圧力、温度、モディファイアー組成比等の分析条件を時間的に変化させて分離向上や時間短縮が図られる。
しかし、測定中に弁開度の調整を行うことができない従来の圧力調整装置では、
図5(A)が示すように、前記分析条件の変化に伴って装置内に大きな圧力変動が生じてしまう。
そこで、本発明では、弁開度調整手段30を設け、単に平均的な目標圧力を維持するだけでなく、分析条件に応じた目標圧力を得る際に生じる短期的な圧力変動を小さくしたのである。
【0024】
このような弁開度の調整に関し、本発明者らが検討を行った結果、目標圧力によって最適隙間量が異なることが解った。
図7〜
図9にはそれぞれ10MPa、20MPa、30MPa時における隙間調整状態と圧力変動の関係が示されており、各圧力に対する最適隙間量と、過大隙間量、過小隙間量の比較がなされている(流体:二酸化炭素、温度:30℃、流量:20mL/min)。
つまり、
図7は目標圧力を10MPaに設定した際の各隙間量(大・最適・小)に対する圧力の制御状態の違いを示しており、同様に
図8は目標圧力を20MPa、
図9は30MPaに設定時の結果を示している。
各図より明らかなように、それぞれの目標圧力に対し最適な隙間量が存在し、隙間量がその最適値より過大であっても過小であっても圧力の変動が大きくなり、圧力制御精度は低下する。
図7〜9等の結果をもとに圧力と最適隙間量の関係をまとめたグラフが
図6である。ここでは、10MPa時の隙間量を基準としており、圧力増加に伴い最適隙間量が小さくなることが判る。例えば、
図6では、10MPa時に比べ、最適隙間量が20MPaでは0.007mm、30MPaでは0.028mm小さくなっている。
【0025】
なお、同様の傾向は、上記した圧力との関係(
図6)の他、流量との関係(
図10)、溶媒組成との関係(
図11)にも認められ、本発明はこれらいずれの場合にも適用することができる。
図6、10、11の比較から明らかなように、最適隙間量は圧力変化(
図6)に対して最も敏感である。
例えば、10MPaから50MPaという40MPaもの大きな目標圧力の変更に対して、本実施形態の弁体16のストローク長はわずか0.08mm短くすればよい。このように本発明の装置は、わずかな隙間量変化で大きな目標圧力の変更に対応できるが、それ故にストローク長の制御には相当の精密さが要求される。
そのため、本発明では、一周200パルスで回転するモータ44にギア比を10倍取るプーリ42を接続し、可変軸38を駆動することが好ましい。前記構成により、25mmという広い稼動範囲が、1パルスあたり250nmという分解能で可能となる。
図6から、1MPa当たりの最適隙間量変化は0.002mm(2000nm)と判る。本実施形態では1パルス当たり250nmという分解能が得られるので、十分な精度をもって目標圧力を1MPa単位で制御できる。また、これらの制御を行うためのセンサーは、圧力検出手段22に代えて流量センサーを用いてもよい。さらには、圧力及び流量の両センサーを用い、双方の情報制御を行うことも好ましい。
【0026】
弁開度制御法
本発明にかかる装置では、
目標圧力と最適隙間量との関係、流量と最適隙間量との関係、溶媒組成と最適隙間量との関係を予めテーブル化しておき、分析条件で決まる最適隙間量に従って退避量指示部34が隙間量を指示できる。
圧力、流量、溶媒組成等のパラメータ毎に最適隙間量を求め、その関係をテーブル化することは煩雑な作業である。しかし、このようなテーブルを予め備えておくと、測定中に圧力変動値を見ながらその都度隙間量最適値を捜す工程が省けるため、前記パラメータ変化に対してより迅速に応じられる。
また、圧力、流量、溶媒組成等をグラジェント制御する場合は、そのグラジェントプログラムからのデータにより退避量指示部34が隙間量の指示を行ってもよい。
【0027】
また、ポンプなどから発せられる流量及び圧力の情報から、適切な隙間量を得てもよい。圧力変化が起きた場合、弁の直前に配した圧力検出手段22からの情報では、プログラムされた変化であるか外乱による変動であるかを直ちには判断できない。そのため、ポンプなどの条件が変わってから圧力が安定するまでに時間がかかる。したがって、ポンプにプログラムされている値が予め分かっている場合、ポンプ設定の変化と同時に隙間量の調整を行うことで、より早くシステムを安定化できる。システムが大きく、ポンプ設定の変更によるシステムの変化が下流に伝達するのに時間がかかる場合には、予めその時間差に応じて制御を行うことが好ましい。
【0028】
圧力、流量、溶媒組成などの各条件に対応したテーブルを備えることが困難な場合は、退避量指示部34において単に検出圧力値と目標圧力値の比較を行い、その差分に応じて退避量を指示して隙間量を調整してもよい。例えば、圧力差が大きくなった場合に、先ず検出圧力値と目標圧力値の差が最小となるように隙間量を自動調整する。次に圧力変動が最小となるように、弁開閉周期及び/又はデューティー比を自動調整する。
また、圧力変動を検出し、該圧力変動を低減するように退避量指示をフィードバック制御してもよい。例えば、隙間量を固定して弁の開閉周期及び/又はデューティー比を変化させて圧力変動が最小になるように制御する。圧力変動が所定値を超え、現在の隙間量のままでは制御しきれなくなったら、開閉周期及び/又はデューティー比を一旦固定し、圧力変動が最小になる隙間量を捜して再度固定する。
【0029】
なお、本発明において、可変軸38先端部は
図1、2、4に示すように半球状凸部に形成し、弁体末端部と点接触してもよい。可変軸38と弁体16末端部とが面接触すると接触抵抗が大きくなり、モータに大駆動力が要求されたり、弁体ないし可変軸のいずれかの傾きにより隙間量に変動が生じたりする場合もあるためである。むろん、弁体末端部側に凸部を設け、点接触させてもよい。
【0030】
可変軸による精密な弁体制御のために、可変軸ホルダ40と可変軸38間の遊びを小さくし、必要に応じてネジピッチを細密にするとよい。本発明においては、特に、前記ネジピッチを0.5mm/回転以下とすることが好適である。
【0031】
また、可変軸38を回転せしめてストローク長の調整を実行するモータ44としては、DCモータ、ACモータ、ステッピングモータ等各種モータを使用できる。特に、本発明においては、要求される弁体可動範囲をより高精度に制御できる点において、ステッピングモータの使用が好ましい。
なお、弁体16を上下動するアクチュエータは、電気信号を機械的変位に変換する素子ならば特に制限されないが、特に応答性能の点でソレノイド又はピエゾアクチュエータの使用が好ましい。アクチュエータの周波数は、数Hz〜100Hz程度であればよい。市販のソレノイドアクチュエータとしては、例えば、新電元工業社製の6SFP8.3V(発生出力250N、応答速度200Hz)が挙げられる。
【0032】
ピエゾアクチュエータを適用した本発明の別の実施形態を
図12に示す。
図12において、ピエゾケース80中に積層構造を有するピエゾ素子81、ピエゾ受圧部82、与圧スプリング83が収められている。ピエゾ素子81は、印加される電圧に応じて伸縮し、ピエゾ受圧部82を介してアクチュエーターピン90に変位を伝える。前記変位は、
図1、2、4の実施形態と同様にして弁体16へ伝わる。ピエゾケース80は可変軸38に固定されており可変軸38の上下に伴い移動する。
ピエゾ素子81は、印加電圧によって伸びの変位量をコントロールでき、発生する力も大きく、さらには応答速度も数KHzと早いことから弁体16の駆動が可能である。本発明に適用可能な市販のピエゾアクチュエータとしては、例えば、NEC TOKIN社製のAHB800C801POLE(変位量80μm、発生出力800N、応答速度1kHz)が挙げられる。
【0033】
アクチュエータとしてソレノイドを適用した
図1、2、4の実施形態では、可変軸、プーリ、モータを用いて弁体の退避量を調整し、そのストローク長を決定する。一方、本実施形態の場合、印加電圧によって、ピエゾ素子81自体が弁開度調整手段としてストローク長を100μm程度の変位量範囲で調整し得る。通常の使用状態では、ストローク長が100μmあれば十分に圧力制御を行えるので、ピエゾアクチュエータを弁開度調整手段として備えた実施形態では、可変軸、プーリ、モータなどの退避量の調整にかかる構成は特に備えていなくてもよい。
なお、調整や点検または洗浄目的で溶媒を流すときには、弁を10mm程度広げることがある。そのような場合などを考慮し、補助的な弁開度調整手段として前記構成(可変軸、プーリ、モータなど)を備えていてもよい。ただし、前記構成は、弁を広げるための補助に過ぎないため、μmオーダーの精密な制御能力は要しない。
【0034】
また、本発明において、弁体は、上昇(弁開)状態で超臨界流体の入口流路と出口流路を導通し、下降(弁閉)状態で超臨界流体の前記導通を遮断する形態のものであれば特に制限はない。一般的な弁体としては、例えば、
図1、2、4及び
図12に示すような、ニードル式の弁体(棒弁)が挙げられる。
また、例えば、ダイアフラム式の弁体を使用することもできる。ダイアフラム式の弁体とは、弁室12を気密する隔壁(ダイアフラム)92に弁体(プラグ)16が埋め込まれた構造をもつ。そして、アクチュエータ28の指示により隔壁92を上下させて、弁体16を弁室内の出口流路20に設置された弁座94へ押し付けたり離したりして該流路の開閉を行う(
図13)。
図1及び2に示すニードル式の弁体の場合、通常、弁体と弁室の内壁との隙間に気密性を保持するシール材を埋め込むが、ニードル弁開閉時における弁体の摩擦で前記シール材が磨耗してしまうことがある。これに対し、ダイアフラム式の弁体の場合、隔壁によって機密性が保たれるため、前記のようなシール材の埋め込みを必要としない。シール材の摩擦抵抗が無い分、弁開閉を素早く行えるため、圧力変動を小さくできる。また、ダイアフラム式弁体の適用により、弁体以外の部分も小さくできる。したがって、該弁体を、同様に場所をとらないピエゾアクチュエータと組み合わせて、極めて小型且つ高性能のバルブが得られる。しかも、弁棒適用時のような弁体末端部と可変軸の衝突を伴わないため、装置の作動音を小さくできる。
なお、本発明は、上記の他、圧力制御装置のタイプに応じてシャッター弁やボール弁等へも適用できる。
【0035】
また、
図3に示すように、弁本体14が、弁体16とソレノイドのプランジャー54との接合体によって構成される実施形態も考えられる。
図3に示す実施形態において、弁体16が動作する箇所の直近には、シール材58が埋め込まれている。このシール材58は、弁体16がシール材に密着した状態で駆動することで、流体を密封すると共に、弁体16の軸を調節する役割を果たし得る。
図3において、弁体16の駆動は、該弁体がソレノイド28の励磁により先端方向に移動し、リターンスプリング56の働きにより末端方向に移動することで行われる。このとき、弁体16の軸がシール材58の穴の軸と一致していないと、両者の摩擦による抵抗が生じ、リターンスプリングが十分に働かなくなったり、励磁による弁体16の移動に支障が生じたりする可能性がある。そのため、本実施形態においては、弁体16の軸を規制し、シール材58の穴の軸と一致させることが重要となる。
【0036】
一般に、市販のソレノイドを使用する際、付属のプランジャーに弁体を安易に固定しようとすると、プランジャーの軸がシール材の穴の軸と一致せず、弁体の軸がずれた状態となる。そのような場合、次の方法でプランジャーと弁体の接合を行うと、弁体の軸がシール材の穴の位置に一致するように調整することができる。
前記方法は、
図14に示すように、2本のセットスクリュー62をプランジャー54表面に各々90°ずらした位置で取り付けることにより、弁体16を接合するというものである。このとき、プランジャー54と弁体16の接合部には、若干のがたを設け、セットスクリュー62で弁体を固定するプランジャー54の箇所を調整できるようにするとよい。この方法によれば、プランジャーの軸とシール材の穴の軸が一致していなくとも、弁体(弁棒)の軸をシール材の穴の軸と一致させることができるため、摩擦による抵抗が生じ難くなる。
ただし、このようなセットスクリューによる弁体の軸の調整は、非常に精密な作業であり、消耗材であるシール材を交換する度に熟練した技術者によって行われることが好ましい。
【0037】
一方、本発明には、プランジャーの先端を凸型の曲面、弁体16の末端を平面とし、プランジャー54と弁体16との接合部を固定しないタイプの弁本体も適用できる。
図15に示す本実施形態では、プランジャー54が先端方向に移動する力が、該プランジャー54の先端部の一点から弁体16に伝えられる。このとき、プランジャー54と弁体16は固定されていないため、プランジャー54の軸が弁体16の軸に影響を与えることはない。また、弁体16の軸は、シール材58の作用により、常にその穴の軸と一致するように自動調整される。したがって、本実施形態によれば、軸のずれによるシール材の消耗が軽減される上、セットスクリュー等による煩雑な調整も要しない。なお、本実施形態において、プランジャー54の先端を平面とし、弁体16の末端を凸型の曲面とした場合においても同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、本発明にかかる超臨界流体用圧力制御装置には、その下流に加温手段を設置することができる。
超臨界流体を利用する超臨界流体抽出システム(SFE)においては、本発明にかかる圧力制御装置のような調整弁機構の下流で圧力を解放し、移動相流体のみを気化させることで抽出物が回収される。通常、抽出物の回収は、適当な配管で弁機構と接続された回収容器において行われる。その際、調整弁機構において圧力解放された流体が急激に膨張し、吸熱を起こすため、該流体が通過する配管および該回収容器は強く冷却を受け、結露凍結が発生することがある。
そして、結露及び結露が凍って生じた氷塊は、次の問題を引き起こす原因となる。
・配管の周囲が水浸しになることによる取扱性の問題、
・回収物に水が混入して抽出物純度が低下することによる性能面の問題、
・回収容器の排気口を詰まらせて容器内圧を上昇せしめ、容器を破壊することによる安全面の問題。
このような問題に対処するため、本発明にかかる装置の下流に加温手段を設置し、配管や回収容器における結露凍結の発生を緩和することが好ましい。
【0039】
図16は前記加温手段の一例を断面図で示したものである。
図16において、加温手段100は、アルミニウムなどの伝導性の良い素材でできた筒状の熱交換ブロック102に、ステンレススチール製の配管104が巻かれた構造を有している。配管104の入口106は、前述の本発明にかかる圧力制御装置10の出口流路20に接続しており、該出口流路20から解放された気化流体は、配管104を経て出口108に至る。配管出口108は、流体中の抽出物を回収する回収容器に接続できる。熱交換ブロック102の筒内には、カートリッジヒーター110が装入されており、該ヒーターの発した熱が熱交換ブロックを介して周囲の配管に伝わり、配管内を流通する気化流体を加温する。
配管104に巻かれた熱交換ブロック102は、保温性や取付性を考慮し、テフロン(登録商標)等のカバー112で覆ってもよい。また、加温装置100の配管の出口108付近に温度センサー114を付け、配管の温度によってヒーター110の加温温度を制御してもよい。この場合、配管出口108付近が室温付近を保つよう制御することが好ましい。
なお、上記加温手段において、配管104の管径や長さ、熱交換ブロックに対する巻数は、分析条件や抽出物の特性等の諸条件によって適宜決定すればよい。
【0040】
図17は、前記加温手段と本発明にかかる超臨界流体用圧力制御装置とを組み合わせた構成例である。
図17において、基台及び支柱からなるスタンド120上に圧力制御装置10が支持される。該圧力制御装置下部の出口流路20には、圧力制御装置10に適宜固定された加温手段100の配管入口106が接続されている。そして、加温手段100の配管出口108は回収容器122の入口部と接続し、圧力制御装置10より移動相流体と共に流出した抽出物が、回収容器122に回収される。回収容器122は気化した移動相流体を排出するための排出口124を備えている。
【0041】
なお、超臨界流体として二酸化炭素を使用する場合、圧力制御装置の出口流路において断熱膨張によりドライアイスが発生することがある。このドライアイスがガラス製の回収容器に入り、気化時の膨張により容器が破損する場合もある。また、流体は圧力制御装置からエアロゾル状態で排出されるため、完全な捕捉は困難で系外への放出が避けられない。そのため、有害な抽出物の回収操作には実験者への安全対策が必要である。
回収容器の破損や有害な抽出物の飛散から実験者を守るには、
図17に示すように、圧力制御装置10の出口下流の流体経路をアクリルカバー126で覆うことにより対処できる。特に、抽出物の回収状況を常時観察できる透明のアクリルカバーの使用が好ましい。
【実施例】
【0042】
弁開度調整手段を備えた本発明にかかる圧力制御装置を接続した超臨界流体システムに、超臨界流体(CO
2)を次の流量条件で送液した際の、システム内の圧力変化を測定した(実施例)。超臨界流体(CO
2)の流量は、20mL/minで開始し、開始1分後に40mL/minとなるようにリニアに上昇させ、開始1分以降は40mL/minのまま維持した。
なお、比較例として、弁開度調整手段を備えない圧力制御装置を使用した場合についても同様に測定を行った。ただし、比較例においては、弁体のストローク長を流量40mL/minの条件に適した値(14.0MPa時の隙間量)に固定した。
結果を
図18に示す。
【0043】
図18に示すように、本発明にかかる圧力制御装置を適用した実施例においては、超臨界流体システム内における圧力変動が著しく小さかった。これは、超臨界流体の流量条件の変化に応じ、適切な弁体ストローク長が弁開度調節手段を通じて自動調整されたためである。
一方、比較例では、流量条件に対するストローク長が適切に設定されなかった0〜1分において、特に圧力変動が大きかった。