(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738576
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】水温センサ故障判定装置
(51)【国際特許分類】
F01P 11/16 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
F01P11/16 E
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-262102(P2010-262102)
(22)【出願日】2010年11月25日
(65)【公開番号】特開2012-112312(P2012-112312A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2013年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 貴之
【審査官】
佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−130242(JP,A)
【文献】
特開2008−051019(JP,A)
【文献】
特開2004−251186(JP,A)
【文献】
特開平11−153033(JP,A)
【文献】
特開2003−227337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを経た冷却水の温度を検出する水温センサの故障判定装置であって、前記水温センサからの検出信号を入力して冷間始動時における冷却水の温度上昇を監視し且つ始動開始からのエンジンの燃料噴射量を積算して該燃料噴射量が所定の積算値に達した時の冷却水の温度上昇幅の実測値が閾値を超えていない時に水温センサの故障を判定する制御装置を備え、サーモスタットを全開にした条件下で始動開始からのエンジンの燃料噴射量が所定の積算値に達した時の温度上昇幅を閾値として設定したことを特徴とする水温センサ故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水温センサ故障判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車における各種の排ガス対策システムは、エンジンが十分に暖機した状態で正常に働くようになっているものが多く、例えば、排気側から排気ガスの一部を抜き出してEGRクーラで冷却してから吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOxの発生を低減するようにした、いわゆる排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation:略称EGR)も、冷間始動時におけるエンジンが冷えた状態(冷機状態)にあっては、排気ガスの再循環を停止してエンジンの暖機を優先するように制御されており、エンジンが十分に暖機しているか否かについては、エンジンを経た冷却水の温度を水温センサにより計測して判断するようにしている。
【0003】
一方、エンジンの冷却水の循環経路にはサーモスタットがあり、冷間始動時における冷却水の温度が低い時には、サーモスタットの作動によりエンジンとラジエータとの間で冷却水を循環する水路が閉じ且つエンジンからの冷却水をラジエータを経由させずにエンジンに戻す水路が開くことにより、冷却水をラジエータを経由させずに循環させてエンジンの暖機を優先するようになっている。
【0004】
この種のサーモスタットは、従来より周知である通り、冷却水の温度が高くなった時にケーシング内に封入したワックスが溶け、このワックスが溶ける時の膨張によりニードルやバネ等を介しバルブを開けるようになっており、その作動は機械的な原理で行われるようになっている。
【0005】
尚、この種のエンジンの冷却系に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−278544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年においては、車両の排ガス対策システムおける故障発生の有無を監視し、故障発生時には警告灯等を点灯させて運転者に故障の発生を報知すると共に、故障内容を記録しておく車載式故障診断装置(オンボードダイアグノーシス:onboard diagnosis:略称OBD)の装備が各国で義務付けられており、水温センサの故障診断も行い得るようにすることが求められている。
【0008】
即ち、水温センサに故障が発生し、エンジンの冷却水の温度が十分に上昇しているのに検出値が低温のまま変動しなかった場合には、エンジンは冷機状態での運転を継続されることになり、排気ガス対策システムを正常に働かせることができない運転が継続されてしまうからである。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、冷間始動時におけるエンジンの暖機性能を監視して水温センサの故障発生の有無を検知し得る水温センサ故障判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンを経た冷却水の温度を検出する水温センサの故障判定装置であって、前記水温センサからの検出信号を入力して冷間始動時における冷却水の温度上昇を監視し且つ始動開始からのエンジンの燃料噴射量を積算して該燃料噴射量が所定の積算値に達した時の冷却水の温度上昇幅の実測値が閾値を超えていない時に水温センサの故障を判定する制御装置を備え、サーモスタットを全開にした条件下で始動開始からのエンジンの燃料噴射量が所定の積算値に達した時の温度上昇幅を閾値として設定したことを特徴とするものである。
【0011】
而して、このようにすれば、水温センサからの検出信号に基づき冷間始動時における冷却水の温度上昇が制御装置により監視されると共に、該制御装置により始動開始からのエンジンの燃料噴射量が積算され、該燃料噴射量が所定の積算値に達しても、冷却水の温度上昇幅の実測値が閾値を超えていない場合に、制御装置により水温センサの故障が判定されることになる。
【0012】
即ち、サーモスタットが故障して全開状態のままラジエータへの冷却水の循環が継続されてしまっていたとしても、水温センサが正常であるならば、冷却水の温度上昇幅の実測値が閾値を下まわることはないはずであり、サーモスタットの故障により想定される最も低い温度上昇幅に相当する閾値よりも水温センサの温度上昇幅の実測値が低いということは、該水温センサ自体が故障して正常な検出値が出力されていないものと考えられる。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明の水温センサ故障判定装置によれば、冷間始動時におけるエンジンの暖機性能を監視
することにより、サーモスタットの故障と区別して水温センサの故障発生の有無を検知することができるので、水温センサの故障発生時に直ちに補修等の措置を採ることができ、水温センサの故障によりエンジンの冷機状態での運転が継続されて排気ガス対策システムを正常に働かせることができなくなる事態を早期に解決することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【
図2】冷却水の温度と燃料噴射量の積算値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1及び
図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図1中における符号の1はディーゼル機関であるエンジンを示し、該エンジン1は、ターボチャージャ2を備えたものとなっており、エアクリーナ3から導入した吸気4を吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送り、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4をインタークーラ6へ送って冷却し、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へ吸気4を導いてエンジン1の各気筒に分配するようにしてあり、また、このエンジン1の各気筒から排出された排気ガス8を排気マニホールド9を介し前記ターボチャージャ2のタービン2bへ送り、該タービン2bを駆動した排気ガス8を排気管10を介し車外へ排出するようにしてある。
【0017】
また、エンジン1とラジエータ11との間には、両者間で冷却水12を循環し得るよう循環経路13が設けられており、該循環経路13では、エンジン1を水冷して昇温した冷却水12を出口部14に抜き出し、該出口部14からラジエータ11を経由して入口部15に戻すようになっている。
【0018】
前記循環経路13におけるエンジン1への入口部15には、該入口部15にラジエータ11から戻される冷却水12の水路を閉じるサーモスタット16が設けられており、冷却水12の温度が低い時には、サーモスタット16の作動によりラジエータ11からの冷却水12をエンジン1に戻す水路が閉じ且つ入口部15と出口部14とを連通するバイパス口17が開くことにより、冷却水12をラジエータ11を経由させずに循環させてエンジン1の暖機を優先するようになっている。
【0019】
ここで、図示例ではエンジン1への入口部15にサーモスタット16を設けた入口制御式の例を示しているが、エンジン1からの出口部14にサーモスタット16を設けた出口制御式としても良いことは勿論である。
【0020】
更に、前記入口部15には、エンジン1を経た冷却水12の温度を検出する水温センサ18が設けられ、該水温センサ18の検出信号18aが制御装置19に入力されるようになっており、該制御装置19においては、前記水温センサ18からの検出信号18aに基づき冷間始動時における冷却水12の温度上昇を監視し、始動開始からのエンジン1の燃料噴射量を積算して該燃料噴射量が所定の積算値に達した時の冷却水12の温度上昇幅が閾値を超えていない時に水温センサ18の故障を判定するようになっている。
【0021】
即ち、
図2にグラフで示す如く、始動開始時の冷却水12の温度がT
0であった場合、
図2中に鎖線Aで示すように冷却水12の温度が上昇してサチュレートするが、該サチュレートより早い段階で且つ環境条件によるバラツキが安定する頃合、例えば、約10℃程度の水温上昇になるであろう燃料噴射量の積算値Q
1を判定ポイントとし、エンジン1の燃料噴射量が前記積算値Q
1に達した時に、冷却水12の温度上昇幅が閾値ΔT
2を超えていなければ、水温センサ18が故障していると判定するようになっている。
【0022】
ここで、前記制御装置19においては、サーモスタット16を全開にした条件下で始動開始からのエンジン1の燃料噴射量が所定の積算値Q
1に達した時の温度上昇幅を閾値ΔT
2として設定するようにしており、サーモスタット16の故障と区別して水温センサ18の故障を判定できるようにしてある。
【0023】
つまり、
図2中における実線Bは、サーモスタット16を全開にした条件下での冷却水12の温度上昇の推移を示しているが、仮にサーモスタット16が故障して全開状態のままラジエータ11への冷却水12の循環が継続されてしまっていたとしても、水温センサ18が正常であるならば、実線Bを下まわるような冷却水12の温度上昇の推移にはならないはずであり、積算値Q
1の判定ポイントにおいて、サーモスタット16の故障により想定される最も低い温度上昇幅に相当する閾値ΔT
2よりも水温センサ18の温度上昇幅の実測値が低ければ、該水温センサ18自体が故障して正常な検出値が出力されていないものと考えられる。
【0024】
而して、このようにすれば、水温センサ18からの検出信号18aに基づき冷間始動時における冷却水12の温度上昇が制御装置19により監視されると共に、該制御装置19により始動開始からのエンジン1の燃料噴射量が積算され、該燃料噴射量が所定の積算値Q
1に達しても、冷却水12の温度上昇幅の実測値が閾値ΔT
2を超えていない場合に、制御装置19により水温センサ18の故障が判定されることになる。
【0025】
従って、上記形態例によれば、冷間始動時におけるエンジン1の暖機性能を監視
することにより、サーモスタット16の故障と区別して水温センサ18の故障発生の有無を検知することができるので、
水温センサ18の故障発生時に直ちに補修等の措置を採ることができ、水温センサ18の故障によりエンジン1の冷機状態での運転が継続されて排気ガス対策システムを正常に働かせることができなくなる事態を早期に解決することができる。
【0026】
尚、本発明の水温センサ故障判定装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン
12 冷却水
16 サーモスタット
18 水温センサ
18a 検出信号
19 制御装置