(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
構造物の構築に先立ち、一般に地盤掘削工事が施工される。この時、山留壁として、ソイルセメント柱をラップさせて掘削部を囲むソイルセメント柱列壁が広く利用されている。山留壁で囲まれた内部を、掘削面に至る深さまで掘削した後、構造物が構築される。このとき、構造物は、山留壁とは別個に、山留壁の内側に独立して構築される。構造物の地下部分の完成により、山留壁は役目を終了する。ここに、ソイルセメント柱列壁は、原地盤の土壌とセメントミルクを混合して製造されているため、地盤とコンクリートの中間程度の機械的強度を備えている。このため、山留壁としての役目が終了した後も有効な活用が望まれていた。
【0003】
そこで、ソイルセメント柱列壁を、構造物を支持する杭として活用する技術が開示されている(特許文献1)。
即ち、特許文献1は、ソイルセメント柱列壁の一部を杭として活用する。このため、杭として活用するソイルセメント柱を、支持層まで延長させて構築し、芯材の根入れ部のセメント量を増加させている。これにより、ソイルセメント柱の強度を高くし、この強度を高くしたソイルセメント柱を杭として活用している。
【0004】
しかし、杭として活用されるのは、ソイルセメント柱列壁の一部のソイルセメント柱であり、大部分のソイルセメント柱は山留壁以外には活用されていない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、第1の実施の形態に係る山留壁10は、地盤16に構築されたソイルセメント柱列壁14を有している。
図1(A)は側面の断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)のX−X線位置の断面図である。
【0025】
ソイルセメント柱列壁14は、ソイルセメント柱12の外周面同士をラップさせて壁状に形成され、掘削される地盤16の掘削部24を囲んでいる。ソイルセメント柱列壁14の下端部は掘削面26より下方まで構築され、ソイルセメント柱列壁14の内部には補強用の繊維22が混入されている。
【0026】
ここに、ソイルセメント柱12は、後述するオーガで地盤16を掘削し、掘削された原地盤とセメントミルクを攪拌混合して円柱状に構築される。
山留壁10の構築後、掘削部24を掘削面26まで掘削する。このとき、ソイルセメント柱列壁14には、補強用の繊維22が混入されており、深い掘削面26まで止水機能を備えた状態で、地山側(地盤16側)からの土圧に耐えることができる。
【0027】
掘削部24の掘削後、掘削部24には構造物20の地下部21が構築される。このとき、ソイルセメント柱列壁14の掘削部24側の側壁面14Nが、構造物20の地下部21の地下外壁28と当接される。即ち、側壁面14Nが地下外壁28の外面を形成し、ソイルセメント柱列壁14と地下外壁28が一体化される。これにより、地下外壁28に加えられる地山側(地盤16側)からの土圧を、ソイルセメント柱列壁に分担させることができる。
【0028】
この結果、ソイルセメント柱列壁14を、山留壁30としての役目が終了した後も、構造物20の地下部21の地下外壁28の一部として有効に活用することができる。また、土圧耐力が軽減された分だけ、地下部21の地下外壁28を薄く構築することができ、施工コストが低減される。
【0029】
次に、混入する繊維について
図2〜
図4を用いて説明する。
図2に示すように、ソイルセメント柱列壁14に混入する繊維22は、破断強度が200〜1200MPaでヤング係数が2〜15GPaの機械的性質を有するものが望ましい。例えば、ポリプロピレン繊維が該当する。
【0030】
また、繊維22の直径は10〜50μmの範囲内が望ましい。これは、ソイルセメント柱列壁14と繊維22の接触を十分に確保するためには、ある程度の大きさが必要なこと、一方、繊維22の直径が大きくなり過ぎると、繊維22を屈曲させて相互に絡み合わせるのが困難になるため、大きさに限界があるためである。
【0031】
なお、直径が適切な大きさであっても、
図2(C)に示すように、形状が直線状の繊維23では、繊維23と繊維23が相互に絡み合うことはない。このため、ソイルセメント柱列壁14と繊維23の間に十分大きな摩擦抵抗を得ることはできない。この結果、
図2(D)に示すように、繊維23が混入されていても、ソイルセメント柱列壁14の表面でのクラック36の発生、クラック36の成長を抑制できない。
【0032】
一方、
図2(A)に示すように、屈曲された形状の繊維22では、繊維22と繊維22が相互に絡み合うことが容易となり、摩擦抵抗を増すことができる。この結果、
図2(B)に示すように、ソイルセメント柱列壁14と繊維23の間に十分大きな摩擦抵抗が作用する。この摩擦抵抗により、ソイルセメント柱列壁14の表面でのクラック36の発生、クラック36の成長を抑制できる。
【0033】
なお、繊維22が屈曲された形状となり、ソイルセメント柱列壁14と繊維22の間に十分大きな摩擦抵抗を作用させるためには、アスペクト比(繊維の太さに対する長さの比)は大きいほど有利である。具体的には、アスペクト比は1000以上が望ましい。
更に、繊維22の両端部に、繊維の径より10ミクロン以上大きい、こぶ状又は塊状のアンカー部を設ければ、ソイルセメント柱列壁14と繊維23の間の摩擦抵抗を、更に増大できる。
【0034】
ソイルセメント柱列壁14と繊維22の混合割合は、アスペクト比を1000以上に調整した繊維22を、ソイルセメント柱列壁14との体積比にして0.4〜2.0%の範囲内で混入するのが望ましい。これにより、繊維22が引張力に抵抗し、ソイルセメント柱列壁14の表面でのクラック36の発生、成長を抑制できる。
【0035】
次に、繊維22が混入されたソイルセメント柱列壁14の構築方法について説明する。
図3に示すように、掘削装置60は、下端にオーガ部62が取り付けられた2本のロッド64A、64Bを有し、2本のロッド64A、64Bの間には、繊維22を供給する供給管61が取り付けられている。なお、掘削装置60は、一般的に広く使用されている掘削装置に供給管61の部分を追加した構成である。
【0036】
2本のロッド64A、64Bの間に取り付けられた供給管61の内部には、繊維22を送る貫通孔が設けられ、供給管61の上端部は図示しない繊維供給部に接続され、供給管61の下端部には噴射口61Eが開口され、噴射口61Eから、繊維22を空気圧で噴射する。
ロッド64A、64Bの下端部には、セメントミルクを吐出する吐出口65A、65Bが形成されている。セメントミルクは、ロッド64A、64Bの内部を流下して、吐出口65A、65Bに供給される。
【0037】
ロッド64A、64Bは、上下2箇所に配置された固定部材66U、66Lにより所定距離を設け回転可能に保持されている。また、ロッド64A、64Bの側壁から半径方向外側に向けて、傾斜面を有する複数の攪拌翼67と、複数の掘削翼68が設けられている。掘削翼68には、ロッド64A、64Bの回転時に地盤16を掘削するための刃部を備えた掘削ビット69が設けられている。
【0038】
掘削装置60を用いた地盤16の掘削時に、ゼメントミルクと共に供給管61から繊維22を噴射させ、オーガ部62で、繊維22とセメントミルクと原地盤16の土壌を攪拌混合させれば、ソイルセメント柱列壁14に繊維22を混入させることができる。
なお、上述した掘削装置60を用いた方法は一例であり、他の方法でソイルセメント柱列壁14に繊維22を混入させてもよい。
【0039】
次に、繊維22の混入効果について説明する。
効果の確認方法は、繊維22を混入させた3つの試験体と、繊維22を混入していない3つの試験体を、同じ条件で構築したソイルセメント柱から切り出し、それぞれに1軸圧縮試験を行い、試験結果に基づいて評価した。
【0040】
即ち、繊維22を混入させた試験体は、原地盤の掘削を行いながら、繊維混じり砂とセメントミルクを投入し、繊維22、セメントミルク及び土壌を混合攪拌してソイルセメント柱を構築した。一方、繊維22を混入していない試験体は、繊維を投入せず、セメントミルク及び土壌のみを攪拌混合してソイルセメント柱を構築した。
【0041】
図4には1軸圧縮試験の結果を示している。横軸はひずみ(%)であり、縦軸は1軸圧縮強度(kgf/cm
2)である。
図4(A)に示す特性A、B、Cは、繊維22を混入させた3つの試験体のそれぞれの特性であり、
図4(B)に示す特性AN、BN、CNは、繊維22が混入されていない3つの試験体のそれぞれの特性を示している。
【0042】
図4(A)と
図4(B)を比較すると、繊維22を混入させた試験体の方が、繊維22が混入されていない試験体より、いずれの試験体においても、1軸圧縮強度が5kgf/cm
2程度高くなっている。また、ひずみも1.0%程度大きい範囲まで計測されている。このことから、1軸圧縮強度が増していると共に、靭性も増強されている。この差が繊維22によるソイルセメント柱列壁の改良効果であることが分かる。即ち、ソイルセメント柱列壁の機械的強度が向上したといえる。
【0043】
また、3つの試験体のバラツキについて検討すると、いずれも、概ね同じ傾向を示していることから、中央に投入した繊維22が、ソイルセメント柱にほぼ一様に混入されていることが分かる。
【0044】
(第2の実施の形態)
図5(A)(B)に示すように、第2の実施の形態に係る山留壁30は、地盤16に構築されたソイルセメント柱列壁34を有している。
【0045】
ソイルセメント柱列壁34は、ソイルセメント柱13の外周面同士をラップさせて壁状に形成され、掘削部24を囲む外周部に構築されている。ここに、ソイルセメント柱13は、内部に補強用の繊維22が混入されたソイルセメント柱12に、芯材であるH形鋼32を挿入した構成である。H形鋼32の下端部は、ソイルセメント柱列壁34の掘削面26より下方に根入れされている。
【0046】
これにより、H形鋼32に、地山16側から掘削部24側への土圧を負担させることができる。この結果、掘削部24の掘削深さを、より深くすることができる。また、ソイルセメント柱列壁34が繊維22で補強されているので、ソイルセメント柱列壁34へのクラックの発生を抑制し、止水機能の維持や、ソイルセメント柱列壁34に埋設されたH形鋼32の負担量を軽減させることができる。この結果、H形鋼32の使用本数を減らすことやH形鋼32の径を小さくすることが可能となる。
他は、第1の実施の形態と同じ構成であり、説明は省略する。
【0047】
次に、展開例について説明する。
図5(C)に示すように、展開例に係る山留壁31は、地盤16に構築されたソイルセメント柱列壁35を有している。ソイルセメント柱列壁35は、上述したソイルセメント柱12と、ソイルセメント柱13を交互に配置し、それらの外周面をラップさせて壁状に形成した構成である。
【0048】
即ち、負担すべき土圧の大きさに対応させて、ソイルセメント柱12の必要な部分にのみH形鋼32を挿入することができる。これにより、H形鋼32の使用本数を抑制できる。他は、第2の実施の形態と同じ構成であり、説明は省略する。
【0049】
(第3の実施の形態)
図6(A)(B)に示すように、第3の実施の形態に係る山留壁40は、地盤16に複数列構築されたソイルセメント柱列壁14、44を有している。
ソイルセメント柱列壁14は、上述したように、内部に補強用の繊維22が混入されたソイルセメント柱12の外周面同士をラップさせて構築されている。一方、ソイルセメント柱列壁44は、補強用の繊維22が混入されていないソイルセメント柱42の内部に、H形鋼32が挿入された構成である。H形鋼32の下端部は、掘削面より下に根入れされている。
【0050】
また、2つの山留壁40の構成は、ソイルセメント柱列壁44を掘削部24側に配置し、ソイルセメント柱列壁14を地山16側に配置している。
これにより、複数のソイルセメント柱列壁14、44が、地山16側からの土圧を分担して負担することができ、地山16側からの大きな土圧に耐えることができる。このような構成とすることにより、山留壁40に要求される強度の調節が容易となる。
【0051】
なお、
図6(C)に示すように、ソイルセメント柱列壁14とソイルセメント柱列壁44の位置を入れ替えてもよい。即ち、山留壁41の構成を、ソイルセメント柱列壁14を掘削部24側に配置し、ソイルセメント柱列壁44を地山16側に配置してもよい。更に、図示は省略するが、ソイルセメント柱列壁44に替えて、上述したソイルセメント柱列壁34を用いてもよい。
これにより、本実施の形態と同じ作用、効果を得ることができる。
【0052】
また、本実施の形態では、2列のソイルセメント柱列壁14、44を有する構成について説明したが、これに限定されることはなく、要求される強度に対応させて、ソイルセメント柱列壁14、34、44を組み合わせた3列以上であってもよい。
【0053】
(第4の実施の形態)
図7(A)(B)に示すように、第4の実施の形態に係る山留壁50は、地盤16に構築されたソイルセメント連続壁52を有している。
ソイルセメント連続壁52は、図示しない掘削機で、掘削部24となる地盤16を囲んで、掘削面26より深く矩形に掘削された溝部54を有している。溝部54の内部には、土壌とセメントミルクを地盤16上で攪拌混合されたソイルセメントが充填されている。これにより、断面設計の自由度が高い山留壁50を提供できる。
【0054】
また、ソイルセメント連続壁52は、構造物の地下外壁28の外面となる面を囲んで構築され、内部には、補強用の繊維22が混入されている。
この結果、ソイルセメント連続壁52と地下外壁28の一体化が図れる。これにより、地下外壁に加えられる地山側からの土圧の適正量を、ソイルセメント連続壁52に分担させることができる。即ち、ソイルセメント連続壁52を、山留壁としての役目が終了した後も構造物20の地下外壁28の一部として有効に活用することができる。
【0055】
なお、
図7(C)のソイルセメント連続壁53に示すように、ソイルセメント連続壁52の中にH形鋼32を挿入してもよい。このとき、H形鋼32の下端部は、掘削面26の下に根入れされている。
これにより、H形鋼32で土圧を受けることが可能となり、ソイルセメント連続壁53の強度を、より高くすることができる。
【0056】
(第5の実施の形態)
図8に示すように、第5の実施の形態に係る建物20は、地下に設けられた建物20の地下部21を有している。
【0057】
地下部21は、山留壁10を構築した後、地盤16の掘削部24を掘削して構築される。地下部21の地下外壁28の外側には、ソイルセメント柱列壁14が設けられている。ソイルセメント柱列壁14は、ソイルセメント柱12の外側面をラップさせて壁体としている。地下部21は、ソイルセメント柱列壁14の掘削部24側の側壁面14Nに、地下外壁28の外面を当接させて構築されている。ソイルセメント柱列壁14の内部には、補強用の繊維22が混入されている。
【0058】
これにより、ソイルセメント柱列壁14と地下外壁28が一体化され、ソイルセメント柱列壁14が、地山16側からの土圧を分担して負担することができる。この結果、地下部21の地下外壁28を薄く構築することができる。
なお、ソイルセメント柱列壁14を用いた山留壁10の場合を例に説明したが、第2の実施の形態で説明した山留壁30、31、第3の実施の形態で説明した山留壁40、41、第4の実施の形態で説明した山留壁50、51を用いてもよい。