【文献】
J. S. Thornton,et al.,"Automatic determination of relative peak positions in non-water-suppressed proton spectra for cerebral temperature mapping by spectroscopic imaging",Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 11,2003年,#263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水の共鳴周波数は、生体の温度によって変化するという特性がある。したがって、水の共鳴周波数の変化量を求めることによって、生体の温度を計測することが可能となる。しかし、水の共鳴周波数は、生体の温度だけでなく、様々な要因で変化する。生体の温度以外に水の共鳴周波数を変化させる大きな要因の一つとして、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱がある。したがって、温度の時間変化の計測精度を高めるためには、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱が原因で生じる水の共鳴周波数の変化量をできるだけ正確に知る必要がある。そこで、温度の時間変化の計測精度を高める方法として、以下のような方法が考えられる。
【0005】
図22および
図23は、温度の計測精度を高める方法の一例の説明図である。
図22は、温度の計測が行われる関心領域の一例を示す図である。
関心領域Rは、n×nのボクセルによって規定されているとする。
図22では、n=4の場合が示されているので、ボクセルの総数は、16個である。ボクセルは、符号「V
11」〜「V
44」で示されている。尚、
図22では、説明の便宜上、ボクセルの総数は16個であるが、16個に限られることは無く、ボクセルの総数は、必要に応じて、任意の値(例えば64個)に設定することができる。
図23は、関心領域Rの温度を計測するときに実行されるスキャンを示す図である。
スキャンAは、水シーケンスWおよび代謝物シーケンスM
aを有している。
水シーケンスWは、関心領域Rの各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む水スペクトルを取得するためのシーケンスである。代謝物シーケンスM
aは、関心領域Rの各ボクセルごとに、代謝物の共鳴周波数を含む代謝物スペクトルを取得するためのシーケンスである。水シーケンスWは、例えばPRESSである。代謝物シーケンスM
aは、水シーケンスWに、水信号を抑制するための水抑制部WSを追加することによって得られるものである。
【0006】
関心領域Rをn×n個のボクセルとしてスキャンを実行する場合、水シーケンスWは、位相エンコードのステップを変えながら、繰り返し時間TR
wでn×n回実行される。また、代謝物シーケンスM
aは、位相エンコードのステップを変えながら、繰り返し時間TR
mで、n×n回実行される。水シーケンスWをn×n回実行することによって、関心領域Rの各ボクセルごとに水スペクトルが得られ、代謝物シーケンスM
aをn×n回実行することによって、関心領域Rの各ボクセルごとに代謝物スペクトルが得られる。したがって、各ボクセルごとに、水の共鳴周波数および代謝物の共鳴周波数が得られる。
【0007】
水の共鳴周波数は、関心領域Rの温度が原因で変化するだけでなく、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱も原因となって変化する。一方、代謝物の共鳴周波数は、関心領域Rの温度によってはほとんど変化しないので、代謝物の共鳴周波数の変化の大部分は、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱が原因であると考えることができる。したがって、各ボクセルごとに、水の共鳴周波数と代謝物の共鳴周波数との差を求めることによって、計測誤差の小さい温度分布画像データを作成することができる。
【0008】
以下同様に、2回目以降のスキャンAでも、1回目のスキャンAと同様に、水シーケンスをn×n回実行し、代謝物シーケンスをn×n回実行し、温度分布画像データを作成する。したがって、スキャンAを実行するたびに、関心領域Rの温度分布画像データを作成することができるので、関心領域Rの温度の時間変化を知ることができる。
しかし、
図23に示す方法では、1枚の温度分布画像データを取得する場合、水シーケンスをn×n回実行し、更に代謝物シーケンスをn×n回実行しなければならないので、スキャン時間がかかるという問題がある。例えば、n=4の場合、1回のスキャンAで、水シーケンスを4×4=16回実行し、代謝物シーケンスを4×4=16回実行する必要がある。したがって、水シーケンスの繰り返し時間および代謝物シーケンスの繰り返し時間が1秒の場合、1回のスキャンAで、16秒+16秒=32秒の時間が必要となり、1枚の温度分布画像データを取得するのに32秒かかる。
【0009】
また、解像度を高くする場合、例えば、n=8とした場合、1回のスキャンAで、水シーケンスを8×8=64回実行し、代謝物シーケンスを8×8=64回実行する必要がある。したがって、水シーケンスの繰り返し時間および代謝物シーケンスの繰り返し時間を1秒とすると、1回のスキャンで、64秒+64秒=128秒の時間が必要となり、1枚の温度分布画像データを取得するのに128秒かかる。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑み、短いスキャン時間で温度分布画像データを取得することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
関心領域の各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む第1の水スペクトルと、代謝物の共鳴周波数を含む第1の代謝物スペクトルとを取得するための第1のスキャンと、
前記関心領域の各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む第2の水スペクトルを取得するとともに、前記関心領域の全領域に対して、代謝物の共鳴周波数を含む第2の代謝物スペクトルを取得するための第2のスキャンと、
を実行する手段と、
前記第1の代謝物スペクトルに基づいて、前記第1のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数を算出する算出手段と、
前記第1のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの水の共鳴周波数と、前記第1のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの代謝物の共鳴周波数とに基づいて、前記第1のスキャンにおける前記関心領域の温度分布画像データを作成する温度分布画像データ作成手段と、
を有し、
前記温度分布画像データ作成手段は、
(A)前記第1のスキャンにおける前記関心領域の温度分布画像データと、
(B)前記第1のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの水の共鳴周波数と、
(C)前記第1のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数と、
(D)前記第2のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの水の共鳴周波数と、
(E)前記第2のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数と、
に基づいて、前記第2のスキャンにおける前記関心領域の温度分布画像データを作成する、磁気共鳴イメージング装置である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
関心領域の各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む第1の水スペクトルと、代謝物の共鳴周波数を含む第1の代謝物スペクトルとを取得するための第1のスキャンと、
前記関心領域の各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む第2の水スペクトルを取得するとともに、前記関心領域の全領域に対して、代謝物の共鳴周波数を含む第2の代謝物スペクトルを取得するための第2のスキャンと、
を実行する手段と、
前記第1の代謝物スペクトルに基づいて、前記第1のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数を算出する算出手段と、
前記第2のスキャンにおける前記関心領域の温度分布画像データを作成する温度分布画像データ作成手段と、
を有し、
前記温度分布画像データ作成手段は、
(A)前記第1のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの代謝物の共鳴周波数と、
(B)前記第1のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数と、
(C)前記第2のスキャンにおける前記関心領域の各ボクセルの水の共鳴周波数と、
(D)前記第2のスキャンにおける前記関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数と、
に基づいて、前記第2のスキャンにおける前記関心領域の温度分布画像データを作成する、磁気共鳴イメージング装置である。
【発明の効果】
【0013】
第2のスキャンでは、関心領域の全領域に対して第2の代謝物スペクトルを取得すればよい。つまり、第2のスキャンでは、関心領域の各ボクセルごとに代謝物スペクトルを取得しなくてもよいので、スキャン時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることは無い。
【0016】
(1)第1の形態
図1は、本発明の第1の形態の磁気共鳴イメージング装置の概略図である。
【0017】
磁気共鳴イメージング装置(以下、「MRI装置」と呼ぶ。MRI:Magnetic Resonance Imaging)100は、磁場発生装置2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0018】
磁場発生装置2は、被検体12が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、送信コイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場B0を印加し、勾配コイル23は勾配磁場を印加し、送信コイル24はRFパルスを送信する。尚、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0019】
テーブル3は、クレードル31を有している。クレードル31は、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル31によって、被検体12はボア21に搬送される。
【0020】
受信コイル4は、被検体12からの磁気共鳴信号を受信する。
MRI装置100は、更に、シーケンサ5、送信器6、勾配磁場電源7、受信器8、中央処理装置9、操作部10、および表示部11を有している。
【0021】
シーケンサ5は、中央処理装置9の制御を受けて、被検体12を撮影するための情報を送信器6および勾配磁場電源7に送る。
【0022】
送信器6は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、RFコイル24を駆動する駆動信号を出力する。
【0023】
勾配磁場電源7は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、勾配コイル23を駆動する駆動信号を出力する。
【0024】
受信器8は、受信コイル4で受信された磁気共鳴信号を信号処理し、中央処理装置9に出力する。
【0025】
中央処理装置9は、シーケンサ5および表示部11に必要な情報を伝送したり、受信器8から受け取った信号に基づいて画像を再構成するなど、MRI装置100の各種の動作を実現するように、MRI装置100の各部の動作を制御する。中央処理装置9は、例えばコンピュータ(computer)によって構成される。中央処理装置9は、温度分布画像データ作成手段91および算出手段92などを有している。
【0026】
温度分布画像データ作成手段91は、スキャンAおよびB
1〜B
z(後述する
図2〜
図4参照)により取得されたスペクトルに基づいて、各スキャンにおける関心領域の温度分布を表す温度分布画像データを作成する。
【0027】
算出手段92は、スキャンAの代謝物シーケンスM
a(後述する
図3参照)により取得された代謝物スペクトルに基づいて、スキャンAにおける関心領域の全領域に対する代謝物の共鳴周波数を算出する。
【0028】
操作部10は、オペレータ13により操作され、種々の情報を中央処理装置9に入力する。表示部11は種々の情報を表示する。
【0029】
MRI装置100は、上記のように構成されている。
次に、被検体12を撮影するときに実行されるスキャンについて説明する。
【0030】
図2〜
図4は、第1の形態で実行されるスキャンの説明図である。
図2は、第1の形態で実行されるスキャンの概略を示す図である。
第1の形態では、スキャンAが1回だけ実行され、スキャンB
i(i=1〜z)が繰り返し実行される。
【0031】
図3は、スキャンAの説明図である。
スキャンAは、
図23に示すスキャンAと同じであり、水シーケンスWおよび代謝物シーケンスM
aを有している。
【0032】
水シーケンスWは、関心領域R(
図22参照)の各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む水スペクトルを取得するためのシーケンスである。代謝物シーケンスM
aは、関心領域Rの各ボクセルごとに、代謝物の共鳴周波数を含む代謝物スペクトルを取得するためのシーケンスである。水シーケンスWは、例えばPRESSである。代謝物シーケンスM
aは、水シーケンスWに、水信号を抑制するための水抑制部WSを追加することによって得られるものである。
【0033】
図4は、スキャンB
i(i=1〜z)の説明図である。
スキャンB
iは、水シーケンスWおよび代謝物シーケンスM
bを有している。
【0034】
水シーケンスWは、関心領域Rの各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を含む水スペクトルを取得するためのシーケンスである。代謝物シーケンスM
bは、関心領域Rの全領域に対して、代謝物の共鳴周波数を含む代謝物スペクトルを取得するためのシーケンスである。水シーケンスWは、
図3に示す水シーケンスWと同じであり、n×n回実行される。しかし、代謝物シーケンスM
bは、
図3に示す代謝物シーケンスM
aとは異なり、位相エンコードのための勾配磁場は与えないシーケンスであり、1回のみ実行される。
【0035】
代謝物シーケンスM
bは、位相エンコードのための勾配磁場は与えないシーケンスであるので、n×nの各ボクセルごとに代謝物スペクトルを取得するのではなく、関心領域Rの全領域に対して代謝物スペクトルを取得するシーケンスである。
【0036】
尚、
図4では、スキャンB
1について説明されているが、他のスキャンB
2〜B
zについても、スキャンB
1と同様に、水シーケンスWがn×n回実行され、代謝物シーケンスM
bは1回のみ実行される。
【0037】
第1の形態では、スキャンAおよびB
1〜B
zを実行し、各スキャンが行われたときの関心領域Rの温度分布画像データを取得する。以下では、先ず、スキャンAが行われたときの関心領域Rの温度分布画像データを取得する方法について説明し、次に、スキャンB
1〜B
zが行われたときの関心領域Rの温度分布画像データを取得する方法について説明する。
【0038】
図5は、スキャンAにより得られたスペクトルを示す図である。
スキャンAの水シーケンスWをn×n回実行することによって、関心領域Rの各ボクセルごとに水スペクトルWFが得られる。また、スキャンAの代謝物シーケンスM
aをn×n回実行することによって、関心領域Rの各ボクセルごとに代謝物スペクトルMF
aが得られる。
図5では、説明の便宜上、n=4、つまり、関心領域Rのボクセル数が4×4=16個としている。したがって、水スペクトルWFおよび代謝物スペクトルMF
aは、それぞれ16個得られる。
【0039】
そして、温度分布画像データ作成手段91(
図1参照)は、水スペクトルWFに基づいて、スキャンAにおける関心領域Rの各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を検出する。温度分布画像データ作成手段91は、更に、代謝物スペクトルMF
aに基づいて、スキャンAにおける関心領域Rの各ボクセルごとに、代謝物の共鳴周波数を検出する(
図6参照)。
【0040】
図6は、温度分布画像データ作成手段91により検出された共鳴周波数を示す図である。
【0041】
共鳴周波数テーブルwatermap_0は、関心領域Rの各ボクセルの水の共鳴周波数を表している。共鳴周波数テーブルwatermap_0において、各ボクセルの水の共鳴周波数は、f
pa(p=1〜4の整数、q=1〜4の整数)で表されている。
【0042】
また、共鳴周波数テーブルmetabmap_0は、関心領域Rの各ボクセルの代謝物の共鳴周波数を表している。共鳴周波数テーブルmetabmap_0において、各ボクセルの代謝物の共鳴周波数は、f
rs(r=1〜4の整数、s=1〜4の整数)で表されている。尚、代謝物スペクトルMF
aには、複数の代謝物の共鳴周波数のピークが現れるが、全ての代謝物の共鳴周波数を検出する必要は無く、いずれか一つの代謝物の共鳴周波数を検出すればよい。一般的には、検出精度を高めるという観点から、スペクトルの中に大きなピークとして現れやすい代謝物の共鳴周波数を検出する。このような代謝物の共鳴周波数としては、例えば、NAA(N-acetyl-L-aspartate)がある。そこで、第1の形態では、NAAの共鳴周波数を検出している。ただし、コリンなど、NAA以外の代謝物の共鳴周波数を検出してもよい。
【0043】
共鳴周波数テーブルwatermap_0およびmetabmap_0を作成した後、温度分布画像データ作成手段91(
図1参照)は、共鳴周波数テーブルwatermap_0およびmetabmap_0に基づいて、関心領域Rの絶対温度の分布を表す温度分布画像データtemp_map_0を作成する(
図7参照)。
【0044】
図7は、温度分布画像データtemp_map_0の一例を示す図である。
共鳴周波数テーブルwatermap_0が表す水の共鳴周波数f
paと、共鳴周波数テーブルmetabmap_0が表す代謝物の共鳴周波数f
rsとの差は、温度の関数になる。したがって、温度分布画像データ作成手段91は、水の共鳴周波数f
paと代謝物の共鳴周波数f
rsとの差に基づいて、関心領域Rの絶対温度の分布を表す温度分布画像データtemp_map_0を作成することができる。
【0045】
温度分布画像データtemp_map_0の各ボクセルは、温度が高いほど白色に近い色で表されており、一方、温度が低いほど黒に近い色で表されている。温度分布画像データtemp_map_0によって、スキャンAにおける関心領域Rの温度分布を知ることができる。
【0046】
また、第1の形態では、関心領域Rの各ボクセルごとに得られた代謝物スペクトルMF
aを加算し、スキャンAにおける関心領域Rの全領域に対するNAAの共鳴周波数を算出する(
図8参照)。
【0047】
図8は、スキャンAにおける関心領域Rの全領域に対するNAAの共鳴周波数f
M0を概略的に示す図である。
【0048】
第1の形態では、算出手段92(
図1参照)が、関心領域Rの各ボクセルの代謝物スペクトルMF
aを加算することにより加算スペクトルMF
addを求め、加算スペクトルMF
addから、スキャンAにおける関心領域Rの全領域に対するNAAの共鳴周波数f
M0を決定する。NAAの共鳴周波数f
M0は、スキャンB
i(i=1〜z)おける温度分布画像データを作成するときに使用されるものである。スキャンB
i(i=1〜z)における温度分布画像データを作成するときに、NAAの共鳴周波数f
M0がどのように使用されるかについては、後述する。
【0049】
次に、スキャンB
i(i=1〜z)における温度分布画像データを作成する手順について説明する。先ず、i=1、すなわち、スキャンB
1における温度分布画像データを作成する手順について、
図9〜
図14を参照しながら説明する。
【0050】
図9は、スキャンB
1により得られた水スペクトルおよび代謝物スペクトルを概略的に示す図である。
【0051】
スキャンB
1の水シーケンスWをn×n回実行することによって、関心領域Rの各ボクセルごとに水スペクトルWFが得られる。温度分布画像データ作成手段91は、水スペクトルWFに基づいて、スキャンB
1における関心領域Rの各ボクセルごとに、水の共鳴周波数を検出し、水の共鳴周波数テーブルwatermap_1を作成する。
図9では、各ボクセルの水の共鳴周波数は、f
tu(t=1〜4の整数、u=1〜4の整数)で表されている。
【0052】
また、スキャンB
1では、代謝物シーケンスM
bは1回のみ実行される。代謝物シーケンスM
bは、位相エンコードのための勾配磁場は与えないシーケンスであるので、代謝物シーケンスM
bを実行することによって、関心領域Rの全領域に対して代謝物スペクトルMF
bを取得することができる。温度分布画像データ作成手段91は、代謝物スペクトルMF
bに基づいて、スキャンB
1における関心領域Rの全領域に対するNAAの共鳴周波数f
M1を求めることができる。
【0053】
共鳴周波数テーブルwatermap_1およびNAAの共鳴周波数f
M1を求めた後、スキャンB
1における温度分布画像データを作成する。ただし、スキャンB
1では、NAAの共鳴周波数f
M1は、関心領域Rの各ボクセルごとに求められているわけではないので、水の共鳴周波数f
tuとNAAの共鳴周波数f
M1との差を求めるだけでは、十分な精度の温度分布画像データを求めることはできない。そこで、第1の形態では、以下のようにして、スキャンB
1における温度分布画像データを作成する。
【0054】
第1の形態では、スキャンB
1における温度分布画像データを作成する場合、先ず、スキャンAからスキャンB
1までの間に生じた温度変化を表す温度変化マップを作成する。以下に、温度変化マップの作成方法について説明する。
【0055】
図10〜
図13は、温度変化マップの作成方法の一例の説明図である。
図10は、スキャンAにより得られた共鳴周波数テーブルwatermap_0、NAAの共鳴周波数f
M0、および温度分布画像データtemp_map_0と、スキャンB
1により得られた共鳴周波数テーブルwatermap_1およびNAAの共鳴周波数f
M1とを示す図である。
【0056】
第1の形態では、温度変化マップを作成するに当たり、先ず、温度分布画像データ作成手段91が、スキャンB
1により得られた共鳴周波数テーブルwatermap_1から、スキャンAにより得られた共鳴周波数テーブルwatermap_0を減算する(
図11参照)。
【0057】
図11は、共鳴周波数テーブルwatermap_1から共鳴周波数テーブルwatermap_0を減算することにより得られた周波数変化テーブルwatermap_sub_1を示す図である。
【0058】
周波数変化テーブルwatermap_sub_1は、関心領域Rの各ボクセルにおける水の共鳴周波数の変化量Δf
vw(v=1〜4、w=1〜4)表している。
【0059】
水の共鳴周波数は、温度によって変化するという特性がある。したがって、周波数変化テーブルwatermap_sub_1の水の共鳴周波数の変化量Δf
vwは、スキャンAからスキャンB
1までの間に関心領域Rの温度がどれだけ変化したのかを求めるための指標として使用することができる。ただし、水の共鳴周波数は、関心領域Rの温度が原因で変化するだけでなく、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱も原因となって変化する。したがって、周波数変化テーブルwatermap_sub_1が表す水の共鳴周波数の変化量Δf
vwには、温度による変化分だけでなく、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱が原因で生じる変化分も含まれている。つまり、水の共鳴周波数の変化量Δf
vwは、以下の式(1)で近似することができる。
Δf
vw=Δf
temp+Δf
MRI ・・・(1)
ここで、Δf
temp:関心領域Rの温度による水の共鳴周波数の変化分
Δf
MRI:勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱が原因で生じる水の共鳴周波数の変化分
【0060】
したがって、周波数変化テーブルwatermap_sub_1だけでは、スキャンAからスキャンB
1までの間に生じた温度変化を精度よく求めることができない。そこで、温度分布画像データ作成手段91は、スキャンAとスキャンB
1との間に生じたNAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1も求める(
図12参照)。
【0061】
図12は、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を示す図である。
NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1は、以下の式によって求められる。
Δf
M1=f
M1−f
M0 ・・・(2)
ここで、 f
M0:スキャンAにおけるNAAの共鳴周波数
f
M1:スキャンB
1におけるNAAの共鳴周波数
【0062】
NAAが関心領域Rの中のどのボクセルに存在していても、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1にはそれほど違いが無いことが実験的にわかっている。例えば、関心領域Rの中のボクセルV
11(
図22参照)に存在するNAAの共鳴周波数がΔf
M1だけ変化した場合、他のボクセルV
12〜V
44に存在するNAAの共鳴周波数も、ほぼΔf
M1だけ変化することが実験的にわかっている。したがって、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1は、関心領域Rの各ボクセルごとに別個に求める必要は無く、関心領域Rの全領域に対して1つの値(Δf
M1)だけ求めればよい。
【0063】
NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を求めたら、温度分布画像データ作成手段91は、周波数変化テーブルwatermap_sub_1と、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1とに基づいて、スキャンAからスキャンB
1までの間に生じた温度変化を表す温度変化マップを作成する(
図13参照)。
【0064】
図13は、温度変化マップtemp_sub_1を示す図である。
温度分布画像データ作成手段91は、周波数変化テーブルwatermap_sub_1の各ボクセルの水の共鳴周波数の変化量Δf
vwから、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を減算する。Δf
vwとΔf
M1との差分は温度変化の関数であるので、Δf
vwからΔf
M1を減算することによって、温度変化マップtemp_sub_1を作成することができる。温度変化マップtemp_sub_1は、スキャンAからスキャンB
1までの間に関心領域Rの各ボクセルに生じた温度変化量を表している。温度変化マップtemp_sub_1の各ボクセルの値Δf
vw′(i=1〜4、j=1〜4)は、以下の式で表される。
Δf
vw′=Δf
vw−Δf
M1 ・・・(3)
ここで、 Δf
vw:周波数変化テーブルwatermap_sub_1の
各ボクセルの水の共鳴周波数の変化量
Δf
M1:NAAの共鳴周波数の変化量
【0065】
NAAの共鳴周波数は、関心領域Rの温度によってはほとんど変化しないので、式(3)におけるNAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1の大部分は、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱が原因で生じる変化分と考えることができる。したがって、式(3)に従って、Δf
vwからΔf
M1を減算することによって、Δf
vwに含まれるΔf
MRIの成分(式(1)参照)をほぼキャンセルすることができるので、誤差の少ない温度変化マップtemp_sub_1を作成することができる。
【0066】
温度変化マップtemp_sub1を作成した後、温度分布画像データ作成手段91は、
図14に示すように、温度変化マップtemp_sub1を、スキャンAにおける温度分布画像データtemp_map_0に加算する。このようにして、スキャンB
1における温度分布画像データtemp_map_1が求められる。
【0067】
上記の説明では、スキャンB
1における温度分布画像データtemp_map_1の作成方法について説明されている。しかし、スキャンB
2〜B
zについても、同様の手順で、温度分布画像データが作成される。例えば、スキャンB
kにおける温度分布画像データtemp_map_kを作成する場合は、
図15に示すように、先ず、スキャンB
kにおける共鳴周波数テーブルwatermap_kを作成し、NAAの共鳴周波数f
Mkを求める。そして、周波数変化テーブルwatermap_sub_kを作成し、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
Mkを求め、温度変化マップtemp_sub_kを作成する。温度変化マップtemp_sub_kを作成したら、温度変化マップtemp_sub_kを温度分布画像データtemp_map_0に加算する。これにより、スキャンB
kにおける温度分布画像データtemp_map_kが作成される。
【0068】
第1の形態では、スキャンB
iにおいて、スキャンAのように関心領域Rの各ボクセルごとに代謝物スペクトルを取得する必要は無く、関心領域Rの全領域に対して代謝物スペクトルMF
b(
図9参照)を取得すればよい。したがって、スキャンB
iで実行される代謝物シーケンスM
bには、位相エンコードのための勾配磁場が不要となるので(
図4参照)、スキャンB
iは、スキャンAよりも、スキャン時間を大幅に短縮することができる。
【0069】
図16は、スキャンAとスキャンB
iのスキャン時間の違いを説明する図である。
例えば、関心領域Rを4×4のマトリクスと考えると、スキャンAでは、水シーケンスを16回、代謝物シーケンスを16回行うので、各シーケンスの繰り返し時間を1秒とすると、スキャン時間は32秒となる。一方、スキャンB
iでは、水シーケンスを16回行うが、代謝物シーケンスは1回のみでよいので、各シーケンスの繰り返し時間を1秒とすると、スキャン時間は17秒となる。つまり、スキャンAについては32秒かかるが、スキャンA以降に実行されるスキャンB
i(i=1〜z)については、17秒ですむ。したがって、第1の形態の方法は、スキャンAを繰り返し実行する方法(
図23参照)と比較して、撮影を高速に行うことができる。
【0070】
尚、第1の形態では、スキャンAは、水シーケンスWをn×n回実行した後で、代謝物シーケンスM
aをn×n回実行している(
図3参照)。しかし、水シーケンスWと代謝物シーケンスM
aとを交互に実行してもよい(
図17参照)。
【0071】
図17は、スキャンAにおいて、水シーケンスWと代謝物シーケンスM
aとを交互に実行する場合の例を示す図である。
【0072】
水シーケンスWと代謝物シーケンスM
aとを交互に実行することにより、動きアーチファクトを低減することができる。
【0073】
尚、スキャンAにおいて、代謝物シーケンスM
aは、水抑制部WSが必要となるが、水シーケンスWは、水抑制部WSは不要である(
図3参照)。したがって、水シーケンスWの繰り返し時間TR
wは、代謝物シーケンスM
aの繰り返し時間TR
mよりも短くすることが可能である。ただし、水シーケンスWを実行しているときに流れる渦電流の影響と、代謝物シーケンスM
aを実行しているときに流れる渦電流の影響を、できるだけ均一になるようにするためには、水シーケンスWの繰り返し時間TR
wは、代謝物シーケンスMの繰り返し時間TR
mと同じにすることが望ましい。
【0074】
また、第1の形態では、スキャンB
iは、水シーケンスWをn×n回実行した後で、代謝物シーケンスM
bを1回実行している(
図4参照)。しかし、代謝物シーケンスM
bは、水シーケンスWよりも先に実行してもよいし、水シーケンスWと次の水シーケンスWとの間に実行してもよい。
【0075】
(2)第2の形態
第1の形態では、スキャンB
iにおける温度分布画像データtemp_map_iを作成する場合、スキャンAにより得られた以下の(i)〜(iii)の組み合わせSet1が使用されている。
(i)水の共鳴周波数テーブルwatermap_0
(ii)NAAの共鳴周波数f
M0
(iii)温度分布画像データtemp_map_0
【0076】
しかし、上記の(i)および(iii)の代わりに、スキャンAにおいて得られた代謝物の共鳴周波数テーブルmetabmap_0(
図6参照)を用いてもよい。つまり、上記の(i)〜(iii)の組み合わせSet1の代わりに、以下の(ii)および(iv)の組み合わせSet2を用いて、スキャンB
iにおける温度分布画像データtemp_map_iを作成してもよい。
(ii)NAAの共鳴周波数f
M0
(iv)代謝物の共鳴周波数テーブルmetabmap_0
【0077】
第2の形態では、温度分布画像データ作成手段91が、(i)〜(iii)の組み合わせSet1の代わりに、(ii)および(iv)の組み合わせSet2を用いて、スキャンB
iにおける温度分布画像データtemp_map_iを作成する例について説明する。
【0078】
図18〜
図21は、上記の組み合わせSet2を用いてスキャンB
iにおける温度分布画像データtemp_map_iを作成する一例の説明図である。尚、以下の説明では、i=1、すなわち、スキャンB
1における温度分布画像データtemp_map_1を作成する一例について説明するが、i≠1の場合でも、同じ方法で温度分布画像データを求めることができる。
【0079】
図18は、スキャンAにより得られたNAAの共鳴周波数f
M0および代謝物の共鳴周波数テーブルmetabmap_0と、スキャンB
1により得られた水の共鳴周波数テーブルwatermap_1およびNAAの共鳴周波数f
M1とを示す図である。
【0080】
第2の形態では、温度分布画像データ作成手段91は、スキャンAとスキャンB
1との間に生じたNAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を求める(
図19参照)。
【0081】
図19は、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を示す図である。
NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1の求め方は、第1の形態と同じである。NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を求めた後、NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を、スキャンAにおけるNAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_0に加算する(
図20参照)。
【0082】
図20は、スキャンAにおけるNAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_0にNAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を加算した後の様子を示す図である。
【0083】
NAAの共鳴周波数の変化量Δf
M1を、スキャンAにおけるNAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_0に加算することにより、スキャンB
1におけるNAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_1′が得られる。NAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_1′は、スキャンB
1における関心領域Rの各ボクセルのNAAの共鳴周波数の計算値Δf
xy′(x=1〜4、y=1〜4)を表している。NAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_1′を作成したら、温度分布画像データ作成手段91は、
図21に示すように、NAAの共鳴周波数テーブルmetabmap_1′を、スキャンB
1における水の共鳴周波数テーブルwatermap_1に加算する。これにより、スキャンB
1における温度分布画像データtemp_map_1が作成される。
【0084】
第2の形態においても、第1の形態と同様に、スキャンB
iにおいて、スキャンAのように関心領域Rの各ボクセルごとに代謝物スペクトルを取得する必要は無く、関心領域Rの全領域に対して代謝物スペクトルMF
b(
図9参照)を取得すればよい。したがって、スキャンB
iで実行される代謝物シーケンスM
bには、位相エンコードのための勾配磁場が不要となるので(
図4参照)、スキャンB
iは、スキャンAよりも、スキャン時間を大幅に短縮することができる。