特許第5738642号(P5738642)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738642
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】洋上風力発電設備の施工方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 9/06 20060101AFI20150604BHJP
   B63B 35/00 20060101ALI20150604BHJP
   B63B 43/06 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   B63B9/06 107A
   B63B35/00 T
   B63B43/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-67676(P2011-67676)
(22)【出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2012-201217(P2012-201217A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−223114(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0221112(US,A1)
【文献】 特表2005−519235(JP,A)
【文献】 特表平04−505643(JP,A)
【文献】 特開平02−125012(JP,A)
【文献】 特開平02−027122(JP,A)
【文献】 特開昭62−013613(JP,A)
【文献】 特開昭61−277713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 9/06
B63B 35/00
B63B 35/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体と、前記浮体に繋がれた係留索と、前記浮体の上に立設されるタワーと、このタワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備の施工方法であって、
前記浮体は、有底円筒形状のバラスト部と、このバラスト部の上面に連設された下側コンクリート浮体構造部と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部とからなるとともに、前記上側鋼製浮体構造部の上端は開口とされ、該上端の開口から前記バラスト部まで内部が仕切られることなく中空部とされたスパー型の浮体構造であり、
洋上設置場所に、砂、砂利、重晶石を含む鉱物類及び金属粉、金属粒を含む金属類のうち一種または複数種の組み合わせからなる水より高比重である粉粒状のバラスト材を搭載した材料船と大型ポンプを装備した浚渫船とを配置し、前記浮体を海上に直立に起立させた状態とし前記バラスト材と水又は海水とを前記材料船で混合した後、この混合したバラスト材を、前記浚渫船に延びるホースを通って流体輸送するとともに、前記浚渫船に装備された前記大型ポンプから前記開口を通じて前記浮体の内部の中空部に延びるホースを通って前記浮体内部まで流体輸送すると同時に、前記材料船に装備された吸引ポンプから前記開口を通じて前記浮体の内部の中空部に延びるホースを通って前記浮体内部の余剰水を汲み上げることにより、前記浮体内部へ目的とする重量のバラスト材を投入することを特徴とする洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項2】
前記浮体を直立状態とする前に、前記浮体を海上に横向きで浮かべ洋上設置場所まで曳航するか、前記浮体を台船で洋上設置場所まで運搬する手順を行う請求項1記載の洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項3】
前記浮体を洋上設置場所まで運搬した後、洋上設置場所において、前記浮体内部に水または海水を注入することによって浮体を直立状態に起立させる手順を行う請求項2記載の洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項4】
前記浮体内部から汲み上げられた余剰水は、前記バラスト材と混合する流体輸送用の水又は海水として循環利用する請求項1〜いずれかに記載の洋上風力発電設備の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的水深の深い海上に設置されるスパー型の洋上風力発電設備の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置式と、水上(主として海上)設置式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合は、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上は発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そこで、近年は洋上風力発電設備に浮体構造が多く提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、上下の蓋体と、これらの間に連続的に設置された筒状のプレキャストコンクリートブロックとがPC鋼材で一体接合されてなる下部浮体と、該下部浮体にPC鋼材で一体接合された、上記プレキャストコンクリートブロックよりも小径なプレキャストコンクリートブロックと上蓋とからなる上部浮体とから構成され、下部浮体の下部内側に隔壁によって複数のバラストタンクが形成され、上部浮体の内側には隔壁によって複数の水密区画部が形成された洋上風力発電の浮体構造が提案されている。この特許文献1は、釣浮きのように起立状態で浮くため「スパー型」と呼ばれている。
【0004】
前記スパー型浮体構造を有する洋上風力発電設備は、風車に作用する風荷重に対抗するため、浮体下部にバラストとして巨大な重量(バラストコンクリート)が充填されている。例えば、2MW級の風力発電設備になるとタワー高さが水面から60mを超えるので、風荷重に対抗するには水深60mの位置に1800t(トン)のバラスト重量を備えることが必要となる。
【0005】
一方、浮体は陸上の造船用ドック内で製作された後、曳航船により洋上設置場所まで運搬され、係留索により安定させ、ナセルや風車が設置される。
【0006】
前記浮体を洋上設置場所まで曳航するには、(1)予め浮体下部にバラストを充填しておき、浮体を直立させた状態で運搬する直立方式、(2)バラストが充填された浮体を横倒しし、浮体下部にバラスト重量に対抗し得る補助浮体を設置した状態で運搬する補助浮体方式(下記特許文献2参照)、(3)バラストを入れない浮体を横倒しした状態で運搬し、現地で直立させてバラストを投入する現地投入方式、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−18671号公報
【特許文献2】特開2009−248792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記直立方式は、ノルウェーなどの水深が深く波が穏やかなフィヨルド地形を有する一部の国などで採用実績があるだけで、日本の近海ではフィヨルドのような地形が少なく、湾内の岸壁近くで水深70mとなる場所を確保することは困難であるため、湾内の岸壁でバラストを投入し直立状態で運搬することは困難であった。従って洋上設置場所で浮体を直立状態に起立させ、バラストを投入する手段が多く採用されていた。
【0009】
また、前記補助浮体方式では、前述の通り2MW級で1800tのバラスト重量となるため、このような巨大なバラスト重量を浮かせるには巨大な補助浮体を設置しなければならず現実的ではなかった。
【0010】
さらに、前記現地投入方式では、洋上設置場所というのは元々風が強く波高が高い場所であるため、バラストを投入する作業中に、浮体及びコンクリートプラント船やクレーン船が大きく揺れて、コンクリートプラント船の利用やクレーン船でバラストを投入することが困難であった。
【0011】
一方、前記バラストとしては、バラスト水(海水や真水)やコンクリートを注入することが提案されていが、バラスト水だけでは重心が高く浮体の安定性に欠ける場合があり、コンクリート注入では浮体内部で固化するため撤去時に解体が困難になるという欠点があった。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、スパー型浮体構造を有する洋上風力発電設備の施工において、バラスト材の投入を容易にするとともに、浮体の安定性が確保でき、洋上風力発電設備の撤去時にもバラスト材の除去を容易にした洋上風力発電設備の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、浮体と、前記浮体に繋がれた係留索と、前記浮体の上に立設されるタワーと、このタワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備の施工方法であって、
前記浮体は、有底円筒形状のバラスト部と、このバラスト部の上面に連設された下側コンクリート浮体構造部と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部とからなるとともに、前記上側鋼製浮体構造部の上端は開口とされ、該上端の開口から前記バラスト部まで内部が仕切られることなく中空部とされたスパー型の浮体構造であり、
洋上設置場所に、砂、砂利、重晶石を含む鉱物類及び金属粉、金属粒を含む金属類のうち一種または複数種の組み合わせからなる水より高比重である粉粒状のバラスト材を搭載した材料船と大型ポンプを装備した浚渫船とを配置し、前記浮体を海上に直立に起立させた状態とし前記バラスト材と水又は海水とを前記材料船で混合した後、この混合したバラスト材を、前記浚渫船に延びるホースを通って流体輸送するとともに、前記浚渫船に装備された前記大型ポンプから前記開口を通じて前記浮体の内部の中空部に延びるホースを通って前記浮体内部まで流体輸送すると同時に、前記材料船に装備された吸引ポンプから前記開口を通じて前記浮体の内部の中空部に延びるホースを通って前記浮体内部の余剰水を汲み上げることにより、前記浮体内部へ目的とする重量のバラスト材を投入することを特徴とする洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、浮体の直立状態で、水より高比重である粉粒状のバラスト材と、水又は海水とを混合して浮体内部まで流体輸送するとともに、浮体内部から余剰水を汲み上げるようにして前記浮体内部へバラスト材の投入を行っているため、高比重で粉粒状のバラスト材を水と混合させた流体輸送により、浮体内部にまで延びるホースを通じてポンプで圧送することができ、波高の高い洋上でもバラスト材の投入が容易に行えるようになる。また、浮体内部に投入されたバラスト材は比重差により浮体底部に沈降するため、浮体底部の重量が増し、浮体の安定性が確保できるようになる。さらに、浮体内部の余剰水を汲み上げているので、浮体の安定性が確保できるとともに、洋上風力発電設備の撤去時には逆に水を注入しながら、バラスト材を流体輸送によって引き抜くことにより、バラスト材の除去が容易になる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記浮体を直立状態とする前に、前記浮体を海上に横向きで浮かべ洋上設置場所まで曳航するか、前記浮体を台船で洋上設置場所まで運搬する手順を行う請求項1記載の洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、浮体内部にバラストを投入せずに、浮体を海上に横向きで浮かべ、洋上設置場所まで曳航するか、前記浮体を台船で洋上設置場所まで運搬した後、浮体を直立状態とするので、近海の水深が浅いところでも運搬が可能になるとともに、バラスト材を投入していないので、巨大な補助浮体や大型台船が不要となり、浮体の運搬が容易となる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記浮体を洋上設置場所まで運搬した後、洋上設置場所において、前記浮体内部に水または海水を注入することによって浮体を直立状態に起立させる手順を行う請求項2記載の洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、洋上設置場所において、横向きで浮かぶ浮体に対し、浮体内部に水または海水を注入することによって浮体を直立状態に起立させるようにしている。直立状態とした後、上記請求項1記載の手順により浮体内部にバラスト材を投入する。
【0019】
請求項に係る本発明として、前記浮体内部から汲み上げられた余剰水は、前記バラスト材と混合する流体輸送用の水又は海水として循環利用する請求項1〜いずれかに記載の洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0020】
上記請求項記載の発明では、浮体内部から汲み上げた余剰水の利用方法について規定したものであり、この余剰水をバラスト材との混合水として再利用することにより、水が循環利用でき海洋への影響を最小限に抑えることができるようになる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、スパー型浮体構造を有する洋上風力発電設備の施工において、バラスト材の投入を容易にするとともに、浮体の安定性が確保でき、洋上風力発電設備の撤去時にもバラスト材の除去を容易にした洋上風力発電設備の施工方法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る洋上風力発電設備1の概略図である。
図2】浮体2の縦断面図である。
図3】プレキャスト筒状体12(13)を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
図4】プレキャスト筒状体12(13)同士の緊結要領図(A)(B)である。
図5】上側鋼製浮体構造部を示す縦断面図である。
図6】洋上風力発電設備1の施工手順図(その1)である。
図7】洋上風力発電設備1の施工手順図(その2)である。
図8】洋上風力発電設備1の施工手順図(その3)である。
図9】洋上風力発電設備1の施工手順図(その4)である。
図10】洋上風力発電設備1の施工手順図(その5)である。
図11】洋上風力発電設備1の施工手順図(その6)である。
図12】洋上風力発電設備1の施工手順図(その7)である。
図13】洋上風力発電設備1の施工手順図(その8)である。
図14】洋上風力発電設備1の施工手順図(その9)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
〔洋上風力発電設備の構造例〕
図1に示されるように、洋上風力発電設備1は、浮体2と、この浮体2の上部に設置されるデッキ3と、前記浮体2に繋がれた係留索4、4…と、前記デッキ3の上に立設されるタワー5と、このタワー5の頂部に設備されるナセル6及び複数の風車ブレード7,7…からなるものである。
【0025】
そして、前記浮体2は、図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体12〜13を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体12〜13をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部2Aと、この下側コンクリート製浮体構造部2Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部2Bとからなるとともに、上端部を開口させた有底中空部を有するスパー型の浮体構造とし、前記タワー5は少なくとも施工時に前記デッキ3上に設けたタワー昇降設備によって昇降自在とされ、前記浮体2内部に収容可能となっているものである。前記浮体2の吃水Lは、2MW級発電設備の場合概ね60m以上に設定される。
【0026】
以下、更に具体的に詳述する。
【0027】
前記浮体2は、図2に示されるように、有底円筒形状のバラスト部10と、このバラスト部10の上面に連設された下側コンクリート浮体構造部2Aと、この下側コンクリート浮体構造部2Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部2Bとからなる。前記バラスト部10及び下側コンクリート浮体構造部2Aはすべてコンクリートのプレキャスト部材とされる。下側コンクリート浮体構造部2Aと上側鋼製浮体構造部2Bとの境界部に合成プレキャスト部材13が介在され、両者が接合されている。前記上側鋼製浮体構造部2Bは、高さ方向に段階的に外径寸法が縮小される変断面形状としてある。図示例では2段階の変断面形状としてある。
【0028】
前記下側コンクリート浮体構造部2Aは、コンクリート製のプレキャスト筒状体12…と、合成プレキャスト部材13の下半部分とで構成されている。前記プレキャスト筒状体12は、図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0029】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼棒19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼棒19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0030】
プレキャスト筒状体12同士の緊結は、図4(A)に示されるように、下段側プレキャスト筒状体12から上方に延長されたPC鋼棒19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体12,12を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼棒19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0031】
次に、図4(B)に示されるように、PC鋼棒19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼棒19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体12のシース21、21…に前記PC鋼棒19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼棒19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側プレキャスト筒状体12と上段側プレキャスト筒状体12との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0032】
次いで、前記合成プレキャスト部材13は、図5にも示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体16と鋼製筒状体17との合成構造である。これらは一体的に製作される。前記プレキャスト筒状体16は、前記鋼製筒状体17の肉厚分の厚さを減じた外径寸法とされ、この外周に前記鋼製筒状体17の下半部分が外嵌された構造とし、前記プレキャスト筒状体16の上端面がPC鋼棒19の締結面とされる。
【0033】
前記上側鋼製浮体構造部2Bは、前記合成プレキャスト部材13の上半部分と、鋼製筒状体14,15とで構成されている。下段側の鋼製筒状体14は、合成プレキャスト部材13と同一の外径寸法とされ、合成プレキャスト部材13に対して、ボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。上段側の鋼製筒状体15は、前記下段側の鋼製筒状体14よりも外径寸法が縮小され、変断面形状とされ、下段側の鋼製筒状体14に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。前記上段側鋼製筒状体15の上端は開口のままとされるとともに、前記上段側鋼製筒状体15及び下段側鋼製筒状体14との境界部及び下段側鋼製筒状体14と鋼製筒状体17との境界部は空間が仕切られておらず、浮体2内部にはタワー5を収容するための中空部が形成されている。
【0034】
一方、前記タワー5は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。また、前記ナセル6は、風車の回転を電気に変換する発電機やブレードの角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0035】
〔施工手順〕
以下、図6図14に基づき、前記洋上風力発電設備1の施工手順について詳述する。
【0036】
(第1手順)
製作ヤードに隣接した洋上において、図6に示されるように、浮体2内部にタワー5を収容した状態で海上に横向きで浮かべた後、曳航船18により洋上設置場所まで曳航する。なお、下側コンクリート浮体構造部2Aと、上側鋼製浮体構造部2Bとでは、下側コンクリート浮体構造部2A側の方が重いため、バランス調整用浮体32を浮かべるとともに、この浮体上に設置したウインチ33から繰り出されたワイヤの一端を下側コンクリート浮体構造部2Aの端部に連結し、浮体2が水平になるように調整する。なお、浮体2内部にタワー5を収容した状態で、前記上段側鋼製筒状体15の上端開口は塞がれている。また、浮体2は、海上に横向きで浮かべた状態でバラスト水31(水又は海水)を注水し、吃水を調整するようにしてもよい。このように本施工方法では、横向きに浮かべた状態で安定して曳航できるため、浮体2の組み立てドック内から直接洋上設置場所まで曳航することが可能となる。
【0037】
前記曳航船18により曳航する方法に代えて、図示しないが、浮体2を台船に搭載して洋上設置場所まで運搬し、洋上設置場所にてクレーンで洋上に浮かべる方法としてもよい。この場合、浮体2内にはバラスト水やバラスト材を投入しておかないことが好ましい。
【0038】
(第2手順)
図7に示されるように、洋上設置場所に到着したならば、バラスト水31(水又は海水)を注水するとともに、前記バランス調整用浮体32上のウインチ33からワイヤを徐々に繰り出すことにより、ゆっくりと浮体2を直立状態に起立させる。本施工方法では、横向きの浮体2を直立状態に起立させるのに大規模な起重機が不要となるため、大幅なコスト低減が可能となる。なお、この状態ではバラスト水31を注水しただけなので、重心が高く、起立した浮体2が不安定な状態にある。
【0039】
(第3手順)
図8に示されるように、前記洋上設置場所に、バラスト材43を搭載した材料船40と大型ポンプ42を装備した浚渫船41とを配置する。前記材料船40に搭載されたバラスト材43は、材料船40で混合水(水又は海水)と混合された後、浚渫船41に延びるホースを通って浚渫船41に流体輸送されるとともに、浚渫船41に装備された大型ポンプ42から浮体2内部に延びるホースを通って浮体2の内部に投入される。これと同時に、浮体2内部の余剰水は、材料船40に装備された吸引ポンプによって汲み上げられる。浮体2内部に投入されたバラスト材43は、比重差により浮体2の底部に沈降する。バラスト材43の投入により浮体2の吃水が徐々に高くなるので、それに伴いバランス調整用浮体32上のウインチ33からワイヤを繰り出すことにより、浮体2の直立状態を保持する。
【0040】
前記バラスト材43としては、水より高比重である粉粒状のものが使用され、具体的には、砂、砂利、重晶石を含む鉱物類及び鉄、鉛等の金属粉、金属粒を含む金属類のうち一種または複数種の組み合わせからなるものとすることが好ましい。また、適宜モルタルを混合することもできる。バラスト材43の材質を調整することで、適切な比重のバラスト材43が投入できるようになる。
【0041】
前記バラスト材43として、高比重粉粒状物だけを使用するとともに、コンクリートなどの固化材を混合しないことにより、洋上風力発電設備の撤去時には、逆に水を注入しながら、バラスト材43を流体輸送によって引き抜くことにより、バラスト材43を容易に取り除くことができ、バラスト材43の除去後は浮体2を横向きで曳航して陸上まで運搬することが可能となる。
【0042】
また、浮体2内部に投入したバラスト材43の締固めが必要な場合には、振動などを併用して締固めることができる。
【0043】
前記余剰水とは、浮体2の内部に注入されたバラスト材43以外の水又は海水のことであり、浮体2を起立させるためのバラスト水31及びバラスト材43を流体輸送するための混合水のことである。この余剰水は浮体2内部から完全に汲み上げる必要はなく、例えばバラスト材43の積層高さより上方の余剰水を汲み上げるようにしてもよい。
【0044】
材料船40の吸引ポンプによって汲み上げられた余剰水は、前記バラスト材43と混合する流体輸送用の水又は海水として循環利用することが好ましい。このように水又は海水を循環利用することにより、海洋への影響を最小限に抑えることができる。
【0045】
目的とする重量のバラスト材43を投入したならば、余剰水の汲み上げ/引き抜きなどにより浮体2内部のバラスト水の量を調整し、浮体2を目標の吃水位置にセットする。
【0046】
本施工方法では、バラスト材43が混合された水又は海水とともに、浮体2内部に延びるホースを通って流体輸送されるため、従来のように、波高が高い洋上の場合は、浮体及びクレーン船が揺動してバラスト材をバケット投入できないなどの問題を回避しながら、比較的波による揺動の影響を受けずに安全かつ確実に施工ができるようになる。また、材料船40や浚渫船41など、既存の設備が使用できるのでコストダウンが可能となる。
【0047】
(第4手順)
図10に示されるように、浮体2内部にバラスト材43の投入を完了したならば、浮体2の上部にデッキ3を設置するとともに、前記浮体2に係留索4の一端を繋ぎ止めるとともに、他端を海底に沈設したアンカーに繋ぎ留めて浮体2の安定を図る。
【0048】
(第5手順)
図11に示されるように、デッキ3上にタワー昇降設備8を設置し、タワー5の引上げ作業に入る。前記タワー昇降設備8は、例えば同図に示されるように、タワー5の基部周囲に所定の間隔でセンターホールジャッキ9,9…を配置するとともに、PC鋼線10の一端をシーブ11を巻回させた後、センターホールジャッキ9を通してタワー5の下端に緊結し、前記センターホールジャッキ9の伸縮操作により、タワー5の下降と上昇とを可能とした設備である。
【0049】
図12に示されるように、前記タワー昇降設備8により、タワー5を任意の高さ位置まで引き上げた状態で、前記ナセル6を設置するとともに、2枚の風車ブレード7,7を設置する。
【0050】
その後、図13に示されるように、若干タワー5を引き上げて、残りの風車ブレード7を取り付ける。
【0051】
(第6手順)
すべての部材取付け作業を終えたならば、図14に示されるように、前記タワー昇降設備8によってタワー5を上昇させ、タワー固定用ベース金具34等によりタワー5を正規の高さ位置に固定し施工を完了する。
【0052】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、前記タワー昇降設備8を撤去したが、残置しておき、その後のメンテナンス時や強風、波浪時にタワー5を下降させる際に使用できるようにしてもよい。もちろん、タワー下降作業時にタワー昇降設備8を新たに設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…洋上風力発電設備、2…浮体、3…デッキ、4…係留索、5…タワー、6…ナセル、7…風車ブレード、8…タワー昇降設備、40…材料船、41…浚渫船、42…大型ポンプ、43…バラスト材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14