(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料上で電子ビームを走査し、電子ビームの走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて電子顕微鏡像を生成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記検出器からの検出信号を取得する取得工程と、
電子ビームが電子顕微鏡像を構成する所与のピクセルに対応する試料上の位置を照射しているときに、連続的に取得された複数の検出信号の平均値を求める処理と、求めた平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理とを、前記所定の条件を満たすと判定されるまで繰り返す判定工程と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、求めた平均値を当該電子ビーム照射位置に対応するピクセルにおける検出信号の値として出力する出力工程と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、電子ビームの走査として電子ビームの照射位置を移動させるための制御を行う制御工程とを含む、電子顕微鏡の制御方法。
試料上で電子ビームを走査し、電子ビームの走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて電子顕微鏡像を生成する電子顕微鏡が備えるコンピュータを、
前記検出器からの検出信号を取得する取得部と、
電子ビームが電子顕微鏡像を構成する所与のピクセルに対応する試料上の位置を照射しているときに、連続的に取得された複数の検出信号の平均値を求める処理と、求めた平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理とを、前記所定の条件を満たすと判定されるまで繰り返す判定部と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、求めた平均値を当該電子ビーム照射位置に対応するピクセルにおける検出信号の値として出力する出力部と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、電子ビームの走査として電子ビームの照射位置を移動させるための制御を行う制御部として機能させるためのプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の走査電子顕微鏡では、スキャン(走査)を開始する前に走査速度を設定しており、スキャンの途中で走査速度を変更することはできない。すなわち、1フレームを一定の走査速度で走査している。ここで、1フレームの画像(電子顕微鏡像)において輝度の高い領域(明るい領域)と輝度の低い領域(暗い領域)とが存在する場合に、明るい領域において検出信号のばらつきが大きく、暗い領域において検出信号のばらつきが小さくなる現象が生じる。また、装置の外乱ノイズが不均一な場合や、試料内で局所的に帯電が起こった場合にも、1フレームの画像上で検出信号のばらつきの大きい領域とばらつきの小さい領域が生じる。このような場合に、走査速度を小さくすると検出信号のデータ量が増えて、その結果明るい領域での検出信号の平均値(輝度値)の信頼性を上げることはできるものの、もともと信号ばらつきの小さい領域(暗い領域)では、その輝度値の信頼性は既に相対的に高くなっており、信号ばらつきの小さい領域についての走査時間が不要に長くなってしまう。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、画像を構成する各画素(ピクセル)の輝度値の信頼性が全体として均一な画像を得ることができ、且つ、1フレーム分の画像の取得に要する時間を効果的に短縮することが可能な、電子顕微鏡の制御方法、電子顕微鏡、プログラム及び情報記憶媒体を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、試料上で電子ビームを走査し、電子ビームの走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて電子顕微鏡像を生成する電子顕微鏡の制御方法であって、
前記検出器からの検出信号を取得する取得工程と、
電子ビームが電子顕微鏡像を構成する所与のピクセルに対応する試料上の位置を照射しているときに、連続的に取得された複数の検出信号の平均値を求める処理と、求めた平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理とを、前記所定の条件を満たすと判定されるまで繰り返す判定工程と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、求めた平均値を当該照射位置に対応する電子顕微鏡像のピクセル値として出力する出力工程と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、電子ビームの走査として電子ビームの照射位置を移動させるための制御を行う制御工程とを含む。
【0007】
また本発明は、試料上で電子ビームを走査し、電子ビームの走査に基づき試料から生じる信号を検出する検出器からの検出信号に基づいて電子顕微鏡像を生成する電子顕微鏡であって、
前記検出器からの検出信号を取得する取得部と、
電子ビームが電子顕微鏡像を構成する所与のピクセルに対応する試料上の位置を照射しているときに、連続的に取得された複数の検出信号の平均値を求める処理と、求めた平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理とを、前記所定の条件を満たすと判定されるまで繰り返す判定部と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、求めた平均値を当該照射位置に対応する電子顕微鏡像のピクセル値として出力する出力部と、
前記所定の条件を満たすと判定された場合に、電子ビームの走査として電子ビームの照射位置を移動させるための制御を行う制御部とを含む。
【0008】
また本発明は、上記各部(取得部、判定部、出力部、制御部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムに関する。また本発明は、コンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体であって、上記各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶した情報記憶媒体に関する。
【0009】
ここで、「試料から生じる信号」とは、本発明を走査型電子顕微鏡(SEM)に適用する場合には、試料から放出される二次電子或いは反射電子又は試料からの吸収電流であり、本発明を走査透過型電子顕微鏡(STEM)に適用する場合には、試料を透過した透過電子である。
【0010】
本発明によれば、あるピクセルに対応する検出信号の平均値(輝度値)の信頼性が所定の条件を満たさない場合(例えば、信号のばらつきが大きいために当初の当該信頼性が低い場合)には、当該ピクセルに対応する試料上の位置で取得する検出信号の数を当該ピクセルに対応する信号を検出しながら多くし、一方、検出信号の平均値の信頼性が既に所定の条件を満たすピクセルの場合(例えば、検出信号のばらつきが小さいので、当初から当該信頼性が高くなっている場合)には、そのピクセルに対応する試料上の位置で取得する検出信号の数を少なくすることができる。すなわち本発明によれば、検出信号のばらつきに応じて走査速度(所与のピクセルに対応する試料上の照射位置で取得する検出信号の数、電子ビームの試料上での当該照射位置における残留時間)を変更することで、全体として各ピクセルの輝度値の信頼性が均一な画像(電子顕微鏡像)を得ることができ、且つ、1フレーム分の画像の取得に要する時間を効果的に短縮することができる。
【0011】
(2)また、本発明に係る電子顕微鏡の制御方法では、
前記判定工程において、
取得された複数の検出信号の母集団が属する分布の期待値が、求めた平均値に基づき決定される信頼区間に含まれる確率を求め、求めた確率が所定の閾値を超えた場合に、前記所定の条件を満たすと判定してもよい。
【0012】
また本発明に係る電子顕微鏡、プログラム及び情報記憶媒体では、
前記判定部が、
取得された複数の検出信号の母集団が属する分布の期待値が、求めた平均値に基づき決定される信頼区間に含まれる確率を求め、求めた確率が所定の閾値を超えた場合に、前記所定の条件を満たすと判定してもよい。
【0013】
本発明によれば、各ピクセルにおける検出信号の平均値の信頼性を一定にすることができ、全体として各ピクセルの輝度値が均一な信頼性を有する画像を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
1.構成
図1に、本実施形態に係る電子顕微鏡の構成の一例を示す。ここでは、電子顕微鏡が、走査型電子顕微鏡(SEM)の構成を有する場合について説明するが、本発明を走査透過型電子顕微鏡(STEM)に適用してもよい。なお本実施形態の電子顕微鏡は
図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0017】
図1に示すように、電子顕微鏡100は、電子銃4と、コンデンサレンズ6と、コンデンサレンズ制御装置7と、走査コイル8と、走査コイル制御装置9と、対物レンズ10と、対物レンズ制御装置11と、ステージ12と、ステージ制御装置13と、検出器14と、増幅器15と、処理部20と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、情報記憶媒体36とを含んでいる。
【0018】
電子銃4は、電子を加速し電子ビームBを発生する。電子銃制御装置5は、電子銃4の加速電圧等を制御する。コンデンサレンズ6は、試料Sに到達する電子ビームBの照射電流量及び開き角を制御するものであり、コンデンサレンズ制御装置7により制御される。対物レンズ10は、電子ビームBを試料Sの表面で集束させるためのものであり、対物レンズ制御装置11により制御される。走査コイル8は、対物レンズ10によって集束された電子ビームBの試料S上での走査を行うための電磁コイルであり、走査コイル制御装置9により制御される。ステージ12は、ステージ制御装置13により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。電子銃4、コンデンサレンズ6、走査コイル8及び対物レンズ10は、電子顕微鏡の鏡筒2に設置されている。
【0019】
検出器14は、集束された電子ビームBの走査に基づいて試料Sから放出される二次電子や反射電子(電子ビームBの走査に基づき試料Sから生じる信号の一例)を検出する。検出器14によって検出された検出信号(二次電子や反射電子の強度信号)は、増幅器15によって増幅された後、処理部20に供給される。
【0020】
操作部30は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部30の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0021】
表示部32は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部32は、処理部20により生成された、電子顕微鏡像(集束された電子ビームBの走査に基づく試料Sの二次電子像或いは反射電子像等の走査像)を表示する。
【0022】
記憶部34は、処理部20のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体36(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、磁気テープ、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部20は、情報記憶媒体36に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体36には、処理部20の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0023】
処理部20は、コンデンサレンズ制御装置7、走査コイル制御装置9、対物レンズ制御装置11及びステージ制御装置13を制御する処理や、増幅器15によって増幅された検出信号を、走査コイル制御装置9に供給される電子ビームBの走査信号と同期された画像データ(電子顕微鏡像となる走査像データ)とする処理などの処理を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、取得部22と、判定部24と、出力部26と、制御部28とを含む。
【0024】
取得部22は、増幅器15によって増幅された検出信号を取得する。
【0025】
判定部24は、取得部22によって取得された複数の検出信号の平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理を行う。具体的には、判定部24は、電子ビームBが電子顕微鏡像を構成する所与のピクセルに対応する試料S上の同一位置を照射しているときに取得部22で連続的に取得された複数の検出信号の平均値を求める処理と、求めた平均値に基づき前記複数の検出信号の平均値の信頼性が所定の条件を満たすか否かを判定する処理とを、前記所定の条件を満たすと判定されるまで繰り返す。
【0026】
この場合、判定部24は、取得された複数の検出信号の母集団が属する分布の期待値が、求めた平均値に基づき決定される信頼区間に含まれる確率を前記信頼性として求め、求めた確率が所定の閾値を超えた場合に、前記複数の検出信号の平均値の信頼性が前記所定の条件を満たすと判定し、求めた確率が所定の閾値を超えていない場合に、前記複数の検出信号の平均値の信頼性が前記所定の条件を満たさないと判定することができる。
【0027】
出力部26は、判定部24によって前記複数の検出信号の平均値の信頼性が前記所定の条件を満たすと判定された場合に、求めた平均値を、そのときの電子ビームBによる試料S上での照射位置に対応する電子顕微鏡像のピクセル値(輝度値)として出力する。ここで、電子顕微鏡像は、電子ビームBの走査に基づく走査像(SEM画像)からなる。
【0028】
制御部28は、判定部24によって前記所定の条件を満たすと判定された場合に、電子ビームBの走査として電子ビームBの試料S上での照射位置を移動させるための制御信号(走査信号)を生成し、生成した制御信号を走査コイル制御装置9に出力する。
【0029】
なお、本実施形態の電子顕微鏡100が試料Sからの吸収電流を測定可能な構成であれば、電子ビームBの走査に基づく試料Sからの吸収電流を検出信号として取得してもよい。また、本発明を走査透過型電子顕微鏡(STEM)に適用する場合には、電子ビームBの走査に基づき試料Sを透過する透過電子を検出信号として取得する。
【0030】
2.本実施形態の手法
次に本実施形態の手法について図面を用いて説明する。
【0031】
図2は、電子顕微鏡像の一例であって、カーボンの被蒸着材の表面に蒸着により複数の金粒子を形成してなる試料Sを撮像したSEM画像である。
図2に示す画像のように、輝度の高い領域(明るい領域、金粒子の部分)と輝度の低い領域(暗い領域、カーボンの部分)が存在する場合に、明るい領域において信号のばらつきが大きく、暗い領域において信号のばらつきが小さくなる現象が生じる。すなわち、電子ビームBが試料S上の同一位置を照射しているときに検出される複数の検出信号(検出信号の母集団)のばらつきが、明るい領域においては大きくなり、暗い領域においては小さくなる。
【0032】
このような現象は、
図3に示すように、検出信号の母集団の分布が近似的にポアソン分布(Poisson分布)に従うことに起因するものである。すなわち、検出信号の母集団が属する期待値μが低い分布(一例としてμ=5、暗い領域における検出信号の分布)の幅は狭くなり、期待値μが高い分布(一例としてμ=50、明るい領域における検出信号の分布)の幅は広くなるため、試料S上の明暗によって信号のばらつきが不均一となる。
【0033】
電子顕微鏡像を生成する場合、電子ビームBが試料S上の同一位置を照射しているときに連続的に取得される複数の検出信号(検出信号の母集団)の平均値mを次式により算出し、算出した平均値mを電子顕微鏡像の当該照射位置に対応するピクセル値(輝度値、表示値)として出力する。
【0035】
ここで、Nはサンプル数(同一位置で取得する検出信号の数)であり、a
iは各検出信号の値である。サンプル数Nは電子ビームBの走査速度により決定され、走査速度が速いほどサンプル数Nは少なくなり、走査速度が遅いほどサンプル数Nは多くなる。
【0036】
図4は、電子ビームBが試料S上の同一位置を照射しているときに連続的に検出される検出信号a
iと、各サンプル数で算出される平均値mと、検出信号の母集団が属する分布の期待値μとの関係をシミュレーションした結果を示す図である。
図4に示すように、サンプル数Nが多くなるほど平均値mと期待値μとの差が確率的に小さくなる。すなわち、走査速度を下げてサンプル数Nを増やすことで、ピクセル値(平均値m)を実際の試料Sの状況(期待値μ)に確率的に近づかせることができる。
【0037】
図5は、期待値μの異なる2つの分布について、
図4と同様のシミュレーションを行った結果を示した図である。2つの母集団の分布はポアソン分布に従い、それぞれμ=150とμ=15の期待値をもつ。
図5に示すように、μ=150の場合とμ=15の場合ともにサンプル数Nが多くなるほど平均値mが期待値μに確率的に近づいていく。ただし、μ=150の場合のほうがμ=15の場合よりも、平均値mと期待値μとの差が平均的に大きくなっている。すなわち、期待値μによらず平均的に同じ程度で期待値μから離れている平均値mを得る(各ピクセルの輝度値の信頼性が均一な電子顕微鏡像を得る)ためには、期待値μの高い母集団のサンプル数Nを、期待値μの低い母集団のサンプル数Nよりも多くする必要がある。
【0038】
本実施形態では、検出信号の平均値の信頼性を評価し、当該信頼性が所定の条件に入っていないと評価される場合にはサンプル数Nを多く(すなわち、走査速度を遅くして、その照射位置における電子ビームBの残留時間を長く)し、一方、当該信頼性が既に所定の条件に入っている場合にはサンプル数Nを小さく(すなわち、走査速度を速くして、その照射位置における電子ビームBの残留時間を短く)する制御を行う。当該信頼性の評価は、検出信号の母集団の平均値mと期待値μとの差を算出することができれば簡単に行うことができるが、期待値μを知ることはできないため、確率的な要素を考慮する必要がある。
【0039】
そこで本実施形態では、当該信頼性を評価するために、「信頼区間」の理論を用いる。
図6(A)は、同一照射位置で連続的に検出される検出信号a
iと、各サンプル数における平均値mと、検出信号の母集団が属する分布の期待値μとの関係を示す図である。まず、
図6(A)に示すように、平均値mに対して±k(すなわち、2k)の幅をもつ信頼区間を設定する。すなわち、平均値mと信頼区間m±kとをサンプル毎に算出する。更に、期待値μが信頼区間m±kに位置する確率γをサンプル毎に算出する。
【0040】
図6(B)は、
図6(A)の例において算出した確率γのシミュレーション結果を示す図である。
図6(B)に示すように、サンプル数Nが増えると確率γが必ず増加する。そして、確率γが任意の閾値pを超えた場合に、検出信号の平均値mの信頼性が所定の条件を満たすと判断して、その時点のサンプル数Nで算出した平均値mをピクセル値として出力する。
図6(A)、
図6(B)の例では、閾値pを95%に設定しており、サンプル数N=6で確率γが閾値pを超え、その時点での平均値mは約18となっている。
【0041】
以下、期待値μが信頼区間m±kに位置する確率γの具体的な計算手順について説明する。
【0042】
まず、電子ビームBの走査開始前に、信頼区間の幅2kと、確率γに対する閾値pとを任意の値に設定する。次に、電子ビームBの走査を開始し、電子ビームBが試料S上の同一位置を照射しているときに連続的に検出される検出信号の平均値mを式(1)により算出し、更に標準偏差σを算出する。ここでは、検出信号の母集団の分布が近似的にポアソン分布に従うことを前提としているため、標準偏差σを次式により算出する。
【0044】
また、自由度dを次式により算出する。
【0046】
ここで、Nはサンプル数である。また、後述する累積分布関数の計算で用いる積分の上限zを次式により算出する。
【0048】
また、後述する累積分布関数の計算で用いるパラメータKを次式により算出する。
【0050】
ここで、Γはガンマ関数である。次に、t−分布(Studentのt−分布)の累積分布関数F(z)を次式により算出する。
【0052】
次に、式(6)により算出したF(z)の値を、次式に代入して、期待値μが信頼区間m±kに位置する確率γを算出する。
【0054】
式(7)により算出した確率γが予め設定した閾値pを超えた場合、その時点の平均値mをピクセル値として出力して、電子ビームBの照射位置を次に走査すべき位置に移動させる制御を行う。一方、算出した確率γが閾値pを下回る場合には、サンプル数Nを1だけ増やして、改めて式(1)〜式(7)の計算を行う。
【0055】
このように本実施形態の手法では、期待値μが信頼区間m±kに位置する確率γが閾値pを超えるまでサンプル数Nを増加させ、確率γが閾値pを超えたときの平均値mをピクセル値(輝度値、表示値)として出力することで、平均値mと期待値μとの平均的な差を期待値μによらず一定にすることができる。この場合、信号ばらつきの大きな領域(例えば、
図2に示す画像における明るい領域)においてはサンプル数Nが多くなり、信号ばらつきの小さな領域(例えば、
図2に示す画像における暗い領域)においてはサンプル数Nが小さくなることで、例えば、明るい領域における輝度値の信頼性を、暗い領域における輝度値の信頼性と同程度とすることができ、その結果、当該信頼性が均一的な電子顕微鏡像を得ることができる。また、信号ばらつきの小さな領域においてサンプル数Nが少なくなることで、当該領域における走査速度が速くなり、その結果、1フレーム分の画像の取得に要する時間を効果的に短縮することができる。
【0056】
なお、試料S上の明暗によって信号ばらつきが不均一になる場合とは別に、装置の外乱ノイズ(電子銃の高電圧の変動、微小放電、検出器への印加電圧の変動、宇宙線など)によっても検出信号のばらつきが不均一になる。また、試料S表面の組成(主に非導電性試料)によって試料S内で局所的に帯電が起きた場合にも、検出信号のばらつきが不均一になる。
【0057】
本実施形態の手法では、このような外乱ノイズや帯電に起因する信号ばらつきの不均一さを解消することもできる。但し、このような場合、検出信号の母集団の分布がポアソン分布に従わないため、本実施形態の手法を外乱ノイズ対策や帯電対策として使用する場合には、式(2)により標準偏差σを算出することに代えて、次式により標準偏差σを算出する。
【0059】
図7(A)は、
図6(A)と同様に検出信号a
iと、平均値mと、期待値μとの関係をシミュレーションした結果を示す図であり、
図7(B)は、
図7(A)の例において式(8)の標準偏差σを用いて算出した確率γのシミュレーション結果である。
【0060】
なお、上述した信頼区間に関する理論が正しく成り立つのは母集団の分布が正規分布に従う場合のみであるが、サンプル数Nが十分に多い場合には、信頼区間に関する理論を近似的に、母集団の分布がポアソン分布に従う場合に適用することができる。従って、サンプル数Nが多くなることが予想される場合(例えば、確率γを大きな値に設定した場合)には、式(2)により標準偏差σを算出し、それ以外の場合又は外乱ノイズ対策や帯電対策を行う場合には、式(8)により標準偏差σを算出するように、標準偏差σを算出する計算式を使い分けてもよい。
【0061】
また、通常の電子顕微鏡像において、試料S上の明暗による信号ばらつきと、外乱ノイズや帯電に起因する信号ばらつきの両方が存在する場合に、これらの信号ばらつきを同様に考慮するために、標準偏差σとして、式(2)の標準偏差と式(8)の標準偏差の二乗平均を用いるようにしてもよい。すなわち、式(2)により算出した標準偏差をσ
1とし、式(8)により算出した標準偏差をσ
2として、次式により標準偏差σを算出してもよい。
【0063】
3.処理
次に、本実施形態の処理の一例について
図8のフローチャートを用いて説明する。
【0064】
まず、処理部20は、信頼区間の幅2kと確率の閾値pの値を設定し(ステップS10)、サンプル数Nに1を設定する(ステップS12)。
【0065】
次に、取得部22は、N番目の検出信号a
i(i=N)を取得する(ステップS14)。具体的には、取得部22は、増幅器15からのアナログ信号を所定の単位時間t
1(サンプリング時間)で積分することで検出信号a
iを取得する。
【0066】
次に、判定部24は、N個の検出信号a
iの平均値mを式(1)により算出し(ステップS16)、検出信号の母集団が属する分布の期待値μが信頼区間m±kに位置する確率γを、式(2)〜式(7)により算出する(ステップS18)。ここで、式(2)に代えて式(8)又は式(9)により標準偏差σを算出してもよい。また、操作部30からの操作情報に基づき標準偏差σを算出する計算式を切り替えるように構成してもよい。
【0067】
次に、判定部24は、ステップS18で算出した確率γが、ステップS10で設定した閾値pを超えたか否かを判断し(ステップS20)、確率γが閾値pを超えていないと判断した場合には、サンプル数Nを1だけ増加させて(ステップS22)、ステップS14の処理に進む。以下、確率γが閾値pを超えたと判断されるまで、ステップS14〜S22の処理を繰り返す。
【0068】
ステップ20において確率γが閾値pを超えたと判断された場合には、出力部26は、ステップS16で算出された平均値mを、現在の照射位置に対応するピクセル値として出力する(ステップS24)。
【0069】
次に、制御部28は、電子ビームBの照射位置を次に走査すべき位置に移動させるための制御信号を生成し、生成した制御信号を走査コイル制御装置9に出力する(ステップS26)。
【0070】
次に、処理部20は、1フレーム分の走査を完了したか(1フレーム分の電子顕微鏡像の全てのピクセルの値を出力したか)否かを判断し(ステップS28)、1フレーム分の走査を完了していないと判断した場合には、ステップS10の処理に進み、以下、1フレーム分の走査を完了するまで、ステップS10〜S28の処理を繰り返す。
【0071】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。