特許第5738761号(P5738761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイドロ−ケベックの特許一覧 ▶ 昭和電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5738761-複合電極材 図000003
  • 特許5738761-複合電極材 図000004
  • 特許5738761-複合電極材 図000005
  • 特許5738761-複合電極材 図000006
  • 特許5738761-複合電極材 図000007
  • 特許5738761-複合電極材 図000008
  • 特許5738761-複合電極材 図000009
  • 特許5738761-複合電極材 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738761
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】複合電極材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20150604BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150604BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20150604BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20150604BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150604BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150604BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
   H01M4/136
   H01M4/1397
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   C01B25/45 Z
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-520289(P2011-520289)
(86)(22)【出願日】2009年7月24日
(65)【公表番号】特表2011-529257(P2011-529257A)
(43)【公表日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】CA2009001025
(87)【国際公開番号】WO2010012076
(87)【国際公開日】20100204
【審査請求日】2012年6月29日
(31)【優先権主張番号】2,638,410
(32)【優先日】2008年7月28日
(33)【優先権主張国】CA
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591117930
【氏名又は名称】ハイドロ−ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ カリム
(72)【発明者】
【氏名】外輪 千明
(72)【発明者】
【氏名】ゲルフィ アブドルバスト
(72)【発明者】
【氏名】武内 正隆
(72)【発明者】
【氏名】チャースト パトリック
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/120332(WO,A1)
【文献】 特開2007−048692(JP,A)
【文献】 特開2008−277128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
C01G 13/14、25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物70〜99.8重量%、炭素繊維0.1〜20重量%、および炭素被覆0.1〜10重量%を含有して成る複合材料であって、
前記炭素繊維は、直径が1〜200nmで且つアスペクト比(長さ/直径)が20〜2000である繊維フィラメントからなるものであり、
該炭素繊維および複合酸化物粒子は、それらの表面の少なくとも一部が炭素被覆されていて、且つ当該炭素被覆が非粉末被覆であり、且つ
前記複合酸化物粒子は炭素被覆された炭素繊維に担持されている炭素被覆されたナノサイズの粒子である、
複合材料。
【請求項2】
複合酸化物粒子および炭素繊維の表面に在る炭素被覆の厚さが100nm未満である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
複合酸化物が 一般式: Aamzonf で表されるものである、請求項1または2に記載の複合材料。
但し、Aは1種以上のアルカリ金属を示し; Mは1種以上の遷移金属と、随意に含有させることができる1種以上の非遷移金属またはそれらの混合物とを示し; Zは1種以上の非金属元素を示す。 a≧0、m≧0、z≧0、o≧0、n≧0およびf≧0であり; a、m、o、n、fおよびzは電子的中性を確保するように選ばれる。
【請求項4】
Aがリチウムを示す請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
Mが、Fe、Mn、V、Ti、Mo、Nb、W、Znおよびそれらの混合物から選ばれる遷移金属元素と、随意に選ばれる非遷移金属とを示す、請求項3または4に記載の複合材料。
【請求項6】
Zが、P、S、Se、As、Si、Ge、Bおよびそれらの混合物から選ばれる非金属を示す、請求項3〜5のいずれかひとつに記載の複合材料。
【請求項7】
複合酸化物が、リン酸塩、オキシリン酸塩、ケイ酸塩、オキシケイ酸塩、およびフルオロリン酸塩から選ばれる、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項8】
複合酸化物が、LiFePO4である、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項9】
複合酸化物またはそれの前駆体と、有機炭素前駆体と、炭素繊維とを混ぜ合わせ、
次いで、不活性または還元性の雰囲気で当該混合物を熱処理して前記前駆体を分解させることを含む、請求項1〜8のいずれかひとつに記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記混合物は有機溶媒中で調製され、前記の熱処理は溶媒を除去する第一段階と前駆体を分解する第二段階とを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
有機炭素前駆体が、液体状の化合物、溶媒に可溶な化合物、または熱分解処理の際に液体状になる化合物である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
複合酸化物前駆体と有機炭素前駆体と炭素繊維とを溶媒に溶解または均一分散させて、複合酸化物前駆体、炭素繊維および有機炭素前駆体を含有する混合物を得、
得られた均一混合物を、溶媒が除去される温度で第一熱処理し、次いで複合酸化物前駆体が反応して複合酸化物が形成され且つ有機炭素前駆体が炭化される温度で第二熱処理することによって複合電極材を調製する、請求項1〜8のいずれかひとつに記載の複合材料の製造方法。
【請求項13】
複合酸化物と有機炭素前駆体と炭素繊維とを溶媒に溶解または均一分散させ、次いで溶媒を蒸発除去させて、複合酸化物、炭素繊維および有機炭素前駆体を含有する混合物を得
られた均一混合物を、有機炭素前駆体が炭化される温度で熱処理することによって複合電極材を調製する、請求項1〜8のいずれかひとつに記載の複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかひとつに記載の複合材料と結着剤との混合物である電極材を、集電体上に設けて成る電極。
【請求項15】
結着剤がフッ素系重合体である、請求項14に記載の電極。
【請求項16】
電極材が、気相成長炭素繊維0.5〜20重量%を含有する、請求項14または15に記載の電極。
【請求項17】
電極材が、気相成長炭素繊維0.5〜5重量%、複合酸化物70〜95重量%、およびポリマー結着剤1〜25重量%、これらの総量100重量%を含有する、請求項14〜16のいずれかひとつに記載の電極。
【請求項18】
複合材料と結着剤と低沸点有機溶媒とを混ぜ合わせ、当該混合物を集電体として機能する導電性支持体上に塗布し、溶媒を蒸発除去させることを含む、請求項14〜17のいずれかひとつに記載の電極の製造方法。
【請求項19】
少なくとも一つのアノード、請求項14〜18のいずれかひとつに記載の電極からなる一つのカソード、および電解質を含んでなる電気化学電池。
【請求項20】
リチウム塩を含む電解質と、リチウム、リチウム合金、またはリチウムイオンを可逆的に交換可能な化合物から成るアノードと、請求項14〜18のいずれかひとつに記載の電極からなるカソードとを有する、充電式電池。
【請求項21】
リチウム塩を含む電解質と、リチウム、リチウム合金、またはリチウムイオンを可逆的に交換可能な化合物から成るアノードと、請求項14〜18のいずれかひとつに記載の電極からなるカソードとを有する、非充電式電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合電極材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池には複合電極が用いられており、該複合電極材としては、活物質としての複合酸化物、電子伝導材としての炭素質材料、および結着剤を含んでなるものが知られている。
【0003】
米国特許第5,521,026号は、固体高分子電解質、リチウムアノード、および集電体上のV25とカーボンブラックとの混合物を含んでなるカソードを有する電池を開示している。該複合カソード材は、前記酸化物とカーボンブラックを、溶媒中で、ステンレス鋼球を用いたボールミル粉砕をすることによって得られる。カソード成分を単に混合することだけで得られる電池に比べて、ボールミル粉砕によって得られる電池は、その性能が改善されている。しかし、該鋼球を用いると副反応を引き起こす不純物がカソード材に混入する。
【0004】
国際公開第2004/008560号には、複合カソード材が記載されている。該カソード材は、非導電性または半導電性の材料と、低結晶質炭素(C1)と、高結晶質炭素(C2)との混合物を高エネルギーで粉砕することによって得られる。低結晶質炭素の例としてカーボンブラックが挙げられ、高結晶質炭素の例として黒鉛が挙げられている。
【0005】
米国特許第6,855,273号には、制御された雰囲気中で、複合酸化物またはそれの前駆体の存在下に、炭素質前駆体を熱処理することによって電極材を製造する方法が記載されている。このようにして得られる電極材は、炭素で被覆された複合酸化物粒子から成り、その導電率は被覆されていない酸化物粒子に比べて大幅に増加している。導電率の増加は、酸化物の粒子表面に化学的に結合されている炭素被覆の存在によるものである。該化学結合は優れた付着力と高い局所的導電性とをもたらす。炭素質前駆体は、高分子の前駆体であってもよいし、気体状の前駆体であってもよい。複合電極材は、炭素被覆された粒子を、カーボンブラックおよび結着剤としてのPVDFに混合することによって製造される。理論容量である170mAh/gの容量を達成できる電極を製造する場合には、複合酸化物粒子にカーボンブラックを添加しなければならない。
【0006】
国際公開第2004/044289号には、熱伝導性と電気伝導性とを高めるために、樹脂、セラミックまたは金属からなるマトリクス材に気相成長炭素繊維が混合されてなる、複合材料が開示されている。
【0007】
米国特許出願公開2003/0198588号には、気相成長炭素繊維などのカーボンファイバーを含んでなる複合材料から成る電極を有する電池が開示されている。カーボンファイバーは負極用の炭素質材料として優れたインターカレーション特性を示す。複合負極材料はカーボンファイバーと結着剤の混合物を混練することによって製造される。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、複合材料の製造方法、それによって得られる材料、およびその材料を含有して成る電極が提供される。
本発明の複合材料は炭素繊維と複合酸化物粒子とを含有して成るものである。当該炭素繊維および複合酸化物粒子はそれらの表面の少なくとも一部が炭素被覆されている。そして当該炭素被覆は、非粉末被覆である。
本発明の製法は、複合酸化物またはそれの前駆体、有機炭素前駆体および炭素繊維を混合し、次いで該混合物を熱処理することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る材料のTEM観察像を示す図。
図2図1に示した本発明に係る材料についての、第一回目の充放電サイクルと第二回目の充放電サイクルとにおける経過時間T(hr)に対する、電圧V(ボルト)の履歴を示す図。
図3】本発明に係る別の材料についての、第一回目の充放電サイクルと第二回目の充放電サイクルとにおける経過時間T(hr)に対する、電圧V(ボルト)の履歴を示す図。
図4】従来技術に係る材料のTEM観察像を示す図。
図5図4に示した従来技術に係る材料についての、第一回目の充放電サイクルと第二回目の充放電サイクルとにおける経過時間T(hr)に対する、電圧V(ボルト)の履歴を示す図。
図6図1に示した材料を含む電池の放電レートR(C)における放電容量Q(mAh/g)を示す図。
図7図3に示した材料を含む電池の放電レートR(C)における放電容量Q(mAh/g)を示す図。
図8図4に示した材料を含む電池の放電レートR(C)における放電容量Q(mAh/g)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合材料は、炭素繊維と複合酸化物粒子を含有してなるものである。該炭素繊維および複合酸化物粒子はそれらの表面の少なくとも一部が炭素被覆されており、当該炭素被覆は非粉末被覆である。複合材料は、複合酸化物70〜99.8重量%、炭素繊維0.1〜20重量%、および炭素被覆0.1〜10%を含有している。複合酸化物粒子および炭素繊維の表面に在る炭素被覆の厚さは、通常、100nm未満である。当該炭素被膜が非粉末被膜であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)またはラマン分光分析によって、確認することができる。
【0011】
本発明の複合材料において、炭素被覆された複合酸化物粒子は炭素被覆された炭素繊維に担持されたナノサイズの粒子である。複合酸化物粒子および炭素繊維を被覆する炭素によって、複合酸化物粒子および炭素繊維の双方を強力に結合させる。
【0012】
前記複合酸化物は 一般式: Aamzonf で表されるものである。ここで、Aは1種以上のアルカリ金属を示し; Mは1種以上の遷移金属と、随意に含有させることができる1種以上の非遷移金属またはそれらの混合物とを示し; Zは1種以上の非金属元素を示す。 a≧0、m≧0、z≧0、o≧0、n≧0およびf≧0であり; a、m、o、n、fおよびzは電子的中性を確保するように選ばれる。
【0013】
Aは好ましくはリチウムを示す。
【0014】
Mは、好ましくは、Fe、Mn、V、Ti、Mo、Nb、W、Znおよびそれらの混合物から選ばれる遷移金属元素と、随意に選ばれる非遷移金属、好ましくはMgおよびAlから選ばれる非遷移金属とを示す。
【0015】
Zは、好ましくは、P、S、Se、As、Si、Ge、Bおよびそれらの混合物から選ばれる非金属を示す。
【0016】
複合酸化物の具体例は、特に限定されないが、リン酸塩、オキシリン酸塩、ケイ酸塩、オキシケイ酸塩、およびフルオロリン酸塩を挙げることができる。好ましい複合酸化物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiFeSiO4、SiOおよびSiO2を挙げることができる。
【0017】
炭素繊維は、直径が1〜200nmで且つアスペクト比(長さ/直径)が20〜2000である繊維フィラメントからなるものである。
【0018】
本発明の複合材料は、複合酸化物またはそれの前駆体と、有機炭素前駆体と、炭素繊維とを混ぜ合わせ、 次いで、不活性または還元性の雰囲気で当該混合物を熱処理して前記前駆体を分解させることによって製造される。
【0019】
前記混合物は好ましくは有機溶媒中で調製される。溶媒は、好ましくは、有機炭素前駆体を溶解可能な有機液状化合物から選ばれる。溶媒の具体例は、限定されないが、イソプロピルアルコール(IPA)、ヘプタン、アセトン、または水を挙げることができる。溶媒中で混合物を調製した場合には、前記の熱処理は溶媒を除去する第一段階と前駆体を分解する第二段階とを含む。
【0020】
有機炭素前駆体が粒子表面を被覆して均一な層を形成し、続いてその層が複合酸化物粒子上において均一な炭素層となるように、有機炭素前駆体は、液体状の化合物、溶媒に可溶な化合物、または熱分解処理の際に液体状になる化合物から選択することができる。熱処理は、有機炭素前駆体の熱分解、脱水素または脱ハロゲン化水素を生じさせる温度で行う。
【0021】
炭素前駆体は、一酸化炭素のみであってもよいし、または不活性ガスで希釈された一酸化炭素であってもよい。800℃未満の温度における当該一酸化炭素の不均化反応によって炭素被覆が形成される。
【0022】
炭素前駆体は、気体状の炭化水素であってもよい。この炭化水素を中温度から高温度の条件で分解させると炭素が析出する。炭化水素としては、形成エネルギーが低いものが特に好適であり、例えば、アルケン、アルキン、または芳香族化合物が挙げられる。
【0023】
有機炭素前駆体は、有機ポリマーであってもよい。該有機ポリマーは、O、N、Fなどのヘテロ原子を有していてもよい。有機ポリマーの具体例は特に限定されないが、ポリオキシエチレン若しくはエチレンオキサイド共重合体、ポリブタジエン、ポリビニルアルコール、フェノール縮合生成物(アルデヒドとの反応で得られるものを含む。)、フルフリルアルコールの重合体、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、ポリナフタレン、ポリペリレン、ポリアクリロニトリル、およびポリビニルアセテートを挙げることができる。
【0024】
有機炭素前駆体は、炭化水素またはその誘導体(ピッチ、タール誘導体、ペリレンおよびそれの誘導体など)、またはポリオール化合物(糖類、ラクトース、セルロース、スターチ、およびそれらのエステル若しくはエーテルなど)であってもよい。
【0025】
炭素前駆体は、炭素−ハロゲン結合を有する化合物であってもよい。該化合物は、低温度から中温度、具体的には400℃未満の温度において、CY-CY- + 2e- → -C=C- + 2Y- で表される反応にしたがって炭素−ハロゲン結合が還元されて、分解する。なお、式中、Yはハロゲンまたは擬ハロゲンである。該化合物の具体例は、限定されないが、ヘキサクロロブタジエンやヘキサクロロシクロペンタジエン若しくはそれらの重合体などのパーハロゲン化炭素化合物を挙げることができる。
【0026】
炭素前駆体は、-CH=CY結合を有する化合物であってもよい。該化合物は、低温度から中温度、具体的には400℃未満の温度において、-CH-CY- + B → -C=C- + BHY で表される反応が起きて、分解する。なお、式中、Bは塩基であり、Yはハロゲンまたは擬ハロゲンである。該化合物の具体例は、限定されないが、ビニリデンフルオライド、ビニリデンクロライドまたはビニリデンブロマイドの重合体などのハイドロハロカーボン化合物を挙げることができる。
【0027】
炭素前駆体が炭素−ハロゲン結合若しくは-CH=CY-結合を有する化合物であるとき、400℃にて分解させて得られた生成物を炭化するために、710℃以上の温度でさらに熱処理する。
【0028】
一の実施形態は、複合酸化物前駆体、炭素繊維および有機炭素前駆体を含有する混合物から複合電極材を調製するものである。具体的には、複合酸化物前駆体と有機炭素前駆体と炭素繊維とを溶媒に溶解または均一分散させて、 得られた均一混合物を、溶媒が除去される温度で第一熱処理し、次いで複合酸化物前駆体が反応して複合酸化物が形成され且つ有機炭素前駆体が炭化される温度で第二熱処理する。
【0029】
別の実施形態は、複合酸化物、炭素繊維および有機炭素前駆体を含有する混合物から複合電極材を調製するものである。具体的には、複合酸化物と有機炭素前駆体と炭素繊維とを溶媒に溶解または均一分散させ、次いで溶媒を蒸発除去させて、 得られた均一混合物を、有機炭素前駆体が炭化される温度で熱処理する。当該複合酸化物は、前駆体化合物を原料とする熱水プロセスを経て調製されたものであってもよい。
【0030】
炭素繊維は、炭素前駆体および遷移金属を含有する溶液を反応系中に噴霧して炭素源を熱分解させ、それによって得られた炭素繊維を非酸化性雰囲気で800℃と1500℃との間の温度で熱処理し、さらに非酸化性雰囲気で2000℃〜3000℃で熱処理することによって得ることができる。WO2004/044289に、気相成長炭素繊維の製造方法に関するより詳細な情報が記載されている。2000〜3000℃で行われる炭素の第二熱処理によって繊維表面がきれいになるので、複合酸化物粒子の炭素被覆によって炭素繊維に付着する力が増える。そのようにして得られる炭素繊維はいわゆる気相成長炭素繊維である。
【0031】
気相成長炭素繊維は、商標名「VGCF」で、昭和電工株式会社から市販されてもいる。
【0032】
本発明に係る複合材料は、リチウムイオンを有するイオン性化合物からなる電解質を備えた電気化学電池に用いられる複合電極の活物質として特に有用である。
【0033】
電極の製造方法は、本発明の複合材料と、結着剤と、有機溶媒、好ましくは低沸点の有機溶媒とを混ぜ合わせ、当該混合物を集電体として機能する導電性支持体上に塗布し、溶媒を蒸発除去させることを含む。
【0034】
結着剤は、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、またはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム類のなかから選択することができる。
【0035】
好適な形態は、結着剤とそれを液状にするのに適切な有機溶媒とを、本発明の複合材料に加える。フッ素系結着剤用の溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである。SBRゴム用の溶媒は、水である。結着剤の添加量は、混合物の粘度が好ましくは106Pa・s未満となる量から選ぶ。
【0036】
高放電レート仕様の電気化学電池においては、高い放電電位を提供するために、複合電極材は繊維状炭素を5重量%程度含有することが好ましい。低放電レート仕様の電気化学電池においては、繊維状炭素を少ない量でも含有させると高い放電電位を得ることができる。
【0037】
溶媒の蒸発除去後に集電体上に得られる複合電極材は、炭素被覆された複合酸化物粒子と炭素被覆された炭素繊維と結着剤とからなる。そして、当該複合酸化物粒子の炭素被覆は該粒子中の複合酸化物からなる芯粒子に強力に結合しており、当該気相成長炭素繊維は化学的な炭素-炭素結合によって炭素被覆に強く結合している。複合酸化物粒子はナノサイズ粒子であることが好ましい。
【0038】
本発明に係る複合電極材は、気相成長炭素繊維0.5〜20重量%を含有することが好ましい。炭素繊維の含有量を5重量%より多くしても、コストが高くなるだけ、電極特性のさらなる顕著な改善はみられない。
【0039】
好ましい形態において電極材は、気相成長炭素繊維0.5〜5重量%、複合酸化物70〜95重量%、およびポリマー結着剤1〜25重量%、これらの総量100重量%を含有する。
【0040】
本発明の複合材料は、複合電極の活物質として使用されるときに、幾つかの利点を有する。
【0041】
本発明の複合材料は、リチウムの挿入(インターカレーション)と脱離(デインターカレーション)の際に生じる粒子および電極の体積変化に対して有効な高い機械的強度を有している。該複合材料は、電池に充放電した際の体積変化を吸収することができる。
【0042】
ナノサイズの複合酸化物粒子からなる複合電極材では、電極をカレンダー成形法によって製造すると、電極に適したチャネル構造および空孔を形成し難い。ナノサイズ粒子を含んでなる複合材料に繊維状炭素が内在していると、マルチチャネル構造が形成され、それによって液状電解質に対する材料の濡れ性が向上する。それによって、電解質が粒子の表面および中心部に接近し易くなり、粒子上のイオン導電率が局所的に高まる。
【0043】
繊維状炭素は高い導電性を有するので、複合電極材に他の炭素源を加える必要がない。
【0044】
繊維状炭素の使用によって、各粒子における導電率が局所的に増加し、電極材中に導電ネットワークが形成される。導電率が高いほど、高い充放電レートにおける容量(mAh/g)が上がる。さらに、低温、特に−20℃未満の温度においても、高容量となる。
【0045】
求められる繊維状炭素の量が少なくなるほど、該複合材料を電極材として有する電気化学電池の重量および体積あたりのエネルギーが高くなる。
【0046】
複合電極材中に繊維状炭素が存在することによって、固体電解質を備える電気化学電池中の電極表面に安定な不動態層が形成されるので、不可逆的容量損失(ICL)が減少する。さらに、VGCFのような繊維状炭素が存在すると、粒子の凝集が抑制され、前駆体の混合物を調製する際の粘度を低下させる。
【0047】
繊維状炭素を含む複合電極の抵抗が低減すると、電圧降下(IR)が非常に小さくなり、それによって、体積固有インピーダンス(VSI)および面積固有インピーダンス(ASI)がともに小さくなる。電動工具やハイブリッド電気自動車などの大電力用途には、これらの特性が必要である。
【0048】
本発明の複合電極は、リチウム塩を含む電解質と、リチウム、リチウム合金またはリチウムイオンを可逆的に交換できる化合物から成るアノードとを有する充電式電池または非充電式電池のカソードとして有用である。
【0049】
具体的な形態において、本発明のカソードは、アルミニウム製集電体、炭素被覆されたLiFePO4粒子と炭素被覆された炭素繊維とを含む本発明に係る材料からなる第一層、および LiCO1/3Ni1/3Mn1/32、LiMnNiO2、LiMn24、LiMPO4(Mは、Mn、CoまたはNi)などから選ばれる高エネルギーカソード材料を含む第二層を有する多層構造カソードである。LiFePO4を含む第一層が在ると電池の電力および安全性が高まる。
【0050】
好ましい形態は、複合酸化物がLiFePO4であり、有機炭素前駆体が酢酸セルロースである。不活性または還元性雰囲気で600℃〜750℃の範囲内の温度で炭化熱処理を行うと、不純物としてのFe3+化合物の生成が抑制される。不活性雰囲気は、アルゴンまたは窒素ガス雰囲気であってもよい。還元性雰囲気は、N2/H2の混合ガス雰囲気、好ましくは4%以下のH2を含む混合ガス雰囲気であってもよい。
【0051】
市販のLiFePO4から、または準備工程で調製されたLiFePO4を出発原料として用いる場合において、本発明の方法は、酢酸セルロースを適切な溶媒、例えば、アセトンに溶解させ、得られた溶液にLiFePO4および炭素繊維を分散させ、不活性または還元性雰囲気中で600〜750℃の範囲内の温度、例えば710℃で加熱する工程を含む。
【0052】
LiFePO4前駆体を出発原料として用いる場合において、本発明の方法は、溶媒中で炭素前駆体、鉄を含む前駆体、リンを含む前駆体、および炭素繊維との混合物を調製し、該反応混合物を真空下120℃で加熱して溶媒を除去し、得られた乾燥混合物を不活性または還元性雰囲気中で600〜750℃の範囲内の温度、例えば710℃で加熱する工程を含む。
【0053】
鉄を含む前駆体は、酸化鉄、マグネタイト、リン酸第二鉄(III)、水酸化リン酸鉄、硝酸第二鉄(III)、またはそれらの混合物から選ぶことができる。
【0054】
リチウムを含む前駆体は、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リン酸リチウム、中性リン酸塩Li3PO4、酸性リン酸塩LiH2PO4、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、およびそれらの混合物から選ぶことができる。
【0055】
リンを含む前駆体は、リン酸およびそれのエステル、中性リン酸塩Li3PO4、酸性リン酸塩LiH2PO4、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、リン酸第二鉄(III)、水酸化リン酸リチウム、およびそれらの混合物から選ぶことができる。
【0056】
なお、上記の前駆体のうちのいくつかは、一以上の成分を含む前駆体であることができる。
【0057】
炭素前駆体は、好ましくは酢酸セルロースである。
【0058】
種々の手法に従って、溶媒中で炭素前駆体と、LiFePO4またはそれの前駆体と、炭素繊維との混合物を調製することができる。
【0059】
第一の手法は、酢酸セルロースを適切な溶媒、例えばアセトンに溶解させ、この酢酸セルロース溶液にLiFePO4前駆体と炭素繊維とを分散させることによって混合物を調製する。
【0060】
第二の手法では、酢酸セルロースを溶媒に溶解させ、その溶液にVGCFを分散させる第一過程と、炭素繊維を含有する重合体溶液にFeSO4、LiOHおよびH3PO4を分散させる第二過程とを経ることによって混合物を調製する。
【0061】
第三の手法では、酢酸セルロースを溶媒に溶解させ、LiFePO4前駆体と炭素繊維とを溶媒に分散させ、次いで重合体溶液と前駆体および繊維の分散液とを混ぜ合わせることによって混合物を調製する。
【0062】
第四の手法では、酢酸セルロースを溶媒に溶解させ、FeSO4、LiOH、H3PO4および炭素繊維をドライブレンドし、次いで該粉末混合物を重合体溶液に分散させることによって混合物を調製する。 第四の方法において、ドライブレンドは、ジェットミル、ボールミル、メカノフュージョン、ハイブリダイザー、またはホソカワミクロン社製ミキサー商標名「ノビルタ」によって行うことができる。
【実施例】
【0063】
本発明について、以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0064】
本実施例では、以下の製品から複合材料を製造した:
LiFePO4 ; フォステックリチウム社製のLiFePO4粒子からなる材料。
VGCF(商標) ; 昭和電工株式会社(日本)製の繊維状炭素(繊維径:150nm、繊維長:約10μm、比表面積:13m2/g、導電率:0.1mΩ.cm、純度:>99.95)。
PVDF ; 株式会社クレハ(日本)製のポリフッ化ビニリデン。
SBR ; 日本ゼオン株式会社(日本)製のスチレンブタジエンゴム、BM400(商標)。
【0065】
得られた材料は、走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)、およびX線回折法(XRD)で分析した。
【0066】
実施例1
最初に、ラクトース9.0gを水に溶解させ、これにLi2CO3 18.6g、FePO4・2H2O 112.5g、およびVGCF5gを加えた。次に、該反応混合物を調整されたN2雰囲気にて120℃で一晩加熱して溶媒を除去した。次いで、該乾燥混合物を窒素雰囲気にて710℃で焙焼した。
【0067】
そうして得られた粉状複合材料を、カソード材料として、コイン電池(サイズ:2032)にて評価した。コイン電池は、アノードがリチウム箔であり;電解質が、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DEC)との7:3混合溶媒に溶解されてなるLiPF6の1M溶液(宇部興産社製)を含浸させてなる微細孔性ポリプロピレンシートである。電極の作製および封止は乾燥空気中で行った。
【0068】
粉状複合材料をポリビニリデンジフルオライド(PVDF)結着剤と92:8の重量比で混ぜ合わせ、該混合物をN−メチルピロリドン(NMP)に配合してスラリーを得、そのスラリーをアルミニウム製集電体に塗布し、塗布されたスラリーを一晩、真空下110℃で乾かすことによって、カソードを作製した。
【0069】
コイン電池に、2Vと4Vとの間で、C/24の放電レート、すなわち充電および放電を24時間かけて、定電流で、繰り返した。
【0070】
図1は、得られた材料のTEM像を示す図である。符号「1」は炭素被覆を示す。符号「2」はLiFePO4粒子を示す。符号「3」は炭素繊維を示す。
【0071】
図2は、第一回目の充放電サイクルおよび第二回目の充放電サイクルの時の電圧履歴を示す図である。この履歴によれば、C/24において、
第一回目のサイクルではクーロン効率EC1が95%であり、
第二回目のサイクルではクーロン効率EC2が100%であり、可逆比容量Qrevが151.9mAh/gである。
【0072】
実施例2
最初に、酢酸セルロース3.56gをアセトンに溶解させ、これにLi2CO3 9.3g、FePO4・2H2O 56.3g、およびVGCF2.5gを加えた。次に、該反応混合物を調整されたN2雰囲気にて120℃で一晩加熱して溶媒を除去した。次いで、該乾燥混合物を窒素雰囲気にて710℃で焙焼した。
【0073】
実施例1と同じ手法で、コイン電池を組み立てた。コイン電池に、2Vと4Vとの間で、C/24の条件で、定電流で、充放電を繰り返した。
【0074】
図3は、第一回目の充放電サイクルおよび第二回目の充放電サイクルの時の電圧履歴を示す図である。この履歴によれば、C/24において、
第一回目のサイクルではクーロン効率EC1が97%であり、
第二回目のサイクルではクーロン効率EC2が100%であり、可逆比容量Qrevが159mAh/gである。
【0075】
実施例3(比較例)
LiFePO4 94g、カーボンブラック3gおよびグラファイト3gの混合物をノビルタ混合器を用いて機械的に分散させた。そうして得られた混合粉末を使用して、正電極を作製し、実施例1と同じ手法でコイン電池を組み立てた。コイン電池に、2Vと4Vとの間で、C/24の条件で、定電流で、充放電を繰り返した。
【0076】
図4は、得られた材料のTEM像を示す図である。符号「1」は炭素被覆を示す。符号「2」はLiFePO4粒子を示す。
【0077】
図5は、第一回目の充放電サイクルおよび第二回目の充放電サイクルの時の電圧履歴を示す図である。この履歴によれば、C/24において、
第一回目のサイクルではクーロン効率EC1が96%であり、
第二回目のサイクルではクーロン効率EC2が100%であり、可逆比容量Qrevが141mAh/gである。
【0078】
この実施例によって、グラファイト粒子およびカーボンブラック粒子の代わりに、LiFePO4粒子表面上の炭素被覆および炭素被覆された炭素繊維が在ると、低放電レートにおける電池の可逆比容量が著しく改善されることがわかる。
【0079】
実施例4
実施例1、実施例2および実施例3にて組み立てた3つのコイン電池それぞれについて、高放電レートにおける電力性能を試験した。図6、7および8に、各電池の放電容量を示す。1Cレートおよび10Cレートにおける比容量を下記の表に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
この実施例によって、グラファイト粒子およびカーボンブラック粒子の代わりに、LiFePO4粒子表面上の炭素被覆および炭素被覆された炭素繊維が在ると、ハイブリッド自動車用やプラグインハイブリッド用の電池のような、電力が重視される電池に要求される高放電レートにおける電池の可逆比容量が著しく改善されることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8