【実施例】
【0041】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
[実験操作]
(1)核酸キャリア
本実施例で使用した核酸キャリアは、下記の表1に示すとおりである。なお、表1のアミノ酸配列は1文字略号を用いて表されている。また、表1において、「-C
18」はN−末端がオクタデシル基で修飾されたペプチドを表し、「-Cholic A」は、N−末端にアミド結合を介してコール酸が結合したペプチドを表し、「Ac-」はN−アセチルアミドを表す。
下記の表1に示した核酸キャリア(下記のエントリー
1〜
21)との比較のために、カチオン性リポソーム系核酸キャリアであるRNAiFect(キアーゲン社)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(2)標的細胞
急性リンパ芽球性白血病細胞であるJurkat細胞、慢性随性白血病細胞であるK562細胞、および子宮頸がん細胞であるHela細胞を標的細胞として使用した。
【0044】
(3)2本鎖核酸分子
Jurkat細胞およびHela細胞に対しては、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素:がん細胞の不死化に関与している。)遺伝子に対するsiRNA(21塩基対)を2本鎖核酸分子として使用した。Jurkat細胞およびHela細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNAの塩基配列は、それぞれ、下記の配列番号32および33に示すとおりである。
5'-GGAGCAAGUUGCAAAGCAUTT-3' [配列番号32]
5'-AUGCUUUGCAACUUGCUCCTT-3' [配列番号33]
【0045】
K562細胞に対しては、Bcr/abl(9番染色体上のabl遺伝子と22番染色体上のbcr遺伝子が融合して生じるキメラ遺伝子であるフィラデルフィア染色体に存在する慢性随性白血病の原因遺伝子であり、細胞増殖シグナルを異常に亢進させ、白血病細胞を無秩序に増殖させる。)遺伝子に対するsiRNA(21塩基対)を2本鎖核酸分子として使用した。使用したsiRNAの塩基配列は、下記の配列番号34および35に示すとおりである。
5'-GCAGAGUUCAAAAGCCCUUTT-3' [配列番号34]
5'-AACGGCUUUUGAACUCUGCTT-3' [配列番号35]
【0046】
(4)核酸複合体の調製
200μMペプチド水溶液(超純水)10μLと、20μM siRNA水溶液(超純水)10μLを室温で混合し、37℃で30分間インキュベートした。
【0047】
(5)標的細胞への導入
標的細胞の培養液または培地に、上記(4)で調製した核酸複合体を添加した。添加量は、100nM、200nM、または400nMのいずれかである。核酸複合体を添加後、37℃で所定時間インキュベートした。インキュベート時間は、Jurkat細胞およびK562細胞の場合24時間、HeLa細胞の場合48時間である。
【0048】
(6)標的細胞への核酸複合体の導入効率の評価
標的細胞への核酸複合体の導入効率は、蛍光ラベルで標識した2本鎖核酸分子を用いて調製した核酸複合体とインキュベートした後の標的細胞の蛍光顕微鏡観察により評価を行った。
【0049】
(7)半減期の評価
37℃の10%FBS中における核酸複合体に含まれるsiRNAの分解率の経時変化より、核酸複合体に含まれるsiRNAの半減期を求めた。siRNAの分解率は、核酸複合体を加熱後単離したsiRNAのホルムアルデヒド変性アガロースゲル電気泳動法により求めた。
【0050】
(8)細胞毒性の評価
核酸キャリアの細胞毒性は、核酸キャリアと共にインキュベートした標的細胞の生存率の経時変化より求めた。
【0051】
(9)RNAiによる標的遺伝子のサイレンシング効果の検討
RNAiによる標的遺伝子のサイレンシング効果は、インキュベート後の細胞を溶解させ、RT-PCR法を用いて標的遺伝子を増幅後、β−アクチン遺伝子を内部標準として発現量の変化を定量的に求めることにより検討した。
【0052】
[結果]
(1)核酸複合体における核酸キャリアのコンホメーション
核酸複合体の調製に用いたsiRNA、アミノ酸配列(RL)
7からなる核酸キャリア
3(表1中のエントリー番号。以下同じ。)、およびこれらより得られた核酸複合体の円偏光二色性(CD)スペクトルを
図1に示す。核酸キャリア
3単独ではランダムコイル構造に由来するCDスペクトルが観測されたのに対し、核酸複合体においては、217nmに、β−シート構造に特有の強い負のCotton効果が観測された。これらの結果より、核酸キャリア
3は、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニン(R)の側鎖が片面側に、疎水性のロイシン(L)の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成していることがわかる。また、アミノ酸配列の異なるペプチドについては、2本鎖核酸との複合体形成およびβ−シート構造の発現が観測されないことから、アルギニンのグアニジル基とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子と核酸キャリア
3のペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、両者の間で強い結合が形成されていることが示唆される。
【0053】
(2)標的細胞への核酸複合体の導入効率
塩基性アミノ酸であるアルギニンと疎水性アミノ酸であるロイシンとが交互に並んだアミノ酸配列(RL)
n(5≦n≦10)からなる核酸キャリア
1〜
6について、JurkatへのhTERTに対する蛍光標識siRNAの導入効率を検討した結果を
図2に示す。比較のためRNAiFectを用いた場合の結果を合わせて示す。これらの結果より、siRNA単独では細胞内部に侵入することができないが、RNAiFect、およびnが7以上の核酸キャリア
3〜
6を用いると、siRNAを細胞内部に導入できることが確認された。
【0054】
アミノ酸配列(RL)
7からなる核酸キャリア
3を用いて、siRNAに対する核酸キャリア
3のモル比がJurkat細胞へのsiRNAの導入効率に及ぼす効果を併せて検討した。結果を
図3に示す。これらの結果より、Jurkat細胞へのsiRNAの導入効率を十分に確保するためには、siRNAに対する核酸キャリア3のモル比が1:6以上、より好ましくは1:10以上である必要があることが確認された。
【0055】
核酸キャリア
3および
4への疎水性基またはシグナルペプチド(NLS)の導入がJurkat細胞へのsiRNAの導入効率に及ぼす効果を
図4に示す。これらの結果より、核酸キャリア
3とJurkat細胞との組み合わせ(核酸キャリア
12)において、N−末端へのオクタデシル基およびHIV-1 Revタンパク質由来NLSの導入により、Jurkat細胞へのsiRNAの導入効率が大幅に向上することが確認された。
【0056】
同様の実験をHeLa細胞について行った結果を
図5および
図6に示す。
図5の結果より、HeLa細胞へのsiRNAの導入効率を十分に確保するためには、siRNAに対する核酸キャリア
3のモル比が1:15以上である必要があることが確認された。また、
図6の結果より、HeLa細胞へのsiRNAの導入については、核酸キャリア
3にHIV-1 Revタンパク質由来NES配列(核酸キャリア
16)、Dsk-1由来NES配列(核酸キャリア
19)、およびMatrin3由来NES配列(核酸キャリア
21)を導入した場合に、siRNAの導入効率が増大することが確認された。
【0057】
(3)核酸複合体に含まれるsiRNAの半減期
10%FBS中でのsiRNAおよび核酸複合体に含まれるsiRNAの分解率の経時変化をゲル電気泳動でモニタした結果を
図7、
図8、下記の表2および3に示す。
図7の結果より、siRNAは10%FBS中で速やかに(半減期2時間程度)で分解するが、核酸キャリア
3〜
6と核酸複合体を形成させることにより、半減期が数倍〜20倍程度に増大することが確認された。また、細胞へのsiRNAの導入効率の増大が観測されなかった核酸キャリア
1および
2については、このような半減期の増大が観測されなかったことから、10%FBS中での半減期の増大は核酸複合体の形成によるものであると考えられる。また、RNAiFectについては、複合体の形成による半減期の増大は観測されなかった。また、
図8に示すように、NES配列を導入した核酸キャリア
16〜
21についても半減期の増大が観測され、特に核酸キャリア
16について顕著な効果が見られた。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
(4)細胞毒性
Jurkat細胞およびK562細胞について、核酸キャリア
1〜
6およびRNAiFectの存在下でインキュベートした場合の生存率の経時変化を検討した。24時間後の生存率を
図9および9に示す。
図9に示すように、Jurkat細胞に対しては、核酸キャリア
1〜
6の全てが殆ど細胞毒性を示さないことがわかった。一方、K562細胞に対しては、
図10に示すように、核酸キャリア
2〜
5を高濃度で添加した場合に24時間後の生存率の低下が観測された。しかし、実際に使用される1〜2μM程度の濃度では、核酸キャリア
1〜
6の全てが90%以上と、RNAiFectよりもはるかに高い細胞生存率を示した。特に、核酸キャリア
1および
6は、K562細胞に対しても殆ど細胞毒性を示さないことがわかった。
【0061】
(5)核酸複合体を用いたRNAiによるJurkat細胞hTERT遺伝子のサイレンシング効果
Jurkat細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNA(21塩基対:配列番号32)と核酸キャリア
3との複合体の存在下でJurkat細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるhTERT遺伝子の発現量の測定結果を下記の表4に示す。この結果より、核酸キャリア
3は、RNAiFectと同程度の核酸導入効率を示すことが確認された。
【0062】
【表4】
【0063】
(6)核酸複合体を用いたRNAiによるHeLa細胞hTERT遺伝子のサイレンシング効果
HeLa細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNA(21塩基対:配列番号33)と核酸キャリア
3との複合体の存在下でHeLa細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるhTERT遺伝子の発現量の測定結果を下記の表5に示す。この結果より、核酸キャリア
3は、RNAiFectを用いた場合よりも少ないsiRNAの添加量で、RNAiFectと同程度のサイレンシング効果を示すことが確認された。
【0064】
【表5】
【0065】
(7)核酸複合体を用いたRNAiによるK562細胞Bcr/abl遺伝子のサイレンシング効果
K562細胞のbcr/abl遺伝子に対するsiRNA-revNESコンジュゲート(共有結合体)(100nM)(配列番号34で表される塩基配列を有するsiRNAの5’−末端に、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するHIV-1revタンパクNES配列のN−末端が直接共有結合している。)と核酸キャリア
3(10当量)または核酸キャリアLRALLRALLRALLRALLRALLRAL(配列番号36、10当量)との複合体の存在下にK562細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるbcr/abl遺伝子の発現量の測定結果を下記の表6に示す。
これらの結果より、K562細胞の場合には、シグナルペプチドを結合させたsiRNAを用いて調製された核酸キャリアを用いることにより、核酸の細胞への導入効率およびK562細胞Bcr/abl遺伝子のサイレンシング効果が大幅に向上することが確認された。
【0066】
【表6】