特許第5738862号(P5738862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738862
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】細胞への核酸導入方法および核酸複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150604BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20150604BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20150604BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 G
   C07K7/08
   C07K7/06
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-524532(P2012-524532)
(86)(22)【出願日】2011年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2011065612
(87)【国際公開番号】WO2012008361
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2013年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-157367(P2010-157367)
(32)【優先日】2010年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】藤井 政幸
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−312397(JP,A)
【文献】 Nucleic Acids Symp. Ser.,2008年,no.52,pp.679-680
【文献】 Curr. Org. Chem.,2009年,vol.13, no.14,pp.1366-1377
【文献】 Trends Pharmacol. Sci.,2009年,vol.30, no.7,pp.341-345
【文献】 Biochim. Biophys. Acta,2010年 6月,vol.1798, no.12,pp.2304-2314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 7/00−7/66
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有する前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、前記疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有する核酸キャリアと前記2本鎖核酸分子とを接触させ、β−シート構造を形成した前記ペプチド鎖中の前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および前記2本鎖核酸分子と、β−シート構造を形成した前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、前記2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖とを結合させ核酸複合体を形成する工程と、前記核酸複合体をin vitroで細胞に導入する工程とを有し、
前記ペプチド鎖が(RL)nおよび(LR)nのいずれか一方で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする細胞への核酸導入方法。
(なお、Rはアルギニン残基、Lはロイシン残基をそれぞれ表し、nは5以上20以下の自然数を表す。)
【請求項2】
前記疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびトリプトファンからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項3】
前記核酸複合体を形成する工程において、前記2本鎖核酸分子と核酸キャリアのモル比が1:4〜1:30であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項4】
前記2本鎖核酸分子がsiRNAであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項5】
前記核酸複合体が標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項6】
前記核酸複合体に含まれる前記2本鎖核酸分子または前記核酸キャリアの少なくとも一部に、標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有するシグナルペプチドが結合していることを特徴とする請求項5記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項7】
前記シグナルペプチドが、下記の配列番号1から配列番号13のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項6記載の細胞への核酸導入方法。
QAKKKKLDK [配列番号1]
SPQPKKKP [配列番号2]
RQARRNRRRRWR [配列番号3]
GPKKKRKV [配列番号4]
NSAAFEDLRVLS [配列番号5]
RQIKIWFQNRRMKWKKEN [配列番号6]
GRKKRRQRRRPPQG [配列番号7]
LPPLERLTL [配列番号8]
ALQKKLEELELDE [配列番号9]
LALKLAGLDI [配列番号10]
SLEGAVSEISLRD [配列番号11]
LPVLENLTL [配列番号12]
LASLMNLGMS [配列番号13]
【請求項8】
前記シグナルペプチドの末端が、前記核酸キャリアに含まれるペプチド鎖または前記2本鎖核酸の末端に結合していることを特徴とする請求項6または7記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項9】
アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有する前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、前記疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有する核酸キャリアと2本鎖核酸分子とが、前記核酸キャリアのβ−シート構造を形成したペプチド鎖に含まれる前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖と、前記2本鎖核酸分子のリン酸基との静電相互作用および前記2本鎖核酸分子とβ−シート構造を形成した前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して結合し、
前記ペプチド鎖が(RL)nおよび(LR)nのいずれか一方で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする核酸複合体。
(なお、Rはアルギニン残基、Lはロイシン残基をそれぞれ表し、nは5以上20以下の自然数を表す。)
【請求項10】
前記疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびトリプトファンからなる群より選択されることを特徴とする請求項9記載の核酸複合体。
【請求項11】
前記2本鎖核酸分子がsiRNAであることを特徴とする請求項9または10に記載の核酸複合体。
【請求項12】
前記2本鎖核酸分子またはそれに結合した前記核酸キャリアの少なくとも一部に、標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有するシグナルペプチドが結合していることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項記載の核酸複合体。
【請求項13】
前記シグナルペプチドが、下記の配列番号1から配列番号13のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項12記載の核酸複合体。
QAKKKKLDK [配列番号1]
SPQPKKKP [配列番号2]
RQARRNRRRRWR [配列番号3]
GPKKKRKV [配列番号4]
NSAAFEDLRVLS [配列番号5]
RQIKIWFQNRRMKWKKEN [配列番号6]
GRKKRRQRRRPPQG [配列番号7]
LPPLERLTL [配列番号8]
ALQKKLEELELDE [配列番号9]
LALKLAGLDI [配列番号10]
SLEGAVSEISLRD [配列番号11]
LPVLENLTL [配列番号12]
LASLMNLGMS [配列番号13]
【請求項14】
前記シグナルペプチドの末端が、前記核酸キャリアに含まれるペプチド鎖または前記2本鎖核酸の末端に結合していることを特徴とする請求項12または13記載の核酸複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞に2本鎖核酸分子を導入する方法、それに用いられる核酸キャリアの改良、および前記核酸キャリアと2本鎖核酸分子より得られる核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)は、塩基長21〜25程度の低分子量の2本鎖RNA(siRNA)が引き金となって塩基配列特異的にmRNAを分解することにより特定の遺伝子の発現を抑制する現象であり、すでに治験段階にあるアンチセンス核酸よりも、有効性および塩基配列特異性に優れていることから、医薬への応用が強く期待されている。しかしながら、siRNAの細胞内への導入、細胞内での安定性および阻害効果の持続性の確保等、解決すべき課題も数多く残されている。
【0003】
siRNAを含むポリ(オリゴ)ヌクレオチドはポリアニオンであるため、そのままでは疎水性の細胞膜との親和性が低く、細胞内への導入が困難である。また、細胞内での安定性および阻害効果の持続性を確保するためには、外因性の核酸を分解するために細胞内に存在するヌクレアーゼから保護する必要がある。上記課題に鑑み、細胞内への核酸の導入について、これまでに種々の方法が提案されているが、それらは、ウイルスベクターを用いる方法と用いない方法とに大別される。
【0004】
ウイルスベクターとは、複製能を欠いたウイルスであり、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法では、ウイルスの増殖様式の利点を利用して細胞内への進入からタンパク質合成までを効率よく進行させることができるという利点を有している。ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス由来の組み換えウイルスベクターが使用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかしながら、ウイルスベクターを用いる方法については、ウイルスによる発ガン等の危険性が指摘されており、実際に死亡例も確認されている。また、ウイルス中和抗体産生による不活性化等の問題があると共に、大量産生や品質管理にも困難が伴う。
【0005】
一方、ウイルスベクターを使用せずに標的細胞に核酸を導入する方法としては、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、ハイドロダイナミック法、抗体、ペプチド等のキャリアと核酸との複合体を利用する方法等の様々な方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、ウイルスベクターを使用しない従来の核酸導入方法は、siRNAを始めとする核酸を細胞に導入するための遺伝子医薬の構築には未だ十分とはいえない。すなわち、細胞種に関係なく核酸導入を高効率かつ高い再現性での達成、細胞内ヌクレアーゼに対する耐性の向上、標的核酸との配列特異的結合および親和性の向上、低い細胞毒性等を併せ持つ新規な核酸キャリアが求められている。
【0007】
これまでに種々の核酸キャリアや細胞への核酸の導入方法が開発されているが、近年、生体内シグナルペプチド等の機能性ペプチドを用いた核酸キャリアおよび細胞への核酸の導入方法が特に注目されている。例えば、核局在化シグナルペプチド(例えば、特許文献2,3参照)、その他のシグナルペプチド(例えば、特許文献4参照)、デザインペプチド(例えば、特許文献5参照)を用いてアニオン性の核酸を細胞内に導入する方法、糖修飾ペプチドを用いて細胞特異性を向上させた核酸キャリア(例えば、特許文献6参照)、両親媒性ポリマーとペプチドを結合させた機能性分子(例えば、特許文献7参照)、既存の核酸キャリアとペプチドを併用する方法(例えば、特許文献8参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−146191号公報
【特許文献2】特表2003−514564号公報
【特許文献3】特開2001−288200号公報
【特許文献4】特表平10−506001号公報
【特許文献5】特開2002−316997号公報
【特許文献6】特開平11−290073号公報
【特許文献7】特表2003−503370号公報
【特許文献8】特開2004−65238号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】仲嶋 一範、北村 義浩編、「必ず上手くいく遺伝子導入と発現解析プロトコール」、羊土社、2003年9月、ISBN 9784897064116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、これまでに様々な核酸キャリアおよび細胞への核酸の導入方法が開発されているが、未だ確立されたものはない。また、その多くがDNAをターゲットとするものであるため、低分子量であり、DNAよりも反応性の高いsiRNAの細胞への導入には必ずしも好適ではない。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、siRNA等の2本鎖核酸分子を標的細胞に高効率で導入可能であり、2本鎖核酸分子にヌクレアーゼへの高い耐性をもたらすことが可能であり、かつ細胞毒性による副作用のリスクが低い細胞への核酸導入方法、核酸キャリアおよび核酸複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(9)に記載の細胞への核酸導入方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1)アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有する前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、前記疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有する核酸キャリアと前記2本鎖核酸分子とを接触させ、β−シート構造を形成した前記ペプチド鎖中の前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および前記2本鎖核酸分子と、β−シート構造を形成した前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、前記2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖とを結合させ核酸複合体を形成する工程と、前記核酸複合体を細胞に導入する工程とを有する細胞への核酸導入方法。
(2)前記疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびトリプトファンからなる群より選択される(1)記載の細胞への核酸導入方法。
(3)前記ペプチド鎖が(RL)および(LR)のいずれか一方で表されるアミノ酸配列を有する(1)または(2)1項記載の細胞への核酸導入方法。
(なお、Rはアルギニン残基、Lはロイシン残基をそれぞれ表し、nは5以上10以下の自然数を表す。)
(4)前記核酸複合体を形成する工程において、前記2本鎖核酸分子と核酸キャリアのモル比が1:4〜1:30である(1)から(3)のいずれか1項記載の細胞への核酸導入方法。
(5)前記2本鎖核酸分子がsiRNAである(1)から(4)のいずれか1項記載の細胞への核酸導入方法。
(6)前記核酸複合体が標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有する(1)から(5)のいずれか1項記載の細胞への核酸導入方法。
(7)前記核酸複合体に含まれる前記2本鎖核酸分子または前記核酸キャリアの少なくとも一部に、標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有するシグナルペプチドが結合している(6)記載の細胞への核酸導入方法。
(8)前記シグナルペプチドが、下記の配列番号1〜13のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する(7)記載の細胞への核酸導入方法。
QAKKKKLDK [配列番号1]
SPQPKKKP [配列番号2]
RQARRNRRRRWR [配列番号3]
GPKKKRKV [配列番号4]
NSAAFEDLRVLS [配列番号5]
RQIKIWFQNRRMKWKKEN [配列番号6]
GRKKRRQRRRPPQG [配列番号7]
LPPLERLTL [配列番号8]
ALQKKLEELELDE [配列番号9]
LALKLAGLDI [配列番号10]
SLEGAVSEISLRD [配列番号11]
LPVLENLTL [配列番号12]
LASLMNLGMS [配列番号13]
(9)前記シグナルペプチドの末端が、前記核酸キャリアに含まれるペプチド鎖または前記2本鎖核酸の末端に結合している(7)または(8)記載の細胞への核酸導入方法。
【0013】
本発明の第2の態様は、下記の(10)〜(16)に記載の核酸複合体を提供することにより上記課題を解決するものである。
(10)アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有する前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、前記疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有する核酸キャリアと2本鎖核酸分子とが、前記核酸キャリアのβ−シート構造を形成したペプチド鎖に含まれる前記アルギニンまたはオルニチンの側鎖と、前記2本鎖核酸分子のリン酸基との静電相互作用および前記2本鎖核酸分子とβ−シート構造を形成した前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して結合している核酸複合体。
(11)前記疎水性アミノ酸が、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびトリプトファンからなる群より選択される(10)記載の核酸複合体。
(12)前記ペプチド鎖が(RL)および(LR)のいずれか一方で表されるアミノ酸配列を有する(10)または(11)記載の核酸複合体。
(なお、Rはアルギニン残基、Lはロイシン残基をそれぞれ表し、nは5以上20以下の自然数を表す。)
(13)前記2本鎖核酸分子がsiRNAであることを特徴とする(10)から(12)のいずれか1項記載の核酸複合体。
(14)前記2本鎖核酸分子またはそれに結合した前記核酸キャリアの少なくとも一部に、標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有するシグナルペプチドが結合している(10)から(13)のいずれか1項記載の核酸複合体。
(15)前記シグナルペプチドが、上記の配列番号1から配列番号13のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有する(14)記載の核酸複合体。
(16)前記シグナルペプチドの末端が、前記核酸キャリアに含まれるペプチド鎖または前記2本鎖核酸の末端に結合している(14)または(15)記載の核酸複合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の核酸キャリアは、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有している。β−シート構造を形成するペプチドは、2本鎖DNA等の2本鎖核酸分子と、2本鎖核酸分子とペプチドとの間の水素結合等を介して結合し、複合体を形成しうることが報告されている(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.74(1977),p.1458−1462参照)。本発明の核酸キャリアに含まれるペプチド鎖において、アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んでいるため、β−シート構造を形成した際に、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖が約7nmの間隔でβ−シート構造の片面側に配置される。この間隔は、ヌクレオチド鎖におけるリン酸基間の間隔とほぼ一致する。したがって、本発明の核酸キャリアは、β−シート構造を形成したペプチド鎖部分で、アルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、2本鎖RNA、2本鎖DNA等の2本鎖核酸分子と強く結合することにより、これらの2本鎖核酸分子のヌクレアーゼ耐性を大幅に向上させることができると共に、疎水性アミノ酸の側鎖が複合体の外面に露出するため、脂質二分子膜からなる細胞膜の透過性が向上し、細胞への2本鎖核酸分子の導入効率を高めることができる。また、ペプチド鎖部分のアミノ酸配列を適宜選択することにより、核酸キャリアの2本鎖核酸分子への親和性や塩基配列特異性を増大させることもできる。また、本発明の核酸キャリアはポリペプチドをベースとしているため細胞毒性が低く、遺伝子治療や遺伝子製剤に応用する場合の副作用を軽減できる。さらに、シグナルペプチドで修飾すること等により細胞内における局在化の制御や細胞特異性の増大を図ることもでき、核酸導入効率の増大、遺伝子治療における副作用の軽減等の種々の機能を付与することができる。
【0015】
本発明の細胞への核酸の導入方法では、上記のような特徴を有する核酸キャリアを用いて2本鎖核酸分子を標的細胞に導入するため、siRNA等の2本鎖核酸分子を標的細胞に高効率で導入可能であり、2本鎖核酸分子にヌクレアーゼへの高い耐性をもたらすことが可能であり、かつ細胞毒性による副作用のリスクが低いという効果を有する。
また、本発明の核酸複合体は、高効率で標的細胞内にsiRNA等の2本鎖核酸分子を導入できると共に、ヌクレアーゼへの高い耐性を有している。さらに、ポリペプチドをベースとしているため細胞毒性が低く、遺伝子治療や遺伝子製剤に応用する場合の副作用を軽減でき、これらの用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】siRNA、核酸キャリア(RL)7および核酸複合体の円偏光二色性(CD)スペクトルである。
図2】Jurkat細胞への核酸複合体の導入効率に及ぼす核酸キャリア中のペプチド鎖の長さの効果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図3】Jurkat細胞への核酸複合体の導入効率に及ぼす2本鎖核酸分子に対する核酸キャリアのモル比の効果を示す蛍光顕微鏡写真および蛍光スペクトルである。
図4】Jurkat細胞への核酸複合体の導入効率に及ぼす(RL)7への核局在化シグナル(NLS)ペプチドおよび長鎖カルボン酸のコンジュゲートの効果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図5】HeLa細胞への核酸複合体の導入効率に及ぼす2本鎖核酸分子に対する核酸キャリアのモル比の効果を示す蛍光顕微鏡写真および蛍光スペクトルである。
図6】HeLa細胞への核酸複合体の導入効率に及ぼす(RL)7への核外輸送シグナル(NES)ペプチドのコンジュゲートの効果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図7】核酸複合体に含まれるsiRNAの10%ウシ胎児血清(FBS)中での経時変化を示すゲル電気泳動の結果である。
図8】核酸複合体に含まれるsiRNAの10%ウシ胎児血清(FBS)中での経時変化を示すゲル電気泳動の結果である。
図9】Jurkat細胞について、核酸キャリアおよびRNAiFectの存在下でインキュベートした場合の生存率の経時変化を示すグラフである。
図10】K562細胞について、核酸キャリアおよびRNAiFectの存在下でインキュベートした場合の生存率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係る細胞への核酸導入方法(以下、「細胞への核酸導入方法」または「本方法」と略称する場合がある。)は、アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有する核酸キャリアと2本鎖核酸分子とを接触させ、β−シート構造を形成したペプチド鎖中のアルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子とβ−シート構造を形成したペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖とを結合させ核酸複合体を形成する工程と、核酸複合体を細胞に導入する工程とを有する。
【0018】
まず、本方法に用いられる核酸キャリア(以下、「核酸キャリア」と略称する場合がある。)および本発明の第2の実施の形態に係る核酸複合体(以下、「核酸複合体」または「複合体」と略称する場合がある。)についてより詳細に説明する。
【0019】
(1)核酸キャリア
核酸キャリアは、アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成するペプチド鎖を有している。上述のとおり、β−シート構造をとるポリペプチド鎖は2本鎖DNA(dsDNA)等の2本鎖核酸分子と複合体を形成することができるが、特に、ペプチド鎖が、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖がシート構造の片面側に、疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されるような二次構造をとると、アルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、両者の間で強い結合を形成することができる。このようにして形成された核酸複合体において、疎水性アミノ酸の側鎖は外側を向くため、複合体の脂質二分子膜からなる細胞膜に対する親和性が増大し、細胞内への導入効率が向上する。
【0020】
ペプチド鎖のアミノ酸配列は、上記の条件、すなわち、アルギニンまたはオルニチンと疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列を有し、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニンまたはオルニチンの側鎖が片面側に、疎水性アミノ酸の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成し、アルギニンまたはオルニチンの側鎖とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子と前記ペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、両者の間で強い結合を形成することができるという条件を満たす限りにおいて、特に制限されない。また、β−シート構造は、上記の条件を満たす限りにおいて、平行β−シートおよび逆平行β−シート構造のいずれであってもよい。
β−シート構造の形成は、円偏光二色性(CD)スペクトル等の任意の公知の方法を用いて確認することができる。
【0021】
ペプチド鎖の好ましいアミノ酸配列としては、アルギニンまたはオルニチンと、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびトリプトファンからなる群より選択される疎水性アミノ酸とが交互に並んだアミノ酸配列が挙げられる。アルギニンまたはオルニチンおよび疎水性アミノ酸の種類は、複合体を形成する2本鎖核酸分子の種類や構造等に応じて適宜選択される。また、ポリペプチド鎖の長さは、複合体を形成する2本鎖核酸分子の鎖長、すなわち2本鎖核酸分子の有するリン酸基(負電荷)の数等に応じて適宜選択される。2本鎖核酸分子に対してポリペプチド鎖が短すぎると、安定な複合体が形成されないと共に、ヌクレアーゼから2本鎖核酸分子を保護する効果が得られなくなる。一方、2本鎖核酸分子に対してポリペプチド鎖が長すぎると、アルギニンまたはオルニチン残基の有する正電荷により、細胞への核酸複合体の導入効率が低下する。
【0022】
より好ましいペプチド鎖のアミノ酸配列としては、(RL)および(LR)のいずれか一方で表されるアミノ酸配列が挙げられる。なお、Rはアルギニン残基、Lはロイシン残基をそれぞれ表す。アルギニン(R)残基は、塩基性の基としてグアニジル基を有しているが、下記の化学式で表されるように、リン酸基と強く相互作用することができるため、安定な複合体を形成する上で好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
また、nは、RLまたはLRの繰り返し回数を表す自然数であり、複合体を形成する2本鎖核酸分子の鎖長、すなわち2本鎖核酸分子の有するリン酸基(負電荷)の数等に応じて適宜選択される。二本鎖核酸がsiRNAの場合、nは、例えば、5以上、好ましくは5以上20以下、より好ましくは7以上10以下の自然数である。nが5を下回ると2本鎖核酸分子と安定な結合を形成することが困難になり、一方、nが大きくなりすぎると、細胞毒性が発現したり、リン酸基の負電荷を完全に中和することが困難になったりする等の問題が生じるおそれがある。
【0025】
核酸キャリアは、標的細胞および標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラ(細胞内小器官)の一方または双方に対する局在化活性を有していることが好ましい。核酸複合体の局在化の対象となる標的細胞、あるいは標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラについては、標的細胞内に導入しようとする2本鎖核酸分子の種類およびその細胞内における機能等に応じて適宜選択される。
【0026】
局在化活性を付与する手段は、核酸複合体の局在化の対象となる標的細胞、あるいは標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラに応じて、任意の公知の手段を用いることができる。例えば、標的細胞に対する局在化活性を付与するための手段の具体例としては、その標的細胞に特異的に存在する受容体に対するリガンドを核酸キャリアに結合させることが挙げられる。また、標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラに対する局在化活性を付与するための手段の具体例としては、標的細胞および/またはその特定の部位に対する局在化活性を有するシグナルペプチドを核酸キャリアに結合させることが挙げられる。結合させることができるシグナルペプチドの具体例としては、各種の核局在化シグナル(NLS)および核外輸送シグナル(NES)等が挙げられる。
【0027】
核内への局在化は、NLSに運搬タンパク質であるインポーチンとGTP結合タンパク質の一種であるRanが結合し、これを核孔複合体が認識して細胞質から核内に通過させることにより達成される。
NLSの具体例としては、下記の配列番号1〜7のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。
QAKKKKLDK [配列番号1](ヌクレオプラスミン由来NLS配列)
SPQPKKKP [配列番号2](ヒトp53由来NLS配列)
RQARRNRRRRWR [配列番号3](HIV-1 Revタンパク由来NLS配列)
GPKKKRKV [配列番号4](SV40 T抗原由来NLS配列)
NSAAFEDLRVLS [配列番号5](インフルエンザウィルスヌクレオプラスミン由来NLS配列)
RQIKIWFQNRRMKWKKEN [配列番号6](アンテナペディアペネトラチン由来NLS配列)
GRKKRRQRRRPPQG [配列番号7](HIV-1 Tatタンパク由来NLS配列)
【0028】
核内から細胞質への移送は、NESに運搬タンパク質であるCRM1とGTP結合タンパク質の一種であるRanが結合し、これを核孔複合体が認識して核から細胞質に通過させることにより達成される。
NESの具体例としては、下記の配列番号8〜13のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。
LPPLERLTL [配列番号8](HIV-1 Revタンパク由来NES配列)
ALQKKLEELELDE [配列番号9](MAPKK由来NES配列)
LALKLAGLDI [配列番号10](PKI-α由来NES配列)
SLEGAVSEISLRD [配列番号11](Dsk-1由来NES配列)
LPVLENLTL [配列番号12](TFIIIA由来NES配列)
LASLMNLGMS [配列番号13](Matrin3由来NES配列)
【0029】
これらのシグナルペプチドは、複合体の形成および細胞内への導入を阻害しない限りにおいて、核酸キャリア分子内の任意の位置、例えば、2本鎖核酸分子と結合を形成するポリペプチド鎖のN−末端側またはC−末端側、あるいはβ−シート構造の発現を阻害しない限りにおいて側鎖に結合させることができ、シグナルペプチドのN−末端側およびC−末端側のどちら側が2本鎖核酸分子と結合していてもよいが、シグナルペプチドのC−末端が、2本鎖核酸分子と結合を形成するペプチド鎖のN−末端に結合しているのが好ましい。2本鎖核酸分子と結合を形成するポリペプチド鎖とシグナルペプチドとは、直接結合していてもよく、適当なスペーサー分子を介して結合していてもよい。スペーサー分子の具体例としては、アルキレン基、ポリオキシエチレン基、オリゴペプチド等が挙げられる。
【0030】
核酸キャリアには、標的細胞上の受容体に対するリガンドやシグナルペプチド以外の機能性分子が結合していてもよい。機能性分子の具体例としては、細胞膜に対する親和性を向上させるために長鎖アルキル基、脂質分子等が挙げられる。
【0031】
核酸キャリアは、ポリペプチドを主な構成要素とするものであるため、カチオン系リポソーム等の従来の核酸キャリアに比べ細胞毒性が低く、遺伝子治療や遺伝子製剤に応用する場合の副作用を軽減でき、これらの用途に好適に用いることができる。
核酸キャリアの細胞毒性は、標的細胞へ導入し、所定時間経過後の細胞生存率により評価することができる。
【0032】
(2)核酸複合体
核酸キャリア中のアルギニンまたはオルニチンの側鎖と、2本鎖核酸分子中のリン酸基との静電相互作用を介して両者を結合させることにより、核酸複合体が得られる。
複合体の形成に用いられる2本鎖核酸分子としては、DNA、RNAのいずれでもよく、細胞内への導入の目的についても、例えば、所望のタンパク質を産生させること、2本鎖DNAの配列を認識する転写因子などを「おとり」の短鎖核酸でトラップすること(デコイ法)、あるいはRNA干渉法(RNAi)等の任意のものであってよい。したがって、2本鎖核酸分子としては、細胞内で発現させようとするタンパク質をコードする2本鎖DNA、デコイ核酸、siRNA等が挙げられる。2本鎖核酸分子の塩基長および塩基配列は、核酸複合体の細胞への導入目的、標的細胞、治療の対象となる疾患の種類等に応じて異なるが、siRNAの場合、塩基数は、9〜50塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは18〜28塩基である。ヒトの場合、塩基数が17以上であれば、得られるポリヌクレオチドの総数(417=1.7×1010)がヒトの遺伝子総数(6×10)を上回るため、特定遺伝子のみの発現の阻害が統計的には可能になる。
【0033】
塩基配列については、発現対象となるタンパク質のアミノ酸配列または標的遺伝子の塩基配列が既知の場合には、GenBank、EMBL、PDB、DDBJ等のデータベースから得られた配列データを元に、任意の公知の方法を用いて標的細胞に導入する2本鎖核酸分子を設計することができる。あるいは、任意の公知の方法により単離した標的タンパク質のアミノ酸配列またはそれをコードするmRNAの塩基配列を任意の公知の方法により決定し、それらに基づいて2本鎖核酸分子を設計することもできる。
【0034】
導入しようとする2本鎖核酸分子と相補的な塩基配列を有する標的核酸の発現を阻害する機構としては、(1)RNA/DNAハイブリッド鎖のRNA鎖を特異的に加水分解するリボヌクレアーゼHによるmRNA/ポリヌクレオチド複合体の分解、(2)リボソーム複合体による翻訳の阻害、(3)ポリヌクレオチドがイントロンとエキソンの境界部を標的とする場合には、mRNAのスプライシングの阻害、(4)RNA干渉によるmRNAの塩基配列特異的な加水分解、(5)デコイ核酸による転写制御因子の阻害等が挙げられる。
【0035】
核酸複合体は、標的細胞および標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラ(細胞内小器官)の一方または双方に対する局在化活性を有していることが好ましい。核酸複合体の局在化の対象となる標的細胞、あるいは標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラについては、標的細胞内に導入しようとする2本鎖核酸分子の種類およびその細胞内における機能等に応じて適宜選択される。
【0036】
局在化活性を付与する手段は、核酸複合体の局在化の対象となる標的細胞、あるいは標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラに応じて、任意の公知の手段を用いることができる。例えば、標的細胞に対する局在化活性を付与するための手段の具体例としては、上述のように、その標的細胞に特異的に存在する受容体に対するリガンドを核酸キャリアに結合させること、あるいは該リガンドを2本鎖核酸分子に結合させることが挙げられる。また、標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラに対する局在化活性を付与するための手段の具体例としては、上述のように、シグナルペプチドを核酸キャリアの少なくとも一部に結合させること、あるいは該シグナルペプチドを2本鎖核酸分子に結合させることが挙げられる。なお、核酸複合体へのシグナルペプチドの導入量が多すぎると、核酸複合体の疎水性の低下による細胞導入効率の低下等を招くおそれがあるため、核酸複合体へのシグナルペプチドの導入量は、2本鎖核酸分子の分子量、標的細胞内の特定の部位もしくはオルガネラ、シグナルペプチドの分子量および親水性等に応じて適宜調節される。好ましくは、シグナルペプチドのN−末端またはC−末端が、2本鎖核酸分子の5’−末端または3’−末端と結合している。
核酸キャリアまたは2本鎖核酸分子に結合させることができるシグナルペプチドの具体例については、上述の場合と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0037】
(3)細胞への核酸導入方法
核酸複合体の調製は、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、2本鎖核酸分子と核酸キャリアとを所定のpHの緩衝溶液に溶解、混合し、所定の温度で所定時間(例えば、室温で30分間)放置することにより調製することができる。2本鎖核酸分子と核酸キャリアの混合比(モル比)は、確実に複合体が形成されるように後者が過剰となるようにするのが好ましい。好ましい2本鎖核酸分子と核酸キャリアの混合比は、1:4〜1:30、好ましくは1:10〜1:30、より好ましくは1:15〜1:20である。必要に応じて、過剰の核酸キャリアを除去するために、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー等の任意の公知の方法を用いて核酸複合体を精製してもよい。
【0038】
標的細胞への核酸複合体の導入についても、in vitroでの任意の公知の方法を用いて行うことができる。培養細胞へのin vitroでの核酸遺伝子の導入では、例えば、標的細胞を含む培地または培養液中に核酸複合体を添加し、所定温度で所定時間インキュベートすることにより行うこともでき、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、超音波照射法等の他の公知の方法を用いて行うこともできる
【0039】
核酸複合体の導入対象となる標的細胞に特に制限はなく、外因性の核酸を導入することにより遺伝子の発現を制御できる限りにおいて任意の細胞を標的細胞とすることができる。
【0040】
本発明により提供される細胞への核酸の導入方法、核酸キャリアおよび核酸複合体は、細胞内において欠損している遺伝子を補ったり、異常遺伝子を持っているため機能不全に陥っている細胞の欠陥を修復または修正したりすることにより疾患を治療する遺伝子治療等に適用することができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
[実験操作]
(1)核酸キャリア
本実施例で使用した核酸キャリアは、下記の表1に示すとおりである。なお、表1のアミノ酸配列は1文字略号を用いて表されている。また、表1において、「-C18」はN−末端がオクタデシル基で修飾されたペプチドを表し、「-Cholic A」は、N−末端にアミド結合を介してコール酸が結合したペプチドを表し、「Ac-」はN−アセチルアミドを表す。
下記の表1に示した核酸キャリア(下記のエントリー21)との比較のために、カチオン性リポソーム系核酸キャリアであるRNAiFect(キアーゲン社)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(2)標的細胞
急性リンパ芽球性白血病細胞であるJurkat細胞、慢性随性白血病細胞であるK562細胞、および子宮頸がん細胞であるHela細胞を標的細胞として使用した。
【0044】
(3)2本鎖核酸分子
Jurkat細胞およびHela細胞に対しては、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素:がん細胞の不死化に関与している。)遺伝子に対するsiRNA(21塩基対)を2本鎖核酸分子として使用した。Jurkat細胞およびHela細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNAの塩基配列は、それぞれ、下記の配列番号32および33に示すとおりである。
5'-GGAGCAAGUUGCAAAGCAUTT-3' [配列番号32]
5'-AUGCUUUGCAACUUGCUCCTT-3' [配列番号33]
【0045】
K562細胞に対しては、Bcr/abl(9番染色体上のabl遺伝子と22番染色体上のbcr遺伝子が融合して生じるキメラ遺伝子であるフィラデルフィア染色体に存在する慢性随性白血病の原因遺伝子であり、細胞増殖シグナルを異常に亢進させ、白血病細胞を無秩序に増殖させる。)遺伝子に対するsiRNA(21塩基対)を2本鎖核酸分子として使用した。使用したsiRNAの塩基配列は、下記の配列番号34および35に示すとおりである。
5'-GCAGAGUUCAAAAGCCCUUTT-3' [配列番号34]
5'-AACGGCUUUUGAACUCUGCTT-3' [配列番号35]
【0046】
(4)核酸複合体の調製
200μMペプチド水溶液(超純水)10μLと、20μM siRNA水溶液(超純水)10μLを室温で混合し、37℃で30分間インキュベートした。
【0047】
(5)標的細胞への導入
標的細胞の培養液または培地に、上記(4)で調製した核酸複合体を添加した。添加量は、100nM、200nM、または400nMのいずれかである。核酸複合体を添加後、37℃で所定時間インキュベートした。インキュベート時間は、Jurkat細胞およびK562細胞の場合24時間、HeLa細胞の場合48時間である。
【0048】
(6)標的細胞への核酸複合体の導入効率の評価
標的細胞への核酸複合体の導入効率は、蛍光ラベルで標識した2本鎖核酸分子を用いて調製した核酸複合体とインキュベートした後の標的細胞の蛍光顕微鏡観察により評価を行った。
【0049】
(7)半減期の評価
37℃の10%FBS中における核酸複合体に含まれるsiRNAの分解率の経時変化より、核酸複合体に含まれるsiRNAの半減期を求めた。siRNAの分解率は、核酸複合体を加熱後単離したsiRNAのホルムアルデヒド変性アガロースゲル電気泳動法により求めた。
【0050】
(8)細胞毒性の評価
核酸キャリアの細胞毒性は、核酸キャリアと共にインキュベートした標的細胞の生存率の経時変化より求めた。
【0051】
(9)RNAiによる標的遺伝子のサイレンシング効果の検討
RNAiによる標的遺伝子のサイレンシング効果は、インキュベート後の細胞を溶解させ、RT-PCR法を用いて標的遺伝子を増幅後、β−アクチン遺伝子を内部標準として発現量の変化を定量的に求めることにより検討した。
【0052】
[結果]
(1)核酸複合体における核酸キャリアのコンホメーション
核酸複合体の調製に用いたsiRNA、アミノ酸配列(RL)からなる核酸キャリア(表1中のエントリー番号。以下同じ。)、およびこれらより得られた核酸複合体の円偏光二色性(CD)スペクトルを図1に示す。核酸キャリア単独ではランダムコイル構造に由来するCDスペクトルが観測されたのに対し、核酸複合体においては、217nmに、β−シート構造に特有の強い負のCotton効果が観測された。これらの結果より、核酸キャリアは、二重らせん構造を有する2本鎖核酸分子の存在下で、正電荷を有するアルギニン(R)の側鎖が片面側に、疎水性のロイシン(L)の側鎖が反対面側にそれぞれ配置されたβ−シート構造を形成していることがわかる。また、アミノ酸配列の異なるペプチドについては、2本鎖核酸との複合体形成およびβ−シート構造の発現が観測されないことから、アルギニンのグアニジル基とリン酸基との静電相互作用および2本鎖核酸分子と核酸キャリアのペプチド鎖との間の水素結合の一方または双方を介して、両者の間で強い結合が形成されていることが示唆される。
【0053】
(2)標的細胞への核酸複合体の導入効率
塩基性アミノ酸であるアルギニンと疎水性アミノ酸であるロイシンとが交互に並んだアミノ酸配列(RL)(5≦n≦10)からなる核酸キャリアについて、JurkatへのhTERTに対する蛍光標識siRNAの導入効率を検討した結果を図2に示す。比較のためRNAiFectを用いた場合の結果を合わせて示す。これらの結果より、siRNA単独では細胞内部に侵入することができないが、RNAiFect、およびnが7以上の核酸キャリアを用いると、siRNAを細胞内部に導入できることが確認された。
【0054】
アミノ酸配列(RL)からなる核酸キャリアを用いて、siRNAに対する核酸キャリアのモル比がJurkat細胞へのsiRNAの導入効率に及ぼす効果を併せて検討した。結果を図3に示す。これらの結果より、Jurkat細胞へのsiRNAの導入効率を十分に確保するためには、siRNAに対する核酸キャリア3のモル比が1:6以上、より好ましくは1:10以上である必要があることが確認された。
【0055】
核酸キャリアおよびへの疎水性基またはシグナルペプチド(NLS)の導入がJurkat細胞へのsiRNAの導入効率に及ぼす効果を図4に示す。これらの結果より、核酸キャリアとJurkat細胞との組み合わせ(核酸キャリア12)において、N−末端へのオクタデシル基およびHIV-1 Revタンパク質由来NLSの導入により、Jurkat細胞へのsiRNAの導入効率が大幅に向上することが確認された。
【0056】
同様の実験をHeLa細胞について行った結果を図5および図6に示す。図5の結果より、HeLa細胞へのsiRNAの導入効率を十分に確保するためには、siRNAに対する核酸キャリアのモル比が1:15以上である必要があることが確認された。また、図6の結果より、HeLa細胞へのsiRNAの導入については、核酸キャリアにHIV-1 Revタンパク質由来NES配列(核酸キャリア16)、Dsk-1由来NES配列(核酸キャリア19)、およびMatrin3由来NES配列(核酸キャリア21)を導入した場合に、siRNAの導入効率が増大することが確認された。
【0057】
(3)核酸複合体に含まれるsiRNAの半減期
10%FBS中でのsiRNAおよび核酸複合体に含まれるsiRNAの分解率の経時変化をゲル電気泳動でモニタした結果を図7図8、下記の表2および3に示す。図7の結果より、siRNAは10%FBS中で速やかに(半減期2時間程度)で分解するが、核酸キャリアと核酸複合体を形成させることにより、半減期が数倍〜20倍程度に増大することが確認された。また、細胞へのsiRNAの導入効率の増大が観測されなかった核酸キャリアおよびについては、このような半減期の増大が観測されなかったことから、10%FBS中での半減期の増大は核酸複合体の形成によるものであると考えられる。また、RNAiFectについては、複合体の形成による半減期の増大は観測されなかった。また、図8に示すように、NES配列を導入した核酸キャリア1621についても半減期の増大が観測され、特に核酸キャリア16について顕著な効果が見られた。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
(4)細胞毒性
Jurkat細胞およびK562細胞について、核酸キャリアおよびRNAiFectの存在下でインキュベートした場合の生存率の経時変化を検討した。24時間後の生存率を図9および9に示す。図9に示すように、Jurkat細胞に対しては、核酸キャリアの全てが殆ど細胞毒性を示さないことがわかった。一方、K562細胞に対しては、図10に示すように、核酸キャリアを高濃度で添加した場合に24時間後の生存率の低下が観測された。しかし、実際に使用される1〜2μM程度の濃度では、核酸キャリアの全てが90%以上と、RNAiFectよりもはるかに高い細胞生存率を示した。特に、核酸キャリアおよびは、K562細胞に対しても殆ど細胞毒性を示さないことがわかった。
【0061】
(5)核酸複合体を用いたRNAiによるJurkat細胞hTERT遺伝子のサイレンシング効果
Jurkat細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNA(21塩基対:配列番号32)と核酸キャリアとの複合体の存在下でJurkat細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるhTERT遺伝子の発現量の測定結果を下記の表4に示す。この結果より、核酸キャリアは、RNAiFectと同程度の核酸導入効率を示すことが確認された。
【0062】
【表4】
【0063】
(6)核酸複合体を用いたRNAiによるHeLa細胞hTERT遺伝子のサイレンシング効果
HeLa細胞のhTERT遺伝子に対するsiRNA(21塩基対:配列番号33)と核酸キャリアとの複合体の存在下でHeLa細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるhTERT遺伝子の発現量の測定結果を下記の表5に示す。この結果より、核酸キャリアは、RNAiFectを用いた場合よりも少ないsiRNAの添加量で、RNAiFectと同程度のサイレンシング効果を示すことが確認された。
【0064】
【表5】
【0065】
(7)核酸複合体を用いたRNAiによるK562細胞Bcr/abl遺伝子のサイレンシング効果
K562細胞のbcr/abl遺伝子に対するsiRNA-revNESコンジュゲート(共有結合体)(100nM)(配列番号34で表される塩基配列を有するsiRNAの5’−末端に、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するHIV-1revタンパクNES配列のN−末端が直接共有結合している。)と核酸キャリア(10当量)または核酸キャリアLRALLRALLRALLRALLRALLRAL(配列番号36、10当量)との複合体の存在下にK562細胞をインキュベート(48時間)した場合におけるbcr/abl遺伝子の発現量の測定結果を下記の表6に示す。
これらの結果より、K562細胞の場合には、シグナルペプチドを結合させたsiRNAを用いて調製された核酸キャリアを用いることにより、核酸の細胞への導入効率およびK562細胞Bcr/abl遺伝子のサイレンシング効果が大幅に向上することが確認された。
【0066】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]