特許第5738983号(P5738983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738983
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】高温燃料電池スタックを運転する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20060101AFI20150604BHJP
   H01M 8/12 20060101ALI20150604BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150604BHJP
   H01M 8/06 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/12
   H01M8/02 Y
   H01M8/06 G
   H01M8/04 Y
   H01M8/04 X
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-508374(P2013-508374)
(86)(22)【出願日】2010年5月5日
(65)【公表番号】特表2013-530490(P2013-530490A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2010002765
(87)【国際公開番号】WO2011137916
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2013年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(73)【特許権者】
【識別番号】509332501
【氏名又は名称】テクニカル・ユニヴァーシティ・オブ・デンマーク
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ネダーガールド・クラウセン・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロストルプ−ニールセン・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ゴットルプ・バルフォド・ラスムス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァング・ヘンドリクセン・ペーター
(72)【発明者】
【氏名】イェルム・ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン・ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ベーギルド・ハンセン・ジョン
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−006778(JP,A)
【文献】 特表2005−519443(JP,A)
【文献】 特開2009−059667(JP,A)
【文献】 特開2009−070585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
H01M 8/02
H01M 8/06
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni燃料極が使用される高温燃料電池スタックを運転する方法であって、該方法は次の工程、
a) 該燃料電池スタックを電源ユニットに並列に接続する工程、ただし該電源ユニットが該燃料電池スタックに接続する前に燃料電池スタックの電池毎に700〜1500mVの電圧を提供するように調整されており、
b) 該電源ユニットから、該燃料電池スタックの起電力にかかわらず、該燃料電池スタックにわたって燃料電池毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程、
c) 該電源ユニットから燃料電池毎の該電圧を維持する一方で、燃料電池スタックを周囲温度から300℃の間の所定の温度から運転温度に加熱する工程、
d) 該燃料電池スタックが運転状態になるまで、該燃料電池スタックを所定の運転温度以上及び/又は所定の電圧以上に維持する工程、
e) 該燃料電池スタックに燃料を供給する工程、
f) 該電源ユニットを切断する工程、
g) その後、該燃料電池スタックに電力要求負荷(power−requiring load)を接続する工程、
を含む、上記の方法。
【請求項2】
前記負荷を切断し、その後、前記燃料電池スタックが再び運転状態なるか、又は該燃料電池スタックが前記所定温度に冷却するまで、前記電源ユニットから、前記燃料電池スタックの起電力の強度にかかわらず、前記燃料電池スタックにわたる燃料電池毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程e)、f)及びg)を実行することによって前記燃料電池スタックを再び運転状態にする工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電源ユニットから前記燃料電池スタックにわたる燃料電池毎に700〜1,500mVの電圧を印加する一方で、燃料供給を切断する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記負荷を切断し、その後、前記電源ユニットから、前記燃料電池スタックの起電力にかかわらず、前記燃料電池スタックにわたる燃料電池毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程、前記燃料電池スタックへの燃料供給を切断する工程、及び最後に前記燃料電池スタックを前記所定温度に冷却する工程を含む、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記電源ユニットからの燃料電池毎に700〜1,500mVの電圧が、製造公差(production tolerance)を含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記電源ユニットからの電圧が、燃料電池毎に1,000mVである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料電池スタックが、前記工程a)〜d)において電解モードで、そして、工程e)〜g)においてSOFCモードで運転される、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
蒸気を含むガスが、工程c)において燃料電極に添加される、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記燃料電池スタック中で生成される水素が、該燃料電池スタックの上流の燃料処理システムに移動される、請求項2、4又はのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記燃料処理システムが、改質機又は水素化脱硫ユニットである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記高温燃料電池が、溶融炭酸塩形燃料電池、又は固体酸化物形セルである、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記固体酸化物形セルが、固体酸化物形燃料電池、又は固体酸化物電解形セルである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温燃料電池(SOC又はMCFC)を運転する方法に関する。特に、本発明は、高温の固体酸化物形セルスタック又は溶融炭酸塩形燃料電池スタックの運転方法であって、それにより該スタック中の燃料電極素子の電気的保護が得られる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料の化学エネルギーを直接電気に変換する。可逆的な固体酸化物形セル(SOC)は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)及び固体酸化物電解形セル(SOEC)の両方として使用できる。固体酸化物形セル中の燃料電極は、ニッケルのサーメット及びイットリア安定化ジルコニア(Ni/YSZ)をベースとしており、そしてこの素子は、SOFCではアノードと呼ばれており、そしてSOECではカソードと呼ばれている。
【0003】
SOECは、水を水素と酸素とに分離し、生成した水素はSOFC中で利用できる。SOECはまた、二酸化炭素を一酸化炭素と酸素とに分離する電位を有する。このことは、蒸気と二酸化炭素との混合物の電気分解によって、水素と一酸化炭素との混合物(“合成ガス”としても知られる)が結果として得られることを意味する。
【0004】
近年の開発は、SOFCの性能を向上させることに向けられている。というのは、これらの燃料電池は高効率で多様な燃料を変換できるからである。
【0005】
単一のSOFCは、アノード(燃料電極)とカソード(酸素電極)との間に挟まれた固体酸化物の密な電解質を含み、該アノード及びカソードは、それぞれは、反応物質を供給するための微小な孔又はチャンネルを有する。空気のような酸素含有ガスがカソードに沿って通ると、酸素分子はカソードと電解質との間の界面に接触し、そこでそれらは電気化学的に酸素イオンに還元される。これらのイオンは、電解質材料中に拡散し、そしてアノードに向かって移動し、そこでそれらは、アノードと電解質との間の界面で燃料を電気化学的に酸化する。燃料電池内での電気化学反応は、外部回路のための電気を提供する。燃料電池は、さらに、燃料の制御された分配を可能にする微小な孔又はチャンネルを有する支持体を含む。複数のSOFCは、いわゆる“SOFCスタック”を形成するために、インターコネクターを介して直列に接続され得る。
【0006】
SOFCが逆モード、すなわち、固体酸化物形電解質セル、SOECで運転されるとき、電気は燃料の化学エネルギーに直接変換される。SOECにおいて、電極の機能はSOFCと比較して逆である、すなわち、SOFCのアノードがSOEC中のカソードとして機能し、そしてSOFCのカソードがアノードとして機能する。SOFC及びSOEC両方のための電極はまた、前に示したように燃料電極及び酸素電極とも呼ばれ、そのため、電極の機能を示す。
【0007】
従来のSOFCアノードは、Niのサーメット及びイットリア安定化ジルコニア(Ni/YSZ)をベースとしている。Ni電極は、Ni粒子として還元された状態でのみ活性であり、NiOとして酸化された状態ではそうでない。さらに、活性化後のアノードの再酸化は、アノードの体積を膨張させる結果となり、電解質における亀裂、及び付随する電力の損失を引き起こすであろう。
【0008】
酸素は、周囲及びカソードからアノードチャンバーへ、例えば、電解質中の不十分なシールを介して、又はピンホールを介して拡散し、それにより燃料と反応する。もしSOFCシステム中の燃料フローが停止されると、アノードチャンバーにおける酸素分圧は増加し、そしてそれによりアノードの再酸化の危険性が増大する。
【0009】
従来の技術は、アノードチャンバーを還元ガス(しばしば、不活性ガス、天然ガス又は同等物中の希釈H)でフラッシュ(flush)する手段を含み、そしてそれにより、酸素分圧が臨界値よりも低く保たれる。フラッシュすることにより、典型的に、システムの加熱及び冷却の両方の間、少なくとも約500℃より高い温度に維持される。
【0010】
Versa Power Systemsに譲渡された米国特許出願公開第2006/0141300号明細書(特許文献1)は、燃料電池が再酸化に向かう耐性(tolerance)を高める手段を開示している。
【0011】
Versa Power Systemsに譲渡された国際公開第2005/101556号パンフレット(特許文献2)は、蒸気でアノードチャンバーをパージし、それにより、Ni表面からカルボニル種及び酸素種を除去する方法を公開している。
【0012】
酸化を防ぐためのその他の方法は、米国特許出願公開第2003/0235752号明細書(特許文献3)中にDelphi Technologiesによって開示されている。酸素獲得材料、例えば、金属Niは、酸化を防ぐために燃料経路中に配置される。
【0013】
三菱重工業株式会社に譲渡された日本特許出願第2004−324060号(特許文献4)は、別の水電解装置及びH貯蔵タンクと接続されるSOFCからなるシステムを開示している。
【0014】
日本特許出願第7−006778号(特許文献5)は、Ni−YSZのNiOを脱酸素し、そしてSOFCのオーム抵抗及び偏極抵抗を低減するために、YSZ電解質を通るNi−YSZ燃料電極から空気電極への酸素イオンのフローを生成するのに電源が使用される方法を開示している。
【0015】
この方法は、寿命を延ばすために、長期間の運転による劣化後のSOFCの回復を開示している。
【0016】
その他の方法は、米国特許出願第2000/28362号明細書(特許文献6)及び同第2000/95469号明細書(特許文献7)中に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0141300号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/101556号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0235752号明細書
【特許文献4】日本特許出願第2004−324060号
【特許文献5】日本特許出願第7−006778号
【特許文献6】米国特許出願第2000/28362号明細書
【特許文献7】米国特許出願第2000/95469号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
Ni燃料電極が、その電極の寿命全体にわたって酸化されるのを防ぐ簡単な方法が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
それゆえ、本発明の方法の目的は、スタック中の固体酸化物形セルの燃料電極を、その寿命全体にわたって酸化に対して保護する方法を提供することである。
【0020】
この目的は、Ni燃料極が使用される高温固体酸化物形燃料電池スタックを運転する方法であって、該方法は次の工程、
a) 該燃料電池スタックを電源ユニットに並列に接続する工程、ただし該電源ユニットが該燃料電池スタックに接続する前に燃料電池スタックの電池毎に700〜1500mVの電圧を提供するように調整されており、
b) 該電源ユニットから、該固体酸化物形セルスタックの起電力にかかわらず、該固体酸化物形セルスタックにわたって固体酸化物セル毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程、
c) 該電源ユニットからの固体酸化物形セル毎の電圧を維持する一方で、固体酸化物形電池スタックを周囲温度から300℃の間の所定の温度から運転温度に加熱する工程、
d) 該固体酸化物形セルスタックが運転状態になるまで、該固体酸化物形セルスタックを所定の運転温度以上及び/又は所定の電圧以上に維持する工程、
e) 該固体酸化物形電池スタックに燃料を供給する工程、
f) 該電源ユニットを切断する工程、
g) その後、該燃料電池スタックに電力要求負荷(power−requiring load)を接続する工程、
を含む、前記方法を提供する、本発明の方法によって得られる。
【0021】
以下は本発明の実施形態であり、それらは前後して与えられた各実施形態と組み合わせることができる。
【0022】
負荷を切断し、その後、固体酸化物形セルスタックが再び運転状態なるか、又は該固体酸化物形セルスタックが上記の所定温度に冷却するまで、電源ユニットから、固体酸化物形セルスタックの起電力にかかわらず、固体酸化物形セルスタックにわたる固体酸化物形セル毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程を含む、方法。
【0023】
工程e)、f)及びg)を実行することによって、固体酸化物形セルスタックを再び運転状態にする工程を含む、方法。
【0024】
電源ユニットから、固体酸化物形セルスタックにわたる固体酸化物形セル毎に700〜1,500mVの電圧を印加する一方で、燃料供給を切断する工程を含む、方法。
【0025】
負荷を切断し、その後、電源ユニットから、固体酸化物形セルスタックの起電力にかかわらず、固体酸化物形セルスタックにわたる固体酸化物形セル毎に700〜1,500mVの電圧を印加する工程、固体酸化物形セルスタックへの燃料供給を切断する工程、及び最後に固体酸化物形セルスタックを所定温度に冷却する工程を含む、方法。
【0026】
電源ユニットからの固体酸化物形セル毎の700〜1,500mVの電圧が、製造公差(production tolerance)を含む、方法。
【0027】
電源ユニットからの電圧が、固体酸化物形セル毎に1,000mVである、方法。
【0029】
固体酸化物形セルスタックが、工程a)〜d)において電解モードで、そして工程e)〜g)においてSOFCモードで運転される、方法。
【0030】
蒸気を含むガスが、工程c)で燃料電極に添加される、方法。
【0031】
固体酸化物形セルスタック中で生成された水素が、固体酸化物形セルスタックの上流の燃料処理システムに移動される、方法。
【0032】
燃料処理システムが、改質機又は水素化脱硫ユニットである、方法。
【0033】
本発明は、発電システムにおける高温SOFC又はMCFCのアノードを、外部電圧を燃料電池に印加することによって再酸化に対して保護し、それにより、燃料電池の電位を安全圏内に維持する方法を提供する。安全圏とは、ニッケルからニッケル酸化物への酸化電位と、一酸化炭素から炭素への還元電位との間、すなわち、運転温度における700mV〜1,500mVであると定義される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、従来のSOFC運転の間の酸素イオンと電子フローの輸送を図示する。
図2図2は、外部電源ユニットの助けによるアノードの電気的保護の間の電子フローを図示する。
図3図3は、製造公差の減算によるセル電圧の調整を図示する。
図4図4は、セル中の局所的な漏れを図示する。
図5図5は、セットアップのために連結された外部電源による試験セットアップを図示する。
図6図6は、一回目の熱サイクルからの特性曲線を図示する。
図7図7は、スタック電圧、燃料フロー及び電解電流を時間の関数として示している。
図8図8は、時間の関数としての抵抗(ASR)を示している。
図9図9は、時間の関数としての漏れ電流(A)を示している。
図10図10は、運転の間の単純な天然ガスベースシステムの例を示している。
図11図11は、時間の関数としての抵抗(ASR)を示している。
図12図12は、時間の関数としての漏れ電流(A)を示している。
【0035】
本発明の方法によれば、外部電位は次の状況において燃料電池スタックに適用される。すなわち、
− アノード上で還元ガスを用いることなく、すなわち、燃料又は保護ガスが存在することなくスタックが加熱されるとき、
− 電力が生成されないシステムの遮断された負荷(interrupted duty)(いわゆるトリップ(trips))の間、
− 電力が生成されない、所望され得る、又は偶発的であり得る高温の待機状態の間
アノード上に還元ガスを有することなく燃料電池が冷却されるシステムの停止の間、
である。
【0036】
もし燃料電池スタックが、電源ユニットが接続されるときに周囲温度にある場合、0mVから700mVまで、あるいはそれ以上の電圧の上昇(ramping)は、再酸化速度が低く、そして保護がすぐには必要でないため、重大ではない。
【0037】
もし燃料電池スタックが、電源ユニットに接続すべきときに周囲温度でない場合、接続を実行する前に、電源ユニットがすでに700mV又はそれ以上に上昇していることが重要である。それにより、燃料電池スタックは、電源ユニットに接続されてすぐに保護される。
【0038】
したがって、燃料電池スタックに接続される前に、電源ユニットが燃料電池スタックに700〜1,500mVの電圧を提供するよう調整されていることが必須である。
【0039】
標準的なSOFC運転の間、電解質は、酸素イオン(O2−)をカソードからアノードに輸送し、そこでそれらは、燃料生成水及び遊離電子と反応してそれにより電位差が生じる。
【0040】
SOFCは、それゆえ、電圧差(U)が生じる活性ユニットであり、その電圧差によって電子はアノード(負の電極)から外部回路及び負荷(不動態ユニット)を通ってカソード(正の電極)に流れ、これは図1に示されている。負荷は、電気抵抗を提供して電位降下を起こす。電流は、電子の反対方向、すなわち、カソード(+)からアノード(÷)に流れる。
【0041】
本発明の方法を実行するとき、SOFC中の電解質は、酸素イオン(O2−)をアノードチャンバーからカソードに、すなわち、通常の運転モードの反対で輸送するのに使用される。
【0042】
これは、アノードに電子を添加することにより、それにより酸素をイオン化することによって行われる。電子は、外部回路によって送られ、そこでは、電源ユニット(PSU)がSOFCのアノードに電子を運搬している。そのため、PSUは、電位差が生じる回路中の活性ユニットであり、そして電位は、電子を(÷)からスタック(O2−輸送により)を“通って”アノードに、そしてカソードから(+)へ運搬し、それは図2に示されている。
【0043】
SOFCは回路中で不動態ユニットであるが、電子は反対方向で流れる−アノードは、依然として負であり、そしてカソードは正であり、SOFCの極性は同じである。電流がSOFCではなくPSUによって駆動されるため、これは問題である。
【0044】
アノードの再酸化を回避するために、PSUは十分な電子をアノードに送って、個々のセルをNiからNiOへの約700mVである還元電位よりも高く保たなければならない。Ni再酸化についての還元電位は、本発明の方法において印加される、運転の間のセル電圧(700mV)の下限である。
【0045】
本発明の方法において、電子は、セル電圧を700mVよりも高い値に上昇させるためにPSUから供給され、それは安全なSOFC運転の間の電圧である。個々のセル電圧の安全下限は700mVであり、それによりNi再酸化は阻止され、そして電圧の上限は、電圧が2,000mVを超えるときにジルコニウムが分解する危険に相当する約2,000mVである。
【0046】
もし一酸化炭素が存在する場合、安全運転のための上限は、一酸化炭素から炭素への還元電位である約1,500mVである。
【0047】
本発明の方法における必須のパラメーターは、それゆえ、セル電圧を700mV〜1,500mVの値に上昇させるためのものである。図2に示すようなPSUは、カソードに正(+)及びアノードに負(÷)を有する。始動の間、スタックが300℃に達する前にPSUに接続されることによって一定の保護電圧が印加されるべきである。それは室温で適用できる。
【0048】
PSUからの電圧は、スタック中のセル毎に約1,000mVであり得るが、図3に示すように、全てのセルを、700〜1,500mV−(マイナス)製造公差の電圧に保つために、特定のセル電圧測定値に従って調節されなければならない。
【0049】
電流は、300℃では低いが温度が上昇すると増加する。燃料電池スタックが運転温度にあるとき、作用フローはスタックに適用でき、そしてPSUは停止される。
【0050】
予想されていないSOFCシステムのシステム障害の間、SOFCが開回路電圧(OCV)にあり、そして外部負荷が切り離されるとき、PSUはすぐに適用できる。これは、余計な制御が必要ないことを意味している。
【0051】
高温待機の間、SOFCがOCVにあるときにPSUは適用できる。その後、燃料フローは停止でき、そしてスタックは、再酸化に対して保護されるであろう。SOFCがサービス状態に戻されるべきとき、燃料が供給されてPSUは停止される。
【0052】
停止の間、SOFCがOCVにあるとき、PSUは適用される。その後、燃料フローは停止され、そしてSOFCは室温に冷却される。SOFCが300℃を下回る(又は、室温にある)とき、PSUは停止できる。
【0053】
本発明の方法を実行することによりSOFCのアノードは保護され、それは、(ボトルからの、又はシステム中で生成された)保護ガスが不要であることを意味する。該方法は、簡単な方法で迅速な保護を提供し、それは、アノードが常に保護されるのを確実にする。
【0054】
PSUは、運転の間SOFCシステムを監視し、そして、障害(燃料なし、低いSOFC電圧、不適切な温度又は圧力、漏れ、安全問題又はその他のシステム構成部品の障害)が起きたときに適用されるトリップシステム(trip system)に接続できる。このことは、本発明の方法がSOFC電圧アノードの保護に用いられるときに、余計な制御が不要であることを意味している。
【0055】
PSUは、例えば、電池、コンデンサ、AC/DCコンバーター又はその他の燃料電池であることができ、そして十分な電流を維持するために、必要な電圧を提供できなければならない。
【0056】
本発明の方法を適用するとき、スタック中のセルのいずれにも劣化の兆候は見られず、これは、電解電流保護を用いて、損傷を与えるアノードのNiからNiOへの再酸化を防ぐことができることを示している。
【0057】
電解電流は、アノードから入ってくる全ての酸素を除去するために、スタックの平均漏れ電流に整合できることを目標とされていた。セルの一つ(セル6)は、平均漏れ電流のほぼ3倍の漏れ電流を有していたが、このセルには劣化の兆候がなかった、が、理論的に必要な保護電流の約1/3しか受容しなかった。
【0058】
したがって、電解電流を用いてスタックを保護できるよう、スタックを通る漏れ電流の均一な分布を有することが非常に重要であるようには思われない。試験は、セルの漏れ電流の1/3の電解電流が、アノードを再酸化から保護するのに十分であることを示している。
【0059】
始動
もし本発明の方法が、室温に相当する始動温度で実行される場合、SOFCのアノードは、全始動の間、再酸化に対して保護される。燃料は、運転温度に達した後いつでも適用でき、その後PSUは停止できる。
【0060】
運転温度は、燃料電池システムの設計の要求に応じて選択される。従来の運転温度である約550〜850℃が選択される。
【0061】
もし本発明の方法が室温で実行され、そして燃料が適用されて電源ユニットが運転温度で停止される場合、PSUを取り扱うのに余計な制御は不要であり、それはシステムを簡略化する。
【0062】
始動の間保護ガスが必要でないため、SOFCのために燃料を供給する燃料処理システム(FPS)は低温に保つことができ、そしてSOFCが運転状態になるまで不活性である。このことは、始動の間、燃料処理システムを運転するのがより自由であることを意味する。
【0063】
トリップ又は高温待機
トリップ又は高温待機の間、多くの保護システムがSOFC電圧又は燃料圧を監視し、そして一定の臨界値を下回って電圧又は圧力が低下する場合に保護を与える。もし、圧力又は電圧が“臨界値”を下回って低下する場合、再酸化のために個々の燃料電池の一つ又はより多くに、局所的な障害が依然として発生し得る。
【0064】
個々のセル電圧は監視でき、そして単一のセルのセル電圧が臨界値を上回ることさえでき、セル上の局所的な漏れはセルの再酸化部分であろう(図4参照)。
【0065】
これは、障害が起こった直後に、又はもしくは高温待機時に、燃料電池スタックの起電力にかかわらず、本発明の方法を実行することによって回避できる。
【0066】
停止
本発明の方法はまた、スタックが開回路電圧(OCV)にあるとき、及びシステムの停止が所望されるときに実行される。電源ユニットへの接続が維持される。燃料はその後切断され、そしてシステムは冷却される。SOFCは、それゆえ、セル又はスタックのいずれの部分も閉塞しないか、又は約700mVの再酸化限度を下回ることがないため、セルのいずれの部分も再酸化される危険性なく、常に保護される。
【0067】
制御が不要であり、かつ、セル電圧の測定が必要でないため、PSUユニットは、SOFCが300℃を下回るか、又は室温時に停止される。
【0068】
図10に示されているのは、運転の間、単純な天然ガスベースのシステムの例である。
【0069】
天然ガス及び水は、事前改質機(pre−reformer)に供給され、そこで燃料は、水素、メタン、一酸化炭素及び水を含む合成ガスに予め改質される。存在する高級炭化水素もまたメタンに転化されるであろう。合成ガスは、SOFCのアノードに送られ、そこで消費されて電気を生成する。空気は、カソードに同時に送られて反応に加わる。
【0070】
運転の間、アノード排ガスのいく分かは事前改質機に再循環されて、SOFC中で生成された水を再利用し、そして未使用の水素のいく分かを回復する。
【0071】
事前改質に送られない残りのアノード排ガスは、排ガスバーナーに送られ、そこで過剰なカソード空気を用いて燃焼される。
【0072】
緊急トリップ、停止又は高温待機の間、SOFCアノード及び事前改質機は、再酸化に対して保護する必要がある。
【0073】
通常、事前改質機及びSOFCは、システムのアノード側を通して不活性保護ガスを送ることによって保護される。
【0074】
SOFCのアノード及び事前改質機の両方は、本発明の方法を適用することによって保護される。SOFCのアノードは、外部電源ユニット(PSU)によって与えられる電位によって再酸化に対して直接保護される。
【0075】
SOFCが、サイクルループ中に存在する残存する水から水素を生成するであろうことから、事前改質機(又は、その他の燃料処理ユニット)は再酸化に対して保護される。トリップ前の運転からの残存する水は、電解モードにある固体酸化物形セルによってすぐに水素に電解され、そしてFPSに再循環されるであろう。
【0076】
固体酸化物形セル中の電解は、PSUの電圧を“安全領域”であるセル毎に700〜1,500mVの間に一定に保つことによって制御できる。
【0077】
もし、より長い高温待機又はトリップの間、保護する必要がある場合、水は、燃料処理システムを通って固体酸化物形セル(SOFCの通常運転の間として)に供給されることができ、そして、固体酸化物形セル中の電解プロセスは、水素を含む保護ガスを生成し続けるであろう。
【0078】
SOFCスタックによって生成された水素の再循環のシステムはまた、水素が燃料を処理するのに、例えば、吸収できるHSを形成する硫黄と水素との間の反応に必要とされる燃料処理システムのために使用することもできる。
【0079】
燃料及び水は別として、その他の媒体は、燃料処理システムに、例えば、蒸気と空気との混合物を添加できるか、又は蒸気と空気をそれぞれ別々に添加できる。
【実施例】
【0080】
実施例
外部セットアップ:
アノードニッケルの再酸化に対する保護として電解電流を用いるパイロットプラントにおいて、10個のSOFCセルを含む標準的なスタックは、約800℃に加熱された。スタックは、800℃において63時間まで、電解電流を用いてアノード保護による周期に供された。試験の間、スタックは、基準のIV曲線により25Aであると特徴づけられた。特徴は、標準的なスタック中のいずれのセルにも劣化の兆候がないこと示し、それは、電解電流保護を用いて、損傷を与えるアノードNiからNiOへの再酸化を防止できることを示している(図6図9を参照)。
【0081】
電解電流は、アノードに入る全ての酸素を除去するために、スタックの平均漏れ電流に整合できることを目標とされていた。セルの一つ(セル6)は、平均漏れ電流のほぼ3倍の漏れ電流を有していたが、このセルには劣化の兆候がなかった、が、理論的に必要な保護電流の約1/3しか受容しなかった。したがって、電解電流を用いてスタックを保護できるよう、スタックを通る漏れ電流の均一な分布を有することが非常に重要であるようには思われなかった。試験は、セルの漏れ電流の1/3の電解電流が、アノードを再酸化に対して保護するのに十分であることを示した(図6図9を参照)。
【0082】
スタックは、それが約800℃に加熱される4回の熱サイクルに供され、特徴づけられ、そしてその後約400℃に冷却された。アノードは、加熱及び冷却の間、電解電流によって再酸化から保護された。4回の熱サイクル後、アノードの電解電流保護により、スタックのASR又は漏れ電流に変化はなかった。このことは、電解電流保護が、始動及び停止の間有効であることを示している(図11及び図12を参照)。
【0083】
実施例1: 本発明の方法と、米国特許出願公開第200028362号明細書に開示の方法との比較
米国特許出願公開第200028362A1号において、SOFC電圧又は燃料電圧が、“臨界値”を下回って低下するときにPSUが適用される。もし、電圧が低くなりすぎてユニットが適用される場合、局所的な障害が起こる可能性があり、それは検知されず、そして電力供給の適用は遅すぎることになる。
【0084】
以下は、米国特許出願公開第200028362号における制御の障害の二つの例である。
【0085】
10個のセルのスタック中のSOFCスタック電圧は、PSUを制御するのに使用され、そして、臨界電圧はセル毎に700mVに設定され、それはSOFCスタックの7Vに等しい。
【0086】
セルの個々の電圧は、セル品質、局所的漏れ等に依存して変わるであろう。このことは、測定されたスタック電圧の7.7V(これは臨界限界を超える)が、9個の800mVを有するセル及び500mVを有する1個のセル((9×0.8)+0.5=7.7)によって達成できたことを意味する。
【0087】
このことは、500mVの電圧を有する一つのセルには再酸化に対する保護が必要であるが、スタック全体の電圧が7Vを下回るまでPSUは適用されないであろうことを意味する。
【0088】
米国特許出願第2000/28362号明細書におけるアノード酸化の制御が個々のセル電圧を監視することであるときに同じことが適用される。セル電圧は、“臨界値”を超えることができる一方で、セル上の局所的な漏れは、図3に示すように、該セルの再酸化部分であろう。
【0089】
実施例2: 適用された電解電流による一回目の熱サイクル
スタックは、保護ガスではなく適用されたPSU電流により加熱され、その後、図7に示すようにPSU電流を停止する前に、運転温度でPSU電流を用いるアノード保護の4回の周期に供された。
【0090】
スタックは、基準のIV曲線により、適用されたPSU電流により各周期の間25Aに特徴付けられた。これらの特徴づけは、スタックの性能を、パイロットP5−046における標準的なスタックで行われた試験と、パイロットP1−084における本発明の方法での試験の間の比較することで行われた。P5−046及びP1−084、Nos.1〜5における試験の特性曲線を図6に示す。
【0091】
図6に見られるように、スタック性能は、電解電極での始動後及び適用された保護電流による運転温度における1時間の周期後の二つの特徴であるP5−046からP1−084 UI#1に向上し、さらに、P1−084#U2に向上する。
【0092】
それから、スタックの性能は、UINos.2〜5については同じであり、これは、PSU電流でのアノード保護が、始動の間及び約63時間までの周期の間の運転温度(800℃)において有効であることを示している。
【0093】
図8は、25Aにおける、計算された最小、最大及び平均のASR、PSU電流を用いるアノード保護の周期による一回目の熱サイクルの間の標準的なスタックの標準的な条件を示す。ASRが最初の試験から低減されていることがわかり、そして、ASRが、再酸化からのアノードを保護するためのPSU電流での周期後に目立った変化が無いことがわかる。
【0094】
図9は、パイロットP5−046における最初の試験からの、及びパイロットP1−084における一回目の熱サイクルの間のスタックについての計算された漏れ電流を示す。平均漏れは試験の間ほぼ一定であることがわかり、これは、アノードの亀裂によって生じたさらなる漏れが直ったことを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12