特許第5738997号(P5738997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738997イオン移動度分光計を用いた気体の検出及び同定のための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738997
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】イオン移動度分光計を用いた気体の検出及び同定のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
   G01N27/62 101
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-527525(P2013-527525)
(86)(22)【出願日】2011年8月11日
(65)【公表番号】特表2013-542409(P2013-542409A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】EP2011063804
(87)【国際公開番号】WO2012034795
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2013年11月6日
(31)【優先権主張番号】10176538.6
(32)【優先日】2010年9月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500399105
【氏名又は名称】エアセンス アナリティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Airsense Analytics GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴァルテ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ ミュンヒマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ウンゲテューム
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/079234(WO,A2)
【文献】 米国特許第05227628(US,A)
【文献】 特表2010−520597(JP,A)
【文献】 特表2007−516412(JP,A)
【文献】 米国特許第06459079(US,B1)
【文献】 長門 研吉,「イオン移動度/質量分析装置の開発」,エアロゾル研究,日本エアロゾル学会,2000年 6月20日,Vol.15, No. 2,p. 110-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を同定する方法であって、
前記同定対象の気体をイオン化し、
正生成イオン及び負生成イオンがドリフト空間を通過するドリフト時間を測定し、
測定された前記ドリフト時間を評価すること、を含み、
反応チャンバ内で、前記正生成イオンと前記負生成イオンを凝集させずに分離し、
前記正生成イオンと前記負生成イオンを前記ドリフト空間へ加速させ
前記ドリフト時間を測定するために、前記生成イオンを、電場によりドリフト速度にまで加速させ、
前記正生成イオン及び前記負生成イオンは、同時に同じ方向に平行に移動することを特徴とする、方法
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記生成イオンが注入領域の前へ移動する方向に対して垂直な方向で、ドリフト空間内に導入されることを特徴とする、方法。
【請求項3】
気体を同定するための装置(100)であって、
少なくとも二本のドリフト管(19、20)を備え、
前記ドリフト管(19、20)は、それぞれ、生成イオンを検出するための検出器(9、10)を少なくとも1つ有し、
前記少なくとも二本のドリフト管(19、20)は、互いに平行に隣り合って配置され、それぞれのドリフト管の一端が共通の注入システムに隣接し、他端が少なくとも一つの検出器(9、10)に隣接し
前記ドリフト管(19、20)を、共通の反応チャンバ(26)と前記少なくとも二つのドリフト空間(24、25)とに分割するイオンガイド配置電極(3、4、5、6)が、前記ドリフト管(19、20)のそれぞれに配置され、
前記共通の反応チャンバ(26)内にイオン源(2)が配置され、
前記ドリフト管(24、25)のそれぞれには、遮蔽グリッド(7、8)が配置され、
前記イオンガイド配置電極(3、4、5、6)は、前記共通の反応チャンバ(26)内で正生成イオンと負生成イオンとを分離し、当該正生成イオンと負生成イオンが凝集することを防ぐ第1配置電極、及び前記正生成イオンと前記負生成イオンを前記ドリフト空間へ加速させる第2配置電極を含むことを特徴とする、装置。
【請求項4】
請求項の装置であって、
前記ドリフト空間(24、25)には、ドリフト電極(22、23)が交互に配置され、
前記ドリフト電極(22、23)のそれぞれは、前記ドリフト空間(24、25)の周辺で電気的に接続されて、直流電圧電極を形成することを特徴とする、装置。
【請求項5】
請求項又はの装置であって、
前記ドリフト空間(24、25)が、電気伝導性の低い1又は複数の管で構成されることを特徴とする、装置。
【請求項6】
請求項乃至の何れか1つの装置であって、
前記イオンガイド電極(3、4、5、6)は、平面状であり、前記反応チャンバ(26)の境界を構成していることを特徴とする、装置。
【請求項7】
請求項乃至の何れか1つの装置であって、
前記イオンガイド電極(3、4、5、6)により二つのスイッチング状態を実現できることを特徴とし、
第1スイッチング状態においては、前記生成イオンは、それぞれ、対応する前記ドリフト空間(24、25)の前に、電場によって移動させられ、かつ、前記生成イオンは前記ドリフト空間(24、25)内に入ることはなく、
第2スイッチング状態においては、前記イオンガイド電極(3、6)に印加された電圧をオフにすることで電場をオフにし、そして同時にイオンガイド電極(4、5)に電圧を印加することにより、前記生成イオンのそれぞれが対応するドリフト空間(24、25)内に導入される、装置。
【請求項8】
請求項又はの装置であって、
前記遮蔽グリッド(7、8)は、前記検出器(9、10)の前に配置され、
前記遮蔽グリッド(7、8)は、容量性デカップリングのために用いられることを特徴とする、装置。
【請求項9】
イオンをイオン移動度分光計のドリフト空間へ導入するための装置であって、
正生成イオンと負生成イオンとを分離し、生成イオンが反応チャンバ(26)内で凝集することを防止するための第1の配置電極(3、6)と、
前記正生成イオン又は負生成イオンを、ドリフト空間(24、25)へ向けて加速させるための第2の配置電極(4、5)を含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、気体を同定する方法及び装置に関する。
【0002】
気体の検出及び同定のための方法、ならびにこれらに関連した装置は、化学物質や化合物を検出及び同定するために用いられ、特に非常に低い濃度で、爆発物、及び/又は、健康に害のある物質又は化合物が検出される。
【0003】
爆発物及び/又は有害化合物の検出は、ppt〜ppbレンジの検出限界での測定技術を要求する。そこで、これらの化合物の検出および同定には、分光計がたびたび用いられる。プラズマクロマトグラフとしても称される、イオン移動度分光計(IMS)の利用が好ましいが、これは、この分光計が質量分析計などの他の分光計とは異なり、化学物質や化合物の検出を真空条件下で行わないため、真空状態をつくる真空ポンプを要しないからである。このため、IMSは、他の分光計に比して、小型かつ安価である。
【0004】
IMSには、多数の適用例があり、例えば患者の呼気検査などの医療分野、例えば食品の品質管理などの生産監視、例えば化学兵器の検出などの軍事分野に亘って用いられている。IMS及びその適用の一般的なレビューは、例えばG.A. Eiceman and Z. Karpas "Ion Mobility Spectrometry"(2nd. Edition, CRC, Boca Raton, 2005)で見ることができる。
【0005】
IMSの構造および操作は、多数の出版物に記載されている。
【0006】
例えば、US 3,621,240には、大気圧下におけるイオン移動度が異なることを生かした、古典的な飛行時間型のIMSが記載されている。ターゲット化合物は、放射線の照射、光イオン化、又はコロナ放電の何れかを用いるイオン源によって、連続的にイオン化される。しばしば用いられるのは、空気分子を直接的にイオン化する放射能源である。このようにイオン化した空気分子は、水分子と更に反応し、その水分子とともに所謂反応イオンを形成する。
【0007】
反応イオンは、プロトン移動、電子移動、又はプロトン引き抜き反応により、対象の化合物と反応し、所謂生成イオンを形成する。生成イオンは、約200マイクロ秒という非常に短い時間スパンで、電気グリッドの補助を受けてドリフト管に導入される。このドリフト管は電場を有し、ドリフトガス(典型的には、大気圧のフィルタされた空気)内のイオンを加速させるようになっている。ドリフト領域の電場極性を変化させることにより、正操作モードでは正イオンを検出することができ、負操作モードでは負イオンを検出することができる。
【0008】
導入された生成イオンは、電場により継続的に加速され、ドリフトガス内の中性分子との衝突により継続的に減速される。電場は、同一の電荷を有する全てのイオンに対して同じ引力を与える。しかし、生成イオンは異なる直径及び形状を有しているため、異なるドリフト速度を得る。
【0009】
ドリフト管の末端では、生成イオンが異なるドリフト速度で検出器に衝突する。ドリフト管を通過する生成イオンの異なる飛行時間(典型的には、5〜30ミリ秒のレンジ内にある。)から、試験対象化合物についての結論を導き出すことが可能となる。
【0010】
イオンの一部のみをドリフト空間に導入する電気グリッドのスイッチング処理は、古典的な飛行時間型のIMSにおいてドリフト速度を測定するためのスタートパルスとして機能する。導入されたイオンは、周囲空気の分子との衝突により広く拡散する。検出器において測定されるシグナルは、ガウス釣鐘曲線の形状をとる。
【0011】
ドリフト速度は、測定される飛行時間、又は釣鐘曲線の最大値でのドリフト時間と既知のドリフト空間の長さとから、決定することができる。スペクトルは、化学物質や化合物を同定するために用いることができる。
【0012】
ドリフト管を通過する生成イオンの飛行時間は、生成イオンが検出器に衝突するときのドリフト速度に反比例する。ドリフト速度は、イオンの質量、イオンの大きさ及びイオンの形状に依存し、電場での加速及びイオンと中性分子間との衝突による減速の結果として得られる。
【0013】
生成イオンのドリフト速度vdは、低い電場強度E(例えばE=200V/cm)においては、電場強度に線型的に依存する。低い電場強度では、生成イオンの移動度Kは電場強度に独立であり、次のように表すことができる。
K = vd / E.
【0014】
イオンのドリフト速度は、ドリフト管内の温度及び圧力にも依存するので、化合物の同定および検出に用いる生成イオンの移動度は、常に標準状態(すなわち、標準温度T0 = 273K、及び標準圧力p0 = 1013 hPa)における値が参照される。生成イオンの、低減または標準化された移動度は、次のように表すことができる。
K0 = K ・ (T0 / T) ・ (p / p0) = K ・ (273°K/T) ・ (p / 1013 hPa)
【0015】
古典的な飛行時間型のIMSを用いると、試験対象化合物の検出及び評価に際し、生成イオンのうち少量(典型的には1%)のみしか利用できないという欠点がある。電気グリッドのスタートパルスは、イオンのドリフト時間に比して非常に短いため、生成イオンのうち少量(典型的には1%)がグリッドを介しドリフト管に侵入する。生成イオンのほとんどは、グリッドが閉鎖されたときにグリッドに衝突して、グリッドにて中性化する。
【0016】
イオンビームの変調と遮蔽グリッドとの組み合わせでイオンのスループットを増加させることにより、ドリフト管に到達する生成イオンの収率を最適化することができ、即ち、試験対象化学物質又は試験対象化合物の検出限界を向上させることができる。イオンビームの変調については、例えばDE 19515270 C2に、数学的変換(アダマール変換やフーリエ変換)の手法によりIMSの飛行時間スペクトルの計算を可能とすることが提案されている。
【0017】
しかしながら、このIMSは、正イオンまたは負イオンのいずれかのみが測定可能であり、分離管の極性を変化させることが要求されるという欠点を有する。これは、測定時間を増加させることになる。
【0018】
したがって、二つのドリフト管を並行して用い、正イオン及び負イオンの両方を測定可能にすることが望ましい。例えば、US4,445,038には、二つのドリフト管が含まれるイオン移動度分光計が開示されており、二つのドリフト管がそれぞれ正イオン及び負イオン用であって、各々が電気格子を含んでいる。
【0019】
しかしながら、二つのドリフト管を対向させる配置は、本発明においては不利となる。Rokushika, Hatano, Baim und Hill [Rokushika S., Hatano H., Baim M.A., Hill H.H., Resolution Measurement for Ion Mobility Spectrometry, Anal. Chem. 1985, 57, 1902]によれば、IMSの分解能は、分析時間に比例する。
【0020】
最大の分解能を得るためには、ドリフト管を可能な限り長くした構成が望ましい。特にUS 4,445,038に開示される構成を用いると、携帯型の装置が大きくなりすぎて扱いが困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、気体を同定する一般的な方法、ならびにこれに関連したコンパクトな構成を有した装置であって、試験化合物の迅速かつ同時の検出を可能にし、さらに生成イオンをより有効に検出に利用することが可能な装置を開発することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本目的は、請求項1記載の特徴を有する本発明の方法、及び請求項3記載の特徴を有する装置、ならびに請求項10記載の特徴を有する装置により達成することができる。好ましい実施形態は、従属項2及び4〜9に記載されている。
【0023】
本発明にかかる気体の同定方法及びこれに関連した装置は、前述の先行技術の欠点を解消するものである。
【0024】
新規な気体の同定方法を用いると、正イオン及び負イオンの両方を並行して、かつ同時に検出することができ、また、非常に小さな空間でこれを達成することが出来る。測定対象のサンプルを、キャリアガスフローによってイオン化領域に導入することができることも、有利な点である。イオン化領域において、直接的なイオン化又は電荷移動反応により正生成イオン及び負生成イオンが形成される。
【0025】
本発明は、生成イオンを電場によってその極性に基づき分離し、それぞれ対応するドリフト空間の注入領域の前へ、ドリフト空間へ入ることが無いように移動させる場合に特に有利である。電場のスイッチをパルス状にOFFすることができ、追加の電場のスイッチをパルス状にONすることもできるため、生成イオンの100%を開始時間にそれぞれのドリフト空間へ注入できることが、別の有利な点である。
【0026】
ドリフト空間中に存在する生成イオンが、別の定電場により検出器へ向けて加速されることは、有利な点である。ドリフトガス中の分子との一定の衝突を経た結果として、一定のドリフト速度が得られる。検出器の極近傍にある遮蔽グリッドを通過した後、生成イオンは対応する検出器により捕獲され、トランスインピーダンス増幅器へ電流として移送され、測定可能な電圧に変換される。
【0027】
検出器に到達する時間に応じて、各サンプルに特徴的なドリフト時間を割り当てることができる。測定されたドリフト時間の評価及び化合物の同定のために、測定されたこれらのドリフト時間と、既知化合物について以前決定されたドリフト時間とを比較し、及び/又は測定されたドリフト時間と、物質及び化合物の既知ドリフト時間とを数学的又は統計学的手法(例:ルールベースアルゴリズム又人工ニューラルネットワーク)を用いて比較することができることは有利な点である。
【0028】
気体を同定するための新規なデバイスの用途において、両方のドリフト管が、一端において共通の注入口システムに隣接し、他端においてそれぞれの検出器に隣接していることは有利な点である。ドリフト管を反応チャンバと二つのドリフト空間に区分する配置電極が、各ドリフト管の中に配置され、イオン源が共通の反応チャンバの中に配置され、そして遮蔽グリッドが各ドリフトチャンバの中に配置される。
【0029】
ドリフト空間が、交互に配置された金属リング及び絶縁体リングにより構築されていることも有利な点である。各金属リングがドリフト空間周辺において直流電圧電極となっているか、あるいはドリフト空間がそれぞれ1又は複数の電気伝導性の低い管から構成されている。
【0030】
特に有利な実施形態においては、互いに隣り合うように両ドリフト空間を平行に配置することができ、検出器が配置された領域においては、互いに逆の電圧が印加されて電場が生じている。
【0031】
本発明の目的は、イオンをイオン移動度分光計のドリフト空間へ導入する装置により達成される。この装置は、反応チャンバ内で正生成イオンと負生成イオンとを分離し、生成イオンが凝集することを防ぐ第1配置電極、及び正生成イオン又は負生成イオンをドリフト空間へ加速させる第2配置電極を含む。
【0032】
このように、生成イオンをドリフト空間へ導入するための電気グリッドを排除することが出来るという利点を有する。制御可能な配置電極を用いて正生成イオン又は負生成イオンを分離することができ、さらに、分離された生成イオンをドリフト空間へ加速させることができる。
【0033】
適切な制御を行うことにより、ドリフト速度を測定するための開始パルスを同時に発生させることができる。このため、イオン移動度分光計の構造を極めて簡素化することができ、より効果的な操作を可能にする。この装置は、単一の管を有するイオン移動度分光計と同様に、二つ以上の管を有するイオン移動度分光計にも用いることができる。
【0034】
本発明の気体を同定する方法及びこれに関連した装置は、様々な方法により実現することができる。本発明を以下において例示的な実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】イオン移動度分光計の概略図
【発明を実施するための形態】
【0036】
気体を同定する一般的な装置である、本実施形態の装置100は、二つのドリフト管19、20を含み、これらは一端において注入口システム1に隣接しており、他端において二つの検出器19、10に隣接している。検出器は、平面状の導電板から構成されている。
【0037】
ドリフト管19、20内には、イオンガイド電極3、4、5、6が配置され、これによりドリフト管19、20内の空間を、共通の反応チャンバ26と二つのドリフト空間24、25とに分割している。反応チャンバ26は注入口システム1に隣接しており、ドリフト空間24、25は検出器9、10に隣接している。
【0038】
さらに、反応チャンバ26内の注入口システム1近傍には、イオン源2が配置されており、ドリフト空間24、25内の検出器9、10の前には、それぞれに対応する遮蔽グリッド7、8が配置されている。このイオン源2は放射性Ni63を有しており、遮蔽グリッド7、8は容量性デカップリングのために用いられる。
【0039】
反応チャンバ内のイオンガイド電極3、4、5、6は、平面状の電極であり、反応チャンバ26の境界面に配置されている。
【0040】
ドリフト空間24、25内には、ドリフト電極22、23が配置されている。これらのドリフト電極は抵抗を介して電気的に結合し、直流電圧電極を構成する。ドリフト電極22、23に印加される電圧は、ドリフト空間24、25内に一定強度の電界が生じるように選択される。
【0041】
気体を同定する装置100は、以下の機能を有する:試験対象の化合物(環境大気を含む)は、キャリアガスフローにより、注入口システム1からイオン源2へ導入される。注入口システム1は、小さな開口又はシリコン膜(携帯型のシステムの場合)により構成されている。
【0042】
環境大気由来の分子は、主にイオン源2においてNi63箔からの放射線照射によりイオン化される。更なる反応及び水分子との作用により、いわゆる反応イオンが生じる。これらの反応イオンは、次に試験対象の化合物分子と、プロトン移動反応、電子移動反応又はプロトン引き抜き反応により反応し生成イオンを生じる。
【0043】
このようにして生じた正生成イオン及び負生成イオンは、イオンガイド電極3、6により生じた電場内に入る。生成イオンは、その極性にしたがってイオンガイド電極3、6に印加された互いに逆の電圧により、それぞれ対応するドリフト空間24、25の前に分離される。なお、この段階では生成イオンは二つのドリフト空間24、25内には入っていない。
【0044】
イオンガイド電極3、6に印加されていた電圧を切ることにより、生じていた電場を消失させ、これと同時に、イオンガイド4、5の前にある生成イオンに対して反発力を与えるような電圧をイオンガイド4、5に印加することによって、生成イオンがドリフト空間24、25に導入される。これによって、飛行時間の測定が開始される。
【0045】
ドリフト空間24、25の前にこの時点で存在している全ての生成イオンがドリフト空間内に導入される。また、上記のプロセスの逆を行うことで、すなわちイオンガイド電極4、5の電圧を切り、イオンガイド電極3、6に電圧を印加することにより、生成イオン導入プロセスを停止することができる。、そして、生成イオンが、再び、ドリフト空間の前に移動し、ドリフト空間に入ることなく滞留する。
【0046】
このプロセスは、サンプルガスを連続して測定できるように、そして正生成イオン及び負生成イオンを同時に測定できるように、周期的に繰り返される。また、正生成イオン及び負生成イオンをより効率的にドリフト空間24、25に導入することができる。
【0047】
ドリフト電極22、23のそれぞれにおける電圧は、対応する電場を生じさせ、正及び/又は負電荷キャリアを検出器へ向けて加速させる。ドリフト空間24、25内にある生成イオンは、この電場により捕らえられ、検出器9、10へ向けて引き寄せられる。
【0048】
検出器9、10へ向かう際、イオンはドリフト電極22、23により生じた電場を通らなくてはならない。ここで、電場は、同一の電荷を有する全てのイオンに対して同じ引力を与える。イオンは定常的に中性の大気分子と衝突しているため、電場中のイオンの速度は、イオンの質量とイオンの大きさのそれぞれ、ならびにイオンの形状に依存する。
【0049】
ドリフト電極22、23により生じた弱い電場は、同一の直径及び形状を有するイオンを同一のドリフト速度にまで加速させ、異なる直径及び形状を有するイオンを異なるドリフト速度にまで加速させる。
【0050】
イオンは、ドリフトチャンバ24、25の末端で検出器9、10に衝突する。検出器9、10はファラデーコレクタであり、検出器9、10の前に配置された遮蔽グリッド7、8は、検出器9、10の直前に位置する生成イオンと検出器9、10との間の容量性デカップリングのために用いられる。
【0051】
検出器9、10からの測定シグナルは、制御ユニット21内で評価され、ドリフト空間24、25を通過する生成イオンのドリフト時間が、導入プロセス及び検出器9、10へのイオンの衝突から決定される。この決定は、制御ユニットがイオンガイド電極3、4、5、6の制御も行うため、可能となる。測定されたドリフト時間は、以前に決定された既知化合物のドリフト時間と比較することで評価され、同一の生成イオンについては同一のドリフト時間が得られることから、同一の化合物が存在することとなる。
【0052】
イオン源2において行われる変換プロセスを他の適切なプロセスで代替することも可能である。例えば、イオンを、放射線照射ではなく、光イオン化又はコロナ放電により生じさせることもできる。
【0053】
ドリフト管19、20の選択性を、追加の反応ガス又はドーパントガスを用いることにより最適化することも可能である。この反応ガスは、化学反応に影響を与えるように用いることができる。化学反応は、正イオンについてはプロトン親和力によって、負イオンについては電気陰性度によって制御することができ、プロセスの選択性に影響を及ぼすことができる。
【0054】
さらに、ドリフト管19、20の選択性は、高電場においては、反応ガス又は他の電気的に中性なガスがイオンに付加及び沈着するプロセスによっても影響を受ける。
【0055】
さらに、イオン移動度分光計と他のセンサ又は検出器、及び/又は他の方法と組み合わせることで選択性を向上させることが可能であり、例えば、特に、上流にガスクロマトグラフィーを配置することが可能である。
【0056】
参照記号の一覧
1 注入口システム
2 イオン源
3 イオンガイド電極
4 イオンガイド電極
5 イオンガイド電極
6 イオンガイド電極
7 遮蔽グリッド
8 遮蔽グリッド
9 検出器
10 検出器
11 ドリフトガス注入口
12 ドリフトガス排出口
13 ドリフトガス注入口
14 ドリフトガス注入口
15 ドリフトガス排出口
16 ドリフトガス注入口
17 ポンプ
18 ポンプ
19 ドリフト管
20 ドリフト管
21 制御ユニット
22 ドリフト電極
23 ドリフト電極
24 ドリフト空間
25 ドリフト空間
26 反応チャンバ
100 装置
図1