(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の一実施形態>
本発明の一実施形態にかかる銅合金箔の構成について説明する。
【0013】
(1)銅合金箔の構成
本実施形態にかかる銅合金箔は、所定量のスズ(Sn)、所定量の銀(Ag)の少なくともいずれかを含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなっている。また、銅合金箔は、例えば200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である。このように、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔が所定の引張強さを有するとともに、所定の伸びを有することで、所定の引張強さを有するだけでは抑制できなかった銅合金箔の破断を抑制できる。なお、引張強さとは、ASTMインターナショナル(旧・米国材料試験協会:American Society for Testing and Materials)E―345に基づいて測定した値である。伸びとは、IPC−TM−650 2.4.18に基づいて測定した値である。
【0014】
銅合金箔中には、Sn、Agの少なくともいずれかが固溶しているとよい。これにより、銅合金箔の耐熱性を向上させることができる。つまり、銅合金箔に所定の加熱処理が行われた場合であっても、銅合金箔に軟化が生じにくくなり、引張強さが低下することを抑制できる。
【0015】
銅合金箔中にSnを含有させる場合、銅合金箔中のSnの含有量(濃度)は、例えば0.04質量%以上0.20質量%以下であると好ましく、0.12質量%以下であるとより好ましい。
【0016】
Snの含有量が0.04質量%未満であると、銅合金箔の引張強さが低下してしまうことがある。つまり、所定の加熱処理を行う前の銅合金箔(以下では、「H材の状態の銅合金箔」とも言う。)の引張強さが低下してしまうことがある。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さが450N/mm
2未満になってしまうことがある。また、銅合金箔中に固溶するSnの量が減少してしまうことがある。例えば、Snが不可避不純物と反応してしまい、銅合金箔中にSnを固溶させることができないことがある。Snと不可避不純物とが反応して生成された化合物(例えばSnと不可避不純物のうちの1つである酸素(O)とが反応して生成されるSnO)は、銅合金箔の耐熱性を向上させることができない。従って、Snを含有させることによる銅合金箔の耐熱性を向上させる効果が得られないことがある。その結果、所望の耐熱性を得られないことがある。
【0017】
Snの含有量を0.04質量%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の引張強さを向上させることができる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。また、銅合金箔中にSnを固溶させることができる。これにより、銅合金箔の耐熱性を向上させることができ、所望の耐熱性を得ることができる。従って、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制できる。例えば、銅合金箔は、200℃の条件下で1時間加熱した後であっても、450N/mm
2以上の引張強さを有している。
【0018】
しかしながら、Snの含有量が0.20質量%を超えると、銅合金箔の導電性が低下してしまうことがある。また、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制できるが、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行っても、銅合金箔の延性が向上しないことがある。Snの含有量を0.20質量%以下にすることで、銅合金箔の導電性の低下を抑制できる。例えば、銅合金箔の導電率を80%IACS以上にできる。また、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行うことで、銅合金箔の延性を向上させることができる。つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びを、H材の状態の銅合金箔の伸びよりも高くできる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを2.0%以上にできる。Snの含有量を0.12質量%以下にすることで、銅合金箔の導電性の低下をより抑制できる。例えば、銅合金箔の導電率を85%IACS以上にできる。
【0019】
銅合金箔中にAgを含有させる場合、銅合金箔中のAgの含有量(濃度)は、例えば0.01質量%以上であると好ましく、0.03質量%以上であるとより好ましく、0.10質量%以下であるとさらに好ましい。
【0020】
Agの含有量が0.01質量%未満であると、H材の状態の銅合金箔の引張強さが低下してしまうことがある。また、銅合金箔中に固溶するAgの量が減少してしまうことがある。例えば、Agが不可避不純物と反応してしまい、銅合金箔中にAgを固溶させることができないことがある。Agと不可避不純物とが反応して生成された化合物(例えばAgと不可避不純物のうちの1つであるOとが反応して生成されるAgO)は、銅合金箔の耐熱性を向上させることができない。従って、Agを含有させることによる銅合金箔の耐熱性を向上させる効果が得られないことがある。その結果、所望の耐熱性が得られないことがある。
【0021】
Agの含有量を0.01質量%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の引張強さを向上させることができる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。また、銅合金箔中にAgを固溶させることができる。これにより、銅合金箔の耐熱性を向上させることができ、所望の耐熱性を得ることができる。従って、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制できる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。Agの含有量を0.03質量%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の引張強さをより向上させつつ、銅合金箔の耐熱性をより向上させることができる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを480N/mm
2以上にするとともに、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さを480N/mm
2以上にできる。
【0022】
しかしながら、Agは高価な元素である。従って、Agの含有量が0.10質量%を超えると、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行っても、銅合金箔の延性が向上しないことがある。また、銅合金箔の製造コストが高くなってしまうことがある。また、Agの含有量を0.10質量%より多くした場合であっても、H材の状態の銅合金箔の引張強さ及び銅合金箔の耐熱性はそれぞれ、Agの含有量が0.10質量%である銅合金箔と比べて殆ど変わらない。つまり、製造コストに見合う効果が得られないことがある。Agの含有量を0.10質量%以下にすることで、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の延性を向上させることができる。つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びを、H材の状態の銅合金箔の伸びよりも高くできる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びを2.0%以上にできる。また、銅合金箔の製造コストが高くなってしまうことを抑制できる。
【0023】
銅合金箔中にSn及びAgの両方を含有させる場合、Sn及びAgの含有量がそれぞれ上述の所定範囲内であって、かつ、Snの含有量及びAgの含有量の合計(Sn及びAgの合計含有量)が例えば0.20質量%以下であるとよい。
【0024】
Sn及びAgの合計含有量が0.20質量%を超えると、銅合金箔の導電性が低下してしまうことがある。また、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行っても、銅合金箔の延性が向上しないことがある。Sn及びAgの合計含有量を0.20質量%以下にすることで、銅合金箔の導電性の低下を抑制できる。例えば、銅合金箔の導電率を80%IACS以上にできる。また、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行うことで、銅合金箔の延性を向上させることができる。つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びを、H材の状態の銅合金箔の伸びよりも高くできる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びを2.0%以上にできる。
【0025】
銅合金箔の母材としては、例えば純度が99.9%以上である無酸素銅(OFC)を用いるとよい。これにより、銅合金箔中に含まれる不可避不純物としてのOの量を低減できる。従って、銅合金箔中で生成される酸化物の量を低減できる。具体的には、銅合金箔中でOとSnやAgとが反応してSnOやAgOが生成されることを抑制できる。また、銅合金箔中でOと反応するSn、Agの量を低減することで、Sn、Agの含有量を増やすことなく、銅合金箔中に固溶するSn、Agの量を増やすことができる。
【0026】
(2)負極の構成
続いて、負極集電体として上述の銅合金箔が用いられる負極の構成について説明する。負極は、負極集電体としての銅合金箔の少なくともいずれかの主面上に負極活物質層が設けられることで形成されている。負極活物質層には、負極活物質が含まれている。負極活物質層には、導電助剤、結着剤等がさらに含まれていてもよい。
【0027】
負極活物質層中の負極活物質、導電助剤、結着剤(バインダ)の含有量はそれぞれ、負極に要求される特性に応じて適宜調整できる。負極活物質層の負極活物質の含有量は例えば60質量%以上98質量%以下であるとよく、導電助剤の含有量は例えば0質量%以上20質量%以下であるとよく、結着剤の含有量は例えば2質量%以上10質量%以下であるとよい。なお、導電助剤の含有量が0質量%であるとは、負極活物質層中に導電助剤を含有させないことを意味する。
【0028】
負極活物質として、後述の二次電池10に用いられる電解液中の電解質(例えばリチウム(Li)イオン)を吸蔵したり、脱離(放出)したりすることができる化合物が用いられている。例えば、負極活物質として、黒鉛、炭素繊維、コークス、球状炭素等の炭素質物質や、Li、Sn、ケイ素(Si)等の金属、リチウムチタン酸化物、スズ酸化物、ケイ素酸化物、タングステン酸化物等の金属化合物、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金等のリチウム合金の少なくともいずれかが用いられている。特に、負極活物質層中に含まれる負極活物質の少なくとも一部が、例えばSn金属、Si金属、Sn、Siの少なくともいずれかを含有する金属化合物やリチウム合金であるとよい。これにより、後述の二次電池10をより大容量にできる。
【0029】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素系微粒子や、黒鉛系微粒子を用いることができる。これにより、負極の導電性をより安定させることができる。
【0030】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、水分散系のスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることができる。
【0031】
(3)二次電池の構成
続いて、上述の負極を備える二次電池の構成について、コインセル型のリチウムイオン二次電池を例に、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態にかかる二次電池10の概略断面図である。
【0032】
図1に示すように、二次電池10は容器を備えている。容器は、天板及び天板の側面を囲うように設けられる側板を備える上側容器11Aと、底板及び底板の側面を囲うように設けられる側板を備える下側容器11Bと、を備えている。上側容器11A及び下側容器11Bはそれぞれ、例えばステンレスにより形成されている。上側容器11Aの天板及び下側容器11Bの底板はそれぞれ円形に形成されている。上側容器11Aは、上側容器11Aの天板の平面積が下側容器11Bの底板の平面積よりも小さくなるように形成されている。上側容器11Aと下側容器11Bとはそれぞれ、上側容器11Aの側板の少なくとも一部が下側容器11B内に収容されるように配置されている。
【0033】
上側容器11Aの側板と、下側容器11Bの側板と、の間には、上側容器11Aの側板と下側容器11Bの側板との間の空間を埋めるように、ガスケット12が設けられている。つまり、ガスケット12は容器の蓋体として機能するように形成されている。ガスケット12は、例えばポリプロピレンで形成されている。これにより、容器を密閉できるとともに、上側容器11Aと下側容器11Bとの間の絶縁性を担保できる。
【0034】
上側容器11Aには、負極集電体としての銅合金箔13Aと負極活物質層13Bとを備え、例えば円板状に形成された負極13が収容されて保持されている。具体的には、上側容器11Aには、負極活物質層13Bが下側容器11Bの底板と対向するように負極13が収容されている。つまり、上側容器11Aは、負極13を収容する負極ケースとしても機能する。上側容器11Aには、負極端子が設けられている。
【0035】
下側容器11Bには、後述の正極14が収容されて保持されている。具体的には、下側容器11Bには、後述の正極活物質層14Bが上側容器11Aの天板と対向するように正極14が収容されている。つまり、下側容器11Bは、正極14を収容して保持する正極ケースとしても機能する。下側容器11Bには、正極端子が設けられている。
【0036】
正極(対極)14は、例えば正極集電体(金属箔)14Aの少なくともいずれかの主面上に正極活物質を含む正極活物質層14Bが設けられて形成されている。正極14は、例えば円板状に形成されている。正極集電体14Aとしては、例えばアルミニウム(Al)箔を用いることができる。正極活物質としては、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO
2)やマンガンスピネル(LiMn
2O
4)等のリチウム(Li)を含む金属複合酸化物等を用いることができる。
【0037】
負極13と正極14との間には、セパレータ15が設けられている。具体的には、セパレータ15は、負極活物質層13Bと正極活物質層14Bとの間に介在するように配置されている。セパレータ15は、平面積が負極13及び正極14の平面積よりも大きくなるように形成されているとよい。例えば、セパレータ15は、直径が負極13及び正極14の直径よりも長くなるように形成されているとよい。これにより、負極13と正極14とをより確実に絶縁させることができる。セパレータ15は、例えば多孔性合成樹脂膜で形成されている。具体的には、セパレータ15は、ポリオレフィン系高分子の多孔膜(多孔質膜)で形成されているとよい。セパレータ15は、例えばポリエチレンやポリプロピレンの多孔膜で形成されているとよい。これにより、セパレータ15は、多孔膜の孔中に後述の電解液が入り込むことで、電解液を保持することができる。
【0038】
容器中には、電解液が注入されている。電解液は、有機溶媒中に電解質を溶解させて生成されている。電解液中の電解質の含有量(濃度)は、二次電池10の用途や有機溶媒の種類等に応じて適宜調整できる。
【0039】
有機溶媒としては、例えばカーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。特に、有機溶媒として、カーボネート類及びエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の非水溶媒が用いられるとよい。有機溶媒として、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、1,2―ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネートや、これらの混合溶媒が用いられるとよい。これらの有機溶媒は、誘電率が高く、粘度が低く、電解質の溶解性に優れるため、二次電池10の充放電効率を向上させることができる。
【0040】
電解質として、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6の無機塩、これらの無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)の有機塩、これらの有機塩の誘導体、のうちの少なくとも1つが用いられるとよい。これにより、二次電池10の電池性能を向上させることができる。また、二次電池10が室温以外の温度域で使用される場合であっても、より高い電池性能を維持できる。
【0041】
電解液中には、ビニレンカーボネート(VC)等の電解質以外の添加剤が添加されていてもよい。
【0042】
(4)銅合金箔、負極及び二次電池の製造方法
次に、本実施形態にかかる銅合金箔、負極及び二次電池の製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態にかかる銅合金箔、負極及び二次電池の製造工程を示すフロー図である。
【0043】
<銅合金箔形成工程(S10)>
例えば溶解鋳造法を用いて銅合金箔を形成する。
【0044】
(鋳造工程(S11))
母材としてのCu(例えば無酸素銅)を、例えば、高周波溶解炉等を用いて窒素雰囲気下で溶解して銅の溶湯を生成する。続いて、高周波溶解炉等を用いて窒素雰囲気下で、銅の溶湯中に、所定量(例えば0.04質量%以上0.20質量%以下)のSn、所定量(例えば0.01質量%以上)のAgの少なくともいずれかを添加して混合し、銅合金の溶湯を生成する。なお、SnとAgとの両方を添加する場合は、Sn及びAgの合計含有量(合計添加量)が0.20質量%以下になるように添加するとよい。そして、生成した銅合金の溶湯を鋳型に注いで(出湯して)冷却し、0.04質量%以上0.20質量%以下のSn、0.01質量%以上のAgの少なくともいずれかを含有し、Sn及びAgの両方を含有する場合はSn及びAgの合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなる所定形状の銅合金の鋳塊(インゴット)を鋳造(溶製)する。
【0045】
(熱間圧延工程(S12))
鋳造工程(S11)が終了した後、インゴット中、つまり鋳造組織中に生じている偏析を均質化する前処理を行う。前処理として、インゴット中の結晶組織が平衡状態で均質な固溶状態となる温度以上の温度域に、インゴットを所定時間保持する加熱処理を行うとよい。例えば、インゴットを800℃以上950℃以下の条件下で30分以上加熱するとよい。
【0046】
前処理を行ったインゴットに対して熱間圧延処理を行う。具体的には、インゴットの温度を前処理で加熱した温度域(つまり800℃以上950℃以下)に維持した状態で、インゴットに対して所定の加工度(例えば総加工度が95%)で熱間圧延処理を行い、所定厚さ(例えば12mm)の熱間圧延材を形成する。
【0047】
(第1の冷間圧延工程(S13))
熱間圧延工程(S12)が終了した後、熱間圧延材に対して、第1の冷間圧延処理と、再結晶焼鈍処理と、を行い、所定厚さの再結晶焼鈍材を形成する。具体的には、1回の加工度が10%〜20%程度である冷間圧延を所定回数連続して繰り返して行うことで、総加工度が例えば40%〜70%になる第1の冷間圧延処理と、再結晶焼鈍処理と、を所定回数交互に繰り返して行い、所定厚さ(例えば0.15mm〜1.0mm)の再結晶焼鈍材を形成する。再結晶焼鈍処理は、焼鈍後(再結晶後)の結晶粒の粒径が所定の粒径(例えば10μm〜20μm)になるように行うとよい。例えば、再結晶焼鈍処理として、600℃以上900℃以下の条件下にある炉内で、数秒間〜数時間の加熱処理を行うとよい。
【0048】
(第2の冷間圧延工程(S14))
第1の冷間圧延工程(S13)が終了した後、再結晶焼鈍材に対して所定回数の冷間圧延を行う第2の冷間圧延処理を行い、所定厚さ(例えば20μm以下)の銅合金箔を形成する。第2の冷間圧延処理として、1回の加工度rが例えば60%以下、好ましくは40%以下5%以上である冷間圧延を複数回連続して繰り返すことで、総加工度Rが例えば95%以上になる処理を行うとよい。なお、第2の冷間圧延処理として複数回の冷間圧延を行う場合は、各冷間圧延の間に再結晶焼鈍処理を挟むことなく、複数回の冷間圧延を連続して行う。
【0049】
1回の加工度rが60%を超える冷間圧延を行うと、冷間圧延を行っている際に発生する加工熱の量が増加してしまうことがある。従って、冷間圧延を行っている際に、加工熱により、冷間圧延を行っている再結晶焼鈍材や圧延材が加熱されてしまうことがある。例えば、圧延材が、再結晶が生じてしまう温度に加熱されてしまうことがある。なお、圧延材とは、第2の冷間圧延工程(S14)において少なくとも1回の冷間圧延を行った後の再結晶焼鈍材をいう。圧延材に再結晶が生じると、形成した銅合金箔(つまり、H材の状態の銅合金箔)の強度(引張強さ)が低下してしまうことがある。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできないことがある。また、1回の加工度rが60%を超える冷間圧延を行うと、圧延材中に、通常の圧延組織(冷間圧延を行うことで圧延材中に生じる結晶組織)とは異なる結晶組織が生じることがある。例えば、圧延材中に、圧延材の厚さ方向に斜めに横断する結晶組織(せん断帯)が生じることがある。圧延材中に存在するせん断帯は、結晶面の整列を阻害し、破断の起点となりやすい。従って、総加工度が例えば95%以上になる第2の冷間圧延処理を行った場合であっても、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の延性を向上させることができないことがある。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを2.0%以上にできないことがある。
【0050】
1回の冷間圧延の加工度rを60%以下にすることで、冷間圧延を行っている際に発生する加工熱の量を低減できる。従って、圧延材に再結晶が生じることを抑制できる。その結果、形成した銅合金箔(H材の状態の銅合金箔)の引張強さが低下することを抑制できる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。また、圧延材の結晶配向性を高めることができる。例えば、圧延材中にせん断帯が生じることを抑制できる。従って、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の延性を向上させることができる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを2.0%以上にできる。1回の冷間圧延の加工度rを40%以下にすることで、冷間圧延を行っている際に発生する加工熱の量をより低減できる。従って、圧延材に再結晶が生じることをより抑制できる。また、圧延材中にせん断帯が生じることをより抑制できる。
【0051】
しかしながら、1回の冷間圧延の加工度rが5%未満であると、総加工度Rが例えば95%以上になるまでに繰り返して行われる冷間圧延の回数が増えてしまうことがある。その結果、銅合金箔の製造コストが高くなってしまうことがある。1回の冷間圧延の加工度rを5%以上にすることで、これを解消できる。従って、銅合金箔の製造コストの上昇を抑制できる。
【0052】
なお、1回の冷間圧延の加工度rは、下記の(数1)から求められる。なお、(数1)中、t
0は1回の冷間圧延前の圧延材(又は再結晶焼鈍材)の厚さであり、tは1回の冷間圧延を行った後の圧延材の厚さである。
(数1)
加工度r(%)={(t
0―t)/t
0}×100
【0053】
第2の冷間圧延処理で行う冷間圧延の総加工度Rは、95%以上であるとよく、97%以上であるとより好ましく、98%以上であるとさらに好ましく、99.5%以下であるとさらに好ましい。
【0054】
総加工度Rが高くなるほど、冷間圧延によって圧延材を加工硬化させることができ、形成する銅合金箔の引張強さを高くできる。例えば、総加工度Rが80%を超えると、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。しかしながら、総加工度Rが95%未満であると、H材の状態の銅合金箔の延性を向上させることができないことがある。また、総加工度Rが95%未満であると、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制できるが、所定の加熱処理を行っても、銅合金箔の延性を向上させることができないことがある。総加工度Rを95%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の延性を向上させることができる。また、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制しつつ、所定の加熱処理後の銅合金箔の延性をH材の状態の銅合金箔よりも延性を向上させることができる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にしつつ、伸びを2.0%以上にできる。総加工度Rを97%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の延性をより向上させることができる。従って、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを例えば2.5%以上にできる。総加工度Rを98%以上にすることで、H材の状態の銅合金箔の延性をさらに向上させることができる。従って、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを例えば3.0%以上にできる。
【0055】
しかしながら、所定回数の冷間圧延を行うことで加工硬化し、引張強さが高くなった圧延材は、1回の加工度が60%以下である冷間圧延によって、さらに圧下させることが難しくなることがある。例えば、総加工度Rが99.5%を超えると、1回の冷間圧延によって圧下する圧延材の圧下量が極端に低減してしまう。従って、総加工度が99.5%を超える冷間圧延処理を行おうとすると、冷間圧延を行う回数(つまり圧延パス数)を極端に増加させなければならなくなることがある。従って、銅合金箔の製造コストが上昇してしまうことがある。総加工度を99.5%以下にすることで、銅合金箔の製造コストが高くなることを抑制できる。
【0056】
なお、総加工度Rは、下記の(数2)から求められる。(数2)中、T
0は、第2の冷間圧延工程(S14)を行う前の再結晶焼鈍材(つまり第1の冷間圧延工程(S13)が終了した後の再結晶焼鈍材)の厚さであり、Tは、第2の冷間圧延工程(S14)での冷間圧延処理が終了した時の圧延材(つまり銅合金箔)の厚さである。
(数2)
総加工度R(%)={(T
0―T)/T
0}×100
【0057】
<負極形成工程(S20)>
銅合金箔形成工程(S10)が終了したら、例えばコイル・ツー・コイル方式の連続ラインにより、銅合金箔の少なくともいずれかの主面上に負極活物質層を形成する。
【0058】
まず、例えば負極活物質と結着剤とを所定の溶媒に添加し、負極活物質を形成するスラリーを生成(調製)する。具体的には、負極活物質としての所定量(例えば9.8質量部)のシリコン系化合物及び所定量(例えば87.0質量部)の黒鉛(黒鉛粉末)と、結着剤としての所定量(例えば1.5質量部)のCBC及び所定量(例えば1.7質量部)のSBRと、を溶媒(例えば水や、N―メチル―2―ピロリドン(NMP)等の有機溶媒)に分散させつつ混合してスラリーを生成する。なお、必要に応じて、スラリー中に導電助剤を添加してもよい。
【0059】
続いて、例えばアプリケータを用い、銅合金箔の少なくともいずれかの主面上に、生成したスラリーを塗布する。その後、所定温度の条件下で、銅合金箔上のスラリーを所定時間乾燥させることでスラリー中の溶媒を蒸発させ、負極活物質層を形成する。例えば70℃以上200℃以下の条件下で、スラリーを塗布した銅合金箔を1時間以下(例えば数分間〜数十分間)保持して乾燥させて、銅合金箔上に負極活物質層を形成する。
【0060】
そして、銅合金箔と負極活物質層との積層体をプレス成型し、負極板を形成する。その後、負極板に対してせん断加工を行い、負極板を所定の形状に成型した後、所定温度の条件下で所定時間乾燥させて、負極を形成する。例えば、直径が14mmである円形状のカッタを用いて、負極板に対してせん断加工を行い、負極板を円板状に成型した後、円板状の負極板を120℃の条件下で6時間真空乾燥させて、負極を形成する。
【0061】
<二次電池形成工程(S30)>
負極形成工程(S20)が終了したら、二次電池として例えばコイン型のリチウムイオン二次電池(例えばCR2025タイプ)を形成する。まず、負極と、正極活物質層を備える正極と、例えばポリエチレンの多孔膜で形成されるセパレータと、を容器内に収容する。例えば、ドライボックス中で、負極活物質層と正極活物質層とが対向し、負極活物質層と正極活物質層との間にセパレータが配置されるように、負極と正極とセパレータとをそれぞれ配置してコイン型の容器内に収容する。
【0062】
そして、有機溶媒中に電解質を溶解させて電解液を調製する。例えば、有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)を30体積%と、メチルエチルカーボネート(MEC)を50体積%と、プロピオン酸メチルを20体積%とを混合して、混合溶媒を調製する。そして、混合溶媒中に、電解質として例えばLiPF
6を1モル/リットル溶解させて、電解液を調製する。そして、負極と正極とセパレータとを収容した容器内に、電解液を注入し、負極活物質層及び正極活物質層にそれぞれ電解液を含浸させる。その後、ガスケットを装着し封をし、容器を密閉して二次電池を形成する。
【0063】
(5)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0064】
(a)本実施形態にかかる銅合金箔によれば、所定量のSn、所定量のAgの少なくともいずれかを含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である。このように本実施形態にかかる銅合金箔は、銅合金箔が二次電池の負極集電体として用いられて負極が形成される場合、負極を形成する際の加熱(例えば銅合金箔上に負極活物質層を形成する際の加熱)で、最も過酷な200℃の条件下で1時間の加熱処理を行った後であっても、高い引張強さと、高い伸びと、を有している。従って、本実施形態によれば、例えば450N/mm
2以上の引張強さ、及び2.0%以上の伸びを有する銅合金箔で形成される負極集電体と、負極活物質層と、を備える二次電池の負極を形成できる。
【0065】
(b)上述のように、本実施形態にかかる銅合金箔は、所定の加熱処理を行った後に、所定の引張強さと、所定の伸びと、を有している。これにより、銅合金箔が例えば二次電池の負極集電体として用いられた場合、二次電池の充放電の際の負極活物質の膨張、収縮により、銅合金箔が破断することを抑制できる。つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔が、所定の引張強さだけでなく、所定の伸びも有することで、所定の引張強さを有する銅合金箔では抑制することができなかった銅合金箔の破断を抑制することができる。
【0066】
つまり、銅合金箔が200℃の条件下で1時間の加熱を行った後に450N/mm
2以上の引張強さを有することで、銅合金箔が負極集電体として用いられた二次電池において、二次電池の充放電に伴い、負極活物質が膨張、収縮することで発生する応力が銅合金箔(負極集電体)に加わった場合であっても、応力によって銅合金箔が変形したり、破断することを抑制できる。
【0067】
また、銅合金箔が200℃で1時間以上加熱した後に、2.0%以上の高い伸びを有することで、銅合金箔が負極集電体として用いられた二次電池において、二次電池の充電の際に負極活物質が膨張した場合であっても、負極活物質の膨張に追従するように銅合金箔が伸びるようになる。例えば、二次電池の充電の際に負極活物質の膨張により、容器内に収納された負極と正極とセパレータとの積層体が容器の内壁と接触するまで膨張した場合であっても、負極活物質の膨張に追従するように銅合金箔が伸びるようになる。従って、銅合金箔が破断することをより抑制できる。
【0068】
(c)銅合金箔が負極集電体として用いられた二次電池において、銅合金箔の破断を抑制することで、銅合金箔上から負極活物質が脱落することを抑制できる。その結果、二次電池の寿命をより長くすることができる。
【0069】
(d)銅合金箔中に、0.04質量%以上0.20質量%以下のSn、0.01質量%以上のAgの少なくともいずれかを含有させ、Sn及びAgの両方を含有させる場合にはSn及びAgの合計含有量を0.20質量%以下にすることで、H材の状態の銅合金箔の強度を向上させることができる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。また、銅合金箔の導電性が低下することを抑制できる。例えば銅合金箔の導電率を80%IACS以上にできる。
【0070】
(e)また、銅合金箔中に0.04質量%以上0.20質量%以下のSn、0.01質量%以上のAgの少なくともいずれかを含有させることで、銅合金箔中にSn、Agの少なくともいずれかを固溶させることができる。これにより、銅合金箔の耐熱性を向上させることができる。従って、銅合金箔に所定の加熱処理が行われた場合であっても、銅合金箔に軟化が生じ難くなる。例えば、銅合金箔上に負極活物質層を形成して負極を形成する際の加熱によっても、銅合金箔に軟化が生じにくくなる。これにより、所定の加熱処理を行った後であっても、銅合金箔が所定の引張強さを有するようになる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にできる。また、銅合金箔に対して所定の加熱処理を行うことで、銅合金箔の延性を向上させることができる。つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びを、H材の状態の銅合金箔の伸びよりも高くできる。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びを2.0%以上にできる。その結果、上記(a)〜(c)の効果を得ることができる。
【0071】
(f)銅合金箔中のAgの含有量を0.10質量%以下にすることで、銅合金箔の製造コストが高くなることを抑制できる。
【0072】
(g)母材として無酸素銅を用いることで、銅合金箔中で生成されるSnOやAgO等の酸化物の量を低減できる。従って、銅合金箔の耐熱性をより向上させることができる。その結果、上記(a)〜(c)の効果をより得ることができる。また、銅合金箔中のOと反応するSn、Agの量を低減することで、Sn、Agの含有量を増やすことなく、銅合金箔中に固溶するSn、Agの量を増やすことができる。従って、上記(a)〜(c)(e)の効果をより得ることができる。
【0073】
(h)第2の冷間圧延工程(S14)で、1回の加工度が60%以下である冷間圧延を、総加工度が95%以上になるように、熱処理を挟むことなく、所定回数連続して行う冷間圧延処理を行っている。これにより、銅合金箔の機械的特性の異方性を低減できる。従って、H材の状態の銅合金箔の延性を向上させることができる。また、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の引張強さの低下を抑制しつつ、所定の加熱処理後の銅合金箔の延性をH材の状態の銅合金箔の延性よりも向上させることができる。例えば、H材の状態の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にするとともに、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さを450N/mm
2以上にしつつ、銅合金箔の伸びを2.0%以上にできる。
【0074】
(i)第2の冷間圧延工程(S14)で行う冷間圧延の総加工度を99.5%以下にすることで、銅合金箔の製造コストが高くなることをより抑制できる。
【0075】
(j)上述したように、本実施形態にかかる銅合金箔は、二次電池の負極が備える負極集電体として用いられる場合に有効である。また、本実施形態にかかる銅合金箔は、負極活物質として、二次電池の充放電容量を大きくできる物質が用いられる場合に有効である。つまり、負極活物質として、二次電池の電解液中に含まれる電解質であるLiイオンの吸蔵、放出に伴う膨張、収縮が大きい大容量の負極活物質が用いられる場合に有効である。具体的には、炭素材料よりも理論容量が大きな負極活物質が用いられる場合に有効である。例えば、負極活物質として、SiやSn等のLiと合金化可能な金属を含む材料が用いられる場合に特に有効である。
【0076】
(k)本実施形態にかかる銅合金箔は、理論容量が大きく、二次電池の充電の際に大きく膨張、収縮する負極活物質の比率が高い負極活物質層が形成される場合に特に有効である。本実施形態にかかる銅合金箔によれば、このように二次電池の充電の際に負極活物質が膨張することで、より大きな応力負荷が加わる場合であっても、破断することを抑制できる。
【0077】
(l)本実施形態にかかる銅合金箔は、小型、軽量の二次電池に用いられる場合に特に有効である。つまり、負極集電体としての銅合金箔の厚さを薄くする必要がある場合に特に有効である。本実施形態にかかる銅合金箔は、厚さを薄くしても、高い引張強さを有する。例えば、銅合金箔の厚さを20μm以下にしても、H材の状態で450N/mm
2以上の引張強さを有する。従って、負極形成工程(S20)で、銅合金箔上に負極活物質層を形成するスラリーを塗布する際に銅合金箔に高張力の負荷がかかった場合であっても、銅合金箔の箔切れの発生を抑制できる。また、本実施形態にかかる銅合金箔は、厚さを薄くした場合であっても、高い耐熱性を有する。従って、上記(a)〜(c)(e)の効果を得ることができる。
【0078】
以下、参考までに、従来の銅箔、銅合金箔について説明する。母材としてタフピッチ銅や無酸素銅から形成した銅箔(つまり母材中に他の元素を含有させることなく、Cu及び不可避不純物からなる純銅箔)では、銅箔を用いて負極を形成する際の加熱により、銅箔中で再結晶が生じ、銅箔が軟化してしまうことがある。例えば、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅箔の引張強さが200N/mm
2付近まで低下してしまうことがある。このように軟化した銅箔を備える二次電池では、二次電池の充放電に伴って負極活物質が膨張、収縮することで生じる応力によって、銅箔に変形や破断が発生してしまうことがある。
【0079】
また、従来、0.05質量%以上0.22質量%以下のSnと、0.1質量%以下のAgと、を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金箔や、Ag、クロム(Cr)、Fe、インジウム(In)、Ni、P、Si、Sn、テルル(Te)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)のうちの一種以上を合計で0.01質量%以上0.50質量%以下含み、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金箔等の耐熱性を向上させた銅合金箔がある。これらの銅合金箔は、H材の状態の引張強さが450N/mm
2以上であり、300℃の条件下で30分間加熱した後の引張強さが400N/mm
2以上である。しかしながら、これらの銅合金箔は一般的な圧延銅箔の製造方法(圧延処理方法)で形成されている。一般的な圧延処理方法では、形成した銅合金箔の延性が低下してしまうことが知られている。例えば、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びが1%程度になってしまうことがある。このように、従来の銅合金箔では、所定の加熱処理を行った後に、高い引張強さと、高い伸びと、を兼備しないことがある。従って、このような銅合金箔が二次電池の負極集電体に用いられた場合、二次電池の充電の際に負極活物質が膨張することで、銅合金箔に破断が生じてしまうことがある。
【0080】
これに対し、本実施形態によれば、所定量のSn、所定量のAgの少なくともいずれかを含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である。このため、上述の課題を効果的に解決できる。
【0081】
(本発明の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0082】
上述の実施形態では、熱間圧延工程(S12)において、前処理を行ったが、前処理は必要に応じて行えばよい。つまり、前処理は省略してもよい。
【0083】
上述の実施形態では、第1の冷間圧延工程(S13)と、第2の冷間圧延工程(S14)と、を行ったが、これに限定されない。例えば、第1の冷間圧延工程(S13)は必要に応じて行えばよく、省略してもよい。
【0084】
上述の実施形態では、第2の冷間圧延工程(S14)で、複数回の冷間圧延処理を連続して行ったがこれに限定されない。つまり、第2の冷間圧延工程(S14)では、所定の加工度の冷間圧延処理を1回行うことで、所定厚さの銅合金箔を形成してもよい。
【0085】
上述の実施形態では、上側容器11Aに負極を収容して保持し、下側容器11Bに正極を収容して保持したが、これに限定されない。例えば、上側容器11Aに正極を収容して保持し、下側容器11Bに負極を収容して保持してもよい。
【0086】
上述の実施形態では、二次電池として、コイン型のリチウムイオン二次電池を例に説明したが、これに限定されない。例えば、二次電池が備える容器として、円筒型、角型等の容器を用い、負極と、セパレータと、正極と、の積層体を巻回した巻回体を、容器内に収容してもよい。
【実施例】
【0087】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
<試料の作製>
試料1〜39の各試料である銅合金箔をそれぞれ作製した。
【0089】
(試料1)
試料1では、母材として無酸素銅を用いた。そして、高周波溶解炉を用いて窒素雰囲気下で無酸素銅を所定の温度(例えば1100℃)に加熱して溶解して銅の溶湯を溶製(生成)した。続いて、高周波溶解炉による銅の溶湯の加熱を維持した状態で、窒素雰囲気下で銅の溶湯中に所定量のSnを添加して混合し、銅合金の溶湯を溶製した。その後、銅合金の溶湯を所定の鋳型に注いで冷却し、所定形状の鋳塊(インゴット)を鋳造した。つまり、0.04質量%のSnを含み、残部がCu及び不可避不純物からなる鋳塊を作製した。なお、鋳塊中のSnの含有量(濃度)は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)により、インゴット中のSnの濃度を分析した結果である。
【0090】
次に、インゴットを所定温度(例えば900℃)の条件下で3時間加熱した後、インゴットが降温する前に加工度が95%である熱間圧延を行い、厚さが12mmである熱間圧延材を作製した。熱間圧延材が所定温度(例えば室温程度)まで降温した後、熱間圧延材に対して第1の冷間圧延処理を行った。第1の冷間圧延処理として、1回(1パス)の加工度が10〜20%である冷間圧延を所定回数連続して繰り返すことで総加工度が60〜75%になる冷間圧延処理と、再結晶焼鈍処理と、をそれぞれ、所定回数ずつ交互に繰り返して行った。これにより、厚さが1mmである再結晶焼鈍材を作製した。
【0091】
その後、再結晶焼鈍材に対して、1回の加工度が60%以下である冷間圧延を、総加工度が99.0%になるまで所定回数(14回)連続して行う第2の冷間圧延処理を行った。具体的には、第2の冷間圧延処理として、下記の表2のAに示す圧延パススケジュールの冷間圧延処理を行った。これにより、厚さが0.010mm(10μm)である銅合金箔を作製し、これを試料1とした。
【0092】
(試料2〜39)
試料2〜39ではそれぞれ、銅合金箔中のSnの含有量及びAgの含有量をそれぞれ、下記の表1に示す通りとした。銅合金箔中のSnの含有量及びAgの含有量はそれぞれ、銅の溶湯中に添加するSn、Agの添加量を調整することで変更した。なお、試料26はCu及び不可避不純物からなる銅箔(純銅箔)である。つまり、試料26では、銅の溶湯中にSn、Agを添加することなくインゴットを形成した。また、試料2〜39ではそれぞれ、圧延パススケジュールを表1及び表2に示す通りとした。その他は、試料1と同様にして銅合金箔を作製した。これらをそれぞれ、試料2〜39とした。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
<銅合金箔の特性の評価>
試料1〜39の銅合金箔についてそれぞれ、銅合金箔の特性を行った。具体的には、銅合金箔の特性として、導電率、引張強さ、伸び、及び耐熱性の評価を行った。
【0096】
(導電率の測定)
試料1〜39の各銅合金箔の導電率をそれぞれ測定し、導電性の評価を行った。導電率の測定は、JIS H0505に準拠する導電率測定方法に基づいて測定した。その結果を上記の表1に示す。
【0097】
(加熱処理前の引張強さ及び伸びの測定)
試料1〜39の各銅合金箔の引張強さ及び伸びをそれぞれ測定した。つまり、H材の状態の試料1〜39の各銅合金箔の引張強さ及び伸びをそれぞれ測定した。引張強さの測定は、ASTMインターナショナルE−345に準拠して行った。具体的には、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)から、所定の大きさ(幅が12.5mm、長さが230mm)の試験片をそれぞれ作製した。そして、引張強さを測定する装置が備える試験片を保持するつかみ具間の距離を125mmとし、引張速度を5mm/minとして、各試験片について、各試験片の圧延方向に引張応力を加えたときの引張強さをそれぞれ測定した。また、伸びの測定は、IPC−TM−650 2.4.18に準拠して行った。具体的には、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)から所定の大きさ(幅が12.5mm、長さが230mm)の試験片をそれぞれ作製した。続いて、伸びを測定する装置が備えるつかみ具(チャック)間に試験片を保持する。その後、伸びを測定する装置が備えるロードセルを用い、引張速度を5mm/minとし、各試験片に破断が生じるまで、各試験片を圧延方向に平行な方向に伸ばした。そして、各試験片に破断が生じたときのロードセルの移動距離を検出した。そして、下記の(数3)から各試験片の伸びを算出した。引張強さ及び伸びの測定結果をそれぞれ、加熱処理前の引張強さ及び伸びとして、表1に示す。
(数3)
伸び(%)=(破断時までにロードセルが移動した距離/チャック間の距離)×100
【0098】
(耐熱性の評価)
耐熱性の評価は、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)をそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さを測定することで行った。なお、引張強さの測定方法は、上述の加熱処理前の銅合金箔の引張強さの測定方法と同様である。所定の加熱処理を行った後の引張強さの測定結果を上記の表1に示す。なお、加熱処理前の(つまりH材の状態での)引張強さと、加熱処理後の引張強さと、の差が小さい方が、良好な耐熱性を有することを示している。
【0099】
(延性の評価)
延性の評価は、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)をそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びを測定することで行った。なお、伸びの測定方法は、上述の加熱処理前の銅合金箔の伸びの測定方法と同様である。所定の加熱処理を行った後の伸びの測定結果を上記の表1に示す。なお加熱処理前の伸びと、加熱処理後の伸びと、の差が大きい方が、銅合金箔(銅箔)の延性が向上していることを示している。
【0100】
<二次電池の特性の評価>
試料1〜39の銅合金箔をそれぞれ用いて形成した二次電池の特性について評価を行った。具体的には、二次電池の特性として、負極の面積変化率と、負極の破断箇所の有無と、負極活物質の脱落箇所の有無と、を評価した。
【0101】
(負極の作製)
まず、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)のいずれかの主面上に負極活物質層を形成して負極を作製した。具体的には、負極活物質としての鱗片状の黒鉛粉末を45質量部及び一酸化ケイ素(SiO)を5質量部と、結着剤としてのSBRを2質量部と、増粘剤水溶液を20質量部と、を混練分散させて負極活物質層用のスラリー(ペースト)を生成した。なお、増粘剤水溶液は、増粘剤としてのCMC1質量部に対して99質量部の水を溶解させて生成した。続いて、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)のいずれかの主面(片面)上にそれぞれ、ドクターブレード方式により、生成した負極活物質層用のスラリーを厚さが100μmになるように塗布した。その後、負極活物質層用のスラリーを塗布した試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)をそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱し、乾燥させた。これにより、試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)上にそれぞれ厚さが100μmの負極活物質層を形成した。そして、負極活物質層を加圧することで、負極活物質層の厚さを50μmに調整した。その後、銅合金箔と負極活物質層との積層体に対して打ち抜き加工を行うことで、所定形状の負極(負極板)を作製した。
【0102】
(二次電池の作製)
二次電池に用いられる正極板(正極)を作製した。具体的には、正極活物質としてのLiCoO
2粉末を50質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラックを1質量部と、結着剤としてのPVDFを5質量部と、を水(溶媒)中に混練分散して、正極活物質層用のスラリー(ペースト)を生成した。続いて、正極集電体としての厚さが20μmであるアルミニウム箔のいずれかの主面(片面)上に、ドクターブレード方式により、生成した正極活物質層用のスラリーを厚さが100μmになるように塗布した。その後、正極活物質層用のスラリーを塗布したアルミニウム箔を120℃の条件下で1時間加熱し、乾燥させた。これにより、アルミニウム箔上に厚さが100μmである正極活物質層を形成した。そして、正極活物質層を加圧することで、正極活物質層の厚さを50μmに調整した。その後、アルミニウム箔と正極活物質層との積層体に対して打ち抜き加工を行うことで、所定形状の正極(正極板)を作製した。
【0103】
試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)を用いた各負極と、正極と、セパレータと、電解液と、を用いて、コインセル型のリチウムイオン二次電池を作製した。つまり、各負極が備える負極活物質層と、正極が備える正極活物質層と、が対向するように配置し、負極活物質層と正極活物質層との間に、厚さが20μmであるポリプロピレン樹脂製の多孔膜からなるセパレータを挟み、負極と正極とセパレータとの積層体を作製した。そして、負極と正極とセパレータとの積層体をコイン型の容器(セル)内に収容し、正極及び負極をそれぞれ、セル内部の端子に電気的に接続した。その後、ECを30体積%と、MECを50体積%と、プロピオン酸メチルを20体積%と、を混合して生成した混合溶媒中に、電解質としてのLiPF
6を1モル/リットルと、添加剤としてのVCを1質量%と、を溶解させた電解液をセル内に注入した後、セルを密封して、二次電池を作製した。
【0104】
(負極の面積変化率)
試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)を用いて形成したそれぞれの二次電池について、二次電池を充放電した後の負極の変形について評価した。具体的には、充電と放電とを所定回数(100回)ずつ交互に行った後の負極の面積の変化率を測定した。負極の面積変化率の値が低いほど、負極の変形が抑制されていることを示している。
【0105】
(破断箇所及び負極活物質の脱落箇所の有無の評価)
試料1〜39の各銅合金箔(銅箔)を用いて形成したそれぞれの二次電池について、二次電池を充放電した後に、銅合金箔に破断が生じている箇所、負極活物質の脱落箇所の発生の有無を目視で確認した。
【0106】
<評価結果>
試料1〜25から、所定の耐熱性を有するとともに、所定の加熱処理を行った後に所定の伸びを有する銅合金箔は、二次電池の負極集電体として用いられた場合、二次電池の充放電によって銅合金箔が変形したり、破断したりすることを抑制できることを確認した。例えば、200℃の条件下で1時間の加熱を行った後に450N/mm
2以上の引張強さを有するとともに、伸びが2.0%以上である銅合金箔が負極集電体として用いられた二次電池では、二次電池を充放電しても、銅合金箔の変形や破断が抑制されることを確認した。例えば、充放電サイクル後の負極の面積変化率を15%以下にできることを確認した。また、銅合金箔の変形や破断を抑制することで、負極活物質層中に含まれる負極活物質が銅合金箔から脱落することを抑制できることを確認した。
【0107】
つまり、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔が所定の引張強さを有することで、二次電池を充放電した際に負極活物質が膨張、収縮することで発生する応力によって、銅合金箔が変形したり、破断することを抑制できることを確認した。また、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔が所定の伸びを有することで、二次電池を充電した際に負極活物質が膨張、収縮した場合であっても、負極活物質の膨張、収縮に追従するように銅合金箔が伸びることを確認した。従って、銅合金箔が破断することをより抑制できることを確認した。
【0108】
また、試料1〜25から、0.04質量%以上0.20質量%以下のSn、0.01質量%以上のAgの少なくともいずれかを含み、Sn及びAgの両方を含む場合は、Sn及びAgの合計含有量が0.20質量%以下である銅合金箔は、H材の状態で450N/mm
2以上の高い引張強さを有することを確認した。また、試料1〜25の銅合金箔はそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱した後であっても、引張強さの低下が抑制されており、高い耐熱性を有していることを確認した。つまり、試料1〜25の銅合金箔はそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱した後であっても、450N/mm
2以上の高い強度を有していることを確認した。また、試料1〜25の銅合金箔はそれぞれ、H材の状態の伸びよりも、200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びの方が高くなることを確認した。また、試料1〜25の銅合金箔はそれぞれ、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを2.0%以上にできることを確認した。
【0109】
また、試料1〜25の銅合金箔はそれぞれ、導電性の低下が抑制されており、導電率が80%IACS以上であることを確認した。
【0110】
また、試料1〜25から、第2の冷間圧延処理として、1回の加工度が60%以下である冷間圧延を、総加工度が95%以上になるように所定回数連続して行うことで、200℃の条件下で1時間加熱した後であっても、450N/mm
2以上の高い引張強さを有するとともに、2.0%以上の高い伸びを有することを確認した。
【0111】
試料9〜12から、銅合金箔中のSnの含有量が0.12質量%であると、銅合金箔の導電性の低下をより抑制できることを確認した。例えば、銅合金箔の導電率を85%IACS以上にできることを確認した。
【0112】
試料15〜20から、銅合金箔中のAgの含有量が0.03質量%以上であると、銅合金箔の強度をより向上させることができることを確認した。つまり、H材の状態での銅合金箔の引張強さをより高くできることを確認した。例えば、銅合金箔の引張強さを480N/mm
2以上にできることを確認した。また、200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の引張強さが480N/mm
2以上になることを確認した。従って、二次電池を充放電した際に負極活物質が膨張、収縮することでより大きな応力が発生した場合であっても、銅合金箔が変形したり、破断することをより抑制できることを確認した。例えば、負極の面積変化率をより小さくできることを確認した。
【0113】
試料1〜3、試料5〜8、試料10〜13、試料16〜18、試料20〜23、試料25から、第2の冷間圧延処理での総加工度Rが97%以上であると、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びをより向上させることができることを確認した。例えば200℃の条件下で1時間加熱した後の銅合金箔の伸びを2.5%以上にできることを確認した。
【0114】
試料26から、Cu及び不可避不純物からなる純銅箔では、耐熱性が低く、所定の加熱処理を行うと、軟化してしまうことを確認した。具体的には、純銅箔は、H材の状態での引張強さは450N/mm
2以上であるが、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが198N/mm
2まで低下してしまうことを確認した。従って、負極集電体として純銅箔を用いて形成した二次電池では、二次電池の充電の際に、純銅箔の変形が大きくなることを確認した。例えば充放電サイクル後の負極の面積変化率が35%になり、15%を超えてしまうことを確認した。また、軟化した純銅箔を備える負極では、二次電池の充放電の際に純銅箔に破断が発生し、その結果、負極活物質が純銅箔上から脱落してしまうことを確認した。
【0115】
試料1と試料27との比較から、Snの含有量が0.04質量%未満であると、所望の耐熱性を得ることができないことを確認した。具体的には、H材の状態での引張強さは477N/mm
2であるが、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが204N/mm
2まで低下してしまうことを確認した。
【0116】
試料11,12と、試料28との比較から、銅合金箔中にSnのみを含有させる場合、Snの含有量が0.2質量%を超えると、耐熱性をより向上させることはできるが、銅合金箔の導電性が低下してしまうことを確認した。例えば、銅合金箔の導電率が80%IACS未満になってしまうことを確認した。
【0117】
試料13,14と、試料29との比較から、銅合金箔中にAgのみを含有させる場合、Agの含有量が0.01質量%未満であると、所望の耐熱性を得ることができないことを確認した。
【0118】
試料25と試料30との比較から、銅合金箔中にSn及びAgを含有させる場合、Sn及びAgの合計含有量が0.20質量%を超えると、Sn、Agのそれぞれの含有量が所定範囲内であっても、銅合金箔の導電性が低下してしまうことを確認した。例えば、銅合金箔の導電率が80%IACS未満になってしまうことを確認した。
【0119】
試料1〜25と試料31〜36との比較から、所定量のSn、所定量のAgの少なくともいずれかを含む銅合金箔であっても、第2の冷間圧延処理で行う冷間圧延の総加工度が95%未満であると、1回の冷間圧延の加工度が60%以下であっても、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びが2.0%未満になってしまうことを確認した。従って、このような銅合金箔を用いた二次電池では、二次電池の充電の際に負極活物質が膨張した場合、負極活物質の膨張に銅合金箔を追従させることができず、銅合金箔が破断してしまうことを確認した。
【0120】
試料1〜26と試料37〜39との比較から、所定量のSn、所定量のAgの少なくともいずれかを含む銅合金箔であり、第2の冷間圧延処理で、総加工度が95%以上になるように所定回数の冷間圧延を行った場合であっても、加工度が60%を超える冷間圧延が1回でも行われると、所定の加熱処理を行った後の銅合金箔の伸びが2.0%未満になってしまうことを確認した。
【0121】
<好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0122】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
0.04質量%以上0.20質量%以下のスズ、0.01質量%以上の銀の少なくともいずれかを含有し、スズ及び銀の両方を含有する場合はスズ及び銀の合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなり、
200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である銅合金箔が提供される。
【0123】
[付記2]
付記1の銅合金箔であって、好ましくは、
銀の含有量が0.10質量%以下である。
【0124】
[付記3]
付記1又は2の銅合金箔であって、好ましくは、
スズ、銀の少なくともいずれかが固溶している。
【0125】
[付記4]
付記1ないし3のいずれかの銅合金箔であって、好ましくは、
母材として無酸素銅が用いられている。
【0126】
[付記5]
付記1ないし4のいずれかの銅合金箔であって、好ましくは、
導電率が80%IACS以上である。
【0127】
[付記6]
付記1ないし4のいずれかの銅合金箔であって、好ましくは、
スズの含有量が0.04質量%以上0.12質量%以下であり、
導電率が85%IACS以上である。
【0128】
[付記7]
付記1ないし6のいずれかの銅合金箔であって、好ましくは、
銀の含有量が0.03質量%以上である。
【0129】
[付記8]
付記7の銅合金箔であって、好ましくは、
200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さが480N/mm
2以上である。
【0130】
[付記9]
付記1ないし8のいずれかの銅合金箔であって、好ましくは、
200℃の条件下で1時間加熱した後の伸びが2.5%以上である。
【0131】
[付記10]
本発明の他の態様によれば、
0.04質量%以上0.20質量%以下のスズ、0.01質量%以上の銀の少なくともいずれかを含有し、スズ及び銀の両方を含有する場合はスズ及び銀の合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなる鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳塊に対して所定の熱間圧延を行い、熱間圧延材を形成する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延材に対して冷間圧延と焼鈍処理とを所定回数交互に繰り返して行い、焼鈍材を形成する第1の冷間圧延工程と、
前記焼鈍材に対して、1回の加工度が60%以下である冷間圧延を、総加工度が95%以上になるように所定回数連続して行う第2の冷間圧延工程と、を有する銅合金箔の製造方法が提供される。
【0132】
[付記11]
付記10の銅合金箔の製造方法であって、好ましくは、
前記第2の冷間圧延工程では、総加工度が97%以上になるように、所定回数の冷間圧延を行う。
【0133】
[付記12]
付記10又は11の銅合金箔の製造方法であって、好ましくは、
前記第2の冷間圧延工程では、総加工度が99.5%以下になるように所定回数の冷間圧延を行う。
【0134】
[付記13]
本発明の他の態様によれば、
0.04質量%以上0.20質量%以下のスズ、0.01質量%以上の銀の少なくともいずれかを含有し、スズ及び銀の両方を含有する場合はスズ及び銀の合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなり、引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である銅合金箔で形成される負極集電体と、
前記負極集電体の少なくともいずれかの主面上に設けられ、負極活物質を有する負極活物質層と、を備える二次電池用の負極が提供される。
【0135】
[付記14]
0.04質量%以上0.20質量%以下のスズ、0.01質量%以上の銀の少なくともいずれかを含有し、スズ及び銀の両方を含有する場合はスズ及び銀の合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなり、引張強さが450N/mm
2以上であり、伸びが2.0%以上である銅合金箔で形成された負極集電体、及び、前記負極集電体の少なくともいずれかの主面上に設けられ、負極活物質を有する負極活物質層を備える負極と、
正極と、
前記負極及び前記正極を電気的に絶縁するセパレータと、
前記負極、前記正極、前記セパレータを収容し、電解液が注入される容器と、を備える二次電池が提供される。
【解決手段】0.04質量%以上0.20質量%以下のスズ、0.01質量%以上の銀の少なくともいずれかを含有し、スズ及び銀の両方を含有する場合はスズ及び銀の合計含有量が0.20質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物からなり、200℃の条件下で1時間加熱した後の引張強さを450N/mm