(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739136
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F01P 3/20 20060101AFI20150604BHJP
F01P 11/00 20060101ALI20150604BHJP
F01P 11/10 20060101ALI20150604BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
F01P3/20 B
F01P11/00 C
F01P11/10 C
F01P11/10 J
B60K11/04 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-249996(P2010-249996)
(22)【出願日】2010年11月8日
(65)【公開番号】特開2012-102635(P2012-102635A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100079131
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 暁夫
(72)【発明者】
【氏名】小松 正和
(72)【発明者】
【氏名】松本 邦彦
【審査官】
川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−181018(JP,A)
【文献】
特開2007−231777(JP,A)
【文献】
特開2003−269169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/20
F01P 11/00
F01P 11/10
B60K 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)に、ラジエータ(18)を有する水冷式エンジン(4)と、前記ラジエータ(18)を冷却するファン(19)とを備え、前記ファン(19)をファンシュラウド(17)で取り囲み、前記エンジン(4)及び前記ファンシュラウド(17)をボンネット(8)で覆っている作業車両において、
前記ラジエータ(18)のリザーバタンク(29)と前記ファンシュラウド(17)とのうちいずれか一方には雄型係合部(33)を設けて他方には雌型係合部(34)を設け、前記両係合部(33)(34)の嵌め合わせによって前記リザーバタンク(29)をファンシュラウド(17)に直接的に取り付け、
前記ファンシュラウド(17)は前記ファン(19)を囲う形状であり、前記ファンシュラウド(17)の前面側で且つ前記ファン(19)の上方部位にエアクリーナ(23)を配置し、前記ファンシュラウド(17)の後面側で且つ前記ファン(19)の上方部位に前記リザーバタンク(29)を位置させ、前記ファンシュラウド(17)のうち前記ファン(19)の上方部位に、前記エアクリーナ(23)から延びる吸気用ホースを貫通させる切り欠き穴(23′)を形成している、
作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水冷エンジンで駆動される作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水冷式のエンジンは冷却水が循環するラジエータを有しており、ラジエータを循環する冷却水はエンジンで駆動されるファンで冷却されている。ラジエータはアッパータンクとロアタンクとを有しており、アッパータンクとロアタンクとは多数の細管群で接続されており、細管群がファンで冷却される。
【0003】
冷却水は蒸発等によって少しずつ減っていくため、アッパータンクに注水するだけの構造では、冷却水が減少したときにエンジンがオーバーヒートしてしまうことになる。そこで、冷却用の予備水を溜めるリザーバタンクを設けて、冷却水をリザーバタンクからアッパータンクに流入させて、アッパータンクの水位を略一定に保持するようになっていることが多い。
【0004】
リザーバタンクの配置態様は様々であり、例えば特許文献1にはアッパータンクの上面にリザーバタンクを配置することが開示されており、この特許文献1では、エンジンから戻った冷却水はリザーバタンクに流入するようになっている。他の従来例として、アッパータンクの側部にブラケットを介してリザーバタンクを取付けたり、リザーバタンクを機体フレームに取り付けたりすることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−324674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、トラクタ等の作業車両においてはエンジンルームの高さは限度があり、スペースの制約のために特許文献1のようにリザーバタンクをアッパータンク上に配置することができない場合もある。他方、ラジエータの周囲の部位にデッドスペースがない場合もあり、この場合は、アッパータンクの側部にリザーバタンクを取付けるという方法も採用し難い。さりとて、リザーバタンクを機体フレームに取り付ける方法は、パイプが長くなるためコストが嵩んだり冷却水の流れ抵抗が大きくなったりするおそれがある。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さて、ラジエータを冷却するファンはファンシュラウドで支持されていることが多く、ファンシュラウドはラジエータに近接して配置されている。本願発明者たちはこのファンシュラウドに着目し、ファンシュラウドを有効利用すべく着想して本願発明を完成させた。
【0009】
請求項1の発明は、走行機体(1)に、ラジエータ(18)を有する水冷式エンジン(4)と、前記ラジエータ(18)を冷却するファン(19)とを備え、前記ファン(19)をファンシュラウド(17)
で取り囲み、前記エンジン(4)及び前記ファンシュラウド(17)をボンネット(8)で覆っている作業車両において、前記ラジエータ(18)のリザーバタンク(29)と前記ファンシュラウド(17)とのうちいずれか一方には雄型係合部(33)を設けて他方には雌型係合部(34)を設け、前記両係合部(33)(34)の嵌め合わせによって前記リザーバタンク(29)をファンシュラウド(17)に直接的に取り付け、前記ファンシュラウド(17)は前記ファン(19)を囲う形状であり、前記ファンシュラウド(17)の前面側で且つ前記ファン(19)の上方部位にエアクリーナ(23)を配置し、前記ファンシュラウド(17)の後面側で且つ前記ファン(19)の上方部位に前記リザーバタンク(29)を位置させ、前記ファンシュラウド(17)のうち前記ファン(19)の上方部位に、前記エアクリーナ(23)から延びる吸気用ホースを貫通させる切り欠き穴(23′)を形成している。
【0010】
【0011】
【0012】
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、特別の支持部材を要することなくリザーバタンクを取付けできるため、構造の複雑化を防止できる。また、ファンシュラウドはその機能からしてラジエータの近くに配置されているため、配管の取り回しも簡単で冷却水の流れもスムースである。
【0014】
リザーバタンクの取付け手段としては、例えばビスで固定するといったことも可能であるが、請求項
1のように雄型係合部と雌型係合部との嵌め合わせ(係合手段)を利用すると、特別の部材を要しないため構造を簡単化できると共に、取付けも簡単に行える。この場合、実施形態のように係合部の弾性変形を利用して着脱する構成を採用すると、取り付け・取り外しを簡単に行えるため好適である。
【0015】
ファンはラジエータとエンジンとの間に
位置するが、ラジエータとエンジンとの間には、冷却風がエンジンにまんべんなく当たるようにある程度の空間が空いていることが普通である。そして、請求項
1のようにリザーバタンクをファンシュラウドの背面側に配置すると、もともと空いているデッドスペースにリザーバタンクを配置できるため、リザーバタンクを設けたことに起因して作業車両が大型化したり他の部材の配置を変えたりする必要はなく、従って、設計面で有利である。
【0016】
【0017】
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(A)は一部を省略した状態でのトラクタの斜視図、(B)はラジエータを中心にした部位の斜視図、(C)はラジエータを中心にした部位を前から見た斜視図である 。
【
図3】(A)は要部の斜視図、(B)は要部の分離斜視図である。
【
図4】(A)は他の実施形態を示す図で、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は更に他の実施形態を示す背面図、(D)は更に他の実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態はトラクタに適用している。以下の説明で方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、この前後・左右はオペレータの向きを基準にしている。
【0020】
(1).トラクタの概要
トラクタは左右の前輪2と左右の後輪3とで支持された走行機体1を有しており、走行機体1の前部にエンジン4を搭載し、エンジン4の後ろに操縦座席5を有する操縦エリアが設けられ、操縦エリアに操縦ハンドル6を配置している。走行機体1の後端には作業機を連結するためのリンク7を設けている。エンジン4はボンネット8で覆われている。エンジン4は水冷式ディーゼルエンジンである。
【0021】
走行機体1は前後に長い筒状のシャーシ(ベース)(図示せず)を有しており、シャーシの前端面にエンジン4の機関本体(シリンダブロック)11が固定されている。機関本体11の左右両側面にはサイドフレーム12が固定されており、
図2(B)に示すように、サイドフレーム12でエンジンルームの前部床板13が支持されている。また、サイドフレーム12の下面に前輪駆動部14が固定されており、前輪駆動部14の左右両端にフロントアクスルケース15を固定している。
【0022】
シャーシ9は前後に分離した複数のパーツからなっており、このうち操縦フロアの下方に位置した部分をミッションケース9aと成している。シャーシ9の後端部は後部ギアボックス(図示せず)で構成されており、後部ギアボックスにリアアクスルケース(図示せず)が固定されている。
【0023】
図2(A)から理解できるように、エンジン4はエンジンルームの概ね後半部に配置されており、エンジン4の前方に樹脂製のファンシュラウド17が配置されている。ファンシュラウド17は正面視略四角形の形態であり、ファンシュラウド17にラジエータ18を手前側から嵌め込み装着している。ファンシュラウド17には、冷却用のファン19が遊嵌する通風穴21が空いている。ファンシュラウド17の上部と下部にはラジエータホース18aが貫通している。敢えて述べるまでもないが、ファン19はエンジン4で駆動される。
【0024】
(2).要部の詳細
以下、ファンシュラウド17を中心にした部位の詳細を説明する。
図2(A)(B)から理解できるように、ファンシュラウド17はエンジンルームの前部床板13に固定されている。ファンシュラウド17はおおむねエンジンルームを前後に仕切る大きさであり、外周面に縁部材22を固定している。ボンネット8は縁部材22で支持することができる。また、ファンシュラウド17の前部上端にはエアクリーナ23を取り付けている。ファンシュラウド17のうち左上のコーナー部には吸気用ホースが嵌まる切欠き穴23′を形成している。
【0025】
ファンシュラウド17は、仕切り機能を有する基板24とその上端面及び左右端面に一体に連続した周壁25を有している。周壁25は基板24の前後両側にはみ出ており、ラジエータ18は周壁25で囲われた内部に格納されている。ラジエータ18は従来と同様の構造であり、
図2(A)から理解できるように、アッパータンク26とロアタンク27と両者を繋ぐ多数の細管(図示せず)とを有している。細管群はフィルタ27で覆われている。
【0026】
図3(A)に示すように、ファンシュラウド17の基板24は後ろ向き凸状に膨出された台錘形を成しており、多数本の補強リブを形成している。そして、基板24の背面のうち上左のコーナー部寄りの部位(吸気ホースが嵌まる切欠き穴23′の下方)にリザーバタンク29を取り付けている。リザーバタンク29の上端には注入口30を設け、リザーバタンク29の下端には排出口31を設けている。注入口30にはキャップ32を装着している(キャップ32はエア抜き機能を有している。)。排出口31はラジエータ18のアッパータンク26にパイプで接続されている。
【0027】
図3(B)に示すように、リザーバタンク29の前面には正面視逆台形の雄型係合部33を前向きに突設している一方、ファンシュラウド17には雄型係合部33を左右両側から挟む雌型係合部(リブ)34と、雄型係合部33の上面に当接する押さえ爪35とを設けている。押さえ爪35は基板24に切り込み36を入れることで前後方向に撓み変形するようになっている。
【0028】
従って、雄型係合部33を押さえ爪35の弾性に抗して左右雌型係合部34の間に押し込むと、雄型係合部33は逆台形の形状であることで下向き移動不能に保持され、かつ、その状態で押さえ爪35で押されることで上向き移動不能に保持されている。取り外すに際しては、押さえ爪35をその弾性に抗して押し込むことでリザーバタンク29の押さえを解除し、それからリザーバタンク29を上向きに移動させてから後ろに引いたらよい。なお、雄型係合部33と雌型係合部34とは、上下方向の相対動でしか嵌脱せずに前後方向に相対動しない蟻溝方式を採用してもよい。
【0029】
また、リザーバタンク29の左右側面に上下長手の係合溝又はリブを形成する一方、基板24に、係合溝に嵌まるリブ又はリブに後ろから当接する鉤状体を形成してもよい。いずれにしても、押さえ爪35のような上向き動阻止手段は必要である。また、基板24に、リザーバタンク29を左右両側から掴む爪と落下阻止用のストッパー、及び、上向き動を阻止する押さえ爪を設けて、リザーバタンク29には特段の加工を施さない構成とすることも可能である。
【0030】
リザーバタンク29はスペースが許せばファンシュラウド17のどの部位にも取り付けることができるが、本実施形態のようにファンシュラウド17の後面でかつ上コーナー部の近傍に設けると、十分な取り付けスペースを確保できると共に、ラジエータ18への通水をスムースに行える利点がある。
【0031】
(3).他の実施形態・その他
図4に示す実施形態では、ファンシュラウド17に中空のリザーバタンク部29′を形成している。ファンシュラウド17は樹脂を材料にしたブロー成形によって製造されている。(A)(B)で示す実施形態では、ファンシュラウド17の左右片側をリザーバタンク部29′と成して、他の片側は燃料冷却部40と成している。ファンシュラウド17の左又は右の片側のうち上部のみをリザーバタンク部29′と成すことも可能である。また、リザーバタンク部29′及び燃料冷却部40は単なるストレート状に形成するなど、任意の形状を採用できる。
【0032】
図4(C)に示す実施形態では、通風穴21の周囲に環状の燃料冷却部40を形成し、その外側の部位をリザーバタンク部29′としている。敢えて述べるまでもないが、ファンシュラウド17には燃料冷却部40を形成せずにリザーバタンク部29′のみを形成してもよい。
【0033】
図4(D)に示す実施形態では、リザーバタンク29に冷却風の整流機能を持たせて、リザーバタンク29で冷却風をガイドさせている。このように構成すると、エンジン4を効率よく冷却できる。
図7(A)〜(C)の構成と
図7(D)の構成とを組み合わせて、リザーバタンク29に一体形成したリザーバタンク部29′に風向ガイド機能を持たせることも可能である。
【0034】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えばリザーバタンクの個数は必ずしも1個には限らないので、複数個をファンシュラウドに取り付けることも可能である。また、本願発明はトラクタ以外の各種の作業車両に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、トラクタ等の作業車両に具体的に適用して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 走行機体
4 エンジン
11 機関本体
17 ファンシュラウド
18 ラジエータ
19 ファン
21 通風穴
24 ファンシュラウドの基板
29 リザーバタンク
33 雄型係合部(係合突起)
34 雌型係合部(位置決めリブ)
35 係合部を構成する押さえ爪