特許第5739148号(P5739148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5739148-固体電解コンデンサ素子の製造方法 図000003
  • 特許5739148-固体電解コンデンサ素子の製造方法 図000004
  • 特許5739148-固体電解コンデンサ素子の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739148
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20150604BHJP
   H01G 9/052 20060101ALI20150604BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   H01G9/24 C
   H01G9/05 K
   H01G9/02 331G
   H01G9/02 331H
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-274964(P2010-274964)
(22)【出願日】2010年12月9日
(65)【公開番号】特開2012-124383(P2012-124383A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2013年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅博
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−229327(JP,A)
【文献】 特開平06−140291(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/004554(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
H01G 9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極リード線を有する陽極体の前記陽極リード線を、陽極リード線の外径よりも小さい内径の陽極リード線挿入孔を有する絶縁材料からなるワッシャーに、陽極体から0.2mm以下の距離まで挿入し、誘電体酸化皮膜、半導体層及び電極層を順次積層してなる固体電解コンデンサ素子の製造方法において、下記式(1)
y(%)=(a/t)×100 (1)
(式中、tはワッシャーの厚みを表し、aはワッシャーの挿入孔の周りに生ずる変形部分を除く上側(陽極体と反対側)の面から、ワッシャー変形部分の陽極体から最も離れた上側の部分までの鉛直方向の距離を表す。)
で定義されるワッシャーの変形率(y)が30%より大きく90%以下となるように前記陽極リード線をワッシャーに挿入した後、変形率(y)が0〜25%となるように変形部分を半導体層形成前に除去することを特徴とする固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項2】
変形率(y)が0〜25%となるように変形部分を金属刃で切断する請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項3】
陽極リード線をワッシャーに鉛直に差込む請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項4】
陽極リード線の材質が、タンタル、アルミニウム、ニオブ、チタン、またはこれら弁作用金属を主成分とする合金である請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項5】
導電体が、タンタル、ニオブ、チタン及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属あるいは合金、酸化ニオブ、またはこれら金属、合金及び酸化ニオブから選ばれる少なくとも2種以上の混合物である請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項6】
半導体層が有機半導体層を含む層である請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項7】
有機半導体層が、ドーパントをドープした導電性高分子を主成分とした半導体層である請求項6に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項8】
導電性高分子が、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、及びこれらの置換誘導体から選択される請求項7に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で得られる固体電解コンデンサ素子を外装樹脂で封口してなる固体電解コンデンサ。
【請求項10】
請求項9に記載の固体電解コンデンサを使用した電子回路。
【請求項11】
請求項9に記載の固体電解コンデンサを使用した電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能と信頼性が良好な固体電解コンデンサ素子の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、陽極リード線が植設された陽極体に誘電体酸化皮膜及び半導体層を形成する際の半導体層形成用溶液等の這い上がりを防止し、リード線部を短く切断して外部端子フレームへ接続することができ、固体電解コンデンサ素子封止時の溶融樹脂による陽極体上面への応力が緩和され、漏れ電流(LC)の劣化が少なく、コンデンサの小型化が可能な固体電解コンデンサ素子の製造方法及びその方法により得られる固体電解コンデンサ素子を樹脂封口してなる固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に使用される高容量なコンデンサの一つとして直方体形状の一面に陽極リード線を植設した陽極体に、誘電体酸化皮膜、半導体層及び電極層を順次積層した固体電解コンデンサ素子を外装樹脂で封口した固体電解コンデンサがある。
【0003】
固体電解コンデンサは、内部に微小な細孔を有するタンタル等の陽極体を一方の電極として、その電極の表層に形成した誘電体層とその誘電体層上に設けられた他方の電極(通常は、半導体層)および他方の電極上に積層された電極層とから構成された固体電解コンデンサ素子を樹脂封口して作製されている。同一体積の陽極体では、細孔が小さく細孔量が多いほど陽極体内部の表面積が大きくなるために、その陽極体から作製したコンデンサの容量は大きなものとなる。
【0004】
固体電解コンデンサは、低ESR(等価直列抵抗)であることが要求されるため、内部の半導体層としてもっぱら導電性高分子が使用される。そのような半導体層は、化学重合または電解重合法で形成される。1例を挙げると、誘電体層まで形成した導電体(陽極体)の陽極リード線を除く部分を別途用意した酸化剤及びドーパントが入った溶液とモノマーが入った溶液に交互に漬けることを複数回繰り返して半導体層を形成する。各溶液が這い上がって陽極リード線にも半導体層が形成されると、製造されるコンデンサ素子の漏れ電流が大きくなり、場合によっては短絡してしまうこともある。このようなことを防ぐために、通常、陽極リード線の外径より若干小さい内径を有する絶縁材料からなるワッシャーを陽極リード線に挿入し、陽極リード線とワッシャーとを密着するようにして、溶液の這い上がりを防ぐように設計されている(国際公開第2007/00455号パンフレット;特許文献1)。
【0005】
特に、粒径が小さな粉体を焼結した陽極体ほど、半導体層の形成を徐々に進める必要があり、陽極体を処理溶液に浸漬・引き上げる操作をより多く繰り返すことになる。そのため、ワッシャーとリード線の隙間を通して溶液が這い上がる確率が増加する。そこで、一般に、図1及び2に示すように内径のより小さいワッシャー(3)を用い、陽極リード線(2)とワッシャー(3)とがより強く密着するようにして、溶液の這い上がる確率を抑えているが、陽極リード線に挿入されたワッシャーは、リード線に接する部位がリード線の移動方向へリードに沿ってずり上がる様に変形する。前述のように、溶液の這い上がる確率を抑えようとすると、極端な場合には、ワッシャーの厚さ(t)よりも変形(a)が大きくなる場合もある。
【0006】
コンデンサ素子は、陽極リード線を所定寸法で切断し、別途用意した外部端子となるフレームへ接続した後、外装樹脂封口され、コンデンサ(製品)となる。このとき、リード線部位を可能な限り短くしてフレームに接続すると、接続部の封止に必要な樹脂の体積が減り、単位体積あたり容量がより大きいコンデンサを作製することができる。
【0007】
陽極リード線とフレームとの接続には、通常、抵抗溶接やレーザー溶接が用いられているが、リード線部位をより短くしてフレームに溶接しようとすると、溶接部が前述したワッシャーの変形部に干渉することになり、不良品となる素子が増加する。すなわち、溶液の這い上がりを抑えるワッシャーの変形が大きくなると、コンデンサの小型化が難しくなる。
【0008】
なお、前記干渉により不良製品が生じるのは、ワッシャー変形部近傍のリード線表面に付着している半導体(陰極)が、干渉による溶接応力により陽極リード線に押し付けられて、リード線表面に形成されている誘電体層を破壊することによる。この破壊量は僅かでも、陽極と陰極が電気的にわずかに短絡し、コンデンサの漏れ電流特性が悪化する。干渉が大きく誘電体層の破壊量が多くなると、コンデンサは完全に短絡する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/00455号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、陽極リード線を有する陽極体に誘電体酸化皮膜及び半導体層を形成する工程において、半導体層形成用溶液等の這い上がりを防止するワッシャーを陽極リード線に挿入する際に生じるワッシャーの変形による前記の問題を解消し、陽極リード線部を短く切断して外部端子フレームへ熔接することができ、コンデンサの小型化が可能な固体電解コンデンサ素子の製造方法を提供することにある。
また、固体電解コンデンサ素子の封止時の溶融樹脂による陽極体上面への応力を緩和することにより、性能と信頼性が良好な固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、陽極リード線を有する陽極体のリード線を、その外径よりも小さい内径のリード線挿入孔を有するワッシャーに挿入して、半導体層形成用溶液等の這い上がりを防止する固体電解コンデンサ素子の製造方法における前記のワッシャーの変形の問題を解決すべく鋭意検討した。その結果、ワッシャーの陽極リード線挿入孔部分に変形があっても、その変形率(変形率の定義については後述する。)が所定の範囲内に収まるように変形部を除去することにより、リード線とフレームとの溶接時における干渉によるコンデンサ漏れ電流特性の劣化が生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の固体電解コンデンサ素子の製造方法、固体電解コンデンサ、そのコンデンサを使用した電子回路及び電子機器を提供するものである。
1.陽極リード線を有する陽極体の前記陽極リード線を、陽極リード線の外径よりも小さい内径の陽極リード線挿入孔を有する絶縁材料からなるワッシャーに、陽極体から0.2mm以下の距離まで挿入し、誘電体酸化皮膜、半導体層及び電極層を順次積層してなる固体電解コンデンサ素子の製造方法において、下記式(1)
y(%)=(a/t)×100 (1)
(式中、tはワッシャーの厚みを表し、aはワッシャーの挿入孔の周りに生ずる変形部分を除く上側(陽極体と反対側)の面から、ワッシャー変形部分の陽極体から最も離れた上側の部分までの鉛直方向の距離を表す。)
で定義されるワッシャーの変形率(y)が30%より大きく90%以下となるように前記陽極リード線をワッシャーに挿入した後、変形率(y)が0〜25%となるように変形部分を除去することを特徴とする固体電解コンデンサ素子の製造方法。
2.変形率(y)が0〜25%となるように変形部分を金属刃で切断する前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
3.陽極リード線をワッシャーに鉛直に差込む前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
4.陽極リード線の材質が、タンタル、アルミニウム、ニオブ、チタン、またはこれら弁作用金属を主成分とする合金である前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
5.導電体が、タンタル、ニオブ、チタン及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属あるいは合金、酸化ニオブ、またはこれら金属、合金及び酸化ニオブから選ばれる少なくとも2種以上の混合物である前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
6.半導体層が有機半導体層を含む層である前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
7.有機半導体層が、ドーパントをドープした導電性高分子を主成分とした半導体層である前項6に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
8.導電性高分子が、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、及びこれらの置換誘導体から選択される前項7に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
9.前項1〜8のいずれかに記載の方法で得られる固体電解コンデンサ素子を外装樹脂で封口してなる固体電解コンデンサ。
10.前項9に記載の固体電解コンデンサを使用した電子回路。
11.前項9に記載の固体電解コンデンサを使用した電子機器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陽極体に誘電体酸化皮膜及び半導体層を形成する際の半導体層形成用溶液等の這い上がりを防止するワッシャーの陽極リード線挿入孔の径をより小さくしてもリード線部を短く切断して外部端子フレームへ接続することができる固体電解コンデンサ素子が得られる。本発明の固体電解コンデンサ素子を樹脂封口してなる固体電解コンデンサは小型化が可能であり、漏れ電流(LC)の劣化が少なく、信頼性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】陽極リード線を挿入する際のワッシャーのリード線接触部におけるずり上がり(変形)の説明図である。
図2】陽極リード線をワッシャーに挿入直後のワッシャーの変形部分の変形率(y)が30〜90%の固体電解コンデンサ素子の説明図である。
図3】変形部分を除去した変形率(y)が本発明で規定する0〜25%の固体電解コンデンサ素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固体電解コンデンサ素子の製造方法を、添付図面を参照して説明する。
図2(A)、(B)及び図3は本発明で規定するワッシャーの変形率を説明するための固体電解コンデンサ素子の説明図である(図2及び図3では各部の大きさは説明の便宜のために誇張して示してある。)。
【0016】
本発明の固体電解コンデンサ素子の製造方法では、陽極リード線(2)が設けられた陽極体(1)の陽極リード線(2)を、その外径(d2)よりも小さい内径(d1)の陽極リード線挿入孔(4)を有する絶縁材料からなるワッシャー(3)に、陽極体(1)から0.2mm以下の距離まで差し込む。このとき、ワッシャー(3)は陽極リード線との接触部分がリード線の移動方向に沿ってずり上がる(変形する)。
【0017】
本発明では、このずり上がり(変形)を、下記式(1)で定義される変形率(y)で表したときに、yが30%より大きく90%以下となるように前記陽極リード線をワッシャーに挿入した後、変形率(y)が0〜25%となるように変形部分を除去する。
y(%)=(a/t)×100 (1)
式(1)中、tはワッシャーの厚みを表し、aはワッシャーの挿入孔の周りに生ずる変形部分を除く上側(陽極体と反対側)の面から、ワッシャー変形部分の陽極体から最も離れた上側部分までの鉛直方向の距離を表す。
【0018】
本発明では、上述の通り、陽極リード線のワッシャーへの挿入時の変形率が30%より大きく90%以下となるように陽極リード線の外径とワッシャーの孔の径の大きさの関係を設定する。挿入時の変形率が30%以下の場合は陽極リード線とワッシャーの密着性が悪く、半導体層形成用溶液等の這い上がりの抑制が不十分となる。一方、変形率が90%を超えると、変形率が0〜25%となるように変形部分を除去したときにワッシャーと陽極リード線との接触面積が小さくなり、溶液等の這い上がりの抑制が不十分となる。
上記30%〜90%のワッシャーの変形率を、0〜25%に調整するための方法は特に限定されないが、例えば、(1)変形部分が規定の範囲になるように金属刃で切断する方法、(2)変形部分が規定の範囲になるようにレーザー光で焼却して除去する方法が挙げられる。
【0019】
上述のようにワッシャーの変形率を調整し、誘電体酸化皮膜層、半導体層及び電極層を順次積層して製造されるコンデンサ素子を樹脂封口して得られる固体電解コンデンサは、
リード線とフレームとの溶接時に干渉が生じ難く、漏れ電流特性の劣化が少なく、信頼性も良好であり、従来よりも一層の小型化が可能となる。
【0020】
本発明で好ましく使用される陽極体は、例えば陽極リード線を成形体面に植設した導電体の粉末の成形体を焼結して作製される焼結体である。成形圧力(例えば、0.1〜50Kgf/mm2)と焼結条件(例えば、温度800〜1800℃、時間1分〜10時間)を適宜選択することにより焼結体の表面積を大きくすることができる。焼結後に焼結体の表面積をさらに増加させるために、焼結体表面を化学的及び/または電気的にエッチング処理を行ってもよい。
【0021】
陽極体の形状は特に限定されず、通常は柱状形状のものが用いられる。角柱形状の陽極体を用いる場合には、各隅のうち少なくとも1隅を面取りするか、または球面状にRをとって、作製される固体電解コンデンサの漏れ電流(LC)値の平均値を良好にしておいてもよい。また、成形時に金型から成形体が脱離しやすいようにテーパを設けてもよい。この場合は作製される陽極体の形状は略角錐台状となる。
【0022】
本発明においては、陽極リード線は、例えば成形体に植設してもよく、あるいは焼結体を作製した後に接続してもよい。陽極リード線の材質としては、タンタル、アルミニウム、ニオブ、チタン、これら弁作用金属を主成分とする合金が使用される。また、陽極リード線の一部を、炭化、燐化、ホウ化、窒化、硫化または酸化から選ばれた少なくとも1種の処理を行ってから使用してもよい。
なお、本発明において主成分とは、50質量%以上含まれる成分である。
【0023】
陽極リード線を成形体に植設する場合、陽極リード線の焼結体内の深さは焼結体の1/3以上、好ましくは2/3以上とすると焼結体の強度が維持でき、後述するコンデンサ素子の外装封口時の熱的、物理的な封止応力に耐えることができるために好ましい。
【0024】
焼結体の材質としては、タンタル、アルミニウム、ニオブ、チタン、これら弁作用金属を主成分とする合金または酸化ニオブであるか、または前記弁作用金属、合金及び導電性酸化物から選択された2種以上の混合物が挙げられる。
【0025】
焼結体の作製に用いる弁作用金属または導電性酸化物の形状は、通常粉体である。
前記弁作用金属または前記合金または導電性化合物の粉体、あるいは前記焼結体などの一部を、炭化、燐化、ホウ素化、窒化、硫化または酸化から選ばれる少なくとも1種の処理を行ってから使用してもよい。
【0026】
本発明においてワッシャーとして使用される絶縁材料としては、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アリルエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、エステル樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、アミド樹脂、イミドアミド樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコン樹脂等の樹脂から作製した板が挙げられる。ワッシャーの大きさは、陽極体に誘電体酸化皮膜及び半導体層を形成する際の半導体層形成用溶液等の這い上がりが防止できる大きさであればよい。半導体形成時の溶液の這い上がりを防止するためには、ワッシャーは大きい方が効果的である。ただし、ワッシャーの大きさの上限は、最終的なコンデンサの形状を考慮すると、コンデンサとして外装可能な範囲内である。
【0027】
ワッシャーには、陽極リード線を通すための孔を設ける。リード線が円形線状の場合にはリードの径に対応する円形の孔を設け、リード断面が矩形状の板の場合には、断面の矩形に対応する矩形の孔を設ける。ワッシャーの孔にリード線を差し込み、前述の方法でワッシャーを設置する。陽極体とワッシャーとの間にできるだけ隙間を設けない方がコンデンサの小型化には好ましい。ただし、適当な隙間があるとその部分に半導体層が形成され、作製したコンデンサの耐湿性能が増す。
【0028】
陽極体とワッシャーとの隙間は0.2mm以下が好ましく、0.03〜0.1mmがさらに好ましい。隙間が0.2mmを超えると樹脂封口時に溶融樹脂が進入し、漏れ電流特性の悪化の原因となることがある。
【0029】
本発明の固体電解コンデンサは、前記陽極リード線を備えたワッシャーを設けた誘電体酸化皮膜層を有する陽極体に、半導体層、電極層を順次積層して陰極部を形成した固体電解コンデンサ素子の陽極リード線の一部と陰極部の一部を、陽極端子と陰極端子に各々接続して前記陰陽両端子の一部を残して外装封口して作製される。
【0030】
本発明においては、陽極体及び陽極リード線の一部の表面に誘電体酸化皮膜層を形成させる。誘電体酸化皮膜層としては、Ta25、Al23、TiO2、Nb25等の金属酸化物から選ばれる少なくとも1つを主成分とする誘電体層が挙げられる。該誘電体層は、前記陽極基体を電解液中で化成することによって得ることができる。また、金属酸化物から選ばれた少なくとも1つを主成分とする誘電体層とセラミックコンデンサで使用される誘電体層を混合した誘電体層であってもよい(国際公開第00/75943号パンフレット)。
【0031】
本発明の誘電体層上に形成される半導体層の代表例として、有機半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
有機半導体としては、ドーパントをドープした導電性高分子を主成分とした有機半導体が挙げられる。ドーパントは特に限定されず、公知のドーパントを使用することができる。
【0032】
導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、及びこれらの置換誘導体などが挙げられる。中でもポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの置換誘導体(例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)等)が好ましい。
【0033】
前述した半導体層は、化学重合法、電解重合手法、あるいはこれらの方法を組み合わせて形成される。
【0034】
本発明においては、半導体層を形成する際に生じる誘電体層の微小な欠陥を修復するために、再化成を行ってもよい。また、半導体層形成と再化成を複数回繰り返してもよいし、繰り返し時の半導体層形成条件と再化成条件を変更してもよい。
【0035】
本発明では、形成した半導体層の上に電極層を設ける。電極層は、例えば、導電ペーストの固化、メッキ、金属蒸着、耐熱性の導電樹脂フイルムの付着等により形成することができる。導電ペーストとしては、銀ペースト、銅ペースト、アルミニウムペースト、カーボンペースト、ニッケルペースト等が好ましい。導電ペーストを適用した後は空気中に放置するか、または加熱して固化させる。
【0036】
具体的には、例えば形成した半導体層上にカーボンペースト、銀ペーストを順次積層して電極層が形成される。このようにして陽極体に電極層まで積層して固体電解コンデンサ素子が作製される。
【0037】
以上のような構成の本発明の固体電解コンデンサ素子は、例えば、樹脂モールドなどにより外装して各種用途の固体電解コンデンサ製品とすることができる。
【0038】
樹脂モールド外装について具体的に説明すると、例えば、本発明のコンデンサは、前記コンデンサ素子の電極層の一部を、別途用意した一対の対向して配置された先端部を有するリードフレームの一方の先端部に載置し、さらに陽極リード線の一部を前記リードフレームの他方の先端部に接続する。ついで前者(リードフレームの一方の先端部)は、導電ペーストの固化で、後者(リードフレームの他方の先端部)は、溶接で各々電気的・機械的に接合した後、前記リードフレームの先端部の一部を残して樹脂封口し、樹脂封口外の所定部でリードフレームを切断折り曲げ加工して作製される(なお、リードフレームが樹脂封口の下面にあってリードフレームの下面または下面と側面のみを残して封口されている場合は、切断加工のみでもよい)。
【0039】
樹脂モールド外装に使用される樹脂の種類としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、エステル樹脂、アリルエステル樹脂等コンデンサの封止に使用される公知の樹脂が採用できる。樹脂封口するためにはトランスファーマシンが好んで使用される。
【0040】
このように作製された固体電解コンデンサは、電極層形成時や外装時の熱的及び/または物理的な誘電体層の劣化を修復するために、エージング処理を行ってもよい。
【0041】
本発明によって製造される固体電解コンデンサは、例えば、中央演算回路や電源回路等の小型高容量のコンデンサを用いる回路に好ましく用いることができ、これらの回路は、パソコン、カメラ、ゲーム機、AV機器、携帯電話等の各種デジタル機器や、各種電源等の電子機器に利用可能である。本発明で製造された固体電解コンデンサは、容量が大きく、高信頼性があるため、顧客の満足度の高い電子回路及び電子機器を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の具体例についてさらに詳細に説明するが、以下の例により本発明は限定されるものではない。
【0043】
実施例1:
市販の20万CV/gのタンタル粉を成形・焼結して、大きさ0.43±0.02×0.53±0.02×0.80±0.02mm(0.43×0.53面に垂直に0.15mmφのタンタル線が内部に0.6mm、外部に8.0mm植設されている)の焼結体を複数個作製し、陽極体とした。別途用意した厚さ0.10±0.01mm、外径0.40mmの円盤状で、内径0.13mmの孔を有するテトラフルオロエチレン製のワッシャーの孔にリード線を挿入し植設面に隙間を空けずに設置した。このときのワッシャーは、陽極リード線の周りがずり上がるように変形し、変形率は約50%であった。挿入後、ワッシャーの変形部分をタングステン製金属刃で切断した。このとき変形部分の高さを3〜20μm以内に設定し変形率を2〜23%の範囲内とした。その後、定法に従って、燐酸化成による誘電体層、3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーを電解重合した半導体層、カーボンペースト及び銀ペースト塗布による導電体層を陽極体に順次形成し固体電解コンデンサ素子を複数個作製した。このときのコンデンサ素子の半導体層と導電体層の厚さは、合計35±5μmであり、リード線植設面には導電体層は存在しない。
【0044】
別途、下面電極用の厚さ0.05mmのリードフレームを用意した。リードフレームの陽極側には、幅0.63mm、先端から0.2mmの位置に左右対称に0.1×0.1mmの凹部を設け、さらに、先端左右対称に設けた2箇所の0.2×0.2mmの出っ張りを90度折り曲げ、続いて先端0.2mmの位置を長手方向と平行に90度折り曲げた補助部を有するリード線溶接部(陽極端子の側面)を設けている。前記曲げによって陰陽端子間隔は0.3mmとなる。
リードフレームの陰極側の幅は0.63mmであり、先端から0.70mmの左右対照の位置に0.1×0.1mmの出っ張りをフレーム幅端から0.03mm離して90度折り曲げた、高さ0.17mm、幅0.1mmのガイド部が存在する。また、先端から0.70mmまで、コンデンサ素子が載置される裏面はハーフエッチングされている。
陽極体の陽極リード線植設面から0.55mmの位置でリード線を切断し、別途用意した厚さ100μmの銅合金製リードフレームの段差加工面に、1個の素子を方向を揃えて隙間無く、陽極体の0.53×0.80mm面を載置し、陰極部は銀ペーストで固化し、陽極リード線は先端0.5mmφの銅合金溶接棒による抵抗溶接で接続した。溶接位置は、フレームの0.8mm隙間の陽極端から0.6mmとした。
その後、トランスファー成形によりエポキシ樹脂で外装し、長手方向から樹脂外に出たフレームを所定位置で切断し、定格電圧6.3V、定格容量10μFの大きさ1.6×0.8×0.8mmのチップ状固体電解コンデンサを作製した。
【0045】
比較例1:
実施例1で変形部分を切断せずにコンデンサを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてチップ状固体電解コンデンサを作製した。
実施例及び比較例と同じ方法で作製した各々640個のフレーム付素子について漏れ電流(LC)を測定した。各素子の漏れ電流値は、各定格電圧印加した30秒後の値である。表1に、漏れ電流が、下記式で表される基準値(0.1CV)の値以下であるコンデンサの個数を示す。
基準値(μA)=定数(μA/V・μF)×定格容量(μF)×定格電圧(V)
定数=0.1μA/V・μF、定格容量=10μF、定格電圧=6.3V
【0046】
【表1】
【0047】
表1から、ワッシャーの変形率を本発明で規定する範囲に設定した実施例1では、ワッシャーの変形率が本発明の規定範囲外である比較例1に比べ、リード線を植設面から近い位置で切断してリードフレームに溶接したにもかかわらず、漏れ電流値が良好になっていることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1 陽極体
2 陽極リード線
3 ワッシャー
4 孔
図1
図2
図3