(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、重ね合わされた板部材からなるワークの接合には、ワークを一対の溶接電極で挟み加圧力を与えながら、両電極間に大電流を一定時間流し、これにより接合部における発熱によりナゲットを形成することによって板部材を接合するダイレクトスポット溶接やシリーズ溶接が行われる。
【0003】
一方、自動車車体等の構造体における板部材のスポット溶接においては、ダイレクトスポット溶接では、一方の溶接電極を配置するスペースがなく、また、シリーズ溶接ではバック電極の配置スペースがない場合がある。
【0004】
この対策として、板部材が重ね合わされたワークの一方の側からのみ溶接することが可能な、片側抵抗スポット溶接が行われる。
【0005】
この片側抵抗スポット溶接の一例を、
図9を参照して説明する。第1板部材101と第2板部材102が重ね合わされたワーク100を片側抵抗スポット溶接するにあたり、第2板部材102にアース電極106を通電可能に接触させる一方、第1板部材101の表面に溶接電極105を当接して加圧力を付与すると、第1板部材101と第2板部材102が接合点aで通電可能に接触して、溶接電極105から第1板部材101、接合点a、第2板部材102を介してアース電極106に至る溶接通電経路Xが形成される。
【0006】
この第1板部材101と第2板部材102が接合点aにおいて通電可能に接触した状態で、溶接電流iを溶接電極105からアース電極106に流す。これにより溶接電流iの一部iaが溶接通電経路Xを流れることにより、第1板部材101と第2板部材102と接合点aが加熱されて溶融し、ナゲットNが形成される。また、溶接電極105からアース電極106に流れる溶接電流iの一部ibは、接合点aを通らず、例えば第1板部材101から既に溶接した接合点bに分流して第2板部材102からアース電極106に至る通電経路X1を流れる。
【0007】
このような片側抵抗スポット溶接では、第2板部材102に通電可能に当接させるアース電極106として、一般に第2板部材102との間の通電抵抗による発熱を抑制するために第2板部材102との接触面積が比較的大きい銅板が使用される。しかし、実際には鋼板からなる第2板部材102と硬度の高い銅板によって形成されるアース電極106とを当接すると、第2板部材102の表面形状や第2板部材102に対するアース電極106の接触角度等のバラツキに起因して第2板部材102とアース電極106とが局部的に接触する点接触状態となり、その接触部分における電流密度が高くなり該部が発熱して第2板部材102やアース電極106が局部的に溶損することがある。
【0008】
また、
図10に
図9と対応する部位に同一符号を付して該部の詳細な説明は省略するが、アース電極107として通常の溶接電極を使用すると、アース電極107と第2板部材102との接触面積が小さく、その接触部分における電流密度が高くなり、該部が発熱して第2板部材102が溶損すると共にアース電極107の摩耗が促進される。
【0009】
更に、
図11に
図9と対応する部位に同一符号を付して該部の詳細な説明は省略するが、第2板部材102との接触面積を確保するために、アース電極108を変形可能な銅線で編まれた銅網線によって構成すると、アース電極108と第2板部材102との接触面積が拡大して電流密度が減少して第2板部材102の溶損を抑制することができる。しかし、使用によりアース電極108の変形や摩耗が多く、アース電極108が変形や摩耗するとアース電極108と第2板部材102の接触面積が小さくなり電流密度が大きくなる。
【0010】
また、アース電極108を形成する銅素線が破損すると、破損した銅素線が局部的に第2板部材102に接触して加熱されて溶融し、溶融した銅素線が第2板部材102等に付着してワークの品質低下が懸念される。
【0011】
これらの対策として、ワークとの接触面積を確保するアース接続装置が特許文献1によって提案されている。このアース接続装置の概要を
図12を参照して説明する。
【0012】
アース接続装置110は、ロボットアーム111に取付けたシリンダユニット112と、このシリンダユニット112から下方に延在するピストンロッド113にナット114により取付けたブラケット115と、このブラケット115の左右部から吊下した各クッションユニット120と、これらの各クッションユニット120の下端に取付けた一対のL字金具116と、これらのL字金具116間に掛け渡されて両端がボルト止めした湾曲重ね板ばね状のアース電極130とからなる。アース電極130は、薄い導電材帯板を複数枚積層し、これを予め弓状に曲げて湾曲重ね板ばね状に形成される。アース電極130にはアースケーブル131が接続される。
【0013】
クッションユニット120は、ブラケット115に上から挿入した鍔付きブッシュ121と、このブッシュ121に上下摺動可能に挿入したロッド122と、このロッド122の上端に一体形成した雄ねじ部123と、この雄ねじ部123に嵌合したストッパ124と、このストッパ124をロッド122に固定するナット125と、ロッド122を囲うように配置したスプリング126と、このスプリング126の下端を支えるリテーナ127と、このリテーナ127の下面を受けるべくL字金具116に嵌合した絶縁ブッシュ128と、この絶縁ブッシュ128を介してL字金具116をロッド122に固定するボルト129とからなる。
【0014】
この構成によりL字金具116にスプリング126の圧縮力を越える上向き力が加わったときには、スプリング126が縮み、ブッシュ121に対してロッド122が上方へ摺動してストッパ124及びナット125がブッシュ121から浮き上がることにより、L字金具116がブラケット115に近づくように構成される。
【0015】
そして、ロボットアーム111により、ワークの表面にアース電極130を臨ませ、シリンダユニット112によりアース電極130をワークに押し付けると、湾曲した板ばね状のアース電極130が、ワークの表面形状に倣い変形し、ワークとアース電極130との接触面積が確保でき、アース電極130とワークとの間の接触抵抗、即ち通電抵抗を減らすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献1によると、アース接続装置110が、ロボットアーム111に取り付けられたシリンダユニット112と、シリンダユニット112から延在するピストンロッド113にブラケット115及びクッションユニット120を介在して支持された湾曲重ね板ばね状のアース電極130からなり、ロボットアーム111によりワークの表面にアース電極130を臨ませ、シリンダユニット112によりアース電極130をワークに押し付けることでアース電極130がワークの表面形状に倣い変形してワークとアース電極130との接触面積が確保できる。
【0018】
しかし、両端がそれぞれ各L字状金具116を介して各クッションユニット120に掛け渡された湾曲重ね板ばね状のアース電極130をワークの表面に押し付けてアース電極130に変形を付与して接触面積を確保することから、アース電極130が長尺で大きく、かつアース接続装置110の作動に要する占有スペースが大きくなりアース電極130が接触するワーク及びこのワークの形状が制限される。
【0019】
更に、ワークの表面に押し付けて湾曲する板ばね状のアース電極130をワークに倣って変形させて接触面積を確保することから、そのアース電極130の押し付けに大きな荷重を要する。また、ワークに対するアーム電極130の接触角度、特にアーム電極130の幅方向の接触角度のバラツキ等に起因してワークにアース電極130の側縁のみが局部的に接する、いわゆる線接触状態となり、その接触部分における電流密度が高くなり、該部が発熱してワークやアース電極130が局部的に溶損することが懸念される。
【0020】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、占有スペースが小さく安定したワークとの接触が確保でき局部的な溶損等が回避できるアース電極装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成する請求項
1に記載のアース電極装置の発明は、アース電極をワークに通電可能に接触させるアース電極装置において、ワークに対向配置されるベース部に支持された軸部と、該軸部に基部が揺動自在に連結される揺動軸部と、該揺動軸部に揺動自在に連結される基部及び該基部に突出形成された第1シャンク、第2シャンク、第3シャンクを備えた揺動部と、上記第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクの各先端にそれぞれ装着される第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極とを備え、上記ワークとベース部との相対的接近移動により上記第1アース電極、第2アース電極及び第3アース電極が共にワークに接触することを特徴とする。
【0027】
これによると、ベース部に支持された軸部に、揺動軸部を揺動自在に連結し、この揺動軸に、第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極を装着する第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクを備えた揺動部が揺動自在に連結する簡単な構成でかつコンパクトにアース電極装置が構成され、アース電極装置の占有スペースが小さく構成できると共に、ワークに倣って揺動部が揺動軸部の揺動を伴って揺動することで、軸部に拘束されることなくワークの表面の凹凸や傾斜等に拘わらず第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極が均等な接触圧でワークに接触する。これにより、電流はワークと第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極との各接触点に分流して第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極に流れ、各接触点における電流密度の低減が得られて各接触点における通電抵抗による発熱が抑制され、ワーク及び第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の溶損等が回避されて溶接品質の向上が得られ、かつ第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の摩耗が抑制される。
【0028】
請求項
2の発明は、請求項
1のアース電極装置において、上記軸部は、上記ベース部に基端が取り付けられる軸状の軸部本体及び該軸部本体の先端に形成された球面を有する球状部を備え、上記揺動軸部は、基部に延設され先端が開口して上記球状部の球面に摺動自在に嵌合する球状凹面が形成されソケット部と、該基部に上記ソケット部と離反する方向に突出形成された軸状で先端に球面を有する球状部を備えた軸部本体とを備え、揺動部は、基部に延設され先端が開口して上記球状部の球面に摺動自在に嵌合する球状凹面が形成されソケット部と、該基部に上記ソケット部と離反する方向に突出形成される上記第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクとを備え、該第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクの先端にそれぞれ上記第1アース電極、第2アース電極及び第3アース電極が着脱可能に装着されることを特徴とする。
【0029】
これによると、軸部の球状部に、球状部を有する揺動軸部のソケット部を揺動自在に連結し、揺動軸部の球状部に第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極を装着する第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクを備えた揺動部のソケット部を揺動自在に連結することで、軸部に拘束されることなくワークに倣って揺動部のソケット部が球状部を摺動及び揺動して、ワークに第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の3つアース電極が安定した状態で接触し、電流はワークと第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極との各接触点に分流して第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極に流れ各接触点における電流密度の低減が得られ、各接触点における通電抵抗による発熱が抑制されてワーク及び第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の溶損等が回避される。
【0030】
また、第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクの先端にそれぞれ第1アース電極、第2アース電極及び第3アース電極が着脱可能に装着することから、各アース電極をそれぞれの摩耗や破損に応じて他のアース電極に影響されることなく交換することができメンテナンスの簡素化及びランニングコストの抑制が得られる。
【0031】
請求項
3の発明は、請求項
1または2のアース電極装置において、上記揺動部を上記軸部に対する予め設定された姿勢位置に付勢付与する揺動部保持手段を備えたことを特徴とする。
【0032】
これによると、揺動部を上記軸部に対する予め設定された姿勢位置に付勢付与する揺動部保持手段を備えることで、より適切にワークに倣って揺動部のソケット部が球状部を摺動及び揺動して第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極を均等な接触圧でワークに接触させることができる。
【0033】
請求項
4の発明は、請求項
1〜3のアース電極装置において、上記各シャンクの先端に円錐テーパ状のアース電極装着部を有し、上記各アース電極は、それぞれ半球面状の頂部及び円筒状の基部が一体形成されると共に上記電極装着部に嵌合可能なテーパ孔が形成された有底筒状であることを特徴とする。
【0034】
これによると、各アース電極が既存の溶接電極によって構成でき、メンテナンスの簡素化及びランニングコストの抑制が得られる。
【0035】
請求項
5の発明は、請求項
4のアース電極装置において、上記各アース電極のテーパ孔をそれぞれ各シャンクのアース電極装着部に嵌合装着することにより該テーパ孔の底部とシャンクの先端との間に冷却水溜め部が形成され、各シャンクに上記冷却水溜め部に冷却水を供給する冷却通路を有することを特徴とする。
【0036】
これによると、各アース電極が循環する冷却水で冷却され、より確実にワーク及び第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の溶損が回避されると共に、ワークと各アース電極との溶着の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、ベース部に支持された軸部に、或いは揺動軸部を介して軸部に、第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極を装着する第1シャンク、第2シャンク及び第3シャンクを備えた揺動部が揺動自在に連結する簡単な構成でかつコンパクトにアース電極装置が構成でき、かつワークの表面の凹凸や傾斜等に拘わらずワークに倣って揺動部が揺動して第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極が均等な接触圧でワークに接触することで、電流がワークと第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極との各接触点に分流して第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極に流れ各接触点における電流密度の低減が得られ、各接触点における通電抵抗による発熱が抑制されてワーク及び各第1アース電極、第2アース電極、第3アース電極の溶損等が回避される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明のアース電極装置の実施の形態を片側抵抗スポット溶接装置に適用した場合を例に説明する。
【0040】
(第1実施の形態)
本発明の第1実施の形態を
図1乃至
図4を参照して説明する。
図1はアース電極装置の概要を示す説明図であり、アース電極装置10は、ロボットアーム1に取り付けられたシリンダユニット2から延在するシリンダロッド3の先端にナット4により取り付けられたベース部5に取り付けられる。
【0041】
アース電極装置10は、ベース部5に電気絶縁が施されて取り付けられる軸部11と、この軸部11に揺動自在に連結される揺動部20と、揺動部20に形成された第1シャンク25A、第2シャンク25B及び第3シャンク25Cに着脱可能に装着される第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cとを備える。
【0042】
図2は、アース電極装置10の要部となる軸部11、揺動部20、及び各アース電極31A、31B、31Cの分解斜視図であり、
図3(a)は
図2のa矢視図、(b)は同図(a)のb−b線断面図である。
【0043】
軸部11は、ベース部5に基端が取り付けられる軸状の軸部本体12と、軸部本体12の先端に一体形成されたボール状の球面14を有する球状部13とを有する。更に、その軸部11の中心軸11Lに沿って軸部本体12の基端から球状部13の頂端に連通する冷却通路18が形成され、球面14の頂端に冷却通路18の開口18aが開口する。なお、冷却通路18の基端はベース部5を介して図示しない冷却液供給源に接続される。
【0044】
更に、軸部本体12にアースケーブル16が接続される。
【0045】
揺動部20は、その中心軸20Lを中心とする円板状の基部21を備え、基部21の一方の面21aに中心軸20Lに沿って延在する筒状で軸部11の球状部13を揺動自在に収容すると共に先端に開口部24を有するほぼ半球面状の球状凹面23が形成されたソケット部22が形成される。
【0046】
円板状の基部21の他方の面21b、即ちソケット部22と反対側に中心軸20Lを中心に等間隔で互いに離間すると共に中心軸20Lと平行にソケット部22と離反する方向に延在する円筒状の第1シャンク25A、第2シャンク25B、第3シャンク25Cの3つのシャンクが突出形成される。
【0047】
各シャンク25A、25B、25Cは同一形状であって、それぞれ基端が本体21に連続すると共に外周が先端25a側に移行する従って次第に縮径するテーパ状の電極装着部25bが形成される。
【0048】
ソケット部22の底部に中心軸20Lと同軸上に開口28aを有し、本体21内で分岐して更に各シャンク25A、25B、25C内を貫通して各シャンク25A、25B、25Cの各先端25aにそれぞれ開口28bを有する冷却通路28が形成される。
【0049】
この軸部11と揺動部20は、軸部11の球状部13をソケット部22の開口部24から球状凹部23内に圧入乃至嵌合して揺動部20に組み込む。更に、必要に応じてソケット部22の開口部24をかしめ成形して軸部11に揺動部20を連結する。これにより、球状部13の球面14とソケット部22の球面凹部23が球状部13の中心Oを中心として摺動自在に嵌合する。また、軸部11に形成され冷却通路18の開口18aと揺動部20に形成された冷却通路28の開口28aは互いに対向して連通する。
【0050】
揺動部20の第1シャンク25A、第2シャンク25B、第3シャンク25Cにそれぞれ第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cを着脱可能に装着する。
【0051】
第1アース電極31Aは、半球面状の頂部32a及び基部33aが一体形成され、かつ内部に頂部32aに向かうほど径が細くなるテーパ穴34aが形成された有底筒状乃至キャップ状に形成される。このテーパ穴34aが第1シャンク25Aの電極装着部25bに圧入嵌合して第1シャンク25Aに第1アース電極31Aが装着される。この圧入嵌合状態においてテーパ穴34aの底部と第1シャンク25Aの先端25aは非接触状態でテーパ穴34aの底部と第1シャンク25Aの先端25aとによって冷却通路28に連通する冷却水溜め部35aが形成される。
【0052】
同様に第2アース電極31Bは、半球面状の頂部32b及び円筒状の基部33bが一体形成され、かつテーパ穴34bが形成された有底筒状乃至キャップ状に形成される。このテーパ穴34bが第2シャンク25Bの電極装着部25bに圧入嵌合して第2シャンク25Bに第2アース電極31Bが装着される。
【0053】
また、第3アース電極31Cは、半球面状の頂部32c及び円筒状の基部33cが一体形成され、かつテーパ穴34cが形成された有底筒状乃至キャップ状に形成される。このテーパ穴34cが第3シャンク25Cの電極装着部25bに圧入嵌合して第3シャンク35Cに第3アース電極31Cが装着される。なお、第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cは同一構成であり、説明を省略するが第2アース電極31B、第3アース電極31Cにおいても冷却通路28に連通する冷却水溜め部35b、35cが形成される。
【0054】
また、第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cは通常使用される溶接用電極チップによって構成できる。
【0055】
次に、
図4を参照してアース電極装置10の作用を説明する。
【0056】
例えば
図4(a)に示す第1板部材101と第2板部材102が重ね合わされたワーク100を片側抵抗スポット溶接するにあたり、ロボットアーム1によりアース電極装置10を移動して、第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cの各頂部32a、32b、32cを第2板部材102の予め設定されたアース電極接触部に対峙する。
【0057】
そして、シリンダユニット2によりベース部5を第2板部材102に相対的に接近移動させ、アース電極装置10を第2板部材102に接近移動させて第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cの各頂部32a、32b、32cを第2板部材102に圧接する。
【0058】
この第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの第2板部材102への圧接に伴い、各アース電極31A、31B、31Cの各頂部32a、32b、32cに第2板部材102からの反力が作用する。
【0059】
ここで、第2板部材102の表面形状の形状、例えば凹凸等に起因して各アース電極31A、31B、31Cのそれぞれの頂部32a、32b、32cに作用する第2板部材102からの反力にバラツキがある場合には、各アース電極31A、31B、31Cの頂部32a、32a、32bに作用する反力の不均等に応じて各シャンク25A、25B、25Cを介して揺動部20に回転力が付与され、各アース電極31A、31B、31Cに作用する反力が均一になるように揺動自在に嵌合保持された球状部13の球面14に沿って球状凹面23が摺動して揺動部20が球状部13の中心Oを中心に揺動する。即ち、第2板部材102の表面形状に倣って揺動部20が球状部13の中心Oを中心に揺動して各アース電極31A、31B、31Cの頂部32a、32b、32cが均等な押圧力で第2板部材102に通電可能に接触する。
【0060】
各アース電極31A、31B、31Cが第2板部材102に接触した状態で、冷却水供給源から軸部11の冷却通路18及び揺動部20の冷却通路28を経由して各シャンク25A、25B、25Cの先端25a、25b、25cと各アース電極31A、31B、31Cのテーパ孔34a、34b、34cの底部とによって形成された冷却水溜め部35a、35b、35cに冷却水を循環供給して第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの各アース電極を冷却する。
【0061】
一方、第1板部材101の予め設定された打点位置に溶接電極41を当接して加圧力を付与し、この溶接電極41により加圧付与された第1板部材101と第2板部材102が接合部aで通電可能に接触して、溶接電極41から第1板部材101、第1板部材101と第2板部材102との接合点a、第2板部材102、第2板部材102と第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cがそれぞれ接触する接触点を経て第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cに至る溶接通電経路Xが形成される。
【0062】
この第1板部材101と第2板部材102が接合点aにおいて通電可能に接触し、第2板部材102と第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cが通電可能に接触した状態で、溶接電源からの溶接電流iを溶接電極41からアース電極装置10のアースケーブル16に流す。そうすると、溶接電流iの一部iaは第1板部材101と第2板部材102の接合点a、第2板部材102、第2板部材102と各アース電極31A、31B、31Cの接触点を通る溶接通電経路Xを流れることにより、第1板部材101と第2板部材102の接合点aが加熱されて溶融し、ナゲットNが形成される。
【0063】
また、溶接電極41から第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cに流れる溶接電流iの一部ibは、第1板部材101と第2板部材102の接合点aを通らず、例えば第1板部材101から既に溶接した接合点bに分流して第2板部材102から各接触点を経て第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cに形成される通電経路X1を経由して流れる。この分流電流ibは接合点aの発熱に殆ど寄与しない無効分流である。
【0064】
また、
図4(b)に示すように第1板部材101と第2板部材102が重ね合わされたワーク100を片側抵抗スポット溶接するにあたり第2板部材102のアース電極接触部がシリンダユニット2の延在方向、換言すると軸部11の中心軸11Lに対して傾斜した場合においては、ロボットアーム1により、アース電極装置10を移動して第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cの各頂部32a、32b、32cが第2板部材102のアース電極接触部に対峙する。
【0065】
そして、シリンダユニット2によりベース部5を介してアース電極装置10を第2板部材102に相対的に接近移動させると、アース電極接触部の傾斜等に伴って第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cのいずれかの頂部32a、32b、32c、例えば第1アース電極31Aの頂部32aが接触し、更にアース電極装置10を第2板部材102に接近させると、第2板部材102からの反力が第1アース電極31Aに作用する。
【0066】
第1アース電極31Aの頂部32aに作用する第2板部材102からの反力により揺動部20の中心軸20Lに対して偏倚した反力が作用し、第1アース電極31Aの頂部32aが第2板部材102に圧接した状態を維持しつつ揺動自在に嵌合保持された球状部13の球面14に沿って球状凹面23が摺動して揺動部20が球状部13の中心Oを中心に揺動して第2アース電極31B、第3アース電極31Cの各頂部32b、32cが第2板部材102に当接する。
【0067】
この第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの第2板部材102への圧接に伴い、各アース電極31A、31B、31Cの各頂部32a、32b、32cに第2板部材102からの反力が作用する。各アース電極31A、31B、31Cの頂部32a、32b、32cに作用する反力の不均等に応じて各シャンク25A、25B、25Cを介して揺動部20が、各アース電極31A、31B、31Cに作用する反力が均一になるように揺動自在に嵌合保持された球状部13の球面14に沿って球状凹面23が摺動して揺動部20が球状部13の中心Oを中心に揺動する。
【0068】
即ち、第2板部材102に倣って揺動部20が球状部13の中心Oを中心に揺動して各アース電極31A、31B、31Cの頂部32a、32b、32cが均等な接触圧で第2板部材102に通電可能に接触する。
【0069】
各アース電極31A、31B、31Cが第2板部材102に接触した状態で、冷却水供給源から軸部11の冷却通路18及び揺動部20の冷却通路28を経由して各シャンク25A、25B、25Cの先端25a、25b、25cと各アース電極31A、31B、31Cのテーパ孔34a、34b、34cとによって形成された冷却水溜め部に冷却水を循環供給して第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの各アース電極を冷却する。
【0070】
一方、第1板部材101の予め設定された打点位置に溶接電極41を当接して加圧力を付与し、この溶接電極41により加圧付与された第1板部材101と第2板部材102が接合部aで通電可能に接触して、溶接電極41から第1板部材101、第1板部材101と第2板部材102との接合点a、第2板部材102、第2板部材102と第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cがそれぞれ接触する接触点を経て第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cに至る溶接通電経路Xが形成される。
【0071】
この第1板部材101と第2板部材102が接合点aにおいて通電可能に接触し、第2板部材102と第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cが接触点において通電可能に接触した状態で、溶接電源からの溶接電流iを溶接電極41からアース電極装置10のアースケーブル16に流す。そうすると、溶接電流iの一部iaは第1板部材101と第2板部材102の接合点a、第2板部材102、第2板部材102と各アース電極31A、31B、31Cの接触点を通る溶接通電経路Xを流れることにより、第1板部材101と第2板部材102の接合点aが加熱されて溶融し、ナゲットNが形成される。
【0072】
また、溶接電極41から第1アース電極31A、第2アース電極31B及び第3アース電極31Cに流れる溶接電流iの一部ibは、第1板部材101と第2板部材102の接合点aを通らず、例えば第1板部材101から既に溶接した接合点bに分流して第2板部材102から各接触点を経て第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cに形成される通電経路X1を経由して流れる。
【0073】
従って、シリンダユニット2に支持された軸部11の球状部13に、第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cを装着する第1シャンク25A、第2シャンク25B及び第3シャンク25Cを備えた揺動部20を揺動自在に連結する簡単な構成でかつコンパクトにアース電極装置10が構成され、アース電極装置10の占有スペースを小さく構成できる。更に、第2板部材102のアース電極接触部102aの表面の凹凸や傾斜等に拘わらず、アース電極接触部102aに倣って揺動部20が揺動して第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの各頂部32a、32b、32cが均等な接触圧で第2板部材102に接触することから、第2板部材102に第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの3つアース電極の各頂部32a、32b、32cが安定した状態で接触し、第2板部材102と各アース電極31A、31B、31Cとの3箇所の接触点で接触して接触点の接触面積の合計面積となる大きな第2板部材102とアース電極との接触面積が確保できる。
【0074】
そして、溶接電流iは各接触点に分流して第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cに流れ各接触点における電流密度の低減が得られ、各接触点における通電抵抗による発熱が抑制され、かつ各アース電極31A、31B、31Cが循環する冷却水で冷却されることと相俟って第2板部材102及び第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの溶損が回避される。
【0075】
また、第2板部材102と各アース電極31A、31B,31Cとの溶着の発生が抑制されて、第2板部材102等の溶接部材の破損が回避されて溶接品質の向上が得られ、かつ各アース電極31A、31B、31Cの破損等が防止できる。
【0076】
更に、第1アース電極31A、第2アース電極31B、第3アース電極31Cの発熱が抑制されて、各アース電極31A、31B、31Cの摩耗が抑制される。
【0077】
また、各アース電極31A、31B、31Cをそれぞれ摩耗や破損に応じて他のアース電極に影響されることなく、単独で交換することができ、かつ既存の溶接電極によって構成できることと相俟ってメンテナンスの簡素化及びランニングコストの抑制が得られる。
【0078】
(第2実施の形態)
本発明の第2実施の形態を
図5乃至
図8を参照して説明する。
図5はアース電極装置50の概要を示す説明図であり、
図6(a)は
図5のc矢視図、(b)は同図(a)のd−d線断面図である。
【0079】
アース電極装置50は、第1実施の形態と同様にロボットアームに取り付けられたシリンダユニットから延在するシリンダロッドの先端に取り付けられたベース部5に取り付けられる。
【0080】
アース電極装置50は、ベース部5に電気絶縁が施されて取り付けられる取付基部51、取付基部51に取り付けられる軸部61と、この軸部61に揺動自在に連結される揺動軸部70、揺動軸部70に揺動自在に連結される揺動部80と、揺動部80に形成された第1シャンク85A、第2シャンク85B及び第3シャンク85Cに着脱可能に装着される第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cとを備える。
【0081】
ベース部5に設けられる取付基部51は、円筒状の周壁52及び頂壁53によって中空状円筒状に形成される。更に、取付基部51に図示しないアースケーブルが接続される。
【0082】
軸部61は、取付基部51の頂壁53に基端が取り付けられる軸状の軸部本体62と、軸部本体62の先端に一体形成されたボール状の球面64を有する球状部63とを有する。軸部61の中心軸61Lに沿って軸部本体62の基端から球状部63の頂端に連通する冷却通路68が連通する。なお、冷却通路68の基部51を介して図示しない冷却液供給源に接続される。
【0083】
揺動軸部70は、その中心軸70Lを中心とする中空円筒状の基部71を備え、基部71の基端側に中心軸70Lに沿って延在する筒状で軸部61の球状部63を揺動自在に収容すると共に先端に開口部74を有するほぼ半球面状の球状凹面73が形成されたソケット部72が形成される。基部71の先端側、即ちソケット部72と反対側に先端にボール状の球面77を有する球状部76が一体に形成された軸部本体75が取り付けられる。軸部本体75の基端から球状部76の頂端に連通する冷却通路78が連通する。
【0084】
揺動部80は、その中心軸80Lを中心とする円板状の基部81を備え、基部81の一方の面に中心軸80Lに沿って延在する筒状で揺動軸部70の球状部76を揺動自在に収容すると共に先端に開口部84を有するほぼ半球面状の球状凹面83が形成されたソケット部82が形成される。基部81の他方の面、即ちソケット部82と反対側に中心軸80Lを中心に等間隔で互いに離間すると共に中心軸80Lと平行にソケット部82と離反する方向に延在する円筒状の第1シャンク85A、第2シャンク85B、第3シャンク85Cの3つのシャンクが突出形成される。各シャンク85A、85B、85Cは同一形状であって、それぞれ基端が基部81に連続すると共に外周が先端側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の電極装着部85bが形成される。
【0085】
ソケット部82の底部に中心軸80Lと同軸上に開口を有し、本体81内で分岐して更に各シャンク85A、85B、85C内を貫通して各シャンク85A、85B、85Cの各先端にそれぞれ開口を有する冷却通路88が形成される。
【0086】
この軸部61と揺動軸部70は、軸部61の球状部63を揺動軸部70のソケット部72の開口部74から球状凹部73内に圧入乃至嵌合して揺動軸部70に組み込む。更に、必要に応じてソケット部72の開口部74をかしめ成形して軸部61に揺動軸部70を連結する。これにより、球状部63の球面64とソケット部72の球面凹部73が球状部73の中心O1を中心として摺動自在に嵌合する。また、軸部61に形成され冷却通路68と揺動軸部70に形成された冷却通路78が連通する。
【0087】
同様に、揺動軸部70と揺動部80は、揺動軸部70の球状部76をソケット部82の開口部84から球状凹部83内に圧入乃至嵌合して揺動部80に組み込む。更に、必要に応じてソケット部82の開口部84をかしめ成形して揺動軸部70に揺動部80を連結する。これにより、球状部76の球面77とソケット部82の球面凹部83が球状部76の中心O2を中心として摺動自在に嵌合する。また、揺動軸部70に形成され冷却通路78と揺動部80に形成された冷却通路88が連通する。
【0088】
揺動部80の第1シャンク85A、第2シャンク85B、第3シャンク85Cにそれぞれ第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cを着脱可能に装着する。
【0089】
第1アース電極91Aは、頂部92a及び基部93aが一体形成され、かつ内部に頂部92aに向かうほど径が細くなるテーパ穴94aが形成された有底筒状乃至キャップ状に形成される。このテーパ穴94aが第1シャンク85Aの電極装着部85bに圧入嵌合して第1シャンク85Aに第1アース電極91Aが装着される。この圧入嵌合状態においてテーパ穴94aの底部と第1シャンク85Aの先端は非接触状態でテーパ穴94aの底部と第1シャンク95Aの先端とによって冷却通路88に連通する冷却水溜め部95aが形成される。第2アース電極91B、第2アース電極91Cは第1アース電極91Aと同一構成であり、詳細な説明を省略する。また、これら第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cは通常使用される溶接用電極チップによって構成できる。
【0090】
更に、揺動部80の中心軸80Lが軸部61の中心軸L1の延長線上、即ち軸部61に対して揺動軸部70及び揺動部80が延伸状態となる予め設定された姿勢位置に揺動部80を付勢する揺動部保持手段が設けられる。揺動部保持手段は、本実施の形態では
図5及び
図6に示すように、弾性復元力の有するコイルスプリングを内蔵した可撓性チューブ95を、その一端95aを取付基部51の周壁52に嵌合すると共に他端95bを揺動部80の基部81に嵌合し、かつ中間部が揺動軸部70の基部71に嵌合して配置することで構成する。また、揺動部保持手段は取付基部51と揺動部80の基部81間にコイルスプリング等を弾設することで構成することもできる。
【0091】
次に、
図7及び
図8を参照してアース電極装置50の作用を説明する。
【0092】
例えば、
図7に示すように第1板部材101と第2板部材102が重ね合わされたワーク100を片側抵抗スポット溶接するにあたり、ロボットアームによりベース部5を介してアース電極装置50を移動して、第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cの各頂部92a、92b、92cを第2板部材102の予め設定されたアース電極接触部に対峙する。
【0093】
そして、ベース部5を第2板部材102に相対的に接近移動させ、アース電極装置50を第2板部材102に接近移動させて第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cの各頂部92a、92b、92cを第2板部材102に圧接する。
【0094】
この第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cの各頂部92a、92b、92cの第2板部材102への圧接は、軸部61、揺動軸部70及び揺動部80の相互間の揺動が揺動部保持手段、即ち可撓性チューブ95によって拘束乃至抑制されてベース部5がワーク100に接近移動する加圧力作用方向に沿って軸部61の中心軸61L、揺動軸部70の中心軸70L及び揺動部80の中心軸80Lは同軸軸心方向となるように保持されて加圧力が取付基部51、軸部61、揺動軸部70を介して揺動部80に伝達され、効率的に行われる。
【0095】
この第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの第2板部材102への圧接に伴い、各アース電極91A、91B、91Cの各頂部92a、92b、92cに第2板部材102からの反力が作用する。
【0096】
ここで、第2板部材102の表面形状の形状、例えば凹凸等に起因して各アース電極91A、91B、91Cのそれぞれの頂部92a、92b、92cに作用する第2板部材102からの反力にバラツキがある場合には、各アース電極91A、91B、91Cの頂部92a、92b、92cに作用する反力の不均等に応じて各シャンク85A、85B、85Cを介して揺動部80に回転力が付与され、各アース電極91A、91B、91Cに作用する反力が均一になるように揺動自在に嵌合保持された球状部76の球面77に沿って球状凹面83が摺動して揺動部80が可撓性チューブ95の弾性復元力による付勢に抗して揺動する。即ち、第2板部材102の表面形状に倣って揺動部80が球状部73の中心O2を中心に揺動して各アース電極91A、91B、91Cの頂部92a、92b、92cが均等な押圧力で第2板部材102に通電可能に接触する。
【0097】
各アース電極91A、91B、91Cが第2板部材102に圧接した状態で、冷却水供給源から軸部61の冷却通路68、揺動軸部70の冷却通路78及び揺動部80の冷却通路88を経由して各シャンク95A、95B、95Cの各アース電極31A、31B、31Cによって形成された冷却水溜め部95aに冷却水を循環供給して第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの各アース電極を冷却する。
【0098】
そして第1板部材101の予め設定された打点位置に図示しない溶接電極を当接して加圧力を付与し、この溶接電極により加圧付与された第1板部材101と第2板部材102が接合部で通電可能に接触して、溶接電極から第1板部材101、第1板部材101と第2板部材102との接合点、第2板部材102、第2板部材102と第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cがそれぞれ接触する接触点を経て第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cに至る溶接通電経路が形成される。
【0099】
この第1板部材101と第2板部材102が接合点において通電可能に接触し、第2板部材102と第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cが通電可能に接触した状態で、溶接電源からの溶接電流を溶接電極からアース電極装置50のアースケーブルに流す。この通電により、第1板部材101と第2板部材102の接合点が加熱されて溶融し該部にナゲットが形成される。
【0100】
また、
図8(a)に示すように第1板部材101と第2板部材102が重ね合わされたワーク100を片側抵抗スポット溶接するにあたり、第2板部材102のアース電極接触部が傾斜、即ち、ベース部5がワーク100に接近移動する加圧力作用方向となる軸部61の中心軸61Lの延在方向に対して傾斜した場合においては、ロボットアームにより、アース電極装置50を移動して第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cの各頂部92a、92b、92cが第2板部材102のアース電極接触部に対峙する。
【0101】
そして、ベース部5を介してアース電極装置50を第2板部材102に相対的に接近移動させると、アース電極接触部の傾斜等に伴って第1アース電極91A、第2アース電極91B及び第3アース電極91Cのいずれかの頂部92a、92b、92c、例えば
図8(a)に示すように第1アース電極91Aの頂部92aが接触する。更にアース電極装置50を第2板部材102に接近移動させると、第2板部材102からの反力が第1アース電極91Aの頂部92aに作用する。
【0102】
第1アース電極91Aの頂部92aに作用する第2板部材102からの反力により揺動部80の中心軸80Lに対して偏倚した反力が作用し、第2板部材102に第1アース電極91Aの頂部92aが圧接した状態を維持しつつ、この第1アース電極91Aの頂部92aを支点として第2アース電極91Bの頂部92a及び第3アース電極91Cの頂部92cが第2板部材102に当接するまで揺動部80が揺動する。
【0103】
この第1アース電極90の頂端92aを支点とする揺動部80の揺動は、揺動部80の揺動に伴ってソケット部82に嵌合する揺動軸部70の球状部76が
図8(b)のように揺動付与され、揺動軸部70のソケット部72が軸部61の球状部63を中心に揺動することで、軸部61に拘束されることなく円滑に揺動する。
【0104】
一方、軸部61に対する揺動軸部70の揺動及び揺動軸部70に対する揺動部80の揺動に抗する拘束力、即ち軸部61の中心軸61L、揺動軸部70の中心軸70L及び揺動部80の中心軸80Lは同軸軸心方向となる軸部61に対して揺動軸部70及び揺動部80を延伸状態とする付勢力が可撓性チューブ95に復元力によって付与されて、加圧力が取付基部51、軸部61、揺動軸部70を介して揺動部80に伝達されて第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの圧接状態が維持される。各アース電極91A、91B、91Cの頂部92a、92b、93cが第2板部材102の所期のアース電極接触部に均等な接触圧で第2板部材102に通電可能に接触する。
【0105】
各アース電極91A、91B、91Cが第2板部材102に接触した状態で、冷却水供給源から軸部61の冷却通路68、揺動軸70の冷却通路88及び揺動部80の冷却通路88を経由して各シャンク85A、85B、85Cの先端と各アース電極91A、91B、91Cとによって形成された冷却水溜め部95aに冷却水を循環供給して第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの各アース電極を冷却する。
【0106】
そして第1板部材101の予め設定された打点位置に図示しない溶接電極を当接して加圧力を付与し、この溶接電極により加圧付与された第1板部材101と第2板部材102が接合部で通電可能に接触して、溶接電極から第1板部材101、第1板部材101と第2板部材102との接合点、第2板部材102、第2板部材102と第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cがそれぞれ接触する接触点を経て第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cに至る溶接通電経路が形成される。
【0107】
この第1板部材101と第2板部材102が接合点において通電可能に接触し、第2板部材102と第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cが通電可能に接触した状態で、溶接電源からの溶接電流を溶接電極からアース電極装置50のアースケーブルに流す。この通電により、第1板部材101と第2板部材102の接合点が加熱されて溶融し該部にナゲットが形成される。
【0108】
溶接が終了し、アース電極装置50をワーク100から離反せせると、揺動部保持手段95によって揺動部80の中心軸80Lが軸部61の中心軸L1の延長線上となる中立位置、即ち軸部61に対して揺動軸部70及び揺動部80が延伸状態となる予め設定された姿勢位置に復帰する。
【0109】
従って、本実施の形態によると、ベース部5に支持された軸部61の球状部63に、揺動軸部70を揺動自在に転結し、揺動軸部70の球状部76に、第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cを装着する第1シャンク85A、第2シャンク85B及び第3シャンク85Cを備えた揺動部80を揺動自在に連結する簡単な構成でかつコンパクトにアース電極装置50が構成され、アース電極装置50の占有スペースを小さく構成できる。更に、第2板部材102のアース電極接触部の表面凹凸や傾斜等に拘わらず、アース電極接触部に倣って揺動部80が軸部61に拘束されることなく揺動して第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの各頂部92a、92b、92cが均等な接触圧で第2板部材102の所期の位置に安定した状態で接触し、第2板部材102と各アース電極91A、91B、91Cとの3箇所の接触点で接触して接触点の接触面積の合計面積となる大きな第2板部材102とアース電極との接触面積が確保できる。
【0110】
そして、溶接電流は各接触点に分流して第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cに流れ各接触点における電流密度の低減が得られ、各接触点における通電抵抗による発熱が抑制され、かつ各アース電極91A、91B、91Cが循環する冷却水で冷却されることと相俟って第2板部材102及び第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの溶損が回避される。
【0111】
また、第2板部材102と各アース電極91A、91B,91Cとの溶着の発生が抑制されて、第2板部材102等の溶接部材の破損が回避されて溶接品質の向上が得られ、かつ各アース電極91A、91B、91Cの破損等が防止できる。
更に、第1アース電極91A、第2アース電極91B、第3アース電極91Cの発熱が抑制されて、各アース電極91A、91B、91Cの摩耗が抑制される。
【0112】
また、各アース電極91A、91B、91Cをそれぞれ摩耗や破損に応じて他のアース電極に影響されることなく、単独で交換することができ、かつ既存の溶接電極によって構成できることと相俟ってメンテナンスの簡素化及びランニングコストの抑制が得られる。
【0113】
なお、上記実施の形態では、アース電極装置を片側抵抗スポット溶接装置に適用した場合を例に説明したが、片側抵抗スポット溶接装置に限らず、アーク溶接やプラズマ溶接等他のアース電極を要するアース電極装置として適用することができる。