特許第5739243号(P5739243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5739243フラットケーブル用積層ポリエステルフィルムおよびそれからなるフラットケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739243
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】フラットケーブル用積層ポリエステルフィルムおよびそれからなるフラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/60 20060101AFI20150604BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20150604BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20150604BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20150604BHJP
   H01B 7/295 20060101ALN20150604BHJP
【FI】
   H01B17/60 M
   B32B27/36
   H01B7/08
   H01B7/02 D
   !H01B7/34 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-128320(P2011-128320)
(22)【出願日】2011年6月8日
(65)【公開番号】特開2012-256488(P2012-256488A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人デュポンフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】小野 光正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲男
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−103581(JP,A)
【文献】 特開昭48−083189(JP,A)
【文献】 特開2011−076761(JP,A)
【文献】 特開平07−331199(JP,A)
【文献】 実開平05−092916(JP,U)
【文献】 特表2003−528748(JP,A)
【文献】 特開平06−320692(JP,A)
【文献】 特開2003−077343(JP,A)
【文献】 実開昭62−040721(JP,U)
【文献】 特開昭58−155604(JP,A)
【文献】 実開昭59−012210(JP,U)
【文献】 特開昭51−130855(JP,A)
【文献】 特開平07−023529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/60
B32B 27/36
H01B 7/02
H01B 7/08
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステルを含有するヒートシール層(層A)およびポリエステルを含有する基材層(層B)を含む積層ポリエステルフィルムであって、該層Aを構成する共重合ポリエステルはイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートであり、共重合量が層Aのポリエステルの全繰り返し単位を基準として12mol以上25mol%以下、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定される固有粘度が0.45dl/g以上0.70dl/g以下であり、かつフィルムは難燃成分を含有しないフラットケーブル用積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のフラットケーブル用積層ポリエステルフィルムのA層同士が対向するように配置され、かかる対向するA層の間に導電体が挟み込まれており、A層同士が熱融着されてなるフラットケーブル。
【請求項3】
導電体の厚みに対する層Aの厚みの比(層Aの厚み/導電体の厚み)が0.1以上1.
0以下である、請求項に記載のフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度に配線されるフラットケーブル用として好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳しくは、難燃剤を添加しなくても配線の高密度化に伴う発熱量増大に起因するフラットケーブル表面の温度上昇を抑えることができるフラットケーブル用積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線の実装技術において、複数本の導電体を並列配置して両側から電気絶縁性樹脂でサンドイッチ状に被覆したフレキシブルフラットケーブルが、機器の小型化、軽量化のために広く用いられている。例えば特許文献1にはこのようなフレキシブルフラットケーブルで屈曲性の高いものが開示されており、2枚のテープ状絶縁性プラスチックフィルムの間に平角導体を並列配置し、フィルムを熱融着させる態様や、フィルムの片面側にポリエチレンテレフタレート系の熱融着性接着層を塗布する態様が記載されている。
【0003】
近年、フレキシブルフラットケーブルの用途は多岐にわたっているが、特に電気機器部材、自動車用途などに使用する場合には難燃性が要求されるようになってきている。フレキシブルフラットケーブルの難燃化方法としては、例えば特許文献2には、基材上に難燃剤を含有する接着剤層を形成した2枚の接着フィルムの接着剤層側を対向させ、接着剤層間に配線パターンを有する導電体を挟み込んで密封し、接着剤層に架橋処理を施す方法、また特許文献3には、難燃性を有する接着性組成物を電気絶縁性フィルムに塗布したフィルムをフラットケーブルに巻きつけて接着させる方法が提案されている。さらに特許文献4には、導体が絶縁体によって被覆されたコア電線を含み、シールド層を最外層に有する構成のシールドケーブルにおいて、絶縁体自体は非難燃であるが絶縁体の樹脂から生じるガスがもれないようにして難燃性を確保したシールドフラットケーブルが提案されている。
【0004】
しかしながら、配線の高密度化にともなって発熱量が増大した場合、これらのフラットケーブル自体は難燃性が確保されているために燃焼しがたいものの、かなりの高温になるのでフラットケーブルを含むユニット全体として発火・燃焼する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−77343号公報
【特許文献2】特開平5−303918号公報
【特許文献3】特開2004−231792号公報
【特許文献4】特開2010−165559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記を鑑みなされたもので、その目的は、難燃剤を添加しなくても高密度配線されるフラットケーブルの表面温度上昇を抑えることができるフラットケーブル用積層フィルムおよびそれからなるフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の難燃フラットケーブルは難燃性を有するものの、フラットケーブルが一定の高温まで発熱してフラットケーブルを含むユニット全体として発火する可能性があったところ、ヒートシール層と基材層とからなる難燃剤を含まないポリエステルフィルムであっても、ヒートシール層の共重合量と固有粘度を特定範囲にすれば、フラットケーブルに過大電流が流れて発熱量が増大しても、ヒートシール層の流動性が大きくなって導電体(配線)が動きやすくなり、導電体同士の接触によりそれ以上の温度上昇を防ぐことができる結果、フラットケーブル自体は難燃剤を添加していなくても発火を防ぐことができ、フラットケーブルの表面温度上昇も抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の目的は、共重合ポリエステルを含有するヒートシール層(層A)およびポリエステルを含有する基材層(層B)を含む積層ポリエステルフィルムであって、該層Aを構成する共重合ポリエステルはイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートであり、共重合量が層Aのポリエステルの全繰り返し単位を基準として12mol以上25mol%以下、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定される固有粘度が0.45dl/g以上0.70dl/g以下であり、かつフィルムは難燃成分を含有しないフラットケーブル用積層ポリエステルフィルムによって達成される。
【0009】
らに、上記のフラットケーブル用積層ポリエステルフィルムのA層同士が対向するように配置され、対向するA層の間に導電体が挟み込まれており、A層同士が熱融着されてなるフラットケーブルも提供され、その好ましい態様として、導電体の厚みに対する層Aの厚みの比(層Aの厚み/導電体の厚み)が0.1以上1.0以下であるものが包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、フラットケーブルに加工した後に過大電流が流れても、低温で導電体同士を容易に接触させることができるので、フラットケーブルの表面温度上昇を抑えることができる。したがって、過大電流による発熱量の増大に起因する、フラットケーブルを含むユニット全体としての発火の恐れがあるフラットケーブルの基材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
<積層ポリエステルフィルム>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、共重合ポリエステルを含有するヒートシール層(層A)およびポリエステルを含有する基材層(層B)を含む積層構成を有し、該層Aを構成する共重合ポリエステルは、共重合量が層Aのポリエステルの全繰り返し単位を基準として12mol以上25mol%以下、固有粘度が0.45dl/g以上0.70dl/g以下であり、かつフィルムは難燃成分を含まないことを要する。
【0012】
かかる積層ポリエステルフィルムにおいて、層Aは主に熱融着性を発現する機能を有すると同時に、過大電流による発熱によりフラットケーブルの導電体を流動させやすくし、導電体同士を接触させやすくすることによって、フラットケーブルの表面温度上昇を抑えることができる効果を奏する。層Bは主にフィルムとしての耐熱性、強度などの機械特性を維持する機能を有する。
【0013】
(層A)
本発明のヒートシール層(層A)に含有される共重合ポリエステルは、その主たる成分が芳香族二塩基酸とジオールとからなる線状飽和ポリエステルである。かかる成分から形成される繰り返し単位の具体例としては、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレートを例示することができ、これらの中でもエチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。
【0014】
かかる共重合ポリエステルの共重合成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニレンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ジエチレングリコールなどの中から、主たる成分以外のものを用いることができ、中でもイソフタル酸が好ましい。共重合成分は、モノマー成分として共重合化されたものでもよく、また2種以上のポリエステルを溶融混合してエステル交換反応により共重合化されたものであってもよい。
【0015】
かかる共重合成分の共重合量は、層Aのポリエステルの全繰り返し単位を基準として12mol以上25mol%以下であり、15mol以上22mol%以下であることが好ましい。共重合量が下限値に満たない場合には、共重合ポリエステルの融点が十分低下しないため、熱融着が困難になるだけでなく、過大電流による発熱によりフラットケーブルの導電体を流動させやすくすることも困難になる。一方、上限値を越えると共重合ポリエステルの融点が低くなりすぎ、また結晶性も不十分となるため、フラットケーブルとしての耐熱性や強度が不十分となる。
【0016】
また共重合ポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノールを溶媒として35℃にて測定)は、0.45dl/g以上0.70dl/g以下であることを要し、好ましくは0.45dl/g以上0.60dl/g以下である。固有粘度が下限値に満たない場合には、フィルム製膜時の溶融粘度が低すぎるため、製膜が困難となる。一方、上限値を越える場合には、フラットケーブルにした際の通電発熱による易流動化が起こり難くなるため、導電体同士の接触が起こり難くなり、フラットケーブル表面の温度が高くなる。
なお、共重合ポリエステルはフィルム製膜条件によりある程度の固有粘度低下が起こるため、フィルム製膜前の共重合ポリエステルの固有粘度は0.48dl/g以上0.80dl/g以下の範囲が適当である。かかる範囲のものを用いることにより、層Aの共重合ポリエステルの固有粘度が本発明の範囲内にあるものが容易に得られる。
【0017】
本発明の層Aには、本発明の目的を損なわない範囲内でその他の樹脂成分が含まれていてもよく、通常層Aの重量に対して10重量%以下である。他の樹脂成分としては、例えばポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
(層B)
発明の積層ポリエステルフィルムに含まれる基材層(層B)は、層Aの片面に積層されている。層Bに含有されるポリエステルは、層Aに含有される共重合ポリエステルと同様の線状飽和ポリエステルであり、好ましい繰り返し単位としてエチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレートを挙げることができ、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。かかるポリエステルはホモポリエステルであることが好ましいが、ポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以下、好ましくは5mol%以下の共重合成分を含有していてもよい。共重合成分を含有している場合には、その共重合量は層Aに含まれる共重合ポリエステルの共重合量より3mol%以上少ないことが好ましい。また層Bに含まれるポリエステルの主成分の種類は、層Aに含まれる共重合ポリエステルの主成分と同じ種類であることが好ましい。かかる場合、層Aと層Bとの界面接着性がより高まる。
【0019】
かかるポリエステルの固有粘度(ο−クロロフェノールを溶媒として35℃にて測定)は、機械特性およびフィルム製膜性の観点から0.40dl/g以上1.50dl/g以下の範囲が適当であり、好ましくは0.45dl/g以上1.20dl/g以下である。また、固有粘度が高くο−クロロフェノールに不溶の場合には、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定される。
【0020】
(他添加剤)
本発明の積層ポリステルフィルムには、難燃成分が含まれていないことを要するが、例えばフィルムの取扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子が添加されていてもよく、層A、層Bのいずれの層に配合されていてもよい。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。中でも滑り性および白色性を同時に高めることができるため酸化チタンが好ましい。
【0021】
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は0.001〜5μmの範囲が好ましく、また含有量は、各層の重量に対して0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明の積層ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。これらの添加剤も、いずれの層に配合されても構わない。
【0022】
(フィルム厚み、層A厚み)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが5〜250μmであることが好ましく、より好ましくは8〜150μm、特に好ましくは10〜100μmである。
層A厚みは、フラットケーブル作成のために使用される導電体の厚みにもよって適宜設定すればよいが、薄すぎると熱融着性が不十分となったり、過大電流通電により層Aの流動性が高まっても導電体が移動し難くなるので接触し難くなる。一方厚すぎると、過大電流通電により層Aの流動性が高まっても導電体が厚み方向にも移動しやすくなるため、導電体間の接触が起こり難くなる。したがって、層Aの厚みは用いられる導電体の厚みの0.1〜1.0倍、特に0.2〜0.9倍の範囲が適当である。
【0023】
なお、本発明におけるフラットケーブルは、本発明の積層ポリエステルフィルムのA層同士が対向するように配置され、対向するA層の間に導電体が配置される構成であるが、層Aと導電体の厚みの関係とは、一方の積層ポリエステルフィルムにおける層Aの厚みと導電体の厚みとの関係を指す。
また、フィルム全層に対する層Aの厚み割合は、大きくなりすぎると機械特性が低下する場合があるので、好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下である。
【0024】
(積層構造)
本発明の積層ポリエステルフィルムの層構造は、ヒートシール層である層Aが表層になっていれば層(A)/層(B)の2層構造であっても、層(A)/層(B)/層(A)の3層構造であってもよく、また層(A)/層(B)/層(C)のように他の層を含むものであってもよい。さらには、層(B)/層(C)が繰り返し積層された多層積層の表層に層(A)が積層された構造であってもよい。
【0025】
(耐熱寸法安定性)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、150℃、30分熱処理したときのフィルムの少なくとも一方向の熱収縮率が2.5%以下であることが好ましい。かかる熱収縮率はさらに好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下である。
【0026】
<塗膜層>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種機能を付与するために、少なくとも一方の面に従来公知の塗膜層を形成してもよい。塗膜層はいずれの面に形成してもよいが、熱融着性を有しない面に形成するのが好ましい。
【0027】
<フィルム製造方法>
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法は特に限定されず、従来公知の製膜方法により先ず未延伸積層シートを作成し、次いで少なくとも一方向、好ましくは二方向に延伸すればよい。
例えば層A用に調整した共重合ポリエステルを十分に乾燥させた後、融点〜(融点+70)℃の温度で押出機内で溶融する。同時に層B用に調整したポリエステルを十分に乾燥させた後、他の押出機に供給し、融点〜(融点+70)℃の温度で溶融する。続いて、両方の溶融樹脂をダイ内部で積層する方法、例えばマルチマニホールドダイを用いた同時積層押出法により、積層された未延伸フィルムが製造される。かかる同時積層押出法によると、一つの層を形成する樹脂の溶融物と別の層を形成する樹脂の溶融物はダイ内部で積層され、積層形態を維持した状態でダイよりシート状に成形される。
【0028】
次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。未延伸フィルムを逐次二軸延伸により製膜する場合、縦方向に層Bのポリエステルのガラス転移点(Tg)より高い温度、好ましくはTgより20〜40℃高い温度で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に層Bのポリエステルのガラス転移点(Tg)より20℃以上高い温度から、層Bのポリエステルの融点(Tm)より(120〜30)℃低い温度まで昇温しながら、2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する。
熱固定は、130〜260℃、より好ましくは150〜240℃の温度で緊張下または制限収縮下で熱固定するのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【0029】
<フラットケーブル>
以上に説明した本発明の積層ポリエステルフィルムから、例えば以下の方法により、導電体が電気絶縁性のフィルム状被覆材でサンドイッチ状に被覆されたフレキシブルなフラットケーブルを作成することができる。
すなわち、本発明の積層ポリエステルフィルムを2枚用い、層A同士を対向させ、その間に複数本の導電体を並列配置して挟みこみ、その後層Aの融点以上、層Bの融点以下の温度範囲で、層Aを溶融させた状態でプレスして熱融着させることにより、フラットケーブルを作成することができる。
導電体としては、フラットケーブルに使用される通常の導電体を使用でき、例えば銅、メッキされた銅、銀などが挙げられる。導電体は箔状や平角状であり、所定の間隔をもって並列に配置される。
【0030】
本発明の積層ポリエステルフィルムを用いて得られたフラットケーブルは、過大電流を印加した際に通電による温度上昇により層Aが流動しやすくなることにより導電体同士を接触させ、その結果、フラットケーブル表面の温度上昇が高くなることによる、フラットケーブルを含むユニット全体としての発火を抑えることができるため、過大電流に起因する火災発生の危険性のある使途、例えば自動車の内部配線や電子機器として使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0032】
(1)固有粘度
各層のポリエステルチップおよび積層ポリエステルフィルムから削りとった層Aのサンプルを用い、35℃のo−クロロフェノール溶液で固有粘度([η]dl/g)を測定した。
なお、層B用のポリエステルチップの固有粘度において、o−クロロフェノールに不溶の場合は、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃の温度で測定して求めることができる。
【0033】
(2)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの各成分および共重合成分量を求めた。
【0034】
(3)層厚み
積層フィルムの各層厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで測定して求めた。
【0035】
(4)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに150℃のオーブンで30分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して下記式にて熱収縮率を算出し、最大熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=((熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離)×100
【0036】
(5)フラットケーブル表面の温度上昇
室温23℃の恒温室において実施例および比較例で製造したフラットケーブルに10Aの電流を印加したときのフラットケーブル表面の温度上昇を、熱電対を用いて測定し、以下の基準で評価した。
A: フラットケーブル表面温度が250℃未満
B: フラットケーブル表面温度が250℃以上300℃未満
C: フラットケーブル表面温度が300℃以上350℃未満
【0037】
[実施例1]
層A用に、イソフタル酸を18mol%共重合した固有粘度0.60dl/gの共重合ポリエチレンテレフタレートを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度270℃で溶融した。
層B用に、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.4重量%含有する固有粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、他方の押出機に投入し、270℃で溶融した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層A:層B=1:4)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを100℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、120℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.8倍で延伸した。その後テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で幅方向に2%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚み(層A:10μm,層B:40μm)の二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、得られた積層フィルム2枚を層Aが対向するように配置し、厚み35μm、幅1mmの銅箔を1mm間隔となるよう3本並べ、挟んで作製したフラットケーブルの表面温度評価結果を表1に合わせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0038】
[実施例2]
層Aの共重合量を25mol%に変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にしてフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0039】
[実施例3]
層Aと層Bの厚み比率を層A:層B=2:3に変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にしてフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0040】
[実施例4]
層A用の共重合ポリエステルの固有粘度を0.53dl/gに変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にしてフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0041】
[実施例5]
層A用の共重合ポリエステルの固有粘度を0.64dl/gに変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にしてフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0042】
[実施例6]
層A用に、共重合成分としてイソフタル酸を層Aのポリエステルの全繰り返単位を基準として18mol%共重合した固有粘度0.55dl/gの共重合ポリエチレンナフタレートを180℃ドライヤーで4時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度290℃で溶融した。
一方、層B用に、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%含有する、固有粘度0.60dl/gのポリエチレンナフタレートを180℃ドライヤーで5時間乾燥後、他方の押出機に投入し、300℃で溶融した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層A:層B=1:4)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを140℃にて長手方向(縦方向)に3.5倍で延伸し、55℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、135℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.8倍で延伸した。その後テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で幅方向に2%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚み(層A:10μm,層B:40μm)の二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にして作成したフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに短時間で導電体同士が接触し、フラットケーブル表面温度が高くならなかった。
【0043】
[実施例7]
層Aの厚みを30μmに変更した以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、厚み70μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムに銅箔を挟んで作製したフラットケーブルに電流を流した際、導電体同士が接触するまでの時間は実施例1より長くなったが、フラットケーブル表面温度はユニットの燃焼を引き起こすほど高くならなかった。
【0044】
[実施例8]
層Aの厚みを6μmに変更した以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、厚み46μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、導電体同士が接触するまでの時間は実施例1より長くなったが、フラットケーブル表面温度はユニットの燃焼を引き起こすほど高くならなかった。
【0045】
[比較例1]
層Aの共重合量を10mol%に変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にしてフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに導電体同士が接触するまでの時間が長く、フラットケーブル表面温度が高かった。
【0046】
[比較例2]
層A用の共重合ポリエステルの固有粘度を0.75dl/gに変更した以外は実施例1と同様に製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、実施例1と同様にして作成したフラットケーブルの表面温度評価結果を表1にあわせて示す。電流を流したときに導電体同士が接触するまでの時間が長く、フラットケーブル表面温度が高かった。
【0047】
[比較例3]
層Aを積層せず、層Bだけの単層ポリエステルフィルムとした以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み40μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムに熱硬化性接着剤(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、製品名「アラルダイト スタンダード」)を10μm厚みとなるよう塗布後、接着剤層同士が対向するように配置し、その間に厚み35μm、幅1mmの銅箔を1mm間隔となるよう3本並べ、挟んで作製したフラットケーブルを60℃、45分加熱して熱硬化させてフラットケーブルを作成した。フラットケーブルの表面温度評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、フラットケーブルに加工した後に過大電流が流れても、低温で導電体同士を容易に接触させることができるので、フラットケーブルの表面温度上昇を抑えることができる。したがって、過大電流による発熱量の増大に起因する、フラットケーブルを含むユニット全体としての発火の恐れがあるフラットケーブルの基材として好適に用いることができる。