(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739416
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】体外血液処理装置の流体システムをモニタする方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/14 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
A61M1/14 553
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-514372(P2012-514372)
(86)(22)【出願日】2010年6月1日
(65)【公表番号】特表2012-529313(P2012-529313A)
(43)【公表日】2012年11月22日
(86)【国際出願番号】EP2010003329
(87)【国際公開番号】WO2010142394
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2013年5月20日
(31)【優先権主張番号】102009024864.1
(32)【優先日】2009年6月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502207286
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイチラント ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【復代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(72)【発明者】
【氏名】コッパーシュミット,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ナルンバーガー,トーマス
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−190547(JP,A)
【文献】
特表2009−518086(JP,A)
【文献】
特開平02−007938(JP,A)
【文献】
実開昭59−130740(JP,U)
【文献】
特表2010−538801(JP,A)
【文献】
特表2004−502500(JP,A)
【文献】
特開昭63−143076(JP,A)
【文献】
実開昭63−117547(JP,U)
【文献】
独国特許出願公開第102005001779(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透性膜によって第1のチャンバと第2のチャンバに分けられた透析装置又はろ過装置の第1のチャンバに至る動脈血ラインと、前記透析装置又はろ過装置の第1のチャンバから離れる静脈血ラインであって、前記静脈血ライン内に前記透析装置又はろ過装置の第1のチャンバの下流に静脈点滴チャンバが配せられ、且つ前記静脈血ライン内に前記静脈点滴チャンバの下流に静脈ロック器具が配せられる静脈血ラインと、を有する体外血液回路と、
前記静脈点滴チャンバから分岐するベントラインであって、前記ベントライン内に少なくとも1つの疎水性フィルタが配せられ、且つ前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内に配せられているベントバルブによって閉鎖できるベントラインと、を備えている体外血液処理装置の流体システムをモニタする方法であって、
制御および演算ユニット(18)が、前記静脈点滴チャンバ内の流体レベルが交互に上下し、その結果、フォルトがない場合には測定された圧力信号が圧力変動を受けるように、前記静脈ロック器具が少なくとも部分的に閉鎖されたとき、前記ベントバルブを交互に少なくとも部分的に開閉することを特徴とし、
前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内で、前記静脈点滴チャンバから分岐する前記ベントライン内の圧力を測定ユニット(14)が測定するステップと、
測定された圧力信号を制御および演算ユニット(18)が評価するステップであって、前記圧力信号の圧力変動がない場合にはフォルトが推測されるステップと、を含む体外血液処理装置の流体システムをモニタするための対外血液処理装置の作動方法。
【請求項2】
所定の圧力上昇を検出できるかどうかに関して、制御および演算ユニット(18)が検査を実行することを特徴とする請求項1に記載の装置の作動方法。
【請求項3】
前記圧力が所定の限界値を超えて上昇するかどうかに関して、制御および演算ユニット(18)が検査を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の装置の作動方法。
【請求項4】
フォルトが検出された場合、音響的および/または光学的警報を生成する警報ユニット(19)が音響的および/または光学的警報を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の装置の作動方法。
【請求項5】
フォルトが検出された場合、制御信号を生成するユニット(18A)が、前記体外血液処理装置の制御に介在することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の装置の作動方法。
【請求項6】
フォルトが検出された場合、前記ユニット(18A)が前記体外血液処理装置の制御に対して行う前記介在が前記血液ポンプの停止であることを特徴とする請求項5に記載の装置の作動方法。
【請求項7】
体外血液処理装置の流体システムをモニタする装置であって、
前記体外血液処理装置は、
半透性膜によって第1のチャンバと第2のチャンバに分けられた透析装置又はろ過装置の第1のチャンバに至る動脈血ラインと、
前記透析装置又はろ過装置の第1のチャンバから離れる静脈血ラインであって、前記静脈血ライン内の前記透析装置又はろ過装置の前記第1のチャンバの下流に静脈点滴チャンバが配せられ、且つ前記静脈血ライン内の前記静脈点滴チャンバの下流に静脈ロック器具が配せられている静脈血ラインと、を有する体外血液回路と、
前記体外血液回路内に配せられる血液ポンプと、
前記静脈点滴チャンバから分岐するベントラインであって、前記ベントライン内に少なくとも1つの疎水性フィルタが配せられ、前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内に配せられているベントバルブによって閉鎖できるベントラインと、を備えており、
前記流体システムをモニタする装置は、
前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内で、前記静脈点滴チャンバから分岐する前記ベントライン内の圧力を測定する測定ユニット(14)と、
測定された圧力信号を評価する制御および演算ユニット(18)であって、前記圧力信号の圧力変動がない場合にはフォルトが推測されるように設計される制御および演算ユニット(18)と、を備え、
また、前記静脈点滴チャンバ(8)内の流体レベル(9)が交互に上下し、その結果、フォルトがない場合には前記測定された圧力信号が周期的な圧力変動を受けるように、前記静脈ロック器具が交互に少なくとも部分的に開閉されるように設計された前記静脈ロック器具(11)に対する制御ユニット(18)を有することを特徴とする流体システムをモニタする装置。
【請求項8】
体外血液処理装置の流体システムをモニタする装置であって、
前記体外血液処理装置は、
半透性膜によって第1のチャンバと第2のチャンバに分けられた透析装置又はろ過装置の第1のチャンバに至る動脈血ラインと、
前記透析装置又はろ過装置透析器の第1のチャンバから離れる静脈血ラインであって、前記静脈血ライン内の前記透析装置又はろ過装置透析器の第1のチャンバの下流に静脈点滴チャンバが配せられ、且つ前記静脈血ライン内の前記静脈点滴チャンバの下流に静脈ロック器具が配せられる静脈血ラインと、を有する体外血液回路と、
前記体外血液回路内に配せられる血液ポンプと、
前記静脈点滴チャンバから分岐するベントラインであって、前記ベントライン内の少なくとも1つの疎水性フィルタが配せられ、且つ前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内に配せられているベントバルブによって閉鎖できるベントラインと、を備え、
流体システムをモニタする前記装置は、
前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内で、前記静脈点滴チャンバから分岐する前記ベントライン内の圧力を測定する測定ユニット(14)と、
測定された圧力信号を評価する制御および演算ユニット(18)であって、前記圧力信号の周期的な圧力変動がない場合にはフォルトが推測されるように設計される制御および演算ユニット(18)と、を備え、
また、前記静脈点滴チャンバ(8)内の流体レベル(9)が交互に上下し、フォルトがない場合には前記測定された圧力信号が周期的な圧力変動を受けるように、前記静脈ロック器具(11)が少なくとも部分的に閉鎖されたとき、前記ベントバルブ(13)が交互に少なくとも部分的に開閉されるように設計された前記ベントバルブ(13)に対する前記制御ユニット(18)を有することを特徴とする流体システムをモニタする装置。
【請求項9】
前記制御および演算ユニット(18)が、所定の圧力上昇を検出できるかどうかに関して、検査が実行されるように設計されることを特徴とする請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記制御および演算ユニット(18)が、前記圧力が所定の限界値を超えて上昇するかどうかに関して、検査が実行されるように設計されることを特徴とする請求項7〜9のいずれかの項に記載の装置。
【請求項11】
音響的および/または光学的警報を生成する警報ユニット(19)であり、フォルトが検出された場合には音響的および/または光学的警報が生成されるように前記制御および演算ユニット(18)と相互作用する警報ユニット(19)が提供されることを特徴とする請求項7〜10のいずれかの項に記載の装置。
【請求項12】
前記体外血液処理装置の制御に介在する制御信号を生成するユニット(18A)であり、フォルトが検出された場合には前記制御信号が生成されるように前記制御および演算ユニット(18)と相互作用するユニット(18A)が提供されることを特徴とする請求項7〜11のいずれかの項に記載の装置。
【請求項13】
前記体外血液処理装置の制御に介在する制御信号を生成する前記ユニット(18A)が、フォルトが検出された場合には前記血液ポンプ(7)の停止が機械制御に対して行われる前記介在制御になるように設計されることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
体外血液処理装置であって、
半透性膜(2)によって第1のチャンバ(3)と第2のチャンバ(4)とに分けられた透析装置(1)またはろ過装置の第1のチャンバ(3)に至る動脈血ライン(5)と、前記透析器(1)またはろ過装置の前記第1のチャンバ(3)から離れる静脈血ライン(6)であって、前記静脈血ライン(5)内で前記透析器(1)またはろ過装置の第1のチャンバ(3)の下流に静脈点滴チャンバ(8)が配せられ、且つ前記静脈血ライン内で前記静脈点滴チャンバの下流に静脈ロック器具(11)が配せられる静脈血ライン(6)とを有する体外血液回路(I)と、
前記体外血液回路内に構成された血液ポンプ(7)と、
前記静脈点滴チャンバ(8)から分岐するベントライン(12)であって、前記ベントライン(12)内に少なくとも1つの疎水性フィルタ(16)が配され、前記ベントライン内の前記静脈点滴チャンバから離れた区間内に配されたベントバルブ(13)によって閉鎖できるベントライン(12)と、を備え、
前記体外血液処理装置が、前記請求項7〜13のいずれかの項に記載の体外血液処理装置の前記流体システムをモニタする装置を備えることを特徴とする体外血液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透性膜によって第1のチャンバと第2のチャンバに分けられた透析装置又はろ過装置(フィルタ)の第1のチャンバに至る動脈血ラインと、透析装置又はろ過装置の第1のチャンバから離れる静脈血ラインとを有する体外血液回路を備える体外血液処理装置の流体システムをモニタ(監視)する方法に関する。さらに、本発明は、体外血液処理装置の流体システムをモニタする装置、および流体システムをモニタする装置をもつ体外血液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の血液処理装置の体外血液回路は、動脈ラインおよび静脈血ラインならびに透析装置又はろ過装置の血液チャンバに加えて、空気を分離する装置を備える。この装置は一般に、空気分離器とも呼ばれる。空気分離器は、血液が流れるチャンバを有する。このプロセスでは、空気分離器のチャンバは、血液で完全に満たされているわけではない。チャンバが血液で満たされているかどうかを監視するために、監視装置が使用される。静脈血ライン内で透析装置またはろ過装置の下流に構成される周知の点滴チャンバが、空気分離器として使用される。
【0003】
周知の血液処理装置では通常、体外血液回路を満たしている間、静脈点滴チャンバから1のラインが分岐し、そのラインを手段として、血液処理装置の流体システムをベント(又は換気)することができる。このベントラインは、血液処理中は閉鎖される。
【0004】
原則的には、体外血液処理中に血液がベントラインに入る程度まで、静脈点滴チャンバ内の血液レベルが上昇するというリスクがある。安全策として、ベントライン内に、少なくとも1つの疎水性フィルタが配せられ、疎水性フィルタは、流体によって濡れない限り、流体に対して不浸透性であるが、空気に対して浸透性である。
【0005】
疎水性フィルタは、血液がベントラインに入った場合でも、血液を効果的に保持することができる。しかしこのフィルタは、血液によって濡れた後、清浄または交換する必要があり、その結果血液処理が中断し、またそれが相当な量の努力となることが不具合となる。
【0006】
透析の前または後に、体外血液回路は、たとえば塩化ナトリウム溶液または置換液(透析流体の浸浸)を使用して、水洗いすることができる。この場合も、静脈点滴チャンバからの置換液がベントラインを介して疎水性フィルタに到達するというリスクがある。
【0007】
フォルト(通常、正しくないこと、過ち又は逸脱)の場合には、機器的制御を介在させて行うことができる。例として、血液ポンプを停止し、静脈チューブクランプを閉鎖することができる。フォルトの場合に機器的制御をしなかったとき、疎水性フィルタの膜が貫通されるというリスクが原則的にある。そして、1の疎水性フィルタだけが存在している場合、ベントラインの外、又は下流の機械内に至る。直列に接続された2つ以上の疎水性フィルタがベントライン内に配せられる場合、流体がベントラインに入るというリスクを低減させることができる。血液処理装置の筐体の外側に配することができる第1の疎水性フィルタは、比較的簡単に清浄または交換できるが、第2の疎水性フィルタを清浄または交換するには、血液処理装置の筐体を開く必要がある。
【0008】
欧州特許第0330761号は、体外血液処理装置の流体システムをモニタする方法を記載しており、疎水性フィルタが配される静脈点滴チャンバから分岐するベントライン内の圧力が監視される。圧力は、ベントラインの点滴チャンバから離れた区間で監視される。このプロセスでは、血液ポンプによって生じ、疎水性フィルタを介してチューブシステム全体に伝搬する周期的な圧力変動が監視される。血液がベントラインに入った場合、疎水性フィルタの膜は、流体によって濡らされる。その結果、疎水性フィルタの膜は、空気に対して不浸透性になり、したがって周期的な圧力変動は、疎水性フィルタの膜全体にわたって広がることができなくなる。周期的な圧力変動がないことは、フォルトの指標である。
【0009】
蠕動血液ポンプの設計によって引き起こされる自然の圧力変動が十分でない場合、欧州特許第0330761号は、たとえばポンプの回転速度を変化させることによって、自然の圧力変動を増幅させて、血液ポンプの人工的な送り速度変動を生じさせることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0330761号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、フォルトの場合に疎水性フィルタの膜に貫通するのを少なくとも確実に防止できるだけでなく、疎水性フィルタの膜が濡れるのをもとから除外でき、または少なくともこれを初期段階で検出できるように、体外血液処理装置の流体システムの信頼性の高いモニタを可能にする方法を特定するという目的に基づく。本発明のさらなる目的は、その体外血液処理装置の流体システムを確実にモニタする装置、ならびにその流体システムをモニタする装置を有する体外血液処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、請求項1または2および8または9、ならびに15の特徴によって実現される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0013】
本発明による方法および本発明による装置では、圧力は、ベントライン内の静脈点滴チャンバから離れた区間内で、すなわち静脈点滴チャンバから見たとき、第1の疎水性フィルタの後ろに位置する区間内で監視され、すなわち圧力は、少なくとも1つの疎水性フィルタの下流で測定され、圧力変動がない場合、フォルトが推測される。ベントラインは、個々のタップラインとすることができる。しかし、ベントラインが複数の分岐するライン区間を有することも可能である。重要なのは、ベントラインが閉鎖システムであることである。
【0014】
周期的な圧力変動を生じさせるために、本発明による方法、及びその装置の第1の実施形態は、静脈点滴チャンバ内の流体レベルが交互に上下し、その結果、圧力変動が生じてベントラインまで伝搬するように、交互に少なくとも部分的に開閉するように、静脈血ライン内に配せられる静脈ロック器具、一般に静脈チューブクランプを実現する。
【0015】
本発明による方法および本発明による装置の代替の特に好ましい実施形態では、少なくとも1つの疎水性フィルタの下流に構成され、血液処理中は閉鎖されるベントラインが、ベントライン内で圧力が修正されるように、少なくとも1つの疎水性フィルタの下流で、すなわちベントライン内の静脈点滴チャンバから離れた区間で交互にベントされることによって、ベントライン内の静脈点滴チャンバから離れた区間内、すなわち少なくとも1つの疎水性フィルタの下流で圧力変動が生じることを実現する。すなわち、この代替の実施形態では、特に血液ポンプによって体外血液回路内に生じ、少なくとも1つの疎水性フィルタの膜全体にわたって伝搬する圧力変動が測定されるのではなく、ベントライン自体における通気によって生じる圧力変動が測定される。
【0016】
周知の血液処理装置では、ベントラインはいずれにせよ、交互に開閉して周期的な圧力変動を生じさせるだけでよいベントバルブによって閉鎖される。この理由のため、圧力のモニタを実施するのに、比較的わずかな技術的な努力しか必要とされない。
【0017】
ベントライン内で圧力を蓄積できるように、体外血液回路内に構成された血液ポンプを動作させ、静脈ロック器具を少なくとも部分的に閉鎖しなければならない。ロック器具が部分的に閉鎖されている場合、血液処理を中断する必要はない。しかし、静脈ロック器具が完全に閉鎖されると、モニタ期間中に血液処理が中断されることを想定する。しかし、ベントライン内の圧力はまた、原則的に、他の手段を使用して、たとえば圧縮器などによって蓄積することができる。
【0018】
流体システムのモニタは、フォルトのある場合に圧力変動を検出できなくなることに基づく。このため、異なる基準を設定することができる。重要なのは、圧力変動の発生または欠如がモニタされることである。そのようなフォルトは、疎水性膜(TDP)が流体によって濡れ、したがって空気に対して不浸透性になるためだけでなく、たとえば、製作上のフォルトのために疎水性膜がともに付着し、したがって空気に対して不浸透性になるため、または疎水性膜が接続されていないためである可能性がある。
【0019】
好ましい実施形態では、圧力上昇を検出できるかどうかに関して、検査が実行される。例として、圧力が所定の限界値を超えて上昇することによって、圧力上昇を検出することができる。しかし、測定された圧力信号の勾配を求めることも可能であり、測定された信号の勾配が所定の限界値を超過した場合、圧力上昇が推測される。それに対応して限界値を設定することによって、疎水性フィルタの膜が濡れるのを除外するだけでなく、これを初期段階で認識することが可能である。
【0020】
フォルト中に圧力信号の変動がない場合、音響的および/または光学的警報が発せられることが好ましい。フォルトの場合、体外血液処理装置の制御への干渉も行われることが好ましい。血液ポンプは、血液がベントライン内へ流れ続けないように停止されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】流体システムをモニタする装置を有する体外血液処理用の装置の第1の例示的な実施形態を示す非常に簡略化された概略図である。
【
図2】流体システムをモニタする測定された圧力信号のプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の文章では、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照してより詳細に説明する。
【0023】
図1は、流体システムを監視する装置をもつ体外血液処理装置の第1の例示的な実施形態の本質的な構成要素を示す。体外血液処理装置は、たとえば、血液透析(HD)もしくは血液濾過(HF)用の装置、または血液透析と血液濾過の両方を可能にする装置(血液(透析)濾過装置)とすることができる。この理由のため、血液処理装置は、透析器またはろ過装置を有することができる。
【0024】
以下の文章では、流体システムをモニタする装置をもつ血液処理装置について説明する。実際には、これは、流体システムをモニタする装置が、血液処理装置内にいずれにせよ存在する個々の構成要素を使用する場合である。しかし、モニタ装置が個々のユニットを形成することも可能である。
【0025】
体外血液処理装置、特に血液(透析)濾過装置は、半透性膜2によって第1のチャンバ3と第2のチャンバ4に分けられた透析器1またはろ過装置を備える。動脈血ライン5は、患者から透析器1の第1のチャンバ3の入口3Aへ進む。静脈血ライン6は、血液チャンバ3の出口3Bから患者に至る。血液を運ぶ目的で、動脈血液ライン5内に蠕動血液ポンプ7が配せられる。静脈血ライン6内で血液チャンバ3の下流には、静脈点滴チャンバ8が配せられ、空気が患者に到達するのを防止する。血液は、血液の体外処理中、静脈点滴チャンバ8を通って流れる。処理の前または後に、置換流体、特に塩化ナトリウム溶液が点滴チャンバを通って流れることが可能である。
【0026】
血液は、血液チャンバ3から静脈血ライン6の第1のライン区間6Aを介して、前記点滴チャンバ8のカバー上に構成された静脈点滴チャンバ8の入口8Aへ流れる。血液は、静脈点滴チャンバ8の底面にある出口8Bから、静脈血ライン6のライン区間6Bを介して患者へ流れる。点滴チャンバ内には、流体レベル9が形成される。この例示的な実施形態では、装置10が、流体レベル9、特に血液レベルの高さを監視する。しかし、従来技術から周知のように、この装置は、点滴チャンバが空になるのを除外するために、点滴チャンバが血液で満たされているかどうかを監視するためだけに使用することも可能である。静脈血ライン6のライン区間6B内で静脈点滴チャンバ8の下流には、静脈ロック器具11、特にチューブクランプが構成される。静脈ロック器具(静脈チューブクランプ)11は、電磁作動することができ、フォルトの場合にはこれ以上血液が患者に到達しないように閉鎖することができる。
【0027】
点滴チャンバ8のカバー上の第2の出口8Cからベントライン12が分岐し、三叉路バルブ(三又バルブ)13に至る。三叉路バルブ13は、電磁作動させることができる。三叉路バルブ13の一方の分岐13Aには、ベントライン12内の圧力を測定する測定ユニット14が接続され、他方の分岐13Bには、減圧器15が接続される。
【0028】
ベントライン12内で静脈点滴チャンバ8と三叉路バルブ13の間に、2つのさらなる疎水性フィルタ16、17が配せられ、第1の疎水性フィルタ16は、血液処理装置の筐体(図示せず)の外側に配せられ、第2の疎水性フィルタ17は、血液処理装置の筐体内に配せられ、したがって第1の疎水性フィルタ16にアクセスするのは比較的容易であるが、第2の疎水性フィルタ17にアクセスするのは比較的困難である。この場合も、疎水性フィルタ16、17はどちらも、疎水性膜16A、17Aを有する。
【0029】
体外血液処理装置は、使用者の指定に従って血液処理装置の個々の構成要素を制御するために使用される中央制御および演算ユニット18を備える。この例示的な実施形態では、血液処理装置の中央制御および演算ユニット18はまた、流体システムをモニタする装置の制御ユニットまたは制御および演算ユニットを備える。しかし、モニタ装置はまた、別個の制御ユニットまたは制御および演算ユニットを備えることができる。任意選択で、中央制御および演算ユニット18は、制御ライン7Aを介して血液ポンプ7に接続され、制御ライン11Aを介して静脈チューブクランプ11に接続され、また制御ライン13Cを介して三叉路バルブ13に接続される。制御および演算ユニット18は、データライン10Aを介して血液レベルに対する監視装置10に接続され、またデータライン14Aを介して、ベントライン12内の圧力を測定する測定ユニット14に接続される。
【0030】
さらに、音響的および/または光学的警報を発する警報ユニット19が提供される。警報ユニット19は、データライン19Aを介して制御および演算ユニット18に接続される。
【0031】
体外血液回路Iに加えて、体外血液処理装置は、透析流体回路IIを備える。透析流体回路IIについて、概要のみを説明する。透析流体回路IIは、透析器1の第2のチャンバ4の入口4Aに至る透析流体供給ライン20と、透析流体チャンバの出口4Bから離れる透析流体流出ライン21とを有する。
【0032】
体外血液回路Iを満たすために、中央制御および演算ユニット18は、システムを通気する目的で、減圧器15に接続するように三叉路バルブ13を作動させる。それに続いて、静脈点滴チャンバ8からベントライン12および減圧器15を介して空気を逃がすことができる。逆に、血液処理中は、制御および演算ユニット18は、圧力測定ユニット14に接続するように三叉路バルブ13を作動させる。したがって、ベントラインは端部で閉鎖される。
【0033】
静脈チューブクランプ11が閉鎖され、血液ポンプ7が動作される場合、静脈点滴チャンバ8内で血液レベル9が増大し、その結果、チャンバ8およびベントライン12内で測定ユニット14によって圧力の増大を検出することができる。ベントライン12は端部で閉鎖され、前記チャンバから分岐する。
【0034】
第1に、流体レベルに対する監視装置10は、静脈点滴チャンバ8内で所定の上限血液レベルを超過したときに作動され、この監視装置は、データライン10Aを介して制御および演算ユニット18に接続される。次いで、監視装置10は制御信号を生成し、この制御信号は、制御および演算ユニット18によって受け取られる。
【0035】
制御および演算ユニット18は、監視装置10の制御信号を受け取ると、機械制御に干渉する制御信号を生成するユニット18Aを備える。そのとき、血液ポンプ7は停止され、したがって血液レベル9は引き続き上昇しなくなる。
【0036】
本例示的な実施形態では、流体システムをモニタする本発明のモニタ装置は、流体レベル用の監視装置10が故障したときのみに使用される冗長システムを構成する。また流体システムをモニタする本発明のモニタ装置は、監視装置が静脈点滴チャンバ内の血液の存在だけを監視する場合には、冗長システムとして使用することができる。しかし、本発明によるモニタ装置はまた、監視装置から完全に独立して動作することもできる。ここでは血液について論じたが、本発明によるモニタ装置はまた、処理の前または後に、置換流体によって疎水性フィルタの膜が濡れたり破壊されたりするのを防止することもできる。
【0037】
本発明によるモニタ装置の第1の実施形態では、中央制御および演算ユニット18が、所定の第1の時間間隔にわたって静脈チューブクランプ(静脈ロック器具)11を少なくとも部分的に閉鎖し、次いで所定の第2の時間間隔にわたって静脈チューブクランプ11を完全に再び開放することを実現する。第2の時間間隔は、第1の時間間隔と同一とすることができる。チューブクランプは、交互に開閉される。実際に使用される周知のチューブクランプは、特に安全上の理由で、完全な開閉状態だけを可能にするため、実際には、血液の流れを完全に中断しなければならない。しかし実際には、静脈血ライン6を部分的にのみ閉鎖することも可能である。
【0038】
静脈チューブクランプ11を交互に開閉することで、ベントライン12を備える血液処理装置の流体システム内に周期的な圧力変動を生じさせ、前記周期的な圧力変動は、圧力測定ユニット14によって測定される。制御および演算ユニット18は、フォルトを検出することを可能にするために、測定された圧力信号を評価する。ここで、圧力変動がない場合、フォルトが推測される。圧力変動がないことは、フォルトの場合、直列に構成された2つの疎水性フィルタ16、17の第1のフィルタ16の疎水性膜16Aが血液によって濡れることによって説明される。その結果、疎水性膜16Aは、空気に対して浸透性ではなくなる。それに続いて、体外血液回路I内で生じる圧力変動は、ベントライン12内で疎水性フィルタ16の下流にある圧力測定ユニット14によって検出できなくなる。
【0039】
特に好ましい代替実施形態では、流体システム内の周期的な圧力変動は、静脈チューブクランプ11によって生じるのではなく、血液ポンプ7が動作中であり、静脈ロック器具11が少なくとも部分的に閉鎖されているときに、ベントライン12が所定の時間間隔にわたって通気されることによってもたらされる。血液ポンプ7が動作中であり、静脈チューブクランプ11が閉鎖されているとき、静脈点滴チャンバ8内の血液レベル9は連続して増大し、その結果、端部で閉鎖されたベントライン12内の圧力は増大する。したがって、ベントラインを通気すると、ベントラインおよび静脈点滴チャンバ内で圧力が降下し、点滴チャンバ内の血液レベルが低下する。
【0040】
制御および演算ユニット18は、所定の時間間隔にわたってロック器具11が閉鎖されるように、静脈ロック器具11を作動させる。次いで、この所定の時間間隔Δt中に、制御および演算ユニット18は、減圧器15への接続が交互に開閉され、したがってベントラインが時々通気されるように、三又路バルブ13を作動させる。ベントバルブ13の交互開閉は、空気の体積を圧縮するために使用される蠕動血液ポンプ7の回転と同期されることが好ましい。
【0041】
図2は、圧力測定ユニット14によって測定される圧力信号p(t)を時間tの関数として示す。血液ポンプ7が動作し、静脈ロック器具11が閉鎖されているとき、圧力はまず増大してから、時間間隔Δtが経過した後、時間t1で再び元の値まで低下することがわかる。次いでこのプロセスは周期的に繰り返され、したがって周期変動する圧力信号p(t)が生成され、その信号は測定ユニット14によって測定される。
【0042】
直列に接続された2つの疎水性フィルタ16、17の第1のフィルタ16の膜16Aが血液によって濡れており、したがってフィルタがここでもまた、空気に対して不浸透性になった場合、ベントライン12内の圧力は、元の値まで蓄積できなくなる。これに続いて、圧力信号p(t)の周期変動がないことを使用して、フォルトを確実に推測することができる。
【0043】
中央制御および演算ユニット18は、圧力測定中に圧力信号p(t)をモニタし、すべての通気後、すなわちベントバルブ13を閉鎖した後に、圧力の所定の上昇または低下を検出できるかどうかに関して、検査が実行される。例として、制御および演算ユニット18は、圧力が所定の限界値p1を超えて上昇するかどうかを検査する。例示的な実施形態では、これは、第3の期間後の場合である。この評価により、体積わずか数ミリリットルの血液がポンプでくみ上げられるような短い期間内で疎水性膜が濡れていることの検出を可能にしてから、制御および演算ユニット18は、血液ポンプ7を停止することによって、機械制御に介在する。圧力信号p(t)に対する所定の限界値p1をモニタする代わりに、制御および演算ユニット18は、圧力信号p(t)の勾配を計算およびモニタすることも可能である。ベントバルブ13が閉鎖された後に圧力信号p(t)の勾配が所定の限界値に達しないとき、すなわち圧力信号の著しい増大が記録されなくなったとき、機械的制御の介在が行われる。
【0044】
特に、ベントバルブが閉鎖されているとき、圧力信号p(t)の勾配プロファイルを使用して、流体システム内の残留体積量を推測することができる。ボイル−マリオットの法則は、定温条件での気体の一般等式から得られる。この法則によれば、体積の低減は圧力の増大に相反である。
【0046】
上記の等式により、p
0と比較した絶対圧力pを使用して、V
0と比較した圧縮された残留体積Vを推定することができる。この場合、境界条件は、V
0・p
0=cによって与えられる。定数cは、空気圧システムのコンプライアンスを示す。
【0048】
チューブラインと点滴チャンバはどちらも、生産に依存する公差を受けやすいため、対応するチューブラインおよび点滴チャンバ内に密閉される空気体積の変化を予期することができる。さらに、周囲温度も変動する。実際には、これは、測定値を評価するときに問題となる可能性がある。
【0049】
理想気体の法則pV=nRTは、同一の血液レベルの場合、密閉された空気の体積が変動することだけで、検出される圧力が変化する可能性があることを示す。したがって、操作員が適当な較正プログラムを開始することによって、本発明による測定装置の較正を行うことができる。このため、動脈血ライン5および静脈血ライン6を備えるチューブは第1に、静脈チューブクランプ11が閉鎖されることによって満たされる。血液ポンプ7が低速で動作している状態で、点滴チャンバ8内の血液レベル9が観察される。血液レベルが臨界上限値に到達した後、操作者は、この上限値を、血液ポンプ7が停止されてチューブクランプ11が開放される限界値と規定する。この規定は、それに対応して機械と対話することによって、たとえばボタンを押すことによって行うことができる。温度は、処理の持続時間にわたって、十分に一定であると考えることができる。しかし、温度センサを使用して温度を取得し、測定された圧力信号を評価するときに温度変化も考慮することも可能である。
【0050】
原則的には、圧縮器を使用して静脈点滴チャンバ内の圧力変動を生じさせることが可能であり、液体の圧縮率は無視できるほどであるため、流体レベルは点滴チャンバ内で変化しない。このため、圧縮器は、追加のベントラインを介してシステムに接続することができ、この追加のベントライン内には、少なくとも1つの追加の疎水性フィルタが構成される。次いで、圧縮器を使用して、システム内の空気を交互に圧縮または弛緩させることができる。疎水性フィルタの膜が濡れたことをモニタすると、圧力変化をこれ以上検出することは不可能であり、したがってフォルトを推測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の体外血液処理装置の流体システムを確実にモニタする方法及びその装置、ならびにその流体システムをモニタする装置を有する体外血液処理装置は、フォルトのある場合に疎水性フィルタの膜に貫通するのを少なくとも確実に防止できるだけでなく、体外血液処理装置の流体システムの信頼性を高めることができる産業上の利用可能なものである。