(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1の共通信号に基づいて、前記撮像画像を撮像する時間と、前記中心電極に電圧を印加するタイミングとを制御することを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグの検査方法。
前記撮像画像のうち前記絶縁体と前記環状空間とを含む領域における輝度に基づく情報と、予め設定された閾値とに基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグの検査方法。
前記中心電極に対する印加電圧の微分値を得るとともに、前記微分値が予め設定された判別実施閾値以上となった場合、又は、前記微分値が前記判別実施閾値を上回った場合に、前記撮像画像に基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスパークプラグの検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、中心電極に高電圧を印加した際に生じ得る放電は貫通放電に限られず、中心電極の先端部と主体金具との間において絶縁体の表面を這う放電(いわゆるフラッシュオーバーであり、放電経路の少なくとも一部が絶縁体の先端面を這う経路を含む放電である)も生じ得る。ここで、フラッシュオーバーが生じたときであっても、貫通放電とは異なり、絶縁体の電気的破壊は生じておらず、絶縁体の絶縁性能に特段問題はない。ところが、フラッシュオーバーが生じた場合における印加電圧の波形と、貫通放電が生じた場合における印加電圧の波形との間に大きな違いはなく、上記手法では、フラッシュオーバーが生じたのか、貫通放電が生じたのかを判別することができない。従って、電圧印加時にフラッシュオーバーが生じ、実際には絶縁性能に問題がない製品も不良として扱わざるを得ず、歩留まりの低下を招いてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、絶縁体の絶縁性能の検査においてフラッシュオーバー及び貫通放電をより確実に判別することができ、歩留まりの向上を図ることができるスパークプラグの検査方法及びスパークプラグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成のスパークプラグの検査方法は、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿通される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具とを備え、
前記絶縁体の外周面及び前記主体金具の内周面により形成され、先端側に開口する環状空間を有するスパークプラグの検査方法であって、
前記中心電極に電圧を印加した際に前記絶縁体に電気的破壊が生じるか否かにより、前記絶縁体の絶縁性能を検査し、
前記中心電極に電圧を印加した際に、少なくとも前記中心電極と前記絶縁体と前記環状空間とを含む範囲を前記軸線方向先端側から撮像し、得られた撮像画像に基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0010】
フラッシュオーバーは、絶縁体の先端面を這う放電である一方で、貫通放電は、絶縁体の先端面を這うことなく、絶縁体を貫通し環状空間にて生じる放電である。
【0011】
この点を踏まえて、上記構成1によれば、中心電極に電圧を印加した際に、少なくとも中心電極と絶縁体と環状空間とを含む範囲を軸線方向先端側から撮像し、得られた撮像画像に基づいて電気的破壊の有無を判別するように構成されている。例えば、撮像画像において絶縁体先端面の位置する範囲に放電が存在している場合には、フラッシュオーバーが生じたものであり、絶縁体の電気的破壊は生じていないものと判別することができる。一方で、撮像画像において絶縁体先端面の位置する範囲に放電が存在しておらず、環状空間に放電が存在している場合には、貫通放電が生じたものであり、絶縁体の電気的破壊が生じているものと判別することができる。
【0012】
以上のように、上記構成1によれば、軸線方向先端側から撮像して得られた撮像画像に基づいて、フラッシュオーバー及び貫通放電(電気的破壊の有無)をより確実に判別することができる。その結果、絶縁体における絶縁性能の良・不良をより正確に検査することができ、歩留まりの向上を図ることができる。
【0013】
構成2.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成1において、1の共通信号に基づいて、前記撮像画像を撮像する時間と、前記中心電極に電圧を印加するタイミングとを制御することを特徴とする。
【0014】
上記構成2によれば、撮像画像を撮像する時間(タイミング)と、中心電極に電圧を印加するタイミングとを容易に合わせることができ、中心電極に電圧が印加されている最中(一瞬の放電が生じているとき)におけるスパークプラグをより確実に撮像することができる。従って、撮像画像に基づく電気的破壊の有無の判別をより正確に行うことができ、検査精度をより高めることができる。
【0015】
構成3.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成1又は2において、前記撮像画像のうち前記絶縁体と前記環状空間とを含む領域における輝度に基づく情報と、予め設定された閾値とに基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0016】
フラッシュオーバーと貫通放電とは放電の態様が異なるため、フラッシュオーバーが生じた場合における輝度に基づく情報と、貫通放電が生じた場合における輝度に基づく情報とは異なるものとなる。
【0017】
この点を利用して、上記構成3によれば、絶縁体における電気的破壊の有無を自動で判別することができる。従って、検査精度を一層高めることができるとともに、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0018】
尚、輝度に基づく情報と閾値とに基づく電気的破壊の有無の判別手法としては、例えば、次述する構成4〜7の手法を挙げることができる。
【0019】
構成4.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成3において、前記情報は、前記領域内の各画素の輝度であり、
前記各画素の輝度及び前記閾値に基づいて前記領域を二値化処理し、二値化画像を得るとともに、
前記二値化画像において輝度の高い方を示す部分の重心座標を算出し、当該重心座標に基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0020】
貫通放電が生じた場合、撮像画像においては、環状空間が位置する範囲に放電が存在するため、絶縁体と環状空間とを含む領域内において、高輝度部分は中心電極から離間した側に存在することとなる。一方で、フラッシュオーバーが生じた場合、撮像画像においては、中心電極と主体金具とを結ぶようにして放電が存在するため、前記領域内において、高輝度部分は中心電極側にも存在することとなる。
【0021】
この点を鑑みて、上記構成4によれば、二値化画像において輝度の高い方を示す部分(放電による高輝度部分)の重心座標を算出し、当該重心座標に基づいて電気的破壊の有無を判別するように構成されている。例えば、重心座標が中心電極の中心側に存在している場合には、フラッシュオーバーが生じたものであり、電気的破壊は生じていないものと判別することができる。一方で、重心座標が中心電極の中心から離間した位置に存在している場合には、貫通放電が生じたものであり、電気的破壊が生じているものと判別することができる。すなわち、上記構成4によれば、貫通放電とフラッシュオーバーとの間における放電発生位置の違いに基づいて、電気的破壊の有無を精度よく判別することができる。
【0022】
構成5.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成3において、前記情報は、前記領域内の各画素の輝度であり、
前記各画素の輝度及び前記閾値に基づいて前記領域を二値化処理し、二値化画像を得るとともに、
前記二値化画像において、輝度の高い方を示す部分が、前記中心電極が位置する範囲から前記環状空間が位置する範囲まで連続するか否かに基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0023】
上記構成5によれば、二値化画像において輝度の高い方を示す部分(放電による高輝度部分)が、中心電極の位置する範囲から環状空間の位置する範囲まで連続するか否かに基づいて電気的破壊の有無を判別するように構成されている。例えば、輝度の高い方を示す部分が、中心電極の位置する範囲から環状空間の位置する範囲まで連続している場合には、フラッシュオーバーが生じたものであり、電気的破壊は生じていないものと判別することができる。一方で、輝度の高い方を示す部分が、中心電極の位置する範囲から環状空間の位置する範囲まで連続していない場合には、貫通放電が生じたものであり、電気的破壊が生じているものと判別することができる。すなわち、上記構成5によれば、貫通放電とフラッシュオーバーとの間における放電発生位置の違いに基づいて、電気的破壊の有無を精度よく判別することができる。
【0024】
構成6.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成3において、前記情報は、前記領域内の平均輝度であり、
前記平均輝度と前記閾値とを比較することで前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0025】
貫通放電では、環状空間で放電が生じるため、放電による光が軸線方向先端側(撮像画像を撮像するための撮像装置)に届きにくい。そのため、貫通放電が生じた場合、撮像画像は全体的に暗くなり、前記領域内には輝度の小さな画素が多く存在することとなる。一方で、フラッシュオーバーでは、絶縁体の先端面を這う放電が生じるため、放電による光が軸線方向先端側(撮像装置)に届きやすい。そのため、フラッシュオーバーが生じた場合、撮像画像は全体的に明るくなり、前記領域内には輝度の大きな画素が多く存在することとなる。
【0026】
この点を鑑みて、上記構成6によれば、前記領域内の平均輝度と閾値とを比較することで電気的破壊の有無を判別するように構成されている。例えば、平均輝度が閾値以上となっている場合には、フラッシュオーバーが生じたものであり、電気的破壊は生じていないものと判別することができる。一方で、平均輝度が閾値未満となっている場合には、貫通放電が生じたものであり、電気的破壊が生じているものと判別することができる。すなわち、上記構成6によれば、放電発生位置の違いにより撮像画像の輝度に違いが生じることに基づいて、電気的破壊の有無をより確実に判別することができる。
【0027】
構成7.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成3において、前記情報は、前記領域内の各画素の輝度であり、
前記画素のうち前記閾値と比較した際に予め設定された関係を満たす輝度を有するものの総量に基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0028】
上記構成7によれば、前記領域内における画素のうち所定の関係を満たすものの総量に基づいて電気的破壊の有無を判別するように構成されている。例えば、前記閾値と比較した際に予め設定された関係を満たす(例えば、輝度が前記閾値以上の)画素の総量が所定値以上となっている場合には、フラッシュオーバーが生じたものであり、電気的破壊は生じていないものと判別することができる。一方で、前記閾値と比較した際に前記関係を満たす(例えば、輝度が前記閾値以上の)画素の総量が所定値未満となっている場合には、貫通放電が生じたものであり、電気的破壊が生じているものと判別することができる。すなわち、上記構成7によれば、放電発生位置の違いにより各画素の輝度に差が生じることに基づいて、電気的破壊の有無をより確実に判別することができる。
【0029】
尚、検査にあたっては、上記構成4〜7のうちのいずれか1つの構成のみを用いてもよいし、上記構成4〜7のうちの2つ以上の構成を用いてもよい。
【0030】
構成8.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成1乃至7のいずれかにおいて、前記中心電極に対する印加電圧の微分値を得るとともに、前記微分値が予め設定された判別実施閾値以上となった場合、又は、前記微分値が前記判別実施閾値を上回った場合に、前記撮像画像に基づいて前記電気的破壊の有無を判別することを特徴とする。
【0031】
上記構成8によれば、得られた撮像画像の全てにおいて電気的破壊の有無を判別することはなく、中心電極に対する印加電圧の微分値が判別実施閾値以上又は判別実施閾値を上回った場合に、電気的破壊の有無を判別するように構成されている。すなわち、中心電極に電圧を印加した際に、中心電極と主体金具との間で放電(フラッシュオーバー又は貫通放電)が生じたスパークプラグのみを検査対象とするように構成されている。従って、検査を行う際の処理負担を軽減することができるとともに、検査時間の更なる短縮化を図ることができる。
【0032】
構成9.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成1乃至8のいずれかにおいて、前記判別の後に、前記中心電極に電圧を印加した際に、前記中心電極に電圧を印加し、前記絶縁体に絶縁破壊が生じたか否かを検査する検査工程を備え、前記検査工程は、前記スパークプラグから発生する振動波を受信し、前記振動波を表す振動波信号を高速フーリエ変換してパワースペクトラムを求めた後に、前記パワースペクトラムにおける所定の周波数範囲の積分値を算出する算出工程と、前記積分値を利用して、前記絶縁体の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
【0033】
上記構成9によれば、前記判別に加えて、スパークプラグから発生する振動波を表す振動波信号を高速フーリエ変換してパワースペクトラムを求め、パワースペクトラムにおける所定の周波数範囲の積分値を算出することで、絶縁体の絶縁破壊の有無を判定している。すなわち、パワースペクトラムの積分値を利用して判定工程を行うことで絶縁体の絶縁破壊による放電と絶縁体の絶縁破壊以外に起因する放電との判別を精度良く行なうことができる。
【0034】
構成10.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成9において、前記判定工程は、前記積分値と所定の閾値とを比較することで前記絶縁体の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定しても良い。
【0035】
上記構成10によれば、積分値と所定の閾値とを比較することで絶縁体の絶縁破壊による放電の発生を容易に判定できる。
【0036】
構成11.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成9において、前記算出工程は、前記パワースペトラムにおける前記所定の周波数範囲に含まれる第1の周波数範囲の前記積分値である第1の積分値と、前記所定の周波数範囲に含まれると共に前記第1の周波数範囲と異なる範囲の第2の周波数範囲の前記積分値である第2の積分値との比を算出する工程を含み、前記判定工程は、前記比に基づいて前記絶縁体の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定しても良い。
【0037】
ここで、発生する振動波の強度は、印加電圧の大きさによって変化する場合がある。しかしながら、パワースペクトラムの大きさは変化したとしても、形状自体は変化しない。よって、上記構成11によれば、第1と第2の積分値の比に基づいて判定工程を行うことで、中心電極に印加する電圧の大きさが異なった場合でも、一定の判定基準によって絶縁体の絶縁破壊による放電の発生を容易に判定できる。
【0038】
構成12.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成9乃至11のいずれかにおいて、前記所定の周波数範囲は、1MHz以下の範囲であっても良い。
【0039】
ここで、絶縁体の絶縁破壊による放電やその他の放電(例えば、フラッシュオーバー)によって発生する振動波は1MHz以下が支配的である。よって、上記構成12によれば、検査工程において放電の判定を行うためのデータを必要最小限に抑えつつ、絶縁体の絶縁破壊による放電を精度良く判定できる。
【0040】
構成13.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成9乃至12のいずれかにおいて、前記検査工程は、前記所定の電圧を印加する前に、大気圧よりも高い圧力に圧縮された圧縮気体と、絶縁液のいずれか一方で前記中心電極の先端部を含む空間を充填する工程を含んでも良い。
【0041】
上記構成13によれば、圧縮気体と絶縁液のいずれか一方を用いて中心電極の先端部を含む空間を充填できる。これにより、中心電極と接地電極との間で発生する正常な放電の発生を抑制して検査工程を行うことができる。
【0042】
構成14.本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成9乃至13において、さらに、前記絶縁体の絶縁破壊よる放電によって前記被検査体から発生する前記振動波から求めた前記積分値である第1の特定積分値と、前記絶縁体の絶縁破壊に起因することなく生じた放電によって前記被検査体から発生する前記振動波から求めた前記積分値である第2の特定積分値とを、前記パワースペクトラムの異なる複数の周波数範囲ごとにそれぞれ算出し、前記異なる複数の周波数範囲のうち前記第1と第2の特定積分値の差が最も大きくなる特定周波数範囲を決定する決定工程を含み、前記算出工程は、前記決定工程で決定した前記特定周波数範囲を前記所定の周波数範囲として用いても良い。
【0043】
上記構成14によれば、第1と第2の特定積分値の差が最も大きくなる特定周波数範囲を所定の周波数範囲とすることで、積分値を利用して絶縁体の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する判定工程をより精度良く行なうことができる。
【0044】
構成15.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成1乃至14のいずれかに記載の検査方法を実施する工程を含むことを特徴とする。
【0045】
上記構成15によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0046】
構成16.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成15において、前記主体金具の先端部に配設された直棒状の接地電極を屈曲させる工程を含み、前記接地電極を屈曲させる工程の前に、前記検査方法を実施することを特徴とする。
【0047】
上記構成16によれば、中心電極と接地電極との間で発生する正常な放電の発生を抑制して検査を行うことができる。また、撮像画像を得る際に、接地電極によって中心電極と絶縁体と環状空間とを含む範囲の一部が隠れてしまうといった事態を防止することができ、前記範囲の全域を含む撮像画像をより確実に得ることができる。従って、フラッシュオーバー及び貫通放電(電気的破壊の有無)をより一層確実に判別することができ、絶縁性能の良・不良を一層正確に検査することができる。
【0048】
構成17.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成15又は16において、前記主体金具の外周にガスケットを組み付ける組付工程を含み、前記組付工程の前に、前記検査方法を実施することとしても良い。
【0049】
上記構成17によれば、前記判別又は前記判定の際に必要の無い部品を組み付けることなく検査を行うことができる。すなわち、検査によって、絶縁破壊による放電が生じたと判定されたスパークプラグは、不良品として扱われる。よって、不良品にガスケットを組み付けることを防止できる。
【0050】
構成18.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成15乃至17において、さらに、前記検査方法を実施した後に、前記判別又は前記判定によって、前記絶縁体の絶縁破壊が生じたと判定したスパークプラグを製造過程から排除する排除工程を含んでも良い。
【0051】
上記構成18によれば、絶縁体の絶縁破壊が生じた不良品を完成品として製造することを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、スパークプラグ1の検査装置101の概略構成を示す模式図である。検査装置101は、スパークプラグ1の製造工程において、後述する絶縁碍子2の絶縁性能(耐電圧性能)を検査する際に用いられるものである。
【0054】
まず、検査装置101の説明に先立って、検査対象であるスパークプラグ1の構成について説明する。
図2は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、
図2では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0055】
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0056】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0057】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿通されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0058】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0059】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0060】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15よりも後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19と、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20とが設けられている。
【0061】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0062】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0063】
また、主体金具3の先端部26には、自身の中間部分にて曲げ返されて、自身の先端側側面が中心電極5の先端部と対向する棒状の接地電極27が接合されている。そして、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間には火花放電間隙28が形成されており、当該火花放電間隙28において軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0064】
さらに、スパークプラグ1の先端部には、絶縁碍子2(脚長部13)の外周面と主体金具3の内周面とにより形成され、先端側に開口する環状空間29が設けられている。
次いで、検査装置101について説明する。
図1に示すように、検査装置101は、電圧印加装置51と、微分値取得装置61と、撮像装置71と、処理装置81と、信号発生装置91とを備えている。
【0065】
電圧印加装置51は、中心電極5に対して高電圧を印加するものであり、一次コイル52、二次コイル53、コア54、イグナイタ55、及び、電極供給用のバッテリ56を備えている。
【0066】
一次コイル52は、前記コア54を中心に巻回されており、その一端がバッテリ56に接続されるとともに、その他端がイグナイタ55に接続されている。また、二次コイル53は、前記コア54を中心に巻回されており、その一端が一次コイル52及びバッテリ56間に接続されている。加えて、二次コイル53の他端は、後述する絶縁碍子2の絶縁性能の検査において、スパークプラグ1(端子電極6)に接続されるようになっている。
【0067】
加えて、イグナイタ55は、所定のトランジスタにより形成されており、前記信号発生装置91から出力される共通信号が入力されるようになっている。そして、イグナイタ55は、入力される共通信号に基づいて、バッテリ56から一次コイル52に対する電力の供給及び供給停止を切り替える。中心電極5に高電圧を印加する場合には、
図3に示すように、信号発生装置91からの共通信号をオフからオンに切り替えることにより、バッテリ56から一次コイル52に電流を流し、前記コア54の周囲に磁界を形成する。その上で、信号発生装置91からの共通信号がオンからオフに切り替えられることにより、バッテリ56から一次コイル52に対する通電を停止する。通電の停止により前記コア54の磁界が変化し、二次コイル53に負極性の高電圧(例えば、30kV〜50kV)が発生するとともに、発生した高電圧が端子電極6を介して中心電極5に印加される。
【0068】
微分値取得装置61は、スパークプラグ1及び電圧印加装置51間の通電経路に設けられており、中心電極5に対する印加電圧の微分値を取得する装置である。ここで、中心電極5に電圧を印加した際において、中心電極5と主体金具3との間で放電(フラッシュオーバー又は貫通放電)が生じなかった場合には、
図4(a)に示すように、中心電極5に対する印加電圧は比較的なだらかに変化するため、前記微分値の絶対値はそれぞれ比較的小さなものとなる。一方で、中心電極5に電圧を印加した際において、中心電極5と主体金具3との間で放電(フラッシュオーバー又は貫通放電)が生じた場合には、
図4(b)に示すように、放電時に中心電極5に対する印加電圧が急激に変化するため、比較的大きな絶対値を有する微分値が表れることとなる。本実施形態において、微分値取得装置61は、得られた微分値が予め設定された判別実施閾値VT以上となった場合に、所定の判別実施要求信号を処理装置81に対して出力するようになっている。
【0069】
撮像装置71は、所定のCCDカメラにより構成されており、暗所に配置されたスパークプラグ1の先端部を軸線CL1方向先端側から撮像し、撮像画像を得る。具体的には、撮像装置71は、少なくとも中心電極5と絶縁碍子2と環状空間29とを含む範囲を軸線CL1方向先端側から撮像し、前記範囲を含む撮像画像を得る。また、信号発生装置91から入力される共通信号に基づいて、撮像装置71におけるシャッターの開放タイミング〔つまり、撮像画像を撮像する時間(タイミング)〕が制御される。すなわち、
図3に示すように、信号発生装置91から入力される共通信号がオンとなると、シャッターが開放され、スパークプラグ1の撮像が開始されることとなる。
【0070】
また、撮像装置71は、シャッターの開放時間(撮像時間)T2が、共通信号をオンとしてからオフとするまでの時間T1よりも十分に長くなるように設定されている。そのため、シャッターが開放されているときに、電圧印加装置51から中心電極5に電圧が印加されることとなり、撮像装置71は、中心電極5に電圧が印加されている最中におけるスパークプラグ1を撮像できるようになっている。
【0071】
加えて、撮像装置71により得られた撮像画像は、処理装置81に入力される。処理装置81は、微分値取得装置61から判別実施要求信号が入力された際のみ、前記撮像画像に基づいて絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別する。すなわち、中心電極5と主体金具3との間で放電が生じたスパークプラグ1のみを対象として、生じた放電がフラッシュオーバーである(絶縁碍子2に電気的破壊は生じていない)のか、貫通放電である(絶縁碍子2に電気的破壊が生じている)のかを判別する。本実施形態において、処理装置81は、撮像画像のうち絶縁碍子2と環状空間29とを含む領域における輝度に基づく情報と、予め設定された閾値とに基づいて絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別する。
【0072】
詳述すると、処理装置81は、撮像画像のうち絶縁碍子2と環状空間29とを含む領域内における各画素の輝度(本発明の「情報」に相当する)を前記閾値と比較することで、前記領域を二値化処理し、二値化画像を得る。そして、二値化画像において輝度の高い方を示す部分の重心座標を算出し、算出された重心座標に基づいて絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別する。
【0073】
具体的には、フラッシュオーバーが生じていた場合、
図5に示すように、得られた撮像画像IM1において、輝度の高い部分RA(放電による高輝度部分であり、
図5中、散点模様を付した部分)は、中心電極5が位置する範囲から環状空間29が位置する範囲まで連続している。そして、このような撮像画像IM1を二値化処理して得られた二値化画像IM2においては、
図6(
図6中において斜線を付した部分は、輝度の低い方を示す部分である)に示すように、輝度の高い方を示す部分HBは、中心電極5が位置する範囲から環状空間29が位置する範囲まで連続し、前記部分HBの重心座標CGは、中心電極5の中心に比較的接近した位置に存在する。従って、重心座標CGの位置が中心電極5側にある場合(例えば、重心座標CGが絶縁碍子2の位置する範囲内にある場合など、重心座標CGから中心電極5の中心までの距離が所定値以下である場合)に、フラッシュオーバーが生じており、絶縁碍子2に電気的破壊は生じていない(つまり、絶縁碍子2の絶縁性能は良好である)と判別する。
【0074】
一方で、貫通放電が生じていた場合、
図7に示すように、得られた撮像画像IM1において、輝度の高い部分RA(放電による高輝度部分であり、
図7中、散点模様を付した部分)は、主として環状空間29が位置する範囲に存在している。そして、このような撮像画像IM1を二値化処理して得られた二値化画像IM2においては、
図8(
図8中において斜線を付した部分は、輝度の低い方を示す部分である)に示すように、輝度の高い方を示す部分HBは、主として環状空間29が位置する範囲に存在し、前記部分HBの重心座標CGは、中心電極5の中心から比較的離間した位置に存在する。従って、重心座標CGの位置が中心電極5の中心から離間した位置にある場合(例えば、重心座標CGが環状空間29の位置する範囲内にある場合など、重心座標CGから中心電極5の中心までの距離が前記所定値よりも大きい場合)に、貫通放電が生じており、絶縁碍子2に電気的破壊が生じている(つまり、絶縁碍子2の絶縁性能に問題がある)と判別する。
【0075】
また、処理装置81は、判別結果を所定の表示手段(図示せず)に表示するようになっている。
【0076】
信号発生装置91は、電圧印加装置51及び撮像装置71のそれぞれに入力される共通信号を出力するものである。本実施形態では、上述の通り、1の共通信号に基づいて、電圧印加装置51による中心電極5に対する電圧の印加タイミングと、撮像装置71による撮像画像の撮像時間(撮像タイミング)とが制御されている。
【0077】
次いで、スパークプラグ1の製造方法について説明する。
【0078】
まず、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用いて、成形用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体を得る。そして、得られた成形体に対して研削加工を施すことにより、その外形を整形した上で、整形された成形体に焼成加工を施すことにより絶縁碍子2が得られる。
【0079】
さらに、絶縁碍子2とは別に中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。
【0080】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に充填された後、後方から前記端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱することにより焼き固められる。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10の表面には釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
【0081】
次に、主体金具3を加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えばS17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)に冷間鍛造加工等を施すことで貫通孔を形成するとともに、概形を形成する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。
【0082】
続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金等からなる直棒状の接地電極27を抵抗溶接する。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の接合された主体金具3が得られる。尚、耐食性の向上を図るべく、接地電極27の溶接された主体金具3に対してメッキ処理を施すこととしてもよい。
【0083】
次いで、上記のようにそれぞれ作製された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが固定される。具体的には、主体金具3に対して、その後端側開口から絶縁碍子2を挿入した上で、主体金具3の後端部を軸線CL1方向に沿って押圧し、前記後端部を径方向内側に向けて屈曲させること(すなわち、加締め部20を形成すること)により、絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0084】
次いで、前記検査装置101を用いて、絶縁碍子2の絶縁性能を検査する。まず、
図1に示すように、先端部が上方を向くようにスパークプラグ1を支持するとともに、主体金具3の先端部を筒状のチューブTUに挿入する。その上で、チューブTU内に絶縁油IOを注入し、絶縁油IOにより環状空間29を満たすとともに、中心電極5や絶縁碍子2の先端部の周囲に絶縁油IO内を配置する。これにより、中心電極5の先端部と主体金具3との間における絶縁抵抗値を増大させることができ、フラッシュオーバーの発生を抑制することができる(但し、フラッシュオーバーが決して生じないわけではない)。尚、本実施形態において、絶縁油IOは透明であり、濁度が100NTU以下とされている(「NTU」とは、ホルマジン濁度標準を使用したホルマジン濁度の測定単位をいう)。
【0085】
次いで、信号発生装置91から出力されている共通信号をオンとする。これにより、撮像装置71のシャッターが開放され、絶縁油IOを通した中心電極5や絶縁碍子2等を含む領域の撮像が開始されるとともに、バッテリ56から一次コイル52に対する通電が開始される。そして、共通信号をオンからオフに切り替えることで、電圧印加装置51から中心電極5に対して電圧が印加されるとともに、撮像装置71により中心電極5に電圧が印加されている最中におけるスパークプラグ1の撮像画像が得られる。そして、得られた撮像画像は、処理装置81に入力される。
【0086】
処理装置81は、入力された撮像画像の全てにおいて電気的破壊の有無を判別することはなく、微分値取得装置61から判別実施要求信号が入力されたスパークプラグ1に関する撮像画像のみにおいて電気的破壊の有無を判別する。電気的破壊の有無は、上述の通り、撮像画像から二値化画像を得た上で、二値化画像中における輝度の高い方の部分HBの重心座標CGに基づいて判別される。そして、判別結果が前記表示手段に表示される。
【0087】
絶縁碍子2における絶縁性能の検査を行った後、接地電極27を中心電極5側に屈曲させ、火花放電間隙28を形成する。すなわち、本実施形態では、絶縁碍子2における絶縁性能の検査は接地電極27を屈曲させる前に行われるようになっている。
【0088】
火花放電間隙28の形成後、当該火花放電間隙28の大きさを微調整することで、上述のスパークプラグ1が得られる。
【0089】
以上詳述したように、本実施形態によれば、軸線CL1方向先端側から撮像して得られた撮像画像に基づいて、フラッシュオーバー及び貫通放電(電気的破壊の有無)をより確実に判別することができる。その結果、絶縁碍子2における絶縁性能の良・不良をより正確に検査することができ、歩留まりの向上を図ることができる。
【0090】
また、1の共通信号に基づいて、撮像画像を撮像する時間と、中心電極5に電圧を印加するタイミングとが制御されている。従って撮像画像を撮像する時間(タイミング)と、中心電極5に電圧を印加するタイミングとを容易に合わせることができ、中心電極5に電圧が印加されている最中(一瞬の放電が生じているとき)におけるスパークプラグ1をより確実に撮像することができる。その結果、撮像画像に基づく電気的破壊の有無の判別をより正確に行うことができ、検査精度をより高めることができる。
【0091】
加えて、本実施形態では、処理装置81により、絶縁碍子2における電気的破壊の有無を自動で判別できるようになっている。従って、検査精度を一層高めることができるとともに、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0092】
さらに、本実施形態では、得られた撮像画像の全てにおいて電気的破壊の有無を判別することはなく、中心電極5に対する印加電圧の微分値が判別実施閾値VT以上となった場合に、電気的破壊の有無を判別するように構成されている。すなわち、中心電極5に電圧を印加した際に、中心電極5と主体金具3との間で放電(フラッシュオーバー又は貫通放電)が生じたスパークプラグ1のみを検査対象とするように構成されている。従って、検査を行う際の処理負担を軽減することができるとともに、検査時間の更なる短縮化を図ることができる。
【0093】
また、本実施形態では、接地電極27を屈曲させる前に、絶縁碍子2における絶縁性能の検査が実施されている。従って、撮像画像を得る際に、接地電極27によって中心電極5と絶縁碍子2と環状空間29とを含む範囲の一部が隠れてしまうといった事態を防止することができ、前記範囲の全域を含む撮像画像をより確実に得ることができる。その結果、フラッシュオーバー及び貫通放電(電気的破壊の有無)をより一層確実に判別することができ、絶縁性能の良・不良を一層正確に検査することができる。
【0094】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0095】
(a)上記実施形態において、微分値取得装置61は、得られた微分値が判別実施閾値VT以上となった場合に、判別実施要求信号を処理装置81に対して出力するようになっているが、前記微分値が判別実施閾値VTを上回った場合に、判別実施要求信号を処理装置81に出力するように構成してもよい。
【0096】
(b)上記実施形態において、処理装置81は、二値化画像IM2における輝度の高い方の部分HBの重心座標CGに基づいて絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別している。これに対して、二値化画像IM2において輝度の高い方の部分HBが、中心電極5が位置する範囲から環状空間29が位置する範囲まで連続するか否かに基づいて電気的破壊の有無を判別してもよい。
【0097】
詳述すると、フラッシュオーバーは、中心電極5の先端部と主体金具3とを結ぶように生じるため、撮像画像においては、中心電極5と主体金具3とを結ぶようにして輝度の高い部分が存在する。この点を踏まえて、輝度の高い方の部分HBが、中心電極5の位置する範囲から環状空間29が位置する範囲まで連続している場合、処理装置81は、フラッシュオーバーが生じており、絶縁碍子2に電気的破壊は生じていない(絶縁碍子2の絶縁性能は良好である)と判別する。
【0098】
一方で、貫通放電は、絶縁碍子2を貫通するため、撮像画像において、輝度の高い方の部分HBは環状空間29及びその周辺にのみ存在し、中心電極5先端部の周囲には存在しない。この点を踏まえて、二値化画像において、輝度の高い方の部分HBが中心電極5の位置する範囲から環状空間29が位置する範囲まで連続していない場合、処理装置81は、貫通放電が生じており、絶縁碍子2に電気的破壊が生じている(絶縁性能に問題がある)と判別する。
【0099】
(c)上記実施形態では、撮像画像から得られた二値化画像に基づいて、絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別しているが、必ずしも二値化画像を得る必要はなく、撮像画像に基づいて電気的破壊の有無を判別してもよい。
【0100】
従って、例えば、撮像画像のうち絶縁碍子2と環状空間29とを含む領域内における各画素の輝度を求めるとともに、前記領域内における平均輝度(本発明の「情報」に相当する)を算出し、算出された平均輝度と予め設置された閾値とを比較することで、絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別してもよい。
【0101】
詳述すると、フラッシュオーバーは、中心電極5の先端部と主体金具3との間において絶縁碍子2の先端面を這うようにして生じるため、撮像装置71に光が届きやすくなり、絶縁碍子2が位置する範囲及び環状空間29が位置する範囲のそれぞれにおいて輝度が比較的大きなものとなる。従って、撮像画像において、前記領域内における各画素の輝度は比較的大きなものとなり、
図9に示すように、平均輝度も大きなものとなる。この点を踏まえて、平均輝度が前記閾値以上又は前記閾値よりも大きくなっている場合、処理装置81は、フラッシュオーバーが生じており、絶縁碍子2に電気的破壊は生じていない(絶縁碍子2の絶縁性能は良好である)と判別する。
【0102】
一方で、貫通放電の場合、環状空間29にて放電が生じるため、撮像装置71に光が届きにくくなり、環状空間29が位置する範囲の輝度は比較的大きくなるものの、絶縁碍子2が位置する範囲の輝度は比較的小さく、ひいては平均輝度も比較的小さなものとなる。この点を踏まえて、平均輝度が前記閾値よりも小さい又は前記閾値以下となっている場合、処理装置81は、貫通放電が生じており、絶縁碍子2に電気的破壊が生じている(絶縁碍子2の絶縁性能に問題がある)と判別する。
【0103】
また、例えば、撮像画像のうち絶縁碍子2と環状空間29とを含む領域内の各画素の輝度(本発明の「情報」に相当する)を求め、前記画素のうち予め設定された閾値と予め設定された関係を満たす輝度を有するものの総量(本別例では、前記閾値以上又は前記閾値超の輝度となっている画素の総量)に基づいて、絶縁碍子2における電気的破壊の有無を判別してもよい。
【0104】
詳述すると、フラッシュオーバーが生じている場合には、前記領域内において高輝度の画素が多くなるため、前記総量も比較的大きなものとなる。この点を踏まえて、前記総量が予め設定された判定値以上又は判定値よりも大きくなっている場合、処理装置81は、フラッシュオーバーが生じており、絶縁碍子2に電気的破壊は生じていない(絶縁碍子2の絶縁性能は良好である)と判別する。
【0105】
一方で、貫通放電が生じている場合、前記領域内において高輝度の画素は少なくなるため、前記総量は比較的小さなものとなる。この点を踏まえて、前記総量が前記判定値未満又は前記判定値以下となっている場合、処理装置81は、貫通放電が生じており、絶縁碍子2に電気的破壊が生じている(絶縁碍子2の絶縁性能に問題がある)と判別する。
尚、本別例では、関係として、輝度と閾値との大小関係を挙げているが、前記関係は、適宜変更可能である。
【0106】
(d)上記実施形態では、絶縁性能の検査の際に、フラッシュオーバーの発生を抑制すべく、中心電極5や絶縁碍子2の先端部の周囲に絶縁油IO内が配置された状態で、中心電極5に電圧が印加されているが、中心電極5や絶縁碍子2の先端部の周囲に高圧ガス(例えば、高圧エア)を充填した状態で、中心電極5に電圧を印加してもよい。尚、絶縁性能の検査の際に、必ずしも絶縁油IOや高圧ガスを用いなくてもよい。
【0107】
(e)上記実施形態において、処理装置81は、微分値取得装置61から判別実施要求信号が入力されたスパークプラグ1に関する撮像画像のみにおいて電気的破壊の有無を判別しているが、得られた撮像画像の全てにおいて電気的破壊の有無を判別してもよい。
【0108】
本構成のスパークプラグの検査方法は、上記構成1乃至8のいずれかにおいて、前記判別の後に、前記中心電極に電圧を印加した際に、前記中心電極に電圧を印加し、前記絶縁体に絶縁破壊が生じたか否かを検査する検査工程を備え、前記検査工程は、前記スパークプラグから発生する振動波を受信し、前記振動波を表す振動波信号を高速フーリエ変換してパワースペクトラムを求めた後に、前記パワースペクトラムにおける所定の周波数範囲の積分値を算出する算出工程と、前記積分値を利用して、前記絶縁体の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する判定工程と、を含む。
【0109】
以下に、前記検査工程について、説明する。
【0110】
図10は、検査工程で用いる検査装置60を説明するための図である。
図10には、検査装置60にセットされた被検査体100tも図示している。また、理解の容易のために、検査装置60内部の構造や、内部に配置された被検査体100tの一部も実線で描いている。
【0111】
検査装置60は、設置台62と、ケーシング65と、加圧キャップ66と、アコースティック・エミッションセンサ(「AEセンサ」とも呼ぶ。)74と、を備える。設置台62には貫通孔が形成され、貫通孔から被検査体100tが検査装置60に設置される。加圧キャップ66は有底筒状であり、内側には被検査体100tの先端側部分が配置される。詳細には、加圧キャップ66に被検査体100tが取り付けられると、加圧キャップ66内部に空間72が形成される。空間72には、中心電極5の先端部5tを含む被検査体100tの先端側部分が配置されている。なお、被検査体100tが検査装置60に設置された場合、接地電極27は接地される。
【0112】
加圧キャップ66には、外部と加圧キャップ66内部に形成された空間72を連通させるための流通流路68が形成されている。検査工程において、流通流路68を介して空間72には、絶縁液と大気圧よりも高い圧力に圧縮された圧縮気体(圧縮空気)のいずれか一方が充填される。本実施形態では、圧縮空気を用いた。なお、圧縮気体を用いる場合は、空間72が所定の圧力(例えば、0.8MPa〜3.5MPa)に加圧される。
【0113】
ケーシング65は、加圧キャップ66の周囲を取り囲むように配置されている。また、ケーシング65には、AEセンサ74が取り付けられている。AEセンサ74は、図示しないパーソナルコンピュータ(PC)に電気的に接続されている。AEセンサ65は、接地電極27と中心電極5との間に所定の電圧を印加した際に発生する振動波を受信して振動波信号に変換する。振動波信号は、PCに組み込まれた解析プログラムによって解析される。検査工程で行なわれる解析の詳細は後述する。
【0114】
図11は、検査工程に関する第1実施形態のフローチャートである。検査工程は、被検査体100tを検査装置60に設置した後に開始される。検査工程は、充填工程(ステップS22)と、算出工程(ステップS24)と、判定工程(ステップS26)とを含む。
【0115】
充填工程は、先端部5tを含む空間72(
図10)に流通流路68を介して、圧縮気体と絶縁液のいずれか一方を充填し、空間72を大気圧よりも高い所定の圧力に加圧する工程である(ステップS22)。
【0116】
算出工程は以下の手順により行なわれる(ステップS24)。まず、検査装置60に設置した被検査体100tに所定の電圧を印加した場合に、被検査体100tから発生する振動波をAEセンサ74で受信する。そして、AEセンサ74は、受信した振動波を振動波信号に変換する。そして、PCに組み込まれた解析プログラムは、振動波信号を高速フーリエ変換(FFT)することでパワースペクトラムを求める。そして、解析プログラムは、パワースペクトラムにおける所定の周波数範囲(例えば、800〜1000kHz)の積分値を算出する。
【0117】
判定工程は、算出工程で求めた積分値を利用して、算出工程の際に生じた振動波が絶縁碍子2の絶縁破壊によって生じた放電に起因するか否かを判定する(ステップS26)。詳細には、判定工程では、予め決定した所定の閾値と積分値とを比較することで絶縁碍子2の絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する。本実施形態において、判定工程では、算出工程で求めた積分値が所定の閾値よりも大きい場合は、気中放電が生じたと判定し、算出工程で求めた積分値が所定の閾値よりも小さい場合は、絶縁碍子2の絶縁破壊に起因した放電(「貫通放電」とも呼ぶ。)が生じたと判定している(ステップS26)。
【0118】
図12は、算出工程(ステップS24)によって取得した、振動波の生波形Dwと、生波形Dwを高速フーリエ変換したFFT波形(パワースペクトラム)Dtを示した図である。
図12の横軸は生波形Dwでは時間を表し、パワースペクトラムDtでは周波数を表す。また、
図12の縦軸は、ボルト(V)を表す。
図12は、貫通放電と、気中放電のいずれかに起因した波形を表している。しかしながら、生波形Dwでは、貫通放電や気中放電による生波形Dwは同じような波形であるため、貫通放電と気中放電のどちらが発生したかを判定することは困難である。
【0119】
よって本実施形態では、生波形DwからFFT波形Dtを求め、FFT生波形Dtの積分値を算出し、算出した積分値を利用することで、検査工程の際に被検査体100tから発生した放電が、貫通放電であるのか気中放電であるのかを判定する。この理由を詳述する前に、まず検査工程の判定工程で用いる所定の閾値を決定する工程(決定工程)について説明する。
【0120】
図13は、積分値と余裕度を示す図である。また、
図13の左側の縦軸は、積分値を示し、
図13の右側の縦軸は余裕度を示す。余裕度とは、後述する気中放電の積分値と貫通放電の積分値との差を示している。本実施形態では、余裕度とは、複数の被検査体100tから算出した複数の気中放電の積分値の平均値±3σ(σは標準偏差)の最低値と、複数の被検査体100tから算出した複数の貫通放電の積分値の平均値±3σ(σは標準偏差)の最高値との差を示す。なお、
図13の横軸の「気中放電」とは、検査工程(ステップS20)によって気中放電のみが発生した被検査体100tであり、「貫通放電」とは、検査工程(ステップS20)によって貫通放電のみが発生した被検査体100tである。
【0121】
図13における「気中放電」と「貫通放電」のグラフは以下のように作成した。すなわち、複数の被検査体100t毎に、同一条件のもとで検査装置60を用いて所定の電圧を印加し、振動波をAEセンサ74によって受信する。そして、解析プログラムを用いてパワースペクトラムDtを求め、所定の周波数範囲における積分値を算出した。一方で、検査装置60によって所定の電圧を印加した際に放電が生じた複数の被検査体100tについて、以下のような基準で貫通放電と気中放電のいずれが生じたのかを判定した。すなわち、絶縁碍子2に絶縁破壊が生じたか否かを目視によって確認し、絶縁破壊が生じていた被検査体100tを貫通放電が発生した被検査体100tとし、絶縁破壊が生じていない被検査体100tを気中放電が発生した被検査体100tとした。そして、気中放電が発生していた被検査体100tにおける積分値を、
図13に示す「気中放電」の積分値としてプロットした。また、貫通放電が発生していた被検査体100tにおける積分値を、
図13に示す「貫通放電」の積分値としてプロットした。また、「気中放電」と「貫通放電」のグラフは、パワースペクトラムDtの3つの異なる周波数範囲ごとに作成した。本実施形態では、周波数範囲は、(i)400〜1000kHz、(ii)600〜1000kHz、(iii)800〜1000kHzの3つの範囲でグラフを作成した。また、「気中放電」と「貫通放電」の各図におけるバーの範囲は、平均値±3σ(σは標準偏差)である。このバーの範囲は、実測値に対する積分値のばらつきを考慮して設定すれば良く、上記実施形態に限定されるものではない。また、例えば、実測値の上限値と下限値をバーの上限値と下限値としても良い。
【0122】
図13に示すように、いずれの周波数範囲においても、パワースペクトラムDtの積分値が気中放電と貫通放電とは異なる積分値範囲に位置する。すなわち、予め、検査工程のうちの充填工程(ステップS22)及び算出工程(ステップS24)とを行うと共に、貫通放電が発生した際の積分値(「第1の特定積分値」とも呼ぶ。)と、気中放電が発生した際の積分値(「第2の特定積分値」とも呼ぶ。)と、を分類する。これにより、第1の特定積分値が分布する第1の特定積分値範囲と、第2の特定積分値が分布する第2の特定積分値範囲とを決定できる。そして、第1の特定積分値範囲と第2の特定積分値範囲との間の積分値を、所定の閾値として検査工程を開始する前に決定しておく。例えば、
図13のような図を検査工程開始前に作成する。そして、
図13の400〜1000kHzを例に用いるとすれば、「気中放電」の積分値範囲と、「貫通放電」の積分値範囲との間に位置する積分値(例えば、20kV・Hz)を所定の閾値として設定する。
【0123】
また、算出工程の際に用いられる所定の周波数範囲は、1000kHz(1MHz)以下の範囲であることが好ましい。貫通放電や気中放電によって発生する振動波は1000kHz以下が支配的である。よって、所定の周波数範囲を1000kHz以下の範囲に設定することで、検査工程において放電の判定を行うためのデータを最小限に抑えつつ、絶縁破壊による放電を精度良く判定できる。
【0124】
また、所定の周波数範囲は、以下のようにして決定することが好ましい。すなわち、
図13に示すように、絶縁碍子2の絶縁破壊による放電によって被検査体100tから発生する振動波から求めた第1の特定積分値と、気中放電によって被検査体100tから発生する振動波から求めた第2の特定積分値とを、異なる周波数範囲毎にそれぞれ算出し、異なる周波数範囲のうちの第1の特定積分値と第2の特定積分値との差(余裕度)が最も大きくなる特定周波数範囲を決定する(決定工程)。例えば、
図13では、400〜1000kHzを特定周波数範囲として決定する。こうすることで、積分値を利用して絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する判定工程をより精度良く行なうことができる。ここで、第1の特定積分値と第2の特定積分値は、それぞれ1つの積分値であっても良いし、本実施形態のように複数の積分値が分布する所定の数値範囲を有するものであっても良い。
【0125】
上記の実施形態によれば、パワースペクトラムにおける所定の周波数範囲の積分値を算出することで、絶縁破壊の有無を判定している(
図11のステップS26)。すなわち、パワースペクトラムの積分値を利用して判定工程を行うことで貫通放電と気中放電との判別を精度良く行なうことができる。
【0126】
また、上記の実施形態によれば、算出工程で算出した積分値と所定の閾値とを比較することで容易に貫通放電の発生を判定できる。
【0127】
また、上記の実施形態によれば、充填工程によって空間72を圧縮空気と、絶縁液のいずれか一方で充填している(
図10、
図11)。これにより、被検査体100tに高電圧を印加しつつ、正常な放電の発生を抑制して検査工程を行うことができる。
【0128】
また、上記の実施形態によれば、検査工程に用いる被検査体100tは、屈曲工程前のスパークプラグを用いている。これにより、設計された火花ギャップが形成される前の被検査体100tを用いて検査工程を行えることから、中心電極5と接地電極27との間で発生する正常な放電の発生を抑制しつつ検査工程を行うことができる。
【0129】
また、上記の実施形態によれば、検査工程の際に必要の無い部品を組み付けることなく検査工程を行うことができる。すなわち、検査工程によって、絶縁破壊による放電が生じたと判定した被検査体100tは、不良品として扱われる。よって、不良品にガスケットを組み付けることを防止できる。
【0130】
また、上記の実施形態によれば、絶縁破壊による放電が生じたと判定した被検査体100tは不良品として排除される(ステップS30)。これにより、不良品を完成品として製造することを防止でき、絶縁碍子2の耐電圧性能に優れたスパークプラグ1を製造できる。
【0131】
図14は、検査工程に関する第2実施形態(ステップS20a)のフローチャートである。なお、スパークプラグの製造方法において、検査工程に関する第1実施形態とは検査工程の内容が異なり、その他の工程については当該第1実施形態と同じ内容である。よって、当該第1実施形態と同じ内容の工程については説明を省略する。
【0132】
本実施形態の算出工
程は以下の手順により行なわれる(ステップS24a)。検査工程に関する第1実施形態と同様に、振動波信号をFFTしてパワースペクトラムDtを求める。そして、所定の周波数範囲(例えば、0〜500kHz)を互いに重複しない第1の周波数範囲と第2の周波数範囲に分ける。例えば、本実施形態では、第1の周波数範囲を0〜250kHzとし、第2の周波数範囲を250〜500kHzとした。そして、パワースペクトラムDtのうち、第1の周波数範囲の積分値(「第1の積分値」とも呼ぶ。)と、第2の周波数範囲の積分値(「第2の積分値」とも呼ぶ。)とをそれぞれ算出する。そして、第1の積分値と第2の積分値との比を算出する。本実施形態では、比は、(第1の積分値)/(第2の積分値)とした。
【0133】
判定工程では、算出工程で求めた比に基づいて、算出工程の際に生じた振動波が絶縁碍子2の絶縁破壊によって生じた放電に起因するか否かを判定する(ステップS26a)。詳細には、判定工程では、予め決定した所定の閾値と比とを比較することで絶縁破壊によって放電が生じたか否かを判定する。ここで、上記の第2実施形態では所定の閾値は、比(第1の積分値/第2の積分値)を用いる。
【0134】
上記の第2実施形態によれば、算出工程の際に、被検査体100tに印加する電圧の大きさが変化した場合でも、一定の判定基準によって絶縁破壊による放電の発生を容易に判定できる。以下に
図15と
図16を用いて理由を詳述する。
【0135】
図15は、加圧力とアコースティック・エミッション波形(AE波形)の実効値(AE実効値)との関係を示す図である。ここで、
図15の縦軸に示すAE実効値は、一般にはAEエネルギーと呼ばれ、波形の持つエネルギーの相対的な値を示している。
図15の横軸に示す加圧力は、空間72に導入する圧縮気体の圧力を示す。
図15は、空間72に導入する圧縮気体の圧力を変化させた際に、被検査体100tから発生するアコースティック・エミッションのAE実効値を算出した図である。また、空間72に導入する圧縮気体の圧力毎に複数の被検査体100tを用いてAE実効値を算出した。
図15には、圧力毎にプロットしたAE実効値の平均値もプロットしている。
【0136】
図15では、0.8MPa、2.5MPa、3.5MPaの3種類の圧力毎にAE実効値を算出してプロットした。ここで、加圧力が大きくなる程、被検査体100tに印加する電圧を大きくした。
図8に示すように、加圧力(印加電圧)が大きくなる程、AE実効値も大きくなることが分かる。すなわち、算出工程において、被検査体100tに印加する電圧の大きさを変更した場合、積分値を所定の閾値として用いた場合では、所定の閾値を印加電圧ごとに設定し直す必要が生じる。
【0137】
図16は、積分値の比と発生確率に変換した図である。横軸は、比(第1の積分値/第2の積分値)であり、左の縦軸は、発生確率(%)を示す。
図16は、
図15と同様に3種類の加圧力毎に複数の被検査体100tを用いてパワースペクトラムを算出し、第1の積分値と第2の積分値との比(第1の積分値/第2の積分値)を求め、ワイブル解析によって比ごとの発生確率を算出した図である。一方で、比を求めた後の被検査体100tについて絶縁碍子2に絶縁破壊が生じたか否かを目視によって確認し、貫通放電と気中放電のどちらが発生したかを判定した。
図9に示す左側の囲いの範囲内にプロットされた点が、貫通放電が生じた被検査体100tであり、
図16に示す右側の囲いの範囲内にプロットされた点が、気中放電が生じた被検査体100tである。
【0138】
図16に示すように、空間72(
図10)の加圧力(すなわち印加電圧)を変化させた場合でも、貫通放電のパワースペクトラムから算出した比と気中放電のパワースペクトラムから算出した比とは異なる範囲に分布している。また、空間72の加圧力を変化させた場合でも、貫通放電のパワースペクトラムから算出した比は加圧力に因らず同じ範囲(第1の範囲)に分布すると共に、気中放電のパワースペクトラムから算出した比は加圧力に因らず同じ範囲に分布する。すなわち、第1の範囲と第2の範囲の間の比を、判定工程で用いる所定の閾値として決定することで、判定工程を精度良く行なうことができる。
【0139】
すなわち、判定工程では、予め決定した所定の閾値と、算出工程で算出した比とを比較し、算出した比が所定の閾値よりも小さい場合は貫通放電が生じたと判定し、算出工程で算出した比が所定の閾値よりも大きい場合は気中放電が生じたと判定する(ステップS26a)。
【0140】
上記の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の工程や構成については第1実施形態と同様の効果を奏する。また、当該第2実施形態によれば、第1の積分値と第2の積分値の比に基づいて判定工程を行っていることから(ステップS26a)、被検査体100tに印加する電圧の大きさに拘わらず、一定の判定基準によって貫通放電の発生を容易に判定できる。
【0141】
なお、上記実施形態における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0142】
上記第1実施形態では、予め求めた、貫通放電の積分値と気中放電の積分値との間の値を所定の閾値としたがこれに限定されるものではない。すなわち、予め求めた、気中放電の積分値の範囲(「第1積分値範囲」)と、貫通放電の積分値の範囲(「第2積分値範囲」とも呼ぶ。)との少なくとも一方を利用して判定工程を行っても良い。例えば、判定工程の際に、予め求めた第1積分値範囲を利用する場合は、算出工程で算出した積分値と第1積分値範囲を比較し、算出した積分値が第1積分値範囲内の場合は気中放電が生じたと判定し、算出した積分値が第1積分値範囲外の場合は貫通放電が生じたと判定する。また例えば、判定工程の際に、予め求めた第2積分値範囲を利用する場合は、算出工程で算出した比と第2積分値範囲を比較し、算出した積分値が第2積分値範囲内の場合は貫通放電が生じたと判定し、算出した比が第2積分値範囲外の場合は気中放電が生じたと判定する。
【0143】
上記第2実施形態では、予め求めた、気中放電に起因して発生したアコースティック・エミッション(AE)に基づいて算出した第1と第2の積分値の比が分布する範囲(第1比範囲)と、貫通放電に起因して発生したAEに基づいて算出した第1と第2の積分値の比が分布する範囲(第2比範囲)との間の値を所定の閾値としたが、これに限定されるものはない。すなわち、予め求めた、第1比範囲と第2比範囲の少なくとも一方を利用して判定工程を行っても良い。例えば、判定工程の際に、予め求めた第1比範囲を利用する場合は、算出工程で算出した比が第1比範囲内の場合は気中放電が生じたと判定し、算出工程で算出した比が第1比範囲外の場合は貫通放電が生じたと判定する。また例えば、判定工程の際に、予め求めた第2比範囲を利用する場合は、算出工程で算出した比が第2比範囲内の場合は貫通放電が生じたと判定し、算出工程で算出した比が第2比範囲外の場合は気中放電が生じたと判定する。