(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739547
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】貫通型タンデムマスタシリンダのためのインサートを備えたプラスチック製プライマリピストンおよび、このようなピストンを備えたマスタシリンダ
(51)【国際特許分類】
B60T 11/20 20060101AFI20150604BHJP
F16J 1/01 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
B60T11/20 A
F16J1/01
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-545148(P2013-545148)
(86)(22)【出願日】2011年11月30日
(65)【公表番号】特表2014-500191(P2014-500191A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2011071364
(87)【国際公開番号】WO2012084435
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年8月7日
(31)【優先権主張番号】10/05009
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ・ベルナダ
(72)【発明者】
【氏名】ロラン・リュイリエー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・グレシュ
【審査官】
城臺 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−028339(JP,A)
【文献】
特開昭52−039072(JP,A)
【文献】
特開2006−280229(JP,A)
【文献】
特開平08−119088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T11/00−11/34
F16D49/00−131/02
F16J1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキの貫通型タンデムマスタシリンダのプライマリピストンであって、
プライマリピストン(20)が、
成形プラスチック材料からなり、
マスタシリンダ内に圧力を発生させる力を及ぼすピストンロッドを収容する空洞部(27)と、空洞部(27)に対してピストンロッドの移動方向の前方に形成された前方空洞部(25)と、の間に配置され、かつ、プレス絞り加工された一体成形シートメタルからなる、金属インサート(22)を備え、
前面(26)に通じる表面(28)に少なくとも1つの溝(24)を含んでいる、
ことを特徴とするプライマリピストン。
【請求項2】
プライマリピストン(20)が、熱硬化性のプラスチック材料から構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のプライマリピストン。
【請求項3】
金属インサート(22)が、少なくとも1つの穴(29)を有している、
ことを特徴とする請求項1に記載のプライマリピストン。
【請求項4】
前記穴(29)が、プライマリピストン(20)の軸線にほぼ平行である、
ことを特徴とする請求項3に記載のプライマリピストン。
【請求項5】
プラスチック材料の射出後、金属インサート(22)の穴(29)が、プライマリピストン(20)内でブラインドホールを形成する、
ことを特徴とする請求項3または4に記載のプライマリピストン。
【請求項6】
プライマリピストン(20)の表面(28)が、加工により研削される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のプライマリピストン。
【請求項7】
マスタシリンダのボアに取り付けられた少なくとも1つのプライマリピストンとセカンダリピストンとを含むマスタシリンダであって、
プライマリピストン(20)が、
成形プラスチック材料からなり、
マスタシリンダ内に圧力を発生させる力を及ぼすピストンロッドを収容する空洞部(27)と、空洞部(27)に対してピストンロッドの移動方向の前方に形成された前方空洞部(25)と、の間に配置され、かつ、プレス絞り加工された一体成形シートメタルからなる、金属インサート(22)を備え、
前面(26)に通じる表面(28)に少なくとも1つの溝(24)を含んでいる、
ことを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項8】
金属インサート(22)が、少なくとも1つの穴(29)を有している、
ことを特徴とする請求項7に記載のマスタシリンダ。
【請求項9】
金属インサート(22)が、プライマリピストン(20)が放出する磁界を磁気センサで検知できるようにするために、磁性材料から構成される、
ことを特徴とする請求項7または8に記載のマスタシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のマスタシリンダのプライマリピストンと、このようなピストンを備えた自動車のマスタシリンダとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から公知のマスタシリンダは、一般にアルミニウムで製造されたプライマリピストンとセカンダリピストンとを含み、これらは双方とも、通常はアルミニウムで製造加工されるブレーキのマスタシリンダ本体の軸方向ボアに直列に取り付けられる。このようなマスタシリンダは、特許文献1または特許文献2に記載されている。プライマリピストンの空洞部に配置されるプッシュロッドは、プライマリピストンを移動させることができる。プライマリピストンは、プライマリ圧力室を加圧する役割を果たし、セカンダリピストンは、セカンダリ圧力室を加圧する役割を果たす。プライマリスプリングおよびセカンダリスプリングは、上記移動の逆方向にピストンを押し戻す傾向を有し、加圧取り付けを保証する。
【0003】
マスタシリンダのボアは、ブレーキ液リザーバに接続される2個の供給ポートによりブレーキ液を供給される。供給ポートは、プライマリ圧力室とセカンダリ圧力室を供給することができる。これらのポートは、環状室に通じており、環状室の両側には、カップと呼ばれる環状の密封シールが設けられている。
【0004】
圧力室へのブレーキ液の供給は、ピストンが休止位置にあるとき行われる。その場合、ピストンは、
図1に示された位置におかれる。供給は、ピストンの壁に設けられた通路を介して行われ、これらの通路は、供給ポートおよび環状室を、それぞれプライマリ圧力室およびセカンダリ圧力室に面したプライマリピストンおよびセカンダリピストンの内部と連通させる。ピストンが、軸方向前方(
図1の矢印Dの方向)に移動すると、ピストンの通路が、密封シールを越えて供給室を隔離し、それによって、プライマリ圧力室およびセカンダリ圧力室内に制動圧を設定することができる。
【0005】
マスタシリンダの全体は、ブレーキアシストサーボモータに取り付け可能である。
【0006】
双方のピストンが、プライマリピストンに一時的な支持力を及ぼすプッシュロッドによって矢印Dの方向に移動すると、カップ4が、プライマリ供給ポートからプライマリ圧力室を隔離し、カップ6が、供給ポートからセカンダリ圧力室を隔離する。プッシュロッドにかかる応力が、ブレーキ内に貯留されていたブレーキ液容量を解放すると、マスタシリンダのスプリングがピストンを休止位置に押し戻す。プッシュロッドが急に解放されると、マスタシリンダの圧力室に含まれるブレーキ液は、プライマリスプリングおよびセカンダリスプリングがマスタシリンダ内のブレーキ液の通過キャパシティよりも早くピストンを押し戻す作用で、大気圧未満になることがある。ピストンが休止位置に達すると、大気圧に置かれるリザーバと、マスタシリンダの圧力室との間の通路が直接開放されるので、ブレーキ液が急激に通過し、マスタシリンダ内に「水撃作用」と呼ばれる騒音の1つが発生する。
【0007】
マスタシリンダの性能を改善するには、アルミニウム製のマスタシリンダのピストンに特定の形状を与えることが必要であり、これらの形状は、その製造が複雑であることから、費用が上乗せされて高くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許第2827244号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006000341A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、マスタシリンダのための機械的な制約に耐えられ、経済的かつ製造が簡単なプラスチック製のプライマリピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のタイプのブレーキマスタシリンダに取り付けられ、マスタシリンダのボアに取り付けられる少なくとも1つのプライマリピストンとセカンダリピストンとを含む、マスタシリンダのプライマリピストンを目的とする。これらのピストンは、プライマリピストンへのプッシュロッドの作用によって、それぞれプライマリ圧力室とセカンダリ圧力室とに圧力を形成することが可能であり、プライマリピストンが、成形プラスチック材料からなり、マスタシリンダのプライマリ圧力室と、プッシュロッドがプライマリピストンを移動させてマスタシリンダ内に圧力を発生させる力を及ぼすプッシュロッド収容空洞部との間に、プレス絞り加工された一体成形シートメタルからなる金属インサートが配置され、プライマリピストンが、プライマリピストンの前面に通じるその外径上に少なくとも1つの溝を含み、プライマリピストンは、好適には、サーモセット(thermosets)とも呼ばれる熱硬化性プラスチックで構成され、さらに好適には、ガラス繊維強化フェノール樹脂で製造される。
【0011】
プライマリピストン本体をインサートに一体成形することにより、相対的にシールすることができる。プラスチック本体と金属インサートは、プライマリピストンの機械強度を増し、プラスチック材料の厚みを減らし、プライマリピストンを一段とコンパクトにすることができる。
【0012】
別の有利な特徴は、プライマリピストンの本体が射出成型により容易に製造されるので、これによって、非円筒形の溝、リブ、穴などの複雑な形状を実現できることにある。
【0013】
別の有利な特徴によれば、ピストン本体が、射出成型により容易に製造され、金型から出されたプライマリピストンは取り付け可能な状態にあり、加工を繰り返し必要とするアルミニウム製ピストンとは違って仕上げ作用が不要である。
【0014】
別の有利な特徴によれば、ピストン本体は、マスタシリンダの信頼性を高めるために加工による表面研削が可能な熱硬化性プラスチック材料の成形によって容易に製造される。
【0015】
別の有利な特徴によれば、ピストン本体は、ブレーキ液が発生する騒音(水撃作用)を減衰可能なプラスチック材料の射出成型によって容易に製造される。
【0016】
別の有利な特徴によれば、金属インサートは、プラスチック材料の射出前に金型内にインサートを保持するための少なくとも1つの穴を有する。
【0017】
別の有利な特徴によれば、インサートは、ピストンが放出する磁界を磁気センサで検知できるようにするために、磁性材料から構成されている。
【0018】
インサートの厚みは、試験圧力40MPaに耐えるように決定され、この厚みは、プライマリピストンの直径と、プッシュロッドの支持断面とを考慮したものである。
【0019】
本発明の様々な目的および長所は、以下の説明および添付図面からいっそう明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】先に説明した従来技術による公知のマスタシリンダを示す軸方向断面図である。
【
図2】ピストン前部に溝を備えた、本発明によるマスタシリンダのピストンの1つの実施例を示す一部切り欠き等角図である。
【
図3】セカンダリピストンとスプリングとを省いた、本発明によるマスタシリンダの一部分の1つの実施例を示す軸方向部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
したがって、
図1は、ボア11を有するブレーキマスタシリンダ100を示しており、ボア内に、プライマリピストン2と、セカンダリピストン3と、プライマリスプリング7およびセカンダリスプリング8とが配置されている。ピストン2と3は、プライマリ圧力室9とセカンダリ圧力室10とをそれぞれ加圧する役割を果たす。2個のブレーキ液供給ポート12と13は、ブレーキ液リザーバ(図示せず)に接続されるように構成されている。供給ポート12の両側には、カップ3と4が設けられ、供給ポート13の両側には、カップ5と6が設けられている。マスタシリンダが休止位置にあるとき、プライマリピストンは、
図1に示された位置にある。ピストンの壁は、通路14と15を備え、供給ポート12と13を、ピストンの内部と、プライマリ圧力室9およびセカンダリ圧力室8とに連通させている。休止時に、カップ4と6は、供給ポート12と13の間で、プライマリ圧力室9およびセカンダリ圧力室8を連通させることができるので、これらの圧力室にブレーキ液が供給される。
【0022】
プライマリピストン2の空洞部17に配置されたプッシュロッド16によって方向Dに制動力の作用が及ぼされると、プライマリピストン2は、矢印Dの方向に移動し、カップ6が穴の形状の通路15を塞ぎ、次いで、カップ4が通路14を塞ぐ。プライマリ圧力室およびセカンダリ圧力室が供給ポート12と13から隔離されるので、圧力室9と10に圧力が設定され、この圧力は、プライマリピストン2の空洞部17に配置されたプッシュロッド16により方向Dに及ぼされる応力に比例する。プライマリピストン2の外径Sが形成する断面に、プライマリ圧力室の圧力が作用する。プライマリピストンの空洞部17内で、プッシュロッド16は、応力を付与してマスタシリンダ内に圧力を発生させるが、しかし、応力が付与される直径は著しく小さく、少なくとも4分の1である。これにより、プライマリピストンの位置で大きな応力が発生し、特に、プッシュロッド収容空洞部17と、圧力室9に通じるプライマリピストン2の前方空洞部19との間で、材料の最小厚みEが必要になる。
【0023】
図2と3では、本発明によるマスタシリンダのプライマリピストン20が示されている。その特徴によれば、プライマリピストン20は、成形プラスチック材料からなる本体21を有し、前方空洞部25とプッシュロッド収容空洞部27との間に配置された、プレス絞り加工された一体成形シートメタルからなる金属インサート22を備え、また、このプライマリピストンが、前面26に通じる表面28に少なくとも1つの溝24を含む。溝24は、マスタシリンダが休止位置にあるとき、溝がカップ41のシール点42の下でブレーキ液を通過させ、カップ31と41の間に配置される環状室44に通じるのに十分な長さを有する。これらの溝は、圧力室と、穴32によりリザーバに接続される環状室との間の通路を形成する。これらの溝24をアルミニウムから製造することも検討可能であるが、しかし、この実施形態は、大幅にコストがかかるものとなる。プラスチック材料の使用によって、金型内の溝の形状を考慮しながらコストを削減することができる。これらの同じプラスチック材料を使用する場合、材料の機械強度の差を解消するために、厚みを増し、使用材料を増やさなければならない。プラスチック本体21と金属インサート22は、プライマリピストンの機械強度を高め、プラスチック材料の厚みEを減らし、プライマリピストン20をいっそうコンパクトにすることができる。したがって、本発明は、前方空洞部25と、プッシュロッド収容空洞部27との間に上記インサートをセットすることによって、アルミニウムの機械強度が得られるとともに、成形可能なプラスチック材料の使用により溝等の複雑な形状を製造しやすくなるという長所がある。さらに、プライマリピストンがこのように小型化されることによって、マスタシリンダもまた小型化され、マスタシリンダの材料を節約することができる。
【0024】
別の有利な特徴は、ピストン20の本体21が、射出成型によって容易に製造されることにあり、それによって、溝24等の複雑な形状を実現することができる。
【0025】
別の有利な特徴によれば、ピストンの本体21が、熱硬化性のプラスチック材料の成形により容易に製造され、これらの材料は、マスタシリンダの信頼性を高めるために、加工により表面28を研削することができる。
【0026】
別の有利な特徴によれば、金属インサート22は、プラスチック材料の射出前に金型内でインサートを保持するための少なくとも1つの穴29を有し、有利には、この穴の軸線が、プライマリピストンの軸線Xに平行である。プラスチック材料の射出後、インサート22の穴29は、ピストン20内でブラインドホールを形成する。
【0027】
別の有利な特徴によれば、マスタシリンダは、プライマリピストン20を含んでおり、また、ピストンが放出する磁界を磁気センサで検知できるようにするために、磁性材料で構成されたインサート22を含んでいる。
【符号の説明】
【0028】
1 本体
2 プライマリピストン
3 セカンダリピストン
4 カップ
5 カップ
6 カップ
7 スプリング
8 スプリング
9 セカンダリ圧力室
10 プライマリ圧力室
11 ボア
12 供給ポート
13 供給ポート
14 溝
15 穴
16 プッシュロッド
17 プライマリピストン空洞部
18 カップ
19 前方空洞部
20 本発明によるプライマリピストン
21 ピストン本体
22 インサート
23 スプリングのセンタリング部材
24 溝
25 前方空洞部
26 ピストンの前面
27 プッシュロッド収容空洞部
28 ピストンの表面
29 穴
31 カップ
32 穴
41 カップ
42 シール点
44 環状室
100 タンデムマスタシリンダ
E 2個の空洞部の間の材料の厚み
S ピストンの直径
X マスタシリンダおよびピストンの軸