特許第5739590号(P5739590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5739590メタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5739590
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】メタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 263/06 20060101AFI20150604BHJP
   C07C 265/12 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C07C263/06
   C07C265/12
【請求項の数】3
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-556874(P2014-556874)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071245
【審査請求日】2014年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173457(P2013-173457)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】小島 甲也
(72)【発明者】
【氏名】塚田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】高階 理
(72)【発明者】
【氏名】島川 千年
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 直志
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125429(WO,A1)
【文献】 特開平07−258194(JP,A)
【文献】 特開平05−065263(JP,A)
【文献】 The Journal of Organic Chemistry,2013年10月 2日,Vol.78,p.10986-10995,Scheme 2, Compound 9-10
【文献】 TETRAHEDRON LETTERS,2001年,Vol.42,p.5093-5094,Scheme 1, Refernce 9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノハロゲン化ベンゼン類と、パラホルムアルデヒドと、カルバミン酸n−ブチルまたはN,N−ジイソブチル尿素とを、酸性液体の存在下において反応させて、ビスアミド化合物を生成する反応工程と、
前記ビスアミド化合物から、前記モノハロゲン化ベンゼン類に由来するハロゲン原子を水素原子に置換する脱ハロゲン化工程と、
ハロゲン原子が脱離されたビスアミド化合物を熱分解する熱分解工程と、を含み、
前記反応工程において、
前記酸性液体が、硫酸またはリン酸を含み、
前記モノハロゲン化ベンゼン類に対する、前記硫酸またはリン酸の水素原子の当量比が、14を超過し、
前記酸性液体中の硫酸またはリン酸の濃度が、90質量%を超過し、
反応温度が、10℃を超過し
前記モノハロゲン化ベンゼン類が、下記一般式(4)で示されるモノハロゲン化ベンゼン類であることを特徴とする、メタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法。
一般式(4):
【化1】


(一般式(4)中、Xは、ハロゲン原子を示す。すべてのRは、水素原子を示す。)
【請求項2】
前記モノハロゲン化ベンゼン類が、モノクロロベンゼンであることを特徴とする、請求項1に記載のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法。
【請求項3】
前記モノハロゲン化ベンゼン類に対する、前記硫酸またはリン酸の水素原子の当量比が、16以上であり、
前記酸性液体中の硫酸またはリン酸の濃度が、95質量%以上であり、
前記反応温度が、20℃以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、塗料、接着剤、プラスチックレンズなどに用いられるポリウレタンの原料として、メタキシリレンジイソシアネート類が知られている。このようなメタキシリレンジイソシアネート類は、一般に、メタキシレン類からメタキシリレンジアミン類が製造された後、そのメタキシリレンジアミン類から製造される。
【0003】
メタキシリレンジアミン類の製造方法として、例えば、メタキシレンを、バナジウムなどからなる流動触媒を用いてアンモ酸化させ、イソフタロニトリルを製造し、そのイソフタロニトリルをニッケル触媒などの存在下において水素化することが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−105035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法により、メタキシリレンジアミンを製造する場合には、メタキシレンを420℃という非常に高い温度でアンモ酸化して、イソフタロニトリルを製造し、その後、得られたイソフタロニトリルを、12MPaという非常に高い圧力で水素化する必要がある(例えば、特許文献1(実施例1)参照。)。
【0006】
すなわち、特許文献1に記載の方法では、各工程を高温および/または高圧条件下において実施する必要がある。そのため、特許文献1に記載の方法により製造されたメタキシリレンジアミンから、メタキシリレンジイソシアネートを製造する場合、設備面および安全面の改良を図るには限度がある。
【0007】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたもので、その目的とするところは、高温、高圧(特別な装置)を必要とせず、設備面、安全面および経済面に優れるメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、モノハロゲン化ベンゼン類と、ホルムアルデヒド類と、下記一般式(1)に示されるアミド化合物とを、酸性液体の存在下において反応させて、ビスアミド化合物を生成する反応工程と、前記ビスアミド化合物から、前記モノハロゲン化ベンゼン類に由来するハロゲン原子を水素原子に置換する脱ハロゲン化工程と、ハロゲン原子が脱離されたビスアミド化合物を熱分解する熱分解工程と、を含み、前記反応工程において、前記酸性液体が、無機酸を含み、前記モノハロゲン化ベンゼン類に対する、前記無機酸の水素原子の当量比が、14を超過し、前記酸性液体中の酸の濃度が、90質量%を超過し、反応温度が、10℃を超過していることを特徴としている。
一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
(一般式(1)中、Rは、アルコキシ基またはアミノ基を示す。)
また、前記アミド化合物において、前記一般式(1)中、Rが、n−ブトキシ基であることが好適である。
【0011】
また、前記アミド化合物において、前記一般式(1)中、Rが、ジイソブチルアミノ基であることが好適である。
【0012】
また、前記無機酸は、硫酸またはリン酸であることが好適である。
【0013】
また、前記モノハロゲン化ベンゼン類が、モノクロロベンゼンであることが好適である。
【0014】
また、前記モノハロゲン化ベンゼン類に対する、前記無機酸の水素原子の当量比が、16以上であり、前記酸性液体中の無機酸の濃度が、95質量%以上であり、前記反応温度が、20℃以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法によれば、モノハロゲン化ベンゼン類と、ホルムアルデヒド類と、上記一般式(1)に示されるアミド化合物とを、上記の条件の酸性液体の存在下において、10℃を超過する反応温度で反応させる。これによって、例えば、下記化学式(2)および化学式(3)で示されるビス尿素化合物などのビスアミド化合物を生成できる。
【0016】
化学式(2):
【0017】
【化2】
【0018】
化学式(3):
【0019】
【化3】
【0020】
そして、そのようなビスアミド化合物は、脱ハロゲン化工程および熱分解工程により、メタ−キシリレンジイソシアネート類に誘導できる。
【0021】
そのため、本発明のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、設備面、安全面および経済面に優れており、安全に、低コストかつ高収率で、メタ−キシリレンジイソシアネート類を製造することができる。よって、本発明は、メタ−キシリレンジイソシアネート類の工業的な製造方法として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、反応工程と、脱ハロゲン化工程と、熱分解工程とを含み、好ましくは、精製工程および回収工程をさらに含んでいる。以下において、それぞれの工程につき詳細に説明する。
[反応工程]
反応工程では、モノハロゲン化ベンゼン類と、ホルムアルデヒド類と、下記一般式(1)に示されるアミド化合物とを、酸性液体の存在下において反応させて、ビスアミド化合物を生成する。
【0023】
モノハロゲン化ベンゼン類は、ベンゼン環に結合する水素原子の1つが、ハロゲン原子に置換された芳香族化合物であって、例えば、下記一般式(4)で示されるモノハロゲン化ベンゼン類や、下記一般式(5)で示されるモノハロゲン化ベンゼン類などが挙げられる。
一般式(4):
【0024】
【化4】
【0025】
(一般式(4)中、Xは、ハロゲン原子を示す。Rは、水素原子、アルキル基、アミノ基、水酸基またはアルコキシ基を示す。Rは、同一または互いに相異なっていてもよい。)
一般式(5):
【0026】
【化5】
【0027】
(一般式(5)中、XおよびRは、上記一般式(4)のXおよびRと同意義を示す。)
一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Xで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。このようなハロゲン原子のなかでは、原料コストの観点から好ましくは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、さらに好ましくは、塩素原子が挙げられる。
【0028】
一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Rで示されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜12の直鎖状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基など)、炭素数1〜12の分岐状のアルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、イソデシル基など)、炭素数3〜6のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など)などが挙げられる。
【0029】
一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Rで示されるアミノ基としては、1級、2級および3級のいずれのアミノ基であってもよい。2級または3級のアミノ基としては、例えば、上記のアルキル基などを含有するアミノ基が挙げられる。
【0030】
一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Rで示されるアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜12のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)などが挙げられる。
【0031】
また、一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Rのなかでは、モノハロゲン化ベンゼン類の配向性の観点から好ましくは、水素原子が挙げられる。また、一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、すべてのRは、好ましくは同一である。なお、一般式(4)および一般式(5)のそれぞれにおいて、Rのすべてが、水素原子である場合、一般式(4)および一般式(5)のそれぞれで示されるモノハロゲン化ベンゼン類は、同一である。
【0032】
このようなモノハロゲン化ベンゼン類のなかでは、原料コストおよび配向性の観点から好ましくは、モノクロロベンゼンが挙げられる。また、このようなモノハロゲン化ベンゼン類は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0033】
ホルムアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、および、パラホルムアルデヒドなどが挙げられ、取扱性の観点から好ましくは、パラホルムアルデヒドが挙げられる。
【0034】
パラホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒドのみが重合したホモポリマーであって、下記一般式(6)で示される。
一般式(6):
HO(CHO)H (6)
(一般式(6)中、nは、2以上100以下の整数を示す。)
一般式(6)において、nは、好ましくは、8以上100以下である。
【0035】
このようなホルムアルデヒド類は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0036】
このようなホルムアルデヒド類は、取扱性の観点から好ましくは、水溶液として調製される。ホルムアルデヒド類が水溶液である場合、ホルムアルデヒド類の濃度は、例えば、70質量%以上、反応性の観点から好ましくは、80質量%以上、例えば、100質量%以下である。
【0037】
また、ホルムアルデヒド類の配合割合は、モノハロゲン化ベンゼン類1molに対して、例えば、1.0mol以上、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、1.2mol以上、例えば、10.0mol以下、原料コストの観点から好ましくは、4.0mol以下である。
【0038】
また、ホルムアルデヒド類の配合割合は、モノハロゲン化ベンゼン類100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、40質量部以上、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下である。
【0039】
アミド化合物は、下記一般式(1)により示される。
一般式(1):
【0040】
【化6】
【0041】
(一般式(1)中、Rは、アルコキシ基またはアミノ基を示す。)
一般式(1)においてRがアルコキシ基である場合、アミド化合物は、下記一般式(7)で示されるカルバミン酸エステルである。
一般式(7):
【0042】
【化7】
【0043】
(一般式(7)中、Rは、アルキル基を示す。)
一般式(7)において、Rで示されるアルキル基としては、例えば、一般式(4)においてRで示されるアルキル基と同様のアルキル基が挙げられ、後述するビスアミド化合物の安定性の観点から好ましくは、炭素数1〜12の直鎖状のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、炭素数2〜6の直鎖状のアルキル基が挙げられ、とりわけ好ましくは、n−ブチル基が挙げられる。つまり、上記一般式(1)においてRとしては、好ましくは、n−ブトキシ基が挙げられる。
【0044】
このような上記一般式(7)で示されるカルバミン酸エステルは、市販品を用いることができるが、公知の方法により合成したものを用いることもできる。
【0045】
上記一般式(7)で示されるカルバミン酸エステルを合成するには、例えば、尿素と、アルコールとを反応させる。
【0046】
アルコールとしては、例えば、炭素数1〜12の直鎖状のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノ―ル、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなど)、炭素数1〜12の分岐状のアルコール(例えば、2−プロパノール、2−メチルプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、3−メチル−1−ブタノールなど)、炭素数3〜6のシクロアルコール(例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなど)などが挙げられる。このようなアルコールのなかでは、好ましくは、炭素数1〜12の直鎖状のアルコールが挙げられ、さら好ましくは、ブタノール(n−ブタノール)が挙げられる。このようなアルコールは、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0047】
また、アルコールの配合割合としては、尿素1molに対して、例えば、0.5mol以上、アミド化合物の収率の観点から好ましくは、0.8mol以上、例えば、1.5mol以下、原料コストの観点から、1.2mol以下である。
【0048】
また、尿素とアルコールとの反応条件としては、常圧において、温度が、例えば、80℃以上、反応速度の観点から好ましくは、100℃以上、例えば、200℃以下、安全面の観点から好ましくは150℃以下であり、時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、6時間以下である。
【0049】
また、一般式(1)においてRがアミノ基である場合、アミド化合物は、下記一般式(8)で示される尿素化合物である。
一般式(8):
【0050】
【化8】
【0051】
(一般式(8)中、Rは、水素原子またはアルキル基を示す。Rは、同一または互いに相異なっていてもよい。)
一般式(8)において、Rで示されるアルキル基としては、例えば、一般式(4)においてRで示されるアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
【0052】
一般式(8)において、Rのなかでは、後述するビスアミド化合物の安定性の観点から好ましくは、アルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、炭素数1〜12の分岐状のアルキル基が挙げられ、とりわけ好ましくは、炭素数2〜6の分岐状のアルキル基が挙げられ、最も好ましくは、イソブチル基(2−メチルプロピル基)が挙げられる。つまり、上記一般式(1)においてRとしては、好ましくは、ジイソブチルアミノ基が挙げられる。
【0053】
また、一般式(8)において、すべてのRは、好ましくは同一である。
【0054】
このような上記一般式(8)で示される尿素化合物は、市販品を用いることができるが、公知の方法により合成したものを用いることもできる。
【0055】
上記一般式(8)で示される尿素化合物を合成するには、例えば、尿素と、アミンとを反応させる。
【0056】
アミンとしては、例えば、無置換のアミン、第1級アミン(例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノn−ブチルアミン、モノn−ヘキシルアミン、モノイソブチルアミン、モノt−ブチルアミン、モノイソペンチルアミンなど)、第2級アミン(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、N,N−ジイソブチルアミン、N,N−ジイソペンチルアミンなど)などが挙げられる。このようなアミンのなかでは、好ましくは、第2級アミンが挙げられ、さら好ましくは、N,N−ジイソブチルアミンが挙げられる。このようなアミンは、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0057】
また、アミンの配合割合としては、尿素1molに対して、例えば、0.5mol以上、アミド化合物の収率の観点から好ましくは、0.8mol以上、例えば、1.5mol以下、原料コストの観点から、1.2mol以下である。
【0058】
また、尿素とアミンとの反応条件としては、常圧において、温度が、例えば、80℃以上、反応速度の観点から好ましくは、100℃以上、例えば、200℃以下、安全面の観点から好ましくは150℃以下であり、時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、6時間以下である。
【0059】
酸性液体は、無機酸を含有する液体であって、反応工程において反応溶媒としても用いられる。このような酸性液体は、無機酸のみからなってもよく、また、無機酸が水に溶解された無機酸水溶液であってもよい。
【0060】
無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸が挙げられ、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、強酸、すなわち、酸解離定数(pKa(HO))が3以下の無機酸が挙げられる。強酸の無機酸として、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられ、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、硫酸およびリン酸が挙げられる。このような無機酸は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0061】
また、酸性液体が無機酸水溶液である場合、酸性液体中の無機酸の濃度は、ビスアミド化合物の収率の観点から、90質量%を超過し、好ましくは、95質量%以上、例えば、100質量%未満、無機酸水溶液の調製の容易さから好ましくは、99質量%以下である。
【0062】
このような酸性液体は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。また、このような酸性液体のなかでは、好ましくは、硫酸水溶液、リン酸水溶液およびリン酸(単体)が挙げられ、さらに好ましくは、硫酸水溶液およびリン酸(単体)が挙げられる。
【0063】
このような酸性液体の配合割合は、モノハロゲン化ベンゼン類100質量部に対して、例えば、300質量部以上、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、500質量部以上、例えば、3000質量部以下、コストの観点から好ましくは、2000質量部以下である。
【0064】
また、無機酸の配合割合は、モノハロゲン化ベンゼン類1molに対して、例えば、3mol以上、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、4mol以上、さらに好ましくは、5mol以上、例えば、20mol以下、コストの観点から好ましくは、15mol以下である。
【0065】
また、無機酸の水素原子の当量比(モル当量比)は、モノハロゲン化ベンゼン類に対して、ビスアミド化合物の収率の観点から、14を超過し、好ましくは、16以上、さらに好ましくは、18以上、例えば、80以下、コストの観点から好ましくは、70以下、さらに好ましくは、60以下である。
【0066】
上記した各成分(モノハロゲン化ベンゼン類、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物)を酸性液体の存在下において反応させるには、まず、それら各成分を酸性液体に溶解または分散する。
【0067】
各成分(モノハロゲン化ベンゼン類、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物)を酸性液体に溶解または分散するには、例えば、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物を酸性液体に溶解して、アルデヒド・アミド溶解液を調製した後、アルデヒド・アミド溶解液と、モノハロゲン化ベンゼン類とを混合する。
【0068】
アルデヒド・アミド溶解液とモノハロゲン化ベンゼン類との混合方法としては、特に限定されず、例えば、いずれか一方に他方を滴下する方法が挙げられ、ビスアミド化合物の収率の観点から好ましくは、アルデヒド・アミド溶解液にモノハロゲン化ベンゼン類を滴下する方法が挙げられる。
【0069】
滴下条件としては、温度が、例えば、0℃以上、好ましくは、5℃以上、例えば、40℃以下、好ましくは、30℃以下であり、滴下に要する時間が、例えば、15分以上、好ましくは、30分以上、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0070】
次いで、アルデヒド・アミド溶解液とモノハロゲン化ベンゼン類との混合溶液を加熱して、モノハロゲン化ベンゼン類、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物を反応させる。
【0071】
反応温度としては、ビスアミド化合物の収率の観点から、10℃を超過し、好ましくは、20℃以上、さらに好ましくは、40℃以上、とりわけ好ましくは、50℃以上、設備面および安全面の観点から、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下、さらに好ましくは、80℃以下である。反応温度が上記の範囲内にあると、反応速度が低下せず、また過度の加熱による分解などが起こりにくいため、有利である。
【0072】
また、反応圧力は、特に限定されず、常圧、加圧、減圧のいずれであってもよく、設備面および安全面の観点から好ましくは、常圧(具体的には、90kPa〜110kPa)である。
【0073】
また、反応時間としては、例えば、1時間以上、好ましくは、5時間以上、例えば、40時間以下、好ましくは、30時間以下、さらに好ましくは、20時間未満である。
【0074】
これによって、モノハロゲン化ベンゼン類、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物が、酸性液体中で反応して、ビスアミド化合物(ジ置換体)が高選択で生成する。
【0075】
ビスアミド化合物が生成される場合(芳香環に2つのアミド化合物が導入される場合)、モノハロゲン化ベンゼン類の水素原子の2つが上記のアミド化合物に置換される。より詳しくは、モノハロゲン化ベンゼン類の配向性によって、モノハロゲン化ベンゼン類の2位および4位の水素原子がアミド化合物に置換されて、2,4−ジ置換体が生成するか、モノハロゲン化ベンゼン類の2位および6位の水素原子がアミド化合物に置換されて、2,6−ジ置換体が生成する(位置選択性に優れる)。
【0076】
このような2,4−ジ置換体および2,6−ジ置換体は、生成比に関係なく、後述する脱ハロゲン化工程においてハロゲン原子が水素原子に置換すると、ともにメタ体となる。
【0077】
2,4−ジ置換体の生成比(モル基準)は、2,6−ジ置換体に対して、例えば、3以上、好ましくは、5以上、例えば、15以下、好ましくは、20以下である。
【0078】
なお、2,4−ジ置換体の生成比は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出される。
【0079】
より具体的には、モノハロゲン化ベンゼン類として上記一般式(4)においてRのすべてが水素原子であるモノハロゲン化ベンゼン類が使用され、アミド化合物として上記一般式(7)に示されるカルバミン酸エステルが使用される場合、反応工程において生成されるビスアミド化合物は、下記一般式(9)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,4−ジ置換体)、および、下記一般式(10)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,6−ジ置換体)を含有する。
一般式(9):
【0080】
【化9】
【0081】
(一般式(9)中、Xは、上記一般式(4)のXと同意義を示し、Rは、上記一般式(7)のRと同意義を示す。)
上記一般式(9)で示されるビスカルバミド酸化合物は、例えば、Rのすべてがブチル基であり、Xが塩素原子である場合、4−クロロ−1,3‐キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)である(下記化学式(16)参照)。
一般式(10):
【0082】
【化10】
【0083】
(一般式(10)中、Xは、上記一般式(4)のXと同意義を示し、Rは、上記一般式(7)のRと同意義を示す。)
上記一般式(10)で示されるビスカルバミド酸化合物は、例えば、Rのすべてがブチル基であり、Xが塩素原子である場合、2−クロロ−1,3‐キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)である(下記化学式(17)参照)。
【0084】
また、モノハロゲン化ベンゼン類として上記一般式(4)においてRのすべてが水素原子であるモノハロゲン化ベンゼン類が使用され、アミド化合物として上記一般式(8)に示される尿素化合物が使用される場合、反応工程において生成されるビスアミド化合物は、下記一般式(11)で示されるビス尿素化合物(2,4−ジ置換体)、および、下記一般式(12)で示されるビス尿素化合物(2,6−ジ置換体)を含有する。
一般式(11):
【0085】
【化11】
【0086】
(一般式(11)中、Xは、上記一般式(4)のXと同意義を示し、Rは、上記一般式(8)のRと同意義を示す。)
上記一般式(11)で示されるビス尿素化合物は、例えば、Rのすべてがイソブチル基であり、Xが塩素原子である場合、4−クロロ−1,3‐キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)である(下記化学式(2)参照)。
一般式(12):
【0087】
【化12】
【0088】
(一般式(12)中、Xは、上記一般式(4)のXと同意義を示し、Rは、上記一般式(8)のRと同意義を示す。)
上記一般式(12)で示されるビス尿素化合物は、例えば、Rのすべてがイソブチル基であり、Xが塩素原子である場合、2−クロロ−1,3‐キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)である(下記化学式(3)参照)。
【0089】
このような反応工程において、モノハロゲン化ベンゼン類の転化率は、例えば、80mol%以上、好ましくは、85mol%以上、例えば、100mol%以下である。
【0090】
また、ビスアミド化合物の収率は、モノハロゲン化ベンゼン類に対して、例えば、25mol%以上、好ましくは、30mol%以上、さらに好ましくは、50mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、80mol%以下である。
【0091】
なお、モノハロゲン化ベンゼン類の転化率およびビスアミド化合物の収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出される。
【0092】
また、反応工程では、上記のビスアミド化合物に加え、モノハロゲン化ベンゼン類の水素原子の1つが上記のアミド化合物に置換されたモノアミド化合物(モノ置換体)が生成する場合がある。
【0093】
このような場合、モノアミド化合物の収率は、モノハロゲン化ベンゼン類に対して、例えば、1mol%以上、例えば、40mol%以下、好ましくは、35mol%以下、さらに好ましくは、30mol%以下である。また、モノアミド化合物の生成比(モル基準)は、ビスアミド化合物に対して、例えば、0.01以上、例えば、1.0以下、好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは、0.6以下である。
【0094】
なお、モノアミド化合物の収率およびモノアミド化合物の生成比の収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出される。
【0095】
また、このような反応工程における反応生成物は、上記のビスアミド化合物およびモノアミド化合物に加え、反応において残存した各成分などの不純物(具体的には、ホルムアルデヒド類、アミド化合物、無機酸など)を含有する場合がある。そのため、反応生成物は、そのまま用いることもできるが、好ましくは、単離精製を経た上で用いられる。
【0096】
反応生成物の精製方法としては、公知の精製方法が挙げられ、例えば、蒸留、溶媒抽出、クロマトグラフィー、結晶化、再結晶などが挙げられる。このような精製方法は、必要に応じて、単一の精製方法による分離精製を繰り返してもよく、2以上の精製方法による分離精製を組み合わせてもよい。このような精製方法のなかでは、簡便性の観点から好ましくは、溶媒抽出が挙げられる。
【0097】
反応生成物を溶媒抽出により精製するには、例えば、反応生成物を、水と有機溶媒との混合溶液に混合した後、水層を除去する。これによって、少なくともビスアミド化合物が有機溶媒(有機層)に分配され、例えば、ホルムアルデヒド類および無機酸などの親水性の不純物が水層に分配される。
【0098】
有機溶媒としては、ビスアミド化合物が可溶、かつ、ホルムアルデヒド類およびアミド化合物が不溶の溶媒であれば、特に限定されず、例えば、飽和炭化水素類(ヘキサン、ヘプタンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素など)などの低極性溶媒などが挙げられる。このような有機溶媒のなかでは、ビスアミド化合物との親和性の観点から好ましくは、芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、トルエンが挙げられる。このような有機溶媒は、単独で使用してもよく、あるいは、2種以上併用することもできる。
【0099】
また、反応生成物が、上記のビスアミド化合物およびモノアミド化合物を含有する場合、ビスアミド化合物とモノアミド化合物とは、例えば、クロマトグラフィーにより分離精製することができる。
[脱ハロゲン化工程]
脱ハロゲン化工程では、上記のビスアミド化合物において、モノハロゲン化ベンゼン類に由来するハロゲン原子を水素原子に置換する。
【0100】
ビスアミド化合物のハロゲン原子を水素原子に置換する方法、すなわち、脱ハロゲン化方法としては、ハロゲン化ベンゼンからの公知の脱ハロゲン化方法が挙げられる。このような脱ハロゲン化方法のなかでは、好ましくは、触媒の存在下において、上記のビスアミド化合物に水素を供給する方法が挙げられる。
【0101】
触媒としては、公知の水素添加触媒が挙げられ、例えば、Ni、Mo、Fe、Co、Cu、Pt、Pd、Rhなどの金属を含有する触媒、工業的観点から好ましくは、パラジウムカーボン触媒が挙げられる。このような触媒は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0102】
触媒の使用割合は、反応工程において使用されたモノハロゲン化ベンゼン類100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、反応性の観点から好ましくは、1質量部以上、例えば、7質量部以下、コストの観点から好ましくは、8質量部以下である。
【0103】
また、触媒の使用割合は、ビスアミド化合物100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、反応性の観点から好ましくは、0.05質量部以上、例えば、5質量部以下、コストの観点から好ましくは、3質量部以下である。
【0104】
そして、触媒の存在下において、上記のビスアミド化合物に水素を供給するには、例えば、触媒およびビスアミド化合物を反応器(例えば、オートクレーブ)内に仕込んだ後、反応器内の空気を水素により置換する。
【0105】
また、このような脱ハロゲン化方法では、必要により、金属塩および有機溶媒が添加される。
【0106】
金属塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)、アルカリ金属硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなど)、アルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、アルカリ土類金属硫酸塩(例えば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなど)などが挙げられる。このような金属塩のなかでは、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、炭酸ナトリウムが挙げられる。また、このような金属塩は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0107】
金属塩の配合割合は、反応工程において使用されたモノハロゲン化ベンゼン類1molに対して、例えば、0.1mol以上、脱離するハロゲン原子の捕捉の観点から好ましくは、0.5mol以上、例えば、3mol以下、コストの観点から好ましくは、1.5mol以下である。
【0108】
有機溶媒としては、例えば、上記した有機溶媒が挙げられ、好ましくは、芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、トルエンが挙げられる。このような有機溶媒は、単独で使用してもよく、あるいは、2種以上併用することもできる。
【0109】
また、反応工程において反応生成物が溶媒抽出により精製されている場合、脱ハロゲン化工程において有機溶媒を添加することなく、反応工程において得られた有機層をそのまま用いることができる。
【0110】
次いで、反応器内を加圧するとともに温度を昇温させて、上記のビスアミド化合物のハロゲン原子を水素原子に置換する。
【0111】
このような脱ハロゲン化における反応条件としては、温度が、例えば、40℃以上、反応性の観点から好ましくは、70℃以上、例えば、150℃以下、設備面および安全面の観点から好ましくは、110℃以下であり、圧力が、例えば、0.1MPa以上、反応性の観点から好ましくは、0.2MPa以上、例えば、3.0MPa以下、設備面および安全面の観点から好ましくは、1.0MPa以下であり、時間が、例えば、1時間以上、反応性の観点から好ましくは、2時間以上、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。
【0112】
これによって、1位および3位にアミド化合物が結合した1,3位アミド置換体が生成する。
【0113】
より具体的には、モノハロゲン化ベンゼン類として上記一般式(4)においてRのすべてが水素原子であるモノハロゲン化ベンゼン類が使用され、アミド化合物として上記一般式(7)に示されるカルバミン酸エステルが使用される場合、下記一般式(13)で示される1,3位アミド置換体が生成する。
一般式(13):
【0114】
【化13】
【0115】
(一般式(13)中、Rは、上記一般式(7)のRと同意義を示す。)
つまり、上記一般式(9)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,4−ジ置換体)、および、上記一般式(10)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,6−ジ置換体)の両方は、脱ハロゲン化工程によって、上記一般式(13)で示される1,3位アミド置換体に変換される。
【0116】
また、モノハロゲン化ベンゼン類として上記一般式(4)においてRのすべてが水素原子であるモノハロゲン化ベンゼン類が使用され、アミド化合物として上記一般式(8)に示される尿素化合物が使用される場合、下記一般式(14)で示される1,3位アミド置換体が生成する。
一般式(14):
【0117】
【化14】
【0118】
(一般式(14)中、Rは、上記一般式(8)のRと同意義を示す。)
つまり、上記一般式(11)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,4−ジ置換体)、および、上記一般式(12)で示されるビスカルバミド酸化合物(2,6−ジ置換体)の両方は、脱ハロゲン化工程によって、上記一般式(14)で示される1,3位アミド置換体に変換される。
【0119】
1,3位アミド置換体の収率は、脱ハロゲン化工程に用いられるビスアミド化合物に対して、例えば、80mol%以上、好ましくは、90mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、99mol%以下である。
【0120】
なお、1,3位アミド置換体の収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出される。
[熱分解工程]
熱分解工程では、上記の1,3位アミド置換体を熱分解して、メタ−キシリレンジイソシアネート類が生成する。
【0121】
熱分解方法としては、特に制限されず、例えば、液相法、気相法などの公知の分解法が挙げられ、作業性の観点から好ましくは、液相法が挙げられる。
【0122】
液相法により、1,3位アミド置換体を熱分解するには、例えば、蒸留塔を備える反応器に、1,3位アミド置換体および高沸点不活性溶媒を装入した後、1,3位アミド置換体を熱分解する。
【0123】
反応器としては、特に制限されず、例えば、熱分解方法に用いられる公知の反応器が挙げられる。蒸留塔としては、例えば、充填塔、棚段塔などが挙げられ、好ましくは、充填塔が挙げられる。
【0124】
高沸点不活性溶媒は、1,3位アミド置換体を溶解し、メタ−キシリレンジイソシアネート類に対して不活性であり、かつ、熱分解時に反応しなければ(すなわち、安定であれば)、特に制限されないが、熱分解反応を効率よく実施するには、生成するメタ−キシリレンジイソシアネート類よりも高沸点であることが好ましい。
【0125】
このような高沸点不活性溶媒としては、例えば、芳香族系炭化水素類などが挙げられる。
【0126】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン(沸点:80℃)、トルエン(沸点:111℃)、o−キシレン(沸点:144℃)、m−キシレン(沸点:139℃)、p−キシレン(沸点:138℃)、エチルベンゼン(沸点:136℃)、イソプロピルベンゼン(沸点:152℃)、ブチルベンゼン(沸点:185℃)、シクロヘキシルベンゼン(沸点:237〜340℃)、テトラリン(沸点:208℃)、クロロベンゼン(沸点:132℃)、o−ジクロロベンゼン(沸点:180℃)、1−メチルナフタレン(沸点:245℃)、2−メチルナフタレン(沸点:241℃)、1−クロロナフタレン(沸点:263℃)、2−クロロナフタレン(沸点:264〜266℃)、トリフェニルメタン(沸点:358〜359℃(754mmHg))、1−フェニルナフタレン(沸点:324〜325℃)、2−フェニルナフタレン(沸点:357〜358℃)、ビフェニル(沸点:255℃)などが挙げられる。
【0127】
また、高沸点不活性溶媒としては、さらに、エステル類(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシルなど)、熱媒体として常用される脂肪族系炭化水素類なども挙げられる。
【0128】
さらに、高沸点不活性溶媒としては、公知のプロセスオイルや熱媒用オイルも使用可能である。公知のプロセスオイルや熱媒用オイルのなかでは、好ましくは、炭化水素系プロセスオイルおよび炭化水素系熱媒用オイルが挙げられる。また、公知のプロセスオイルや熱媒用オイルの代表的なもの(市販品)としては、バーレルプロセス油B30(松村石油株式会社製、沸点:380℃)、バーレルサーム400(松村石油株式会社製、沸点:390℃)などが挙げられる。
【0129】
このような高沸点不活性溶媒のなかでは、収率の観点から好ましくは、熱媒用オイルが挙げられる。このような高沸点不活性溶媒は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0130】
また、熱分解温度としては、例えば、100℃以上、反応速度の観点から好ましくは、150℃以上、例えば、400℃以下、設備面および安全面の観点から好ましくは、350℃以下、さらに好ましくは、300℃以下である。熱分解圧力としては、例えば、1000Pa以上、好ましくは、5000Pa以上、例えば、20000Pa以下、メタ−キシリレンジイソシアネート類の分離の観点から好ましくは、15000Pa以下である。熱分解時間としては、例えば、2時間以上、好ましくは、4時間以上、例えば、40時間以下、好ましくは、20時間以下である。
【0131】
これによって、1,3位アミド置換体が熱分解され、メタ−キシリレンジイソシアネート類が生成する。より具体的には、モノハロゲン化ベンゼン類として上記一般式(4)においてRのすべてが水素原子であるモノハロゲン化ベンゼン類が使用される場合、下記化学式(15)で示されるメタ−キシリレンジイソシアネートが生成する。
化学式(15):
【0132】
【化15】
【0133】
そして、上記の液相法により、メタ−キシリレンジイソシアネート類を生成する場合、蒸留塔から、メタ−キシリレンジイソシアネート類を含有する留出液が得られる。
【0134】
メタ−キシリレンジイソシアネート類の収率は、熱分解工程に用いられる1,3位アミド置換体に対して、例えば、60mol%以上、好ましくは、70mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、99mol%以下である。なお、メタ−キシリレンジイソシアネート類の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定されるピークの積分値から算出される。
[精製工程]
また、熱分解工程において得られる留出液(以下、第1留出液とする。)は、メタ−キシリレンジイソシアネート類に加え、熱分解による副生成物などの不純物(例えば、アルコール、アミンなど)を含有する場合がある。そのため、第1留出液は、そのまま用いることもできるが、好ましくは、単離精製を経た上で用いられる。
【0135】
そこで、精製工程では、第1留出液を、上記と同様の精製方法により精製する。このような精製方法は、必要に応じて、単一の精製方法による分離精製を繰り返してもよく、2以上の精製方法による分離精製を組み合わせてもよい。このような精製方法のなかでは、工業的観点から好ましくは、蒸留が挙げられる。
【0136】
第1留出液を蒸留により精製するには、例えば、蒸留塔を備える蒸留釜に、第1留出液を装入した後、減圧蒸留する。
【0137】
蒸留釜としては、特に限定されず、例えば、公知の蒸留釜が挙げられる。蒸留塔としては、上記の蒸留塔が挙げられ、好ましくは、棚段塔が挙げられる。
【0138】
また、蒸留条件としては、温度が、例えば、100℃以上、好ましくは、120℃以上、例えば、300℃以下、好ましくは、280℃以下であり、圧力が、例えば、10Pa以上、好ましくは、50Pa以上、例えば、1000Pa以下、好ましくは、800Pa以下であり、時間が、例えば、2時間以上、好ましくは、3時間以上、例えば、40時間以下、好ましくは、20時間以下である。
【0139】
これによって、第1留出液が蒸留され、蒸留塔からの留出液(以下、第2留出液とする。)としてメタ−キシリレンジイソシアネート類が得られる。
【0140】
精製されたメタ−キシリレンジイソシアネート類の純度は、第2留出液全量に対して、例えば、80質量%以上、好ましくは、90質量%以上、さらに好ましくは、95質量%以上、例えば、100%以下である。また、精製工程における精製収率は、精製工程に用いられたメタ−キシリレンジイソシアネート類に対して、例えば、70mol%以上、好ましくは、80mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、98mol%以下である。なお、メタ−キシリレンジイソシアネート類の純度および精製工程における精製収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定されるピークの積分値から算出される。
[回収工程]
しかるに、熱分解工程では、熱分解反応における副生成物として、アルコールまたはアミンが生成する。そして、それら副生成物(アルコールおよびアミン)は、熱分解工程および精製工程のそれぞれにおいて、例えば、蒸留などによって単離される。
【0141】
そして、回収工程では、熱分解工程および精製工程のそれぞれにおいて単離された副生成物(アルコールまたはアミン)と、尿素とを反応させて、上記一般式(1)に示されるアミド化合物を生成する。
【0142】
反応条件としては、温度が、例えば、80℃以上、反応性の観点から好ましくは、100℃以上、例えば、200℃以下、安全性の観点から好ましくは、150℃以下であり、圧力が、例えば、90Pa以上、反応性の観点から好ましくは、95Pa以上、例えば、110Pa以下、安全性の観点から好ましくは、100Pa以下であり、時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上、例えば、40時間以下、好ましくは、20時間以下である。
【0143】
これによって、上記一般式(1)に示されるアミド化合物、すなわち、反応工程において使用されるアミド化合物が生成する。そのため、回収工程において回収されたアミド化合物を、反応工程において使用することができ、経済面のさらなる向上を図ることができる。
【0144】
このようなメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、従来法と比較して、簡易な工程かつマイルドな条件下において、安全に、低コストかつ高収率でメタ−キシリレンジイソシアネート類を製造することができる。そのため、このようなメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、設備面、安全面および経済面に優れている。その結果、メタ−キシリレンジイソシアネート類の工業的な製造方法として、好適に用いることができる。
【0145】
また、メタ−キシリレンジイソシアネート類およびその塩は、各種工業原料、例えば、ポリウレタン原料などの樹脂原料として好適に用いられる。特に、ポリウレタンの塗料、接着剤、シーラントおよびエラストマーやポリチオウレタン系のレンズ用途に好適である。
【0146】
また、本発明のメタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法により、得られるメタ−キシリレンジイソシアネートは、メタ−キシリレンジアミン類からホスゲンを用いる方法(ホスゲン法)により誘導される場合と異なり、実質的に酸成分や加水分解性塩素(HC)成分を含まない。具体的には、メタ−キシリレンジイソシアネート類の加水分解性塩素(HC)の濃度は、例えば、5000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下である。なお、加水分解性塩素(HC)の濃度は、JIS K 1603−3(2007)に記載の加水分解性塩素の求め方に準拠して測定される。
【0147】
このように加水分解性塩素(HC)の濃度が上記上限以下であると、メタ−キシリレンジイソシアネート類の不純物が少なく、メタ−キシリレンジイソシアネート類の経時着色を抑制できる。
[安定化剤]
しかし、加水分解性塩素(HC)の濃度が上記上限以下であると、メタ−キシリレンジイソシアネート類の自己重合などによる白濁が生じる場合がある。
【0148】
そのため、メタ−キシリレンジイソシアネート類には、必要に応じて、酸成分(塩酸など)や、公知公用の安定化剤を添加することが好ましい。
【0149】
なお、このようなメタ−キシリレンジイソシアネート類には、その目的および用途に応じて、ウレタン化触媒、有機触媒、充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤など公知の添加剤を適宜、添加することもできる。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例に関し、反応工程における、処方、酸性液体、反応条件、添加率および収率を、表1に示す。
【0151】
また、実施例中の配合割合などの数値は、上記の実施形態において記載される対応箇所の上限値または下限値に代替することができる。
【0152】
さらに、各工程における各成分は、ガスクロマトグラフィー(GC)または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。より詳しくは、三点検量線を作成して、GCまたはHPLCにより得られるピークの積分値から、各成分の濃度および内容量を算出した。
(実施例1)
[反応工程]
攪拌器、温度計、ガス排気管を装備した1Lのフラスコに、尿素120.2g(2.0mol)と、n−ブタノール148.2g(2.0mol)とを装入した後、約130℃に加熱し、この温度を一定に保ちつつ、4時間撹拌した。その後、25℃まで冷却して、粗生成物を得た。粗生成物をGCにより分析したところ、粗生成物は、カルバミン酸n−ブチルを含有しており、カルバミン酸n−ブチルの収率は、尿素に対して、96.9mol%であった。これによって、227.2gのカルバミン酸n−ブチルを含有する粗生成物を得た。
【0153】
次いで、攪拌器、滴下漏斗、温度計、ガス排気管を装備した1Lの4つ口フラスコに、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を装入した後、さらに、カルバミン酸n−ブチル117.2g(1.0mol)、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液33.4g(ホルムアルデヒド:1.0mol)を装入して、それらを95質量%硫酸水溶液に溶解して、アルデヒド・カルバミン酸溶解液(アルデヒド・アミド溶解液)を調製した。
【0154】
次いで、フラスコ内を10〜20℃の温度範囲に保ちながら、アルデヒド・カルバミン酸溶解液に、モノクロロベンゼン56.3g(0.5mol)を1時間かけて滴下した(滴下速度:8.3×10−3mol/min)。つまり、硫酸の水素原子の当量比(モル比)は、モノハロゲン化ベンゼン類に対して、20である。
【0155】
その後、フラスコ内を60℃(反応温度)に昇温し、この温度を一定に保ちつつ、常圧で各成分を反応させた。8時間(反応時間)後、反応を終了し、反応生成物を得た。
【0156】
反応生成物をHPLCにより分析したところ、モノクロロベンゼンの転化率は92%であり、反応生成物は、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)、および、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)を含有していた。
【0157】
また、モノクロロベンゼンに対する、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は71%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は2%であった。つまり、ビスカルバミド酸化合物は、合計して0.36mol生成し、その質量の総和は、131.5gであった。
【0158】
また、得られたビスカルバミド酸化合物は、下記化学式(16)で示すビスカルバミド酸化合物(2,4−ジ置換体)、および、下記化学式(17)で示すビスカルバミド酸化合物(2,6−ジ置換体)のみを含んでいた。
化学式(16):
【0159】
【化16】
【0160】
化学式(17):
【0161】
【化17】
【0162】
2,4−ジ置換体と2,6−ジ置換体との異性体比は、10(2,4−ジ置換体):1(2,6−ジ置換体)であった。
【0163】
なお、モノクロロベンゼンの転化率、ビスカルバミド酸化合物の収率、モノカルバミド酸化合物の収率、および、2,4−ジ置換体と2,6−ジ置換体との異性体比は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出された。
【0164】
また、攪拌器を装備した2Lの底抜きフラスコに、トルエン500gと水500gとを装入した後、上記の反応生成物の全量を15分かけて滴下装入し、撹拌した。
【0165】
続いて、水層を抜き出した後、有機層に再度、水500gを加えて、撹拌した。これを4回繰り返して有機層を水洗し、ビスカルバミド酸化合物およびモノカルバミド酸化合物が溶解された有機層(ビスアミド溶液)を得た。つまり、有機層における、ビスカルバミド酸化合物の濃度は、20.8質量%であった。
[脱ハロゲン化工程]
次いで、攪拌器付き1Lのオートクレーブに、パラジウムカーボン(触媒)1.5gと、炭酸ナトリウム無水物53.0g(0.5mol)とを装入した後、さらに上記の有機層の全量を装入した。
【0166】
次いで、オートクレーブ内の気相部を、窒素で置換した後、水素で置換し、水素圧0.5MPaに加圧した。また、オートクレーブ内を90℃に昇温して、ビスカルバミド酸化合物の脱ハロゲン化反応を進行させた。5時間後、反応を終了し冷却した。
【0167】
冷却後の反応液を濾過し、触媒と無機塩(塩化ナトリウム)とを濾別して、濾液を得た。次いで、その濾液から溶媒(トルエン)を留去して、1,3位カルバミド酸置換体としてのN,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)を得た。化学式(2)および化学式(3)で示すビスカルバミド酸化合物の総和に対する、N,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)の収率は、97mol%であった。つまり、N,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)は、0.34mol生成し、その質量は、115.8gであった。
【0168】
なお、N,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)の収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出された。
[熱分解工程]
充填塔を備える反応器に、高沸点不活性溶媒(商品名:バーレルサーム400、松村石油株式会社製)、および、脱ハロゲン化工程で得られたN,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)の全量を装入した。次いで、反応器内を、100torr(13.3KPa)以下に減圧するとともに、200℃〜300℃の温度範囲に加熱して、N,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)を熱分解した。
【0169】
そして、充填塔からの留出液(第1留出液)を捕集した。その留出液をGCにより分析したところ、メタ−キシリレンジイソシアネートの生成が確認された。また、N,N’−メタ−キシリレンビス(カルバミド酸ブチル)に対する、メタ−キシリレンジイソシアネートの収率は80mol%であった。つまり、メタ−キシリレンジイソシアネートは、0.28mol生成し、その質量は、51.9gであった。
[精製工程]
蒸留段数10段相当の棚段塔、および、窒素ラインに連結されたキャピラリー管を備える蒸留釜に、熱分解工程において得られた留出液を装入した。そして、0.5〜5torr(66.7Pa〜666.7Pa)の圧力範囲、かつ、160℃〜240℃の温度範囲において、減圧蒸留を実施した。そして、棚段塔からの留出液(第2留出液)を捕集し、精製されたメタ−キシリレンジイソシアネートを得た。精製されたメタ−キシリレンジイソシアネートをGCにより分析したところ、メタ−キシリレンジイソシアネートの純度は、99.7質量%であり、精製収率は、精製工程に用いられたメタ−キシリレンジイソシアネートに対して、93mol%であった。つまり、メタ−キシリレンジイソシアネートは、0.26mol回収され、その質量は、48.3gであった。
(実施例2)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液の使用量を464.6g(硫酸:4.5mol)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0170】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は92mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は66mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は6mol%であった。
(実施例3)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液の使用量を413.0g(硫酸:4.0mol)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0171】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は91mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は39mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は35mol%であった。
(実施例4)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、98質量%硫酸水溶液の濃度500.4g(硫酸:5.0mol)に変更した点、および、反応温度を70℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0172】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は93mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は63mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は2mol%であった。
(実施例5)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、98質量%硫酸水溶液500.4g(硫酸:5.0mol)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0173】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は92mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は65mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は6mol%であった。
(実施例6)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、および、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、98質量%リン酸水溶液1000.0g(リン酸:10mol)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0174】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は90mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は51mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は27mol%であった。
(実施例7)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、および、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、リン酸980.0g(リン酸:10mol)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0175】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は92mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は72mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は5mol%であった。
(実施例8)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、98質量%硫酸水溶液500.4g(硫酸:5.0mol)に変更した点、反応温度を20℃に変更した点、および、反応時間を20時間に変更した点以外は、実施例1と同様にして、メタ−キシリレンジイソシアネートを調製した。
【0176】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は92mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は44mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は32mol%であった。
(実施例9)
攪拌器、温度計、ガス排気管を装備した1Lのフラスコに、尿素120.2g(2.0mol)と、N,N−ジイソブチルアミン258.4g(2.0mol)とを装入した後、約130℃に加熱し、この温度を一定に保ちつつ、4時間撹拌した。その後、25℃まで冷却して、粗生成物を得た。粗生成物をGCにより分析したところ、粗生成物は、N,N−ジイソブチル尿素を含有しており、N,N−ジイソブチル尿素の収率は、尿素に対して、98mol%であった。これによって、337.8gのN,N−ジイソブチル尿素を含有する粗生成物を得た。
【0177】
次いで、攪拌器、滴下漏斗、温度計、ガス排気管を装備した1Lの4つ口フラスコに、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を装入した後、さらに、N,N−ジイソブチル尿素172.3g(1.0mol)、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液33.4g(ホルムアルデヒド:1.0mol)を装入して、それらを95質量%硫酸水溶液に溶解して、アルデヒド・尿素溶解液(アルデヒド・アミド溶解液)を調製した。
【0178】
次いで、フラスコ内を10〜20℃の温度範囲に保ちながら、アルデヒド・尿素溶解液に、モノクロロベンゼン56.3g(0.5mol)を1時間かけて滴下した(滴下速度:8.3×10−3mol/min)。つまり、硫酸の水素原子の当量比(モル比)は、モノハロゲン化ベンゼン類に対して、20である。
【0179】
その後、フラスコ内を50℃(反応温度)に昇温し、この温度を一定に保ちつつ、常圧で各成分を反応させた。5時間(反応時間)後、反応を終了し、反応生成物を得た。
【0180】
反応生成物をHPLCにより分析したところ、モノクロロベンゼンの転化率は95mol%であり、反応生成物は、ビス尿素化合物(ジ置換体)、および、モノ尿素化合物(モノ置換体)を含有していた。
【0181】
また、モノクロロベンゼンに対する、ビス尿素化合物(ジ置換体)の収率は62mol%、モノ尿素化合物(モノ置換体)の収率は5mol%であった。つまり、ビス尿素化合物は、合計して0.31mol生成し、その質量の総和は、149.1gであった。
【0182】
また、ビス尿素化合物(ジ置換体)の質量分析の結果は、[M+]=m/z 481([測定条件]、イオン化法:FAB(pos)、マトリックス:m−NBA)であった。
【0183】
また、得られたビス尿素化合物は、下記化学式(2)で示すビス尿素化合物(2,4−ジ置換体)、および、下記化学式(3)で示すビス尿素化合物(2,6−ジ置換体)のみを含んでいた。
化学式(2):
【0184】
【化18】
【0185】
化学式(3):
【0186】
【化19】
【0187】
また、攪拌器を装備した2Lの底抜きフラスコに、トルエン500gと水500gとを装入した後、反応生成物の全量を15分かけて滴下装入し、撹拌した。
【0188】
続いて、水層を抜き出した後、有機層に再度、水500gを加えて、撹拌した。これを4回繰り返して有機層を水洗し、ビス尿素化合物およびモノ尿素化合物が溶解された有機層(ビス尿素化合物溶液)を得た。つまり、有機層における、ビス尿素化合物の濃度は、20.9質量%であった。
[脱ハロゲン化工程]
次いで、攪拌器付き1Lのオートクレーブに、パラジウムカーボン(触媒)1.5gと、炭酸ナトリウム無水物53.0g(0.5mol)とを装入した後、さらに上記の有機層の全量を装入した。
【0189】
次いで、オートクレーブ内の気相部を、窒素で置換した後、水素で置換し、水素圧0.5MPaに加圧した。また、オートクレーブ内を90℃に昇温して、ビス尿素化合物の脱ハロゲン化反応を進行させた。5時間後、反応を終了し冷却した。
【0190】
冷却後の反応液を濾過し、触媒と無機塩(塩化ナトリウム)とを濾別して、濾液を得た。次いで、その濾液から溶媒(トルエン)を留去して、1,3位尿素置換体としてのN,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)を得た。
【0191】
また、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)の質量分析の結果は、[M+H]=m/z 447([測定条件]、イオン化法:FAB(pos)、マトリックス:m−NBA)であった。
【0192】
上記化学式(2)および下記化学式(3)で示すビス尿素化合物の総和に対する、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)の収率は、95mol%であった。つまり、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)は、0.29mol生成し、その質量は、129.5gであった。
【0193】
なお、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)の収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定されるピークの積分値から算出された。
[熱分解工程]
充填塔を備える反応器に、高沸点不活性溶媒(商品名:バーレルプロセス油B30、松村石油株式会社製)、および、脱ハロゲン化工程で得られたN,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)の全量を装入した。次いで、反応器内を、100torr(13.3KPa)以下に減圧するとともに、200℃〜300℃の温度範囲に加熱して、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)を熱分解した。
【0194】
そして、充填塔から留出液(第1留出液)を捕集した。その留出液をGCにより分析したところ、メタ−キシリレンジイソシアネートの生成が確認された。また、N,N’−メタ−キシリレンビス(N,N−ジイソブチル尿素)に対する、メタ−キシリレンジイソシアネートの収率は68mol%であった。つまり、メタ−キシリレンジイソシアネートは、0.20mol生成し、その質量は、37.6gであった。
[精製工程]
蒸留段数10段相当の棚段塔、および、窒素ラインに連結されたキャピラリー管を備える蒸留釜に、熱分解工程において得られた留出液を装入した。そして、0.5〜5torr(66.7Pa〜666.7Pa)の圧力範囲、かつ、160℃〜240℃の温度範囲において、減圧蒸留を実施した。棚段塔からの留出液(第2留出液)を捕集し、精製されたメタ−キシリレンジイソシアネートを得た。精製されたメタ−キシリレンジイソシアネートをGCにより分析したところ、メタ−キシリレンジイソシアネートの純度は、99.8質量%であり、精製収率は、精製工程に用いられたメタ−キシリレンジイソシアネートに対して、90mol%であった。つまり、メタ−キシリレンジイソシアネートは、0.18mol回収され、その質量は、33.9gであった。
(比較例1)
反応工程において、硫酸水溶液の使用量を、361.3g(硫酸:3.5mol)に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0195】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は30mol%であり、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は6mol%であった。また、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)は生成しなかった。
(比較例2)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、90質量%硫酸水溶液544.9g(硫酸:5.0mol)に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0196】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は45mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は9mol%であり、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は9mol%であった。
(比較例3)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、および、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、90質量%リン酸水溶液1088.9g(リン酸:10mol)に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0197】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は27mol%であり、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は5mol%であった。また、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)は生成しなかった。
(比較例4)
反応工程において、90質量%パラホルムアルデヒド水溶液の使用量を、41.8g(ホルムアルデヒド:1.25mol)に変更した点、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、98質量%硫酸水溶液の濃度500.4g(硫酸:5.0mol)に変更した点、反応温度を10℃に変更した点、および、反応時間を20時間に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0198】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は87mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は2mol%であり、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は70mol%であった。
(比較例5)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、99質量%メタンスルホン酸水溶液970.7g(メタンスルホン酸:10.0mol)に変更した点、および、反応温度を80℃に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0199】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は2mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)およびモノカルバミド酸化合物(モノ置換体)は生成しなかった。
(比較例6)
反応工程において、95質量%硫酸水溶液515.8g(硫酸:5.0mol)を、99質量%酢酸水溶液606.6g(酢酸:10.0mol)に変更した点、および、反応温度を100℃に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0200】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は0%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)およびモノカルバミド酸化合物(モノ置換体)は生成しなかった。
(比較例7)
反応工程において、クロロベンゼン56.3g(0.5mol)を、ベンゼン39.1g(0.5mol)に変更した点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0201】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は100mol%であり、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)の収率は18mol%、モノカルバミド酸化合物(モノ置換体)の収率は1mol%であった。なお、ビスカルバミド酸化合物(ジ置換体)は、HPLCにより分析したところ、1,2位カルバミド酸置換体および1,4位カルバミド酸置換体を、ビスカルバミド酸化合物全量に対して、54mol%含有していた。
(比較例8)
反応工程において、硫酸水溶液の使用量を、361.3g(硫酸:3.5mol)に変更した点以外は、実施例9と同様に実施した。
【0202】
なお、反応工程において、モノクロロベンゼンの転化率は26mol%であり、モノ尿素化合物(モノ置換体)の収率は5%であった。また、ビス尿素化合物(ジ置換体)は生成しなかった。
【0203】
【表1】
【0204】
なお、表1の略号などを以下に示す。
CB :モノクロロベンゼン(東京化成株式会社製)
BZ :ベンゼン(和光純薬工業株式会社製)
PFA :パラホルムアルデヒド(東京化成株式会社製)
BC :カルバミン酸n−ブチル(東京化成株式会社製)
BIBU:N,N−ジイソブチル尿素
MSA :メタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明により、従来法に対して、比較的マイルドな条件下においてメタ−キシリレンジイソシアネート類を製造できる。そのため、設備面、安全面および経済面の観点から、より工業的に有利に、メタ−キシリレンジイソシアネート類を得ることができる。
【0206】
このメタ−キシリレンジイソシアネート類は、ポリウレタン、ポリチオウレタンなどの用途において、その高性能化などのために、好適に用いられる。特に、ポリウレタンの塗料、接着剤、シーラントおよびエラストマーやポリチオウレタン系のレンズ用途に好適である。
【要約】
メタ−キシリレンジイソシアネート類の製造方法は、モノハロゲン化ベンゼン類と、ホルムアルデヒド類と、下記一般式(1)に示されるアミド化合物とを、酸性液体の存在下において反応させて、ビスアミド化合物を生成する反応工程と、ビスアミド化合物から、モノハロゲン化ベンゼン類に由来するハロゲン原子を水素原子に置換する脱ハロゲン化工程と、ハロゲン原子が脱離されたビスアミド化合物を熱分解する熱分解工程と、を含み、反応工程において、酸性液体が、無機酸を含み、モノハロゲン化ベンゼン類に対する、無機酸の水素原子の当量比が、14を超過し、酸性液体中の酸の濃度が、90質量%を超過し、反応温度が、10℃を超過している。
一般式(1):
【化1】


(一般式(1)中、Rは、アルコキシ基またはアミノ基を示す。)