【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記した特許文献1に記載されるような従来の誘導加熱装置では、加熱部がステンレス鋼やアルミニウム合金などの単一の導電材料で形成されているため、十分な熱エネルギー(発熱量)が得られず、所望の温度まで熱媒体(例えば、水などの液体)を加熱できない虞がある。
【0010】
一方、一般に広く知られている風力発電システムでは、出力平滑化のため蓄電システムが設置されているが、蓄電システムには電力を蓄電池に蓄えるためにコンバータなどの部品が必要である。そのため、システムの複雑化、電力損失の増大を招く。また、大型の風力発電システムの場合では、発電量に応じた大容量の蓄電池が必要であり、システム全体としてのコスト増大を招く。
【0011】
また、風力発電システムの故障原因の多くは、増速機、より具体的にはギアボックスのトラブルによるものである。ギアボックスが故障すると、通常はギアボックスを交換することで対処しているが、塔の上部にナセルが設置されている場合は、ギアボックスの取り付け・取り外しに多大な時間と労力を要する。そこで最近では、増速機を必要としないギアレスの可変速風力発電機もある。
【0012】
しかし、ギアレスの場合、具体的には発電機の極数を増やすこと(多極発電機)で対応するが、増速機を使用する場合と比較して、発電機が大型・重量化する。特に、5MWクラスの大型の風力発電システムでは、発電機の重量が300トン(300000kg)を超えるものと考えられ、ナセル内に配置することが困難である。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、発熱量を向上でき、熱媒体を加熱するのに適した性能を有する誘導加熱装置を提供することにある。また、別の目的は、上記の誘導加熱装置を備える発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、誘導加熱装置を設計するにあたり、発熱量を更に高めるために試行錯誤した結果、外部から周期的に変化する磁場(磁束)が印加される導電材料(加熱部)には、下記の式に従って発熱が生じることを算出した。
【0015】
【数1】
【0016】
上記の右辺の式において、f
0は周波数、Rは加熱部の内径、nは極数、σは加熱部の導電率、μは加熱部の透磁率、B
1yは加熱部での磁場強度である。また、ωは角速度(ω=2πf
0)、δは加熱部の表皮厚さ(δ=[2/(ωμσ)]
1/2)、kは波数(k=n/R)、νは速度(ν=ω/k)である。そして、この式から、加熱部は、透磁率(μ)及び導電率(σ)が共に高い材料で形成することが、発熱量の向上に有効との知見を得た。なお、右辺の式において、分母にμが含まれるのに、μが高い方が発熱量(W)が大きくなる理由は、式中のB
1yはμH
1yで表わされ、結果的に分子にμの3/2乗が残るためである。H
1yは加熱部での磁界である。ここで、上記の数1において、H
1yを使って表現しないのは、実際に測定できるのは磁束密度であるため、数1の表現の方が実用上利用し易いと考えたからである。本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0017】
本発明の誘導加熱装置は、熱媒体を加熱する装置であり、回転軸を有する回転体と、回転体と間隔をあけて配置される加熱部を有するステータ部と、を備える。回転体には、加熱部に対向するように、加熱部の方向に磁束を発生する磁束発生部が設けられている。加熱部は、磁性材料と導電材料との複合材料で形成され、磁性材料部と導電材料部とを組み合わせた構造を有する。そして、磁束発生部が加熱部の対向位置にあるとき、加熱部における磁束発生部から発生する磁束の鎖交面積よりも磁性材料部の断面積が小さく、かつ、磁性材料部の周囲を囲むように導電材料部が配置されている。また、加熱部には、熱媒体が流通する流通路が設けられていることを特徴とする。
【0018】
加熱部を単一材料で形成する場合、一般にμ及びσが共に高い材料は存在しないので、設計に合わせた最適な材料を得ることは難しい。上記構成によれば、加熱部をμの高い磁性材料とσの高い導電材料との複合材料で形成するため、加熱部のμ及びσを自由に選択して設計することができ、発熱量の向上を図ることができる。また、磁束発生部が加熱部の対向位置にあるとき、加熱部における磁束発生部から発生する磁束の鎖交面積よりも磁性材料部の断面積が小さくなっており、このとき磁束発生部の磁束が鎖交する加熱部の領域には、磁性材料部と導電材料部とが混在し、μ及びσが調整される。磁性材料部は、例えば、磁性発生部から発生する磁束方向と平行(即ち加熱部の厚さ方向)に一端面から他端面まで延びるように柱状や板状に形成することが挙げられる。
【0019】
磁性材料部を形成する磁性材料としては、μの高い材料、例えば比透磁率に換算して1000以上である磁性材料を選択することが好ましい。具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、ケイ素鋼、パーマロイ及びフェライトなどが挙げられる。一方、導電材料部を形成する導電材料としては、σの高い材料、例えばσが3×10
7S/m以上である導電材料を選択することが好ましい。具体的には、アルミニウムや銅などの金属並びにその合金が挙げられる。ただし、磁性材料と導電材料には異なる材料を選択し、磁性材料と導電材料との組み合わせの一例としては、磁性材料に鉄系材料、導電材料にアルミニウム系材料や銅系材料を選択することが挙げられる。アルミニウム系材料や銅系材料は熱伝導性にも優れる点で好ましく、また、熱媒体が流通する流通路は導電材料で形成された導電材料部に設けることが好ましい。特に、導電材料部をアルミニウム系材料で形成すると、加熱部の軽量化を図ることができ、もって誘導加熱装置の軽量化を図ることができる。熱媒体としては、例えば、水、油、液体金属(Na、Pbなど)、溶融塩などの液体並びに気体が挙げられる。
【0020】
また、回転せず固定された加熱部に流通路を設けることで、流通路に連通して外部から熱媒体を供給・排出する給排管と流通路との接続に、流通路の回動を許容する回転継手を用いる必要がなく、簡易な構成で、堅牢な接続を実現できる。具体的には、熱媒体が加熱されることで、流通路内の圧力が上昇し、例えば熱媒体が水(蒸気)の場合では600℃で約25MPa(250気圧)に達すると考えられる。加熱部(流通路)が回転する場合は、その圧力に耐え得る特殊な回転継手が必要であるところ、回転せず固定されている場合は、回転継手の必要がなく、例えば給排管と流通路との接続に溶接といった単純な方法を採用しても、十分に堅牢な接続構造を実現できる。
【0021】
本発明の誘導加熱装置の一形態としては、磁束発生部が加熱部の対向位置にあるとき、磁束発生部の磁束が鎖交する加熱部の領域に磁性材料部が複数存在することが挙げられる。
【0022】
この構成によれば、磁束発生部の磁束が鎖交する加熱部の領域に磁性材料部が複数存在することで、磁性材料部を複数に分割したような構造である。加熱部におけるμとσとの偏りを小さくして、熱分布を均一化することができる。また、例えば各磁性材料部間の導電材料部に熱媒体が流通する流通路を設けることで、熱媒体に熱を伝導させ、熱を効率よく取り出すことができる。さらに、磁性材料部の1つあたりの重量及び大きさを小さくすることができるので、組立作業性にも優れる。
【0023】
本発明の誘導加熱装置の一形態としては、磁性材料部の断面形状が円形又は多角形であることが挙げられる。
【0024】
磁性材料部の断面形状は、任意の形状とすることができ、特に限定されるものではないが、例えば、円形や多角形とすることができる。円形とする場合、真円形や楕円形としたり、多角形とする場合、三角形や四角形としたりするなど、種々の形状を採用できる。特に、磁性材料部の断面形状が円形のように周縁が丸味を帯びた形状であると、コギングトルクを低減して、回転体の回転を滑らかにすることができる。なお、磁性材料部の断面形状とは、磁束発生部から発生する磁束方向と直交する断面の形状のことをいう。
【0025】
本発明の誘導加熱装置の一形態としては、磁束発生部から発生する磁束が、コイルによるものであることが挙げられる。
【0026】
磁束の発生手段としては、永久磁石やコイル(電磁石)を用いることができる。コイルとしては、銅線などの常電導コイルや超電導線材を用いた超電導コイルが挙げられる。コイルを用いる場合、永久磁石を用いる場合と比較して、強い磁場を発生させることができる。具体的には、コイルに通電する電流を大きくすることで、強い磁場を発生させることができ、通電電流を制御することで磁場の強さを調整することも可能である。発熱量は磁場強度の2乗に比例することから、発熱量の更なる向上が期待できる。また、コイルであれば、永久磁石と比較して、温度上昇による磁気特性の低下や、経時的な磁気特性の劣化が起こり難い。したがって、磁束発生部から発生する磁束がコイルによるものである場合、通電電流を大きくして十分な磁場強度を維持し易く、熱媒体を所定の温度(例えば、100℃〜600℃)まで加熱するのに十分な性能(熱エネルギー)を得ることができる。例えば、上記した特許文献1の誘導加熱装置では、加熱部に対向し、加熱部の近い位置に永久磁石が配置されているため、加熱部からの熱の影響により永久磁石の温度が上昇し易く、磁気特性が低下して、結果的に所望の温度まで熱媒体を加熱できない虞があると考えられる。なお、コイルには直流電流を流し、直流磁場を発生させることが挙げられる。
【0027】
さらに、コイルに直流電流を流し、直流磁場を発生させる場合、超電導コイルであれば、電気抵抗がゼロであり、大電流を流してもコイルに発熱(損失)が実質的に生じない。そのため、常電導コイルに比較して、大電流を流すことによるコイルの発熱(損失)を抑制することができ、電力損失なしで極めて強い磁場を維持することができる。
【0028】
本発明の誘導加熱装置の一形態としては、回転軸が風車に接続され、回転体を回転させる動力に風力を利用することが挙げられる。
【0029】
回転体(回転軸)の動力には、電動機やエンジンなどの内燃機関を用いることができるが、風力、水力、波力などの再生可能エネルギーを利用することが好ましい。再生可能エネルギーを利用すれば、CO
2の増加を抑制でき、中でも風力を利用することが好適である。
【0030】
本発明の発電システムは、上記した本発明の誘導加熱装置と、この誘導加熱装置により加熱した熱媒体の熱を電気エネルギーに変換する発電部とを備えることを特徴とする。
【0031】
この発電システムは、上記した誘導加熱装置を利用して加熱した熱媒体の熱を発電に利用するものであり、従来にない新規な発電システムである。例えば誘導加熱装置の回転軸に風車を接続し、回転体の動力に風力を利用すれば、風のエネルギーを回転エネルギー→熱エネルギーに変換して、電気エネルギーとして取り出すことができる。一例としては、熱媒体の水を加熱して高温高圧蒸気を生成し、その蒸気を利用して蒸気タービンにより発電機を回転させて発電することが挙げられる。そして、この発電システムによれば、熱を電気エネルギーに変換する構成としたことで、蓄熱器を用いて熱としてエネルギーを蓄えることにより、効率のよい安定した発電を実現できる。また、熱を蓄熱器に蓄えると同時に蓄熱器から発電に必要な熱を取り出すことができる蓄熱システムは、蓄電システムに比べて簡易であり、蓄熱器も蓄電池に比べれば安価である。さらに、従来の風力発電システムのように増速機を設ける必要がなく、ギアボックスのトラブルを回避することが可能である。