(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739818
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】水熱分解による水素製造法及び水素製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20150604BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20150604BHJP
C01F 17/00 20060101ALI20150604BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
C01B3/06
C01G49/00 A
C01F17/00 A
C01G53/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-544265(P2011-544265)
(86)(22)【出願日】2010年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2010071485
(87)【国際公開番号】WO2011068122
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2009-275837(P2009-275837)
(32)【優先日】2009年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】児玉 竜也
(72)【発明者】
【氏名】郷右近 展之
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−248809(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/027829(WO,A1)
【文献】
特開2001−123183(JP,A)
【文献】
特開2008−094636(JP,A)
【文献】
特開2009−263165(JP,A)
【文献】
N. GOKON et al.,Thermochemical two-step water-splitting reactor with internally circulating fluidized bed for thermal reduction of ferrite particles,International Journal of Hydrogen Energy,2008年 5月,Vol. 33,pp. 2189-2199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
C01F 17/00
C01G 49/00
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段と、前記流動層に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、前記流動層に水蒸気を導入する水蒸気導入手段とを備えた水熱分解による水素製造装置を用いて、前記流動層を前記反応器内で循環させながら、低酸素分圧ガス雰囲気下で前記流動層の一部を太陽光により加熱して金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を同時に進行させることを特徴とする水熱分解による水素製造法。
【請求項2】
金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段と、前記流動層に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、前記流動層に水蒸気を導入する水蒸気導入手段とを備えた水熱分解による水素製造装置を用いて、前記流動層を前記反応器内で循環させながら、低酸素分圧ガス雰囲気下で前記流動層の一部を太陽光により1400℃以上に加熱して金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に1400℃以下で水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を同時に進行させることを特徴とする水熱分解による水素製造法。
【請求項3】
前記金属酸化物は、フェライト又はフェライトを担持したジルコニアであることを特徴とする請求項2記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項4】
前記ジルコニアは、単斜晶ジルコニア、立方晶ジルコニア、正方晶ジルコニアのいずれかであり、前記立方晶ジルコニアは安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシアのいずれかを含有することを特徴とする請求項3記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、ニッケルフェライト又はニッケルフェライトを担持した単斜晶ジルコニアであることを特徴とする請求項2記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項6】
前記金属酸化物は、酸化セリウム又は酸化セリウムを担持したジルコニアであることを特徴とする請求項2記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項7】
前記金属酸化物の粒子の粒径は、200〜750μmであることを特徴とする請求項5又は6記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項8】
前記低酸素分圧ガスは、窒素又はアルゴンであることを特徴とする請求項2記載の水熱分解による水素製造法。
【請求項9】
金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段と、前記流動層に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、前記流動層に水蒸気を導入する水蒸気導入手段とを備え、前記低酸素分圧ガス導入手段は、太陽光の照射により加熱される前記流動層の高温部に低酸素分圧ガスを導入し、前記水蒸気導入手段は、前記流動層の高温部とは異なる位置の低温部に水蒸気を導入するとともに、前記流動層は、前記高温部と前記低温部とを循環するように構成されたことを特徴とする水熱分解による水素製造装置。
【請求項10】
金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層の上面中央部へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段とを備え、前記反応器は、上下方向に開口し前記流動層に埋没して前記流動層の中央部に配置された筒状のドラフト管と、下方から前記ドラフト管の内側に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、下方から前記ドラフト管の外側に水蒸気を導入する水蒸気導入手段と、前記ドラフト管の内側から上方に放出されるガスと前記ドラフト管の外側から上方に放出されるガスを分流するガス分流手段とを備えたことを特徴とする水熱分解による水素製造装置。
【請求項11】
前記反応器の上部に、太陽光が透過する石英製の窓を備えたことを特徴とする請求項10記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項12】
前記金属酸化物は、フェライト又はフェライトを担持したジルコニアであることを特徴とする請求項10記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項13】
前記ジルコニアは、単斜晶ジルコニア、立方晶ジルコニア、正方晶ジルコニアのいずれかであり、前記立方晶ジルコニアは安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシアのいずれかを含有することを特徴とする請求項12記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項14】
前記金属酸化物は、ニッケルフェライト又はニッケルフェライトを担持した単斜晶ジルコニアであることを特徴とする請求項10記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項15】
前記金属酸化物は、酸化セリウム又は酸化セリウムを担持したジルコニアであることを特徴とする請求項10記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項16】
前記金属酸化物の粒子の粒径は、200〜750μmであることを特徴とする請求項14又は15記載の水熱分解による水素製造装置。
【請求項17】
前記低酸素分圧ガスは、窒素又はアルゴンであることを特徴とする請求項10記載の水熱分解による水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部循環流動層を用いた水熱分解による水素製造法及び水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を集光して得られる1000℃以上の熱を利用して水熱分解により水素を製造する方法として、鉄酸化物、酸化セリウム等の金属酸化物による二段階水熱分解サイクルが有望視されており、そのための反応器の開発が各国の研究機関で行われている。
【0003】
本発明者らは、鉄酸化物粒子が内循環流動するソーラー反応器を開発し、その試作試験を行っている(非特許文献1〜5を参照)。そのソーラー反応器は、
図8に示すように、反応器天井に石英窓があり、太陽集光システムの一つであるビームダウン型の集光システムによって下方へ向かって集光される太陽光を石英窓から導入し、反応器内の金属酸化物粒子の内循環流動層に照射して粒子を加熱するようになっている。また、本発明者らは、二段階水熱分解サイクルに用いられる金属酸化物の開発を行っている(特許文献1を参照)。
【0004】
金属酸化物による二段階水熱分解サイクルは、窒素等の低酸素分圧ガス雰囲気下で1400℃以上の高温において金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に1400℃以下の低温で水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を交互に繰り返すことによって行われる。金属酸化物にNiFe
2O
4を用いた場合の酸素発生反応と水素発生反応の反応式は下記のとおりである。
NiFe
2O
4 → 3Ni
1/3Fe
2/3O + 1/2O
2
3Ni
1/3Fe
2/3O + H
2O → NiFe
2O
4 + H
2【0005】
そして、本発明者らが開発したソーラー反応器を使用した従来の方法では、まずソーラー反応器内の金属酸化物粒子層に床部から窒素等の低酸素分圧ガスを流通して内循環流動層を作り、これに太陽集光を照射して粒子を1400℃以上に加熱し酸素発生反応を行う。その後、ソーラー反応器へ投入する太陽集光の量を減じて粒子の温度を1400℃以下にし、流動層床部からの流通ガスを水蒸気に切り替え、水素発生反応を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/027829国際公開パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Gokon, N. Kondo, T. Mataga, T. Kodama, "Internally Circulating Fluidized Bed Reactor with NiFe2O4 Particles for Thermochemical Water-splitting", SolarPACES 2009, 15-18 Sept. 2009, Berlin, Germany.
【非特許文献2】児玉竜也,郷右近展之,「高温太陽熱を利用したソーラー水素の製造」,太陽エネルギー,Vol.35, No.5 (2009).
【非特許文献3】N. Gokon, S. Takahashi, H. Yamamoto, T. Kodama, "New Solar Water-Splitting Reactor With Ferrite Particles in an Internally Circulating Fluidized Bed", ASME J. Sol. Energy Eng., 131 (2009) 011007.
【非特許文献4】N. Gokon, S. Takahashi, H. Yamamoto, T. Kodama, "Thermochemical two-step water-splitting reactor with internally circulating fluidized bed for thermal reduction of ferrite particles", Int. J. Hydrogen Energy, 33 (2008) 2189-2199.
【非特許文献5】N. Gokon, H. Yamamoto, N. Kondo, T. Kodama, "Internally Circulating Fluidized Bed Reactor Using m-ZrO2 Supported NiFe2O4 Particles for Thermochemical Two-Step Water Splitting", J. Sol. Energy Eng., 132 (2010) 021102.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来の方式には、以下の問題点があった。
1.二段階反応を切り替える際にソーラー反応器へ投入する太陽集光の量を増減する必要があり、ビームダウン式の集光システムによって得られる太陽熱を常時100%使用できず、太陽エネルギーの利用効率が低下する。
2.反応温度の違う2つの反応を切り替える度に反応器全体を冷却、再加熱する必要があり、この反応器全体の温度変化がエネルギー効率を低下させる要因の一つになっている。すなわち、酸素発生反応から水素発生反応に反応を切り替えることで、反応器全体の冷却による熱放出が生じ、反応器の熱損失が大きくなる。また、水素発生反応から酸素放出反応に切り替えることで、反応器全体の再加熱が必要となり、大きな熱量を加えなければならない。このように反応の切り替えに起因する反応器全体の冷却、再加熱は、反応器の熱効率を低下させることになる。
3.二段階反応は、1400℃以上の高温において金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に1400℃以下の低温において水蒸気と反応させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を交互に繰り返すことによって行われる。酸素放出反応から水素発生反応に切り替える際、金属酸化物の反応粒子の冷却に伴い大きな量の顕熱が放出されるが、反応を切り替えで行うため、この放出熱を次の反応である水素発生反応の反応粒子の再加熱に利用できない。
4.反応器および反応粒子全体を、2段階反応を繰り返すたびに2つの異なる温度に変化させなければならないため、反応器から排出されるガスの温度が変動し、連続して一定温度で取り出すことができない。これにより、反応器からの排出ガスの廃熱の利用が煩雑になる。
5.2段階反応を繰り返すたびに、反応器および反応粒子全体を2つの異なる温度に変化させ、また同時に反応器内のガス全体を入れ替える必要がある。反応器および反応粒子全体の温度変化には時間がかかり、また、反応器全体のガスが完全に入れ替わるには時間がかかる。この温度変化、ガス入れ替えの間は反応が停止あるいは滞るため、反応器の運転効率が下がる。
6.2段階反応を切り替えるたびに、反応器へ導入するガスを切り替え反応器内のガス全体を入れ替える必要があり、反応器の運転が煩雑になる。
7.水素発生反応は発熱反応であり、酸素発生反応は吸熱反応であるが、反応を切り替えるため、水素発生反応で発生した反応熱を酸素発生反応のガス・粒子の加熱用としてまたは吸熱反応の熱源として利用することができない。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、ビームダウン集光システムによって得られる太陽エネルギーを高効率で利用することのできる、水熱分解による水素製造法及び水素製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明者らは、上記の導入ガス切り替え方式で、鉄酸化物粒子による内循環流動層ソーラー反応器を用いて種々検討した結果、酸素発生反応を行っている際、反応器内の流動層の異なる箇所において温度が大きく異なっていることを見出した。すなわち、内循環流動を作り出すために流動層中央に設置したドラフト管上部においては、太陽集光を直接受けるため温度の高い部分ができ、酸素発生反応が主に進行する。一方、同時に流動層の低部は低温であるため、ここに水蒸気を導入することで水素発生反応が主に進行する可能性があることを見出した。そして、内循環流動層ソーラー反応器に現れたこの現象を利用すべく鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の水熱分解による水素製造法は、金属酸化物の粒子からなる流動層を反応器内で循環させながら、低酸素分圧ガス雰囲気下で前記流動層の一部を太陽光により加熱して金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を同時に進行させることを特徴とする。
【0012】
また、金属酸化物の粒子からなる流動層を反応器内で循環させながら、低酸素分圧ガス雰囲気下で前記流動層の一部を太陽光により1400℃以上に加熱して金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に1400℃以下で水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応の2つの反応を同時に進行させることを特徴とする。
【0013】
また、前記金属酸化物は、フェライト又はフェライトを担持したジルコニアであることを特徴とする。
【0014】
また、前記ジルコニアは、単斜晶ジルコニア、立方晶ジルコニア、正方晶ジルコニアのいずれかであり、前記立方晶ジルコニアは安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシアのいずれかを含有することを特徴とする。
【0015】
また、前記金属酸化物は、ニッケルフェライト又はニッケルフェライトを担持した単斜晶ジルコニアであることを特徴とする。
【0016】
また、前記金属酸化物は、酸化セリウム又は酸化セリウムを担持したジルコニアであることを特徴とする。
【0017】
また、前記金属酸化物の粒子の粒径は、200〜750μmであることを特徴とする。
【0018】
また、前記低酸素分圧ガスは、窒素又はアルゴンであることを特徴とする。
【0019】
本発明の水熱分解による水素製造装置は、金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段と、前記流動層に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、前記流動層に水蒸気を導入する水蒸気導入手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
また、金属酸化物の粒子からなる流動層を収容した反応器と、この反応器に収容された前記流動層の上面中央部へ太陽光を集光して照射する太陽光集光手段とを備え、前記反応器は、上下方向に開口し前記流動層に埋没して前記流動層の中央部に配置された筒状のドラフト管と、下方から前記ドラフト管の内側に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段と、下方から前記ドラフト管の外側に水蒸気を導入する水蒸気導入手段と、前記ドラフト管の内側から上方に放出されるガスと前記ドラフト管の外側から上方に放出されるガスを分流するガス分流手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、前記反応器の上部に、太陽光が透過する石英製の窓を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、前記金属酸化物は、フェライト又はフェライトを担持したジルコニアであることを特徴とする。
【0023】
また、前記ジルコニアは、単斜晶ジルコニア、立方晶ジルコニア、正方晶ジルコニアのいずれかであり、前記立方晶ジルコニアは安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシアのいずれかを含有することを特徴とする。
【0024】
また、前記金属酸化物は、ニッケルフェライト又はニッケルフェライトを担持した単斜晶ジルコニアであることを特徴とする。
【0025】
また、前記金属酸化物は、酸化セリウム又は酸化セリウムを担持したジルコニアであることを特徴とする。
【0026】
また、前記金属酸化物の粒子の粒径は、200〜750μmであることを特徴とする。
【0027】
また、前記低酸素分圧ガスは、窒素又はアルゴンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の水熱分解による水素製造法によれば、内循環流動層を上部から太陽光照射で加熱した場合にできるソーラー反応器内の流動層上部と下部の大きな温度差を利用し、酸素発生反応と水素発生反応の2つの反応を、反応器内の異なる場所で同時に進行させることにより、二段階反応の切り替えに伴う反応器へ投入する太陽集光の量、導入ガスおよび温度の切り替えが不要となり、エネルギー転換率を向上させることができる。また、反応器の運転も単純化できる。さらに、二つの反応を切り替える間、反応が滞ることがなくなり、反応器の運転効率が向上する。
【0029】
また、本発明の水熱分解による水素製造装置によれば、内循環流動層の上面へ太陽光を集光して照射するともに、流動層を反応器内で内循環させながら、流動層の上面において酸素発生反応を進行させ、同時に流動層の下部において水素発生反応を進行させることによって、酸素と水素を同時に製造することができる。
【0030】
すなわち、本発明により従来の方式の問題点を以下のように解決できる。
1.内循環流動層を上部から太陽光照射で加熱した場合にできるソーラー反応器内の大きな温度差を利用し、2つの反応を反応器内の異なる場所で同時に進行させるため、反応器へ投入する太陽集光の量は一定で良く、増減する必要がなくなる。これによって、ビームダウン式の集光システムによって得られる太陽熱を常時100%使用でき、太陽エネルギーの利用効率が向上する。
2.一つの反応器内で酸素発生反応と水素発生反応の2つの反応を同時に進行させるため、反応を切り替える必要がない。これにより、反応器全体の冷却、再加熱を行う必要がなく、放熱・加熱による反応器の熱損失がなくなるため、エネルギー効率が向上する。
3.反応器内のドラフト管の内側と外側で反応温度の違う2つの反応を同時に行なうため、内循環流動層の反応粒子が冷却される際に放出される顕熱を、反応粒子の再加熱に利用できる。すなわち、ドラフト管の内側では、反応粒子が反応器の低温部から高温部に向けてドラフト管内を上昇する。一方、ドラフト管の外側では、反応粒子が反応器の高温部から低温部に向けてドラフト管外側を下降する。このようなドラフト管を介した反応粒子の対向流動により、ドラフト管の内側と外側で大きな温度差が形成され、ドラフト管を介してドラフト管の外側の領域の流動層から内側の領域の流動層に向けて熱移動が行える。これにより、反応器のエネルギー効率が大きく向上する。
4.反応を切り替える必要がないため、ドラフト管の内側と外側からの排出ガスをそれぞれ連続して一定温度で取り出すことができ、これらのガスの廃熱を容易に利用することができる。
5.反応器および反応粒子全体を温度変化させる必要がなく、また反応器内のガス全体を入れ替える必要がないため、2つの反応を切り替える間に反応が停止あるいは滞ることなく常時同時に行える。これにより、反応器の運転効率が上がる。
6.2段階反応を切り替える際に反応器全体へ導入するガスを切り替える必要がなく、ドラフト管の内側と外側に異なるガスを常時、導入する方式になるため、反応器の運転が単純になる。
7.反応器内のドラフト管の内側と外側でそれぞれ吸熱反応である酸素発生反応と発熱反応である水素発生反応を行うため、ドラフト管外側で水素発生反応により生じた反応熱がドラフト管壁面を通してドラフト管内側に伝わり、酸素発生反応のガス・粒子の加熱に使うことができる。さらに、ドラフト管内側で進行する酸素発生反応により吸熱されて利用することができるため、エネルギー転換効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の水熱分解による水素製造装置の一実施例を示す模式図である。
【
図2】本発明の水熱分解による水素製造装置の別の実施例を示す模式図である。
【
図3】実施例3における水素発生速度の経時変化を示すグラフである。
【
図4】実施例4における水素発生速度の経時変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の水熱分解による水素製造装置のさらに別の実施例を示す模式図である。
【
図6】本発明の水熱分解による水素製造装置の変形例を示す模式図である。
【
図7】実施例7における水素発生速度の経時変化を示すグラフである。
【
図8】従来の水熱分解による水素製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の水熱分解による水素製造法及び水素製造装置の実施例について、添付した図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0033】
はじめに、本実施例の水熱分解による水素製造装置の構成について説明する。
【0034】
本発明の水熱分解による水素製造装置の一実施例を示す
図1において、1はステンレス合金とインコネル合金からなる反応器であり、この反応器1には、金属酸化物の粒子からなる流動層2が収容されている。
【0035】
この金属酸化物としては、例えば、Fe
3O
4,NiFe
2O
4,CoFe
2O
4などの鉄酸化物又は多金属を含有した鉄酸化物、これらの鉄酸化物をジルコニア等の担体に担持したもの、酸化セリウム(CeO
2)、酸化セリウムをジルコニア等の担体に担持したもの、或いは、鉄イオン又はセリウムイオンをジルコニアに固溶させたものなどを使用することができる。上記のジルコニアとしては、単斜晶ジルコニア、立方晶ジルコニア、正方晶ジルコニアのいずれも用いることができる。なお、立方晶ジルコニアとは、イットリア、カルシア、マグネシア等の安定化剤を含有した安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアであって、結晶層として少なくとも立方晶を含むジルコニアである。好ましくは、金属酸化物の粒子としては、MFe
2O
4(M=Fe,Zn,Mn,Ni,Co,Mg)で表されるフェライトの微粉体、MFe
2O
4/m−ZrO
2(M=Fe,Zn,Mn,Ni,Co,Mg)で表されるフェライトを担持した単斜晶ジルコニアの微粉体、又はMFe
2O
4/YSZ(M=Fe,Zn,Mn,Ni,Co,Mg)で表されるフェライトを担持したイットリア安定化立方晶ジルコニアの微粉体が用いられる。より好ましくは、NiFe
2O
4,NiFe
2O
4/m−ZrO
2の微粉体が用いられる。また、酸化セリウムの微粉体、酸化セリウムを担持したジルコニアの微粉体も好適に用いられる。金属酸化物の粒子の大きさは、流動層2の流動性を保つために100〜900μmが好ましく、より好ましくは200〜750μmである。
【0036】
なお、フェライトを担持したジルコニアは、例えば、Fe(II)塩の水溶液にジルコニアの微粉体を分散させ、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加してFe(II)水酸化物のコロイドを生成させ、これに空気をバブリングして酸化させ、Fe(II)水酸化物のコロイドが水溶液に溶解した後、Fe
3O
4となって析出する溶解析出反応を進行させ、分散させたジルコニアの微粉体上にFe
3O
4を成長させることにより得ることができる。或いは、Fe(II)塩の水溶液にジルコニアの微粉体を分散させ、これを蒸発乾固させた後、焼成してジルコニア上のFe(II)塩を金属酸化物とし、この金属酸化物を300℃以上で焼成することによっても得ることができる。
【0037】
反応器1の内部には、上下方向に開口した筒状のドラフト管3が備えられ、ドラフト管3は、流動層2に埋没して流動層2の中央部に配置されている。また、反応器1の底部には、中央部と周辺部にそれぞれ分散板4,5が設けられている。分散板4,5は、流動層2を構成する金属酸化物の粒子を反応器1内に保持するともに、反応器1の底部から気体を導入することができるように、多孔質材料から形成されている。
【0038】
反応器の上部には、太陽光が透過できるように、石英製の窓6が設けられている。また、ドラフト管3の上方には、ドラフト管3の内側から上方に放出されるガスと、ドラフト管3の外側から上方に放出されるガスを分流するために、逆裁頭円錐形状のガスセパレータ7が設けられている。そして、反応器1の上部の側方には、ガスセパレータ7により分流されたガスを取り出すための取り出し口8,9が設けられている。
【0039】
11はヘリオスタットと呼ばれる地上反射鏡、12は図示しないタワーに設置されたタワー反射鏡であり、これら地上反射鏡11とタワー反射鏡12によりビームダウン型の集光システムが構成される。そして、このビームダウン型の集光システムにより、太陽光Sが集光されて反応器1に収容された流動層2の上面中央部へ照射されるようになっている。
【0040】
つぎに、本実施例の水熱分解による水素製造装置を用いた水素製造法について説明する。
【0041】
分散板4からドラフト管3の内側に窒素を導入し、同時に、分散板5からドラフト管3の外側に水蒸気を導入する。窒素としては、例えば純度99.999%のものが用いられる。ここで、ドラフト管3の内側に導入するガスは、酸素分圧の低いガスであればよく、窒素に限定されず、例えば、アルゴンであってもよい。また、ドラフト管3の外側に導入するガスは、水蒸気を含んでいればよく、例えば、水蒸気と窒素の混合ガスであってもよい。
【0042】
そして、ドラフト管3の内側における窒素の流量を、ドラフト管3の外側における水蒸気の流量よりも大きくすることにより、流動層3をドラフト管3の内外で循環させる。すなわち、ドラフト管3の内側の領域において流動層3が上昇し、ドラフト管3の外側と反応器1の間の領域において流動層3が下降する内循環流動を生じさせる。
【0043】
続いて、地上反射鏡11,タワー反射鏡12により集光された太陽光Sを、窓6を通して流動層2の上面中央部へ照射し、流動層2を加熱する。太陽光Sが照射された流動層2の上面中央部の近傍では1400℃以上の高温部Hが形成され、この高温部Hで熱還元反応が進行し、金属酸化物の粒子から酸素が放出される。放出された酸素は、ガスセパレータ7の上方を通って取り出し口8から回収される。
【0044】
例えば、金属酸化物にNiFe
2O
4を用いた場合、熱還元反応の反応式は下記のようになる。
NiFe
2O
4 → 3Ni
1/3Fe
2/3O + (1/2)O
2【0045】
また、例えば、金属酸化物にCeO
2を用いた場合、熱還元反応の反応式は下記のようになる。
CeO
2 → CeO
2−x + (x/2)O
2 (0<x≦0.5)
【0046】
還元された金属酸化物の粒子は、内循環流動によりドラフト管3の外側と反応器1の間の領域を通って反応器1の下部に送られる。金属酸化物の粒子は反応器1の下部に送られる間に温度が低下し、その結果、流動層2の下部に1400℃以下、好ましくは1200℃以下の低温部Lが形成される。この低温部Lで水熱分解反応が進行し、熱還元反応により還元された金属酸化物の粒子は酸化されてもとの金属酸化物となり、同時に水素が発生する。発生した水素は、ガスセパレータ7の下方を通って取り出し口9から回収される。
【0047】
例えば、金属酸化物にNiFe
2O
4を用いた場合、水熱分解反応の反応式は下記のようになる。
3Ni
1/3Fe
2/3O + H
2O → NiFe
2O
4 + H
2【0048】
また、例えば、金属酸化物にCeO
2を用いた場合、水熱分解反応の反応式は下記のようになる。
CeO
2−x + xH
2O → CeO
2 + xH
2 (0<x≦0.5)
【0049】
以上のように、本実施例の水熱分解による水素製造法は、金属酸化物の粒子からなる流動層2を反応器1内で循環させながら、低酸素分圧ガスである窒素雰囲気下で前記流動層2の一部を太陽光Sにより加熱して金属酸化物から酸素を放出させる酸素発生反応である熱還元反応と、酸素を放出した後の金属酸化物に水蒸気を接触させ水素を発生させる水素発生反応である水熱分解反応の2つの反応を同時に進行させるものである。
したがって、酸素発生反応と水素発生反応の2つの反応を同時に進行させることにより、従来のように、酸素発生反応と水素発生反応の切り替えが不要となる。このため、低酸素分圧ガスと水蒸気の切り替えと、太陽集光の入射エネルギーを増減させる切り替えが不要となり、ビームダウン型の集光システムによって得られる太陽熱を常時100%使用することができ、太陽エネルギーの利用効率を向上させることができる。また、一つの反応器内の異なる場所で酸素発生反応と水素発生反応の2つの反応を同時に進行させるため、反応を切り替える必要がない。これにより、反応器の冷却、再加熱を行う必要がなく反応器のエネルギー損失がないため、エネルギー効率が向上する。また、反応器内のドラフト管の内側で酸素発生反応を1400℃以上で行い、ドラフト管外側で水素発生反応を1400℃以下で行うため、ドラフト管外側で内循環流動層の反応粒子が冷却されるときに放出される顕熱を、ドラフト管内側の反応粒子の再加熱に利用できる。また、反応器および反応粒子全体を温度変化させる必要がなく、また反応器に導入するガス全体を入れ替える必要がないため、温度変化・ガス入れ替えの間に反応が停止、あるいは滞ることがなく、常時、2つの反応が同時に行える。これにより、反応器の運転効率が上がる。また、反応器全体へ導入するガスを切り替える必要がなく、ドラフト管の内側と外側に異なるガスを常時、導入するため、反応器の運転が単純になる。また、反応器内のドラフト管の内側と外側でそれぞれ吸熱反応である酸素発生反応と発熱反応である水素発生反応を行うため、発熱反応で発生した反応熱を吸熱反応の熱源として利用することができる。さらに、酸素を含有するガスと、水素を含有するガスを、それぞれ連続して一定温度で取り出すことにより、これらのガスの廃熱を容易に利用することができる。
【0050】
また、本実施例の水熱分解による水素製造装置は、金属酸化物の粒子からなる流動層2を収容した反応器1と、この反応器1に収容された前記流動層2の上面中央部へ太陽光Sを集光して照射する太陽光集光手段としての地上反射鏡11とタワー反射鏡12を備え、前記反応器1は、上下方向に開口し前記流動層2に埋没して前記流動層2の中央部に配置された筒状のドラフト管3と、下方から前記ドラフト管3の内側に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段としての分散板4と、下方から前記ドラフト管の外側に水蒸気を導入する水蒸気導入手段としての分散板5と、前記ドラフト管3の内側から上方に放出されるガスと前記ドラフト管3の外側から上方に放出されるガスを分流するガス分流手段としてのガスセパレータ7とを備えたものである。
【0051】
したがって、流動層2の上面中央部へ太陽光Sを集光して照射するともに、ドラフト管3の内側には低酸素分圧ガスを、ドラフト管3の外側には水蒸気を同時に導入し、低酸素分圧ガスの流量を水蒸気の流量よりも大きくして流動層2を反応器1内で循環させながら、流動層2の上面中央部において酸素発生反応を進行させ、同時にドラフト管3の外側において水素発生反応を進行させることによって、酸素と水素を同時に製造することができる。そして、ガスセパレータ7によって、酸素を含有するガスと水素を含有するガスが混合することが防止され、酸素を含有するガスと水素を含有するガスを別々に回収することができる。
【0052】
また、ドラフト管3の外側と反応器1の間の領域にある流動層2から、ドラフト管3を介して、ドラフト管3の内側の領域にある流動層2へ向けて熱が移動する。熱移動が円滑に進行するためには、ドラフト管3の内側の領域の流動層2の温度が、外側にある流動層2の温度よりも低くなり十分な温度差が必要となる。本実施例の流動層2では、ドラフト管3の内側に低酸素分圧ガスを、ドラフト管3の外側には水蒸気を同時に導入し、低酸素分圧ガスの流量を水蒸気の流量よりも大きくして流動層2を反応器1内でドラフト管3を介して対向流動させることから、ドラフト管3の内側と外側の流動層2に大きな温度差が形成され、ドラフト管3の外側の領域の流動層2から内側の領域の流動層2に向けて熱移動が行える。すなわち、高温部Hから低温部Lへ移動する途中の流動層の反応粒子の顕熱が、低温部Lから高温部Hへ移動する途中の流動層の反応粒子により熱回収される。また、高温部Hから低温部Lへ移動する途中の流動層の反応粒子は、水素発生反応により発熱することから、その反応熱が低温部Lから高温部Hへ移動する途中の流動層の反応粒子に熱移動し、吸熱反応である酸素発生反応の熱源として利用できる。さらに、高温部Hから低温部Lへの反応粒子の移動にはある程度時間を要するため、低温部Lから高温部Hへ移動する反応粒子に大きな熱量が移動できる。したがって、エネルギー効率が向上する。
【実施例2】
【0053】
本発明の水熱分解による水素製造装置の別の実施例を
図2に示す。なお、以下、実施例1と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0054】
本実施例においては、ドラフト管3の内側における窒素の流量を、ドラフト管3の外側における水蒸気の流量よりも小さくすることにより、流動層2をドラフト管3の内外で循環させる。すなわち、実施例1とは反対に、ドラフト管3の内側の領域において流動層2が下降し、ドラフト管3の外側と反応器1の間の領域において流動層2が上昇する内循環流動を生じさせる。
【0055】
このように、実施例1とは反対の向きに内循環流動を生じさせた場合においても、実施例1と同様に、太陽光Sが照射された流動層2の上面中央部の近傍の高温部Hでは熱還元反応が進行し、放出された酸素は、ガスセパレータ7の上方を通って取り出し口8から回収される。また、流動層2の下部に形成された低温部Lでは水熱分解反応が進行し、発生した水素は、ガスセパレータ7の下方を通って取り出し口9から回収される。
また、ドラフト管3の内側の領域にある流動層2から、ドラフト管3を介して、ドラフト管3の外側と反応器1の間の領域にある流動層2へ向けて熱が移動する。熱移動が円滑に進行するためには、ドラフト管3の外側の領域の流動層2の温度が、内側にある流動層2の温度よりも低くなり十分な温度差が必要となる。本実施例の流動層2では、ドラフト管3の内側に低酸素分圧ガスを、ドラフト管3の外側には水蒸気を同時に導入し、低酸素分圧ガスの流量を水蒸気の流量よりも小さくして、流動層2を反応器1内でドラフト管3を介して対向流動させることから、ドラフト管3の内側と外側の流動層2に大きな温度差が形成され、ドラフト管3の内側の領域の流動層2から外側の領域の流動層2に向けて熱移動が行える。すなわち、高温部Hから低温部Lへ移動する途中の流動層の反応粒子の顕熱が、低温部Lから高温部Hへ移動する途中の流動層の反応粒子により熱回収される。さらに、高温部Hから低温部Lへの流動層の反応粒子の移動にはある程度時間を要するため、低温部Lから高温部Hへ移動する流動層の反応粒子に大きな熱量が移動できる。したがって、エネルギー効率が向上する。
【実施例3】
【0056】
流動層2を構成する金属酸化物として粒径212〜710μmのNiFe
2O
4/m−ZrO
2の微粉体142gを用いて、熱還元反応と水熱分解反応を同時に60分間行った。使用した反応器1の内径は45mm、ドラフト管3の内径は18mm、ドラフト管3の外径は21mmであった。また、太陽光Sの代わりに6kWのキセノンランプ3台を用いて、1.69kWの光を照射した。そして、ドラフト管3の内側には、純度99.999%の窒素を240ml/分の流量、105.7cm/分の線流速で流し、ドラフト管3の外側には、水蒸気と窒素の混合ガスを240ml/分の流量、19.3cm/分の線流速で流した。
【0057】
このときの水素発生速度の経時変化を
図3に示す。総水素発生量は143.4ml(1気圧、25℃)であった。また、反応後の流動層2は焼結、凝集せず、粉末状の形態を有していた。したがって、流動層2にNiFe
2O
4/m−ZrO
2の微粉体を使用した場合において、反応時間をさらに延ばすことで水素発生量を増加させることができることが確認された。
【実施例4】
【0058】
流動層2を構成する金属酸化物として粒径212〜710μmのNiFe
2O
4の微粉体212gを用いて、熱還元反応と水熱分解反応を同時に60分間行った。使用した反応器1の内径は45mm、ドラフト管3の内径は18mm、ドラフト管3の外径は21mmであった。また、太陽光Sの代わりに6kWのキセノンランプ3台を用いて、1.69kWの光を照射した。そして、ドラフト管3の内側には、純度99.999%の窒素を240ml/分の流量、105.7cm/分の線流速で流し、ドラフト管3の外側には、水蒸気と窒素の混合ガスを240ml/分の流量、19.3cm/分の線流速で流した。
【0059】
このときの水素発生速度の経時変化を
図4に示す。総水素発生量は600.6ml(1気圧、25℃)であった。また、反応後の流動層2は焼結、凝集せず、粉末状の形態を有していた。したがって、流動層2に非担持のNiFe
2O
4の微粉体を使用した場合において、反応時間をさらに延ばすことで水素発生量を増加させることができることが確認された。
【実施例5】
【0060】
本発明の水熱分解による水素製造装置のさらに別の実施例を
図5に示す。なお、太陽光集光手段としての地上反射鏡11とタワー反射鏡12は、実施例1と同じであるので図示を省略する。
【0061】
本実施例においては、反応器21は、熱還元反応を行う熱還元反応器22と、水熱分解反応を行う水熱分解反応器23からなる。熱還元反応器22の下部は水熱分解反応器23の下部と連続しており、熱還元反応器22と水熱分解反応器23の間で流動層30が流動できるように構成されている。
【0062】
熱還元反応器22の底面には、窒素を導入するための分散板24、水熱分解反応器23の底面には、水蒸気を導入するための分散板25が設けられている。また、熱還元反応器22の上面には、集光された太陽光Sを導入するための石英製の窓26が設けられ、窓26の近傍には、熱還元反応により発生した酸素を分離するためのサイクロン27が設けられている。熱還元反応器22のサイクロン27の上方には、熱還元反応により発生した酸素を含んだガスの取り出し口28が設けられ、水熱分解反応器23の上方には、水熱分解反応により発生した水素を含んだガスの取り出し口29が設けられている。
【0063】
本実施例の水熱分解による水素製造装置において、分散板24から熱還元反応器22に窒素を導入し、同時に、分散板25から水熱分解反応器23に水蒸気を導入する。そして、窒素の流量を水蒸気の流量よりも大きくすることにより、流動層30を熱還元反応器22と水熱分解反応器23の間で循環させる。すなわち、熱還元反応器22において流動層30が上昇し、水熱分解反応器23において流動層30が下降する循環流動を生じさせる。
【0064】
続いて、集光された太陽光Sを、窓26を通して流動層30へ照射し、流動層30を加熱する。太陽光Sが照射された流動層30の近傍では熱還元反応が進行し、金属酸化物の粒子から酸素が放出される。放出された酸素は、サイクロン27により流動層30から分離され、取り出し口28から回収される。
【0065】
還元された金属酸化物の粒子は、サイクロン27を通って水熱分解反応器23に送られる。金属酸化物の粒子は水熱分解反応器23に送られる間に冷却される。水熱分解反応器23の下部では水熱分解反応が進行し、熱還元反応により還元された金属酸化物の粒子は酸化されてもとの金属酸化物となり、同時に水素が発生する。発生した水素は、取り出し口29から回収される。
【0066】
また、還元された金属酸化物の粒子は、サイクロン27の下方を通って水熱分解反応器23に送られるが、サイクロン27の下方では、水熱分解反応器23内の流動層30へ向けて、または熱還元反応器22内の流動層30へ向けて熱が移動する。熱移動が円滑に進行するためには、水熱分解反応器23内の流動層30または熱還元反応器22内の流動層30の温度が、サイクロン27の下方の領域の流動層30の反応粒子の温度よりも低くなり十分な温度差が必要となる。サイクロン27の下方の領域の流動層30の反応粒子は、熱還元された反応粒子が堆積していることから十分な高温が得られるのに対し、一方、水熱分解反応器23内の流動層30は水蒸気流通下、熱還元反応器22内の流動層30は窒素流通下にあるため、大きな温度差が形成されサイクロン27の下方の領域から水熱分解反応器23内の流動層30、または熱還元反応器22内の流動層30へ向けて熱移動が行える。すなわち、サイクロン27の下方の領域の流動層30の顕熱は、高温部Hから低温部Lへ向けて移動し熱回収される。また、低温部Lへ移動した流動層30の反応粒子は、水素発生反応により発熱することから、その反応熱が熱還元反応器22内の流動層30の反応粒子に熱移動し、吸熱反応である酸素発生反応の熱源として利用できる。したがって、エネルギー効率が向上する。
【0067】
以上のように、本実施例の水熱分解による水素製造装置は、金属酸化物の粒子からなる流動層30を収容した反応器21と、この反応器21に収容された前記流動層30へ太陽光Sを集光して照射する太陽光集光手段としての地上反射鏡11とタワー反射鏡12と、前記流動層30に低酸素分圧ガスを導入する低酸素分圧ガス導入手段としての分散板24と、前記流動層30に水蒸気を導入する水蒸気導入手段としての分散板25とを備えたものであり、流動層30の上面へ太陽光Sを集光して照射するともに、流動層30を反応器内で循環させながら、流動層30の上面において酸素発生反応を進行させ、同時に流動層30の下部において水素発生反応を進行させることによって、酸素と水素を同時に製造することができる。
【実施例6】
【0068】
本発明の水熱分解による水素製造装置の変形例を
図6に示す。なお、以下、実施例1と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。また、太陽光集光手段としての地上反射鏡11とタワー反射鏡12は、実施例1と同じであるので図示を省略する。
【0069】
本実施例においては、反応器1の上端から連続して逆裁頭円錐形状の円錐部31が設けられている。円錐部31の下端の径は反応器1の径と同じであって、円錐部31は上方に向かって径が大きくなるように形成されている。円錐部31の上部には、窓6が設けられている。
【0070】
一方、反応器1の下端から連続して、外部管32と内部管33からなる二重管34が設けられている。外部管32の径は反応器1の径と同じであって、外部管32と内部管33の間の空間を経由して水蒸気が分散板5へ供給され、内部管33を経由して低酸素分圧ガスが分散板4へ供給されるようになっている。
【0071】
以上の構成において、円錐部31は上方に向かって径が大きくなっているため、多方向から反応器1に太陽光を導きやすい。また、円錐部31は上方に向かって径が大きくなっているため、反応器1の下方から供給される低酸素分圧ガスの流速を速くしても、円錐部31に達すると低酸素分圧ガスの線流速が低下して、流動層2が舞い上がることが防止される。
【実施例7】
【0072】
図6に示す水素製造装置において、ガスセパレータ7、取り出し口8,9が設けられておらず、円錐部31の上部にサンプリング口を設けた装置を用いて実験を行った。なお、上面を除き水素製造装置の周囲には断熱材を配置した。
【0073】
流動層2を構成する金属酸化物として粒径212〜710μmのCeO
2の微粉体271gを用いて、熱還元反応と水熱分解反応を同時に行った。使用した反応器1の内径は54mm、ドラフト管3の内径は18mm、ドラフト管3の外径は21mmであった。流動層2を800℃に予備加熱した後、太陽光Sの代わりに7kWのキセノンランプ3台を用いて、流動層2の上面に2.83kWの光を照射した。光照射開始後、流動層2の予備加熱を停止し、光照射加熱のみで熱還元反応と水熱分解反応を行った。そして、ドラフト管3の内側には、純度99.999%の窒素を3000ml/分の流量で流し、同時に、ドラフト管3の外側には、水蒸気と窒素の混合ガスを3060ml/分(水蒸気2380ml/分(液体時1.90ml/分、窒素680ml/分)の流量で流した。ドラフト管3の内側を流れる気体の線速度は1321cm/分、ドラフト管3の外側を流れる気体の線速度は157cm/分であった。そして、円錐部31の上部に設けたサンプリング口から出たガスを冷却水により冷却後、ガスクロマトグラフィーにより水素生成速度を計測した。
【0074】
このときの水素発生速度の経時変化を
図7に示す。平均水素生成速度は62.3ml/分(1気圧、25℃)、最大水素生成速度は78.8ml/分(1気圧、25℃)を記録した。80分間の光照射による総水素発生量は4975ml(1気圧、25℃)、CeO
2の1g当たりの水素発生量は18.4ml(1気圧、25℃)であった。また、反応後の流動層2は焼結、凝集せず、粉末状の形態を有しており、反応
器1の上部に近いほど還元相CeO
2−xの灰色がかった色をしていた。したがって、流動層2にCeO
2の微粉体を使用した場合において、反応時間をさらに延ばすことで水素発生量を増加させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1,21 反応器
2,30 流動層
3 ドラフト管
4,24 分散板(低酸素分圧ガス導入手段)
5,25 分散板(水蒸気導入手段)
6 窓
7 ガスセパレータ(ガス分流手段)
11 地上反射鏡(太陽光集光手段)
12 タワー反射鏡(太陽光集光手段)
S 太陽光