(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体素子が取り付けられた放熱部材は、冷却器などの固定対象に固定されて使用される。この放熱部材の固定には、代表的には、ボルトといった締結部材が利用される。この場合、放熱部材には、当該締結部材が挿通される貫通孔を具える必要がある。このような貫通孔を具え、上記マグネシウム基複合材料で構成された放熱部材に対して、上記締結部材による固定状態の信頼性を高めることが望まれる。
【0005】
上述のマグネシウム基複合材料に上記貫通孔を設けてボルトといった締結部材を締め付けた場合、当該貫通孔の近傍を構成するMgやMg合金は、SiCにより高強度化されているため、当該締結部材の軸力を十分に受けられる。従って、上記貫通孔の近傍を構成するMgやMg合金は、後述するような冷熱サイクルに伴うクリープ変形などによる軸力の低下が生じ難い。
【0006】
一方、SiCは、一般に脆性材料であり、靭性に劣ることから、SiCの存在形態によっては、ボルトといった締結部材の締付時に、上記貫通孔の近傍の構成する部分、特に、SiCが当該締結部材の軸力により作用する力に耐え切れず、割れの起点となって脆性破壊が生じる恐れがある。ここで、上記複合材料においてSiCの含有量を高めたり、熱処理によりSiC同士が結合されたSiC多孔体を原料に利用したりすることで、当該複合材料の熱伝導率を向上したり、熱膨張係数を小さくすることができる。特に、SiCの含有量が高く(好ましくは70体積%超)、かつSiC同士が結合されたSiC多孔体を利用すると、SiCが分散して存在する形態よりも熱特性に優れる。例えば、上記SiC多孔体を利用すると、熱伝導率が180W/m・K以上、熱膨張係数が4ppm/K〜8ppm/K程度といった半導体装置の放熱部材の構成材料として、非常に優れた熱特性を有することができる。しかし、上述のようにSiCが結合されて、複合材料中にSiCが連続して存在する場合、締結部材の締付時、SiCの一部に微小な亀裂が生じると、この亀裂を起点として割れが進展し、上記貫通孔の近傍を構成する部分が割れる恐れがある。このような割れが生じると、上記複合材料からなる放熱部材を固定対象に強固に固定することが難しい。
【0007】
他方、複合材料の一部に、実質的にMgやMg合金のみからなる金属領域を設けて、この金属領域に上記貫通孔を設けることが考えられる。しかし、MgやMg合金は、Alやその合金に比較して高温強度(例えば、クリープ強さ)が低い傾向にある。そのため、この複合材料を放熱部材に利用して冷熱サイクルを受けた場合、貫通孔の近傍を構成するMgやMg合金がクリープ変形するなどにより締結部材の軸力が低下し、固定状態が緩み易くなる可能性がある。従って、このような放熱部材では、長期に亘り、固定対象に対して強固な固定状態を維持することが難しいと考えられる。
【0008】
そこで、本発明の一の目的は、上記課題に鑑みて、固定対象に対して強固な固定状態を維持可能な複合部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記複合部材からなる放熱部材、及びこの放熱部材を具える半導体装置を提供することにある。
【0009】
一方、例えば、上記貫通孔をMg又はMg合金とSiCとの複合領域に設ける場合、金属よりもSiCは一般に高硬度であることから、ドリルによる穴あけが非常に困難であり、放電加工などの加工方法を利用する。そこで、本発明者らは、穴あけ加工の作業性を考慮して、マグネシウム基複合部材として、マトリクス金属であるMg又はMg合金から構成される金属領域を具えるものを作製し、この金属領域に貫通孔を設けることを検討した。
【0010】
しかし、MgやMg合金は、Alやその合金に比較して高温強度(例えば、クリープ強さ)が低い傾向にある。そのため、上記金属領域に貫通孔を設けた複合部材を放熱部材に利用して冷熱サイクルを受けた場合、貫通孔の近傍を構成するMgやMg合金がクリープ変形するなどにより締結部材の軸力が低下し、固定状態が緩み易くなる可能性がある。そのため、このような放熱部材では、長期に亘り、固定対象に対して強固な固定状態を維持することが難しいと考えられる。
【0011】
そこで、本発明の他の目的は、上記課題に鑑みて、固定対象に対して強固な固定状態を維持可能な複合部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記複合部材からなる放熱部材、及びこの放熱部材を具える半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の局面においては、貫通孔の構成材料を工夫することで、上記目的を達成する。具体的には、本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとが複合されたマグネシウム基複合部材に係るものであり、この複合部材は、当該複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を有する。そして、上記貫通孔を構成する少なくとも一部の材料が上記複合部材を構成するマグネシウム又はマグネシウム合金及びSiCと異なる。
【0013】
上記構成によれば、SiCとマトリクス金属を構成するMg又はMg合金との複合領域、即ちSiCが存在する領域に貫通孔が設けられた場合、締結部材の締付時、当該貫通孔において上記特定の材料により構成される箇所が締め付け力を受ける。そのため、上記構成によれば、SiCが分散して存在する形態では、上記締付部材の軸力の低下を効果的に低減することができ、SiC同士が結合された形態では、上記締め付け力が特にSiCに作用して上記貫通孔の近傍に割れが生じることを効果的に防止できる。また、上記構成によれば、Mg又はMg合金からなる金属領域を有しており、この金属領域に貫通孔が設けられた場合、当該貫通孔において上記特定の材料により構成される箇所を具えることで、高温強度を改善できる。そのため、上記構成によれば、冷熱サイクルを受けても、締結部材の軸力の低下による固定状態の緩みが生じ難い。従って、上記構成によれば、当該複合部材から構成される本発明放熱部材を固定対象に強固に固定することができ、かつ、この固定した状態を安定して長期に亘り維持できる。そのため、本発明放熱部材は、半導体素子などの熱を十分に放出することができ、放熱性に優れる。また、このような放熱部材と、この放熱部材に搭載される半導体素子とを具える本発明半導体装置は、放熱性に優れる。
【0014】
上記貫通孔の少なくとも一部を構成する材料は、靭性や高温強度に優れる各種の材料を利用することができる。例えば、金属(但し、マトリクス金属以外のもの)は、一般に、SiCといったセラミックスよりも靭性に優れることから、好適に利用することができる。その他、耐熱性に優れる樹脂、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、耐熱温度260℃)といったフッ素樹脂などの有機材料の利用も考えられる。
【0015】
本発明の一の局面における一形態として、上記複合部材中に上記SiC同士を結合するネットワーク部を有する形態が挙げられる。
【0016】
上記形態によれば、SiCの含有量を高め易く、例えば、50体積%以上、更には70体積%超とすることができ、熱膨張係数が小さい複合部材とすることができる。かつ、上記形態によれば、SiCやマトリクス金属により、熱伝導のための連続した経路が形成されることから熱伝導性に優れる複合部材とすることができる。従って、上記形態によれば、半導体素子の放熱部材に好適な複合部材とすることができる。
【0017】
上記ネットワーク部の構成材料は、代表的には、SiCが挙げられる。上記ネットワーク部を有する複合部材とするには、例えば、ネットワーク部を有するSiC集合体(代表的にはSiC多孔体)を原料に利用することが挙げられる。上記SiC集合体は、例えば、タッピング、スリップキャスト(原料の粉末と水及び分散材とを用いたスラリーを成形後、乾燥させる)、加圧成形(乾式プレス、湿式プレス、一軸加圧成形、CIP(静水圧プレス)、押出成形など)、及びドクターブレード法(原料の粉末と溶媒、消泡剤、樹脂などとを用いたスラリーをドクターブレードに流した後、溶媒を蒸発させる)のいずれか一つにより粉末成形体を形成した後、この成形体に熱処理を施すことで形成することができる。
【0018】
上記熱処理条件は、真空雰囲気、加熱温度:1300℃以上2500℃以下、保持時間:2時間〜100時間が挙げられる。この条件で焼結すると、SiC同士を直接結合させられ、ネットワーク部をSiCにより形成できる上に、強度に優れるSiC多孔体が得られる。特に、加熱温度を2000℃以上とすると、ネットワーク部を太くすることができ、2000℃未満とすると、ネットワーク部が細くなる傾向にある。上記加熱温度や保持時間は、ネットワーク部の形態に応じて適宜選択するとよい。
【0019】
上記ネットワーク部を有する場合に、上記複合部材において上記ネットワーク部が存在する領域に上記貫通孔を有する形態が挙げられる。この場合、上記貫通孔において少なくとも、上記締結部材の頭部が接触する箇所は、上記マグネシウム及び上記マグネシウム合金以外の金属から構成されていることが好ましい。
【0020】
上記形態によれば、ボルトといった上記締結部材の頭部が接触する箇所、即ち、当該締結部材による軸力が作用し易い箇所が、複合部材のマトリクス金属(Mg又はMg合金)と異種の金属により構成されている。この金属として、特にマトリクス金属よりも靭性が高いものや高温強度に優れるものを選択することで、締結部材を締め付けたとき、当該金属部分が締め付け力を受けることで、SiC部分に作用する力が軽減される。ここで、SiCの粒子が分散して存在する形態では、締付時、ある程度粒子が動けることで割れが生じ難いが、ネットワーク部を有する形態では、上述のようにSiC部分を起点として割れが生じる恐れがある。そのため、ネットワーク部を有する形態では、上述のように締結部材による軸力が作用し易い箇所をマトリクス金属と異種の金属により構成することで、(1)SiCを起点として割れなどが生じ難い、(2)冷熱サイクルを受けて締結部材が熱膨張により変形する際に複合部材が追従し易く、締結部材の軸力の低下やクリープの発生を抑制できる、といった効果を奏し、固定対象に対する固定状態の信頼性を高められる。このような高強度、高靭性な金属として、特に、Mg及びMg合金以外の金属、例えば、Fe,Ti,Mo,W,Nb,及びTaから選択される1種の金属、或いは当該金属を主成分とする合金(例えば、ステンレス鋼など)が好適である。金属材料は、マトリクス金属との密着性に優れて好ましい。
【0021】
本発明の一の局面における一形態として、上記貫通孔において少なくとも、上記締結部材の頭部が接触する箇所は、上記マグネシウム及び上記マグネシウム合金以外の金属からなる金属板を有し、上記締結部材を締め付けて上記金属板に上記頭部が接した状態としたとき、上記金属板は、上記頭部の周縁から上記金属板が突出する面積を有する形態が挙げられる。
【0022】
上記形態によれば、上述のように締結部材による軸力が作用し易い箇所がマトリクス金属以外の金属から構成されているため、(1)特に、上述したネットワーク部を有する形態では、締結部材を締め付けたときにSiCを起点とした割れなどを抑制できる、(2)SiCの存在形態によらず、冷熱サイクルを受けてもクリープの発生の抑制や軸力の低下の抑制といった効果を奏することができる。特に、この形態では、締結部材を締め付けた状態において、当該締結部材の頭部から十分に突出できる程度の面積を有する金属板により、当該頭部が接触する箇所を構成することで、金属板が締結部材の軸力を十分に受けられる。従って、この形態では、締結部材の軸力が貫通孔の近傍に局所的に加わることを抑制し、当該軸力を分散させられるため、上記(1),(2)の効果をより確実に奏することができる。
【0023】
上記金属板の構成金属には、上述したFeやその合金などの金属が好適である。また、上記金属板はその面積が大きいほど、締結部材の軸力を十分に受けられる。具体的には、上記金属板の面積(上記貫通孔を除く環状の面積)は、締結部材の頭部を平面視したときの面積よりも大きいことが好ましく、当該頭部の面積に対して1割(10%)以上、更に15%以上、取り分け20%以上大きいことが好ましい。また、複合部材を半導体素子などの放熱部材に利用するにあたり、半導体素子などの部品の載置面積の低下を招かない範囲で適宜選択することが好ましい。金属板の厚さ、形状、面積は適宜選択することができる。
【0024】
上記金属板は、複合部材から取り外し可能な形態とすることができる。この場合、複合部材に設けられた孔の大きさと、金属板に設けられた孔の大きさとを容易に変更することができる。この形態では、金属板は、内孔を有する板状の金具、代表的には平座金や角座金、ばね座金といったワッシャ、特に、締結部材の規格に応じたものよりも一回り大きなものや、上記載置面積の低下を招かない範囲でJIS B 1256(2008)に規定される大形の平座金などを利用できる。
【0025】
或いは、上記金属板は、複合部材と一体化された形態とすることができる。この場合、例えば、上記複合部材として、上記マグネシウム又は上記マグネシウム合金と上記SiCとが複合された複合材料からなる基板と、上記基板の少なくとも一面を覆う金属被覆層とを具え、上記金属板の周縁が上記金属被覆層に接合され、上記金属板の一面が上記金属被覆層から露出されている形態が挙げられる。
【0026】
上記形態によれば、SiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合する鋳型に金属板も適宜配置して、複合化と金属板の一体化とを同時に行い、得られた複合部材において接合された金属板部分に穴開け加工を施すことで、貫通孔の一部が金属板により構成された複合部材を容易に製造でき、製造性に優れる。また、上記形態によれば、固定対象への取り付け作業にあたり、金属板を別途配置する必要がない上に、締結部材の締付時に金属板が動かず、固定作業性に優れる。更に、上記形態によれば、金属被覆層を具えることで、金属被覆層を利用して導通をとれる。従って、この複合部材を放熱部材に利用するにあたり半田接合する場合に、半田との濡れ性を高めるためにNiめっきなどを施す際、電気めっきを利用でき、めっきを容易に形成できる。その他、上記形態によれば、金属被覆層を具えることで、(1)優れた外観を有する、(2)耐食性を向上できる、といった効果も期待できる。また、この形態において、上記金属板の外形を例えば凹凸形状の異形板とすると、当該金属板の周縁の長さが長くなることで金属被覆層との接触面積が大きくなるため、当該金属板と上記金属被覆層の構成金属との密着性を高められる。なお、上述した金属板が取り外し可能な形態でも、上記金属被覆層を具える形態とすることができる。
【0027】
上記金属被覆層の構成金属は、マトリクス金属と同一組成でも異なる組成でもよい。同一組成とする場合、SiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合化するときに同時に金属被覆層の形成を行うと、金属被覆層を有する複合部材を生産性よく製造できる。この場合、得られた複合部材において、上述した複合材料からなる基板中のマトリクス金属と金属被覆層を構成する金属とは、連続する組織(鋳造組織)を有する。
【0028】
マトリクス金属と金属被覆層とが同一組成である複合部材は、例えば、上述したネットワーク部を有するSiC多孔体を原料に利用すると、容易に製造できる。SiC多孔体などの粉末成形体に熱処理を施して作製したSiC集合体は、鋳型で自立可能な程度の強度を有し、独自で形状保持ができる。従って、上記SiC多孔体などのSiC集合体を鋳型に配置し、当該鋳型とSiC集合体との間に所定の隙間を有する状態を維持し、この隙間にマトリクス金属溶湯が流入されるようにすることで、金属被覆層を形成できる。かつ、複合部材の所定の位置に、貫通孔の一部を構成する金属板が設けられるように、鋳型とSiC集合体との隙間に当該金属板を配置する。こうすることで金属被覆層を形成すると同時に金属板を鋳ぐるむことができ、金属板が一体化された複合部材を容易に製造できる。
【0029】
金属被覆層の形成と同時に金属板を一体化する場合に、当該金属板の厚さと金属被覆層の厚さとを異ならせてもよいが、同等の厚さとする場合、当該金属板を、上述した鋳型とSiC集合体との間の間隔を保持するためのスペーサに利用できる。上記隙間を確実に維持するために、別途スペーサを利用することができる。このスペーサは、ナフタレンなどのように複合時の熱で昇華により除去できるものや、カーボン、鉄、ステンレス鋼(例えば、SUS430)といった耐熱性に優れるものが利用できる。このスペーサは、金属被覆層に埋設させたままにしてもよいし、スペーサ部分を切削などにより除去してもよい。例えば、スペーサとして、形成する金属被覆層よりも若干細径の線状体を用意し、この線状体によりSiC集合体を鋳型に固定するなどして、SiC集合体と鋳型との間に線状体の径に応じた隙間を設けると、当該線状体の大部分が金属被覆層に埋設されるため、線状体を残存させていても、良好な外観の複合部材が得られる。
【0030】
上述した複合材料からなる基板のマトリクス金属と上記金属被覆層の構成金属とが異なる組成である場合、当該金属被覆層の構成金属は、例えば、マトリクス金属と異なる組成のMg合金や、Mg及びMg合金以外の金属、例えば、純度が99%以上のAl,Cu,Ni、及びAl,Cu,Niを主成分とする合金(Al,Cu,Niを50質量%超含有する合金)からなる群から選択される1種の金属が挙げられる。
【0031】
マトリクス金属と金属被覆層とが異なる組成である複合部材は、例えば、金属被覆層を形成するための金属板(以下、被覆板と呼ぶ)を適宜用意し、ロウ付け、超音波接合、鋳ぐるみ、圧延(クラッド圧延)、ホットプレス、酸化物ソルダー法、無機接着剤による接合の少なくとも1つの手法を利用することで、製造することができる。上記各手法は、マトリクス金属と金属被覆層とが同一組成である複合部材を製造する場合にも利用できる。上記被覆板を利用する場合、適宜な箇所に貫通孔の一部を構成する金属板を予め圧入などにより接合しておくと、金属板を含む金属被覆層を容易に形成できる。
【0032】
上記金属被覆層の形成領域、厚さは適宜選択することができる。例えば、上述した複合材料からなる基板を構成する面のうち、少なくともめっきが必要とされる面、具体的には、半導体素子が実装される実装面、この実装面と対向し、冷却装置に接触する冷却面の少なくとも一方が挙げられる。また、上述した貫通孔の一部を構成する金属板の周縁の少なくとも一部が金属被覆層に接合されるように、貫通孔の形成領域近傍に金属被覆層が存在することが好ましい。
【0033】
上記各金属被覆層の厚さは、上述した貫通孔の一部を構成する金属板の周縁の少なくとも一部が金属被覆層により接合されていれば、上述のように金属板の厚さと異なっていてもよい。但し、各金属被覆層の厚さが厚過ぎると、複合部材の熱膨張係数の増加や複合部材の熱伝導率の低下を招くことから、2.5mm以下、特に1mm以下、更に0.5mm以下が好ましく、1μm以上、特に0.05mm(50μm)以上0.1mm(100μm)以下であっても、めっきの下地としての機能を十分に果たす上に、複合部材の搬送時や実装時などで金属被覆層を破損し難いと考えられる。金属被覆層を厚く形成しておき、研磨などにより所望の厚さにしてもよい。この場合、上記貫通孔の一部を構成する金属板の周縁を接合する金属被覆層の厚さを容易に変更することができる。
【0034】
上記金属板を具える形態として、上記貫通孔の内周面が当該金属板と同種の金属により構成された形態が挙げられる。
【0035】
上記形態によれば、上記貫通孔の実質的に全体がマトリクス金属以外の金属で構成される。特に、この金属として上述したFeやその合金などの高強度高靭性な金属を利用することで、貫通孔の構成金属が締結部材の軸力を実質的に100%受けることになり、割れなどの発生の抑制、締結部材の軸力低下の抑制、クリープの発生の抑制を図ることができる。この形態は、例えば、複合部材を形成した後、複合部材に貫通孔を形成し、この貫通孔にクリンチングファスナといった内孔を有する金具を圧入すると、簡単に形成できる。このような金具を利用する場合、上述した金属被覆層を具える形態とすると、当該金具を複合部材に確実に固定できて好ましい。
【0036】
なお、例えば、SiC多孔体に貫通孔を設けておき、この貫通孔にマトリクス金属と異なる金属からなる金属塊を嵌め込んで、SiC多孔体とマトリクス金属との複合時に同時に鋳ぐるみ、当該金属塊に貫通孔を設けたり、或いは筒状の金属塊を鋳ぐるむことでも、マトリクス金属とSiCとの複合領域に貫通孔の全体がマトリクス金属と異なる金属からなる貫通孔を具える複合部材が得られる。上記筒状の金属塊に予め設けられた孔を貫通孔に利用する場合、機械加工による貫通孔の形成工程が不要である。また、鋳型に上記金属塊を配置した後、SiC粉末を適宜充填して、マトリクス金属とSiCとを複合すると同時に、当該金属塊を鋳ぐるみ、上述のように金属塊に貫通孔を設けるなどすることでも、上記複合領域にマトリクス金属と異なる金属からなる貫通孔を具える複合部材が得られる。
【0037】
本発明の一形態として、上記複合部材の熱膨張係数が4ppm/K以上8ppm/K以下、上記複合部材の熱伝導率が180W/m・K以上であるものが挙げられる。
【0038】
上述のようにSiCの充填率を高めたり、ネットワーク部を有したりすることで、熱伝導率κが高く、熱膨張係数αが小さい複合部材とすることができる。SiCの含有量やネットワーク部の形態、マトリクス金属の組成などにもよるが、200W/m・K以上、特に250W/m・K以上、更に300W/m・K以上の熱伝導率κを有する複合部材とすることができる。なお、上記熱膨張係数や熱伝導率は、上記複合部材が半導体素子などの放熱部材に利用される場合、半導体素子などが配置されない部分、即ち、上述した金属板などの貫通孔を構成する部分を除いて測定する。金属被覆層を具える形態を含み上記複合部材の熱膨張係数は、当該複合部材から試験片を作製して、市販の装置により測定すると簡単に求められる。或いは、金属被覆層を具える複合部材の熱膨張係数は、当該複合部材を構成する各材料の剛性などを考慮して複合則により算出してもよい。
【0039】
本発明は、他の局面において、上述した金属領域に貫通孔を具える形態において、貫通孔の構成材料を工夫することで、上記目的を達成する。具体的には、本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとが複合されたマグネシウム基複合部材に係るものであり、この複合部材は、上記SiCを含まず、上記マグネシウム又は上記マグネシウム合金から構成される金属領域を有し、この金属領域に当該複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を有する。そして、上記貫通孔を構成する少なくとも一部の材料が上記金属領域の構成金属と異なる。
【0040】
上記構成によれば、Mg又はMg合金からなる金属領域に貫通孔が設けられており、当該貫通孔において上記特定の材料により構成される箇所を具えることで、高温強度を改善できる。そのため、上記構成によれば、冷熱サイクルを受けても、締結部材の軸力の低下による固定状態の緩みが生じ難く、当該複合部材から構成される本発明放熱部材を固定対象に強固に固定した状態を安定して維持できる。従って、本発明放熱部材は、半導体素子などの熱を十分に放出することができ、放熱性に優れる。また、このような放熱部材と、この放熱部材に搭載される半導体素子とを具える本発明半導体装置は、放熱性に優れる。
【0041】
上記貫通孔の少なくとも一部を構成する材料は、特に、冷熱サイクルを受けても、締結部材の軸力の低下による固定状態の緩みが生じ難いように、高温強度に優れる各種の材料を利用することができる。例えば、金属(但し、金属領域を構成するマトリクス金属以外のもの)が挙げられる。その他、耐熱性に優れる樹脂、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、耐熱温度260℃)といったフッ素樹脂などの有機材料の利用も考えられる。
【0042】
本発明の他の局面における一形態として、上記金属領域の厚さ方向の少なくとも一部に、上記金属領域の構成金属と異なる材料からなる埋設部材を有しており、上記貫通孔の少なくとも一部が上記埋設部材に設けられた形態が挙げられる。
【0043】
上記形態によれば、締結部材による軸力が作用する貫通孔において、その少なくとも一部が上記金属領域の構成金属、即ち複合部材のマトリクス金属(Mg又はMg合金)以外の材料から構成されている。特に、この材料として、マトリクス金属よりも高温強度に優れるものを選択することで、冷熱サイクルを受けてもクリープの発生や締結部材の軸力の低下を抑制できる。また、貫通孔の少なくとも一部を構成する上記埋設部材はその外表面が上記金属領域に覆われた状態であることで当該金属領域との密着性に優れることから、この貫通孔は、上記軸力を十分に受けられ、上記軸力の緩和を抑制できる。
【0044】
上記埋設部材の構成材料は、種々のものが選択できるが、特に上記金属領域の構成金属よりも高温強度に優れるものが好ましい。このような高強度材料として、特に、Mg及びMg合金以外の金属、例えば、Fe,Ti,Mo,W,Nb,及びTaから選択される1種の金属、或いは当該金属を主成分とする合金(例えば、ステンレス鋼など)といった金属材料、その他、カーボン、カーボン繊維を含有する材料といった非金属材料が挙げられる。金属材料は、上記金属領域との密着性に優れて好ましい。埋設部材が金属により構成されている場合、埋設部材の表面に例えば酸化膜などの絶縁層を設けたものを利用すると、上記金属領域を構成するマトリクス金属と当該埋設部材を構成する金属との異種金属の接触による電池腐食を低減することができる。上記酸化膜として、例えば、CaOなどのMgと反応しない材質からなるものを利用する場合、複合後に当該酸化膜がそのまま残存して絶縁層として機能する。一方、上記酸化膜として、例えば、SiO
2や有機酸化物といったMgと反応する材質からなるものを利用する場合、複合時にMg0が生成され、この反応生成物:Mg0が絶縁層として機能する。
【0045】
なお、上記金属領域を構成するマトリクス金属と異なる材料からなり、上記貫通孔の少なくとも一部を構成する部分は、上記金属領域に対して取り外し可能な形態とすることができる。しかし、上述のように埋設部材とすると、上記金属領域から脱落し難い上に、固定対象に取り付ける際、締結部材の軸力を受けるための別部材を配置する必要が無く、固定作業性に優れる。
【0046】
本発明の他の局面における一形態として、上記貫通孔において少なくとも、上記締結部材の頭部が接触する箇所は、上記金属領域の構成金属と異なる金属から構成されていることが好ましい。
【0047】
上記形態によれば、ボルトといった上記締結部材の頭部が接触する箇所、即ち、当該締結部材による軸力が作用し易い箇所が、上記金属領域の構成金属(マトリクス金属)と異種の金属により構成されている。この金属として、特にマトリクス金属よりも高温強度に優れるもの(代表的には上述したFeなどの金属材料)を選択することで、冷熱サイクルを受けても締結部材が熱膨張により変形する際に複合部材が追従し易く、締結部材の軸力の低下やクリープの発生を抑制でき、固定対象に対する固定状態の信頼性を高められる。この形態では、例えば、上述した埋設部材の一部を上記金属領域の表面から露出させ、この露出領域を上記頭部が接触する箇所とすることが挙げられる。
【0048】
本発明の他の局面における一形態として、上記埋設部材は、金属板を有する形態、或いは、上記金属領域の厚さ方向の全長に亘って存在する形態、或いは、少なくとも一部が金属繊維を含む形態が挙げられる。
【0049】
上記埋設部材の形態は、適宜選択することができ、例えば、金属板、柱状体や筒状体といった金属塊、金属板と上記金属塊とを組み合わせた複雑な立体形状物(例えば、クリンチングファスナといった内孔を有する金具)、上記金属領域の構成金属と異なる金属から構成される金属繊維を含む形態、金属板や上記金属塊と金属繊維との双方を含む形態が挙げられる。これら埋設部材の構成材料は、上述した高温強度に優れるFeなどの金属材料を好適に利用することができる。
【0050】
上記金属板を含む形態として、特に、金属板のみの形態とすると、マトリクス金属以外の金属の含有量を低減でき、軽量な複合部材とすることができる。また、金属板を含む形態では、当該金属板の一面が上記金属領域の表面から露出された形態とし、この露出面を上述した締結部材の頭部が接触する箇所とすると、当該金属板が締結部材の軸力を十分に受けられて好ましい。特に、露出される面積は、締結部材を締め付けて当該露出領域にこの締結部材の頭部が接した状態において、この頭部の周縁から金属板が突出する大きさとすると、上記締結部材の軸力を十分に受けられ、締結部材の軸力が貫通孔の近傍に局所的に加わることを抑制し、当該軸力を分散させることができる。上記露出される面積が大きいほど、締結部材の軸力を十分に受けられるが、複合部材を半導体素子などの放熱部材に利用するにあたり、半導体素子などの部品の載置面積の低下を招かない範囲で適宜選択することが好ましい。例えば、金属板において上記露出される面積(貫通孔を除く環状の面積)が締結部材の頭部を平面視したときの面積よりも大きい形態とすることができる。上記露出される面積が上記頭部の面積に対して1割(10%)以上、更に15%以上、取り分け20%以上大きいと、上述のように締結部材の軸力が貫通孔の近傍に局所的に加わることを効果的に抑制できる。或いは、鉄やその合金などの高硬度な材質により金属板が構成されている場合、ある程度肉厚にすることで上記頭部の面積よりも上記露出される面積が小さい形態であっても、上述のように締結部材の軸力が貫通孔の近傍に局所的に加わることを効果的に抑制できると期待される。金属板の厚さ、形状は適宜選択することができる。
【0051】
上記金属塊を含む形態では、締結部材の軸力を受ける領域を大きくし易く、上記金属領域に加わる軸力を低減することができる。例えば、上記埋設部材は、上記金属領域の厚さ方向の一部にのみ存在し、上記貫通孔の少なくとも一方の開口部が上記金属領域の構成金属から構成された形態、即ち、上記貫通孔が上記埋設部材の構成材料と、上記金属領域の構成材料とから構成される形態とすることができる。この形態では、上記金属領域の一部に存在する上記埋設部材により、当該金属領域に加わる軸力を低減できることに加えて、この埋設部材が存在する箇所の表面が上記金属領域の構成金属により形成されることで、優れた外観を有したり、めっきや研磨などの加工が施し易くなったり、後述する金属被覆層を具える形態とする場合、複合部材の表面を実質的に金属のみにより構成することができる。或いは、上記埋設部材が上記金属領域の厚さ方向の全長に亘って存在する形態、即ち、上記埋設部材の両端面が上記金属領域の表面から露出され、上記貫通孔が当該埋設部材の構成材料から構成される形態とすることができる。この形態では、当該埋設部材が締結部材の軸力を実質的に100%受けることになり、締結部材の軸力低下の抑制、クリープの発生の抑制を効果的に図ることができる。上記金属塊の大きさ、形状は、適宜選択することができる。例えば、金属塊の外形が凹凸形状である異形の柱状体などとすると、当該金属塊と上記金属領域との接触面積が大きくなる他、当該金属塊と上記金属領域とが立体的に係合することにより、上記金属領域における金属塊の保持力を高められるため、当該金属塊と上記金属領域を構成するマトリクス金属との密着性を高めることができる。
【0052】
上記金属繊維を含む形態では、金属繊維の充填度合いにより埋設部材の機械的特性を容易に変更することができる。金属繊維の充填率が低いと、上述のように軽量化に寄与することができ、充填率が高かったり、充填領域が広い、特に、上記金属領域の厚さ方向の全長に亘って金属繊維が存在すると、上述のように金属領域に加わる軸力の低減に効果的に寄与することができる。この形態では、金属繊維間に上記金属領域の構成金属が含浸されることで、金属繊維からなる埋設部材と当該金属領域の構成金属との密着性に優れる。その他、金属繊維は、所望の形状を形成し易く、利用し易い。
【0053】
本発明のさらに他の局面におけるマグネシウム基複合部材は、固定対象に取り付けるための締結部材が挿通されるための貫通孔が設けられたものであって、基板および受部を有する。基板は、マグネシウムおよびマグネシウム合金のいずれかであるマトリクス金属と、マトリクス金属中に分散されたSiC粒子としてのSiCとが複合された複合材料からなり、貫通部が設けられている。受部は、基板の貫通部に取り付けられており、貫通孔が設けられており、マトリクス金属と異なる金属材料からなる。
【0054】
上記構成によれば、締結部材の締付時、基板ではなく受部に設けられた貫通孔が締め付け力を受ける。そのため、基板に設けられた貫通孔が締め付け力を直接受ける場合において生じ得る貫通孔周辺での基板割れを防止することができる。また基板のSiCがマトリクス金属中に分散されたSiC粒子として存在することによって、外力が加わった際に個々の粒子がある程度独立に変位可能なので、SiC同士を結合するネットワーク部が形成されている場合に比して、基板割れが生じ難い。また受部がマトリクス金属と異なる金属材料からなることで、受部の材料をマグネシウムおよびマグネシウム合金のいずれとも異なるものとすることができるので、締結部材の軸力低下がより生じ難い材料を選択することができる。よってマグネシウム基複合部材が冷熱サイクルを受けても、締結部材の軸力の低下による固定状態の緩みが生じ難い。従って、上記構成によれば、当該複合部材から構成される本発明放熱部材を固定対象に強固に固定することができ、かつ、この固定した状態を安定して長期に亘り維持できる。そのため、本発明放熱部材は、半導体素子などの熱を十分に放出することができ、放熱性に優れる。また、このような放熱部材と、この放熱部材に搭載される半導体素子とを具える本発明の半導体装置は、放熱性に優れる。
【0055】
上記複合材料に占めるSiCの体積割合は、たとえば、高密度に充填されたSiC粒子に対して溶解したマトリクス金属を注入する製造方法によって、容易に高めることができる。この割合は60体積%超とすることができ、さらに75体積%超とすることができる。
【0056】
上記受部は、基板に埋め込まれた突起を有してもよい。この突起がアンカーとして働くことで、受部が基板から外れ難くなる。
【0057】
上記貫通部は、基板に設けられた孔部であってもよい。これにより受部の全周が基板に取り囲まれるので、受部が基板から外れ難くなる。あるいは貫通部は、基板に設けられた切欠部であってもよい。これにより受部を、基板に設けられた貫通孔ではなく、基板に設けられた切欠に取り付けることができる。受部が取り付けられる貫通孔が基板に設けられる場合は基板のうち貫通孔よりも外側に位置する部分が破断しやすいが、受部が切欠に取り付けられる場合は、受部が取り付けられる貫通孔を設ける必要がないので、このような破断を防止することができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明複合部材及びこの複合部材から構成される本発明放熱部材は、固定対象に強固に固定することができる。本発明半導体装置は、上記放熱部材を具えることで熱特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施形態について説明する。
はじめに実施形態1〜3に共通する内容について説明する。
【0061】
≪複合部材≫
本発明複合部材の形態として、マトリクス金属を構成するマグネシウム又はマグネシウム合金と、非金属無機材料(主としてSiC)とが複合された複合材料からなる基板のみの形態と、上記基板と、この基板の少なくとも一面を覆う金属被覆層とを具える形態とが挙げられる。金属被覆層は上述しているため、ここでは、基板を詳細に説明する。
【0062】
[マトリクス金属]
上記基板中のマトリクス金属の成分は、99.8質量%以上のMg及び不純物からなるいわゆる純マグネシウム、又は添加元素と残部がMg及び不純物からなるマグネシウム合金とする。マトリクス金属が純マグネシウムである場合、合金である場合と比較して、(1)複合部材の熱伝導性を高められる、(2)凝固時に晶出物が不均一に析出するなどの不具合が生じ難いため、均一的な組織を有する基板を得易い、といった利点を有する。マトリクス金属がマグネシウム合金である場合、液相線温度が低下するため、溶融する際の温度を低下できる上に、基板の耐食性や機械的特性(強度など)を高められる。添加元素は、Li,Ag,Ni,Ca,Al,Zn,Mn,Si,Cu,及びZrの少なくとも1種が挙げられる。これらの元素は、含有量が多くなると熱伝導率の低下を招くため、合計で20質量%以下(マトリクス金属を100質量%とする。以下、添加元素の含有量について同様)が好ましい。特に、Alは3質量%以下、Znは5質量%以下、その他の元素はそれぞれ10質量%以下が好ましい。Liを添加すると、複合部材の軽量化、及び加工性の向上の効果がある。公知のマグネシウム合金、例えば、AZ系,AS系,AM系,ZK系,ZC系,LA系などでもよい。所望の組成となるようにマトリクス金属の原料を用意する。
【0063】
[非金属無機材料]
<組成>
上記基板中には、SiCを含有する。SiCは、(1)熱膨張係数が3ppm/K〜4ppm/K程度であり半導体素子やその周辺部品の熱膨張係数に近い、(2)非金属無機材料の中でも熱伝導率が特に高い(単結晶:390W/m・K〜490W/m・K程度)、(3)種々の形状、大きさの粉末や焼結体が市販されている、(4)機械的強度が高い、といった優れた効果を奏する。その他、熱膨張係数がMgよりも小さく、熱伝導性に優れ、かつMgと反応し難い非金属無機材料、例えば、Si
3N
4、Si、MgO、Mg
3N
2、Mg
2Si、MgB
2、MgCl
2、Al
2O
3、AlN、CaO、CaCl
2、ZrO
2、ダイヤモンド、グラファイト、h−BN、c−BN、B
4C、Y
2O
3、NaClの少なくとも1種を含有することを許容する。SiC以外の非金属無機材料は、例えば、ネットワーク部として存在する。
【0064】
<存在状態>
SiCとマトリクス金属とからなる基板中のSiCの存在状態として、代表的には、マトリクス金属中にばらばらに分散した形態(以下、分散形態と呼ぶ)、ネットワーク部により結合された形態(以下、結合形態と呼ぶ)が挙げられる。特に、結合形態では、SiCの全体がネットワーク部により連結されて連続し、SiC間にマトリクス金属が充填された形態、即ち、基板からマトリクス金属を除去した場合、開気孔を有する多孔体であることが好ましい。この多孔体は、閉気孔が少ない、具体的には基板中の非金属無機材料の全体積に対して10体積%以下、更に3体積%以下であることが好ましい。基板中の非金属無機材料は、原料に用いた非金属無機材料がほぼそのままの状態で存在する。従って、原料に上述のような閉気孔が少ない多孔体を利用すると、マトリクス金属溶湯が多孔体に溶浸するための経路を十分に有することができ、かつ、上記開気孔にマトリクス金属が充填されることで、得られた基板自体も気孔が少なくなる。気孔が少ない基板を具えることで、この複合部材は、熱伝導率が高くなる。複合部材中のネットワーク部の存在や閉気孔の割合は、例えば、当該複合部材の断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで確認したり、測定したりすることができる。
【0065】
<含有量>
SiCとマトリクス金属とからなる基板中のSiCの含有量は、適宜選択することができる。SiCの含有量が多いほど熱伝導率κが高まる上、熱膨張係数αが小さくなり易い。従って、SiCの含有量は、熱特性を考慮すると、基板を100体積%とするとき、50体積%以上、特に70体積%超、更に75体積%以上、とりわけ80体積%以上、好ましくは85体積%以上が望まれる。SiCの含有量が70体積%超である場合、半導体素子やその周辺部品の熱膨張係数(4ppm/K〜8ppm/K程度)と同等程度の熱膨張係数を有する上に、180W/m・K以上という高い熱伝導率を有する複合部材とすることができる。このような複合部材は、半導体素子などに適合した低い熱膨張係数を有しながら放熱性にも優れることから、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。また、半導体素子やその周辺部品との熱膨張係数の整合性に優れる上記複合部材は、半導体素子などとの接合箇所に生じる熱応力が少ない上に、上述のように貫通孔の構成材料を特定の材料とすることで、所定の接合強度を十分に維持できるため、放熱部材を含めた半導体装置の信頼性を高められる。その他、熱伝導性に優れる上記複合部材は、放熱部材としての信頼性を高められる上に、放熱部材を小型にでき、引いては半導体装置の小型化にも寄与することができる。但し、工業生産性などを考慮すると、SiCの含有量は、80体積%〜90体積%程度が実用的であると考えられる。
【0066】
<ネットワーク部>
ネットワーク部を有する形態の場合、ネットワーク部の構成材料は、上述したSiCの他、シリコン窒化物(Si
3N
4)、マグネシウム化合物(例えば、MgB
2,MgO,Mg
3N
2)、その他の窒化物(例えば、BN,AlN)、酸化物(例えば、CaO)といった非金属無機材料、Moといった金属材料が挙げられる。Si
3N
4は、熱膨張係数が小さいことから、ネットワーク部がSi
3N
4により構成されることで、熱膨張係数が更に小さい複合部材とすることができる。
【0067】
上述したように製造条件によりネットワーク部の太さを変化させられる。ネットワーク部の太さとは、複合部材の断面において所定の長さの線分を任意にとり、SiCとネットワーク部とから構成されるSiC集合体の輪郭線が上記線分を横断する箇所の長さ、つまり、上記輪郭線において上記線分との交点であって、隣り合う交点間の長さを言う。上記交点間の長さが長い、即ち、ネットワーク部が太い場合は、熱特性に優れ、特に熱膨張係数が小さくなる傾向にあり、上記交点間の長さが短い、即ち、ネットワーク部が細い場合は、機械的特性に優れ、特に引張強度や曲げ強度が高い傾向にある。ネットワーク部の太さが太くなると、上記線分における交点数が少なくなる。そこで、複合部材の断面において、当該複合部材の実寸に対して長さ1mmの線分を任意にとり、上記SiCと上記ネットワーク部とから構成されるSiC集合体の輪郭線と上記線分との交点の数が50以下を満たすものをネットワーク部の太さが太いもの、ということができる。
【0068】
<基板の厚さ>
SiCとマトリクス金属とからなる基板の厚さは、適宜選択できるが、半導体素子の放熱部材として利用する場合、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
【0069】
[貫通孔]
上記基板、又は基板と金属被覆層とを具える複合部材に設けられた貫通孔の大きさや個数は適宜選択することができ、特に問わない。また、貫通孔は、ネジ加工が施されたネジ孔、ネジ加工が施されていない平滑な面からなる孔のいずれでもよい。更に、貫通孔は、皿もみ加工を施された形態とすることができる。皿もみ加工により、ボルト頭といった締結部材の頭部が複合部材の表面から突出せず、固定対象に固定された状態において平滑な表面とすることができる。
【0070】
≪製造方法≫
本発明複合部材は、代表的には、SiC粉末を利用してSiC集合体を形成する成形工程と、鋳型に収納された上記SiC集合体に溶融したマグネシウム又はマグネシウム合金(以下、マトリクス金属溶湯と呼ぶ)を溶浸させて複合する複合工程と、得られた複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を形成する孔形成工程とを具える製造方法により製造することができる。ネットワーク部を有する結合形態の複合部材を製造する場合、上述したように或いは後述する適宜な方法でネットワーク部を形成する。金属被覆層を有する複合部材を製造する場合、上述したように適宜な方法で金属被覆層を形成する。
【0071】
[原料]
マトリクス金属には、上述した純マグネシウム又はマグネシウム合金のインゴットを好適に利用できる。上記SiC集合体の原料には、主として、SiC粉末が利用できる。特に、粒子状や繊維状のSiC粉末であって、平均粒径(繊維状の場合、平均短径)が1μm以上3000μm以下、特に、10μm以上200μm以下であると、粉末の集合体を製造し易く好ましい。平均粒径が異なる複数種の粉末を組み合わせて用いると、SiCの充填率を高め易い。複合部材中のSiCの含有量は、原料の量に実質的に等しいため、複合部材が所望の熱特性となるように、原料の量を適宜選択するとよい。また、複合部材(基板)が所定の形状となるように、原料の粉末を充填する金型の形状や、SiC集合体とマトリクス金属とを複合する鋳型の形状を適宜選択するとよい。
【0072】
[成形工程]
上記SiC集合体の形態には、粉末成形体と、粉末成形体を焼結して得られる焼結体(代表的にはネットワーク部を有するSiC多孔体)とが挙げられる。複合部材中のSiCの含有量を50体積%以上、特に70体積%超に高める場合、粉末成形体の形成には、スリップキャスト、加圧成形、ドクターブレード法が好適に利用でき、得られた粉末成形体は、ハンドリングが可能な強度を持つ。複合部材中のSiCの含有量が低い場合には、タッピングなどでも十分に粉末成形体を形成することができる。
【0073】
上記焼結条件は、例えば、(1)真空雰囲気、加熱温度:800℃〜1300℃未満、保持時間:10分〜2時間程度、(2)大気雰囲気、加熱温度:800℃〜1500℃、保持時間:10分〜2時間程度が挙げられる。上記焼結条件により焼結を行ったり、上述したネットワーク部を形成するための熱処理を行うことで、(1)上記粉末成形体よりも強度が高く、鋳型に収納する際などで欠けなどが生じ難く、扱い易い焼結体が得られる、(2)多孔体を容易に作製できる、(3)焼結温度や保持時間を調節することで、焼結体を緻密化させてSiCの充填率を向上でき、SiCの含有量が70体積%以上である複合部材を得易い、といった利点がある。なお、比較的低温である上記焼結条件(1),(2)では、ネットワーク部を有していない分散形態の複合部材が得られる傾向にある。
【0074】
上記SiC集合体として、市販のSiC焼結体を利用してもよい。この場合、SiC焼結体は、複合部材中に存在し得るネットワーク部を有し、かつマトリクス金属溶湯が溶浸するための開気孔を有するものを適宜選択するとよい。
【0075】
ネットワーク部を有するSiC集合体を形成する方法として、上述した熱処理を施す方法の他、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0076】
(1) SiC粉末と、Si粉末又はSiを含有する化合物からなる粉末との混合粉末を用いてSiを含有する粉末成形体を形成し、この粉末成形体を窒素雰囲気下で熱処理してシリコン窒化物を生成し、このシリコン窒化物によりネットワーク部を構成する方法。
【0077】
この方法では、熱処理温度を800℃〜1800℃程度に低くしても、SiC同士を十分に結合できる上に、ネットワーク部を太くすることができる。上記Siを含有する粉末成形体は、Siを含有する酸化物、例えば、SiO
2、H
2SiO
3、Na
2SiO
3といったセラミックスからなる添加剤を利用し、この酸化物を還元することでも形成できる。
【0078】
(2) 上述した非金属無機材料の前駆体(例えば、ポリカルボシラン、金属アルコキシド)の溶液を作製して粉末成形体に含浸させた後加熱し、当該前駆体からネットワーク部を構成する非金属無機材料(例えばSiC,MgO,CaO)を生成する方法。
【0079】
この方法では、比較的低温でネットワーク部を製造できる上に、SiCを新生した場合、SiCの密度を高められる。
【0080】
(3) SiC粉末と、ホウ素及び酸素の少なくとも1種を含有する反応用粉末(例えば、ホウ素,BN,TiB
2,ホウ酸(B
2O
3)、四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
5(OH)
4・8H
2O)といった単体元素の粉末、酸化物や硼化物、ホウ酸化物の粉末)との混合粉末により粉末成形体を形成し、マトリクス金属溶湯と上記反応用粉末との反応により、新たな非金属無機材料を生成し、この生成物からネットワーク部を構成する方法。
【0081】
この方法では、ネットワーク部の形成にあたり、別途、熱処理や加熱が不要である。
(4) SiC粉末と、窒素又は酸素と反応して酸化物又は窒化物を生成する前駆体粉末(例えば、SiCl
4,有機Si化合物)との混合粉末により粉末成形体を形成し、この粉末成形体に熱処理を施すことで、上記酸化物又は窒化物を生成し、この生成物からネットワーク部を構成する方法。
【0082】
この方法では、比較的低温でネットワーク部を製造できる。
なお、SiC粉末のみのSiC粉末成形体を作製した後、別途用意した上記Si粉末や、前駆体粉末、反応用粉末などを水などの溶媒に混合した混合液(例えば、水溶液)に当該SiC粉末成形体を含浸させた後、上記溶媒を乾燥させると、Siなどの所望の物質を粉末成形体に均一的に分散させ易い。
【0083】
〈酸化膜の形成〉
更に、上記SiC集合体として、その表面に酸化膜を具えるものを利用すると、SiC集合体とマトリクス金属との濡れ性が高められて好ましい。酸化膜を具えるSiC集合体は、SiCの含有量が多く、SiC間の隙間が非常に小さい場合であっても、毛管現象によりマトリクス金属溶湯が浸透し易い。ネットワーク部を有する複合部材を得る場合、焼結体などのSiC集合体を作製した後に酸化膜を形成する酸化工程を具えることが好ましく、ネットワーク部を有しない複合部材を得る場合、SiC粉末といった原料粉末に酸化膜を形成しておき、酸化膜を具える粉末を利用してSiC集合体(粉末成形体)を形成するとよい。
【0084】
上記酸化膜を形成するための条件は、粉末の場合も焼結体などの場合も同様であり、加熱温度は、700℃以上、特に750℃以上、更に800℃以上が好ましく、とりわけ850℃以上、更に875℃以上1000℃以下が好ましい。また、上記原料のSiCに対する質量割合が0.4%以上1.5%以下(酸化膜の厚さ:50nm〜300nm程度)、特に1.0%以下を満たすように酸化膜を形成することが好ましい。酸化膜を具えるSiC集合体を原料に利用した場合、得られた複合部材中のSiCの近傍(SiC集合体の輪郭線から100nm〜300nm以内の領域)は、当該近傍以外の箇所よりも酸素濃度が高い傾向にある。
【0085】
[複合工程]
鋳型に上記SiC集合体を収納して、マトリクス金属溶湯を溶浸させた後、当該マトリクス金属を凝固させることで、複合部材(基板)が得られる。特に、締結部材が挿通される貫通孔の一部を構成する金属板を複合部材に一体に具える形態の複合部材を製造する場合、上記SiC集合体と共に金属板を鋳型に収納して、上記SiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合すると共に、金属板を一体化する。
【0086】
上記複合工程は、大気圧(概ね0.1MPa(1atm))以下の雰囲気で行うと、雰囲気中のガスを取り込み難く、ガスの取り込みに伴う気孔が生じ難い。但し、Mgは蒸気圧が高いため、高真空状態とするとマトリクス金属溶湯を取り扱い難くなる。従って、上記複合工程の雰囲気圧力を大気圧未満とする場合、0.1×10
-5MPa以上が好ましい。また、上記複合工程は、Arといった不活性雰囲気で行うと、特にMg成分と雰囲気ガスとの反応を防止でき、反応生成物の存在に伴う熱特性の劣化を抑制できる。溶浸温度は、マトリクス金属がマグネシウム(純Mg)の場合、650℃以上が好ましく、溶浸温度が高いほど濡れ性が高まるため、700℃以上、特に800℃以上、更に850℃以上が好ましい。但し、1000℃超とすると、引け巣やガスホールといった欠陥が生じたり、Mgが沸騰する恐れがあるため、溶浸温度は1000℃以下が好ましい。また、過剰な酸化膜の生成や晶出物の生成を抑制するために900℃以下がより好ましい。
【0087】
[孔形成工程]
得られた複合部材の所望の位置に、ボルトといった締結部材が挿通される貫通孔を機械加工により形成する。特に、放電加工を利用すると、複合部材においてSiCが存在する領域に上記貫通孔を形成する場合であっても容易に設けられる。上記貫通孔の一部を構成する金属板を複合部材(基板)に一体に具える形態では、SiCとマトリクス金属とから構成される基板と共に金属板に貫通孔を設けると、金属板から当該基板に連通する貫通孔を容易に設けられる。上述したワッシャやクリンチングファスナなどの内孔を有する金具を利用する形態では、上記基板に孔を設けた後、上記金具を適宜配置することで、当該金具から基板に設けられた孔に連続する貫通孔や複合部材の表裏に連通する貫通孔を構成することができる。上記貫通孔の少なくとも一部を上述した樹脂で形成する場合、例えば、上記基板に孔を設けた後、この孔に樹脂を充填し、この充填した樹脂部分に貫通孔を設けると、樹脂で構成される貫通孔を容易に形成することができる。貫通孔が樹脂により形成されることで、異種金属の接触による電池腐食が生じ得ない。
以下、図面を参照して、本発明の具体的な実施形態1〜3を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、図中では、分かり易いように金属被覆層や貫通孔を誇張して示す。
【0088】
[実施形態1]
図1Aおよび
図1Bを参照して、実施形態1のマグネシウム基複合部材1A(複合部材とも称する)を説明する。複合部材1Aは、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなる基板10と、マグネシウムから構成され、基板10の表面の実質的に全面を覆う金属被覆層11とを具えるマグネシウム基複合部材であり、当該複合部材1Aを固定対象(図示せず)に取り付けるためのボルト(締結部材)100が挿通される貫通孔20Aを具える。この複合部材1Aの特徴とするところは、貫通孔20Aの形態にある。以下、貫通孔20Aを中心に説明する。
【0089】
複合部材1Aは、基板10中にSiC同士を結合するネットワーク部を有しており、基板10中のSiCは、上記ネットワーク部により実質的に全体に亘って連続した形態である。複合部材1Aにおいて、上記ネットワーク部が存在する領域に、基板10の一面を覆う金属被覆層11から基板10を経て、基板10の他面を覆う金属被覆層11に貫通する孔(基板孔)(以下、ベース孔21と呼ぶ)が設けられている。ベース孔21の外周を囲むように、内孔22h(受部孔)を有する金属板22(受部)が配置されて、ベース孔21と金属板22の内孔22hとにより、貫通孔20Aが構成されている。
【0090】
金属板22は、ステンレス鋼製のワッシャであり、その外径は、ボルト100の大きさに対応して規定される規格サイズのよりも一回り大きいものである。そのため、ボルト100を締め付けて金属板22にボルト100の頭部が接した状態にしたとき、
図1Bに示すように、頭部の周縁から金属板22が十分に突出している。この金属板22には、その面積が、ボルト100の頭部を平面視したときの面積に対して10%以上大きいものが好適に利用できる。
【0091】
複合部材1Aは、上記貫通孔20Aにボルト100を挿通し、このボルト100を締め付けることで固定対象に取り付けられる。固定対象に固定された状態では、上述のようにボルト100の頭部は金属板22に接触する。即ち、複合部材1Aは、貫通孔20Aにおいてボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0092】
上記複合部材1Aは、以下のように作製した。原料として、99.8質量%以上のMg及び不純物からなる純マグネシウムのインゴット(市販品)、及びSiC集合体として市販のSiC焼結体(ネットワーク部がSiCから構成されたSiC多孔体。相対密度80%、長さ190mm×幅140mm×厚さ4mm)を用意した。
【0093】
用意したSiC集合体に875℃×2時間の酸化処理を施して酸化膜を形成し、溶融した純マグネシウムとの濡れ性を高めた。上記酸化処理の工程は、省略してもよい。
【0094】
上記SiC集合体を鋳型に収納して、溶融した純マグネシウムをSiC集合体に溶浸させ、純マグネシウムを凝固させる。
【0095】
上記鋳型は、カーボン製であり、一方が開口した直方体状の箱体であり、複数の分割片を組み合わせて一体に形成される。この鋳型の内部空間がSiC集合体の収納空間として利用される。ここでは、直径φ0.5mmのステンレス鋼ワイヤをスペーサとして用意し、SiC集合体と鋳型との間に当該スペーサが配置可能な大きさの内部空間を有する鋳型を利用する。この鋳型にSiC集合体を収納し、鋳型の適切な位置にSiC集合体が配置されるように、上記スペーサによりSiC集合体を鋳型に固定する。上記スペーサにより鋳型に固定されることでSiC集合体は、鋳型内に安定して配置されると共に、SiC集合体と鋳型との間にスペーサの大きさ(ここでは直径)に応じた大きさの隙間(ここでは0.5mmの隙間)が板状のSiC集合体の表裏、及び周縁に容易に設けられる。
【0096】
なお、分割片を組み合わせた構成とせず、一体成形された鋳型を利用してもよい。また、ここでは、鋳型の内周面においてSiC集合体が接触する箇所には、市販の離型剤を塗布してから上記SiC集合体を鋳型に収納した。離型剤を塗布することで、複合部材を取り出し易くすることができる。この離型剤の塗布工程は、省略してもよい。
【0097】
上記鋳型は、開口部の周縁に連結されるインゴット載置部を有しており、このインゴット載置部に用意した上記インゴットを配置し、この鋳型を所定の温度に加熱することで当該インゴットを溶融する。鋳型の加熱は、加熱可能な雰囲気炉に鋳型を装入することで行う。
【0098】
ここでは、溶浸温度:775℃、Ar雰囲気、雰囲気圧力:大気圧となるように上記雰囲気炉を調整した。溶融した純マグネシウムは、鋳型の開口部から鋳型の内部空間に流入して、当該内部空間に配置されたSiC集合体に溶浸される。また、スペーサにより設けられた鋳型とSiC集合体との間の隙間に溶融した純マグネシウムが流れ込むことで、複合された基板10の対向する二面、及び周縁に、純マグネシウムからなる金属被覆層11が形成される。
【0099】
上記溶浸後、鋳型を冷却して純マグネシウムを凝固した。ここでは、鋳型の底部から開口部に向かって一方向に冷却されるように、底部側を積極的に冷却した。このような冷却を行うことで、大型な複合部材であっても内部欠陥を低減することができ、高品質な複合部材が得られる。なお、小型な複合部材である場合、上述のような一方向の冷却を行わなくても、高品質な複合部材が得られる。
【0100】
得られた複合物(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)において所望の位置に機械加工(ここでは放電加工)により、ベース孔21を形成する。ここでは、複合部材1Aの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個のベース孔21を設けている。そして、ベース孔21に金属板22を配置することで、貫通孔20Aの一部がマトリクス金属以外の金属により構成された複合部材1Aが得られる。
【0101】
上記構成を具える複合部材1Aは、貫通孔20Aの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を金属板22により十分受けられる。特に、複合部材1Aでは、金属板22を、ボルト100の周縁から十分に突出する程度の大きさを有するものとしている。従って、複合部材1Aは、SiC同士を結合するネットワーク部を有する形態でありながら、ボルト100の締付時に、ベース孔21の近傍に割れが生じることを効果的に防止できる。また、ボルト100の頭部が接触する箇所が高強度・高靭性な金属で構成されていることで、複合部材1Aは、冷熱サイクルを受けた場合にもクリープを生じ難くしたり、ボルト100の軸力の低下を抑制したりすることができ、固定対象に対する固定状態の緩みが生じ難い。そのため、複合部材1Aは、固定当初から長期に亘り固定対象に強固に固定した状態を維持できると期待される。
【0102】
なお、得られた複合部材1Aの成分をEDX装置により調べたところ、Mg及びSiC、残部:不可避的不純物であり、用いた原料と同様であった。得られた複合部材1AにCP(Cross-section Polisher)加工を施して断面を出し、SEM観察によりこの断面を調べたところ、複合部材1A中のSiCは網目状となっており、SiC同士が直接結合されていた。即ち、ネットワーク部がSiCで形成された多孔体となっており、用いた原料の焼結体と同様であった。得られた複合部材1Aの断面を光学顕微鏡で観察したところ、SiC間の隙間に純マグネシウムが溶浸されていること、及び基板10の表面に純マグネシウムからなる金属被覆層11を具えていることが確認できた。更に、基板10のマトリクス金属及び金属被覆層11の構成金属の組成をEDX装置により調べたところ、同一組成(純マグネシウム)であった。また、上記断面の観察像から、基板10の両面に形成された各金属被覆層11は、基板10中の純マグネシウムと連続した組織を有していることが確認できた。更に、上記断面の観察像を用いて各金属被覆層11の厚さを測定したところ、概ね0.5mm(500μm)であり、上述したスペーサの大きさに実質的に一致していることが確認できた。
【0103】
また、得られた複合部材1Aにおいて基板10部分のSiCの含有量を測定したところ、80体積%であった。SiCの含有量は、複合部材の任意の断面を光学顕微鏡(50倍)で観察し、この観察像を市販の画像解析装置で画像処理して、この断面中のSiCの合計面積を求め、この合計面積を体積割合に換算した値をこの断面に基づく体積割合とし(面積割合≒体積割合)、n=3の断面の体積割合を求め、これらの平均値とした。
【0104】
更に、得られた複合部材1Aについて熱膨張係数α(ppm/K)及び熱伝導率κ(W/m・K)を測定したところ、熱膨張係数α:5.1ppm/K、熱伝導率κ:250W/m・Kであった。熱膨張係数及び熱伝導率は、複合部材1Aから試験片を切り出し、市販の測定器を用いて測定した。熱膨張係数は、30℃〜150℃の範囲について測定した。
【0105】
以上から、得られた複合部材1Aは、熱膨張係数が4ppm/K程度の半導体素子やその周辺部品との整合性に優れる上に、熱伝導率も高く、熱特性に優れることがわかる。かつ、複合部材1Aは、上述のように固定対象に対して強固に固定できる。従って、複合部材1Aは、上記半導体素子の放熱部材の構成材料に好適に利用できると期待される。
【0106】
また、複合部材1Aは、基板10の両面に金属被覆層11を具えることで、電気めっきによりNiめっきなどを容易に施すことができ、当該めっきにより、半田との濡れ性を高められる。更に、複合部材1Aは、その表面全体が単一の金属で構成される(金属被覆層11を具える)ことで、表面研磨・研削などの表面加工を行う場合、容易に施せる。
【0107】
なお、実施形態1では、SiC集合体として市販のSiC焼結体を利用したが、上述したように、例えば、粉末成形体を作製した後、適宜熱処理を施すことで作製してもよい。この点は、後述する実施形態2,3についても同様である。
【0108】
また、実施形態1では、金属被覆層を具える形態を説明したが、金属被覆層を具えず、基板のみの形態とすることができる。この場合、鋳型として、例えば鋳型の内部空間がSiC集合体に応じた大きさとし、SiC集合体を鋳型に収納したとき、SiC集合体と鋳型との間に実質的に隙間が設けられないものが挙げられる。或いは、基板のいずれか一面にのみ金属被覆層を具える形態とすることができる。この場合、上述したスペーサをSiC集合体の一面にのみ配置するとよい。後述する実施形態2,3では、少なくとも一面に金属被覆層を具えることが好ましい。金属被覆層の形成にあたり、スペーサの厚さや形状を適宜選択することで、金属被覆層の厚さや形成領域を容易に変更することができる。
【0109】
[実施形態2]
図2Aおよび
図2Bを参照して、実施形態2のマグネシウム基複合部材1Bを説明する。複合部材1Bの基本的構成は、実施形態1の複合部材1Aと同様であり、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなる基板10と、マグネシウムから構成される金属被覆層11とを具える。また、複合部材1Bも、SiC同士が結合するネットワーク部が存在する領域に、ボルト100が挿通される貫通孔20Bを具える。実施形態2の複合部材1Bにおいて実施形態1の複合部材1Aとの差異は、貫通孔20Bの形態にある。以下、貫通孔20Bを中心に説明し、実施形態1と重複する構成については詳細な説明を省略する。
【0110】
複合部材1Bでは、基板10の表裏に存在する金属被覆層11の対向位置にそれぞれ、ステンレス鋼製の金属板23(受部)が配置され、金属板23の一面が金属被覆層11の表面から露出され、金属板23の周縁が金属被覆層11に接合されている。基板10の一面の上に配置される金属板23から基板10を経て、基板10の他面の上に配置される金属板23に貫通するように、貫通孔20Bが設けられている。即ち、基板10に設けられた基板孔10hと、両金属板23にそれぞれ設けられた板孔23h(受部孔)とにより、貫通孔20Bが構成されている。そして、複合部材1Bも、貫通孔20Bにおいてボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0111】
金属板23は、]状の屈曲板であり、基板10の表裏を挟むように配置されている。金属板23の厚さは、金属被覆層11と実質的に同一である。また、金属板23において基板10の表裏に配置されて、金属被覆層11から露出される箇所の面積は、ボルト100を締め付けて金属板23にボルト100の頭部が接した状態としたとき、
図2Bに示すように、頭部の周縁から金属板23が十分に突出する大きさを有する。この金属板23には、その面積が、ボルト100の頭部を平面視したときの面積に対して10%以上大きいものが好適に利用できる。
【0112】
上記複合部材1Bも、上述した実施形態1の複合部材1Aと同様にして製造することができる。但し、複合部材1Bでは、金属板23が上述した金属被覆層を形成するときのスペーサの機能を兼ねる。具体的には、SiC集合体の所望の位置に、SiC集合体を挟むように]状の金属板23を取り付け、この状態で、上述した鋳型にSiC集合体を収納する。こうすることでSiC集合体は、金属板23により鋳型に安定して配置されると共に、SiC集合体と鋳型との間に金属板23の厚さに応じた隙間(ここでは0.5mmの隙間)が板状のSiC集合体の表裏、及び周縁に容易に設けられる。そして、上述したようにSiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合して基板10を形成すると共に、上記隙間に当該溶湯が流れ込むことで、金属被覆層11を形成すると同時に金属板23を鋳ぐるみ、基板10及び金属被覆層11に金属板23を接合して一体化する。
【0113】
得られた複合部材1B(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)の表裏の一部及び周縁部の一部から]状の金属板23の表面が露出されている。この複合部材1Bにおいて露出されている金属板23、及び基板10において金属板23に挟まれた箇所に機械加工(ここでは放電加工)により、貫通孔20Bを形成する。ここでは、複合部材1Bの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個の貫通孔20Bを設けている。
【0114】
上記構成を具える複合部材1Bは、貫通孔20Bの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を金属板23により十分に受けられる。特に、複合部材1Bも、金属板23を、ボルト100の周縁から十分に突出する程度の大きさを有するものとしている。従って、複合部材1Bも、(1)SiC同士を結合するネットワーク部を有する形態でありながら、ボルト100の締付時に基板孔10hの近傍に割れが生じることを防止できる、(2)冷熱サイクルを受けた場合にも固定状態が緩み難い、と期待される。また、複合部材1Bでは、その表裏に金属板23を具えることで、固定対象に取り付けられた状態において、固定対象と接触する箇所にも金属板23が存在するため、冷熱サイクルを受けてマトリクス金属にクリープ変形などが生じた場合でも、固定対象に密着した状態を維持し易い。これらのことから、複合部材1Bは、固定当初から長期に亘り固定対象に強固に固定した状態を維持できると期待される。その他、複合部材1Bの表裏のいずれの面も、ボルト100の頭部が接触する面に利用できるため、複合部材1Bは、固定作業性にも優れる。更に、金属板23が複合部材1Bに一体であるため、固定対象に取り付ける際、ボルト100の軸力を受けるための別部材を配置する必要が無く、この点からも固定作業性に優れる。また、複合部材1Bは、金属被覆層11と金属板23とが面一であり、平滑な表面を有することから、外観に優れる。
【0115】
なお、実施形態2では、]状の金属板23を利用することで基板10の両面にマトリクス金属と異種の金属からなる部分を形成したが、例えば、L字状の金属板を利用することで、基板10の一面にのみ、マトリクス金属と異種の金属からなる部分を容易に形成できる。
【0116】
また、実施形態2では、金属板23の厚さと金属被覆層11の厚さとを等しくしたが、異ならせてもよい。例えば、鋳型にスペーサを適宜配置することで、金属板を金属被覆層に接合させつつ、両者の厚さを異ならせることができる。例えば、金属板23の厚さを金属被覆層11の厚さよりも薄くして、当該金属板が金属被覆層に埋設された形態とすることができる。この場合、例えば、複合部材の表面全体が単一の金属から構成された形態とすることができ、この形態は、めっきなどを容易に施せる、表面研磨・研削などを施す際の加工性に優れる、といった効果を奏する。このような複合部材は、例えば、以下のようにして製造することができる。上述した]状の屈曲板として、金属被覆層の厚さよりも薄いものを用意し、上述のようにSiC集合体に取り付ける。そして、実施形態1で説明したように適宜な大きさのワイヤなどのスペーサを用いて、上記SiC集合体を鋳型に固定する。こうすることでワイヤの大きさに応じた金属被覆層を設けられると共に、金属板を金属被覆層に埋設することができる。金属板の埋設状態は、例えば、X線CTなどを利用することで、容易に確認できる。
【0117】
その他、実施形態2の構成に加えて、実施形態1の金属板22を組み合わせた形態とすることができる。この点は、後述する実施形態3についても同様である。
【0118】
[実施形態3]
図3Aおよび
図3Bを参照して、実施形態3のマグネシウム基複合部材1Cを説明する。複合部材1Cの基本的構成は、実施形態1の複合部材1Aと同様であり、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなる基板10と、マグネシウムから構成される金属被覆層11とを具える。また、複合部材1Cも、SiC同士が結合するネットワーク部が存在する領域に、ボルト100が挿通される貫通孔20Cを具える。実施形態3の複合部材1Cにおいて実施形態1の複合部材1Aとの差異は、貫通孔20Cの形態にある。以下、貫通孔20Cを中心に説明し、実施形態1と重複する構成については詳細な説明を省略する。
【0119】
複合部材1Cでは、金属板24b(受部)と、この金属板24bに連結された筒部24tとを具える金具24に有する内孔により、複合部材1Cの表裏に抜ける貫通孔20Cが構成されている。基板10の表裏に存在する金属被覆層11の対向位置にそれぞれ、金属板24bの一面、及び筒部24tの端面が露出されており、金具24の筒状の外周面は基板10に概ね覆われている。また、金属板24bの周縁が金属被覆層11に接合されている。そして、複合部材1Cも、貫通孔20Cにおいてボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0120】
上記金具24は、市販のステンレス鋼製のクリンチングファスナである。そのため、貫通孔20Cは、その全体が単一の金属により構成されている。即ち、貫通孔20Cは、その内周面も、金属板24bと同種の金属により構成されている。このような金具24を具える複合部材1Cは、その厚さ方向の全長に亘って、マトリクス金属と異なる金属が存在する。そして、このマトリクス金属と異なる金属(ここではステンレス鋼)がボルト100の締め付けによる圧力を実質的に全て支持することができる。そのため、金属板24bにおいて金属被覆層11から露出される箇所の面積は、ボルト100を締め付けて金属板24bにボルト100の頭部が接した状態としたとき、
図3Bに示すように、頭部の周縁から金属板24bが十分に突出する大きさを有さなくてもよい。即ち、金属板24bの面積は、例えば、ボルト100の頭部を平面視したときの面積と同等以下であってもよいし、実施形態1,2と同様に上記平面視したときの面積よりも大きくてもよい。更に、貫通孔20Cは、孔の内周面が平滑な面から構成された実施形態1,2の貫通孔20A,20Bとは異なり、ネジ加工が施されたネジ孔である。ここでは、クリンチングファスナとして、ネジ孔を有するものを利用しているが、孔の内周面が平滑な面から構成されたものを利用してもよい。
【0121】
複合部材1C(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)は、上記貫通孔20Cにボルト100をねじ込み、このボルト100を締め付けることで固定対象に取り付けられる。
【0122】
上記複合部材1Cも、上述した実施形態1の複合部材1Aと同様にして製造することができる。但し、複合部材1Cでは、ベース孔21を形成した後、ベース孔21に金具24を圧入することで、貫通孔20Cを設ける。ここでは、複合部材1Cの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個のベース孔21を設けて、それぞれに金具24を圧入している。金具24を圧入することで、金属板24bと筒部24tとの間の段差部分に金属被覆層11の構成金属が入り込み、金具24は複合部材1Cに強固に固定される。
【0123】
上記構成を具える複合部材1Cは、貫通孔20Cの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を金属板24bにより十分に受けられる。特に、複合部材1Cでは、貫通孔20Cの全体がマトリクス金属以外の金属で構成されていることで、貫通孔20Cの構成金属がボルト100の軸力を実質的に100%に受けられる。従って、複合部材1Cは、(1)SiC同士を結合するネットワーク部を有する形態でありながら、ボルト100の締付時にベース孔21の近傍に割れが生じることをより効果的に防止できる、(2)冷熱サイクルを受けた場合にも固定状態が更に緩み難い、と期待される。また、複合部材1Cでは、貫通孔20Cがネジ孔であることで、ボルト100とネジ結合することができ、固定対象との密着性を高められる。更に、金具24が複合部材1Cに一体であるため、ボルト100の軸力を受けるための別部材を配置する必要が無く、実施形態2と同様に固定作業性に優れる。
【0124】
以上、実施形態1〜3について説明した。
次に実施形態4〜7に共通する内容について、以下に説明する。
【0125】
≪複合部材≫
本発明複合部材の形態として、マトリクス金属を構成するマグネシウム又はマグネシウム合金と、非金属無機材料(主としてSiC)とが複合された複合材料からなる基板のみの形態と、上記基板と、この基板の少なくとも一面を覆う金属被覆層とを具える形態とが挙げられる。いずれの形態もマトリクス金属から構成される上記金属領域を有する。まず、基板を説明する。
【0126】
[マトリクス金属]
上記基板中、及び上記金属領域を構成するマトリクス金属の成分は、99.8質量%以上のMg及び不純物からなるいわゆる純マグネシウム、又は添加元素と残部がMg及び不純物からなるマグネシウム合金とする。マトリクス金属が純マグネシウムである場合、合金である場合と比較して、(1)複合部材の熱伝導性を高められる、(2)凝固時に晶出物が不均一に析出するなどの不具合が生じ難いため、基板や金属領域を均一的な組織にし易い、といった利点を有する。マトリクス金属がマグネシウム合金である場合、液相線温度が低下するため、溶融する際の温度を低下できる上に、基板や金属領域の耐食性や機械的特性(強度など)を高められる。添加元素は、Li,Ag,Ni,Ca,Al,Zn,Mn,Si,Cu,及びZrの少なくとも1種が挙げられる。これらの元素は、含有量が多くなると熱伝導率の低下を招くため、合計で20質量%以下(マトリクス金属を100質量%とする。以下、添加元素の含有量について同様)が好ましい。特に、Alは3質量%以下、Znは5質量%以下、その他の元素はそれぞれ10質量%以下が好ましい。Liを添加すると、複合部材の軽量化、及び加工性の向上の効果がある。公知のマグネシウム合金、例えば、AZ系,AS系,AM系,ZK系,ZC系,LA系などでもよい。所望の組成となるようにマトリクス金属の原料を用意する。
【0127】
[非金属無機材料]
<組成>
上記基板中には、SiCを含有する。SiCは、(1)熱膨張係数が3ppm/K〜4ppm/K程度であり半導体素子やその周辺部品の熱膨張係数に近い、(2)非金属無機材料の中でも熱伝導率が特に高い(単結晶:390W/m・K〜490W/m・K程度)、(3)種々の形状、大きさの粉末や焼結体が市販されている、(4)機械的強度が高い、といった優れた効果を奏する。その他、熱膨張係数がMgよりも小さく、熱伝導性に優れ、かつMgと反応し難い非金属無機材料、例えば、Si
3N
4、Si、MgO、Mg
3N
2、Mg
2Si、MgB
2、MgCl
2、Al
2O
3、AlN、CaO、CaCl
2、ZrO
2、ダイヤモンド、グラファイト、h−BN、c−BN、B
4C、Y
2O
3、NaClの少なくとも1種を含有することを許容する。SiC以外の非金属無機材料は、例えば、SiC同士を結合するネットワーク部として存在する。
【0128】
<存在状態>
SiCとマトリクス金属とからなる基板中のSiCの存在状態として、代表的には、マトリクス金属中にばらばらに分散した形態(以下、分散形態と呼ぶ)、上記ネットワーク部により結合された形態(以下、結合形態と呼ぶ)が挙げられる。特に、結合形態では、SiCの全体がネットワーク部により連結されて連続し、SiC間にマトリクス金属が充填された形態、即ち、基板からマトリクス金属を除去した場合、開気孔を有する多孔体であることが好ましい。この多孔体は、閉気孔が少ない、具体的には基板中の非金属無機材料の全体積に対して10体積%以下、更に3体積%以下であることが好ましい。基板中の非金属無機材料は、原料に用いた非金属無機材料がほぼそのままの状態で存在する。従って、原料に上述のような閉気孔が少ない多孔体を利用すると、マトリクス金属溶湯が多孔体に溶浸するための経路を十分に有することができ、かつ、上記開気孔にマトリクス金属が充填されることで、得られた基板自体も気孔が少なくなる。気孔が少ない基板を具えることで、この複合部材は、熱伝導率が高くなる。複合部材中のネットワーク部の存在や閉気孔の割合は、例えば、当該複合部材の断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで確認したり、測定したりすることができる。
【0129】
<含有量>
SiCとマトリクス金属とからなる基板中のSiCの含有量は、適宜選択することができる。SiCの含有量が多いほど熱伝導率κが高まる上、熱膨張係数αが小さくなり易い。従って、SiCの含有量は、熱特性を考慮すると、基板を100体積%とするとき、50体積%以上、特に70体積%超、更に75体積%以上、とりわけ80体積%以上、好ましくは85体積%以上が望まれる。SiCの含有量が70体積%超である場合、半導体素子やその周辺部品の熱膨張係数(4ppm/K〜8ppm/K程度)と同等程度の熱膨張係数を有する上に、180W/m・K以上という高い熱伝導率を有する複合部材とすることができる。このような複合部材は、半導体素子などに適合した低い熱膨張係数を有しながら放熱性にも優れることから、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。また、半導体素子やその周辺部品との熱膨張係数の整合性に優れる上記複合部材は、半導体素子などとの接合箇所に生じる熱応力が少ない上に、上述のように貫通孔の構成材料を特定の材料とすることで、所定の接合強度を十分に維持できるため、放熱部材を含めた半導体装置の信頼性を高められる。その他、熱伝導性に優れる上記複合部材は、放熱部材としての信頼性を高められる上に、放熱部材を小型にでき、引いては半導体装置の小型化にも寄与することができる。但し、工業生産性などを考慮すると、SiCの含有量は、80体積%〜90体積%程度が実用的であると考えられる。
【0130】
<ネットワーク部>
ネットワーク部を有する形態の場合、SiCの含有量を高め易く、例えば、50体積%以上、更には70体積%超とすることができ、熱膨張係数が小さい複合部材とすることができる。かつ、上記形態によれば、SiCやマトリクス金属により、熱伝導のための連続した経路が形成されることから熱伝導性に優れる複合部材とすることができる。従って、上記形態によれば、半導体素子の放熱部材に好適な複合部材とすることができる。
【0131】
上記ネットワーク部の構成材料は、代表的には、SiCが挙げられる。その他、シリコン窒化物(Si
3N
4)、マグネシウム化合物(例えば、MgB
2,MgO,Mg
3N
2)、その他の窒化物(例えば、BN,AlN)、酸化物(例えば、CaO)といった非金属無機材料、Moといった金属材料が挙げられる。Si
3N
4は、熱膨張係数が小さいことから、ネットワーク部がSi
3N
4により構成されることで、熱膨張係数が更に小さい複合部材とすることができる。
【0132】
後述するように製造条件によりネットワーク部の太さを変化させられる。ネットワーク部の太さとは、複合部材の断面において所定の長さの線分を任意にとり、SiCとネットワーク部とから構成されるSiC集合体の輪郭線が上記線分を横断する箇所の長さ、つまり、上記輪郭線において上記線分との交点であって、隣り合う交点間の長さを言う。上記交点間の長さが長い、即ち、ネットワーク部が太い場合は、熱特性に優れ、特に熱膨張係数が小さくなる傾向にあり、上記交点間の長さが短い、即ち、ネットワーク部が細い場合は、機械的特性に優れ、特に引張強度や曲げ強度が高い傾向にある。ネットワーク部の太さが太くなると、上記線分における交点数が少なくなる。そこで、複合部材の断面において、当該複合部材の実寸に対して長さ1mmの線分を任意にとり、上記SiCと上記ネットワーク部とから構成されるSiC集合体の輪郭線と上記線分との交点の数が50以下を満たすものをネットワーク部の太さが太いもの、ということができる。
【0133】
<基板の厚さ>
SiCとマトリクス金属とからなる基板の厚さは、適宜選択できるが、半導体素子の放熱部材として利用する場合、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
【0134】
[金属被覆層]
複合部材を放熱部材に利用するにあたり半田接合する場合に、半田との濡れ性を高めるためにNiめっきなどを施すことが望まれる。このとき、上記基板の表面に金属被覆層を具えることで、金属被覆層を利用して導通をとれるため、電気めっきを利用でき、めっきを容易に形成できる。その他、金属被覆層を具えると、(1)優れた外観を有する、(2)耐食性を向上できる、といった効果も期待できる。
【0135】
上記金属被覆層の構成金属は、マトリクス金属と同一組成でも異なる組成でもよい。同一組成とする場合、後述するようにSiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合化するときに同時に金属被覆層の形成を行うと、金属被覆層を有する複合部材を生産性よく製造できる。この場合、得られた複合部材において、上記基板中のマトリクス金属と金属被覆層を構成する金属とは、連続する組織(鋳造組織)を有する。
【0136】
上記基板のマトリクス金属と上記金属被覆層の構成金属とが異なる組成である場合、当該金属被覆層の構成金属は、例えば、マトリクス金属と異なる組成のMg合金や、Mg及びMg合金以外の金属、例えば、純度が99%以上のAl,Cu,Ni、及びAl,Cu,Niを主成分とする合金(Al,Cu,Niを50質量%超含有する合金)からなる群から選択される1種の金属が挙げられる。
【0137】
上記金属被覆層の形成領域、厚さは適宜選択することができる。例えば、上記基板を構成する面のうち、少なくともめっきが必要とされる面、具体的には、半導体素子が実装される実装面、この実装面と対向し、冷却装置に接触する冷却面の少なくとも一方が挙げられる。また、上述した金属領域の上にも金属被覆層が存在する形態とすることができる。
【0138】
上記各金属被覆層の厚さは、適宜選択することができる。但し、各金属被覆層の厚さが厚過ぎると、複合部材の熱膨張係数の増加や複合部材の熱伝導率の低下を招くことから、2.5mm以下、特に1mm以下、更に0.5mm以下が好ましく、1μm以上、特に0.05mm(50μm)以上0.1mm(100μm)以下であっても、めっきの下地としての機能を十分に果たす上に、複合部材の搬送時や実装時などで金属被覆層を破損し難いと考えられる。金属被覆層を厚く形成しておき、研磨などにより所望の厚さにしてもよい。
【0139】
[金属領域]
本発明複合部材では、上記マトリクス金属から構成され、締結部材が挿通される貫通孔が設けられる金属領域を有することを特徴の一つとする。この金属領域の大きさや形状、形成個数や形成箇所は、上記締結部材の大きさや個数、上記締結部材の配置箇所などに応じて適宜選択することができる。複合部材が半導体素子の放熱部材に利用される場合、複合部材の周縁側領域に上記金属領域を設けると、半導体素子といった部品の搭載面積を十分に確保し易い。この金属領域には、上述した貫通孔が設けられ、その厚さ方向の少なくとも一部に当該金属領域を構成するマトリクス金属と異なる材料からなる部分(代表的には、上述した埋設部材)を含む。金属領域において上記埋設部材などを除く箇所は、上記基板のマトリクス金属と同一組成から実質的に構成され、連続する組織を有する。
【0140】
[貫通孔]
上記貫通孔の大きさや個数は適宜選択することができ、特に問わない。また、貫通孔は、ネジ加工が施されたネジ孔、ネジ加工が施されていない平滑な面からなる孔のいずれでもよい。上記貫通孔が実質的に金属材料から構成される場合、ネジ加工を容易に施すことができ、ネジ孔とすることができる。更に、貫通孔は、皿もみ加工を施された形態とすることができる。皿もみ加工により、ボルト頭といった締結部材の頭部が複合部材の表面から突出せず、固定対象に固定された状態において平滑な表面とすることができる。
【0141】
[熱特性]
上述のようにSiCの充填率を高めたり、ネットワーク部を有したりすることで、熱伝導率κが高く、熱膨張係数αが小さい複合部材、例えば、熱膨張係数が4ppm/K以上8ppm/K以下、熱伝導率が180W/m・K以上である複合部材とすることができる。SiCの含有量やネットワーク部の形態、マトリクス金属の組成などにもよるが、200W/m・K以上、特に250W/m・K以上、更に300W/m・K以上の熱伝導率κを有する複合部材とすることができる。なお、上記熱膨張係数や熱伝導率は、上記複合部材が半導体素子などの放熱部材に利用される場合に半導体素子などが配置されない部分、即ち、上述した金属板などの貫通孔を構成する部分を除いて測定する。金属被覆層を具える形態を含む上記複合部材の熱膨張係数は、当該複合部材から試験片を作製して、市販の装置により測定すると簡単に求められる。或いは、金属被覆層を具える複合部材の熱膨張係数は、当該複合部材を構成する各材料の剛性などを考慮して複合則により算出してもよい。
【0142】
≪製造方法≫
本発明複合部材は、代表的には、SiC粉末を利用してSiC集合体を形成する成形工程と、鋳型に収納された上記SiC集合体に溶融したマグネシウム又はマグネシウム合金(以下、マトリクス金属溶湯と呼ぶ)を溶浸させて複合する複合工程と、得られた複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を形成する孔形成工程とを具える製造方法により製造することができる。特に、上記複合工程では、上記複合と同時に、少なくとも一部がマトリクス金属から構成される金属領域を形成する。ネットワーク部を有する結合形態の複合部材を製造する場合、後述する適宜な方法でネットワーク部を形成する。金属被覆層を有する複合部材を製造する場合、後述する適宜な方法で金属被覆層を形成する。
【0143】
[原料]
マトリクス金属には、上述した純マグネシウム又はマグネシウム合金のインゴットを好適に利用できる。上記SiC集合体の原料には、主として、SiC粉末が利用できる。特に、粒子状や繊維状のSiC粉末であって、平均粒径(繊維状の場合、平均短径)が1μm以上3000μm以下、特に、10μm以上200μm以下であると、粉末の集合体を製造し易く好ましい。平均粒径が異なる複数種の粉末を組み合わせて用いると、SiCの充填率を高め易い。複合部材中のSiCの含有量は、原料の量に実質的に等しいため、複合部材が所望の熱特性となるように、原料の量を適宜選択するとよい。また、複合部材(基板)が所定の形状となるように、原料の粉末を充填する金型の形状や、SiC集合体とマトリクス金属とを複合する鋳型の形状を適宜選択するとよい。
【0144】
[成形工程]
上記SiC集合体の形態には、粉末成形体と、粉末成形体を焼結して得られる焼結体(代表的にはネットワーク部を有するSiC多孔体)とが挙げられる。粉末成形体は、例えば、タッピング、スリップキャスト(原料の粉末と水及び分散材とを用いたスラリーを成形後、乾燥させる)、加圧成形(乾式プレス、湿式プレス、一軸加圧成形、CIP(静水圧プレス)、押出成形など)、及びドクターブレード法(原料の粉末と溶媒、消泡剤、樹脂などとを用いたスラリーをドクターブレードに流した後、溶媒を蒸発させる)のいずれか一つにより形成することができる。複合部材中のSiCの含有量を50体積%以上、特に70体積%超に高める場合、粉末成形体の形成には、スリップキャスト、加圧成形、ドクターブレード法が好適に利用でき、得られた粉末成形体は、ハンドリングが可能な強度を持つ。複合部材中のSiCの含有量が低い場合には、タッピングなどでも十分に粉末成形体を形成することができる。
【0145】
上記焼結条件は、例えば、(1)真空雰囲気、加熱温度:800℃〜1300℃未満、保持時間:10分〜2時間程度、(2)大気雰囲気、加熱温度:800℃〜1500℃、保持時間:10分〜2時間程度が挙げられる。条件(1),(2)では、ネットワーク部を有していない分散形態の複合部材が得られる傾向にある。一方、真空雰囲気、加熱温度:1300℃以上2500℃以下、保持時間:2時間〜100時間の条件で焼結すると、SiC同士を直接結合させられ、ネットワーク部をSiCにより形成できる上に、強度に優れるSiC多孔体が得られる。特に、加熱温度を2000℃以上とすると、ネットワーク部を太くすることができ、2000℃未満とすると、ネットワーク部が細くなる傾向にある。上記加熱温度や保持時間は、所望の形態に応じて適宜選択するとよい。上記焼結を行うことで、(1)上記粉末成形体よりも強度が高く、鋳型に収納する際などで欠けなどが生じ難く、扱い易い焼結体が得られる、(2)多孔体を容易に作製できる、(3)焼結温度や保持時間を調節することで、焼結体を緻密化させてSiCの充填率を向上でき、SiCの含有量が70体積%以上である複合部材を得易い、といった利点がある。ネットワーク部を有するSiC集合体(代表的にはSiC多孔体)を原料に利用することで、ネットワーク部を有する複合部材が容易に得られる。
【0146】
上記SiC集合体として、市販のSiC焼結体を利用してもよい。この場合、SiC焼結体は、複合部材中に存在し得るネットワーク部を有し、かつマトリクス金属溶湯が溶浸するための開気孔を有するものを適宜選択するとよい。
【0147】
ネットワーク部を有するSiC集合体を形成する方法として、上述した焼結を施す方法の他、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0148】
(1) SiC粉末と、Si粉末又はSiを含有する化合物からなる粉末との混合粉末を用いてSiを含有する粉末成形体を形成し、この粉末成形体を窒素雰囲気下で熱処理してシリコン窒化物を生成し、このシリコン窒化物によりネットワーク部を構成する方法。
【0149】
この方法では、熱処理温度を800℃〜1800℃程度に低くしても、SiC同士を十分に結合できる上に、ネットワーク部を太くすることができる。上記Siを含有する粉末成形体は、Siを含有する酸化物、例えば、SiO
2、H
2SiO
3、Na
2SiO
3といったセラミックスからなる添加剤を利用し、この酸化物を還元することでも形成できる。
【0150】
(2) 上述した非金属無機材料の前駆体(例えば、ポリカルボシラン、金属アルコキシド)の溶液を作製して粉末成形体に含浸させた後加熱し、当該前駆体からネットワーク部を構成する非金属無機材料(例えばSiC,MgO,CaO)を生成する方法。
【0151】
この方法では、比較的低温でネットワーク部を製造できる上に、SiCを新生した場合、SiCの密度を高められる。
【0152】
(3) SiC粉末と、ホウ素及び酸素の少なくとも1種を含有する反応用粉末(例えば、ホウ素,BN,TiB
2,ホウ酸(B
2O
3)、四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
5(OH)
4・8H
2O)といった単体元素の粉末、酸化物や硼化物、ホウ酸化物の粉末)との混合粉末により粉末成形体を形成し、マトリクス金属溶湯と上記反応用粉末との反応により、新たな非金属無機材料を生成し、この生成物からネットワーク部を構成する方法。
【0153】
この方法では、ネットワーク部の形成にあたり、別途、熱処理や加熱が不要である。
(4) SiC粉末と、窒素又は酸素と反応して酸化物又は窒化物を生成する前駆体粉末(例えば、SiCl
4,有機Si化合物)との混合粉末により粉末成形体を形成し、この粉末成形体に熱処理を施すことで、上記酸化物又は窒化物を生成し、この生成物からネットワーク部を構成する方法。
【0154】
この方法では、比較的低温でネットワーク部を製造できる。
なお、SiC粉末のみのSiC粉末成形体を作製した後、別途用意した上記Si粉末や、前駆体粉末、反応用粉末などを水などの溶媒に混合した混合液(例えば、水溶液)に当該SiC粉末成形体を含浸させた後、上記溶媒を乾燥させると、Siなどの所望の物質を粉末成形体に均一的に分散させ易い。
【0155】
〈酸化膜の形成〉
更に、上記SiC集合体として、その表面に酸化膜を具えるものを利用すると、SiC集合体とマトリクス金属との濡れ性が高められて好ましい。酸化膜を具えるSiC集合体は、SiCの含有量が多く、SiC間の隙間が非常に小さい場合であっても、毛管現象によりマトリクス金属溶湯が浸透し易い。ネットワーク部を有する複合部材を得る場合、焼結体などのSiC集合体を作製した後に酸化膜を形成する酸化工程を具えることが好ましく、ネットワーク部を有しない複合部材を得る場合、SiC粉末といった原料粉末に酸化膜を形成しておき、酸化膜を具える粉末を利用してSiC集合体(粉末成形体)を形成するとよい。
【0156】
上記酸化膜を形成するための条件は、粉末の場合も焼結体などの場合も同様であり、加熱温度は、700℃以上、特に750℃以上、更に800℃以上が好ましく、とりわけ850℃以上、更に875℃以上1000℃以下が好ましい。また、上記原料のSiCに対する質量割合が0.4%以上1.5%以下(酸化膜の厚さ:50nm〜300nm程度)、特に1.0%以下を満たすように酸化膜を形成することが好ましい。酸化膜を具えるSiC集合体を原料に利用した場合、得られた複合部材中のSiCの近傍(SiC集合体の輪郭線から100nm〜300nm以内の領域)は、当該近傍以外の箇所よりも酸素濃度が高い傾向にある。
【0157】
[複合工程]
鋳型に上記SiC集合体を収納して、マトリクス金属溶湯を溶浸させた後、当該マトリクス金属を凝固させることで、複合部材(基板)が得られる。上述した金属領域の形成には、例えば、SiC集合体を上述した焼結体などの鋳型で自立可能な程度の強度を有するものとし、かつ金属領域が形成されるように適宜な外形(例えば、凹凸形状や孔を有する形状)のものを利用することが挙げられる。このSiC集合体を鋳型に収納し、SiC集合体に設けられた凹部などにマトリクス金属溶湯が充填されることで、金属領域を容易に形成できる。特に、この適宜な外形のSiC集合体(代表的には焼結体)と上述した埋設部材とを鋳型に収納し、マトリクス金属溶湯により基板の形成、及び金属領域の形成を図ると共に、当該埋設部材を鋳ぐるむことで、基板と、金属領域と、埋設部材とが一体化した複合部材を容易に形成できる。或いは、SiC集合体を上述したタッピングなどにより形成する場合、例えば、マトリクス金属と同種の金属からなる金属体(上述した埋設部材を含んでいてもよい)を鋳型に収納してSiC粉末を充填したり、鋳型にSiC粉末を充填してから金属体を粉末成形体に配置したりした後、マトリクス金属溶湯により基板の形成を図ると共に、上記金属体を鋳ぐるむことでもマトリクス金属からなる金属領域や埋設部材を具える複合部材を形成できる。上記金属体は、マトリクス金属と同種の金属からなる部分を有することで、密着性に優れる。或いは、ナフタレンなどの複合時の熱で昇華して消滅するような材質からなるスペーサをSiC粉末と共に鋳型に収納し、当該スペーサの消滅により形成された空間にマトリクス金属溶湯が流れ込むことで金属領域を形成することができる。微細なSiC粉末を配合してSiC集合体を形成した場合、上記空間が生じても当該集合体が崩れ難く、金属領域を形成することができると考えられる。
【0158】
上記複合工程は、大気圧(概ね0.1MPa(1atm))以下の雰囲気で行うと、雰囲気中のガスを取り込み難く、ガスの取り込みに伴う気孔が生じ難い。但し、Mgは蒸気圧が高いため、高真空状態とするとマトリクス金属溶湯を取り扱い難くなる。従って、上記複合工程の雰囲気圧力を大気圧未満とする場合、0.1×10
-5MPa以上が好ましい。また、上記複合工程は、Arといった不活性雰囲気で行うと、特にMg成分と雰囲気ガスとの反応を防止でき、反応生成物の存在に伴う熱特性の劣化を抑制できる。溶浸温度は、マトリクス金属がマグネシウム(純Mg)の場合、650℃以上が好ましく、溶浸温度が高いほど濡れ性が高まるため、700℃以上、特に800℃以上、更に850℃以上が好ましい。但し、1000℃超とすると、引け巣やガスホールといった欠陥が生じたり、Mgが沸騰する恐れがあるため、溶浸温度は1000℃以下が好ましい。また、過剰な酸化膜の生成や晶出物の生成を抑制するために900℃以下がより好ましい。
【0159】
マトリクス金属と同一組成である金属被覆層を具える複合部材を製造する場合、例えば、上述したネットワーク部を有するSiC多孔体を原料に利用すると、独自で形状保持ができるため、容易に製造できる。具体的には、上記SiC多孔体などのSiC集合体を鋳型に配置し、当該鋳型とSiC集合体との間に所定の隙間を有する状態を維持し、この隙間にマトリクス金属溶湯が流入されるようにすることで、金属被覆層を形成することができる。
【0160】
上記鋳型とSiC集合体との隙間を確実に維持するために、別途スペーサを利用することができる。このスペーサは、ナフタレンなどのように複合時の熱で昇華により除去できるものや、カーボン、鉄、ステンレス鋼(例えば、SUS430)といった耐熱性に優れるものが利用できる。このスペーサは、金属被覆層に埋設させたままにしてもよいし、スペーサ部分を切削などにより除去してもよい。例えば、スペーサとして、形成する金属被覆層よりも若干細径の線状体を用意し、この線状体によりSiC集合体を鋳型に固定するなどして、SiC集合体と鋳型との間に線状体の径に応じた隙間を設けると、当該線状体の大部分が金属被覆層に埋設されるため、線状体を残存させていても、良好な外観の複合部材が得られる。
【0161】
マトリクス金属と異なる組成の金属被覆層を具える複合部材を製造する場合、例えば、金属被覆層を形成するための金属板(以下、被覆板と呼ぶ)を適宜用意し、ロウ付け、超音波接合、鋳ぐるみ、圧延(クラッド圧延)、ホットプレス、酸化物ソルダー法、無機接着剤による接合の少なくとも1つの手法を好適に利用することができる。上記各手法は、マトリクス金属と金属被覆層とが同一組成である複合部材を製造する場合にも利用できる。上記被覆板を利用する場合、適宜な箇所に貫通孔の一部を構成する金属板を予め圧入などにより接合しておき、この金属板が上述した金属領域に配置されるように金属被覆層を形成してもよい。
【0162】
[孔形成工程]
得られた複合部材において金属領域の所望の位置に、ボルトといった締結部材が挿通される貫通孔を機械加工により形成する。貫通孔の形成箇所が金属材料から構成される場合、ドリルにより容易に貫通孔を形成できる。上記金属領域に上述した埋設部材を具える場合、金属領域の構成金属及び埋設部材、又は埋設部材のみに貫通孔を設けることで、複合部材の表裏に連通する貫通孔を容易に設けられる。上述したクリンチングファスナなどの内孔を有する金具を利用する形態では、上記金属領域に孔を設けた後、上記金具を圧入することで、複合部材の表裏に連通する貫通孔を容易に設けられる。なお、上述した筒状の金属塊を利用し、予め設けられた孔を貫通孔に利用する場合、機械加工による貫通孔の形成工程が不要である。また、筒状の金属塊の内部に中子(例えば、カーボンといった非金属材料、鉄やその合金といった金属材料などの耐熱性に優れる材料からなるもの)を挿入したものを鋳ぐるんだ後、中子を機械加工などにより除去することで貫通孔を設けてもよい。上記貫通孔の少なくとも一部を上述した樹脂で形成する場合、例えば、複合部材の金属領域に孔を設けた後、この孔に樹脂を充填し、この充填した樹脂部分に貫通孔を設けると、樹脂で構成される貫通孔を容易に形成することができる。貫通孔が樹脂により形成されることで、異種金属の接触による電池腐食が生じ得ない。
以下、図面を参照して、本発明の具体的な実施形態4〜7を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、図中では、分かり易いように金属被覆層や貫通孔を誇張して示す。
【0163】
[実施形態4]
図4Aおよび
図4Bを参照して、実施形態4のマグネシウム基複合部材1Dを説明する。複合部材1Dは、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなる基板110と、マグネシウムから構成され、基板110の表面の実質的に全面を覆う金属被覆層111とを具えるマグネシウム基複合部材であり、SiCを含まず、マグネシウムから構成される金属領域112を有する。そして、この金属領域112に複合部材1Dを固定対象(図示せず)に取り付けるためのボルト(締結部材)100が挿通される貫通孔20Dを具える。この複合部材1Dの特徴とするところは、貫通孔20Dの形態にある。以下、貫通孔20Dを中心に説明する。
【0164】
複合部材1Dは、基板110中にSiC同士を結合するネットワーク部を有しており、基板110中のSiCは、上記ネットワーク部により実質的に全体に亘って連続した形態である。この基板110はその外形が、
図4Aに示すように凹凸形状であり、長方形状の複合部材1Dの長辺縁側に複数の凹部を有しており、各凹部を埋めるように金属領域112が存在する。各金属領域112の表裏面の対向位置にそれぞれ金属板122(受部)が配置され、金属板122の一面が金属領域112の表面から露出され、金属板122の残部は金属領域112に埋設されている。各金属板122には板孔122h(受部孔)が設けられ、金属領域112において両金属板122で挟まれる領域に、板孔122hに連続する孔(金属領域孔)(以下、ベース孔121と呼ぶ)が設けられている。そして、一方の板孔122hと、ベース孔121と、他方の板孔122hとにより、貫通孔20Dが構成されている。
【0165】
金属板122は、ステンレス鋼製である。金属板122の面積は、適宜選択することができる。ここでは、ボルト100を締め付けて金属板122にボルト100の頭部が接した状態にしたとき、
図4Bに示すように、頭部の周縁から金属板122が十分に突出する大きさ、具体的には、ボルト100の頭部を平面視したときの面積よりも10%以上大きいものが好適に利用できる。こうすることで、金属板122は、ボルト100の軸力を十分に受けられる。
【0166】
複合部材1Dは、上記貫通孔20Dにボルト100を挿通し、このボルト100を締め付けることで固定対象に取り付けられる。固定対象に固定された状態では、上述のようにボルト100の頭部は金属板122に接触する。即ち、複合部材1Dでは、貫通孔20Dにおいてボルト100の頭部が接触する箇所が金属領域112の構成金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成され、残部が主として金属領域112の構成金属から構成されている。このように貫通孔20Dは、異なる複数種の金属材料により構成されている。
【0167】
上記複合部材1Dは、以下のように作製した。原料として、99.8質量%以上のMg及び不純物からなる純マグネシウムのインゴット(市販品)、及びSiC集合体として市販のSiC焼結体(ネットワーク部がSiCから構成されたSiC多孔体。相対密度80%、SiC多孔体を外包する長方形の大きさ:長さ190mm×幅140mm×厚さ4mm、長辺縁側に凹部を有するもの)を用意した。
【0168】
用意したSiC集合体に875℃×2時間の酸化処理を施して酸化膜を形成し、溶融した純マグネシウムとの濡れ性を高めた。上記酸化処理の工程は、省略してもよい。
【0169】
上記SiC集合体を鋳型に収納して、溶融した純マグネシウムをSiC集合体に溶浸させ、純マグネシウムを凝固させる。
【0170】
上記鋳型は、カーボン製であり、一方が開口した直方体状の箱体であり、複数の分割片を組み合わせて一体に形成される。この鋳型の内部空間がSiC集合体の収納空間として利用される。ここでは、直径φ0.5mmのステンレス鋼ワイヤをスペーサとして用意し、SiC集合体と鋳型との間に当該スペーサが配置可能な大きさの内部空間を有する鋳型を利用する。この鋳型にSiC集合体を収納し、鋳型の適切な位置にSiC集合体が配置されるように、上記スペーサによりSiC集合体を鋳型に固定する。上記スペーサにより鋳型に固定されることでSiC集合体は、鋳型内に安定して配置されると共に、SiC集合体と鋳型との間にスペーサの大きさ(ここでは直径)に応じた大きさの隙間(ここでは0.5mmの隙間)が板状のSiC集合体の表裏、及び周縁に容易に設けられる。
【0171】
また、マグネシウムからなる直方体状の鋳物の対向位置に一対の金属板122を溶接などにより接合した金属体(合計厚さ:5mm)を複数用意し、上記鋳型に、上記SiC集合体を収納すると共に、当該SiC集合体の各凹部にそれぞれ金属体が配置されるように金属体を収納する。
【0172】
なお、分割片を組み合わせた構成とせず、一体成形された鋳型を利用してもよい。また、ここでは、鋳型の内周面においてSiC集合体が接触する箇所には、市販の離型剤を塗布してから上記SiC集合体を鋳型に収納した。離型剤を塗布することで、複合部材を取り出し易くすることができる。この離型剤の塗布工程は、省略してもよい。
【0173】
上記鋳型は、開口部の周縁に連結されるインゴット載置部を有しており、このインゴット載置部に用意した上記インゴットを配置し、この鋳型を所定の温度に加熱することで当該インゴットを溶融する。鋳型の加熱は、加熱可能な雰囲気炉に鋳型を装入することで行う。
【0174】
ここでは、溶浸温度:775℃、Ar雰囲気、雰囲気圧力:大気圧となるように上記雰囲気炉を調整した。溶融した純マグネシウムは、鋳型の開口部から鋳型の内部空間に流入して、当該内部空間に配置されたSiC集合体に溶浸される。また、スペーサにより設けられた鋳型とSiC集合体との間の隙間に溶融した純マグネシウムが流れ込むことで、複合された基板110の対向する二面、及び周縁に、純マグネシウムからなる金属被覆層111が形成される。かつ、SiC集合体の凹部に純マグネシウムが流れ込むことで、純マグネシウムからなる金属領域112が形成されると共に、上述した金属板122を具える金属体を鋳ぐるみ、基板110及び金属被覆層111に金属板122が一体化される。
【0175】
上記溶浸後、鋳型を冷却して純マグネシウムを凝固した。ここでは、鋳型の底部から開口部に向かって一方向に冷却されるように、底部側を積極的に冷却した。このような冷却を行うことで、大型な複合部材であっても内部欠陥を低減することができ、高品質な複合部材が得られる。なお、小型な複合部材である場合、上述のような一方向の冷却を行わなくても、高品質な複合部材が得られる。
【0176】
得られた複合物(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)において、金属板122部分に機械加工(ここではドリル加工)により、貫通孔20Dを形成する。ここでは、複合部材1Dの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個の貫通孔20Dを設けている。上記工程により、貫通孔20Dの一部が金属領域112の構成金属(マトリクス金属)以外の金属により構成された複合部材1Dが得られる。なお、
図4Aでは、貫通孔20Dの内周面を平滑な面としたが、ネジ加工を施してネジ孔としてもよい。この点は、後述する実施形態5〜7も同様である。
【0177】
上記構成を具える複合部材1Dは、貫通孔20Dの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を金属板122により十分受けられる。従って、複合部材1Dは、冷熱サイクルを受けた場合にもクリープを生じ難くしたり、ボルト100の軸力の低下を抑制したりすることができ、固定対象に対する固定状態の緩みが生じ難い。そのため、複合部材1Dは、長期に亘り固定対象に強固に固定した状態を維持できると期待される。
【0178】
また、複合部材1Dは、以下の効果を奏する。
(1) 貫通孔20Dをドリルにより形成できるため、穴あけ加工性に優れる。
【0179】
(2) 金属被覆層111と、金属板122と、金属領域112とが面一であり、平滑な表面を有することから、外観に優れる。
【0180】
(3) 複合部材1Dの表裏に金属板122を具えることで、固定対象に取り付けられた状態において、固定対象と接触する箇所にも金属板122が存在するため、冷熱サイクルを受けてもマトリクス金属にクリープ変形などが生じ難い。このことからも、複合部材1Dは、長期に亘り固定対象に強固に固定した状態を維持できると期待される。
【0181】
(4) 複合部材1Dの表裏のいずれの面も、ボルト100の頭部が接触する面に利用できるため、複合部材1Dは、取り付け作業性に優れる。
【0182】
(5) 金属板122が複合部材1Dに一体であるため、ボルト100の軸力を受けるための別部材を配置する必要が無く、固定対象への固定作業性に優れる。
【0183】
なお、得られた複合部材1Dの成分をEDX装置により調べたところ、基板110部分:Mg及びSiC、残部:不可避的不純物、金属板122を除く金属領域112部分:Mg及び不可避不純物であり、用いた原料と同様であった。得られた複合部材1DにCP(Cross-section Polisher)加工を施して断面を出し、SEM観察によりこの断面を調べたところ、複合部材1D中のSiCは網目状となっており、SiC同士が直接結合されていた。即ち、ネットワーク部がSiCで形成された多孔体となっており、用いた原料の焼結体と同様であった。得られた複合部材1Dの断面を光学顕微鏡で観察したところ、SiC間の隙間に純マグネシウムが溶浸されていること、基板110の表面に純マグネシウムからなる金属被覆層111を具えていること、基板110の凹部に主として純マグネシウムからなる金属領域112を具えていることが確認できた。更に、基板110のマトリクス金属、金属被覆層111の構成金属、金属板122を除く金属領域112の構成金属の組成をEDX装置により調べたところ、実質的に同一組成(純マグネシウム)であった。また、上記断面の観察像から、基板110の両面に形成された各金属被覆層111、及び基板110の凹部に形成された金属領域112は、基板110中の純マグネシウムと連続した組織を有していることが確認できた。更に、上記断面の観察像を用いて各金属被覆層111の厚さを測定したところ、概ね0.5mm(500μm)であり、上述したスペーサの大きさに実質的に一致していることが確認できた。
【0184】
また、得られた複合部材1Dにおいて基板110部分のSiCの含有量を測定したところ、80体積%であった。SiCの含有量は、複合部材の任意の断面を光学顕微鏡(50倍)で観察し、この観察像を市販の画像解析装置で画像処理して、この断面中のSiCの合計面積を求め、この合計面積を体積割合に換算した値をこの断面に基づく体積割合とし(面積割合≒体積割合)、n=3の断面の体積割合を求め、これらの平均値とした。
【0185】
更に、得られた複合部材1Dについて熱膨張係数α(ppm/K)及び熱伝導率κ(W/m・K)を測定したところ、熱膨張係数α:5.1ppm/K、熱伝導率κ:250W/m・Kであった。熱膨張係数及び熱伝導率は、複合部材1Dにおいて金属領域112を除く箇所から試験片を切り出し、市販の測定器を用いて測定した。熱膨張係数は、30℃〜150℃の範囲について測定した。
【0186】
以上から、得られた複合部材1Dは、熱膨張係数が4ppm/K程度の半導体素子やその周辺部品との整合性に優れる上に、熱伝導率も高く、熱特性に優れることがわかる。かつ、複合部材1Dは、上述のように固定対象に対して強固に固定できる。従って、複合部材1Dは、上記半導体素子の放熱部材の構成材料に好適に利用できると期待される。
【0187】
また、複合部材1Dは、その表面が金属被覆層111や金属領域112、金属板122といった金属により構成されることで、電気めっきによりNiめっきなどを容易に施すことができ、当該めっきにより、半田との濡れ性を高められる。
【0188】
なお、実施形態4では、SiC集合体として市販のSiC焼結体を利用したが、上述したように、例えば、粉末成形体を作製した後、適宜熱処理を施すことで作製してもよい。この点は、後述する実施形態5〜7についても同様である。
【0189】
また、実施形態4では、金属被覆層を具える形態を説明したが、金属被覆層を具えず、基板のみの形態とすることができる。この場合、鋳型として、例えば鋳型の内部空間がSiC集合体に応じた大きさとし、SiC集合体を鋳型に収納したとき、SiC集合体と鋳型との間に実質的に隙間が設けられないものが挙げられる。或いは、基板のいずれか一面にのみ金属被覆層を具える形態とすることができる。この場合、上述したスペーサをSiC集合体の一面にのみ配置するとよい。金属被覆層の形成にあたり、スペーサの厚さや形状を適宜選択することで、金属被覆層の厚さや形成領域を容易に変更することができる。例えば、複合部材の表面全体が金属被覆層に覆われ、当該表面がマトリクス金属で構成された形態、即ち、金属板が埋設された形態とすることができる。複合部材の表面全体が単一の金属から構成されることで、めっきなどを容易に施せたり、表面研磨・研削などを施す際の加工性に優れたりする。埋設部材の埋設状態は、例えば、X線CTなどを利用することで、容易に確認できる。
【0190】
[実施形態5]
図5Aおよび
図5Bを参照して、実施形態5のマグネシウム基複合部材1Eを説明する。複合部材1Eの基本的構成は、実施形態4の複合部材1Dと同様であり、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなり、凹凸形状の基板110と、マグネシウムから構成される金属被覆層111と、SiCを含まず、マグネシウムから構成される金属領域112とを具える。また金属領域112には、ボルト100が挿通される貫通孔20Eを設けるための孔(金属領域孔)が形成されている。実施形態5の複合部材1Eにおいて実施形態4の複合部材1Dとの差異は、貫通孔20Eの形態にある。以下、貫通孔20Eを中心に説明し、実施形態4と重複する構成については詳細な説明を省略する。
【0191】
複合部材1Eでは、
図5Bに示すように金属領域112の厚さ方向の全長に亘ってステンレス鋼製の埋設部材123が存在し、埋設部材123の外周面が金属領域112に覆われ、埋設部材123の両端面が金属領域112の表面から露出されている。この埋設部材123に貫通孔20Eとしての孔(受部孔)が設けられており、ボルト100を締め付けると、埋設部材123において金属領域112から露出する一方の端面にボルト100の頭部が接触する。このように複合部材1Eも、貫通孔20Eにおいてボルト100の頭部が接触する箇所が金属領域112の構成金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成されている。また、貫通孔20Eは、上記ボルト100の頭部が接触する箇所を含めて、その全体が単一の金属(ここではステンレス鋼)により構成されている。
【0192】
ここでは、埋設部材123の端面の面積は、ボルト100を締め付けて当該端面にボルト100の頭部が接した状態としたとき、
図5Bに示すように、頭部の周縁から当該端面が十分に突出する大きさを有する。但し、本例のようにステンレス鋼といった高硬度な材質からなる埋設部材を利用する場合、厚さをある程度厚くすることで(例えば、1mm以上)、埋設部材によりボルト100の締め付け力の実質的に全てを支持することができる。特に、埋設部材123のように金属領域112の厚さ方向の全域に亘って埋設部材が存在する場合は、上記面積が上記ボルト100を平面視したときの面積よりも小さくても、ボルト100の締め付け力を十分に受けることができる。従って、埋設部材123の端面の面積は、上述のように頭部の周縁から十分に突出する大きさを有していなくてもよい。また、上記端面の面積は、ボルト100の頭部を平面視したときの面積と同等以下であってもよいし、上記平面視したときの面積よりも大きくてもよい。この端面の面積に関する事項は、後述する実施形態7の金属板125bの面積にも同様に適用される。また、埋設部材123は、その全長に亘って均一的な断面を有する円筒状体となっているが、部分的に断面形状が異なる形態とすることができる。例えば、上記ボルト100の頭部が接触する端面側領域の断面を大きくしたテーパ状の埋設部材としてもよい。
【0193】
上記複合部材1Eも、上述した実施形態4の複合部材1Dと同様にして製造することができる。即ち、鋳型に埋設部材123及びSiC集合体を収納すると共に上述したスペーサによりSiC集合体を鋳型に固定して、上述したようにSiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合して基板110を形成すると共に、上記スペーサにより形成される隙間に当該溶湯が流れ込むことで、金属被覆層111を形成する。かつSiC集合体の凹部に上記溶湯が流れ込むことで金属領域112を形成すると同時に埋設部材123(ここでは、埋設部材123を含む金属体)を鋳ぐるみ、基板110及び金属被覆層111に埋設部材123を一体化する。
【0194】
得られた複合部材1E(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)の金属領域112の一部から円形状の埋設部材123の端面が露出されている。この埋設部材123に機械加工(ここではドリル加工)により、貫通孔20Eを形成する。ここでは、複合部材1Eの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個の貫通孔20Eを設けている。
【0195】
上記構成を具える複合部材1Eは、貫通孔20Eの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を埋設部材123により十分に受けられる。特に、複合部材1Eでは、貫通孔20Eの全体がマトリクス金属以外の金属で構成されていることで、埋設部材123がボルト100の軸力を実質的に100%に受けられる。従って、複合部材1Eは、冷熱サイクルを受けた場合にも固定状態が更に緩み難い、と期待される。その他、複合部材1Eもその表裏に埋設部材123の端面が露出されていることで、(1)固定対象と接触する箇所にもマトリクス金属と異種の金属が存在するため、冷熱サイクルを受けてマトリクス金属にクリープ変形などが生じても、固定対象に密着した状態を維持し易い、(2)取り付け作業性に優れるという効果を奏する。
【0196】
[実施形態6]
図6Aおよび
図6Bを参照して、実施形態6のマグネシウム基複合部材1Fを説明する。複合部材1Fの基本的構成は、実施形態5の複合部材1Eと同様であり、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなり、凹凸形状の基板110と、マグネシウムから構成される金属被覆層111と、SiCを含まず、マグネシウムから構成される金属領域112とを具える。また、複合部材1Fも、金属領域112にボルト100が挿通される貫通孔20Fを具える。実施形態6の複合部材1Fにおいて実施形態5の複合部材1Eとの差異は、貫通孔20Fの形態にある。以下、貫通孔20Fを中心に説明し、実施形態5と重複する構成については詳細な説明を省略する。
【0197】
複合部材1Fでは、
図6Bに示すように金属領域112の厚さ方向の一部にのみステンレス鋼製の埋設部材124が存在し、埋設部材124の外表面の全面が金属領域112の構成金属に覆われて、埋設部材124が金属領域112の表面に露出していない。そのため、複合部材1Fは、その表面全体がマグネシウムから構成されている。
【0198】
埋設部材124には、内孔124h(受部孔)が設けられ、埋設部材124は、その全長に亘って均一的な断面を有する円筒状体となっている。埋設部材124の両端面の大きさ(面積)は、適宜選択することができる。上述したようにステンレス鋼といった高硬度な材質からなる埋設部材を利用する場合、上記端面の面積は、ボルト100の頭部を平面視したときの面積と同等以下であってもよいが、本例のように上記平面視したときの面積と同等以上とすると、ボルト100の締め付け力を受け易く好ましいと考えられる。また、埋設部材124の両端面は、上述のように金属領域112の構成金属(ここではマグネシウム)により覆われている。埋設部材124の長さは、金属領域112に覆われるように、複合部材1Fの厚さを考慮して適宜選択することができる。また、埋設部材124は、実施形態5の埋設部材123と同様に、部分的に断面形状が異なる形態とすることができ、例えば、テーパ状体とすると、金属領域112との接合面積を増加でき、金属領域112との密着性を高められる。
【0199】
上記金属領域112において埋設部材124の両端面を覆う箇所には、埋設部材124の内孔124hに連続するようにベース孔121h(金属領域孔)が設けられている。従って、貫通孔20Fは、内孔124hとベース孔121hとにより構成され、実施形態4の複合部材1Dの貫通孔20Dと同様に、異なる複数種の金属材料により構成されている。また、複合部材20Fでは、ボルト100を締め付けると、金属領域112の表面にボルト100の頭部が接触する。
【0200】
上記複合部材1Fも、上述した実施形態4の複合部材1Dと同様にして製造することができる。即ち、金属領域112の適宜な箇所に埋設部材124が配置されるように、マグネシウムからなる適宜な形状の鋳物に埋設部材124を接合した金属体(例えば、一対の円板状の鋳物で埋設部材124を挟み、溶接などにより接合した積層物)を複数用意し、鋳型にこの金属体及びSiC集合体を収納すると共に上述したスペーサによりSiC集合体を鋳型に固定して、上述したようにSiC集合体とマトリクス金属溶湯とを複合して基板110を形成すると共に、上記スペーサにより形成される隙間に当該溶湯が流れ込むことで、金属被覆層111を形成する。かつSiC集合体の凹部に上記溶湯が流れ込むことで金属領域112を形成すると同時に上記金属体を鋳ぐるみ、基板110及び金属被覆層111に埋設部材124を一体化する。
【0201】
得られた複合部材1F(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)の金属領域112において埋設部材124が存在する箇所に機械加工(ここではドリル加工)により、貫通孔20Fを形成する。ここでは、複合部材1Fの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個の貫通孔20Fを設けている。
【0202】
上記構成を具える複合部材1Fは、貫通孔20Fの一部がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を埋設部材124により受けられるため、冷熱サイクルを受けた場合にも固定状態が緩み難い、と期待される。その他、複合部材1Fは、その表面全体がマトリクス金属により構成されていることで、(1)電気めっきを容易に施せる、(2)表面研磨・切削などを施す際に加工性に優れる、(3)外観が良好であるといった効果を奏する。
【0203】
<変形例>
上述した実施形態5,6の埋設部材123,124に代えて、或いは、実施形態4の金属板122や実施形態6の埋設部材124とを組み合わせて、埋設部材の構成材料に金属繊維(例えば、スチールウールなど)を利用することができる。埋設部材の少なくとも一部に金属繊維を利用すると、マトリクス金属溶湯が繊維間に含浸されるため、この埋設部材とマトリクス金属からなる金属領域とが強固に接合される。
【0204】
また、実施形態6の埋設部材124の素材として、カーボンやカーボン繊維を含有する素材(例えば、カーボンコンポジット)といった非金属材料を利用することができる。上記カーボンなどの非金属無機材料は、比較的靭性が低く、ボルト100の頭部が接触する箇所をこのような材料により構成することで、ボルト100を締め付けると、当該材料により構成された部分が割れる恐れがある。しかし、実施形態6で説明したように、ボルト100の頭部が接触する箇所をマトリクス金属とする場合、埋設部材124の素材に上述のような脆性材料を利用できると期待される。
【0205】
[実施形態7]
図7Aおよび
図7Bを参照して、実施形態7のマグネシウム基複合部材1Gを説明する。複合部材1Gの基本的構成は、実施形態4の複合部材1Dと同様であり、マグネシウムとSiCとが複合された複合材料からなり、凹凸形状の基板110と、マグネシウムから構成される金属被覆層111と、SiCを含まず、マグネシウムから構成される金属領域112とを具える。また、複合部材1Gも、金属領域112にボルト100が挿通される貫通孔20Gを具える。実施形態7の複合部材1Gにおいて実施形態4の複合部材1Dとの差異は、貫通孔20Gの形態にある。以下、貫通孔20Gを中心に説明し、実施形態4と重複する構成については詳細な説明を省略する。
【0206】
複合部材1Gでは、金属板125bと、この金属板125bに連結された筒部125tとを具える金具125に有する内孔(受部孔)により、複合部材1Gの表裏に抜ける貫通孔20Gが構成されている。金属領域112の表裏面の対向位置にそれぞれ、金属板125bの一面、及び筒部125tの端面が露出されており、金具125の筒状の外周面は金属領域112に覆われている。複合部材1Gも、実施形態4の複合部材1Dと同様に貫通孔20Gにおいてボルト100の頭部が接触する箇所が金属領域112の構成金属(ここではマグネシウム)以外の金属(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0207】
上記金具125は、市販のステンレス鋼製のクリンチングファスナである。そのため、複合部材1Gは、実施形態5の複合部材1Eと同様に金属領域の厚さ方向の全長に亘って埋設部材(金具125)が存在し、貫通孔20Gの全体が単一の金属により構成されている。従って、実施形態5の複合部材1Eと同様に、金具125はボルトの締め付け力を十分に受けられる。そのため、この例に示す金属板125bの面積は、ボルト100を締め付けて金属板125bにボルト100の頭部が接した状態としたとき、頭部の周縁から金属板125bが十分に突出する大きさを有しているが、上述した実施形態5と同様に、上記突出する大きさを有さなくてもよい。更に、貫通孔20Gは、孔の内周面が平滑な面から構成された実施形態4〜6の貫通孔20D,20E,20Fとは異なり、ネジ加工が施されたネジ孔である。ここでは、クリンチングファスナとして、ネジ孔を有するものを利用しているが、孔の内周面が平滑な面から構成されたものを利用してもよい。
【0208】
複合部材1G(長さ190mm×幅140mm×厚さ5mm)は、上記貫通孔20Gにボルト100をねじ込み、このボルト100を締め付けることで固定対象に取り付けられる。
【0209】
上記複合部材1Gも、上述した実施形態4の複合部材1Dと同様にして製造することができる。但し、複合部材1Gでは、ベース孔121を形成した後、ベース孔121に金具125を圧入することで、貫通孔20Gを設ける。ここでは、複合部材1Gの長辺縁側にそれぞれ4個、合計8個のベース孔121を設けて、それぞれに金具125を圧入している。金具125を圧入することで、金属板125bと筒部125tとの間の段差部分に金属領域112の構成金属が入り込み、金具125は複合部材1Gに強固に固定される。
【0210】
上記構成を具える複合部材1Gは、貫通孔20Gの一部、特に、ボルト100の頭部が接触する箇所がマトリクス金属以外の高強度・高靭性な金属で構成されていることで、ボルト100の締め付け力を金属板125bにより十分に受けられる。特に、複合部材1Gでは、貫通孔20Gの全体がマトリクス金属以外の金属で構成されていることで、金具125がボルト100の軸力を実質的に100%に受けられる。従って、複合部材1Gは、冷熱サイクルを受けた場合にも固定状態が更に緩み難いと期待される。また、複合部材1Gでは、貫通孔20Gがネジ孔であることで、ボルト100とネジ結合することができ、固定対象との密着性を高められる。更に、金具125が複合部材1Gに一体であるため、ボルト100の軸力を受けるための別部材を配置する必要が無く、固定対象への固定作業性に優れる。
【0211】
以上、実施形態4〜7について説明した。
次に実施形態8〜10に共通する内容について、以下に説明する。
【0212】
マグネシウム基複合部材は、複合材料からなる基板と、金属部材(受部)とを有する。複合材料を得るためには、たとえば、以下の方法が用いられる。
【0213】
SiC粒子を主成分とする原料粉末またはその成形体が鋳型内に予め配置される。次に鋳型にマグネシウム合金や純マグネシウムの溶湯が注湯される。これによりこの溶湯をSiC粒子に溶浸させる。次にこの溶湯を冷却によって凝固させる。これにより複合材料が得られる。溶湯の注湯前に、SiC粒子と共に金属部材を成型型に配置しておけば、複合材料からなる基板と、この基板に取り付けられた金属部材とを有するマグネシウム基複合部材を得ることができる。
【0214】
この方法は焼結工程を有しないことから、各SiC粒子がマトリクス金属中に別個に存在する。言い換えるとこの複合材料は、SiC粒子同士を結合するネットワーク構造を材料力学的な意味で実質的に有していない。
【0215】
複合材料の熱膨張係数をより小さくするには、複合材料中のSiC粒子の体積割合を高めることが効果的である。この体積割合は、溶解したマトリクス金属が注入されるSiC粒子を予め高密度に充填しておくことで、容易に高めることができる。この割合は60体積%超とすることができ、さらに75体積%超とすることができる。このためには、たとえば、SiC粒子の粉末を鋳型に入れた後にタッピングすればよい。またSiC粒子の体積割合をより高めることが必要な場合、加圧成形、スリップキャスト、またはドクターブレード法を用いることもできる。この方法によれば、複合材料に占めるSiCの割合を、60体積%超とすることができ、さらに75体積%超とすることができる。
【0216】
なおスリップキャストにおいては、たとえば、以下の工程が行われる。
原料粉末、水、及び分散剤を用いて、スラリーが作製される。このスラリーを成形後、乾燥させることで粉末成形体が形成される。分散剤には、一般的な界面活性剤が利用できる。
【0217】
ドクターブレード法においては、たとえば、以下の工程が行われる。
原料粉末、溶媒、消泡剤、および樹脂などを用いてスラリーが作製される。このスラリーをドクターブレードの受け口に流し込むことで、シート状の構造が形成される。次に溶媒を蒸発させることで、粉末の成形体を形成することができる。
【0218】
次に、実施形態8〜10の各々について、図面を参照しつつ、以下に説明する。
[実施形態8]
図8Aおよび
図8Bを参照して、本実施形態のマグネシウム基複合部材1Hは、冷却器などの固定対象に取り付けるためのボルト100(締結部材)が挿通されるための貫通孔20Hが設けられたものである。マグネシウム基複合部材1Hは、基板210および金属部材223(受部)を有する。
【0219】
基板210は、マグネシウムおよびマグネシウム合金のいずれかであるマトリクス金属と、マトリクス金属中に分散されたSiC粒子としてのSiCとが複合された複合材料からなる。
【0220】
また基板210には貫通部が設けられている。本実施形態における基板210の貫通部は、
図8Aに示すように、金属部材223を取り囲む孔部である。これにより金属部材223の全周が基板210に取り囲まれるので、金属部材223が基板210から外れ難くなる。
【0221】
金属部材223は、基板210の貫通部、すなわち上記孔部に取り付けられている。金属部材223には貫通孔20Hが設けられている。金属部材223は、マトリクス金属と異なる金属材料からなる。この金属材料としては、具体的には、実施形態1の金属板22(
図1Aおよび
図1B)の材料と同様のものを用いることができる。
【0222】
本実施形態によれば、ボルト100の締付時、基板210ではなく金属部材223に設けられた貫通孔20Hが締め付け力を受ける。そのため、基板210に設けられた貫通孔が締め付け力を直接受ける場合において生じ得る貫通孔周辺での基板割れを防止することができる。また基板210のSiCがマトリクス金属中に分散されたSiC粒子として存在することによって、外力が加わった際に個々の粒子がある程度独立に変位可能なので、SiC同士を結合するネットワーク部が形成されている場合に比して、基板割れが生じ難い。また金属部材223がマトリクス金属と異なる金属材料からなることで、受部の材料をマグネシウムおよびマグネシウム合金のいずれとも異なるものとすることができるので、ボルト100の軸力低下がより生じ難い材料を選択することができる。よってマグネシウム基複合部材1Hが冷熱サイクルを受けても、ボルト100の軸力の低下による固定状態の緩みが生じ難い。従って、マグネシウム基複合部材1Hを固定対象に強固に固定することができ、かつ、この固定した状態を安定して長期に亘り維持できる。
【0223】
[実施形態9]
図9Aおよび
図9Bを参照して、本実施形態の金属部材224は、金属部材223(
図8Aおよび
図8B)と形状が異なっており、基板210に埋め込まれた突起PRを有する。この突起PRがアンカーとして働くことで、金属部材224が基板210から外れ難くなる。
【0224】
なお、上記以外の構成については、上述した実施形態8の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0225】
[実施形態10]
図10を参照して、本実施形態の基板210Nは、基板210(
図8A)と異なり、貫通部として孔部ではなく切欠部(図中、U字状の部分)を有する。また金属部材225は、この切欠部に対応した平面形状を有する。
【0226】
なお、上記以外の構成については、上述した実施形態8の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0227】
仮に、金属部材が取り付けられる貫通孔が基板に設けられたとすると、基板のうち貫通孔よりも外側に位置する部分FM(
図8A)が破断しやすい。これに対して本実施形態によれば、金属部材225が基板210Nの切欠部に取り付けられるので、金属部材225が取り付けられるための貫通孔を基板210Nに設ける必要がない。よって上述した破断を防止することができる。
【0228】
以上、実施形態8〜10について説明した。
[実施形態11]
図11を参照して、実施形態11の放熱部材および半導体装置90を説明する。本実施形態の放熱部材はマグネシウム基複合部材1A(放熱部材)により構成される。また本実施形態の半導体装置90は、放熱部材としてのマグネシウム基複合部材1Aと、半導体チップ94(半導体素子)と、ボルト100と、絶縁基板92と、はんだ部91および93と、樹脂封止部95と、ケース96とを有する。半導体装置90は、ボルト100によって冷却器500に搭載されている。なお放熱部材として、マグネシウム基複合部材1Aの代わりに、マグネシウム基複合部材1B〜1J(放熱部材)のいずれかが用いられてもよい。
【実施例】
【0229】
[試験例1]
実施形態1〜3の複合部材を固定対象にボルトで固定し、破壊軸力、及び軸力保持力を測定した。その結果を表1に示す。
【0230】
この試験では、M6のボルトを用い、各複合部材には、当該ボルトが挿通可能な貫通孔をそれぞれ設けた。また、この試験では、比較として、
図12Aおよび
図12Bに示す複合部材99を用意した(参考例1,2)。複合部材99は、実施形態1の複合部材1Aと同様に設けたベース孔21をボルト100が挿通される貫通孔とする。更に、この試験では、実施形態1に対して、金属板22として外径φ14mmのステンレス鋼製の平座金、実施形態2,3、及び参考例2に対して、複合部材とボルトとの間に外径φ12mmのステンレス鋼製の平座金を介在させてボルトを固定した。参考例1では、複合部材とボルトとの間に平座金を介在させずにボルトを直接固定した。また、実施形態2では、基板10の表面に配置される金属板23の面積(貫通孔23Bの開口部を含む)を200mm
2とし、実施形態3では、M6に対応したネジ孔を有するクリンチングファスナを利用した。
【0231】
破壊軸力は、M6のボルトを締め付け、複合部材にひび割れが生じた時の軸力を測定した。軸力の測定には、市販の測定装置を利用した(測定限界軸力:16kN)。ひび割れは目視及びX線CTにより確認した。
【0232】
軸力保持率は、以下のように測定した。M6のボルトにより、初期軸力:7.5kNの締め付けを行い、40℃×1h保持した後、125℃×1h保持、という冷熱サイクルを10回繰り返した後、軸力を測定し、初期軸力/冷熱サイクル後の軸力を軸力保持率とした。なお、参考例1,2では、ひび割れが生じないように、初期軸力をそれぞれ、2.0kN,4.0kNとした。
【0233】
【表1】
【0234】
表1に示すように実施形態1〜3は、破壊軸力が7kN以上と高く、ボルトの軸力により作用する力に十分に耐えられることが分かる。また、実施形態1〜3は、冷熱サイクルを受けた場合にも、軸力保持率が75%以上と高く、軸力が緩和し難いことが分かる。更に、M6のボルトの頭部を平面視したときの面積に対して、金属板の面積が1割以上大きい金属板を具える実施形態1,2や、貫通孔の全体がマトリクス金属以外の金属で構成されている実施形態3では、参考例2と比較して、破壊軸力及び軸力保持率が更に高く、特に実施形態3は優れた特性を有することが分かる。従って、ボルト用の貫通孔の少なくとも一部がマトリクス金属と異なる材料から構成された実施形態1〜3の複合部材は、固定当初から長期に亘り、固定対象に強固に固定された状態を維持することができ、当該複合部材を具える半導体装置は、優れた放熱性を有することができると期待される。
【0235】
[試験例2]
実施形態4〜7の複合部材を固定対象にボルトで固定し、破壊軸力、及び軸力保持力を測定した。その結果を表2に示す。
【0236】
この試験では、M6のボルトを用い、各複合部材には、当該ボルトが挿通可能な貫通孔をそれぞれ設けた。また、この試験では、変形例で説明した金属繊維を用いた形態(表2に実施形態5/6と示す。実施形態5の埋設部材123をステンレススチールウールで構成したもの)、比較として、
図13Aおよび
図13Bに示す複合部材199を用意した。複合部材199は、実施形態4の複合部材1Dと同様に設けたベース孔121をボルト100が挿通される貫通孔とする。更に、この試験では、実施形態4〜7及び比較例に対して、複合部材とボルトとの間に外径φ12mmのステンレス鋼製の平座金を介在させてボルトを固定した。また、実施形態4では、金属板122の面積(板孔122hの開口部を含む)を200mm
2とし、実施形態5,6では、埋設部材123,124を外形:13mm、内径:6.1mmの円筒状体とし、実施形態5/6は、外形:13mm、内径:6.1mmの円筒状体となるように金属繊維を成形し(気孔率:30体積%)、実施形態7では、M6に対応したネジ孔を有するクリンチングファスナを利用した。
【0237】
破壊軸力は、M6のボルトを締め付け、複合部材にひび割れが生じた時の軸力を測定した。軸力の測定には、市販の測定装置を利用した(測定限界軸力:16kN)。ひび割れは目視及びX線CTにより確認した。
【0238】
軸力保持率は、以下のように測定した。M6のボルトにより、初期軸力:7.5kNの締め付けを行い、40℃×1h保持した後、125℃×1h保持、という冷熱サイクルを10回繰り返した後、軸力を測定し、初期軸力/冷熱サイクル後の軸力を軸力保持率とした。
【0239】
【表2】
【0240】
表2に示すように実施形態及び比較例はいずれも、破壊軸力が7kN以上と高く、ボルトの軸力により作用する力に十分に耐えられることが分かる。しかし、比較例では、冷熱サイクルを受けた場合に軸力保持率が低くなっている。これに対して、実施形態はいずれも、冷熱サイクルを受けた場合にも、軸力保持率が75%以上と高く、締め付け力が緩和し難いことが分かる。特に、貫通孔の全体がマトリクス金属以外の金属で構成された実施形態5,7では、更に優れた特性を有することが分かる。従って、ボルト用の貫通孔の少なくとも一部が金属領域の構成金属、即ちマトリクス金属と異なる材料から構成された実施形態の複合部材は、長期に亘り、固定対象に強固に固定された状態を維持することができ、当該複合部材を具える半導体装置は、優れた放熱性を有することができると期待される。
【0241】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、複合部材中のSiCの含有量、SiCの存在形態(例えば、分散形態)、マトリクス金属の組成(例えば、マグネシウム合金)、複合部材の大きさ、金属被覆層の厚さ、複合時の条件、金属板や金具の組成、貫通孔の大きさ、貫通孔の個数、貫通孔の設ける位置、埋設部材の組成、などを適宜変更することができる。
【0242】
[付記1]
上述した実施形態には、以下の発明概念が含まれる。
【0243】
(1)マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとが複合されたマグネシウム基複合部材であって、
当該複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を有し、
前記貫通孔を構成する少なくとも一部の材料は、前記複合部材を構成するマグネシウム又はマグネシウム合金及びSiCと異なることを特徴とするマグネシウム基複合部材。
【0244】
(2)前記複合部材中には、前記SiC同士を結合するネットワーク部を有しており、
前記貫通孔は、前記複合部材において前記ネットワーク部が存在する領域に有しており、
前記貫通孔において少なくとも、前記締結部材の頭部が接触する箇所は、前記マグネシウム及び前記マグネシウム合金以外の金属から構成されていることを特徴とする上記(1)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0245】
(3)前記SiCを70体積%超含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0246】
(4)前記貫通孔において少なくとも、前記締結部材の頭部が接触する箇所に、前記マグネシウム及び前記マグネシウム合金以外の金属からなる金属板を有し、
前記締結部材を締め付けて前記金属板に前記頭部が接した状態において、前記金属板は、前記頭部の周縁から前記金属板が突出する面積を有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材。
【0247】
(5)前記複合部材は、前記マグネシウム又は前記マグネシウム合金と前記SiCとが複合された複合材料からなる基板と、
前記基板の少なくとも一面を覆う金属被覆層とを具え、
前記金属板の周縁は、前記金属被覆層に接合され、
前記金属板の一面は、前記金属被覆層から露出されていることを特徴とする上記(4)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0248】
(6)前記貫通孔は、その内周面も前記金属板と同種の金属により構成されていることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0249】
(7)前記金属板の面積は、前記締結部材の頭部を平面視したときの面積に対して1割以上大きいことを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材。
【0250】
(8)前記複合部材の熱膨張係数が4ppm/K以上8ppm/K以下、
前記複合部材の熱伝導率が180W/m・K以上であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材。
【0251】
(9)上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材により構成されることを特徴とする放熱部材。
【0252】
(10)上記(9)に記載の放熱部材と、この放熱部材に搭載される半導体素子とを具えることを特徴とする半導体装置。
【0253】
[付記2]
上述した実施形態には、以下の発明概念が含まれる。
【0254】
(1)マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとが複合されたマグネシウム基複合部材であって、
前記SiCを含まず、前記マグネシウム又は前記マグネシウム合金から構成される金属領域を有し、
前記金属領域には、当該複合部材を固定対象に取り付けるための締結部材が挿通される貫通孔を有し、
前記貫通孔を構成する少なくとも一部の材料は、前記金属領域の構成金属と異なることを特徴とするマグネシウム基複合部材。
【0255】
(2)前記金属領域の厚さ方向の少なくとも一部に、前記金属領域の構成金属と異なる材料からなる埋設部材を有しており、
前記貫通孔の少なくとも一部は、前記埋設部材に設けられていることを特徴とする上記(1)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0256】
(3)前記貫通孔において少なくとも、前記締結部材の頭部が接触する箇所は、前記金属領域の構成金属と異なる金属から構成されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0257】
(4)前記埋設部材は、金属板を有し、
前記金属板の一面は、前記金属領域の表面から露出されていることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0258】
(5)前記埋設部材は、前記金属領域の厚さ方向の全長に亘って存在することを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材。
【0259】
(6)前記埋設部材は、前記金属領域の厚さ方向の一部にのみ存在し、
前記貫通孔の少なくとも一方の開口部は、前記金属領域の構成金属から構成されていることを特徴とする上記(2)に記載のマグネシウム基複合部材。
【0260】
(7)前記埋設部材の少なくとも一部は、前記金属領域の構成金属と異なる金属から構成される金属繊維を含むことを特徴とする上記(2)〜(6)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材。
【0261】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載のマグネシウム基複合部材により構成されることを特徴とする放熱部材。
【0262】
(9)上記(8)に記載の放熱部材と、この放熱部材に搭載される半導体素子とを具えることを特徴とする半導体装置。