(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739906
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】水、酸化剤及び重質油を超臨界の温度及び圧力条件下で混合し、最終的にその混合物をマイクロ波処理にかけるプロセス
(51)【国際特許分類】
C10G 31/08 20060101AFI20150604BHJP
C10G 27/04 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
C10G31/08
C10G27/04
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-546057(P2012-546057)
(86)(22)【出願日】2010年12月16日
(65)【公表番号】特表2013-515141(P2013-515141A)
(43)【公表日】2013年5月2日
(86)【国際出願番号】US2010060728
(87)【国際公開番号】WO2011084582
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】12/643,743
(32)【優先日】2009年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】506018097
【氏名又は名称】アラムコ サービシズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100112243
【弁理士】
【氏名又は名称】下村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、キ − ヒョク
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−505464(JP,A)
【文献】
特表2011−504965(JP,A)
【文献】
特表2011−504962(JP,A)
【文献】
特開2004−359745(JP,A)
【文献】
特開2003−277774(JP,A)
【文献】
特開2000−109850(JP,A)
【文献】
特開2004−307535(JP,A)
【文献】
特開2002−155286(JP,A)
【文献】
特開2003−261881(JP,A)
【文献】
特開2005−053962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給される触媒又は外部から供給される水素源のない環境中で重質油をアップグレードするプロセスであって、
混合ゾーン(30)中で、加熱された重質油流(22)を加熱された水供給(24)と組み合わせ、重質油/水混合物(32)を形成するステップであって、該重質油/水混合物(32)が、水の臨界温度及び圧力を超える温度及び圧力状態にある上記ステップ、
加熱された酸化剤流(42)を該重質油/水混合物(32)に加えて反応混合物(34)を形成するステップであって、該加熱された酸化剤流(42)が、水の臨界温度及び圧力を超える温度及び圧力状態にある上記ステップ、
該反応混合物(34)を反応ゾーン(50)に導入するステップであって、該反応混合物(34)が、該反応混合物(34)中の炭化水素の少なくとも一部がクラッキングを受けてアップグレードされた混合物(52)を形成するように、水の超臨界条件以上である操作条件下に置かれ、該反応ゾーンに、外部から供給される触媒がない上記ステップ、
該アップグレードされた混合物(52)を該反応ゾーン(50)から除去し、該アップグレードされた混合物(52)を冷却(60)及び圧抜き(70)して冷却されたアップグレード混合物(72)を形成するステップ、
該冷却されたアップグレード混合物(72)をガス流(82)と液体流(84)とに分離する(80)ステップ、並びに
該液体流(84)をアップグレードされた油(92)と回収された水(94)とに分離する(90)ステップであって、該アップグレードされた油(92)が、加熱された重質油流(22)と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質及び増大したAPI比重を有する上記ステップ
を含む上記プロセス。
【請求項2】
前記反応ゾーン(50)に、外部から提供された水素源がない請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記混合ゾーン(30)が、周波数を発するように操作できる超音波発生器を含み、これにより混合を引き起こす、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記重質油/水混合物(32)を前記加熱された酸化剤流(42)に加える前に超音波に当てるステップを更に含む請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記超音波発生器から生じる前記超音波の周波数が、10〜50kHzの範囲内である請求項3又は4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記超音波発生器から生じる前記超音波の周波数が、20〜40kHzの範囲内である請求項3又は4に記載のプロセス。
【請求項7】
前記重質油/水混合物(32)が、10〜120分の範囲内の前記混合ゾーン(30)中の滞留時間を有する請求項1から6までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記加熱された重質油流(22)が、油温度が10℃〜250℃の範囲である油温度を有し、前記加熱された重質油流(22)が、水の臨界圧力以上の圧力にある請求項1から7までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記加熱された水供給(24)が、水温が250℃〜650℃の範囲である水温を有し、前記加熱された水供給(24)が、水の臨界圧力以上の圧力にある請求項1から8までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記加熱された酸化剤流(42)が、酸化剤温度がある圧力で250℃〜650℃の範囲である酸化剤温度を有し、前記酸化剤流(42)が水の臨界圧力以上である請求項1から9までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記加熱された酸化剤流(42)が、酸素を含有する化学種及び水を含む請求項1から10までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記酸素を含有する化学種が、酸素ガス、空気、過酸化水素、有機過酸化物、無機過酸化物、無機超酸化物、硫酸、硝酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記加熱された酸化剤流(42)が、0.1重量パーセント〜75重量パーセントの酸素を含有する化学種濃度を有する請求項11又は12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記反応混合物(34)が、1秒〜120分の前記反応ゾーン(50)中の滞留時間を有する請求項1から13までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記反応混合物(34)が、1分〜60分の前記反応ゾーン(50)中の滞留時間を有する請求項1から14までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記回収された水を超臨界条件下で酸化して処理水流を形成し、該処理水流を前記加熱された水供給と組み合わせることによって該処理水流をプロセスに戻して再利用するステップを更に含む請求項1から15までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
外部から供給される触媒がなく、かつ外部から供給される水素源のない環境中で重質油をアップグレードするプロセスであって、
混合ゾーン(30)中で、加熱された重質油流(22)を加熱された水供給(24)と組み合わせ、重質油/水混合物(32)を形成するステップ、
酸化剤流(42、42a)及び該重質油/水混合物(32)を反応ゾーン(50)中に導入するステップであって、該重質油/水混合物(32)及び該酸化剤流(42、42a)が、該重質油/水混合物中の炭化水素の少なくとも一部がクラッキングを受けてアップグレードされた混合物を形成するように、水の超臨界条件以上である操作条件の下に置かれ、該反応ゾーンに、外部から提供される触媒がなく、かつ外部から提供される水素源がない上記ステップ、
該アップグレードされた混合物(52)を該反応ゾーン(50)から除去するステップ、
該アップグレードされた混合物(52)を冷却(60)及び圧抜き(70)して冷却されたアップグレード混合物(72)を形成するステップ、
該冷却されたアップグレード混合物(72)をガス流(82)と液体流(84)とに分離する(80)ステップ、並びに
該液体流(84)をアップグレードされた油(92)と回収された水(94)とに分離する(90)ステップであって、該アップグレードされた油(92)が、該加熱された重質油流(22)と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質及び増大したAPI比重を有するアップグレート化された重質油である上記ステップ
を含む上記プロセス。
【請求項18】
外部から供給される触媒又は外部から供給される水素源のない環境中で重質油をアップグレードするプロセスであって、
加圧された酸化剤流(42)を250℃と650℃の間である温度に加熱する(40)ステップであって、該加圧された酸化剤流(42)が、水の臨界圧力を超える圧力にある上記ステップ、
加熱された重質油流(22)と加熱された水供給(24)とを混合(30)して加熱された重質油/水流(32)を形成するステップであって、該加熱された重質油流(22)が炭化水素分子を含み、該加熱された水供給(24)が超臨界水流体を含み、該超臨界水流体は全ての個々の炭化水素分子を完全に取り巻き、それによって全ての該炭化水素分子の周りにかご効果を生じるのに十分な量である上記ステップ、
該加圧された酸化剤流(42)を該重質油/水流(32)と、水の超臨界温度及び圧力以上である反応ゾーン条件下の反応ゾーン(50)中で、炭化水素分子の部分がアップグレードされ、それによってアップグレードされた混合物(52)を形成するように組み合わせるステップ、
該アップグレードされた混合物(52)を冷却(60)し、圧抜き(70)し、ガス相(82)、油相(92)及び回収された水相(94)に分離する(80、90)ステップであって、該油相(92)が、該加熱された重質油流(22)と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質及び増大したAPI比重を有するばかりでなく、全ての炭化水素分子の周りにかご効果のないプロセスと比較してコークスの形成の量が減少している上記ステップ
を含む上記プロセス。
【請求項19】
外部から供給される触媒がなく、かつ外部から供給される水素源のない環境中で重質油をアップグレードする装置であって、
該重質油を輸送する操作ができる重質油導入ライン(8)、
給水を輸送する操作ができる給水導入ライン(18)、
酸化剤流を輸送する操作ができる酸化剤導入ライン(38)、
混合ゾーン(30)[該混合ゾーン(30)は、該混合ゾーン(30)が該重質油導入ライン(8)と流動的に接続していて該重質油を該重質油導入ライン(8)から受け取る操作ができ、該混合ゾーン(30)は、該混合ゾーン(30)が該重質油を該給水と10℃から650℃の温度で組み合わせて重質油/水混合物を生み出す操作ができるように、該給水導入ライン(18)と流動的に接続していて該給水を該給水導入ライン(18)から受け取る操作ができる]、
内側部分を有する主反応器を含む反応ゾーン(50)[該反応ゾーン(50)は、該反応ゾーン(50)が該重質油/水混合物及び該酸化剤流を受け取る操作ができ、該主反応器が少なくとも水の臨界温度の高さである温度に耐えて操作でき、該主反応器が水の臨界圧力を上回る圧力に耐えて操作できるように、該混合ゾーン(30)及び該酸化剤導入ライン(38)と流動的に接続されており、該反応ゾーンには外部から提供される触媒がなく、かつ外部から提供される水素源がない]、
冷却ゾーン(60)、
圧力調節ゾーン(70)、
該圧力調節ゾーン(70)に流動的に接続されている液体−ガス分離器(80)[該液体−ガス分離器(80)は液体流及びガス流を生み出す操作ができる]、並びに
該液体−ガス分離器(80)に流動的に接続されている水−油分離器(90)[該水−油分離器(90)は該液体流を回収された水流(94)とアップグレードされた炭化水素流(92)とに分離する操作ができる]
を含む上記装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油流を超臨界水流体及び酸化剤流と接触させることによって重質油をアップグレードするためのプロセスに関する。特に、その水熱アップグレードプロセスは、その水の流体と重質油とを完全に混合した後に、酸化剤流を導入することによって行われる。更に、このプロセスは、炭化水素原料として使用するための低硫黄、低窒素、低金属不純物、及び増大したAPI比重を有する高価値原油を製造するための水素の外部供給又は触媒の外部供給の使用なしで行われる。
【背景技術】
【0002】
石油製品に対する世界規模の需要は近年劇的に増加し、既知の高価値の軽質原油貯留層の多くを枯渇させている。その結果、生産会社は、増え続ける将来の需要を満たすために低価値の重質油を使用することに彼らの関心を向けている。しかしながら、重質油を使用する現行の精製方法は軽質原油を使用するものより低効率であるために、より重質の原油から石油製品を製造する製油所は同じ量の最終製品を得るためにはより多量のより重質の原油を精製しなければならない。残念ながら、これは予想される将来の需要の増大をまかなうものではない。問題を更に深刻にしているのは、多くの国が石油系輸送燃料の仕様に関するより厳しい規制を実施しているか又は実施を計画していることである。その結果、石油業界は石油原料に対して増え続ける需要を満たし、精製プロセスで使用される入手できる油の品質を改良しようという努力の一環として精製前に重質油を処理する新たな方法を見いだそうとしている。
【0003】
一般に、重質油は、より価値のある軽質及び中間留分を提供する量がより少ない。加えて重質油は、増大した量の不純物、例えば、硫黄、窒素及び金属などを一般に含有し、これらの不純物は全て最終製品中の不純物含量に対する厳しい規制に適合するために水素化処理をするための増大した量の水素及びエネルギーを必要とする。
【0004】
大気圧及び真空蒸留器からの残油留分として一般に定義される重質油は、高いアスファルテン含量、低い中間留分収量、高い硫黄含量、高い窒素含量、及び高い金属含量を又含有している。これらの特性は、従来の精製プロセスによって重質油を精製して厳しい政府規制に適合する仕様を有する最終石油製品を製造することを困難にしている。
【0005】
低価値の重質油は、その重質留分を技術的に知られているさまざまな方法を用いるクラッキングによって高価値の軽質石油に変換することができる。従来的には、クラッキング及びクリーニングは、水素の存在下の高温で触媒を用いて行われている。しかしながら、このタイプの水素化処理は重質及びサワー油を処理するにははっきりした限界がある。
【0006】
加えて、重質の油原料の蒸留及び/又は水素化処理は、利用するためには更にクラッキング及び水素処理をしなければならない多量のアスファルテン及び重質炭化水素を生じる。アスファルテン及び重質の留分に対する従来の水素化分解及び水素処理プロセスは、高い資本投資及び多大な処理を同様に必要とする。
【0007】
多くの石油製油所が、油を蒸留してさまざまな留分にした後、それぞれの留分が別々に水素化処理される従来の水素化処理を行っている。それ故、製油所は、それぞれの留分に対して手間のかかる単位操作を活用しなければならない。更に、相当量の水素及び高価な触媒が従来の水素化分解及び水素処理プロセスにおいては使用される。そのプロセスは、重質油からより価値のある中間留分に向けた収量を増すため及び硫黄、窒素、金属などの不純物を除去するための厳しい条件下で行われる。
【0008】
現在のところ、従来の精製プロセスから生じた留分の特性を調整して最終製品のための所望される低分子量仕様を満たすため、不純物、例えば、硫黄、窒素、金属などを除去するため、及びマトリックスの水素対炭素比率を増すために多量の水素が使用されている。アスファルテン及び重質の留分の水素化分解及び水素処理は、多量の水素を必要とするプロセスの例であり、その両方共が、触媒が削減されたライフサイクルとなることを引き起こす。
【0009】
超臨界水が、外部源の水素の添加によるか又はよらないで炭化水素をクラッキングするための反応媒体として使用されている。水は、約705°F(374℃)及び約22.1MPaに臨界点を有する。これらの条件より上では、水についての液体とガスの間の相の境界は消失し、結果として生じる超臨界水は有機化合物に対する高い溶解性及びガスとの高い混和性を示す。
【0010】
高温の加圧水は、質量拡散、熱伝達、分子内又は分子間の水素転移の促進、コークス生成を抑えるためのラジカル化合物の安定化、並びに不純物、例えば、硫黄、窒素及び金属を含有する分子などの除去を通して重質成分を低分子量の炭化水素にクラッキングするための反応媒体を提供する。不純物除去の正確なメカニズムは確認されてはいないが、その不純物は、アップグレードされた生成物のコークス又は重質留分中に濃縮されるようである。超臨界水の使用によって、これらの不純物は更に変態させて悪影響を回避することができる。超臨界流体抽出の基本原理は、「カーク・オスマー工業化学百科事典 第三版(the Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,3
rd Edition)」(ジョン・ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)、1984年)、補刊(Supplemental Volume)、872〜893ページに概要が記載されている。
【0011】
しかしながら、重質油をアップグレードするための超臨界水の利用は、深刻な欠点を有し得る。例えば、水熱プロセス、特に超臨界水を使用するものは、流体(水及び炭化水素)を臨界温度より上に加熱して維持するための多量のエネルギーを必要とする。
【0012】
従来の水熱プロセスの使用におけるもう1つの欠点は、コークスの形成であり得る。重質炭化水素分子は超臨界水中にそれらのより軽質の対応物よりもゆっくり溶解する。その上、もつれた構造を有するアスファルテン分子は、超臨界水によって容易にはもつれが解消されない。その結果、超臨界水と接触しない重質炭化水素分子の一部はそれら自体分解して多量のコークスをもたらす。それ故、現行の方法を使用して重質油を超臨界水と反応させるのは反応器内のコークスの蓄積を引き起こす。
【0013】
コークスが反応器の内部に蓄積すると、そのコークスは断熱材として作用してその反応器中に熱が発散することを事実上妨げ、オペレーターは運転温度を上げてその堆積に対して補わなければならないために、エネルギーコストの増大を引き起こす。その上、蓄積されたコークスはプロセスライン中の圧力低下を増加することもあり得、エネルギーコストの更なる増加を招く。
【0014】
超臨界水を使用してコークスが形成される1つの原因は、水素の利用の可能性が限定されていることに帰すことができる。超臨界水流体により処理される供給炭化水素に外部の水素を与えるいくつかの提案がなされている。例えば、水素ガスは該供給流に直接加えることができる。一酸化炭素を、一酸化炭素と水の間の水性ガスシフト(WGS)反応によって水素を発生させるために該供給流に直接加えることもできる。ギ酸などの有機物質を該供給流に加え、水と加えられた有機物質の分解によって生じる一酸化炭素とのWGS反応によって水素を発生させることもできる。
【0015】
コークスの堆積を防ぐための1つの他の可能な解決策は、重質油の反応器中の滞留時間を増やして全ての炭化水素を超臨界水中に溶解させることであるが、とはいえ、このプロセスの全体の経済性は低下することになろう。加えて、反応器設計における改良が役立ち得るであろうが、又一方、設計費用で大きな出費を必要とし、結局のところ有益であることを証明することができないかもしれない。それ故、多量のコークス又は操業コストの大幅な増加をもたらさない重質油の超臨界水との効率的な接触を促進するプロセスの必要性が存在する。
【0016】
その上、水素の外部からの供給又は外部から供給される触媒の存在のどちらも必要としない超臨界水流体による重質油アップグレードの改良されたプロセスを有することが望ましい。精製プロセス及びさまざまな支援設備を単純化することができるように、個々の留分よりも重質油のアップグレードを望ましい品質に到達させることを可能にするプロセス及び装置を開発することが有利であろう。
【0017】
加えて、このプロセスが生産現地で実施され得るように、水素供給又はコークス除去システムを必要とする他のプロセスと関係する複雑な機器又は設備を必要としない改良されたプロセスであることが有益であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、これらの必要性の少なくとも1つを満足させるプロセスを対象とする。本発明は、外部から供給される水素又は外部から供給される触媒なしで重質油をアップグレードするためのプロセスを含む。そのプロセスは、加熱された重質油流を加熱された水供給流と混合ゾーンで組み合わせて重質油/水混合物を形成し、重質油/水混合物がよく混合された状態になることを可能にするステップを一般に含む。加熱された酸化剤流が次にその重質油/水混合物に加えられて反応混合物を形成する。その反応混合物は、反応ゾーン中に導入され、そこでその反応混合物は水の超臨界以上の状態にある操作条件の下に置かれてアップグレードされた混合物を形成する。本発明の別の実施形態においては、該加熱された酸化剤流は、重質油/水混合物とは別の流れとして反応ゾーン中に導入される。
【0019】
1つの実施形態において、該反応混合物は、約1秒〜120分の範囲内の反応ゾーン中の滞留時間を有する。別の実施形態において、該反応混合物は、約1分〜60分の範囲内の反応ゾーン中の滞留時間を有する。更に別の実施形態において、該反応混合物は、約2分〜30分の範囲内の反応ゾーン中の滞留時間を有する。この時間の間に、反応混合物は、該反応混合物中の炭化水素の少なくとも一部がクラッキングを受けてアップグレードされた混合物を形成するように、水の超臨界状態以上である操作条件の下に置かれる。好ましくは、該反応ゾーンは、基本的に外部から供給される触媒がなく、基本的に外部から供給される水素源がない。アップグレードの直後に、アップグレードされた混合物は反応ゾーンを出て、その後冷却され、圧抜きされて、冷却されたアップグレード混合物を形成する。その冷却されたアップグレード混合物は、ガス−液体分離器によってガス流と液体流とに分離される。その液体流は、油−水分離器によって回収された水流とアップグレードされた油流とに更に分離され、そのアップグレードされた油流は、重質油と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質、及び増大したAPI比重を有する。
【0020】
本発明の更なる実施形態において、該混合ゾーンは、周波数を発するように操作できる超音波発生器を含むことができる。好ましくはその周波数は、約10〜約50kHz、より好ましくは約20〜約40kHzの間であり得る。1つの実施形態において、この重質油/水混合物は、約10〜約120分の範囲内の混合ゾーン中の滞留時間を有する。
【0021】
本発明の更なる実施形態において、該加熱された重質油流は、水の臨界圧力以上の圧力で、油温度が、約10℃〜約250℃の範囲である油温度を有する。本発明のある実施形態において、該加熱された水流は、水の臨界圧力以上の圧力で、水温が約250℃〜約650℃の範囲である水温を有する。本発明のある実施形態において、該加熱された酸化剤流は、水の臨界圧力以上の圧力で、酸化剤温度が約250℃〜約650℃の範囲である酸化剤温度を有する。
【0022】
本発明のある実施形態において、該加熱された酸化剤流は、酸素を含有する化学種及び水を含む。この酸素を含有する化学種は、酸素ガス、空気、過酸化水素、有機過酸化物、無機過酸化物、無機超酸化物、硫酸、硝酸、及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。1つの実施形態において、この加熱された酸化剤流は、約0.1重量パーセント〜約75重量パーセントの酸素を含有する化学種濃度を有する。好ましくは、この酸素を含有する化学種濃度は、約1重量パーセント〜50重量パーセント、より好ましくは、約5重量パーセント〜約25重量パーセントである。
【0023】
本発明のある実施形態において、該反応混合物は、好ましくは、1秒〜120分、より好ましくは1分〜60分、最も好ましくは2分〜30分の反応ゾーン中の滞留時間を有する。
【0024】
本発明の別の実施形態において、該プロセスは、混合ゾーン中で、加熱された重質油流を加熱された水供給流と組み合わせ、重質油/水混合物を形成し、重質油/水混合物がよく混合された状態になることを可能にするステップ、及び酸化剤流の存在下で重質油/水混合物を反応ゾーン中に導入するステップを含む。この重質油/水混合物及びこの酸化剤流は、重質油/水混合物中の炭化水素の少なくとも一部がクラッキングを受けてアップグレードされた混合物を形成するように、水の超臨界状態以上である操作条件の下に置かれ、反応ゾーンは、基本的に外部から提供される触媒がなく、基本的に外部から提供される水素源がない。このアップグレードされた混合物は、反応ゾーンから除去され、冷却及び圧抜きして冷却されたアップグレード混合物を形成し、その後、その冷却されたアップグレード混合物はガス流と液体流とに分離される。この液体流は、アップグレードされた油流と回収水とに分離される。そのアップグレードされた油流は、加熱された重質油流と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質及び増大したAPI比重を有するアップグレートされた重質油を含む。更なる実施形態において、該回収された水流は、超臨界条件下で酸化されて処理水流を形成し、その処理水流は、その後その処理水流を加熱された水供給流と組み合わせることによってプロセスに戻して再利用される。
【0025】
別の実施形態において、該プロセスは、加圧された酸化剤流が水の臨界圧力を超える圧力にあるその加圧された酸化剤流を250℃と650℃の間の温度に加熱するステップを含む。加熱された重質油流は、加熱された水供給と混合されて加熱された油/水流を形成し、該加熱された重質油流は炭化水素分子を含み、該加熱された水供給流は超臨界水流体を含み、該超臨界水流体は実質的に全ての個々の炭化水素分子を完全に取り巻き、それによって実質的に全ての炭化水素分子の周りにかご効果を生じるのに十分な量である。加圧された酸化剤流は、該重質油/水流と、水の超臨界温度及び圧力以上である反応ゾーン条件下の反応ゾーン中で、炭化水素分子のかなりの部分がアップグレードされ、それによってアップグレードされた混合物を形成するように組み合わされる。そのアップグレードされた混合物は、次に、冷却され、圧抜きされ、ガス相、油相及び回収された水相に分離され、該油相は、加熱された重質油流と比較して、減少した量のアスファルテン、硫黄、窒素又は金属含有物質及び増大したAPI比重を有するばかりでなく、実質的に全ての炭化水素分子の周りにかご効果のないプロセスと比較してコークスの形成の量が減少している。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、外部から供給される触媒又は外部から供給される水素源のない環境中で重質油をアップグレードする装置も提供する。その装置は、重質油導入ライン、給水導入ライン、酸化剤導入ライン、混合ゾーン、反応ゾーン、冷却ゾーン、圧力調節ゾーン、液体−ガス分離器、及び水−油分離器を含むことができる。該混合ゾーンは、重質油導入ラインと流動的に接続していて重質油を重質油導入ラインから受け取る操作ができる。該混合ゾーンは、又、該混合ゾーンが重質油を水と高温で組み合わせて重質油/水混合物を生み出す操作ができるように、給水導入ラインと流動的に接続していて水を給水導入ラインから受け取る操作ができる。該反応ゾーンは、混合ゾーン及び酸化剤導入ラインと流動的に接続されていて、重質油/水混合物及び酸化剤流を受け取る操作ができる。その主反応器は、少なくとも水の臨界温度の高さである温度に耐えて操作でき、同様に水の臨界圧力を上回る圧力に耐えて操作できる。その上、該反応ゾーンには、基本的に外部から提供される触媒がなく、基本的に外部から提供される水素源がない。該反応ゾーンは、内側部分を有する主反応器を含むことができる。該冷却ゾーンは、反応ゾーンを離れるアップグレードされた混合物の温度を下げる操作ができ、該圧力調節ゾーンは、該冷却ゾーンを離れるアップグレードされた混合物の圧力を下げる操作ができる。該液体−ガス分離器は、該圧力調節ゾーンと流動的に接続されていて、液体とガスとを分離して液体流及びガス流を生み出す操作ができる。該水−油分離器は、該液体−ガス分離器と流動的に接続されていて、該液体流を、回収された水流及びアップグレードされた炭化水素流とに分離する操作ができる。
【0027】
本発明の更なる実施形態において、該装置は、回収された水流によって水−油分離器に流動的に接続されている酸化反応器を含むこともできる。この酸化反応器は、回収された水流が再利用されて加熱された給水流と組み合わされる前に、回収された水流を洗浄する操作ができる。
【0028】
本発明の更なる実施形態において、該混合ゾーンは、T管継手を含む。別の実施形態において、該混合ゾーンは、好ましくはスティック型の超音波発生器、コイン型の超音波発生器、又はそれらの組合せである超音波発生器を含む。混合を引き起こすために超音波の手段を実施する実施形態において、その音波は、重質炭化水素分子の部分を破壊し、加熱された給水流との全体的な混合を改善し、本明細書ではサブミクロマルション(submicromulsion)と呼ばれるエマルションのような相を形成する。このサブミクロマルションは、1ミクロン未満の平均径を一般に有する油滴を含有し、該サブミクロマルションは、外部から提供される化学的乳化剤なしで生成させることができる。
【0029】
本発明のこれら及びその他の特徴、態様、及び利点は、以下の記述、特許請求の範囲、及び添付図面を参照することで、よりよく理解されるようになろう。しかしながら、該図面は、本発明のほんのいくつかの実施形態を説明しているのみであり、従って、本発明はその他の同様に効果的な実施形態につながり得るので、本発明の範囲を限定していると考えるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明をいくつかの実施形態と関連付けて説明するが、本発明をそれらの実施形態に限定しようとしているのではないことを理解されたい。それどころか、添付されている特許請求の範囲によって明確にされる本発明の精神及び範囲に含まれ得る全ての代替、改良及び均等物を対象とすることが意図されている。
【0032】
本発明は、重質油を、外部からの水素の供給又は外部からの触媒の供給なしで、より価値のある原油原料に変換するためのプロセスを提供する。本発明の実施形態において、本発明のプロセスは、加熱された重質油流と加熱された給水流とを一体的に混合して重質油/水混合物を生成させ、その後その重質油/水混合物を酸化剤流の存在下で反応ゾーン段階に曝してアップグレードされた混合物を形成するステップを含む。そのアップグレードされた混合物は、その後、アップグレードされた油流である最終生成物を集めるために、冷却、圧抜き及び分離段階に曝される。好ましくは、反応ゾーンからのアップグレードされた混合物中に含まれている熱エネルギーは、適切な節約用の機器を使用することによって任意の供給流を加熱するために利用することができる。分離段階から回収された水中に含まれている有機化合物は、再生利用するためのきれいな水を得るために、酸素を含有する化学種の存在下で高温の加圧水により十分に酸化させることができる。その酸化反応からの生成物流中に含まれている熱エネルギーは、上流の熱交換のために使用することもできる。
【0033】
高温の加圧水は、質量拡散、熱伝達、分子内又は分子間の水素転移、コークス生成を抑えるためのラジカル化合物の安定化、並びに不純物、例えば、硫黄、窒素及び金属を含有する分子などの除去を促進することを通して重質成分を低流動点及び低分子量の炭化水素にクラッキングするための反応媒体を提供する。不純物除去の正確なメカニズムは確認されてはいないが、その不純物は、アップグレードされた生成物のコークス、水又は重質留分中に濃縮されるようである。超臨界水の使用によって、これらの不純物は酸化され、又は他の形に変換され、その悪影響を回避することができる。
【0034】
超音波を利用する実施形態において、該超音波は、重質油/水混合物中に反響して油滴が実質的に分裂することを引き起こし、水と油の微液滴のサブミクロマルションをもたらし、そのため、油の微液滴は1ミクロン未満の平均直径を一般に有する。このサブミクロマルションは、そのサブミクロマルションが、重質分子と超臨界水との間の改良された接触を可能にし、それによって低価値のコークスの全般的な生成を減少させる故に、超臨界条件下で有利に反応する。加えて、超音波によって発せられるエネルギーのいくらかは、熱エネルギーに変換され、それは順にサブミクロマルションの温度が上昇することを引き起こし、それは、順に、水の臨界温度を超えて重質油/水混合物を加熱するためにより少ないエネルギーを必要とすることで有利である。混合ゾーン中で超音波を使用することは好ましい実施形態の例であるが、本発明はそのように限定されることを意味するものではない。
【0035】
図1は、本発明の1つの実施形態を示す。重質油はライン8により重質容器10中に供給され、そこでその重質油は、増大された圧力及び温度の下に置かれる。重質油容器10内の温度は、好ましくは10℃〜約250℃、より好ましくは、約50℃〜約200℃、最も好ましくは約100℃〜約175℃で、圧力は水の臨界圧力以上である。同様に、水は、ライン18により水容器20中に供給され、増大された圧力及び温度の下に置かれる。水容器20内の温度は、好ましくは250℃と650℃の間、より好ましくは約300℃と約550℃の間、最も好ましくは約400℃〜約550℃であり、圧力は水の臨界圧力以上である。その加熱された重質油流は混合ゾーン30へ行く途中、重質油導入ライン22を通って移動する。同様に加熱された給水流は、混合ゾーン30へ行く途中、給水導入ライン24を通って移動し、そこでその加熱された給水流は、加熱された重質油流と組み合わされる。これら2つの流れは、混合ゾーン30内で一体的に混合され、重質油/水混合物32として出て行く。1つの実施形態において、加熱された重質油流対加熱された供給水の体積流量の比率は約1対10である。別の実施形態において、加熱された重質油流対加熱された供給水の体積流量の比率は約1対5である。更に別の実施形態において、加熱された重質油流対加熱された供給水の体積流量の比率は約1対2である。
【0036】
1つの実施形態において、混合ゾーン30は、超音波発生器(図示せず)を含むことができるが、又一方、混合ゾーン30は、単純なT管継手又は重質油/水混合物32の混合を改良することができる任意のタイプの機械的混合装置でもあり得る。好ましい実施形態においては、重質油/水混合物32の流速は、重質油/水混合物32が乱流を経験し、それによって重質油/水混合物32中の油と水の混合を更に高めるように十分に高速である。
【0037】
酸化剤は、ライン38により酸化剤容器40中に供給され、そこでその酸化剤は、増大された圧力及び温度の下に置かれる。酸化剤容器40内の温度は、好ましくは250℃と650℃の間、より好ましくは約300℃〜約550℃、最も好ましくは約400℃〜約550℃であり、圧力は水の臨界圧力以上である。この加熱された酸化剤流は、酸素を含有する化学種及び水を含む。1つの実施形態において、この酸素を含有する化学種の濃度は、約0.1重量パーセント〜約75重量パーセントである。別の実施形態において、この酸素を含有する化学種の濃度は、約1重量パーセント〜約50重量パーセントである。更に別の実施形態において、この酸素を含有する化学種の濃度は、約5重量パーセント〜約10重量パーセントである。
【0038】
加熱された酸化剤流は、酸化剤導入ライン42を通って移動し、そこでその加熱された酸化剤流は重質油/水混合物32と組み合わされて反応混合物44を形成するか、又は重質油/水混合物32及び加熱された酸化剤流が別々の流れとして反応ゾーン50に入るように加熱された酸化剤流は随意的な酸化剤導入ライン42aを通って直接反応ゾーン50中に移動する。1つの実施形態において、該反応混合物は、酸素対石油の約200:1〜5:1の重量比を有することができる。別の実施形態において、該反応混合物は、酸素対石油の約20:1〜2:1の重量比を有することができる。好ましくは、反応混合物44を有する輸送ラインの部分は、反応ゾーン50に入る前の温度低下を避けるために十分に断熱されている。加えて、酸素を含有する化学種が過酸化物化合物である実施形態においては、酸化剤導入ラインは、過酸化物化合物が加熱された酸化剤流中で分解して酸素を発生するために十分に長い。
【0039】
反応ゾーン50内の圧力と温度は、水がその超臨界の形態に維持されることを確保するために、水の臨界圧力以上に維持され、好ましい実施形態において、該反応ゾーン内の温度は、約380℃〜約550℃、より好ましくは約390℃〜約550℃、最も好ましくは約400℃〜約450℃である。酸化剤、重質油及び超臨界水の組合せは、炭化水素がクラッキングを受けることをもたらし、それによってアップグレードされた混合物52を形成する。本発明の実施形態において、反応ゾーン50は、外部から提供される触媒が基本的になく、外部から提供される水素源が基本的にない。反応ゾーン50としては、円筒形の反応器、撹拌機を装着した容器タイプの反応器又は当技術分野で知られるその他のものを挙げることができる。反応ゾーン50は、水平型、垂直型又はその2つの組合せであり得る。
【0040】
アップグレードされた混合物52は、次に、任意の許容できる冷却の手段を用いる冷却ゾーン60中で冷却して冷却されたアップグレード混合物62を生成させる。好ましくは、冷却されたアップグレード混合物62は、約5℃〜約150℃、より好ましくは約10℃〜約100℃、最も好ましくは約25℃〜約70℃の範囲内の温度を有する。冷却されたアップグレード混合物62は、次に、圧力調節ゾーン70によって圧抜きし、減圧されたアップグレード混合物72を生成させる。好ましくは減圧されたアップグレード混合物72は、約0.1MPa〜約0.5MPa、より好ましくは0.1MPa〜約0.2MPaの圧力を有する。
【0041】
別の実施形態において、圧力調節ゾーン70は、平行様式で接続されている少なくとも2つの圧力調節バルブ、より好ましくは3つの圧力調節バルブ70a、70b、70cを含む。この配列は主要な調節バルブが詰まるようになった場合に連続した操業を有利に提供する。減圧されたアップグレード混合物72は、次に液体−ガス分離器80に入り、そこで減圧されたアップグレード混合物72は、ガス流82と液体流84とに分離される。液体流84は、次に油−水分離器90中に供給されてアップグレードされた油流92と回収された水流94とを産出する。別の実施形態においては、回収された水流94aは、好ましくは上流の混合ゾーン30であるプロセス中に戻して再生利用することができる。図示されていない更なる実施形態においては、液体−ガス分離器80及び油−水分離器90は、減圧されたアップグレード混合物72を別々のガス相、油相、及び水相に分離する操作が可能な3相分離器のような1つの装置に組み合わせることができる。
【0042】
本発明のプロセスは、本発明のプロセスを限定するものではない以下の例示的実施形態によって更に実証される。
【実施例】
【0043】
(例1)−3つの流れ全ての同時混合
全範囲のアラビア重質原油(AH)、脱イオン水(DW)、及び酸化剤流(OS)を、それぞれの計量ポンプにより約25MPaに加圧した。標準状態におけるAH及びDWの体積流量は、それぞれ3.06及び6.18ml/分であった。酸化剤流は水中に4.7重量パーセント酸素の酸素濃度を有した(例えば、89.95重量パーセントの水との10.05重量パーセントの過酸化水素)。過酸化水素は、ポンプにかける前に水に完全に溶解させた。酸化剤流の流速は、1.2ml/分であった。
【0044】
それらの流れは、個々の予熱器にかけた。AHは、150℃に予熱し、DWは、450℃に予熱し、OSは、450℃に予熱した。AH、DW及びOSは、0.125インチの内径を有する十字管継手を用いて組み合わせ、反応物の混合物を形成した。その反応物の混合物を次に反応ゾーンに供給した。その反応ゾーンは、200mlの内部体積を有し、垂直に向けられた主水熱反応器を含んだ。アップグレードされた混合物の温度を380℃に調整した。反応ゾーンを出るとすぐにそのアップグレードされた混合物は冷却機により60℃に冷却され、冷却されたアップグレード混合物を生成させた。冷却されたアップグレード混合物を背圧調圧弁により大気圧まで圧抜きした。生成物を、ガス相、油相及び水相生成物に分離した。全体の液体収率(油+水)は、12時間にわたるプロセスの操作後におよそ95重量パーセントであった。油相生成物を分析にかけた。表1は、全範囲のアラビア重質(AH)と最終生成物(石油製品)の代表的な特性を示している。
【0045】
(例2)−本発明の例示的実施形態
全範囲のアラビア重質原油(AH)、脱イオン水(DW)、及び酸化剤流(OS)を、それぞれの計量ポンプにより約25MPaに加圧した。標準状態におけるAH及びDWの体積流量は、それぞれ3.06及び6.18ml/分であった。酸化剤流は水中に4.7重量パーセント酸素の酸素濃度を有した(例えば、89.95重量パーセントの水との10.05重量パーセントの過酸化水素)。過酸化水素は、ポンプにかける前に水に完全に溶解させた。酸化剤流の流速は、1.2ml/分であった。
【0046】
それらの流れは、個々の予熱器にかけた。AHは、150℃に予熱し、DWは、450℃に予熱し、OSは、450℃に予熱した。AHとDWとは、0.125インチの内径を有するT管継手を用いて組み合わせて組み合わされた流れ(CS)を形成した。CSは、水の臨界温度より高い約377℃の温度を有した。OSを、一体化装置によってCSと一体化して反応物の混合物を形成した。その反応物の混合物を次に反応ゾーンに供給した。その反応ゾーンは、200mlの内部体積を有し、垂直に向けられた主水熱反応器を含んだ。アップグレードされた混合物の温度を380℃に調整した。反応ゾーンを出るとすぐにそのアップグレードされた混合物は冷却機により60℃に冷却され、冷却されたアップグレード混合物を生成させた。冷却されたアップグレード混合物を背圧調圧弁により大気圧まで圧抜きした。生成物を、ガス相、油相及び水相生成物に分離した。全体の液体収率(油+水)は、12時間にわたるプロセスの操作後におよそ100重量パーセントであった。油相生成物を分析にかけた。表1は、全範囲のアラビア重質(AH)と最終生成物(石油製品)の代表的な特性を示している。
【表1】
【0047】
現発明は、硫黄除去の増大、API比重の増大及びより低い蒸留温度などの改良を有利に提供する。更に、現発明は生成するコークスが意外なほど非常に少ない。1つの実施形態において、本発明は、従来技術におけるコークスのはるかに高いレベルと比較して、わずか1重量%のコークスを生成するのみであると考えられる。
【0048】
本発明をその特定の実施形態と共に説明してきたが、多くの代替形態、改良形態、及び変化形態が、前述の記載に照らして当業者には明らかであろう。従って、添付の特許請求の範囲の精神及びその広い範囲に含まれるかぎり、かかる代替形態、改良形態、及び変化形態の全てを包含することが意図されている。本発明は、開示された要素を適切に含み、それらからなり、又は本質的にそれらからなることができ、開示されていない要素なしでも実施することができる。