特許第5739989号(P5739989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5739989
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】光電気デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20150604BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150604BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   H05B33/26 Z
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-515287(P2013-515287)
(86)(22)【出願日】2011年6月17日
(65)【公表番号】特表2013-532365(P2013-532365A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】NL2011050438
(87)【国際公開番号】WO2011159160
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年5月30日
(31)【優先権主張番号】10166379.7
(32)【優先日】2010年6月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508353293
【氏名又は名称】ネーデルランツ オルガニサティー フォール トゥーゲパストナトゥールヴェテンシャッペリーク オンデルズーク テーエンオー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルメス,ドロテー クリスティネ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,ジョアンヌ サラ
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−213999(JP,A)
【文献】 特開2006−059796(JP,A)
【文献】 特開2004−281402(JP,A)
【文献】 特開2007−227129(JP,A)
【文献】 特開2007−095515(JP,A)
【文献】 特開2007−265756(JP,A)
【文献】 特開2005−244197(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0178722(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0273305(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0017375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/26
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OLED照明デバイスの製造方法であって、
−第1仕事関数を有する材料から成る第1電極層を設けるステップ(S1)と、
−前記第1電極層の上に有機光電気層を設けるステップ(S3)と、
−前記光電気層の上にパターン化導電層を印刷するステップ(S4)と、
−前記パターン化導電層が設けられた前記有機層の上に、前記第1電極の前記仕事関数より低い第2仕事関数を有する材料から成る透明な第2電極層を設けるステップ(S5)と、
−前記第1電極層を設けるステップの後で、しかし前記パターン化導電層を印刷するステップの前に、絶縁材料を、前記パターン化導電層によって形成されるパターンと少なくともほぼ共形のパターンで、局所的に堆積させるステップと、
をこの順番で含む方法。
【請求項2】
第1電極層を設けるステップ(S1)の後、かつ有機光電気層を設けるステップ(S3)の前に、正孔注入層(25)を設けるステップ(S2)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パターン化導電層はインクジェット印刷によって設けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パターン化導電層はスクリーン印刷によって設けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記光電気層の表面が表面エネルギー変性剤によって用意される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記パターン化導電層は、溶融金属または金属合金の印刷によって設けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記パターン化導電層は、金属粒子または有機金属錯体の懸濁液またはコロイド溶液の形態で設けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
−第1仕事関数を有する材料から成る第1電極層(20)と、
−前記第1電極層(20)の上の有機光電気層(30)と、
−前記光電気層(30)上に印刷されたパターン化導電層(40)と、
−前記パターン化導電層(40)を備えた前記光電気層(30)の上の、第2仕事関数を有する材料から成る透明な第2電極層(50)であって、前記第2電極の前記仕事関数は前記第1電極の前記仕事関数より低い値を有する、前記第2電極層(50)と、
−前記光電気層(30)と前記パターン化導電層(40)との間の、または前記第1電極層(20)と前記有機光電気層(30)との間の、前記パターン化導電層(40)と少なくともほぼ共形にパターン化された絶縁層(45)と、
を含む積層体を有するOLED照明装置。
【請求項9】
前記第1電極層は基板(10)上に形成される、または基板(20)を形成する、請求項8に記載のOLED照明装置。
【請求項10】
前記第1電極(20)と前記パターン化された絶縁層(45)との間に正孔注入層(25)が配置される、請求項8または9に記載のOLED照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電気デバイスに関する。
【0002】
本発明は、光電気デバイスの製造方法にさらに関する。
【背景技術】
【0003】
光電気デバイスとは、電気信号に応じて光学効果をもたらす、または光刺激に応じて電気信号を生成する、デバイスである。前者の例は、有機発光ダイオードなどの発光ダイオードである。今日では、電流を光子放射線に変換する各種の光活性材料が知られている。光活性材料は、一般的には、如何なる有機電界発光(「EL:electroluminescent」)材料でもよく、例えば、小分子有機蛍光性化合物類、蛍光性および燐光性金属錯体類、共役ポリマー類、およびこれらの組み合わせまたは混合物が挙げられるが、これだけに限定されるものではない。蛍光性化合物の例として、ピレン、ペリレン、ルブレン、クマリン、これらの誘導体、およびこれらの混合物が挙げられるが、これだけに限定されるものではない。金属錯体の例として、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物類;ペトロフ(Petrov)らの米国特許第6,670,645号、国際公開第03/063555号、および国際公開第2004/016710号に開示されているようにフェニルピリジン、フェニルキノリン、またはフェニルピリミジン配位子とイリジウムの錯体、および、例えば国際公開第03/008424号、国際公開第03/091688号、および国際公開第03/040257号に記載されている有機金属錯体類などのシクロメタル化イリジウムおよび白金の電界発光化合物類、およびこれらの混合物が挙げられるが、これだけに限定されるものではない。電荷キャリアホスト材料と金属錯体とを備えた電界発光放出層は、トンプソン(Thompson)らにより米国特許第6,303,238号に記載されており、またバロウズ(Burrows)とトンプソン(Thompson)によりPCT出願国際公開第00/70655号および国際公開第01/41512号に記載されている。共役ポリマーの例として、ポリ(フェニレンビニレン類)、ポリフルオレン類、ポリ(スピロビフルオレン類)、ポリチオフェン類、ポリ(p−フェニレン類)、これらの共重合体類が挙げられるが、これだけに限定されるものではなく、さらにこれらの組み合わせまたは混合物が挙げられる。特定の材料の選択は、具体的な用途、動作中に使用される電位、または他の要因に依存しうる。
【0004】
可撓性プラスチック基板上の大面積OLED照明には、システムを駆動するために大電流が必要とされる。半透明電極用に現在用いられている薄膜材料(例えばITO)は抵抗率が大きく、大電流は大幅な電圧降下を引き起こすため、結果として不均一な発光を招く。これら電極層の厚みを増すことによって電極層の導電率を向上させることも可能である。ただし、容認できない程に低い透明度を回避するために、透明電極層をあまり厚くすることはできない。透明電極は、そこに衝突した光子放射線のかなりの量、すなわち少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、を透過させる必要がある。この光子放射線は、デバイスの外側への伝達のために光電気層によってもたらされる光子放射線であるか、または光電気層への伝達のためにデバイスの外側からの光子放射線でありうる。
【0005】
したがって、大面積の可撓性OLEDデバイスをプラスチック基板上に作製するには、この透明電極を支持するための導電構造が必要になる。製造コストを削減するために、このような構成の金属被覆は、インラインロールツーロールウェブ塗工法を用いてプラスチック箔ロール上に塗布されることが好ましい。
【0006】
したがって、発光デバイスおよびエレクトロクロミックデバイスなどの光電気デバイスのためばかりでなく、光起電製品のためにも、一方では良好な導電率を有し、他方では放射線のための高透過率を有する金属被覆構造が必要とされる。
【0007】
国際公開第2007/036850号には、陽極層と、陰極層と、有機層とを有する有機ダイオード構造を備えた有機ダイオードデバイスが記載されている。この陽極層と陰極層のうちの少なくとも一方は、前記構造の一面全体にわたって分散された一連の接触領域を有する。前記構造は障壁層によって気密に覆われ、この障壁層は前記一連の接触領域と位置合わせされた一連の開口部を備える。前記障壁層の表面には金属導体が電気めっきされており、上記一連の開口部を介して一連の接触領域に接触する。
【0008】
電気めっきされた金属導体は陽極と陰極とをシャントし、これにより、大型の有機ダイオードデバイスの面積全体にわたって均一な電圧分布をもたらし、これにより、均一な輝度をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、光電気デバイスのより効率的な製造方法とより効率的に製造可能な光電気デバイスとを提供することである。
【0010】
本発明の第1態様によると、
−第1仕事関数を有する材料から成る第1電極層を設けるステップと、
−この第1電極層の上に有機光電気層を設けるステップと、
−この有機機能層にパターン化導電層を印刷するステップと、
−このパターン化導電層が設けられた有機層の上に、第1電極の仕事関数より低い第2仕事関数を有する材料から成る透明な第2電極層を設けるステップと、
をこの順番で含む光電気デバイスの製造方法が提供される。
【0011】
「この順番で(subsequent)」という表現は、これらのステップが提示された順番で実施されることを示す。ただし、互いに連続する2つのステップの間に他の1つ以上の追加ステップが介在してもよい。
【0012】
なお、欧州特許出願公開第0845924A2号は、正極と、負極と、この2つの電極の間に挟まれた有機発光層を含む有機層とを備えた透明な有機ELデバイスを開示している。この負極は電子注入電極層と非晶質透明導電膜とで構成され、電子注入電極層は有機層に隣接している。あるいは、この負極は電子注入電極層と、透明導電膜と、抵抗率が1×10−5Q.cm以下の金属薄膜とがこの順番で積層されて構成されており、電子注入電極層は有機層に隣接し、透明薄膜が負極の外側に形成されている。欧州特許出願公開第0845924A2号に参照符号6で示されている電子注入層は、島状の電子注入ゾーンである。ここで「島状」という表現は、有機層の上に形成された不連続の電子注入化合物層を複数備えた構造を示すことを意図している。したがって、この電子注入層は、導電材料で形成されたパターン化層であるが、複数の島状ゾーンに分割されているため、この電子注入層を導電層と見なすことはできない。
【0013】
本願明細書で使用される、所与の材料から成る「層」は、その材料から成る領域であって、その厚さがその長さおよび幅のどちらよりも小さい領域を含む。層の例として、薄板、箔、膜、層状組織、塗膜などが挙げられる。本願明細書で使用される層は、平面状である必要はなく、例えば別の構成要素を少なくとも部分的包むために、折り曲げることも、折り畳むことも、または別様の形状にすることもできる。本願明細書で使用される層は、複数の副層を含むこともできる。1つの層を複数の離散部分の集合で構成することもでき、例えば、個々の画素を含む複数の離散した活性領域から成る1つの層で構成することもできる。
【0014】
OLEDにおいては、より大きな仕事関数を有する電極は陽極として機能する。陽極は、正電荷担体を注入するために特に効率的な電極である。陽極は、例えば、金属、混合金属、合金、金属酸化物、または混合金属酸化物を含有する材料から製造することも、あるいは導電ポリマーおよびその混合物で製造することもできる。適した金属として、第11族の金属類、第4族、第5族、および第6族の金属類、および第8〜10族の遷移金属類が挙げられる。陽極を光透過性にする必要がある場合は、インジウムスズ酸化物など、第12族、第13族、および第14族の金属の混合金属酸化物が一般に用いられる。この陽極は、「溶解性導電ポリマーから製造された可撓性発光ダイオード(Flexible light−emitting diodes made from soluble conducting polymer)」ネイチャー(Nature)誌第357巻、p.477−479(1992年6月11日)に記載されているように、ポリアニリンなどの有機材料をさらに含みうる。生成された光の観察を可能にするために、陽極および陰極の少なくとも一方を少なくとも部分的に透明にする必要がある。透明電極がデバイスの基板に面する電極である場合は、この基板も透明にする必要がある。デバイス全体を透明にする必要がある場合は、デバイス内の各層と基板とを透明にする必要がある。
【0015】
OLEDにおいては、最も低い仕事関数を有する電極が陰極として機能する。本願明細書の文脈において、仕事関数が約4.4eV以下の材料は、低い仕事関数を有する材料と見なされる。そのために、金属類または非金属類が使用されうる。陰極層のための材料は、第1族のアルカリ金属類(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)、第2族の金属類(例えば、Mg、Ca、Ba、など)、第12族の金属類、ランタニド類(例えば、Ce、Sm、Eu、など)、およびアクチニド類(例えば、Th、U、など)から選択可能である。アルミニウム、銀、インジウム、イットリウム、およびこれらの組み合わせなどの材料も使用されうる。陰極層用の材料の非限定的な具体例として、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユウロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、サマリウム、およびこれらの合金および組み合わせが挙げられるが、これだけに限定されるものではない。陰極層は、複数の副層の組み合わせとして形成されてもよく、例えば光電気層側に面した厚さ約5nmのBa層と光電気層とは反対側に面した厚さが10〜400nmの範囲内のアルミニウム層との組み合わせとして形成されてもよい。
【0016】
特に、最も低い仕事関数を有する電極の存在は、デバイスの製造を複雑化する。その理由は、低い仕事関数を有する材料は、通常、大気中の酸素および水蒸気と素早く反応するため、結果として絶縁性になるからである。したがって、このような腐食を防止するために、調整された、すなわち不活性または真空の、環境において第2電極層を設ける必要がある。陰極層は、通常、化学または物理蒸着法によって形成される。同様に、実際には、以降の層および他の特徴も調整された環境において堆積させる必要がある。この理由は、この堆積された電極に直接、または既に堆積された層を介した拡散によって、酸素または水蒸気が到達しうるからである。
【0017】
本発明の第1態様による方法においては、パターン化導電層が印刷されてから透明電極が堆積されるので、パターン化導電層のために使用される堆積方法については、この点に関する制限はない。例えば、調整された環境でパターン化導電層を設ける必要はない。これは、大規模製造に適した、例えばロールツーロール処理に適した、堆積法の使用を容易にする。ロールツーロール法での使用に適した印刷方法の例として、インクジェット印刷およびスクリーン印刷が挙げられる。
【0018】
なお、欧州特許出願公開第331997号は、その背景となる従来技術の説明において、補助電極を印刷することを考えている。ただし、本発明と異なり、この補助層は、別個の透明導電膜に印刷される。その後、この電極が印刷された透明導電膜に電界発光層が接着される。改良点として、欧州特許出願公開第331997号は、積層工程を考えている。この工程においては、とりわけ発光層を有する連続ウェブの形態の基板と連続ウェブの形態の透明導電膜との間に導電性条片が積層され、補助電極は前記基板および前記透明導電膜の各々より狭い幅を有する。したがって、欧州特許出願公開第331997号は、第1電極の仕事関数より低い第2仕事関数を有する材料から成る透明な第2電極層がパターン化導電層の堆積によって損傷されることを回避するために、パターン化導電層が有機機能層上に印刷される光電気デバイスの製造方法を示唆していない。
【0019】
第1態様による本方法の一実施形態においては、インクジェット印刷が印刷方法として用いられる。
【0020】
パターン化導電層としてさまざまな材料を使用可能であり、これらの材料をそれぞれに応じて設けうる。
【0021】
パターン化導電層は、例えば、インクジェット印刷によって液体形態で塗布可能な金属または金属合金製でもよい。相対的に低い融点または溶融流跡を有する各種金属および金属合金を利用可能である。
【0022】
光電気デバイスが使用される温度範囲および光電気層が許容する温度範囲に応じて、当業者は多種多様な金属類および金属合金類からから最適な金属または金属合金を選択しうる。例えば、当業者は、例えば市販されている低価格の低融点金属類および金属合金類から選択しうる。これらは、例えばIn、Sn、Bi、Pb、Hg、Ga、およびCdから成る群から選択された元素を含みうる。広範囲の融点以外にも、前記金属類は、酸化に対する感受性、他の材料への接着、熱膨張係数、延性、寸法安定性、凝固および湿潤時の伸縮率など、他の重要な特性も広範囲に示す。毒性が重要な要素である用途においては、Sn:(50wt.%):Pb(32wt.%):Cd(18wt.%)合金など、HgまたはCdを含有する合金類は好ましくない。多少可撓性のあるELデバイスが必要な場合は、インジウム(融点157℃)または融点が100℃のSn(35.7wt.%):Bi(35.7wt.%):Pb(28.6wt.%)など、延性の低融点金属の使用が好適である。凝固によって生じる応力を最小化するには、凝固時に結晶性ドメインを形成せず、かつ収縮が少ない金属、例えば融点が138℃のBi(58wt.%):Sn(42wt.%)などが好適である。
【0023】
あるいは、金属粒子または有機金属錯体の懸濁液またはコロイド溶液の形態でパターン化導電層を塗布してもよい。同様に、この懸濁液またはコロイド溶液をインクジェット印刷によって塗布してもよい。
【0024】
必ず必要とは限らないが、印刷工程を容易にするために、印刷される懸濁液またはコロイド溶液を、例えば100℃と300℃の間の範囲に、加熱してもよい。
【0025】
補助導電条片を形成するために、銀、銅、白金、および/または金、あるいは有機金属錯体から作られたナノ粒子を懸濁液またはコロイド溶液内に使用してもよい。このナノ粒子は、直径が1nmと100nmの間であることが好ましい。金属粒子のサイズおよび性質によっては、使用するインクをコロイド溶液にすることもできる。その一例は、キャボット(Cabot)社(米国Cabot Printing Electronics and Displays)から提供されるエチレングリコール/エタノール混合物に溶解させた銀ナノ粒子分散液である。この銀インクは、粒子径が30乃至50nmの範囲内の銀ナノ粒子を20wt%含有する。このインクの粘度および表面張力は、それぞれ14.4mPa.sおよび31mNm−1である。
【0026】
あるいは、有機または水性溶剤内の金属錯体類を当該物質として使用してもよい。金属錯体類は、有機銀、銅、白金、または金錯体、あるいはこれら錯体の混合物を含みうる。例えば、溶剤類と銀アミド類との混合物を含む銀錯体インク、例えばインクテック(InkTec)社製のインク、を使用してもよい。銀アミドは、130〜150℃間の特定温度で銀原子と、揮発性アミンと、二酸化炭素とに分解する。これらの溶剤およびアミンが蒸発すると、銀原子が基板上に残る。例えば銅、ニッケル、亜鉛、コバルト、パラジウム、金、バナジウム、およびビスマス系の他の金属錯体を、銀の代わりに、あるいは組み合わせて、使用してもよい。
【0027】
例えば銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、コバルト、パラジウム、金、バナジウム、およびビスマス系の他の金属錯体を、銀の代わりに、あるいは組み合わせて、使用してもよい。ただし、特に適しているのは銀錯体、銅錯体、ニッケル錯体、アルミニウム錯体、またはこれらの混合物である。銀、銅、アルミニウム、およびニッケルは、優れた導体である。
【0028】
銅錯体系物質のいくつかの例を次の表に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
あるいは、パターン化導電層は導電ポリマー構造でもよい。このような構造は、例えば液体中に懸濁した、導電性ポリマー粒子を含む物質から形成可能である。導電ポリマーの例として、ポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)またはポリアニリン(PANI)がある。代わりに、導電ポリマーの前駆物質の粒子の懸濁液を含む物質を使用してもよい。ただし、一般には、この目的のためには、(例えば懸濁液の形態で堆積される)金属類またはこの合金類がより適している。その理由は、これら金属類またはこの合金類は、有機物質に比べ、相対的に良好な導電率を有するからである。
【0031】
さらに他の実施形態においては、パターン化導電層を形成するために、分子金属前駆物質、および/または導電性有機化合物、および/または導電性有機化合物の前駆物質を含む溶液を堆積させうる。
【0032】
一般的な平均粒径は、1nmと100μmの間、好ましくは1nm〜1μm、極めて好ましくは1nm〜100nm、特に好ましくは1nm〜50nm、の範囲内である。平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって求めることができる。極めて適しているのは、金属ナノ粒子である。その理由は、導電性表面パターンの形成を最小量の電磁エネルギーで可能にするからである。
【0033】
特定の一実施形態において、光電気層の表面が表面エネルギー変性剤を用いて用意される場合は、懸濁液またはコロイド溶液を幅狭の線構造に印刷しううる。懸濁液またはコロイド溶液が塗布される表面の表面エネルギーに応じて、30度乃至60度の範囲内の接触角が実現されうる。使用されるインクジェットプリンタは、1つの連続パターンに結合される複数の液滴の形態で印刷対象物質を噴出してもよく、あるいは印刷対象物質の連続ビームを表面上に印刷してもよい。一実施形態において、印刷工程は繰り返される。これにより、印刷されるパターンのアスペクト比(高さ/幅の比)を相対的に高くすることができる。
【0034】
第1態様による本方法の一実施形態は、絶縁材料を光電気層上に局所的に、パターン化導電層によって形成されるパターンと少なくともほぼ共形のパターンで、堆積させるステップをさらに含む。「少なくともほぼ共形の」という表現は、絶縁層のパターンがパターン化導電層のパターンと共形であること、あるいは絶縁層の特徴がパターン化導電層によって形成される特徴を越えて側方に延在すること、を意味するものと理解されたい。一般的に、これらパターンの特徴は線形であり、絶縁層の線形特徴は、パターン化導電層の線形特徴の幅の20%を超えて側方に延在すべきではない。この絶縁層はアクリレートなどの樹脂材料から形成されてもよく、インクジェット印刷またはスクリーン印刷など、パターン形成を可能にする手法を用いて堆積される。この材料の厚さは1μmと20μmの間でよく、堆積された陰極が堆積されたパターン化導電層と光電気層の両方に電気的に接触できるような断面形状を有する必要がある。
【0035】
あるいは、絶縁材料を局所的に、パターン化導電層によって形成されるパターンと少なくともほぼ共形のパターンで、堆積させるステップは、有機光電気層を第1電極層上に設けるステップに先行する。したがって、このようにして形成されるパターン化された電気絶縁層は、第1電極層と有機光電気層との間に配置される。
【0036】
光電気デバイスは、その用途に応じて、可撓性でも硬質でもよい。光電気デバイスは、湿気および酸素に対する保護をもたらす筐体内に配置されうる。この筐体は、ゲッター材料を備えうる。筐体がない場合、光電気デバイスは湿気および酸素に対する保護のための障壁層を1つ以上備えうる。
【0037】
障壁層は、一般的に複数の副層から成る積層体を備える。第1実施形態において、障壁層は、第1および第2無機層の間に挟まれた有機層を備えた積層体である。この積層体は、交互に重なった有機層と無機層とをさらに備えうる。有機層は、湿気ゲッターを備えうる。あるいは、障壁層は、異なる無機材料の層が交互に重なった積層体を備えうる。
【0038】
一部の実施形態において、光電気デバイスは、障壁機能を有する基板、例えばガラス製、またはアルミニウム製、またはステンレス鋼製の基板、上に設けられうる。
【0039】
第2態様によると、
−基板(10)上に堆積された、または基板(20)を形成する、第1仕事関数を有する材料から成る第1電極層(20)と、
−第1電極層の上の有機光電気層と、
−光電気層上のパターン化導電層と、
−パターン化導電層を備えた光電気層の上の、第2仕事関数を有する材料から成る透明な第2電極層であって、第2仕事関数は第1電極の仕事関数より低い値を有する、第2電極層と、
をこの順番で含む積層体を有する光電気デバイスが提供される。
【0040】
本発明による光電気デバイスにおいて、パターン化導電層は、光電気層と、より低い仕事関数を有する電極を形成する透明導電層との間に配置される。この光デバイスが基板を含む場合、相対的に低い仕事関数を有する材料から成る透明導電層は、実際には、基板の側とは反対の側に配置される。一実施形態においては、製造工程の完了後に、光電気デバイスを基板から取り外しうる。したがって、本発明の第2態様によるデバイスの光電気層が電界発光層(EL:Electroluminescent Layer)である場合、本発明によるデバイスは、いわゆるトップエミッション型OLEDである。しかしながら、本発明によるデバイスは、追加のパターン化導電層によってシャントされる透明な第1電極をさらに有しうる。
【0041】
本発明の第2態様による光電気デバイスは、本発明の第1態様による方法によって製造可能である。
【0042】
本発明による光電気デバイスにおいて、第1電極層は陽極を形成し、第2(透明)電極層は陰極を形成しうるが、あるいはこの逆も可能である。
【0043】
本デバイスは、必要であれば、緩衝材料を備えた緩衝層を1つ以上有しうる。用語「緩衝層」または「緩衝材料」は、有機電子デバイスにおいて、次に挙げる、ただしこれだけには限定されない、機能を1つ以上有しうる導電性または半導電性の材料を意味することを意図している。すなわち、下位層の平坦化、電荷輸送および/または電荷注入特性、酸素または金属イオンなど不純物の除去、および有機電子デバイスの性能の促進または向上のための他の諸相である。緩衝材料は、ポリマー類、オリゴマー類、または小分子類でもよく、溶液、分散液、懸濁液、乳濁液、コロイド状混合物、または他の組成物の形態でもよい。緩衝層は、ポリアニリン(PANI)またはポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などの高分子材料で形成可能である。これらの材料はプロトニック酸でドープされることが多い。プロトニック酸は、例えば、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ{2−アクリルアミド−2−メチル−l−プロパンスルホン酸)などにすることができる。緩衝層は、銅フタロシアニンおよびテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン系(TTF−TCNQ)などの電荷輸送化合物などを含むことができる。
【0044】
特に、第1電極層、光電気層、パターン化導電層、および透明な第2電極層に加え、本発明による光電気デバイスは、陽極を形成する電極層と光電気層との間に正孔注入および/または輸送層(HTL)を、および/または陰極を形成する電極層と光電気層との間に電子注入および/または輸送層(ETL)を、備えうる。電子輸送層が存在する場合は、電子輸送層と陰極との間にパターン化導電層が存在する必要がある。
【0045】
正孔輸送層のための正孔輸送材料の例は、例えば、Y.ワング(Wang)によりカークオスマー化学大辞典(Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)第4版、第18巻、p.837−860、1996年、にまとめられている。正孔輸送分子とポリマーの両方を使用できる。一般に使用される正孔輸送分子として、4,4’,4”−トリス(N,−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(TDATA);4,4’,4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(MTDATA);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD);1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC);N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD);テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA);a−フェニル−4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS);p−(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH);トリフェニルアミン(TPA);ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル](4−メチルフェニル)メタン(MPMP);1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP);1,2−トランス−ビス(9H−カルバゾール−9−yl)シクロブタン(DCZB);N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB);N,N’−ビス(ナフタレン−1−yl)−N,N’−ビス−(フェニル)ベンジジン(a−NPB);および銅フタロシアニンなどのポルフィリン化合物が挙げられるが、これだけに限定されるものではない。一般に使用される正孔輸送ポリマーとして、ポリ(9,9−ジオクチル−フルオレン−co−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン)など、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、ポリ(ジオキシチオフェン)、ポリアニリン、およびポリピロールが挙げられるが、これだけに限定されるものではない。別の例は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)である。上記のような正孔輸送分子をポリスチレンおよびポリカーボネートなどのポリマーにドープすることによって、正孔輸送ポリマーを得ることも可能である。
【0046】
電子輸送層は、電子輸送を容易にするために機能できるばかりでなく、層界面における励起子の消滅を防止するための閉じ込め層または緩衝層としても機能できる。この層は、電子移動度を高め、励起子の消滅を低減することが好ましい。任意使用の電子輸送層に使用可能な電子輸送材料の例として、トリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム(AIQ)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(BAIq)、テトラキス−(8−ヒドロキシキノレート)ハフニウム(HfQ)、およびテトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ジルコニウム(ZrQ)などの金属キノレート誘導体;および2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、および1,3,5−トリ(フェニル−2−ベンズイミダゾール)ベンゼン(TPBI)などのアゾール化合物;2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンなどのキノキサリン誘導体;4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DPA)および2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DDPA)などのフェナントロリン類;およびこれらの混合物を含む金属キレート化オキシノイド化合物が挙げられる。
【0047】
したがって、第2態様による光電気デバイスの一実施形態は、陽極層と、HTL(層)と、光電気層と、陰極とを含む一連の層を備える。別の実施形態は、陽極と、光電気層と、ETL(層)と、陰極とを備える。さらに別の実施形態は、陽極と、正孔輸送層と、光電気層と、ETL(層)と、陰極とを備える。
【0048】
図面を参照して上記および他の諸面をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の第2態様による光電気デバイスの第1実施形態を示す。
図1A図1のIAからの視点による前記実施形態の図を示す。
図1B】同じ視点による前記実施形態の第1変形例の一部を示す。
図1C】同じ視点による前記実施形態の第2変形例の一部を示す。
図1D】同じ視点による前記実施形態の第3変形例の一部を示す。
図1E】同じ視点による前記実施形態の第4変形例の一部を示す。
図1F】同じ視点による前記実施形態の第5変形例の一部を示す。
図2】本発明の第2態様による光電気デバイスの第2実施形態を示す。 図3A乃至3Fは本発明の第1態様による一方法の一実施形態を示す。
図3A】本方法の第1ステップ(S1)の結果を示す。
図3B】本方法の第2ステップ(S2)の結果を示す。
図3C】本方法の第3ステップ(S3)の結果を示す。
図3D】本方法の第4ステップ(S4)の結果を示す。
図3E】本方法の第5ステップ(S5)の結果を示す。
図3F】本方法の第6ステップ(S1)の結果を示す。
図4図3A〜3Fの方法により得られた一デバイスの写真を示す。
図5図3A〜3Fの方法により得られた別のデバイスの写真を示す。
図6】本発明の第2態様によるデバイスの一代替実施形態を示す。
図6A図6の詳細を示す。
図7】本発明の第2態様によるデバイスの別の代替実施形態を示す。
図7A】本発明の第2態様によるデバイスのさらに別の代替実施形態を示す。
図7B】本発明の第2態様によるデバイスのさらに別の代替実施形態を示す。
図7C】本発明の第2態様によるデバイスの別の代替実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下の詳細な説明においては、本発明を深く理解するために、具体的な詳細が多数示される。ただし、本発明はこれらの具体的な詳細がなくても実施されうることを当業者は理解するであろう。他の例においては、本発明の諸相が曖昧にならないように、周知の方法、手順、および構成要素は詳細に説明していない。
【0051】
各図面においては、明確にするために、層および領域のサイズおよび相対サイズが誇張されることもある。
【0052】
本願明細書では第1(first)、第2(second)、第3(third)、などの用語がさまざまな要素、部品、領域、層、および/または部分を説明するために使用されうるが、これらの要素、部品、領域、層、および/または部分はこれらの用語によって限定されるべきではないことを理解されるであろう。これらの用語は、1つの要素、部品、領域、層、または部分を別の領域、層、または部分から区別するためにのみ用いられている。したがって、以下に述べられている第1の要素、部品、領域、層、または部分は、本発明の教示内容から逸脱せずに、第2の要素、部品、領域、層、または部分と称することもできる。
【0053】
本願明細書においては、本発明の理想的な実施形態(および中間構造)の概略図である断面図を参照しながら本発明の複数の実施形態を説明する。したがって、例えば製造手法および/または許容誤差の結果として、これらの図の形状からの変形も予想される。したがって、本発明の各実施形態は、本願明細書に例示されている特定の領域形状に限定されると解釈されるべきではなく、例えば製造の結果としての形状の逸脱も含むものとする。
【0054】
特に定義されていない限り、本願明細書に用いられているあらゆる用語は(技術的および科学的用語も含め)、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。一般に用いられる辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈における意味と一致する意味を持つと解釈されるべきであり、本願明細書において明示的に定義されていない限り、理想化された、または過剰に正式な、意味に解釈されないことをさらに理解されるであろう。本願明細書で言及されているあらゆる刊行物、特許出願、特許、および他の参考資料は、参照によりその内容全体が本願明細書に組み込まれるものとする。矛盾が生じた場合は、定義を含め、本願明細書が優先される。また、各材料、各方法、および各例は、単に例示のためであり、限定を目的とするものではない。
【0055】
同様の要素は同様の参照符号を有する。
【0056】
図1は、本発明の第2態様による光電気デバイスの第1実施形態を模式的に示す。
【0057】
本電気光学デバイスは、
第1電極層20と、
第1電極層20の上の有機電気光学層30と、
電気光学層30の上のパターン化導電層40と、
パターン化導電層40を備えた電気光学層30の上の第2の透明電極層50と、
を備える。
【0058】
本電気光学デバイスは、基板10上に設けられる。基板10は、例えばガラス板などの硬質基板でもよい。あるいは、基板は可撓性基板でもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリーレート(PAR)、およびポリアミドイミド(PAI)などのポリマー製の基板でもよい。他の樹脂材料として、ポリシクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、塩化ビニール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、およびセルロース樹脂などが挙げられる。
【0059】
ポリマー基板は、障壁層を、例えば基板10と第1電極20との間に、備えることが好ましい。この障壁層は、例えば、互いに異なる無機層、例えば窒化ケイ素層と酸化ケイ素層、が交互に重ねられた一連の層を備える。あるいは、障壁層は、有機層によって互いに隔てられた少なくとも一対の無機層を備えうる。
【0060】
この場合、第1電極層20は陽極を形成し、陽極20と電気光学層との間に正孔注入層(PEDOT)25が配置される。陰極を形成する第2(透明)電極50の自由表面は、障壁層60によって覆われる。
【0061】
図1Aは、図1のIAからの視点によるパターン化導電層40の上面図を示す。明確にするために、基板10以外の部分は図示されていない。この実施形態において、パターン化導電層は六角形の迷路であり、開口部43を画成する細長い導電要素41を複数有する。
【0062】
ただし、他の実施形態も可能である。例えば、図1Bに示されているような矩形の迷路、図1Cに示されているような三角形の迷路、または図1Dによる八角形の迷路も可能である。あるいは、導電層は、図1Eに示されているように複数の平行線の形態にパターン化されてもよい。図1Fに示されているように、平行線のパターンを相対的に幅広の母線に結合してもよい。実際には、光子放射線を透過させるために、導電層40のパターンは一定間隔で離隔された複数の開口部43を含む。好ましくは、これら開口部は、パターン化導電層によって画成された一平面に延在する複数の細長い導電要素41によって取り囲まれ、前記平面における前記細長い導電要素の長さは、その幅の少なくとも10倍である。これらの導電要素は、例えばその幅の0.001乃至10倍の高さを有しうる。図1B図1C、および図1Dに示されているように、パターン化導電層40は、パターン化導電層40と外部導体との間の電気的接触を容易にもたらすために、複数の接触場44を有しうる。図1A乃至1Dに示されているように、実用的な一実施形態においては、細長い導電要素41は、約0.5乃至5mm、例えば約1mm、の長さを有しうる。図1Eおよび図1Fに示されている各実施形態においては、細長い導電要素41は本デバイスの全幅または全長にわたって延在し、例えば0.5mm乃至5mmの距離、例えば1mmの距離、互いに離隔されうる。各要素の幅は約50μmである。ただし、用途によっては、幅に別の値、例えば1乃至500μmの範囲内の値、を選択してもよい。通常、細長い導電要素の高さは数μmである。図1Fの実施形態においては、パターン化導電層40は母線42をさらに備える。
【0063】
図2は、本発明によるデバイスの一代替実施形態を示す。この例において、電極20は、金属箔、例えば厚さ0.1mmの鋼箔、の形態で実現される。電極として機能する金属箔は、湿気および酸素に対する障壁も提供する。必要であれば、本デバイスの側方を封止リング70で封止しうる。
【0064】
図3A乃至3Fは、本発明の第2態様による光電気デバイスの製造方法の一実施形態を示す。一例として、本方法は、図1に模式的に示されている、図1Fに示されているようにパターン化導電層40を有する光電気デバイスの製造に用いられる。
【0065】
図3A乃至3Fに示されている本方法の実施形態は、図3Aに示されている第1ステップS1を含む。このステップでは、電極20が厚さ約50μmのステンレス鋼箔の形態で設けられる。用途によっては、より薄い、例えば20μmの、金属箔、またはより厚い、例えば300μmの、金属箔が使用されうる。この場合、本デバイスは2×2cmのサイズを有する。電極20として機能するステンレス鋼箔は、デバイスの基板も形成し、湿気および酸素に対する障壁として機能する。別の実施形態において、本デバイスは、別個の基板、例えばガラス板の形態の硬質基板、またはポリマー箔、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)の箔、の形態の可撓性基板を備えうる。このポリマー箔に、例えば、異なる種類の一連の無機副層、または有機平坦化層で隔てられた複数の無機副層、を備えた障壁層を設けてもよい。
【0066】
本デバイスの効率を向上させるために、第2ステップS2においてスピンコーティングによって正孔注入層25が設けられる。この場合、正孔注入層は、10乃至500nmの範囲内、ここでは厚さ100nm、の厚さを有するポリエチレンジオキシチオフェン(pedot:polyethylene dioxythiophene)層である。
【0067】
図3Cは、第3ステップを示す。このステップでは、正孔注入層25が設けられた第1電極層20上に有機光電気層30、ここでは黄色のポリ(パラ−フェニレンビニレン)誘導体、がスピンコーティングによって堆積される。しかしながら、他のポリマーまたは小分子電界発光材料も電界発光層に使用されうる。有機光電気層30の厚さは、50乃至200nmの範囲内で変化させうる。本ケースにおいては、厚さは約100nmである。図3Dに示されている第4のステップS4において、パターン化導電層40が有機光電気層30上に堆積される。図1Fに示されているようにパターン化導電層40は、印刷法によって堆積される。
【0068】
そのために、エチレングリコール/エタノール混合物に溶解させた銀ナノ粒子分散液をキャボット(Cabot)社(米国Cabot Printing Electronics and Displays)から購入した。この銀インクは、粒子径が30乃至50nmにわたる銀ナノ粒子を20wt%含有する。このインクの粘度および表面張力は、それぞれ14.4mPa.sおよび31mNm−1であった。
【0069】
この銀ナノ粒子分散液を有機光電気層30にインクジェット印刷によって塗布した。この印刷には、10pLカートリッジ(DMC−11610)を装備した型式DimatixDMP2800の圧電インクジェットプリンタ(米国フジフィルム−ディマティックス社(Dimatix−Fujifilm Inc.))を用いた。そのプリントヘッドは、直径30μmの平行四辺形ノズルを16個含んでいる。この分散液の印刷には、カスタマイズされた波形(平均ノズル電圧28V、周波数20kHz、メニスカス設定点4インチH2O、印刷高さ0.5mm、滴下間隔20μm)が用いられた。線幅は値100μmに設定された。パターン化導電層40は、1mmの距離で互いに規則的に離隔された、互いに平行な一連の線の形態で印刷された。この印刷ステップは、大気条件下で実施された。
【0070】
図3Eに示されている第5ステップにおいて、パターン化導電層40が設けられた有機光電気層30層上に透明な第2電極層50が設けられる。この例示的実施形態における透明な第2電極層は、第1および第2副層を備える。第1副層は、有機光電気層に最も近く、バリウムによって形成され、厚さは5nmである。第2副層は、有機光電気層から相対的に離れており、ITOによって形成され、厚さは50乃至500nmである。他の実施形態においては、第1副層を、例えば厚さ5〜40nmの、MgAgで形成してもよい。代わりに、またはさらに、Li、銅フタロシアニン(CuPc)、LiF、Al、およびAgなど他の材料の他の副層を用いてもよい。ITO製の副層の代わりに、IZOなど別の透明金属酸化物をこの副層に使用してもよい。
【0071】
最後に、図3Fに示されているステップS6において、複数の副層(図示せず)を備えた障壁層60が透明電極層50の上に堆積される。
【0072】
さらに、湿気および/または酸素の側方拡散を防止するために、図2および図6に示されているように封止体70によって本デバイスを側方から封止してもよい。シーラントとしての使用に適した材料は、無機粒子が充填されたエポキシ樹脂またはアクリル樹脂である。あるいは、図7Aに示されているように、または金属基板10が第2障壁層として機能する図7Bに示されているように、これら障壁層が障壁層間の機能層を機能層を完全に封入するように、これら機能層の領域を越えて障壁層の延長部を設けることによって封止体を設けてもよい。
【0073】
図4は、図3A乃至3Fを参照して説明した方法によって得られたデバイスの写真を示す。
【0074】
図5は、図3A〜3Fの方法により得られた別のデバイスの写真を示す。このデバイスにおいても、基板は鋼箔であり、基板サイズは15×l5cmである。パターン化導電層40は、図1Aに示されているような六角形の迷路構造に形成される。このパターン化導電層40の迷路構造は、長さ約5mm、幅100μm、および高さ2μmの細長い要素を複数有する。
【0075】
図6は、本発明の第2態様による光電気デバイスの別の実施形態を示す。この実施形態において、本件と同一の出願人によって出願された欧州特許出願公開第2158176号に記載されているように、デバイスは、透明材料に埋め込まれたパターン化導電層の形態の別のシャント構造22を備える。この構造は、より詳細に図6Aに示されている。この図において、参照符号10は、ガラスまたはポリマー板などの透明基板を指している。
【0076】
図6Aに示されているように、この別のシャント構造22は、第1無機層221と、有機層222と、第2無機層223と、パターン化導電層224とを備えている。導電層224は、例えば図1A乃至1Fを参照して説明したように、パターン化されてもよい。
【0077】
図7は、本発明の第2態様による光電気デバイスのさらに別の実施形態を示す。この実施形態において、本デバイスは、パターン化導電層40のパターンと共形にパターン化された絶縁層45をさらに備える。パターン化された絶縁層45は、パターン化導電層40と光電気層30とを直接接触させないため、デバイス内の短絡防止に役立つ。パターン化された電気絶縁層45がパターン化導電層40を僅かに越えて側方に延在するように、パターン化された電気絶縁層45は、パターン化導電層40の線形特徴の幅より最大20%大きい幅の線形特徴を有しうる。
【0078】
図7の光電気デバイスは、図6および図6Aと同様の別のシャント構造22を有する。
【0079】
図7Aは、本発明の第2態様によるデバイスのさらに別の代替実施形態を示す。この別の代替実施形態において、障壁層60および21は、その間に配置される機能層22、25、30、40、45、50によって使用される領域を越えて延在する。これにより、障壁層21および60は、これらの機能層を完全に封入する。
【0080】
図7Bもまた、本発明の第2態様によるデバイスのさらに別の代替実施形態を示す。この別の代替実施形態において、障壁層60と、障壁層としても機能する金属基板10とは、その間に配置される機能層22、25、30、40、45、50によって使用される領域を越えて延在する。これにより、障壁層60と金属基板10とは、これらの機能層を完全に封入する。
【0081】
図7Cは、本発明の第2態様によるデバイスの別の代替実施形態を示す。図7Cに示されているデバイスも、絶縁材料を局所的に、パターン化導電層によって形成されるパターンと少なくともほぼ共形のパターンで、堆積させるステップを含む方法によって得られる。図7Aおよび図7Bの実施形態のように、このステップは、第1仕事関数を有する材料から成る第1電極層を設けるステップ(S1)の後に実施される。ただし、この実施形態においては、絶縁材料を局所的に、パターン化導電層によって形成されるパターンと少なくともほぼ共形のパターンで、堆積させるステップは、有機光電気層を第1電極層上に設けるステップに先行する。したがって、図7Cの実施形態においては、このように形成されるパターン化された電気絶縁層45は、第1電極層25と有機光電気層30との間に配置される。
【0082】
図7A図7Bの実施形態のように、パターン化された電気絶縁層45がパターン化導電層40を僅かに側方に越えて延在するように、パターン化された電気絶縁層45は、パターン化導電層40の線形特徴の幅より最大20%大きい幅を有する線形特徴を複数備えうる。
【0083】
図7A図7Bの実施形態のように、パターン化された電気絶縁層45は、パターン化導電層40と第1電極層25(例えばPEDOT層)との間の直接の電気的接触を防止する。パターン化された電気絶縁層45が無いと、パターン化導電層40の印刷時に導電材料を含む溶剤が有機光電気層30を通って局所的に漏出して短絡を引き起こす可能性がある。パターン化された電気絶縁層45は、この現象を防止する。
【0084】
本発明を図面および上記説明において例示し詳細に説明してきたが、このような例示および説明は説明および例示のためであり、制限するものではないと見なされるべきである。本発明は開示された実施形態に限定されるものではない。
【0085】
当業者は、これらの図面、開示、および添付の特許請求の範囲を検討することにより、開示された実施形態の他の変形例を理解し、特許請求された本発明の実施時に具体化できるであろう。
【0086】
例えば、本発明はOLEDの形態の電界発光デバイスに特に言及して説明されているが、本発明は、他の種類の電界発光デバイスにも適用可能である。同様に、本発明は、光起電力素子、エレクトロクロミック素子、およびディスプレイにも適用可能である。
【0087】
特許請求の範囲において、単語「備える/含む(comprising)」は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除するものではない。単一のプロセッサなどのユニットは、特許請求の範囲に記載されているいくつかの項目の機能を果たしうる。いくつかの措置が互いに異なる請求項に記載されているという単なる事実は、これらの措置の組み合わせを都合よく使用することができないことを示すものではない。特許請求の範囲における参照符号は、何れも範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5
図6
図6A
図7
図7A
図7B
図7C