特許第5740070号(P5740070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カルゴン カーボン コーポレーションの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740070
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】燃焼排ガスから水銀を取り除く吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20150604BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20150604BHJP
   B01J 20/12 20060101ALI20150604BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20150604BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   B01D53/34 136A
   B01J20/10 AZAB
   B01J20/10 D
   B01J20/12 C
   B01J20/18 B
   B01J20/20 B
   B01J20/12 A
   B01J20/10 C
   B01J20/18 E
   B01J20/20 D
【請求項の数】68
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-532246(P2012-532246)
(86)(22)【出願日】2010年9月28日
(65)【公表番号】特表2013-505832(P2013-505832A)
(43)【公表日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】US2010050598
(87)【国際公開番号】WO2011038415
(87)【国際公開日】20110331
【審査請求日】2013年9月3日
(31)【優先権主張番号】61/246,402
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/246,398
(32)【優先日】2009年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/349,332
(32)【優先日】2010年5月28日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594193793
【氏名又は名称】カルゴン カーボン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ポラック、ニコラス アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイデン、リチャード エー.
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−230810(JP,A)
【文献】 特表2008−537587(JP,A)
【文献】 特開2000−038589(JP,A)
【文献】 特表2005−524769(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/64
B01J 20/10
B01J 20/12
B01J 20/18
B01J 20/20
B01D 53/64
B01J 20/10
B01J 20/12
B01J 20/18
B01J 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガス流から水銀を除去するための、乾燥した物質的な粒子の混合物を有する組成物であって、前記粒子の混合物は多孔質吸着物質、ハロゲン化合物源、および窒素源を含み、前記粒子のそれぞれは平均直径12μm未満を有し、前記窒素源は酸化状態−3の窒素を有するものである、組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物において、前記窒素源はアンモニウム化合物、アミン、アミド、イミン、および第4級アンモニウム化合物から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項3】
請求項1記載の組成物において、前記粒子は平均直径7μm未満を有するものである、組成物。
【請求項4】
請求項1記載の組成物において、前記ハロゲン化合物源および前記窒素源は単一の試薬から提供されるものである、組成物。
【請求項5】
請求項1記載の組成物において、前記多孔質吸着物質は炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項6】
請求項1記載の組成物において、前記多孔質吸着物質は少なくとも300m/gの表面積を有するものである、組成物。
【請求項7】
請求項1記載の組成物において、前記組成物は前記組成物100グラムあたり0.15当量以上のハロゲン化合物濃度を有するものである、組成物。
【請求項8】
請求項1記載の組成物において、前記組成物は乾燥混合物である、組成物。
【請求項9】
請求項4記載の組成物において、前記粒子は7μm未満の平均直径を有し、前記単一の試薬はハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項10】
請求項4記載の組成物において、前記組成物の15重量%〜70重量%の濃度で、前記単一の試薬は臭化アンモニウムである、組成物。
【請求項11】
燃焼排ガス流から水銀を除去するための組成物であって、
多孔質水銀吸着物質と、
ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、ハロゲン化第4級アンモニウム、およびその組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの試薬との乾燥した物質的な混合物を有し、
前記多孔質水銀吸着物質および少なくとも1つの試薬のそれぞれは、個別に、12μm未満の平均粒子径を有するものである、組成物。
【請求項12】
請求項11記載の組成物において、前記組成物は平均粒子径10μm未満を有するものである、組成物。
【請求項13】
請求項11記載の組成物において、前記組成物は平均粒子径7μm未満を有するものである、組成物。
【請求項14】
請求項11記載の組成物において、前記多孔質水銀吸着物質は炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項15】
請求項11記載の組成物において、前記多孔質水銀吸着物質は少なくとも300m/gの表面積を有するものである、組成物。
【請求項16】
請求項11記載の組成物において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、疎水性強化試薬を有するものである、組成物。
【請求項17】
請求項16記載の組成物において、前記疎水性強化試薬は元素ハロゲン、フッ化塩、有機フッ素化合物、フッ素化ポリマー、およびその組み合わせから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項18】
請求項11記載の組成物において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、1若しくはそれ以上の酸化剤を有するものである、組成物。
【請求項19】
請求項18記載の組成物において、前記1若しくはそれ以上の酸化剤はハロゲン塩から選択されるものである、組成物。
【請求項20】
請求項18記載の組成物において、前記酸化剤は、前記組成物100グラムあたり0.15当量またはそれ以上を有するものである、組成物。
【請求項21】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は臭化アンモニウムである、組成物。
【請求項22】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の10重量%以上である、組成物。
【請求項23】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の15重量%以上である、組成物。
【請求項24】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の30重量%以上である、組成物。
【請求項25】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の15重量%〜70重量%である、組成物。
【請求項26】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の15重量%〜50重量%である、組成物。
【請求項27】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の20重量%〜50重量%である、組成物。
【請求項28】
請求項11記載の組成物において、前記少なくとも1つの試薬は前記組成物の20重量%〜40重量%である、組成物。
【請求項29】
請求項11記載の組成物において、前記組成物は乾燥混合物である、組成物。
【請求項30】
燃焼排ガス流から水銀を除去する吸着剤を調製する方法であって、多孔質水銀吸着物質と、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムから成る群から選択される少なくとも1つの試薬とを乾燥混合し、且つ同時粉砕する工程であって、12μm以下の平均粒径を有する乾燥混合物を生成するものである、前記乾燥混合し、且つ同時粉砕する工程を有するものである、方法。
【請求項31】
請求項30記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質および少なくとも1つの試薬は、前記混合物中で物理的に結合していないものである、方法。
【請求項32】
請求項30記載の方法において、前記混合物が平均粒子径10μm未満となるまで同時粉砕を行うものである、方法。
【請求項33】
請求項30記載の方法において、前記混合物が平均粒子径7μm未満となるまで同時粉砕を行うものである、方法。
【請求項34】
請求項30記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質は炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせから成る群から選択されるものである、方法。
【請求項35】
請求項30記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質は少なくとも300m/gの表面積を有するものである、方法。
【請求項36】
請求項30記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、疎水性強化試薬を有するものである、方法。
【請求項37】
請求項30記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、1若しくはそれ以上の酸化剤を有するものである、方法。
【請求項38】
請求項37記載の方法において、前記1若しくはそれ以上の酸化剤はハロゲン塩から選択されるものである、方法。
【請求項39】
請求項37記載の方法において、前記酸化剤は、前記混合物100グラムあたり0.15当量またはそれ以上を有するものである、方法。
【請求項40】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は臭化アンモニウムである、方法。
【請求項41】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の10重量%以上である、方法。
【請求項42】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の15重量%以上である、方法。
【請求項43】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記吸着剤の30重量%以上である、方法。
【請求項44】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の15重量%〜70重量%である、方法。
【請求項45】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の15重量%〜50重量%である、方法。
【請求項46】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の20重量%〜50重量%である、方法。
【請求項47】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は前記混合物の20重量%〜40重量%である、方法。
【請求項48】
請求項30記載の方法において、前記少なくとも1つの試薬は、前記混合物100グラムあたり0.15当量以上またはそれと同等を有するものである、方法。
【請求項49】
三酸化硫黄(SO)を含む燃焼排ガス流から水銀を除去する方法であって、前記燃焼排ガス流に、多孔質水銀吸着物質とハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムから成る群から選択される少なくとも1つの乾燥試薬との乾燥混合物を注入する工程を有し、前記乾燥混合物は12μm以下の平均粒子径を有するものである、方法。
【請求項50】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質と少なくとも1つの乾燥試薬とは混合され、前記燃焼排ガス流中に注入される前に乾燥混合物を生成するものである、方法。
【請求項51】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質と少なくとも1つの乾燥試薬とが前記燃焼排ガス流中に個別に注入されるものである、方法。
【請求項52】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は臭化アンモニウムである、方法。
【請求項53】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の10重量%以上である、方法。
【請求項54】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の15重量%以上である、方法。
【請求項55】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の30重量%以上である、方法。
【請求項56】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の15重量%〜70重量%である、方法。
【請求項57】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の15重量%〜50重量%である、方法。
【請求項58】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の20重量%〜50重量%である、方法。
【請求項59】
請求項49記載の方法において、前記少なくとも1つの乾燥試薬は前記乾燥混合物の20重量%〜40重量%である、方法。
【請求項60】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質は、炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせから成る群から選択されるものである、方法。
【請求項61】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質は少なくとも300m/gの表面積を有するものである、方法。
【請求項62】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、疎水性強化試薬を有するものである、方法。
【請求項63】
請求項62記載の方法において、前記疎水性強化試薬は、元素ハロゲン、フッ化塩、有機フッ素化合物、フッ素化ポリマー、およびその組み合わせから成る群から選択されるものである、方法。
【請求項64】
請求項49記載の方法において、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、1若しくはそれ以上の酸化剤を有するものである、方法。
【請求項65】
請求項64記載の方法において、前記1若しくはそれ以上の酸化剤はハロゲン塩である、方法。
【請求項66】
請求項64記載の方法において、前記酸化剤は、前記混合物100グラムあたり0.15当量またはそれ以上を有するものである、方法。
【請求項67】
請求項49記載の方法において、前記組成物は平均粒子径10μm未満を有するものである、方法。
【請求項68】
請求項49記載の方法において、前記組成物は平均粒子径7μm未満を有するものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願では、2009年9月28日に出願された表題「Sulfur−Tolerant Sorbent Compositions For Mercury Removal From Flue Gas」の米国暫定特許出願第61/246,402号、2009年9月28日に出願された表題「Novel Carbon Based Sorbents for High SO Applications」の米国暫定特許出願第61/246,398号、2010年5月28日に出願された表題「Sulfur−Tolerant Sorbent Compositions For Mercury Removal From Flue Gas」の米国暫定特許出願第61/349,332号の優先権の利益を請求するもので、この参照により内容全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
水銀は既知の環境危険であり、ヒトおよびヒト以外の動物種のいずれにも健康問題を引き起こす。米国では年間約50トンが大気中に放出され、放出される水銀のかなりの割合は電気公益事業などの石炭燃焼施設からの放出に由来する。市民の健康を守り、環境を保護するため、ユーティリティ産業はシステムを開発、検証、実行し、その工場からの水銀放出レベルを削減し続けている。炭素質材料の燃焼では、水銀および他の好ましくない化合物が大気中に放出されないように、燃焼段階後に捕捉および保持されるプロセスを有することが望ましい。
【0003】
燃焼排ガスから水銀を除去する最も有望な解決策の1つは、活性炭注入(ACI)である。活性炭は、容易に調達でき、高度に多孔質の非毒性材料であり、水銀蒸気に高い親和性を有する。この技術は、都市ごみ焼却炉で使用するため、すでに確立されている。前記ACI技術は水銀除去に効果的であるが、活性炭と燃焼排ガス流との接触時間が短いと、前記活性炭の全吸着能力が効率的に利用できない。水銀は、炭素が燃焼排ガス流に運ばれる間、ボイラーからのフライアッシュと一緒に吸着される。炭素およびフライアッシュは、電気集塵装置(ESP)またはバグハウスなどの微粒子捕捉装置によって取り除かれる。
【0004】
高濃度の硫黄酸化物を含む燃焼排ガス流では、活性炭の注入による水銀の除去は、炭素吸着剤に強く吸着される、三酸化硫黄などの硫黄化合物の選択的吸着および保持によって機能が低下することが多い。典型的な燃焼排ガス中の水銀に対する二酸化硫黄濃度は1,000,000:1以上である可能性があり、上記燃焼排ガス中の三酸化硫黄の濃度は1,000:1であることが多い。例えば、高濃度の硫黄燃焼排ガス流には容積あたり約50000万分の1体積分率(parts−per million per volume:ppmv)〜約2500ppmv以上の二酸化硫黄および約2ppmv〜約20ppmv以上の三酸化硫黄が含まれている可能性がある。燃焼排ガス中の水蒸気は、三酸化硫黄と結合し、炭素の細孔中に硫酸を生成し、水銀の吸着および除去を効率的に排除することで、問題をさらに大きくする。瀝青炭または瀝青炭と低級亜瀝青炭との混合物を燃焼する設備では、高レベルの硫黄酸化物、特に三酸化硫黄の存在が重大な問題となる可能性がある。
【0005】
石炭の燃焼中に生成した硫黄酸化物に加え、選択的接触還元(SCR)プロセス中にNOxの放出を制御するボイラー下流で三酸化硫黄が誤って生成することもあり、またはフライアッシュの捕捉に利用されるESP装置の性能を高めるため、三酸化硫黄が前記燃焼排ガスに加えられることもある。発生源にかかわらず、三酸化硫黄は発電所の性能と収益性に影響を与える水銀除去との干渉の範囲を超え、予期せぬ結果をもたらす可能性がある。これらの結果には、システムコンポーネントが腐食する、および煙突から放出された時点でのプルームの視界および持続期間が意図せず増加するなどの点がある。
【0006】
注入した水銀吸着剤による水銀除去と硫黄酸化物の干渉を防ぐため、先行技術による解決法が多数提案され、これらの方法では、気相において総硫黄酸化物レベルの全体的な減少が達成される。これらの解決法のほぼすべてが、前記硫黄酸化物と化学的に反応させることを目的とした、前記燃焼排ガスへのアルカリ性試薬または他の反応性試薬の大量注入に依存しており、気相で塩の微粒子を形成し、この段階は通常、前記吸着剤による水銀吸着に干渉しない。場合によっては、前記試薬が乾燥固体として注入され(乾式吸着剤注入法(DSI))、一方、他の方法では、前記試薬の水溶液が注入され、ダクト中では硫黄酸化物に向かう反応性がさらに高く、注入温度で急速に液化して非常に細かい乾燥粉末が生成する。例えば、自然に発生する炭酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムの混合物であるトロナは、乾燥反応体として燃焼排ガス流に注入した場合、硫黄酸化物の制御に効果的であることが分かった、市販されている物質である。
【0007】
酸化カルシウム(石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸カルシウム(石灰石)、炭酸マグネシウム(白雲石)、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、および炭酸ナトリウムなどの他のアルカリ性試薬も、硫黄酸化物の放出を制御するために利用されている。このような試薬の溶液注入は、化学的還元剤の亜硫酸水素ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムの水溶液を使用するCodanのSBS Injection(登録商標)技術に代表され、三酸化硫黄の除去をより選択的に効果的に行う。あるいは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、または水酸化ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウムの溶液も使用することができる。ただし、これらの物質および方法はすべて、効果的に制御するためには比較的大量の試薬を使用する必要があり、より重要なことには、水銀吸着剤の注入とは独立した別の注入システムを導入する必要があり、この用途の費用と複雑さが増すと言う点で、不利である。アルカリを主成分とした試薬の場合、その後、セメントおよびコンクリート産業に販売するために回収される、フライアッシュの性質に対するこのような物質の負の影響にさらに不利な点が認められる。この不利な点は、アルカリ土類を主成分とした試薬を使用することで回避することができるが、これらの試薬はESP抵抗性を意図せず増加させるが、アルカリを主成分とした試薬がESPの操作に与える影響は通常最小限である。
アルカリ性試薬または他のSOx反応性試薬を吸着剤自体の細孔構造に組み込んだ場合、目的は硫黄化合物を均一に除去することであり、そのような化合物存在下で水銀を除去することではなかった。活性炭およびSOx反応性試薬を吸着剤の実質に組み込んだ他の吸着剤については、他にも多数の例が報告されているが、水銀の除去を目的としていないため、水銀の除去技術を前進させる例はないように思われる、または、水銀の吸着に利用できる細孔構造の大部分が硫黄酸化物の除去を目的として優先的に構成されているため、好ましい解決策を提供する可能性は低い。
高濃度の硫黄酸化物、特に三酸化硫黄を含む燃焼排ガス流中の水銀を除去するため、効果的に水銀を除去する系のどこかにアルカリ性または他の反応性試薬を個別に注入することに依存せず、本質的には1回の注入で効果的な、乾式吸着剤組成物を提供する必要がある。そのようなアルカリ性または他の反応性試薬が乾燥吸着剤組成物の一部として使用される場合、さらに、吸着剤の注入ポイントで局所的に水銀の除去能力を高めるために必要と考えられる物質のみを使用することでバランスオブプラントの操作に対するこれらの試薬の影響を制限し、また、多孔質吸着剤実質への取り込みを防ぎ、水銀除去の機会を増加させる必要性がある。前記アルカリ性または他の反応性試薬の個別の注入がまだ必要と考えられる場合、効果的な水銀除去が行われ、バランスオブプラントの問題に対する影響が微々たるものであることと一致し、減量しなければ使用されないかもしれないそのような試薬の量を減少させることも必要である。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 米国特許第3,961,020号明細書
【特許文献2】 米国特許第4,174,373号明細書
【特許文献3】 米国特許第4,215,096号明細書
【特許文献4】 米国特許第6,126,910号明細書
【特許文献5】 米国特許第6,238,641号明細書
【特許文献6】 米国特許第6,514,906号明細書
【特許文献7】 米国特許第6,803,025号明細書
【特許文献8】 米国特許第7,722,843号明細書
【特許文献9】 米国特許出願公開第2005/0019240号明細書
【特許文献10】 米国特許出願公開第2007/0041885号明細書
【特許文献11】 米国特許出願公開第2007/0207923号明細書
【特許文献12】 米国特許出願公開第2007/0219404号明細書
【特許文献13】 米国特許出願公開第2007/0231230号明細書
【特許文献14】 米国特許出願公開第2008/0182747号明細書
【特許文献15】 米国特許出願公開第2009/0056538号明細書
【特許文献16】 米国特許出願公開第2009/0081092号明細書
【特許文献17】 米国特許出願公開第2009/0136401号明細書
【特許文献18】 米国特許第7,722,843号明細書
【特許文献19】 国際公開第2011/127323号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】 CAMPBELL,et al.,Mercury Control with Activated Carbon: Results from Plants with High SO3,Paper #08−A−174−Mega−AWMA,pp.1−17; Proceedings from the 2008 Power Plant Pollution Control"MEGA"Symposium,August 25−28,2008,Baltimore,Maryland
【非特許文献2】 JARVIS,et al.,SO3 Removal as a Mercury Control Strategy: Reducing SO3 helps control mercury emissions and can boost plant efficiency and decrease operating costs,Power Industry Services(2008),1−9
【非特許文献3】 LOONEY,et al.,Activated Carbon Injection with SO3 Flue Gas Conditioning Test at Gulf Power’s Mercury Research Center,Paper #78,pp.1−7; Proceedings from the 2008 Power Plant Pollution Control"MEGA"Symposium,August 25−28,2008,Baltimore,Maryland
【非特許文献4】 MACIAS−PEREZ,et al.,SO2 retention on CaO/activated carbon sorbents.Part II: Effect of the activated carbon support,Fuel(February 20,2008),87(12):2544−2550
【非特許文献5】 PRESTO,et al.,Further Investigation of the Impact of Sulfur Oxides on Mercury Capture by Activated Carbon,Ind.Eng.Chem.Res.(November 2,2007),46(24):8273−8276
【非特許文献6】 PRESTO,et al.,Impact of Sulfur Oxides on Mercury Capture by Activated Carbon,Environ Sci Technol.(September 15,2007),41(18):6579−6584
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
様々な実施例が多孔質吸着物質、ハロゲン供給源、窒素供給源などの組成物に関し、上述の窒素源は酸化状態が−3であり、12μm未満の粒径を有する上記組成物を有する。一部の実施形態では、前記窒素供給源をアンモニウム、アンモニア、アミン、アミド、イミン、第4級アンモニウムなどから成る群から選択することができ、他の実施形態では、前記組成物は平均粒径約7μm未満を有する。さらに他の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が臭化アンモニウムである。前記多孔質水銀吸着物質は、炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせのいずれかと考えられる。一部の実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質が少なくとも約300m/gの表面積を有し、他の実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質がさらに疎水性強化試薬を有する。特定の実施形態では、組成物のハロゲン化物濃度が前記組成物100グラム当たり0.15当量以上であり、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの試薬が前記組成物の約15wt.%〜約70wt.%であり、特定の実施形態では、前記組成物が乾燥混合物である。
【0011】
いくつかの実施形態は、多孔質水銀吸着物質の乾燥混合物、およびハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、ハロゲン化第4級アンモニウム、およびその組み合わせから成る群から選択される少なくとも1試薬を含む、燃焼排ガス流から水銀を除去するための吸着剤に関する。いくつかの実施形態では、前記乾燥混合物は平均粒径約12μm未満を有する。他の実施形態では、前記乾燥混合物が平均粒径約10μm未満を有し、さらに他の実施形態では、前記乾燥混合物が平均粒径約7μm未満を有する。
【0012】
前記実施形態の多孔質水銀吸着物質は炭素質チャー、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ粘土、またはその組み合わせとすることができ、一部の実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質の表面積は少なくとも約300m/gとすることができる。いくつかの実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、これに限定されるものではないが、元素ハロゲン、フッ化塩、有機フッ素化合物、フッ素化ポリマー、およびその組み合わせを含む疎水性強化試薬を含むことができる。他の実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質はさらに、これに限定されるものではないが、ハロゲン塩などの1若しくはそれ以上の酸化剤を含むことができ、一部の実施形態では、前記酸化剤を前記乾燥混合物100グラム当たり約0.15当量以上とすることができる。
【0013】
特定の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が臭化アンモニウムである。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物の約10wt.%以上である。他の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物の約15wt.%以上であり、さらに他の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記総吸着剤の約30wt.%以上である。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が記乾燥混合物の約15wt.%〜約70wt.%である。他の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物の約15wt.%〜約50wt.%であり、さらに他の実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥重量の約20wt.%〜約50wt.%である。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物の約20wt.%〜約40wt.%である。さらなる実施形態では、前記少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物100グラム当たり約0.15当量以上である。
【0014】
他の実施形態は、燃焼排ガス流から水銀を除去する吸着剤を調製する方法に関し、乾燥多孔質水銀吸着物質と、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムから成る群から選択された少なくとも1つの乾燥試薬を同時に粉砕し、平均粒径約12μm以下を有する乾燥混合物を生成させる段階を含み、特定の実施形態では、前記多孔質水銀吸着物質および少なくとも1つの試薬が前記乾燥混合物中で物理的に結合していない。一部の実施形態では、前記乾燥混合物が平均粒径約10μm未満になるまで同時粉砕を行い、他の実施形態では、前記乾燥混合物が平均粒径約7μm未満になるまで同時粉砕を行う。前記多孔質水銀吸着物質および様々な試薬は、上記実施形態で提供されたこれらの試薬のいずれとしてもよく、前記混合物には上述のとおり、いかなる量の前記成分も含むことができる。
【0015】
さらに他の実施形態には、三酸化硫黄(SO)を含む燃焼排ガス流から水銀を除去する方法を含み、この方法には、前記燃焼排ガス流に多孔質水銀吸着物質とハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムから成る群から選択された少なくとも1つの乾燥試薬の乾燥混合物を注入する段階が含まれ、前記乾燥混合物は平均粒径約12μm以下を有する。一部の実施形態では、前記乾燥多孔質水銀吸着物質および前記少なくとも1つの乾燥試薬を組み合わせ、前記燃焼排ガス流に注入する前に乾燥混合物を生成させ、他の実施形態では、前記乾燥多孔質水銀吸着物質および前記少なくとも1つの乾燥試薬を別々に前記燃焼排ガス流に注入する。前記多孔質水銀吸着物質および様々な試薬は、上記実施形態で説明されたこれらの試薬のいずれとしてもよく、前記混合物には上述のとおり、いかなる量の前記成分も含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本組成物および方法について説明する前に、記載された特定の工程、組成物、または方法論は変化する可能性があるため、本発明はこれらに限定されるものではないことは理解されるものとする。説明に使用される用語は特定の説明または実施形態のみを説明する目的で使用されており、添付の請求項によってのみ限定される、本発明の範囲を制限する意図はないことも理解されるものとする。他に定義のない限り、本明細書で用いたすべての技術および科学用語は、当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で説明されたものと同一または同等のいかなる方法および材料も、本発明の実施形態の実施または検証に用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料が今回説明される。本明細書に記載されたすべての出版物は、参照によって完全に組み込まれる。本明細書中に、本発明が先願発明に基づき、そのような開示に先行する権利はないことの承認として解釈される事項はない。
【0017】
本明細書および添付の請求項に用いる通り、内容ではっきりそうでないことを示していない限り、単数形の「a」、「an」、および「the」は複数の言及も含むことにも注意する必要がある。したがって、例えば、「a combustion chamber(燃焼室)」の言及は、「one or more combustion chambers(1若しくはそれ以上の燃焼室)」および当業者に周知のその同等物などの言及である。
【0018】
本明細書に用いる通り、「約」という用語は、使用される数値のプラスまたはマイナス10%を意味する。したがって、約50%は45〜55%の範囲を意味する。
【0019】
本発明の実施形態は、高濃度の酸性気体を含む燃焼排ガス流での水銀除去能力が向上した水銀吸着剤に関する。様々な実施形態において、前記水銀吸着剤に水銀吸着物質および酸性気体抑制剤を含めることができる。一部の実施形態では、前記水銀吸着物質が、前記吸着物質の疎水性を向上させる、1若しくはそれ以上の添加物を処理した炭素質チャーまたは活性炭などの吸着物質であり、他の実施形態では、前記水銀吸着物質に水銀吸着力を向上させる添加物が処理される。いくつかの実施形態では、酸性気体抑制剤は、例えば塩化水素(HCl)、フッ化水素酸(HF)、窒素酸化物種(NO)、または硫黄酸化物種(SO)などの酸性気体の非常に高い親和性、選択性、および急速な反応速度を有するすべての試薬とすることができる。いくつかの実施形態では、本発明の吸着剤は多孔質水銀吸着剤およびSO抑制剤を含むことができる。そのような吸着剤は、特に高濃度の硫黄酸化物種を含む燃焼排ガス流に注入した場合、吸着剤が追加された燃焼排ガス流中の水銀濃度を、水銀吸着物質単独よりも効果的に減少させることができる。
【0020】
一般に、活性炭などの水銀吸着物質は、高濃度の酸性気体、特にSOおよび/またはSOなどの硫黄酸化物種(SO)および他の酸性気体を有する燃焼排ガス流中では、炭素吸着水銀の除去効率が低い。三酸化硫黄SOは活性炭に強く吸着される。二酸化硫黄SOはそれほど強く吸着されないが、吸着剤表面に触媒部位があると、燃焼排ガス中の酸素によって三酸化硫黄に酸化される可能性がある。これらの硫黄酸化物の全体的な吸着効果は、前記燃焼排ガスからの水銀の吸着を阻害する、またはこれに強く干渉する。
【0021】
硫黄酸化物種の吸着は、水の存在下でさらに向上する可能性があり、水は一般的に燃焼排ガス中に存在する。したがって、吸着剤表面の特有の疎水性を向上させる、または吸湿への受容性を低くすることで、炭素表面における硫黄種の形成および保持を制限し、水銀を除去するための吸着細孔の容積をより多く保つことができる。したがって、本発明の様々な実施形態には、疎水性の水銀吸着物質を含む。本明細書で用いるとおり、「疎水性」は、溶質を水(または他の極性溶媒)から排除する力および表面または非極性溶媒中に集まる傾向を指す。一部の実施形態では、前記吸着剤の疎水性が前記吸着物質に対するSOの吸着抑制を亢進することがあり、他の実施形態では、水銀除去速度が硫黄酸化物の除去速度と比較して上昇するように、前記吸着物質の多孔質領域を処理する。
【0022】
様々な実施形態の吸着剤組成物の水銀吸着物質には、水銀に親和性を有するいかなる物質が含まれてもよい。例えば、一部の実施形態では、前記水銀吸着物質は、これに限定されるものではないが、活性炭、再活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、粘土、およびその組み合わせを含む、水銀に親和性を有する多孔質吸着剤とすることができ、特定の実施形態では、前記水銀吸着物質が活性炭である。
【0023】
前記水銀吸着物質はいかなる平均粒子経(MPD)を有していてもよい。例えば、一部の実施形態では、前記水銀吸着物質のMPDは約0.1μm〜約100μmであり、他の実施形態では、前記MPDは約1μm〜約30μmである。さらに他の実施形態では、前記水銀吸着物質のMPDが約15μm未満であり、一部の特定の実施形態では、前記MPDが約2μm〜約10μm、約4μm〜約8μm、または約5μmまたは約6μmである。特定の実施形態では、前記水銀吸着物質のMPDが約12μmであり、一部の実施形態では7μm未満であり、これは水銀酸化の選択性を向上させる可能性がある。
【0024】
様々な実施形態の水銀吸着物質は、固有の疎水性を有している。例えば、活性炭は水よりも有機溶媒に容易に溶ける程度に本質的に疎水性であるが、すべての活性炭は完全に疎水性ではなく、活性炭表面の特定の割合は部分的疎水性を示すことがある。一部の実施形態では、前記水銀吸着物質の調製に使用される原料を表面の炭素−酸素結合が少ない物質から選択することができ、この物質は炭素自己酸化の活性部位が少なく、二酸化硫黄から三酸化硫黄への酸化部位が少ない。そのような物質は、例えば、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,238,641号および第6,514,906号明細書で説明されるとおり、例えば過酸化物指数が高いことを利用して選択することができる。
【0025】
他の実施形態では、前記水銀吸着物質を、例えば、水の吸着および輸送、または同様の結果をもたらす吸着剤の他の処理を妨げる、1若しくはそれ以上の疎水性強化試薬を用い、前記吸着物質の疎水性を上昇させるために処理することができる。実施形態は、処理済み水銀吸着物質の種類または前記水銀吸着物質に疎水性強化試薬を処理した方法に限定されない。例えば、一部の実施形態では、前記水銀吸着物質を、前記表面と永久的な結合を形成することのできる、一定量の1若しくはそれ以上の元素ハロゲンで処理することができる。前記元素ハロゲンはフッ素(F)、塩素(Cl)、または臭素(Br)など、いずれのハロゲンであってもよく、いくつかの実施形態では、前記元素ハロゲンはフッ素(F)とすることができる。他の実施形態では、前記水銀吸着物質にフッ化塩、有機フッ素化合物、またはTEFLON(登録商標)などのフッ素化ポリマーなど、疎水性強化試薬を処理することができる。そのような実施形態では、有機フッ素化合物またはフッ素化ポリマーにより前記水銀吸着物質を粉砕することで、処理を完了することができる。さらに他の実施形態では、前記水銀吸着物質として使用される炭素吸着剤を、約400℃以上または600℃以上または800℃以上などの高温で、これに限定されるものではないが、塩酸、硝酸、ホウ酸、および硫酸などの鉱酸と処理することができる。前記酸の濃度は上記処理に重要なものではなく、1.0重量%以下の濃度を使用することができる。理論に縛られることは望まないが、そのような処理は疎水性を向上させ、酸素および水存在下での二酸化硫黄から三酸化硫黄への触媒的酸化の活性を低下させる可能性がある。上記処理の根拠は、接触pHが高いこと、および上記処理を行わなかった場合の同様の炭素と比較し、前記炭素のみの過酸化水素を分解する傾向が低下したことにみることができる。
【0026】
さらに他の実施形態では、上述の吸着物質のすべてを1若しくはそれ以上の水銀除去剤または水銀吸着を向上させる酸化剤で処理することができる。例えば、一部の実施形態では、前記水銀除去剤を、無機ハロゲン塩を含むハロゲン塩とすることができ、臭素には臭化物、臭素酸塩、および次亜臭素酸塩を含み、ヨウ素にはヨウ化物、ヨウ素酸塩、および次亜ヨウ素酸塩を含み、塩素は塩化物、塩素酸塩、および次亜塩素酸塩とすることができる。いくつかの実施形態では、前記無機ハロゲン塩が、ハロゲン塩を含むアルカリ金属またはアルカリ土類元素であり、前記無機ハロゲン塩はリチウム、ナトリウム、およびカリウムなどのアルカリ金属、またはマグネシウム、およびカルシウム対イオンなどのアルカリ土類元素と結合している。アルカリ金属およびアルカリ土類金属対イオンを含む無機ハロゲン塩の限定されない例には、次亜塩素酸カルシウム、次亜臭素酸カルシウム、次亜ヨウ素酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、三塩化カリウム、三臭化カリウム、三ヨウ化カリウムなどを含む。特定の実施形態では、前記ハロゲン塩は臭化カルシウム(CaBr)などの臭素塩とすることができる。そのような実施形態では、前記酸化剤の含有量が吸着物質100グラムあたり約0.15当量以上であり、酸化剤1当量は、酸化還元反応で1モルの電子と反応するために必要な量として定義される。
【0027】
様々な実施形態において、ハロゲン塩または他の水銀除去剤による前記水銀吸着物質の処理は、前記水銀吸着物質をハロゲン塩または他の水銀除去剤で粉砕することにより行うことができる。例えば、一部の実施形態では、ハロゲン化物塩で活性炭をMPD約10μm未満または約7μm未満に同時粉砕することにより、三酸化硫黄吸着での水銀吸着の選択性が向上する可能性がある。理論に縛られることは望まないが、前記ハロゲン化物は前記水銀を効率的に酸化し、アルカリ度は前記三酸化硫黄の吸着を阻害するため、MPDが小さいと水銀吸着の選択性が改善する可能性がある。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態には、ハロゲン塩または他の水銀除去剤および有機フッ素化合物またはフッ素化ポリマーにより前記吸着物質を粉砕することにより、吸着物質を処理する方法が含まれる。例えば、一部の実施形態では、前記水銀吸着物質をハロゲン塩または他の水銀除去剤および有機フッ素化合物またはフッ素化ポリマーなどの固体疎水性強化試薬の両方により処理し、そのような実施形態では、前記吸着物質を両試薬で同時に粉砕する。
【0029】
一部の実施形態では、水銀除去は、上述の吸着物質を高い親和性、高い選択性を有し、酸性気体除去速度の速い、1若しくはそれ以上の第2試薬と混合することでさらに強化することができ、前記第2試薬は、本明細書において「酸性気体抑制剤(acid gas suppression agentsまたはacid gas suppressors)」と総称される。一部の実施形態では、前記酸性気体試薬は前記吸着物質自体の中に物理的に取り込むことはできない。むしろ、前記酸性気体試薬は、前記吸着物質と混合される水銀吸着剤の別の成分として提供することができ、したがって、水銀の反応および吸着が行われる最大孔隙を前記吸着物質で維持することができる。いくつかの実施形態では、前記酸性気体抑制剤は本明細書で「SO抑制剤(SO suppression agentsまたはSO suppressors)」と呼ばれる組成物など、硫黄反応種に対する高い親和性、高い選択性を有し、速度が速い。そのため、得られた水銀吸着剤には、吸着物質および1若しくはそれ以上のSO抑制剤が含まれる。当該分野で既知のいかなるタイプのSO抑制剤も、様々な実施形態の水銀吸着剤に使用することができる。例えば、前記SO抑制剤は酸化剤、アルカリ性剤、アルカリ度および酸化能力を有する二元機能試薬、または硫黄酸化物を特異的に吸着するように処理された吸着剤とすることができる。
【0030】
一部の実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤はアルカリ性剤である。多数のアルカリ性剤が当該分野で知られており、現在、燃焼排ガスから硫黄酸化物種を除去するために利用されており、そのようなアルカリ性剤を本発明でも使用することができる。例えば、様々な実施形態において、前記アルカリ性添加物はアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、およびその組み合わせとすることができ、いくつかの実施形態では、前記アルカリ性添加物は炭酸カルシウム(CaCO、石灰石)、酸化カルシウム(CaO、石灰)、水酸化カルシウム(Ca(OH)、消石灰)、炭酸マグネシウム(MgCO、白雲石)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、セスキ炭酸ナトリウム二水和物(NaH(CO・2HO、トロナ)、およびその組み合わせとすることができる。様々な実施形態において、前記アルカリ性剤は吸着物質100グラムあたり約0.15当量以上の濃度で提供することができ、前記アルカリ性剤1当量は水酸基イオン1モルを生成する、または水素イオン1モルと反応させるために必要な量と定義される。特定の実施形態において、そのようなアルカリ性剤は、例えば、純物質で100m/g超など、比較的表面積が大きい。表面積が大きな物質は、酸性気体またはSO軽減の速度および能力を改善するが、元素水銀を酸化するため、ハロゲン化合物および他の追加酸化剤を補足する。アルカリ性試薬は極性の高い物質であり、水と関連および結合することができるため、様々な実施形態において、アルカリ性剤は物理的混合物として一次水銀吸着剤と結合し、前記吸着剤表面に存在するか、吸着剤の細孔構造の中に入っている可能性がある。
【0031】
さらなる実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤が、同一試薬に酸性気体吸着能力と水銀酸化活性の両方を有する二元機能試薬である。一部の実施形態では、前記二元機能試薬が酸化成分とアルカリ性成分を有する易解離性添加物である。そのような試薬の例には、非金属カチオンおよびハロゲン化物が含まれる。一部の実施形態では、そのような成分にハロゲン化物および酸化状態−3の窒素供給源が含まれる。様々な上記窒素供給源は当該分野で既知であり、例えば、アンモニウム、アンモニア、アミン、アミド、イミン、第4級アンモニウムなどが含まれる可能性がある。いくつかの実施形態において、前記試薬は例えば、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウム、または塩化アンモニウムなどのハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、ハロゲン化第4級アンモニウム、または有機ハロゲン化物およびその組み合わせである。これらの試薬は多孔質水銀吸着剤と組み合わせ、本発明の組成物および吸着剤を提供することができる。
【0032】
そのような実施形態において、例えば、臭化アンモニウム(NHBr)などのハロゲン化アンモニウムは前記燃焼排ガス流中の硫黄酸化物と反応させ、硫酸アンモニウム((NHSO)または亜硫酸アンモニウム((NHSO)と遊離臭素を生成することができる。この反応で遊離された臭素はあまり活性炭に吸着されず、前記燃焼排ガス中の水銀の酸化に利用することができ、吸着物質に容易に吸着されるが、ディーコン反応による反応など、二次的な酸化経路も進行する可能性がある。理論に縛られることは望まないが、これらの二元機能添加物は、一般に水銀吸着剤(水銀の酸化のみを目的として提供される)とともに提供される、アルカリまたはアルカリ土類金属のハロゲン化物塩と比較して蒸気圧が高く、熱分解温度が低い。したがって、前記二元機能添加物は効果的な水銀酸化を提供し、それと共に、SO抑制および三酸化硫黄吸着の速度が向上する。
【0033】
酸性気体または二元機能試薬を有するSO抑制剤は、当該分野で既知のいかなる方法によっても調製することができる。例えば、一部の実施形態では、1若しくはそれ以上のハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、またはハロゲン化第4級アンモニウムを個別に調製し、二元機能試薬が前記吸着剤に含浸、結合できない条件下、水銀吸着剤と組み合わせるか、例えば活性炭などの吸着物質と組み合わせることができる。他の実施形態では、化合物を含むアンモニウム、アミン、または第4級アンモニウムは、元素ハロゲンまたは分解性ハロゲン化合物と同時に吸着物質と組み合わせることができる。特定の実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤に、純物質の表面積約50m/g以上または約100m/g以上を有する二元機能試薬を含めることができる。特定の実施形態では、前記二元機能試薬が、酸化剤またはアルカリ性の寄与に基づき、吸着物質100グラムあたり約0.15当量以上の濃度で提供される。様々な実施形態において、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、またはハロゲン化第4級アンモニウムなどの二元機能試薬は、乾燥物理的混合物として一次水銀吸着剤と組み合わせ、吸着剤表面に存在することはない、または吸着剤の細孔構造内に含まれることはない。
【0034】
前記酸性気体またはSO抑制剤は、塩酸、フッ酸、窒素酸化物種、または二酸化硫黄および三酸化硫黄などの酸性気体の前記吸着物質への吸着を抑制するため、様々な実施形態の水銀吸着剤に提供され、前記吸着物質への水銀の吸着を抑制する。前記吸着物質および前記酸性気体またはSO抑制剤はいかなる比率でも組み合わせることができ、十分に水銀を除去しながら、酸性気体およびSO種を抑制する。例えば、一部の実施形態では、前記吸着物質と酸性気体またはSO抑制剤との比が約1:1、約1:5、約1:10、約1:25、約1:50、約75:1、または約1:100である。他の実施形態では、前記吸着物質と酸性気体またはSO抑制剤との比が約5:1、約10:1、約25:1、約50:1、約75:1、または約100:1である。他の実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤が吸着剤全体の約10wt.%以上または約15wt.%以上を構成し、さらに他の実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤が吸着剤全体の約30wt.%以上、40wt.%以上、50wt.%以上、60wt.%以上、または70wt.%以上を構成する。他の実施形態では、前記二元機能試薬を、例えばハロゲン化物塩、ハロゲン化金属塩、アルカリ性剤などの他の試薬と組み合わせ、本発明に含まれる組成物または吸着剤を調製することができる。
【0035】
特定の実施形態では、前記吸着剤が活性炭または処理済み活性炭などの水銀吸着物質、およびハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、または例えば臭化アンモニウムなどのハロゲン化第4級アンモニウムなどの試薬を含む。そのような実施形態の一部において、前記臭化アンモニウムは、吸着剤全体の約10wt.%以上または約15wt.%以上、約20wt.%以上、約25wt.%以上、約30wt.%以上、約40wt.%以上で提供される。他の実施形態において、前記吸着剤は約10wt.%〜約70wt.%、約10wt.%〜約60wt.%、または約10wt.%〜約50wt.%のSO抑制、または約15wt.%〜約70wt.%、約15wt.%〜約60wt.%、または約15wt.%〜約50wt.%のSO抑制剤、または約20wt.%〜約70wt.%、約20wt.%〜約60wt.%、または約20wt.%〜約50wt.%のSO抑制剤を含む。理論に縛られることは望まないが、酸性気体およびSO抑制が改善すれば、前記水銀吸着剤による水銀吸着が改善する可能性があり、前記酸性気体およびSO抑制剤、特にハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、または例えば臭化アンモニウムなどのハロゲン化第4級アンモニウムの濃度が高くなれば、現在利用できる吸着剤よりも水銀吸着が改善し、それによって、例えば活性炭含有量が低いが、活性炭含有量が高い吸着剤と同様の効率で燃焼排ガス流から水銀を除去できる水銀吸着剤を提供することができる。活性炭含有量が低い吸着剤は、例えばセメント製造などで使用すると、安定性を改善することができる。
【0036】
上述の様々な実施形態の組成物により、より高い割合で活性ハロゲン化物およびアルカリ性試薬を注入済みの吸着剤に含めることができる。前記添加物、例えば市販の臭化炭素吸着剤の水溶液で処理することにより、添加剤を含浸させた水銀吸着剤、特に元素臭素を含浸させた水銀吸着剤は、前記吸着剤表面に保持できる添加物の割合がわずかしかなく、含浸させると多孔質水銀吸着剤の細孔を詰まらせ、水銀吸着に利用できる表面積が減少する傾向がある。これに対し、乾燥混合物中の活性ハロゲン化物および酸性気体またはSO抑制剤の割合は、約10wt.%以上、約15wt.%以上、約20wt.%以上、または約30wt.%以上、および約50wt.%まで、約60wt.%まで、または約70wt.%までとすることができ、この割合では水銀吸着効率の低下は示されない。
【0037】
さらに、様々な実施形態の吸着剤は、現在利用できる含浸吸着剤よりも製造、保存、および注入中の安定性が改善を示した。例えば、本明細書で説明された酸性気体またはSO抑制剤のいずれかを用い、平均粒径約15μmまたは20μm未満の酸性気体またはSO抑制剤を生成することは困難である。さらに、すべての前記酸性気体またはSO抑制剤はやや吸湿性であり、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、またはハロゲン化第4級アンモニウムの酸性気体またはSO抑制剤は容易に水を吸着する。急速に水分が取り込まれるとかなり再凝集するため、平均粒径約15μm未満で酸性気体またはSO抑制剤を管理することは困難である。理論に縛られることは望まないが、前記水銀吸着剤が分離体として作用し、乾燥剤と競合することで前記乾燥混合物中の水分量が減少し、平均粒径12μm未満の酸性気体またはSO抑制剤の長期的な保存および管理が可能となった結果、再凝集は抑制される可能性がある。粒径の減少によっても運動がより急速で選択的となり、相乗作用が改善する可能性がある。
【0038】
さらに、10wt%超15wt%未満の元素臭素の負荷では、周囲条件での平衡蒸気相濃度は安全な許容限界値(0.66mg/m TWA、2.0mg/m STEL)を超えて上昇する可能性があり、取り扱いおよび使用上の問題が生じ、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、またはハロゲン化第4級アンモニウムなどのSO抑制剤は防火特性を提供し、吸着剤を含む金属ハロゲン化物が関連した自己発熱および燃焼を抑制するが、この場合、前記金属カチオンが前記炭素の酸化を触媒する可能性がある。
【0039】
前記吸着物質および前記SO抑制剤は、いかなる方法でも組み合わせることができる。例えば、一部の実施形態では、前記物質を、次に燃焼排ガス流に注入することのできる単一の水銀吸着剤に混合することにより、前記吸着物質および前記SO抑制剤を組み合わせる。他の実施形態では、前記吸着物質および前記SO抑制剤を別の容器に入れ、同時に燃焼排ガス流に注入できるように、使用中に混合することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、前記吸着物質および前記SO抑制剤を同時に粉砕することができる。例えば、様々な実施形態において、多孔質吸着物質および酸性気体またはSO抑制剤を組み合わせ、同時粉砕するか、または、ほぼ同じ粒子サイズ分布に選別し、一部の実施形態では、平均粒子径を約12μm以下または約10μm以下、または約7μm未満とすることができる。理論に縛られることは望まないが、前記吸着剤の平均粒子径を減少させ、前記吸着剤に加えた局所酸性気体またはSO抑制剤と組み合わせるが、前記吸着剤の細孔構造に含まれないことは、三酸化硫黄濃度が前記燃焼排ガス流の水銀濃度よりも高い桁数であるにもかかわらず、迅速で選択的な水銀吸着を促す上で、驚くほど効果的であることが分かった。この効果は、前記吸着剤の全成分を組み合わせ、同時粉砕するか、そうでない場合は平均粒子径約12μm以下に選別する場合に特に有効であることが示された。同時粉砕はいかなる方法でも実行することができる。例えば、様々な実施形態において、前記同時粉砕は、皿形粉砕、ローラーミル、ボールミル、ジェットミル、または他のミル、または乾燥固体の粒子サイズを減少させる、当業者に既知のいかなる粉砕装置を用いても実行することができる。
【0041】
そのような実施形態の吸着剤には、上述のすべての吸着物質、上述のすべての添加物、および上述のすべての酸性気体またはSO抑制剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、前記吸着物質を活性炭または再活性炭とすることができる。一部の実施形態では、前記添加物が、ハロゲン化合物など、ガス流中の元素水銀の急速な付随的酸化を提供し、特定の実施形態では、前記ハロゲン化合物がアルカリまたはアルカリ土類金属類似体よりも高い温度でより不安定となる可能性がある。いくつかの実施形態では、前記SO抑制剤が二元機能試薬であり、例えば、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化アミン、およびハロゲン化第4級アンモニウムなど、酸化およびアルカリ性の両方を提供する。
【0042】
さらなる実施形態は、水銀吸着物質および酸性気体またはSO抑制剤を含む水銀吸着剤を燃焼排ガス流に注入することで、燃焼排ガスから水銀を除去する方法に関する。そのような組成物はSO、および特にSO濃度が高い燃焼排ガス流において特に効果的であるが、本明細書に示した吸着剤は、SO濃度とは無関係に、いかなる燃焼排ガス流の水銀を吸着させるためにも利用することができる。例えば、様々な実施形態の吸着剤も燃焼排ガス流に利用することができ、燃焼排ガス流はSO含有量がまったくないか非常に低い、または燃焼排ガス流にHCl、HF、またはNO種などの他の酸性気体が高濃度で含まれることがある。一部の実施形態において、前記水銀吸着物質と前記酸性気体またはSO抑制剤は、例えば、前記水銀吸着物質と前記酸性気体またはSO抑制剤を混合することにより、前記燃焼排ガス流に注入する前に組み合わせることができる。他の実施形態では、前記水銀吸着物質と前記酸性気体またはSO抑制剤は個別に前記燃焼排ガス流に注入し、前記燃焼排ガス流自体の中で組み合わせることができる。そのような実施形態では、前記酸性気体またはSO抑制剤は三酸化硫黄および二酸化硫黄などの硫黄酸化物種を吸着することができ、そのような硫黄酸化物種が前記水銀吸着剤を吸着する可能性を低下させる。したがって、前記水銀吸着剤の表面積の水銀吸着能が上昇すると、水銀吸着が増加する。
【0043】
(実施例)
本発明は、一定の好ましい実施形態に関してかなり詳細に説明したが、他の見解も可能である。したがって、添付の請求項の精神と範囲は、本明細書に含まれる記載および好ましい見解に限定されるものではない。本発明の様々な観点が、以下の制限のない例に準拠して説明される。
【実施例1】
【0044】
発電所1−25%PRB/75%CAPP石炭混合物を燃焼している発電所において、3種類の水銀吸着剤を検討した。吸着剤Cは、臭化アンモニウムとして約15wt.%の臭化物と活性炭とを乾燥混合し、MPD約6μmに同時粉砕することにより調製した。吸着剤Bは、酸化カルシウムとして約15wt.%のカルシウムおよび臭化アンモニウムとして約5wt.%の臭化物と活性炭とを乾燥混合し、約MPD約6μmに同時粉砕することにより調製した。これらの吸着剤は、MPDが約12μm以上で、臭化物塩として約10wt.%以下の臭化物を含む市販の臭素化炭素である吸着剤Hと比較した。この発電所の燃焼排ガスには、選択的接触還元設備(SCR)の排気口において、約400〜約600ppmvの二酸化硫黄と約2〜約10ppmvの三酸化硫黄が含まれていた。空気余熱器の排気口において約9〜約9.5ポンド/MMacfで注入した場合、市販の吸着剤Hは水銀除去濃度約55%を達成したのに対し、吸着剤Bは約77%、吸着剤Cは約85%であった。
【実施例2】
【0045】
100% CAPP石炭を燃焼し、10ppmv以上の三酸化硫黄を発生している発電所2において、実施例1で説明したとおり調製した吸着剤Cの水銀除去能を、実施例1で説明した吸着剤Hと比較検証した。90%前後またはそれ以上の水銀除去能を達成し、維持するため、吸着剤Hの注入速度は約6ポンド/MMacfである必要があるのに対し、吸着剤Cでは約2ポンド/MMacfである。
【実施例3】
【0046】
三酸化硫黄濃度を管理し、燃焼排ガス流などを意図的に追加することで三酸化硫黄濃度を変化させることのできる発電所3では、異なる三酸化硫黄濃度で数種類の水銀除去吸着剤を検討した。吸着剤Cは、臭化アンモニウムとして約15wt.%の臭化物と活性炭を乾燥混合し、MPD約6μmに同時粉砕することにより調製した。これらの吸着剤は、MPDが約12μm以上で、臭化物塩として約10wt.%以下の臭化物を含む市販の臭素化炭素吸着剤Mと比較検証した。吸着剤Cは、臭化ナトリウムとして約3〜約6wt%の臭化物を内部に含浸し、MPD約14〜約16μmに粉砕した亜炭を基本とした活性炭から調製されると考えられる、別の市販の臭素化炭素吸着剤Nと比較検討した。
【0047】
前記燃焼排ガス流中に三酸化硫黄がない場合、吸着剤Cは吸着剤の注入速度10ポンド/MMacfでほぼ100%除去されたのに対し、吸着剤MおよびNは同じ注入速度で85%および76%除去された。三酸化硫黄10.3ppmvで同じ吸着剤の注入速度では、吸着剤Cで水銀は約94%除去されたが、市販の臭素化吸着剤MおよびNではそれぞれ約65%および62%に低下した。三酸化硫黄20.3ppmvおよび注入速度10ポンド/MMacfでは、吸着剤Cで水銀除去率約78%を達成したのに対し、市販の臭素化吸着剤MおよびNではいずれも除去率が約53%であった。三酸化硫黄25.3ppmvでトロナ20ポンド/時を加えると、水銀除去率約78%を維持するために吸着剤Cの注入速度が約7ポンド/MMacfに低下したが、吸着剤Mでは水銀除去率約53%を維持するために約8ポンド/MMacfが必要であった。このサンプルで報告された三酸化硫黄値は、すべて空気予熱器の前で測定した。
【実施例4】
【0048】
発電所3−吸着剤C(臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%を含み、活性炭とともに乾燥混合、同時粉砕し、MPD約6μmとした)および吸着剤D(臭化アンモニウムとして臭素約36wt.%を含み、活性炭とともに乾燥混合、同時粉砕し、MPD約6μmとした)を、臭化ナトリウムとして臭素約3〜約6wt.%を内部に含浸し、MPD約14〜約16μmに粉砕した亜炭活性炭から作られると考えられる、市販の臭素化炭素吸着剤である吸着剤Nと比較検証した。この石炭燃料ボイラーでは、三酸化硫黄(SO)を管理しながら燃焼排ガス中に加えることができる。SO濃度約10ppmvでは、各吸着剤の注入速度が水銀除去率90%に達するまで上昇した。吸着剤Nについては、治療目的を満たすため50〜60ポンド/分が必要であるのに対し、吸着剤Cでは約20〜約25ポンド/分、吸着剤Dでは約12〜約15ポンド/分が必要であり、同時粉砕された二元機能添加物のアルカリ度/ハロゲン化物含有量がいずれも高く、吸着剤の平均粒径が小さい高SO流の値を証明している。本実施例で報告された三酸化硫黄値はすべて空気予熱器の前で測定した。
【実施例5】
【0049】
発電所3では、吸着剤C(臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%を含み、活性炭とともに乾燥混合、同時粉砕し、MPD約6μmとした)を約9ppmvの三酸化硫黄を含む燃焼排ガス流中で検証した。約24ポンド/時の注入速度で、吸着剤Cでは水銀除去率が約92%に達したのに対し、臭化アンモニウムではなく臭化ナトリウムで臭素含有量が約15wt.%となっている点を除き、あらゆる点で吸着剤Cと同等の吸着剤Eでは、注入速度40ポンド/時で除去率は約79%のみであった。この例は、他の吸着剤パラメーターとは独立した二元機能の臭化アンモニウムのアルカリ成分によって可能となる、追加された水銀除去の有用性を示している。
【実施例6】
【0050】
発電所4では、吸着剤C(臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%とともに乾燥混合し、同時粉砕によりMPD約6μmとした活性炭)を、別の発電所において、吸着剤N(臭化ナトリウムとして臭素約3〜約6wt.%を内部に含浸し、MPD約14〜約16μmに粉砕した亜炭活性炭から作られると考えられる、市販の臭素化炭素吸着剤)と比較検証した。このボイラーの燃焼排ガスには約4ppmvの三酸化硫黄が含まれた。
【0051】
空気予熱器の排気口で約6ポンド/MMacfの速度で注入した場合、吸着剤Cは水銀除去率が約72%となったのに対し、吸着剤Nでは約42%であり、吸着剤のMPDが小さく、それと共に、水銀酸化およびSO抑制の二元機能試薬の吸着剤中の含有量が高いほど、利益が示された。
【実施例7】
【0052】
燃焼している南米産の低硫黄石炭の割合が高く、国産の高硫黄石炭の割合が低い発電所5では、臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%が含まれ、活性炭と乾燥混合し、同時粉砕することで、MPD約6μmとした吸着剤Cにより約61%の水銀除去率が達成され、硫黄含有量が少ない国産石炭と硫黄含有量が多い国産石炭をそれぞれ70/30で混合し、約8ポンド/MMacfの速度で空気予熱器の排気口に注入した。注入ポイントの燃焼排ガス中のSOを測定し、約8〜約9ppmvとなった。同じ条件では、吸着剤Cと同等であるが、臭化アンモニウムとして臭素約36wt.%を含む吸着剤である吸着剤Dでは、同じ条件で水銀除去率が約81%となり、高濃度の二元機能添加物によって高い局所アルカリ度およびハロゲン化物値が得られることを証明した。
【実施例8】
【0053】
発電所5−20%のPRBと80%の別の低硫黄石炭を混合した石炭を燃焼している発電所5で水銀吸着剤3種類を検証した。燃焼排ガス中の三酸化硫黄値は約0.5ppmv〜非検出の範囲であった。吸着剤Cは、活性炭と臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%とを乾燥混合し、同時粉砕することでMPDを約6μmとすることにより調製した。吸着剤Dは同様に調製したが、臭化アンモニウムとして臭素約36wt.%を含んでいた。これらの吸着剤と、MPDが約12μm以上で、臭素含有量が臭化物塩として約10wt.%以下である市販の臭素化炭素の吸着剤Mを比較した。空気予熱器の吸気口で注入した場合、吸着剤Mで水銀除去率約90%を達成するために約8ポンド/MMacfが必要であるのに対し、吸着剤Cでは約5.5ポンド/MMacf、吸着剤Dでは約3ポンド/MMacfが必要であった。これらのデータは、硫黄酸化物がほとんどまたは全く含まれない燃焼排ガス流中でも、臭化物濃度約10wt.%以上で大幅な性能向上が得られ、MPDは約12μm未満に減少することを示している。
【実施例9】
【0054】
燃焼排ガス中に1〜2ppmvのSOを含む発電所6では、吸着剤C(臭化アンモニウムとして臭素約15wt.%を含み、活性炭とともに乾燥混合、同時粉砕し、MPDを約6μmとした)を吸着剤M(MPが12μm以上で、臭化物塩として臭素約10wt.%以下を含む市販の臭素化炭素吸着剤)および吸着剤K(亜炭または褐炭に由来すると考えられる市販の臭素化炭素吸着剤)と比較検証した。電気集塵装置(ESP)の吸気口で注入した場合、吸着剤Kは90%の水銀を除去するため約9ポンド/MMacfの注入速度が必要であったのに対し、吸着剤Mでは約4.5ポンド/MMacf、吸着剤Cでは約2ポンド/MMacf以下が必要であった。
【実施例10】
【0055】
発電所7−活性炭を臭化アンモニウムまたはナトリウムとして10または20wt.%の臭化物と乾燥混合および同時粉砕することで、5種類の水銀吸着剤を調製した。吸着剤Pは臭化アンモニウムとして臭化物約10wt.%を含み、同時粉砕によりMPD約6μmとしてあり、吸着剤Qは臭化アンモニウムとして臭化物約10wt.%を含み、同時粉砕によりMPD約16μmとしてあり、吸着剤Sは臭化ナトリウムとして臭化物約10wt.%を含み、同時粉砕によりMPD約16μmとしてあり、吸着剤Rは臭化アンモニウムとして臭化物約20wt.%を含み、同時粉砕によりMPD約16μmとしてあり、吸着剤Tは臭化アンモニウムとして臭化物約20wt.%を含み、同時粉砕により約6μmとしてある。吸着剤P、R、Q、およびSは、PRB炭を燃焼し、燃焼排ガス中にほとんど三酸化硫黄を含まない発電所7において、同等の条件下、注入速度約100ポンド/時で水銀除去率を検証した。
【0056】
吸着剤P、R、Q、およびSは、それぞれ水銀除去率約77%、71%、66%、および53%を達成した。吸着剤Rと吸着剤Qを比較し、一定のMPDでは臭化アンモニウムとして約10wt.%を超える臭化物濃度が有利であることが証明され、一方、吸着剤Pと吸着剤Qを比較し、一定の臭化物濃度ではMPDが約10μm未満が有利であることが証明された。吸着剤Qと吸着剤Sを比較すると、三酸化硫黄をほとんど含まない燃焼排ガス流においても、金属臭化物塩よりも臭化アンモニウムを使用する方が有利であることが証明される。
【0057】
発電所7の2回目の検査では、吸着剤Tを吸着剤Pおよび吸着剤Qと比較し、90%の水銀を除去するために必要な吸着剤の量を決定した。90%除去するためには、吸着剤Tで約270ポンド/時が必要であり、吸着剤Pでは約320ポンド/時が必要であり、吸着剤Qでは420ポンド/時以上必要であった。
【0058】
今、本発明の好適な実施形態について説明したが、詳細な実施形態は説明のために紹介されているのであり、制限するものではないことは理解されるものとする。他の点では、本発明は添付の請求項に定義したとおり、本発明の範囲内で変化、修正、または変更することができる。