(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
針振りを行う千鳥縫いミシンには、一般に、主軸を中心に回転を行う腕状の回転天秤が装備されている。
この回転天秤はミシンフレームの面部に設けられ、糸供給源側の糸案内から回転天秤の腕部を経由して縫い針側の糸案内に渡る縫い糸が、回転天秤の回転に応じて腕部の先端部と基端部との間を往復移動することで上糸の経路長、張力が変化することにより、上糸供給源からの繰り出しや縫い目の結節を促すものである。
【0003】
ところで、千鳥縫いミシンでは、特に低張力で縫いを行う場合に、釜越直後(釜に捕捉された上糸が釜から外れる際)に上糸の糸暴れを生じ易いという問題がある。
図9は、釜による上糸の引き込み量の変化を示す釜曲線Kと回転天秤による上糸の糸取り量の変化を示す回転天秤曲線Tとを示す線図である。
上述の糸暴れは、回転天秤が上糸を引き上げる区間に生じる上糸の余りAに起因する弛みが原因となっている。
従って、回転天秤下死点から回転天秤上死点までの区間において、釜による上糸の引き込み量に対応して回転天秤による上糸の糸取り量を適宜調整することにより、釜越の際の糸余り量の低減を図る必要があった。
【0004】
そこで、特許文献1記載に記載された千鳥縫いミシン200は、
図10に示すように、回転天秤201が設けられたミシンの面部において、上糸供給源から回転天秤201に至る上糸を挿通させる第一の糸案内202と、回転天秤201から縫い針に渡って掛け渡された上糸を挿通させる第二の糸案内203の内、少なくとも一方の上糸案内部材を回動可能に設け、これにより、糸経路における上糸供給源側の糸案内202,回転天秤201,糸経路における縫い針側の糸案内203の間に形成される糸経路を変更調節して、上糸の糸取り量の調整を行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のミシンは、糸経路を変更調節するための糸案内202,203が糸通し穴に上糸を挿通する構造を採るために、
図11に示すように、上糸が糸案内202、203により常に拘束されるため、糸案内202、203の位置調節を行うと、
図9の二点鎖線示す回転天秤曲線Taのように、糸経路の変更調節の影響により主軸一回転中、全角度において、回転天秤による上糸の糸取り量が変化してしまうという問題があった。
例えば、回転天秤上死点Jや落下点Rは、縫い針が布地に刺さるタイミングに合わせてその位相が設定されているが、特許文献1記載記載のミシンにおいて、糸経路を変更調節による上糸の糸取り量の調整を行うと、回転天秤上死点Jや落下点Rの位相まで変動を生じてしまい、縫い目の形成に影響を及ぼして縫い品質の低下を生じるおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、主軸角度の一部の範囲について回転天秤引き上げ時の上糸の糸取り量の調節を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ミシンの主軸の回転に同期して回転すると共にその回転半径外側となる先端部に上糸掛止部を備える回転天秤と、上糸供給源から前記回転天秤に至る上糸を挿通させる第一の糸案内部材と、前記回転天秤から縫い針に至る上糸を挿通させる第二の糸案内部材とを備え、前記回転天秤の回転により、前記主軸の回転に同期した上糸の周期的な引き上げと解放を行う天秤装置において、前記回転天秤の回転により上糸経路が前記第一又は第二の糸案内部材を中心に回動して角度変化を生じる方向における片側からのみ前記上糸に当接することで当該上糸の経路長を変えて前記回転天秤による上糸の糸取り量を調節する調節体と、前記上糸経路が回動を行う平面内で前記調節体の位置調節を行う位置調節手段とを備え
、前記位置調節手段は、回転天秤下死点以降回転天秤上死点より手前の主軸角度の範囲内でのみ、前記調節体が前記上糸に当接可能となる移動範囲内で当該調節体の位置調節を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記調節体は、前記第一の糸案内部材から前記回転天秤に渡る上糸に対して当接可能な配置で設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記調節体は、前記回転天秤から前記第二の糸案内部材に渡る上糸に対して当接可能な配置で設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記調節体は、前記回転天秤と第一又は第二の糸案内部材との間の上糸経路を通過する上糸に対し、前記回転天秤の回転天秤下死点通過から上死点通過前までの回転により第一の糸案内部材から前記回転天秤までの糸経路又は前記回転天秤から第二の糸案内部材までの糸経路が変化する領域内で上糸に当接可能な配置で設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、上糸経路が回動して角度変化を生じる方向における片側からのみ上糸に当接する調節体により回転天秤による上糸の糸取り量を調節可能とするので、回転天秤によって上糸が回動を行う全範囲の内で一部の範囲のみ調節体を当接させることが容易に可能となる。このため、回転天秤による上糸の糸取り量を変更したくない主軸角度については調節体が上糸に当接しないように位置調節を行ったり、回転天秤上死点、釜越し等の位相の変動を回避したい主軸角度を避けて調節体の位置調節を行う等、適切な調節を行うことが可能となる。
【0014】
さらに、位置調節手段が、回転天秤下死点から回転天秤上死点の手前までの主軸角度の範囲でのみ調節体が上糸に当接する移動範囲で当該調節体の位置調節を可能とする構成とした場合には、調節体を移動して回転天秤による上糸の糸取り量を調節した場合に、回転天秤下死点を通過した主軸角度から回転天秤上死点の手前の主軸角度までの範囲内でのみ回転天秤による上糸の糸取り量を変動調節することができ、回転天秤上死点や落下点に位相の変動を生じることなく、回転天秤による上糸の糸取り量を調節することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の実施形態の全体構成)
以下、本発明の実施形態たる回転天秤方式の天秤装置を備える千鳥縫いミシン10について
図1乃至
図7に基づいて説明する。
図1は千鳥縫いミシン10を面部側から見た側面図、
図2はW−W線に沿った面部の断面図である。なお、以下の説明において、水平且つ布送りが行われる方向をX軸方向、水平且つ布送り方向に垂直な方向をY軸方向、垂直方向をZ軸方向というものとする。
かかる千鳥縫いミシン10は、縫い針11をその下端部で保持する針棒12と、針棒12を方向に直交する方向に揺動させる針振り機構20と、針棒を上下動させる上下動機構30と、回転天秤(いわゆるロータリ天秤)41を有する天秤装置40とを備えている。
【0017】
針振り機構20は、Y軸方向に沿った支軸21に連結された揺動台22と、専用の駆動源又は下軸の駆動力を利用して支軸21及び揺動台22をY軸方向に沿って往復移動させる図示しない動作伝達機構とを備えている。
また、揺動台22は、メタル軸受けを介して針棒12をZ軸方向に沿って滑動可能に支持している。
【0018】
上下動機構30は、Y軸方向に沿って設けられ、図示しないミシンモータにより回転駆動が行われる主軸31と、主軸31の先端部に固定装備された回転錘32と、回転錘32の回転中心からの偏心位置にY軸回りに回動可能に一端部が連結された針棒クランクロッド33と、針棒12に固定装備された針棒抱き34とを備えている。
また、針棒抱き34は、針棒クランクロッド33の他端部にY軸回りに回動可能且つY軸方向に沿って滑動可能に支持されている。これにより、針振り機構20により揺動台22を介して針棒12にY軸方向に沿った往復動作が付与される場合でも、当該往復動作を許容しつつ針棒抱き34から針棒12に対して上下動を付与することができる。
【0019】
また、千鳥縫いミシン10は、上糸を下糸と絡める釜機構、X軸方向に沿って布送りを行う布送り機構などを備えているが、これらは周知の構成であるため、説明を省略する。
【0020】
(天秤装置)
天秤装置40は、主軸31により回転動作を行う回転天秤41と、回転天秤41の台座となる回転円板42と、回転円板42と主軸31とを連結する連結軸43と、上糸供給源から回転天秤41に至る上糸を挿通させる第一の糸案内部材44と、回転天秤41から縫い針12の針棒糸掛け13に至る上糸を挿通させる第二の糸案内部材45と、回転天秤41の保護カバー46(
図1では図示略)と、回転天秤41による上糸の糸取り量を変更調節する調節体51と、調節体51の位置調節を行う位置調節手段52とを備えている。
【0021】
上記回転天秤41は、主軸31と同様に、
図1における時計方向に回転動作が付与される(
図1矢印R方向)。作業者と対向する機枠表面(
図1右方)には、第1の糸案内部材44が設けられている。そして、機枠の端部に固定した面板60の針棒上下方向における下部には第2の糸案内部材45が設けられている。これらの糸案内部材44,45はいずれも孔部に上糸を挿通させて上糸が常に一定の位置を通過するようガイドする構造となっている。
【0022】
回転円板42は、面板60に形成された円形開口部61に遊嵌されており、連結軸43を介して主軸31と一体的に回転を行う。
回転天秤41は、その基端部が回転円板42に固定支持され、先端部は主軸31を中心とする回転半径方向外側に延出されている。
また、回転天秤41の先端部には回転円弧の接線方向の双方向に延出された糸掛止部としての一対の爪41a,41bを備えており、各爪41a,41bは先端部に向かうに従って面板60から遠ざかる方向に湾曲形成されている。かかる形状とすることにより、回転天秤41の先端部が下方を向いた時は各爪41a,41bの背面側に上糸が回り込んで掛止され、回転天秤41から抜け落ちることが防止される。
【0023】
また、回転天秤41には、その基端部近傍であって回転方向先方(下流)側の端縁部に凹部41cが形成されている。かかる凹部41cは、主軸角度90°手前付近(針棒上死点の主軸角度を0°とする)で、縫い針11が布に対する貫通を開始するタイミングに合わせて、第一の糸案内部材44から回転天秤41の側縁部を介して第二の糸案内部材45に渡る上糸が凹部41cにかかることにより、回転天秤41により引き上げられた上糸の張力を解放することで上糸を余らせて、縫い針11の布貫通時の上糸に余裕を持たせるためのものである(
図3(B)参照)。上記、上糸が凹部41cにかかることにより、回転天秤により引き上げられた上糸の張力が解放される主軸角度を落下点Rとする(
図5参照)。
【0024】
位置調節手段52は、調節体51を一体的に支持する基台53と、基台53を面部上に締結保持することが可能な止めネジ54とを備えている。
そして、調節体51は、基台53の一端部においてY軸方向に沿って立設された丸棒状のピンであり、その周面において上糸に当接する。
基台53は、他端部に長穴53aが形成され、当該長穴53aに止めネジ54が挿通されて締結固定される。また、長穴53aには、面板60上に設けられた突起状の回り止め55が嵌合しており、調節体51の位置調節を行う際には、締結を解除した止めネジ54により長穴53aに沿って基台53を所定方向に沿って直進移動させることにより、面板60の平面上において移動・位置調節を可能としている。
【0025】
図3(A)〜(G)は80°,90°,150°,180°,210°,240°,270°までのそれぞれの主軸角度における第一の糸案内部材44から第二の糸案内部材45までの上糸の最短経路の変化を示す状態説明図であり、
図4(A)〜(F)は310°,330°,0°,30°,60°,70°までのそれぞれの主軸角度における第一の糸案内部材44から第二の糸案内部材45までの上糸の最短経路の変化を示す状態説明図である。なお、
図4における各図の二点鎖線は調節体51が存在しない場合の上糸最短経路を仮想的に図示しており、また、
図3及び4において位置調節手段52の図示は省略している。
また、
図5は、図示しない釜による上糸の引き込み量の変化を示す釜曲線Kと回転天秤41による上糸の糸取り量の変化を示す回転天秤曲線Tとを示す線図である。なお、
図5において回転天秤曲線Tは調節体51が存在しない場合を示し、回転天秤曲線Tx(一点鎖線)は調節体51により回転天秤による上糸の糸取り量の調節を行った場合を示している。
【0026】
ここで回転天秤41による上糸の最短糸経路の変化について
図3から
図6に基づいて説明する。
なお、この段落の最短糸経路の説明では、調節体51による上糸の当接による影響を考慮しないものとする。
回転天秤41は、
図3(A)、
図4(A)、
図5に示すように、主軸角度およそ310°において上糸の糸取り量が最小となる回転天秤下死点Mとなり、主軸角度およそ80°において上糸の糸取り量が最大となる回転天秤上死点Jとなるように回転円板42に取り付けられている。
そして、このミシン10では、回転天秤下死点Mにおける第一の糸案内部材44から回転天秤41に渡る最短糸経路(以下、単に「最短糸経路」という)は、第一の糸案内部材44と回転天秤41の回転中心とを結ぶ線分L1(主軸角度およそ70°における最短糸経路の方向に一致する。
図6参照)と丁度重なり合うように設定されている。
そして、回転天秤下死点Mの通過後の最短糸経路は、線分L1に対してその傾きが、第一の糸案内部材44を中心として
図6における左方(反時計方向)に変化して、主軸角度およそ0°において線分L1に対して最短糸経路のなす角度である左方(反時計方向)角度変化が最大となる。
図6のθaは左方(反時計方向)への角度変化が最大となった時の最短糸経路に沿った線分を示している。
そして、最短糸経路の傾きは、最大左方角度変化位置θaを過ぎると、その後は、
図6における右方(時計方向)に変化して、主軸角度およそ80°において回転天秤上死点Jを通過して(
図6のθbは回転天秤上死点における糸経路に沿った線分)、さらに、その後は、右方(時計方向)と左方(反時計方向)の角度変化を経て、主軸角度およそ270°において線分L1に対して最短糸経路のなす角度である右方(時計方向)角度変化が最大となり、その後は最短糸経路は左方(反時計方向)に角度変化を経て再び回転天秤下死点Mに到達する。
【0027】
調節体51は、回転天秤上死点J及び落下点Rに対する影響を回避しつつ、釜越点Gにおける釜による上糸の引き込み量と回転天秤41による上糸の糸取り量との差を極力低減するように回転天秤41の糸取り量を調節することが要求されている。
なお、向きが変化する最短糸経路の上糸に対して調節体51を受動的に当接させることで糸取り量を調節する構造上、釜越点Gにおいてのみピンポイントで糸取り量を調節することは実施的に困難であり、このミシン10では、回転天秤上死点J及び落下点Rを含まずに釜越し点Gを含むある程度の主軸角度範囲、例えば、回転天秤下死点M以降であって回転天秤上死点Jの手前までの範囲で位置調節の前後における調節体51を上糸に当接させることが可能となるように配置が設定されている。
【0028】
図7は、調節体51の配置すべき領域を示す説明図である。
図7においてθcは釜越点Gにおける最短糸経路に沿った直線である。
回転天秤下死点M以降であって回転天秤上死点Jの手前までの範囲で位置調節の前後における調節体51を上糸に当接させることが可能な配置とするには、直線θbより左方(直線θbを含まず)且つ直線L1よりも左方(直線L1を含む)の領域内となる。
さらに、釜越し点Gにおいて糸取り量を調節可能とするには、直線θc(直線θcを含まず)から直線θaの間の領域は含まれない。
さらに、調節体51の配置としては、回転天秤41との干渉を避けるために回転天秤41の回転範囲Hより外側とすることが望ましい。
従って、これらを総合して、直線L1と直線θcと円弧Hに囲まれた領域E内(直線L1及び直線θcの線上を含み、円弧Hの線上を含まず)に調節体51を配置することが望ましい。また、調節体51の位置調節可能な範囲も領域Eの範囲内とすることが望ましい。
上記ミシン10では、調節体51を直線L1の線上に沿って位置調節可能としている。
また、調節体51を支持する基台53の長穴53aは、線分L1と平行であり、調節体51は、止めネジ54を緩めて位置調節した場合に、調節体51が常に線分L1と平行な方向に沿って領域Eから逸脱しない範囲で移動調節を可能としている。
調節体51は、上記のように配置されことにより、主軸角度およそ310〜70°の範囲でのみ第一の糸案内部材44から回転天秤41に渡る上糸に当接させることができ、当該主軸角度区間についてのみ、回転天秤41による上糸の糸取り量の調節を行うことが可能となっている。
また、調節体51を、上記の方向に位置調節可能とされることにより、回転天秤による上糸の糸取り量の調節を行う主軸角度区間の変動は生じることなく、回転天秤による上糸の糸取り量の増減を増やすように調節することが可能である。
【0029】
(天秤装置の作用効果)
回転天秤装置40による上糸の糸取り量の調整の具体的な適用とその効果について
図5に基づいて説明する。
千鳥縫いミシン10では、特に糸張力を低く設定した場合に、釜が上糸を解放する釜越(
図5の回転天秤曲線KにおけるG点:主軸角度およそ350°)の際に糸暴れを生じやすいために、釜越のタイミングを含む所定の主軸角度の範囲において、釜による上糸の引き込み量に対する回転天秤41による上糸の糸取り量の差がより少なくなるように調整を行うことが要求される。
一方、回転天秤41による上糸の糸取り量が最大となる回転天秤上死点Jや回転天秤41の凹部41cに上糸がかかる落下点Rは、縫い目の形成に影響が生じやすいことから、これらが実行される位相(主軸角度)や、その位相での回転天秤による上糸の糸取り量の変動は生じないことが要求される。なお、回転天秤上死点Jの主軸角度はこのミシン10ではおよそ80°、落下点Rはおよそ90°に設定されている。
【0030】
調節体51は、前述したように、主軸角度およそ310〜70°の範囲で回転天秤41による上糸糸取り量の調節を行うことが可能となっている。つまり、釜越のタイミングとなる主軸角度350°を含み、回転天秤上死点Jと落下点Rの主軸角度80°,90°を回避した範囲内で回転天秤41による上糸の糸取り量の調節を行うことが可能となる。
具体的には、止めネジ54を緩めて基台53を止めネジ54に対してスライド移動させて調節体51をラインL1に沿って移動させ、回転天秤41による上糸の糸取り量の増減調節を行う。この場合、第一の糸案内部材44から遠ざかる方向に移動することで回転天秤41による上糸の糸取り量が増し、第一の糸案内部材44に近づける方向に移動することで回転天秤41による上糸の糸取り量が減る。
そして、調節体51の位置を決定したら止めネジ54を締結して調節体51及び基台53の位置を固定する。
縫製時には、主軸角度約310°から主軸角度70°の範囲内で第一の糸案内部材44から回転天秤41に渡る上糸に調節体51が当接し、上糸が屈曲することによる最短糸経路距離の増加により回転天秤41による上糸の糸取り量が増加する。従って、
図5に示すような回転天秤曲線Txを得ることができ、釜越の際に、釜による上糸の引き込み量と回転天秤41による上糸の糸取り量との差を低減することができ、糸暴れの発生が抑制される。
【0031】
このように、千鳥縫いミシン10では、第一の糸案内部材44から回転天秤41に渡る上糸に対して、回転天秤下死点通過時における天秤回転方向下流側(
図1左方)からのみ上糸に当接する調節体51により回転天秤41による上糸の糸取り量を調節可能とするので、回転天秤41によって上糸が回動を行う全範囲の中で調整の影響を避けたい主軸角度(例えば、回転天秤上死点Jや落下点R)を回避して回転天秤による上糸の糸取り量の調節を行いたい主軸角度(例えば、釜越の主軸角度)を含む一部の範囲のみ調節体51を当接させることが容易に可能となる。
これにより、縫いに不要な影響を与えることなく、糸暴れを回避する等、目的に応じた適切な調節を行うことが可能となる。
【0032】
また、位置調節手段52の基台53は止めネジ54に対して所定方向に沿った直進移動が可能となるように支持されているので、回転天秤による上糸の糸取り量の調節を行う主軸角度区間の変動は生じることなく、回転天秤による上糸の糸取り量の増減の調節を行うことができ、調節作業をより用意且つ迅速に行うことが可能となる。
【0033】
(その他)
前述した調節体51は、第一の糸案内部材44から回転天秤41に渡る上糸に当接する配置としているが、これに限定されるものではない。
即ち、
図8に示すように、調節体51Aを、回転天秤41から第二の糸案内部材45に渡る上糸に天秤回転方向下流側(
図1左方)から当接する配置としてもよい。
そして、その場合も、回転天秤下死点における回転天秤41から第二の糸案内部材45に渡る最短上糸経路に沿った直線(当該直線上を含む)と釜越し点における回転天秤41から第二の糸案内部材45に渡る最短上糸経路に沿った直線(当該直線上を含む)と回転天秤41の回転範囲に沿った円弧(当該円弧の線上を含まず)とに囲まれる領域内に調節体51Aを配置し且つ当該領域内で位置調節可能とする。
具体的には、位置調節手段52Aは、調節体51Aを支持する基台53Aと、基台53Aを締結する止めネジ54Aと、基台53Aの回り止め55Aとを有する構成とし、基台53Aは調節体51Aの固定位置と前記回転天秤の回転中心を結ぶ直線L2方向に沿って調節体51Aの移動位置調節を可能とする。
そして、主軸角度およそ70°において回転天秤41から第二の糸案内部材45に渡る上糸の最短経路である直線L2の上に調節体51Aを配置すると共に、基台53Aが上記直線L2と平行に移動可能に構成することが望ましい。
そして、このように、回転天秤41と第二の糸案内部材45との間を渡る上糸に調節体51Aを当接させる構成とした場合も、回転天秤41と第一の糸案内部材44との間を渡る上糸に当接する調節体51とほぼ同様の効果を得ることが可能である。
【0034】
また、位置調節手段52は、調節体51を一定の直進方向にのみ移動調節可能としているが、面板に沿った平面上を領域E内で任意に位置調節可能としても良い。その場合、調節体51により回転天秤による上糸の糸取り量の調節を行う主軸角度の範囲をより容易に変更することが可能となる。