(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740154
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】鋼及び合金の軽元素含有量を定量するプロセス
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20150604BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-531380(P2010-531380)
(86)(22)【出願日】2008年10月24日
(65)【公表番号】特表2011-501199(P2011-501199A)
(43)【公表日】2011年1月6日
(86)【国際出願番号】BR2008000318
(87)【国際公開番号】WO2009055886
(87)【国際公開日】20090507
【審査請求日】2011年10月19日
(31)【優先権主張番号】PI0706233-8
(32)【優先日】2007年10月31日
(33)【優先権主張国】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ − ペトロブラス
(73)【特許権者】
【識別番号】510119430
【氏名又は名称】ユニヴェルシダーデ フェデラル ダ バイーア − ウエフェベア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100160266
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100087217
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100072822
【弁理士】
【氏名又は名称】森 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100123180
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 克則
(74)【代理人】
【識別番号】100089897
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正
(74)【代理人】
【識別番号】100137475
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 建
(72)【発明者】
【氏名】パントゥージャ デ オリヴェオラ カストロ、マルサ テレサ
(72)【発明者】
【氏名】アシス ロペス タヴァレス ダ、クリスティーナ マリア マタ ヘルミダ キンテッラ
(72)【発明者】
【氏名】ラファイエット デ メッロ マク − クローチ、ジョアン ナザレス
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−281176(JP,A)
【文献】
特開平11−064254(JP,A)
【文献】
特開2006−284378(JP,A)
【文献】
特開平09−127026(JP,A)
【文献】
米国特許第5740223(US,A)
【文献】
石橋 耀一, 吉岡 豊, 佐藤 重臣,「銑鉄及び鋼の全自動分析システムの開発」,分析化学,社団法人日本分析化学会,1988年11月 5日,Vol. 37, No. 11,p. T157-T162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/223
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料中のモル質量23未満の1つ又は複数の元素の含有量を定量する方法において、前記方法は、
X線を1つ又は複数の無機材料に照射し、5keV〜22keVの間のエネルギーに相当するスペクトル範囲にある蛍光X線スペクトルを得るステップと、
前記1つ又は複数の無機材料を照射することによって得られたスペクトルの多変量データ分析を通して、前記1つ又は複数の無機材料中のモル質量23未満の1つ又は複数の元素を識別するステップとを含む、方法。
【請求項2】
a)前記方法が炭素を定量する方法であり、
b)前記無機材料が鋼及び金属合金であり、
c)前記多変量データ分析が計量化学データ分析であることを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記方法を非破壊検査により行うことを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項4】
a)標準サンプルに照射することにより蛍光X線スペクトルを得るステップと、
b)各行が各サンプルのスペクトルに対応し、各列がそれらの各エネルギー値に対応するようにデータ・マトリックスを構築するステップと、
c)適切なアルゴリズムを使用して前記マトリックスを平均値にセンタリングすることで得られたスペクトルを数学的に前処理するステップと、
d)多変量的に前記データを検量するステップと、
e)前記サンプルに照射することによって蛍光X線スペクトルを得るステップと、
f)得られた前記データを数学的に処理するステップと、
g)前記標準サンプル及び検定方法を用いて炭素含有量を直接定量するために、先に構築された検量線を適用するステップと、
h)検量のために使用されたアルゴリズムに既に組み込まれている統計的技術を用いて、実行された定量の信頼性レベルを計算するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項5】
主成分分析(PCA)及び階層的クラスタ分析(HCA)用のアルゴリズムをデータの予備分析に使用することを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項6】
部分最小二乗法(PLS)及び主成分回帰分析(PCR)用のアルゴリズムを多変量データ検量に使用することを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線放射で無機材料を照射して得られるスペクトルを分析することによって、無機材料中の軽元素、すなわち、モル質量23未満の元素を定量するプロセスに関するものである。本発明は、鋼及び合金の炭素含有量を直接定量することに関するものである。このプロセスは、無機材料をX線で照射するステップと、データ・マトリックスとして得られたスペクトルを整理するステップと、適切に選択された計量化学ツールと共に数学的モデルを使用するステップとを含む。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査によって現場の条件において軽元素を定量することは、人類の大きな技術的課題であった。具体的には、鋼及び合金の炭素含有量の定量は非常に困難であるが、いくつかのプロセスでは避けられないものであった。
【0003】
分光分析方法は複数あり、照射型式(とりわけ、照射源特性、粒子、エネルギー範囲、照射法)、サンプル照射装置(とりわけ、物理的状態、前処理方法、位置、照射面積)、検出型式(とりわけ、放射又は粒子、又はその組合せ、エネルギー範囲、同期型式、1つ又は複数の粒子、局所又は遠隔、特定の角度又は総合角度)が異なる。本明細書において、照射型式、サンプル照射、又は検出型式とは関係なく、X線域内の照射エネルギーを含む全ての分光技術は、広く「X線分光分析法」と呼ぶものとする。
【0004】
分光分析法の型式の1つは、X線蛍光分光分析法である。X線蛍光分光分析法は、吸収・放射の光電効果に基づき、光子及び電子を含む。検出は、エネルギー損失により絶対的又は相対的に行われる。
【0005】
通常、低いエネルギーにおいて、X線蛍光分光分析法は、特性輝線と呼ばれる線及び/又は帯域(band)を示す。高いエネルギーにおいて、照射源の散乱線と呼ばれる線及び/又は帯域が見られる[X−Ray Fluorescence Spectrometry、第2
a版、R.Jenkins、Wiley−Interscience、ニューヨーク、1999年、ISBN 0−471−29942−1]。
【0006】
吸収・放射の光電プロセスの量子収率は、遷移及び原子番号に依存し、通常、同じ遷移に対しては、原子番号の増加と共に増加する[X−RAY FLUORESCENCE SPECTROMETRY、第2
a版、R.Jenkins、Wiley−Interscience、ニューヨーク、1999年、ISBN 0−471−29942−1]。したがって、元素の検出効率は、高質量を有する元素ほど高い。これらの従来の分析プロセスによって、原子番号11、すなわちナトリウムから、良好な識別が可能となる。
【0007】
放射の散乱は、いくつかの効果を生じさせる。レイリー効果、すなわち弾性散乱(可干渉性、エネルギー変化なし、方向メモリあり)、及びコンプトン効果、すなわち非弾性散乱(非干渉性、多方向性、エネルギー変化あり)が通常研究される。
【0008】
これらの相互作用は、材料の組成にも依存する。非弾性散乱は、サンプルの平均モル質量の減少に伴い増加する。したがって、低い分子量の元素を有する材料は、低い光電効果及び高いコンプトン散乱を呈する。
【0009】
したがって、特性線を使用した軽元素の定量には、放射線源強度を増大させることによって、又は機器及び検出技術を複雑にし、効率を増大させることによって、量子収率を増大させるプロセスを必要とする。検出技術には、とりわけ、シンクロトロン放射、粒子放射同時測定(particle radiation coincidence)、同期検波(synchronous detection)などがある。しかしながら、通常、これらのプロセスは、精度及び確度が低いという短所がある[Potts PJ等、Journal of Analytical Atomic Spectrometry 18(10):1297〜1316、2003][Alvarez M等、X−Ray Spectrometry 20(2):67〜71、1991]。更に、それらは、満足できるSN比(signal−to−noise ratio)に到達するのに長い照射時間を必要とし、費用がかかるという短所も有し、競争力がない。更に、それらの機器の照射部品の一部を使用すると、それらのサイズ及び必要とする面積のために、及びそれらの移動が不可能であるために、実行不可能である。
【0010】
高温でのX線回折による焼き入れ鋼のモニタリングが、熱処理中の微小組織を定量するために使用されてきた[Wiessner M等、Particle & Particle Systems Characterization 22(6):407〜417、2006]。オーステナイト及びマルテンサイトのレチクル(reticule)・ネットワークパラメータが、2つの位相及び微小応力の量の間の差を通して炭素含有量の変化を推定するために定量された。しかしながら、定量は間接的で、原子番号11未満のいくつかの元素の定量は含まれなかった。更に、それは、鋼の炭素含有量の定量に関係しなかった。鋼の炭素含有量の定量には、原子番号6の元素の正確な定量を必要とする。それは、位相間の差、又は微小応力の変化による間接的な測定に関係しなかった。
【0011】
計量化学分析又は多変量分析は、適切なアルゴリズムを用いた化学データ及びそのマトリックスの数学的処理を含む。その例としては、複雑なデータ処理用に何十年も使用されてきた方法の中でもとりわけ、主成分分析(PCA)、部分最小二乗法(PLS)、主成分回帰分析(PCR)、平行因子分析(PARAFAC)及びタッカー(Tucker)分析、並びに、階層的クラスタ分析(HCA)のような距離に基づく技術、ニューラル・ネットワーク及び遺伝的アルゴリズムのような人工知能に基づく技術、ファジー論理のような論理技術があるが、これらに限定されない。更に、非限定的な例として、とりわけ、近赤外線分光法(NIR)として異なる分光法及び分光測定法によって得られるスペクトルの処理法[Arvanitoyannis IS等、Critical Reviews in Food Science and Nutrition 45(3):193〜203、2005]、レーザ誘導型蛍光偏光解消法による動的界面張力測定[Quintella,C.M等、Journal of Physical Chemistry B、USA、第107巻、33号、8511〜8516頁、2004]、質量分析法[Aeschliman DB等、Analytical Chemistry 76(11):3119〜3125、2004]、X線分光法[Pereira FMV等、Journal of Agricultural and Food Chemistry 54(16):5723〜5730、2006]がある。
【0012】
今日、データ多変量分析によってマトリックス処理する市販のソフトウェア・パッケージがある。ユーザは、自身のデータ・マトリックスを構築し、特定の状況ごとに使用する情報処理法を定義しなければならない。これらのソフトウェア・パッケージは、専門家及び研究者の手によって強力なツールとなり、異なる目的を達成するが、そのソフトウェア・パッケージの存在だけでは、分析を行い、結果を予測することはできない。
【0013】
関連技術
有機液体マトリックス中の軽元素は、後方散乱X線放射を使用して定量された[Molt K等、X−Ray Spectrometry 28(1):59〜63、1999]。Molt等は、主成分及びDXRSスペクトルの共変法(co−variant method)を使用して有機液体のC、H、及びOを定量した。
【0014】
多変量検量法及びニューラル・ネットワークを用いたX線分散型分光分析による鉛及び硫黄の同時定量[Facchin I等、X−Ray Spectrometry 28(3):173〜177、1999]が、以前になされた。数学共変法が、蛍光X線の定量分析におけるスペクトル干渉及び元素間干渉を補正するために使用された[Nagata N等、Quimica Nova 24(4):531〜539、2001]。
【0015】
ブラジル特許出願第PI0400867号−Espectrometria de Espalhamento de Raios−X(EERX)Associada a Quimiometria−は、X線源の散乱を使用した新しい分析法を提示する。この方法は、計量化学ツールにより分解能が改良されており、環境分析及び動物代謝及び天然有機ポリマーのモル質量の定量測定のために標準を分類する。
【0016】
ブラジル特許出願第PI0500177号−Espalhamento de Raios−X e Quimiometria para Classificacao de Oleos Vegetais,Animais,Minerais e/ou Sinteticos−は、オイルの識別及び分類に関する方法の別の応用を記載している。
【0017】
ブラジル特許出願第PI0500753号−Metodo de Controle de Qualidade de Medicamentos Alternativos (Genericos e Similares)por Espalhamento de Raios−X−は、いくつかの果物種、一般の食物、ペイント、グリース、植物、及びポリマーに対する製薬産業又は医療製造者向けの複雑な有機マトリックスの分類に関する。
【0018】
ブラジル特許出願第PI0502763号−Metodo de Quantificacao de Parametros de lndustria Petrolifera por Espalhamento de Raios−X e Quimiometria−は、アニリン点のような特性によって原油の特性を定量する方法を記載している。アニリン点は、サンプルが液体又は固形タブレットであるとき、とりわけ、芳香族化合物及びパラフィンの含有量、アスファルテン含有量、揮発性材料を示す。
【0019】
ブラジル特許出願第PI0502861号−Metodo de Quantificacao de Aluminio em Silica por Espalhamento de Raios−X Aliado a Quimiometria−は、X線散乱及び計量化学を関連付けて、シリカ・マトリックス中のアルミニウム、特にゼオライト中のアルミニウムの定量−元素13の定量化を改良することに関するものである。
【0020】
しかしながら、上記に引用された特許出願又は他の出版物は、固体材料中の原子番号11未満の元素を定量する方法を適用することに関連しておらず、また提案をしていない。更に、無機マトリックス中の原子番号11未満の元素を定量する方法にも関連しておらず、また提案をしていない。無機マトリックスは、化学的観点から見て、有機マトリックスとは全く区別される。更に、それらは鋼の炭素含有量の定量に関係しない。
【0021】
今日、人類の生産設備及び工業設備で使用される大部分の機器及び配管は、その機械的強度、耐熱性及び耐久性を考慮して鋼でできている。しかしながら、時間経過及び使用に伴い、その機器及び配管の鋼は劣化するので、修理を受ける、及び/又は改造される必要がある。このため、人類の技術は、動作機器及び配管の品質保全に関する定期的で信頼性のある検査に依存する。その機器及び配管のいくつかは、高圧のような極端な条件下で動作する。これらの検査は、それらの動作を確実にするだけでなく、漏出、汚染等の事故及び環境破壊を防止する。
【0022】
したがって、機器及び配管の微小組織及び組成に関する実際の状態を、非破壊検査及び現地試験によって高精度及び高確度に定量することができる方法が強く求められている[Santos,G.B等,Degradacao Micro−Estrutural de Acos Ferriticos Avaliada por PLF−FI,Anais da 29
a Reuniao Anual da Sociedade Brasileira de Quimica.2006]。
【0023】
鋼の軽元素含有量を定量する場合、炭素含有量は非常に重要である。そのような機器及び配管をどのようにして安全に修理、溶接、回復、更には使用するかを知るために、それは必須である。
【0024】
数年間にわたり稼動してきた工業用設備に関して、現在の技術の問題の1つは在庫が不完全であることである。在庫が不完全であることにより機器及び配管に使用される鋼の種類が分からなくなる可能性がある。その結果、検査において、安全を考慮して機器の分類が仮定されてしまうため、十分に利用されないことや、耐用年数を経過する前に取り替えられてしまうことが生じる。したがって、高速、非破壊的、低コスト、且つ信頼性がある方法であって、機器又は配管、とりわけ、現在稼動されており、情報が記録された文書が所有されていない機器又は配管について、正確に鋼の種類を識別できる方法が提供されることが必要であり必須である。
【0025】
更に、現場で稼動停止なしにこの定量を行うことが非常に重要である。したがって、経済的損失、金融的損失、並びに生産低下を回避し、経済及び社会的発展に深刻な結果を与えることを回避することが可能である。
【0026】
また、炭素含有量の定量は、2種類の鋼を溶接するプロセスのために炭素当量を評価するために必須であることが知られている。そして、炭素含有量を定量することにより、パラメータの中でもとりわけ、電極、熱処理の種類及び強度、温度範囲を選択することが可能になることが知られている[AWS D1.1/D1.1M:2006−Structural Welding Code Steel;Annex I Guideline on Alternative Methods for Determining Preheat;I6 Detailed Guide,I6.1 Hardness Method]。炭素当量(CE)の計算は、製造証明書の値を使うが、それが可能でない場合、以下の公式に従って特定される。
CE=%C+%Mn/6+(%Cr+%Mo+%V)/5+(%Cu+%Ni)/15
【0027】
これは、鋼の種類が未知の場合、予熱温度を決定することが困難であり、又は溶接工程に使用される電極の種類(消耗品)を選択することが困難であることを意味する。市販の機器の測定部品では、炭素含有量の定量を、現場において高速で実用的に行うことはできない。機器及び配管に関して適切で安全な措置をとるためには、研究所の検査の結果を幾日も待つ必要がある。
【0028】
非排他的な例として、原子番号が11を超える元素の含有量を定量することが可能な、HCG Technologyによって作られた携帯型分析器がある。これは、動作中の機器において測定が行えるという利点を有する。しかしながら、短所として、それは原子番号6の炭素を定量しない。
【0029】
ある特定の条件に対して、鋼の硬さを定量することは可能である。それにより、現場での非破壊検査によって現場の鋼の炭素含有量を推定することができる[ARMCO−http://www.armco.com.br/informacoes_tabelas.php−producao e inspecao de aco]。しかしながら、そのプロセス固有の不正確さのために信頼性が低いという短所がある。その結果、熱処理によってマスク(mask)されるという短所が生じる。更に、その結果、鋼組成中の合金元素の存在によってマスクされるという短所が生じる。
【0030】
シンクロトロン放射装置を使って炭素含有量を定量することが可能であることが知られている。しかしながら、その装置は巨大なだけでなく非常に高価である。したがって、それを当業界に使用することは適切でない。
【0031】
今日、高精度で炭素含有量を定量する通常のプロセスは、研究所において鉄鋼の(siderurgical)クロマトグラフによって分析するために、装置を稼動停止する、及び/又は破壊的にサンプリングをする必要があるという短所を有する。
【0032】
本発明の目的の1つは、高い信頼性及び精度で鋼及び合金の炭素含有量を直接定量することができる分析方法を使ったプロセスを開発することである。
【0033】
本発明の別の目的は、非破壊モードで分析を行うことができ、稼動停止を必要とせず、現場で使用可能なプロセスを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】ブラジル特許出願第PI0400867号
【特許文献2】ブラジル特許出願第PI0500177号
【特許文献3】ブラジル特許出願第PI0500753号
【特許文献4】ブラジル特許出願第PI0502763号
【特許文献5】ブラジル特許出願第PI0502861号
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】X−Ray Fluorescence Spectrometry、第2a版、R.Jenkins、Wiley−Interscience、ニューヨーク、1999年、ISBN 0−471−29942−1
【非特許文献2】Potts PJ等、Journal of Analytical Atomic Spectrometry 18(10):1297〜1316、2003
【非特許文献3】Alvarez M等、X−Ray Spectrometry 20(2):67〜71、1991
【非特許文献4】Wiessner M等、Particle&Particle Systems Characterization 22(6):407〜417、2006
【非特許文献5】Arvanitoyannis IS等、Critical Reviews in Food Science and Nutrition 45(3):193〜203、2005
【非特許文献6】Quintella,C.M等、Journal of Physical Chemistry B、USA、第107巻、33号、8511〜8516頁、2004
【非特許文献7】Aeschliman DB等、Analytical Chemistry 76(11):3119〜3125、2004
【非特許文献8】Pereira FMV等、Journal of Agricultural and Food Chemistry 54(16):5723〜5730、2006
【非特許文献9】Molt K等、X−Ray Spectrometry 28(1):59〜63、1999
【非特許文献10】Facchin I等、X−Ray Spectrometry 28(3):173〜177、1999
【非特許文献11】Nagata N等、Quimica Nova 24(4):531〜539、2001
【非特許文献12】Santos,G.B等、Degradacao Micro−Estrutural de Acos Ferriticos Avaliada por PLF−FI,Anais da 29a Reuniao Anual da Sociedade Brasileira de Quimica.2006
【非特許文献13】AWS D1.1/D1.1M:2006−Structural Welding Code Steel;Annex I Guideline on Alternative Methods for Determining Preheat;I6 Detailed Guide,I6.1 Hardness Method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本発明は、
無機材料中のモル質量23未満の元素を定性的及び定量的に定量するプロセスに関する。とりわけ、鋼及び合金中の炭素を直接定量することに関する。多変量データ分析又は計量化学分析に関連付けて定量を行い、その分析を、材料にX線を照射することによって得られたスペクトルに適用し、とりわけ通常使用しない範囲のスペクトルを使用する。従来は考慮されなかったこれらのスペクトル領域の分析から、放射線の吸収及び放出の容量は低いが散乱放射の容量が高いモル質量23未満の軽元素を検出することが可能であることが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】非限定的な実施例として、特性輝線又は/及び帯域、並びに散乱源の線及び/又は帯域を備えた、6つの鋼サンプルのX線蛍光発光の重畳スペクトルを示すグラフである。
【
図2】非限定的な実施例として、6つの鋼サンプルに対する蛍光X線スペクトルの計量化学データ処理後の得点のプロットを示すグラフである。
【
図3】非限定的な実施例として、本発明のプロセスによって得られた測定値と鋼サンプルの炭素含有量の仕様値との関係を示すグラフである。
【実施例】
【0038】
本発明がより良く理解されるために、本明細書に含まれている非限定的な実施例並びに図及び表を参照して、詳細に説明する。非限定的な実施例、図、及び表は、本明細書の一部を構成する。
【0039】
本発明の方法によれば、材料は前処理なしに直接使用される。材料は、X線を発生する放射線源にさらされる。発生されるX線は、5〜50kVで10〜100秒の照射時間であることが好ましい。次いで、X線スペクトルが、エネルギーの関数として、又はエネルギー損失の関数として検出される。それらは、所望の個数の複製を使用して検出することができるが、通常は3〜5個の複製を使用する。
【0040】
5〜22keVのスペクトル領域が分析される。このスペクトル領域には、蛍光及び散乱源の両方が含まれる。過去においては、散乱領域は、鉄及び銅のような重元素の定量において干渉を生じるために検討されなかった。
【0041】
所望のスペクトルが得られると、それらは、マトリックスとして整理され、データは、計量化学的方法を使って数学的に処理される。得られたスペクトル全部又は一部を用いてデータ分析に進むことが可能である。
【0042】
スペクトルは、共変法によって数学的に処理される。予備分析(exploratory analysis)及び検量のために使用される計量化学的方法は、プロセスの中でもとりわけ、主成分分析(PCA)、部分最小二乗法(PLS)、主成分回帰分析(PCR)、平行因子分析(PARAFAC)及びタッカー分析のような射影技術、並びに、非限定的な例として階層的クラスタ分析(HCA)のような距離に基づく技術、ニューラル・ネットワーク及び遺伝的アルゴリズムのような人工知能に基づく技術、ファジー論理のような論理ベースの技術に基づく計量化学的方法である。
【0043】
定性的な情報と定量的な情報とが得られる。ある条件では、相関関係の一変量処理を使用することが可能である。例えば、定性分析をするためにPCA及びHCAが使用され、定量分析をするためにPLS及びPCRが使用される。
【0044】
データ処理の結果、低モル質量の原子の存在、又はそれらの相対濃度によって材料が分離される。
【0045】
最終的に、散乱源及び蛍光を含み、プロセスがモデル化されるのを可能にするスペクトル領域内において最小二乗回帰のような数学的方法によって、検量線が構築される。
【0046】
実施例1 検量線
以下の実施例は、本発明のプロセスを説明することを単に目的としており、本発明を限定するものではない。
【0047】
6種類の異なる鋼のサンプルが、前処理をせずに使用された。それらは、直径約2.5センチメートル、厚み1センチメートルの円柱を含む。炭素含有量が、6つの鋼の標準サンプルにおいて測定された。炭素含有量は、0.08〜0.50%において様々であった。
【0048】
サンプルは、より大きな標本群からランダムに採取された。その標本群には、複数の製造日のもの及び大気環境にさらされた程度の異なる複数のものが含まれていた。
【0049】
本発明により分析された金属材料の仕様を表1に提示している。
【0050】
前述したように、蛍光X線スペクトルを得るために、サンプルは、前処理なしにロジウムX線源の多色放射にさらされた。使用されたのは、市販の装置、Shimadzu EDX 700であった。照射時間は100秒、印加電圧は50kV、電流は可変であった。
【0051】
サンプルの代表性を高めるために、サンプルの1つにつき、2つの異なる面に照射された。照射された面を変化させることによっても、結果は全く同様であることが判明し、したがって材料の均質性が確認された。
【0052】
図1は、6つの鋼サンプルの各々に対する蛍光X線の重畳スペクトルを示す。典型的な線及び/又は帯域、並びに散乱源の線及び/又は帯域が示されている。計量化学に使用されるスペクトル領域は、5.412keV(Κα Cr)〜22.0keVの範囲である。
【0053】
各行が各サンプルのスペクトルに対応し、各列がそれらのエネルギー値に対応するようにデータ・マトリックスが構築された。データ前処理では、マトリックスを平均値にセンタリング(centerring)する。市販のソフトウェアMathlab 6.5及びThe Unscrambler 9.5を使用して、予備分析はPCAによってなされ、検量はPLSよってなされた。
【0054】
データ予備分析には、主成分分析(PCA)及び階層的クラスタ分析(HCA)用のアルゴリズムを使用した。多変量データ検量には、部分最小二乗法(PLS)及び主成分回帰分析(PCR)用のアルゴリズムを使用した。
【0055】
分析方法は交差検定法(cross−validated)による。この検定法は、サンプルの個数だけ分析を繰り返すステップと、1つのサンプルを抜き出すステップと、他の残りのサンプルを処理するステップとを含む。次いで、第2のサンプルが抜き出され、第1のサンプルは標本群に戻される。この手順は、全てのサンプルが抜き出され、標本群に戻されるまで繰り返される。
【0056】
図2は、蛍光X線スペクトルの計量化学データ処理後の6つの鋼サンプルの得点(score)のプロットを示す。第1主成分(PC1)により、グループAで表わされた合金鋼のサンプル(低PC1値)が、グループBで表わされた炭素鋼のサンプル(高PC1値)から分離されていることが、この図から分かる。また、垂直軸の第2主成分(PC2)により、炭素含有量によってサンプルが並べられていることが、この図から分かる。すなわち、低いPC2値は含有量が高く、高いPC2値は含有量が低くなっている。
【0057】
主成分分析の2つの主成分が、分散の99.85%を説明し、同等のパターンの特定を可能にし、低炭素含有量のサンプルを高炭素含有量のサンプルから識別した。得点プロット(
図2)は、PC2において漸増する(crescent)炭素含有量により順序付けられたサンプルを示している。この例証的で非限定的な実施例において、本方法によって直接、定量的に、高精度で炭素含有量を求めることが可能であることを示している。
【0058】
散乱源及び鉄、クロム及びモリブデンの蛍光を含むスペクトル領域内で適用された回帰部分最小二乗法は、炭素含有量を定量するための検量を相関係数(r)0.98のオーダーで構築することが可能であったことを示している。使用された方法は、交差検定法であった。
【0059】
図3は、本発明プロセスにより測定された値と鋼サンプルの炭素含有量仕様値(表1)との関係を示し、高い相関関係(r=0.998)を示している。
【0060】
実施例2 サンプルの炭素含有量の定量
鋼サンプルの炭素含有量を定量するために本発明により開発されたプロセスを使う場合、従うべき手順は以下に記載の通りである。
【0061】
a)サンプルに照射することによって蛍光X線スペクトルを取得する。
ここに示される説明のための実施例では、Shimadzu EDX 700の蛍光X線装置を使用したが、これに限定されるものではない。標準サンプルを、前処理なしにロジウムX線源の多色放射にさらした。サンプルのスペクトルを得るために同一手順を行うべきである。測定は、各サンプルに対して3回実行するべきである。分析されるスペクトル領域は、5.412keV〜22.0keVとするべきである。
【0062】
b)取得したデータの数学的処理を実行する。
適切なソフトウェアを使用する。実施例1で説明した手順に従う。
【0063】
c)炭素含有量を直接定量するために、標準サンプルから構築され、適正に検定された検量線を使用する。
【0064】
このステップにおいて、PLS(部分最小二乗法)又はPCR(主成分回帰分析)のアルゴリズムが使用される。
【0065】
d)検量アルゴリズム、すなわちPLS又はPCRに既に組み込まれている統計的技術を使用して定量の信頼性レベルを計算する。
【0066】
したがって、従来は考慮されなかったスペクトル領域をこの技術に使用して、信頼性のある材料特性情報を得られることが明らかである。更に驚くべきことに、現在使用されているプロセスよりも高い確度及び精度で合金鋼の炭素含有量を直接定量できる。
【0067】
本発明プロセスは更なる利点を有する。(a)非破壊プロセスであること。(b)現場で適用可能であること。(c)実用的であること。(d)低コストであること。
【0068】
更に、本発明プロセスは、長時間の照射時間を必要とせず、シンクロトロン放射のような費用がかかる高強度の放射源を必要としないという利点を有し、競争力がある。
【0069】
本発明プロセスは、得られたX線スペクトルを多変量的に検量するという利点も有しており、携帯装置に適用し、現場で使用できるように発展させられる高い可能性を有している。
【0070】
【表1】
[1] ASTM A 320/A 320M−07:低温用の合金鋼及びステンレス鋼ボルト材料の標準仕様
[2] ASTM A 29/A 29M−05:棒鋼、炭素及び合金、高温鍛鋼の標準仕様、一般的要件
[3] ASTM A 283/A 283−03:低位及び中位の引張強度を有する炭素鋼板の標準仕様
[4] ASTM A 36/A 36M−05:構造用炭素鋼の標準仕様