特許第5740174号(P5740174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740174
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】溶湯接触形の断熱れんが壁
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/16 20060101AFI20150604BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20150604BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   F27D1/16 Q
   F27D1/00 D
   F27D1/00 N
   B22D41/02 D
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-33346(P2011-33346)
(22)【出願日】2011年2月18日
(65)【公開番号】特開2012-172870(P2012-172870A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】寺島 敏一
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−011253(JP,U)
【文献】 実開昭63−113899(JP,U)
【文献】 特開平04−009592(JP,A)
【文献】 特開昭55−003539(JP,A)
【文献】 特開平11−131128(JP,A)
【文献】 特開平11−131129(JP,A)
【文献】 特開2007−002269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00 − 1/18
B22D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の複数の第1れんがと、ドロマイト系の複数の第2れんがとを組み付けて形成され、金属溶湯と接触する溶湯接触面を形成する耐熱れんが壁であって、
溶湯接触面において、複数の前記第1れんがを直線で結ぶ方向において、2〜5個連続して並設された前記第1れんがで形成された組の間において、1個の前記第2れんがが配置され、
前記直線で結ぶ方向と直交する直交方向において隣接された前記第1れんが及び前記第2れんがからなる各れんがは千鳥配列で配置されており、
前記第2れんがの外縁の周囲は前記第1れんがで包囲されていることを特徴とする溶湯接触形の断熱れんが壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯が接触する断熱れんが壁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、金属溶湯を溜める炉体に内張されている耐熱れんが壁は、マグネシア・クロム系等の耐溶損性が優れた複数のれんがを組み付けて形成されている(例えば、特許文献1)。しかしマグネシア・クロム系等の耐溶損性が優れたれんがは、耐溶損性が優れているものの、コストが高い。このため、炉のうち耐熱性が特に要請される領域は、マグネシア・クロム系等の耐溶損性が優れたれんがを連続させて組み付けて形成するものの、炉のうち耐熱性が特に要請されない領域は、マグネシア・クロム系等の耐溶損性が優れた高価なれんがではなく、ドロマイト等の廉価なれんがを連続させて組み付けて形成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−2269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した技術によれば、炉のうち耐熱性が特に要請されない領域は、ドロマイト等の安いれんがを連続させて組み付けて形成している。この領域はかなり広い面積であり、個別のれんがの大きさという敷設レベルではない。このような技術によれば、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高めには限界がある。本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、個別のれんがの大きさという敷設レベルにおいて、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高めることができる溶湯接触形の耐熱れんが壁を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明者は、鉄系(溶鋼および溶銑を含む)、アルミニウム系、銅系、チタン系といった金属溶湯に接触する溶湯接触形の耐熱れんが壁について鋭意開発を進めている。そして本発明者は、溶湯接触形耐熱れんが壁において、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の複数の第1れんがと、ドロマイト系の複数の第2れんがとを耐熱れんが壁を組み付けて形成し、耐熱れんが壁の溶湯接触面において、複数の第1れんがを直線で結ぶ方向において、1個または2個の第2れんがが、耐溶損性が優れた第1れんが間に配置されている敷設構造を採用すれば、耐溶損性が優れた第1れんがに、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんがが短距離で接近するため、耐溶損性が低めの第2れんがは、耐溶損性が優れた第1れんがの成分の影響を受け易くなり、結果として、耐熱れんが壁が金属溶湯と長時間にわたり接触したとしても、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんがの溶損が抑制され、第2れんがの残厚は確保され易くなるものと推察した。
【0006】
(2)本発明に係る溶湯接触形の耐熱れんが壁は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の複数の第1れんがと、ドロマイト系の複数の第2れんがとを組み付けて形成され、金属溶湯と接触する溶湯接触面を形成する耐熱れんが壁であって、溶湯接触面において、複数の第1れんがを直線で結ぶ方向において、2〜5個連続して並設された第1れんがで形成された組の間において、1個の第2れんがが配置され、前記直線で結ぶ方向と直交する直交方向において隣接された第1れんが及び第2れんがからなる各れんがは千鳥配列で配置されており、第2れんがの外縁の周囲は第1れんがで包囲されていることを特徴とする。
【0007】
複数のマグネシア・クロム系の第1れんがを直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、第1れんがおよび第2れんがが連続して並設されているれんが個数の合計が10個(20個)以内という敷設レベルにおいて、耐溶損性が優れた第1れんがに、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんがが短距離で接近する。このため、耐熱れんが壁と金属溶湯とが接触しているとき、耐溶損性が低めの第2れんがは、耐溶損性が優れた第1れんがの成分の影響を受け易くなる。結果として、耐熱れんが壁が金属溶湯と長時間にわたり接触したとしても、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんがの溶損が抑制され、第2れんがの残厚は確保され易くなるものと推察される。
【0008】
第1れんがはマグネシア・クロム系であり、優れた耐溶損性を有するが、コストが高い。第2れんがはドロマイト系であり、マグネシア・クロム系よりは耐溶損性が低下しているものの、コストが安い。第1れんがおよび第2れんがのサイズは基本的には同じにできる。第1れんがのサイズは、特に限定されるものではないが、図2において、aは50〜300ミリメートル,bは50〜150ミリメートル,cは100〜1000ミリメートルが例示される。但し寸法はこれに限定されるものではない。a,bは溶湯接触面を形成する。cは奥行きを形成する。本発明の溶湯接触形の断熱れんが壁では、溶湯接触面において、複数の第1れんがを直線で結ぶ方向と直交する直交方向において隣設された第1れんが及び第2れんがからなる各れんがは千鳥配列で配置されている。千鳥配列させる敷設構造であれば、耐溶損性が充分ではない第2れんがが、耐溶損性が高い第1れんがと短距離で接近する。このため、耐溶損性が低めのドロマイト系の第2れんがは、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんがの成分の影響を受ける等し、第2れんがの溶損が抑制され、第2れんが2の残厚は確保され易い。
【0009】
さらに、ドロマイト系の1個の第2れんがの周囲は、耐溶損性に優れたマグネシア・クロム系の第1れんがで包囲され、ドロマイト系の1個の第2れんがは1個のみで孤立する。この場合、ドロマイト系の1個の第2れんがの耐溶損性が改善される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める溶湯接触形の耐熱れんが壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】参考例1に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図2】参考例1に係り、第1れんがの概念図である。
図3】参考例2に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図4参考例3に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図5実施形態1に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図6参考例4に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図7参考例5に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図8参考例6に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図9参考例7に係り、耐熱れんが壁の概念図である。
図10実施形態2に係り、耐熱れんが壁を内張した炉の概念図である。
図11】試験例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ドロマイトれんがは一般的には質量比でCaO含有量が10%以上、MgO含有量は35%以上であり、場合によっては少量のSiO、Al、Feなどを含有することがある。マグネシア・クロム質耐火れんがは、マグネシアにクロム酸化物(Cr)を含有するれんがであり、質量比でマグネシアが50%以上含有する。マグネシア・クロム質耐火れんがにおいてクロム酸化物は質量比で4%以上含有されており、4〜40%、または、15〜30%含有されていることが多い。
【0013】
横方向(矢印H方向)において、耐溶損性が高いマグネシア・クロム系の第1れんがの群において、ドロマイト系の第2れんがの周囲は、耐溶損性が高い第1れんがで包囲されており、単位領域あたり、第2れんがは複数の第1れんがで包囲されて、横方向(矢印H方向)において1個または2個として孤立していることが好ましい。また、縦方向(矢印P方向)において、ドロマイト系の第2れんがは複数の第1れんがで包囲されて、1個のみ、または、2個のみで孤立していることが好ましい。この場合、ドロマイト系の第2れんがの孤立性が高くなるため、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんがは、耐溶損性が高いマグネシア・クロム質第1れんがの影響を受け易くなる。更に、横方向(矢印H方向)および縦方向(矢印P方向)において、ドロマイト系の第2れんがは1個のみ、または、2個のみで孤立していることが好ましい。この場合、ドロマイト系の1個の第2れんがの耐溶損性は改善される。要するに、第2れんがは複数の第1れんがで包囲されて、連続並設性が低下していることが好ましい。
【0014】
(参考例1)
図1参考例1の概念を示す。図1に示すように、耐熱れんが壁3は、溶鋼や溶銑等の溶湯と接触する溶湯接触面30を形成する。溶湯接触面30において、横方向(矢印H方向,水平方向に相当)において、マグネシア・クロム系のNm個(Nm=1)の第1れんが1(定形れんが)と、ドロマイト系のNd個(Nd=1)の第2れんが2(定形れんが)が1個づつ個別に交互に配置されている。また、縦方向(矢印P方向,高さ方向に相当)において、れんがは千鳥配列で配置されている。
【0015】
図1に示すように、縦行Aの第1れんが1の上面1uは、その上の縦行Aの第1れんが1の下面1dと縦行Aの第2れんが2の下面2dとに対面する。縦行Aの第1れんが1の下面1dは、その下の縦行Aの第1れんが1の上面1uと縦行Aの第2れんが2の上面2uとに対面する。また、図1に示すように、縦行Aの第2れんが2の上面2uは、その上の縦行Aの第1れんが1の下面1dと縦行Aの第2れんが2の下面2dとに対面する。縦行Aの第2れんが2の下面2dは、その下の縦行Aの第1れんが1の上面1uと縦行Aの第2れんが2の上面2uとに対面する。このようにマグネシア・クロム系の第1れんが1と、ドロマイト系の第2れんが2(定形れんが)とが水平方向(矢印H方向)にずらしつつ、縦方向(矢印P方向)に千鳥配列で配置されている。
【0016】
第1れんが1はマグネシア・クロム系であり、マグネシアおよびクロム酸化物を主要原料としており(質量比50%以上がマグネシア)、コストが高い。クロムはクロム酸化物を意味する。第2れんが2はドロマイト系であり、マグネシア・クロム系よりは耐溶損性が低下しているものの、コストが安い。基本的には、第1れんが1および第2れんが2は同じサイズとして形成されている。第1れんが1および第2れんが2は焼成されていることが好ましい。
【0017】
第1れんが1のサイズは、特に限定されるものではないが、図2において、aは50〜300ミリメートル,bは50〜150ミリメートル,cは100〜1000ミリメートルが例示される。a,bは溶湯接触面30を形成する。cは奥行き(厚み)を形成する。第1れんが1は、必要に応じて、他の成分としてAl、Fe、CaO、SiOのうちの少なくとも1種を0.1〜15質量%含むことができる。第2れんが2は、必要に応じて、他の成分としてAl、Fe、SiOのうちの少なくとも1種を0.1〜10質量%含むことができる。本参考例は、AOD炉、取鍋等の炉の耐熱壁に適用できる。
【0018】
本参考例によれば、上記したように図1に示すように第1れんが1および第2れんが2を千鳥配列状に敷設されている。このため、縦行Aにおいて、矢印H方向において、第2れんが2および第1れんが1は交互に配置されており、第2れんが2は第1れんが1に接近している。縦行Aにおいては水平方向(矢印H方向)に沿って更にずらして配置する。縦行Aにおいては矢印H方向に更にずらして配置する。この場合、耐熱れんが壁3が金属溶湯と接触する時間が長くなると、ドロマイト系の第2れんが2は本来的には耐溶損性が低いものであり、ドロマイト系の第2れんが2の残厚は本来的には確保されにくいものである。しかし本参考例のように、図1に示す千鳥配列させる敷設構造であれば、耐溶損性が充分ではない第2れんが2が、耐溶損性が高い第1れんが1と短距離で接近する。このため、耐溶損性が低めのドロマイト系の第2れんが2は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1の成分の影響を受ける等し、第2れんが2の溶損が抑制され、第2れんが2の残厚は確保され易い。
【0019】
なお、図1から理解できるように、千鳥配列といえども、矢印P方向においては、第2れんが2は複数個連続して配置されていることになる。しかし図1に示すように第2れんが2は第1れんが1に接近しつつ隣設されている。このため、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんが2は、耐溶損性が優れた第1れんが1の影響を受け、第2れんが2の耐溶損性は改善されるものと思料される。
【0020】
(参考例2)
図3参考例2の概念を示す。図3に示すように、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系のNm個(Nm=2)の第1れんが1と、ドロマイト系のNd個(Nd=2)の第2れんが2が交互に配置されている。縦方向(矢印P方向)においてれんがは千鳥配列で配置されている。第1れんが1はマグネシア・クロム系であり、優れた耐溶損性を有するが、コストが高い。第2れんが2はドロマイト系であり、マグネシア・クロム系よりは耐溶損性が低下しているものの、コストが安い。基本的には、第1れんが1および第2れんが2は同じサイズとして形成されている。第1れんが1および第2れんが2は焼成されていることが好ましいが、場合によっては非焼成れんがでも良い。本参考例は、AOD炉、取鍋等の炉の耐熱壁に適用できる。本参考例のような敷設構造であれば、矢印H方向および矢印P方向において、耐溶損性が充分ではない第2れんが2が、耐溶損性が高い第1れんが1と短距離で接近する。このため、耐溶損性が必ずしも充分ではないドロマイト系の第2れんが2は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1の成分の影響を受ける等し、結果として、第2れんが2の溶損が抑制され、第2れんが2の残厚は確保され易い。コストを低減させつつ、溶鋼や溶銑等の金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0021】
なお、図3から理解できるように、千鳥配列といえども、矢印P方向においては、第2れんが2は複数個連続して配置されていることになる。しかし図3に示すように第2れんが2は第1れんが1に接近しつつ隣設されている。このため、耐溶損性が必ずしも充分ではない第2れんが2は、耐溶損性が優れた第1れんが1の影響を受け、第2れんが2の耐溶損性は改善されるものと思料される。
【0022】
(参考例3)
図4参考例3の概念を示す。本参考例は基本的には参考例1と同じ構成を有する。図4に示すように、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系のNm個(Nm=2)の第1れんが1と、ドロマイト系のNd個(Nd=1)の第2れんが2が交互に配置されている。すなわち、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の2個の第1れんが1と、ドロマイト系の1個の第2れんが2が交互に配置されている。更に、縦方向(矢印P方向)の縦段が異なると、横方向(矢印H方向)にずらされている。この結果、第1れんが1および第2れんが2は、千鳥配列の1態様を示す。
【0023】
ここで、図4に示すように、複数のマグネシア・クロム系の第1れんが1を水平方向に沿って直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、2個(複数個)以上連続して並設された第1れんが1で形成された第1れんが1の組1wが配置されている。図4に示すように、隣設する組1wの間において、ドロマイト系の1個(単数)の第2れんが2が配置されている。基本的には、第1れんが1および第2れんが2は同じサイズとして形成されている。
【0024】
このような本参考例によれば、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、複数のマグネシア・クロム系の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、第1れんが1および第2れんが2が連続して並設されているれんが個数の合計が10個以内という敷設レベルにおいて、2個(Nm=2)連続して並設された第1れんが1で形成された組1wが配置されている。矢印H方向に隣設する組1w間において、ドロマイト系の1個の第2れんが2が配置されている。図4に示すように、ドロマイト系の1個の第2れんが2の外縁21,22,23,24の周囲は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1で包囲されている。従って、図4に示すように、横方向(矢印H方向)および縦方向(矢印P方向)において、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第2れんが2の群においてドロマイト系の第2れんが2は1個(単数)のみで孤立している。このため本参考例のような敷設構造であれば、耐溶損性が充分ではない第2れんが2は、耐溶損性が高い第1れんが1と短距離で接近することができる。このため、耐溶損性が必ずしも充分ではないドロマイト系の第2れんが2は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1の成分の影響を受ける等する。結果として、第2れんが2の溶損が抑制され、第2れんが2の残厚は確保され易い。従って、コストを低減させつつ、溶鋼や溶銑等の金属溶湯に対して耐溶損性を高めることができる。このような本参考例によれば千鳥配列の1態様を形成でき、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。なお変形例としては、Nmは2個以上、3個以上、4個以上、5個以上にできる。Ndは1個または2個とすることが好ましい。
【0025】
(実施形態1)
図5実施形態1の概念を示す。本実施形態は基本的には参考例1と同じ構成、同じ作用効果を有する。耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系のNm個(Nm=3)の第1れんが1と、ドロマイト系のNd個(Nd=1)の第2れんが2とが交互に配置されている。すなわち図5に示すように、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の3個(複数)の第1れんが1と、ドロマイト系の1個(単数)の第2れんが2とが交互に配置されている。更に矢印P方向における段が変更されると、交互配置形態を矢印H方向においてずらせる。この場合、水平方向(矢印H方向)において、れんが1,2の半分ずらせることが好ましい。このようにして千鳥配列の1態様が形成される。
【0026】
図5に示すように、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の複数の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、3個(Nm=3)連続して並設された第1れんが1で形成された組1wが配置されている。図5に示すように、隣設する組1w間において、ドロマイト系の1個の第2れんが2が配置されている。この結果、図5に示すように、ドロマイト系の1個の第2れんが2の外縁21,22,23,24の周囲(四方)は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1で包囲されている。従って、図5に示すように、横方向(矢印H方向)および縦方向(矢印P方向)において、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1の群において、ドロマイト系の1個の第2れんが2はその周囲をマグネシア・クロム系の第1れんが1で包囲されつつ、1個(単数)で孤立している領域が形成されている。このため矢印H方向および矢印P方向においても、ドロマイト系の1個(単数)の第2れんが2は、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1に短距離で接近している。このためドロマイト系の1個の第2れんが2の耐溶損性は改善される。
【0027】
このような本実施形態によれば、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、複数のマグネシア・クロム系の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、第1れんが1および第2れんが2が連続して並設されている個数の合計が10個以内という敷設レベルにおいて、N個(N=3個)連続して並設された第1れんが1で形成された組1wが配置されている。隣設する組1wの間において、ドロマイト系の1個の第2れんが2が配置されている。このような本実施形態によれば千鳥配列の1態様を形成でき、コストを低減させつつ、溶鋼や溶銑等の金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0028】
(参考例4)
図6参考例4の概念を示す。本参考例は基本的には参考例1と同じ構成、同じ作用効果を有する。図6に示すように、縦行A,Aでは、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の2個の第1れんが1の組1wと、ドロマイト系の1個の第2れんが2とが交互に配置されている。その上側の縦行Aでは、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の1個の第1れんが1と、ドロマイト系の1個の第2れんが2とが交互に配置されている。
【0029】
図6に示すように、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、耐溶損性が優れたマグネシア・クロム系の複数の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、2個(Nm=2)連続して並設された第1れんが1で形成された組1wが配置されている。隣設する組1w間において、ドロマイト系の1個の第2れんが2が配置されている。このような本参考例によれば千鳥配列の1態様を形成でき、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0030】
(参考例5)
図7参考例5の概念を示す。本参考例は基本的には参考例1と同じ構成、同じ作用効果を有する。図7に示すように、縦行A,A,Aでは、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の2個(複数)連続する第1れんが1の組1wと、ドロマイト系の1個(単数)の第2れんが2とが交互に配置されている。縦行A,Aでは、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の3個(複数)連続する第1れんが1の組と、ドロマイト系の1個(単数)の第2れんが2とが交互に配置されている。このような本参考例によれば、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、複数のマグネシア・クロム系の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)において、第1れんが1および第2れんが2が連続して並設されている個数の合計が10個以内という敷設レベルにおいて、複数のマグネシア・クロム系の第1れんが1を直線で結ぶ方向(矢印W方向)に直交する直交方向に千鳥配列の1種を構成できる。このような本参考例によれば、千鳥配列の1態様を形成でき、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0031】
(参考例6)
図8参考例6の概念を示す。本参考例は基本的には参考例1と同じ構成、同じ作用効果を有する。図8に示すように、耐熱れんが壁3の溶湯接触面30において、縦列である縦行A,A,A,A……では、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の第1れんが1のみが並設されている。縦方向においてその間に位置する縦行A,A,A……では、横方向(矢印H方向)において、ドロマイト系の第2れんが2のみが並設されている。従って、縦方向(矢印P方向)において、マグネシア・クロム系の第1れんが1と、ドロマイト系の第2れんが2とが交互に配置されている。このような本参考例によれば、縦方向(矢印P方向)において、マグネシア・クロム系の第1れんが1と、ドロマイト系の第2れんが2とが交互に配置されており、千鳥配列の1態様が形成されている。従って、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0032】
(参考例7)
図9参考例7の概念を示す。本参考例は基本的には参考例1と同じ構成、同じ作用効果を有する。図9に示すように、耐熱れんが壁3の湯接触面30において、縦行A,A,A,A……では、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の第1れんが1のみが連続して並設されている。縦方向においてその間における縦行A,A,A……では、横方向(矢印H方向)において、マグネシア・クロム系の第1れんが1とドロマイト系の第2れんがとが1個(単数)づつ交互に並設されている。このような本参考例によれば、千鳥配列の1態様が形成されている。この結果、図9に示すように、ドロマイト系の1個の第2れんが2の四方の外縁21,22,23,24の周囲は、耐溶損性に優れたマグネシア・クロム系の第1れんが1で包囲されている。従って、図9に示すように、マグネシア・クロム系の第1れんが1の群において、横方向(矢印H方向)および縦方向(矢印P方向)において、ドロマイト系の第2れんが2は1個(単数)のみで孤立している。このため後述する試験例によれば、ドロマイト系の孤立した1個の第2れんが2の耐溶損性は改善される。従って、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0033】
(実施形態2)
図10実施形態2の概念を示す。本実施形態は基本的には実施形態1と同じ構成、同じ作用効果を有する。図10はAOD炉100を示す。この炉100は、金属製の容器状の炉体101と、炉体101の内側に内張りされた耐熱れんが壁200と、耐熱れんが壁200の下部に設けられアルゴンガスや窒素ガス等のガスを吹き込む吹込通路300とを有する。耐熱れんが壁200は側壁210と底壁240とで形成されている。側壁210のうち吹込通路300付近の第1領域210fは使用条件が厳しく、溶損が発生しやすいため、マグネシア・クロム系の第1れんが1のみで形成されており、溶損が大きい第2れんが2は敷設されていない。これに対して、側壁210のうち吹込通路300から離れた第2領域210sでは、使用条件は吹込通路300付近ほどは厳しくないため、マグネシア・クロム系の第1れんが1とドロマイト系の第2れんが2とを敷設して形成されている。この場合、前記した実施形態1、参考例1〜7のうちのいずれかで敷設されている。このような本実施形態によれば、コストを低減させつつ、金属溶湯に対して耐溶損性を高める耐熱れんが壁3を提供できる。
【0034】
(試験例)
横軸形で回転可能な試験炉に耐熱れんが壁3を内張りして試験を実際に行った。この場合、金属溶湯(溶鋼,1750℃)を試験炉の炉室に挿入した状態で、バーナで1750℃に加熱させつつ試験炉を横軸形で20時間、試験炉の軸線回りで試験炉を連続的に回転させた。試験後に、内張されていた第1れんが1および第2れんが2の残厚を測定した。この場合、図2における中央軌跡eについて残厚を測定した。比較例では、耐溶損性が高いマグネシア・クロム系の第1れんが1を3個連続して組1wを形成し、この組を並設させて耐熱れんが壁3を形成した。比較例2では、耐溶損性が必ずしも充分ではないドロマイト系の第2れんが2を3個連続して組1rを形成し、この組1rを並設させて耐熱れんが壁3を形成した。
【0035】
本発明品に相当する試験例1は、第1れんが1の並設方向において、2個並設したマグネシア・クロム系の第1れんが1の組1wの間に、1個のドロマイト系の第2れんが2を敷設して耐熱れんが壁3を形成した。本発明品に相当する試験例2では、第1れんが1の並設方向において、2個並設したマグネシア・クロム系の第1れんが1の組1wの間に、2個のドロマイト系の第2れんが2を敷設して耐熱れんが壁3を形成した。比較例3では、2個並設したマグネシア・クロム系の第1れんが1の組1wの間に、3個のドロマイト系の第2れんが2を敷設して耐熱れんが壁を形成した。この試験において、第1れんが1のサイズは、特に限定されるものではないが、a(図2参照)は40ミリメートル,bは110ミリメートル,cは60ミリメートルとされていた。第2れんが2についても同様である。更に、第1れんが1を100%とするとき、第1れんが1は基本的には質量%でマグネシアを70%、クロム酸化物を20%含む。第2れんが2を100%とするとき、第2れんが2は基本的には質量%でマグネシアを75%、カルシアを20%含む。
【0036】
試験結果を図11に示す。図11の縦軸は第1れんが1および第2れんが2の残厚係数を示す。この場合、第1れんが1を連続して3個並設した形態である比較例に係る第1れんが1の厚みを100と相対表示したとき、各れんがの厚みを残厚係数として示す。比較例では、溶損が少なく残厚係数は100でありかなり良好であった。比較例2では、溶損が大きく、残厚係数は40であり良好ではなかった。試験例1では、残厚係数については、端の第1れんが1は100であり、中央の第2れんが2は70であり、残厚係数が40の場合(比較例2)よりも改善されていた。その理由としては、耐溶損性が低いドロマイト系の第2れんが2は、これと隣設する耐溶損性が良好なマグネシア・クロム系の第1れんが1の影響を受けたものと推定される。
【0037】
更に図11に示すように、試験例2では、残厚係数については、端の第1れんが1は100であり、中央の2個の第2れんが2は60であり、残厚係数が40の場合(比較例2)よりも改善されていた。上記したように耐溶損性が低いドロマイト系の第2れんが2の残厚係数が改善される理由としては、耐溶損性が低い第2れんが2と耐溶損性が良好な第1れんが1とが隣設するとき、耐溶損性が低い第2れんが2は、耐溶損性が良好な第1れんが1の影響を受けたものと推定される。比較例3では、残厚係数については、端の第1れんが1は100であったものの、中央の1個の第2れんが2は40であり、比較例2の場合と残厚係数が同様であった。このように第2れんが2が3個連続して並設されると、耐溶損性が低下することがわかる。
【0038】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上記したように縦方向(矢印P方向,高さ方向に相当)および横方向(矢印H方向,水平方向に相当)のうちの一方において、マグネシア・クロム系の耐溶損性に優れたNm個(複数,Nm=2以上)の第1れんが1と、ドロマイト系の耐溶損性が必ずしも充分ではないNd個(Nd=1or2)の第2れんがが交互に配列で配置されていることが好ましい。更に、当該配列は、縦方向および横方向のうちの他方においてずらして敷設されることが好ましい。このような千鳥配列を形成しても良い。単位面積あたりの敷設密度としては、第2れんが2の敷設密度よりも第1れんが1の敷設密度を相対的に高くすることができる。上記した各実施形態において矢印P方向は高さ方向に相当し、矢印H方向は水平方向に相当するが、これに限らず、矢印P方向を水平方向(横方向)に相当し、矢印H方向を高さ方向(縦方向)に相当するようにしても良い。本明細書から次の技術的思想も把握できる。
【0039】
[付記項1]耐溶損性が優れた複数の第1れんがと、第1れんがよりも耐溶損性が低い複数の第2れんがとを第1組み付けて形成され、金属溶湯と接触する溶湯接触面を形成する耐熱れんが壁であって、溶湯接触面において、複数の第1れんがを直線で結ぶ方向において、1個または2個の第2れんがが第1れんが間に配置されていることを特徴とする断熱れんが壁。
【0040】
この場合、第1レンガは、第2れんがよりも耐溶損性が優れたものであり、マグネシア・クロム質れんがの他に、マグネシア・スピネル質れんがが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は例えばAOD炉、取鍋等の炉の耐熱壁に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1は第1れんが、2は第2れんが、3は断熱れんが壁、30は溶湯接触面を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11