(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スクレーパ部材は、前記後行トンネルまたはその前方に配置される掘削機に形成された収容穴に収容されており、前記収容穴内での前記スクレーパ部材の設置位置を変更する設置位置変更機構を備え、
前記設置位置変更機構は、前記スクレーパ部材の全体が前記後行トンネルの外表面よりも内側になる格納位置と、前記スクレーパ部材の先端部が前記後行トンネルの外表面から突出する使用位置との間で前記スクレーパ部材を移動させる
ことを特徴とする請求項1に記載のトンネル間土砂除去装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るトンネル間土砂除去装置Gについて、止水構造Wと合わせて、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態において、「前」および「後」は、推進工法によるトンネル掘削時の推進方向を基準としている。なお、
図4乃至
図6においては、後行トンネル10aが下側になるように図示している。
【0017】
図9に示すように、止水構造Wは、推進工法によって並設された複数本のトンネル10を利用して築造する大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル10,10,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各トンネル10は、軸方向に連接されたトンネル函体によって構成されている。
【0018】
止水構造Wは、弾性シール部材(シール部材)30を備えてなる。
図2に示すように、弾性シール部材30は、隣り合う二つのトンネル10,10の隙間を閉塞するように設けられている。弾性シール部材30は、一方のトンネル10(後行トンネル10a)の表面のうち、他方のトンネル10(先行トンネル10b)に対向する部分に設けられている。弾性シール部材30は、後行トンネル10aの外周面に形成されたシール収容溝15に収容されている。弾性シール部材30は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材30は、推進方向に沿って連続して設けられている。弾性シール部材30は、ベース部31とリップ部32とを備えてなる。
【0019】
ベース部31は、後行トンネル10aに固定される部分であって、推進方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って連続する長尺の板状に形成されている。ベース部31は、押さえ板33によって、幅方向両端部が係止されている。ベース部31の幅方向端部(押さえ板33によって押さえられる部分)の厚さ寸法は、押さえ板33とシール収容溝15の底面との距離よりも僅かに大きくなっている。押さえ板33は、弾性シール部材30の長手方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って延在しており、ボルトB等の固定手段によって、シール収容溝15の底面に固定されている。押さえ板33には、ボルト貫通孔34が形成されている。ボルトBは、ボルト貫通孔34から、ボス部35、シール収容溝15の底面の貫通孔36を挿通して、底面の裏面に溶接固定されためねじ部材37に螺合される。これによって、ベース部31は、押さえ板33によって幅方向両端部が係止されて締め付けられ、ベース部31がシール収容溝15の底面に密着することとなる。したがって、後行トンネル10aの表面とベース部31との間のシール性が確保される。
【0020】
リップ部32は、ベース部31と一体的に形成されている。リップ部32は、ベース部31の表面から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がっており(
図2中、二点鎖線にて示す)、ベース部31とリップ部32とで、断面が略V字状を呈している。リップ部32は、ベース部31に対して弾性的に傾倒変形可能な部位である。リップ部32は、その先端部が先行トンネル10bに対向して延在しいて、
図2中、二点鎖線にて示す初期状態よりも傾倒した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触する。このとき、リップ部32は、初期状態に復元しようとする力によって、先行トンネル10bに向かって弾性的に付勢する。
【0021】
さらに、弾性シール部材30は、リップ部32の先端が大断面トンネル1(
図9参照)の外側に向くように配置されている。つまり、ベース部31とリップ部32とにより形成される断面略V字状の溝条が、大断面トンネル1の外側に向いて開くように配置されている。これによって、弾性シール部材30の断面略V字状の溝条部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧または土圧)が作用するようになっている。すなわち、リップ部32は、その復元力に合わせて、大断面トンネル1の外側の圧力によっても先行トンネル10bの外表面に押圧されて、先行トンネル10bに密着する。
【0022】
シール収容溝15は、掘削機K(
図8参照)の後方に位置する複数の推進函体からなる後行トンネル10aの表面に形成されている。シール収容溝15は、後行トンネル10aの表面のうち、先行トンネル10bに対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。シール収容溝15は、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部の内側に、溶接固定された側板16a,16aと底板16bとで区画されている。シール収容溝15は、弾性シール部材30を収容できるように、弾性シール部材30の幅寸法より僅かに大きい幅寸法を有している。
図2および
図3に示すように、シール収容溝15は、ベース部31の厚さ寸法より大きく、弾性シール部材30全体の厚さ寸法より小さい深さ寸法を有しており、弾性シール部材30をシール収容溝15に収容したときにリップ部32の先端側(ベース部31につながる基端側の逆側)の一部が、シール収容溝15の開放端から突出するようになっている。
【0023】
なお、シール部材は、本実施形態では、弾性シール部材30であって、断面略V字状に形成されているが、弾性シール部材30の構成を限定する趣旨ではない。例えば、断面U字状、L字状、T字状等、他の形状であってもよい。また、シール部材の構成は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、袋体の内部に流体を充填して先行トンネルに押圧される構成のものであってもよい。
【0024】
弾性シール部材30の推進方向前方には、トンネル間土砂除去装置Gが設けられている(
図1、
図3および
図8参照)。トンネル間土砂除去装置Gは、
図4に示すように、弾性シール部材30の前端部(推進方向前端部)の前方に設けられるスクレーパ部材50と、このスクレーパ部材50を先行トンネル10bに向けて出没させる出没手段70と、を備えている。スクレーパ部材50は、後行トンネル10aの外表面に形成された収容穴55に出没可能に収容されている。スクレーパ部材50は、収容穴55内でのスクレーパ部材50の設置位置を変更する設置位置変更機構77を備えている。なお、以下の説明において、スクレーパ部材50の先端側および基端側は、出没方向を基準として、先行トンネル10b側部分を先端側とし、収容穴55の奥側を基端側とする。
【0025】
スクレーパ部材50は、
図3に示すように、断面矩形(本実施形態では断面長方形)形状を呈する箱状に形成されている。スクレーパ部材50は、断面矩形の角部が直角の先端部52と、断面矩形の角部が円弧状に面取りされた基端部53とを備えている。スクレーパ部材50は、先端部52と基端部53を、それぞれ鉄板を箱状に組み合わせて形成し、これらを固定することで構成されている。先端部52は、収容穴55から突出する部分であり、基端部53は、後記する枠体56内に出没可能に収容される部分(後記するシール材57に対して摺動する部分)である。基端部53が収容穴55から突出することはなく、先端部52が枠体56内に没入することはない。先端部52の先行トンネル10b側には、弾性部材層51が設けられている。弾性部材層51は、先行トンネル10bの表面を保護するとともに、後行トンネル10aの先行トンネル10bに対する傾斜を吸収するためのものである。弾性部材層51は、弾性シール部材30と同様に、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性部材層51は、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して許容角度の範囲で傾斜(後行トンネル10aの表面と先行トンネル10bの表面とが平行でない状態)した際に、鉄板が先行トンネル10bの表面に当接しない厚さに形成されている。このような構成によれば、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して傾斜したときに、弾性部材層51の先端面が先行トンネル10bの外表面に対して傾斜するが、弾性部材層51は、先行トンネル10bの外表面に押し付けられて弾性変形するので、先行トンネル10bの表面に面接触することとなる。これによって、スクレーパ部材50は、常に先行トンネル10bの表面に隙間をあけずに当接することができる。
【0026】
スクレーパ部材50の基端部53の基端面(収容穴55の奥側端面)には、
図4に示すように、出没方向に延在するガイドロッド60が設けられている。ガイドロッド60は、スクレーパ部材50が出没方向に沿って出没するように案内する部材である。ガイドロッド60は、円柱状を呈して形成されておリ、スクレーパ部材50の基端面の中心部(対角線の交点)に、基端面に直交して(法線に沿って)固定されている。ガイドロッド60の表面には、スクレーパ部材50の出没量を、確認するための標尺79が設けられている。標尺79は、後記する支持板72に対するスクレーパ部材50の相対位置を読み取るための目盛りである。この目盛りを読み取ることで、支持板72の設置位置からスクレーパ部材50の出没量を算出することができる。ガイドロッド60には、スクレーパ部材50が収容穴55から抜け出すのを防止するための抜出し防止部材78が取り付けられている。抜出し防止部材78は、ガイドロッド60の外周面に固定された鍔状のリング部材にて構成されており、支持板72よりも函体内部側に位置している。ガイドロッド60が抜け出しそうになったときに、抜出し防止部材78が支持板72の底面に当接して係止されることで、スクレーパ部材50が係止される。
【0027】
図1に示すように、スクレーパ部材50の前面の法線P1は、先行トンネル10b側から見て後行トンネル10aの推進方向に対して傾斜している。すなわち、後行トンネル10aの表面に平行な直線であって、シール収容溝15の幅方向(弾性シール部材30の幅方向)に対して傾斜する直線を基準線Qとしたとき、スクレーパ部材50の前面は、基準線Qと平行である。本実施形態では、スクレーパ部材50の断面長方形の一方の対角線L3が、弾性シール部材30の幅方向に対して概ね平行になるようになっている。なお、スクレーパ部材50の前面は、断面長方形の前方側の長辺L1を含む面50aと、前方側の短辺L2を含む面50bとから構成されているが、本実施形態の面50aと面50bは、いずれも上記の条件を満たしている。スクレーパ部材50は、面50aと面50bの接続部(角部)が推進方向の前端となる。つまり、面50aと面50bは、それぞれ弾性シール部材30の幅方向外側に向かうにつれて、推進方向位置が後方になる。これによって、スクレーパ部材50が推進すると、土砂を弾性シール部材30の幅方向両側に掻き分けることができる(
図7の(c)の太線二点鎖線の矢印参照)。なお、
図7の(c)において、「55a」は、収容穴55を区画するプレートを示す。
【0028】
スクレーパ部材50は、
図4に示すように、その軸線方向(スクレーパ部材50の出没方向)が後行トンネル10aの表面に直交する線P2に対して傾斜するように配置される。具体的には、スクレーパ部材50の出没方向の先端側(先行トンネル10b側)が、基端側(後行トンネル10a側)よりも推進方向の後方に位置するように傾斜して配置されている。つまり、スクレーパ部材50は、推進方向の後方に傾斜した状態で配置され、スクレーパ部材50の先端面の法線P3が斜め後方を向くようになっている。
【0029】
収容穴55は、後行トンネル10aの表面に函体の内側に向けて形成されている。収容穴55は、傾斜するスクレーパ部材50と同じ軸方向に傾斜して形成されている。収容穴55は、スクレーパ部材50の先端部52よりもひと回り大きい断面長方形形状を呈している。収容穴55の奥には、スクレーパ部材50の基端部53を囲う枠体56が設けられている。
【0030】
枠体56は、スクレーパ部材50の基端部53よりひと回り大きい断面長方形形状(角部が面取りされている)を囲う筒状に形成されている。枠体56の先端面は、収容穴55を構成する周壁の基端面に当接している。函体の内部側となる枠体56の基端部は、拡径しており、後記するボルトネジ73を螺合させるネジ孔58が形成されている。
【0031】
図4および
図7に示すように、枠体56の内周には、シール材57が設けられている。シール材57は、Oリングからなり、その内側をスクレーパ部材50が摺動するようになっている。シール材57は、枠体56の先端側の開口端部に配置されている。なお、シール材57は、枠体56の内周に設けるのに限られるものではなく、スクレーパ部材50の基端部53の外周面に設けるようにしてもよい。この場合、スクレーパ部材50の出没長さに応じてシール長さが決められる。
【0032】
出没手段70は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの離間距離に追従して、スクレーパ部材50を出没(進退)させる機構である。出没手段70は、バネ部材71と、バネ部材71の一端を支持する支持板72とを備えている。支持板72は、スクレーパ部材50の基端側端面と所定の間隔をあけて配置されており、スクレーパ部材50と支持板72との間に、バネ部材71が収容されている。支持板72は、枠体56の基端部から収容穴55の奥側に延出するボルトネジ73にナット74を介して固定されている。ボルトネジ73は、複数(本実施形態では6箇所)設けられており、枠体56の周方向に所定間隔をあけて形成された複数のネジ孔58にそれぞれ螺合されている。支持板72には、ボルトネジ73用の挿通孔75が形成されており、収容穴55の奥側から移動させて、ボルトネジ73を挿通孔75に挿通させる。さらにその奥側からボルトネジ73にナット74を螺合させて、ナット74によって支持板72を枠体56の基端面に締め付ける。
【0033】
なお、ナット74は、定格以上の荷重が作用すると破断するものが用いられている。これによって、万一、不測の事態によりスクレーパ部材50が出没不可能になって先行トンネル10bに過大な荷重が作用しそうになったときに、ナット74が破断して、スクレーパ部材50が収容穴55の奥に押し込まれるようになり、スクレーパ部材50が先行トンネル10bの表面を損傷することが防止される。
【0034】
ボルトネジ73とナット74は、収容穴55内でのスクレーパ部材50の設置位置(深度)を変更する設置位置変更機構77としての機能を有する。設置位置変更機構77は、スクレーパ部材50の全体が後行トンネル10aの外表面よりも内側になる格納位置(
図6参照)と、スクレーパ部材50の先端部が後行トンネル10aの外表面から突出する使用位置(
図4および
図5参照)との間で、スクレーパ部材50を移動させることができる。本実施形態の設置位置変更機構77は、出没手段70の支持板72を、収容穴55の奥側(格納位置の場合)と手前側(使用位置の場合)の間で移動させることで、スクレーパ部材50の設置位置を変更する。
【0035】
具体的には、支持板72およびナット74の固定位置は、トンネルが推進するとき(使用位置)と、スクレーパ部材50が発進エントランス17(
図6参照)を通過するとき(格納位置)とで異なる。トンネルが推進するときは、スクレーパ部材50が使用位置にセットされるべく、
図4および
図5に示すように、支持板72が、枠体56の基端面に当接した状態で固定される。このとき、支持板72は、ナット74により枠体56との間で締め付けられて固定される。一方、スクレーパ部材50が発進エントランス17を通過するときは、スクレーパ部材50が格納位置にセットされるべく、
図6に示すように、支持板72が、枠体56の基端面と隙間をあけた状態でナット74に係止されている。この状態で、バネ部材71は、圧縮されていない元の形状になっており、スクレーパ部材50の先端が、シール収容溝15の開口端部(後行トンネル10aの外側表面)から外側に突出しないようになっている。
【0036】
支持板72の中央には、ガイドロッド60用の挿通孔76が形成されている。挿通孔76は、ガイドロッド60の外径よりも若干大きい内径を備えており、ガイドロッド60が内部を移動できるようになっている。挿通孔76には、ガイドロッド60が常時挿通されており、スクレーパ部材50が出没する際には、ガイドロッド60が挿通孔76内を軸方向に移動する。このとき、ガイドロッド60の軸芯位置が略一定に保持されるので、スクレーパ部材50の出没方向が一定に保たれる。ナット74と支持板72をボルトネジ73から取り外すと、スクレーパ部材50およびバネ部材71を函体内に引き込めるように構成されている。このとき、ガイドロッド60は引込み用の治具として機能する。つまり、ガイドロッド60を把持してスクレーパ部材50を引き込むと作業を行い易い。
【0037】
バネ部材71は、コイルバネにて構成されている。バネ部材71は、本実施形態では2箇所に設けられており、スクレーパ部材50の断面長手方向に見て、ガイドロッド60の両側に配置されている。支持板72が枠体56の基端面に当接した状態で固定されたとき(トンネル推進時)は、バネ部材71は、圧縮された状態で設けられており、所定のバネ力を発揮できるように構成されている。後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して近接した状態(
図4参照)と、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して離間した状態(
図5参照)との間において、バネ部材71のバネ力は、弾性シール部材30の前方の土砂によってスクレーパ部材50が押し戻されず、且つスクレーパ部材50が先行トンネル10bの表面を損傷させない付勢力となるように設定されている。これによって、トンネルの推進中に、スクレーパ部材50は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの距離に追従して出没することとなり、スクレーパ部材50の先端部が、先行トンネル10bに当接した状態で摺動するようになっている。
【0038】
次に、
図6を参照しながら、後行トンネル10aが発進立坑および到達立坑に設けられる枠状の発進エントランス17を通過する際のトンネル間土砂除去装置Gの状態および作用を説明する。
【0039】
図6に示すように、トンネル間土砂除去装置Gが発進エントランス17を通過する際には、支持板72が、枠体56の基端面と隙間をあけた状態で固定される。この状態で、バネ部材71は、圧縮されていない元の形状になっており、スクレーパ部材50の先端が、シール収容溝15の開口端部(後行トンネル10aの外表面)から外側に突出しないようになっている(格納位置)。これによって、スクレーパ部材50の全体が後行トンネル10aの外表面よりも内側に格納される。この状態で、トンネル間土砂除去装置Gは、後行トンネル10aの外周壁面からはみ出さないので、発進エントランス17の内周面に干渉することなく、発進エントランス17を通過することができる。なお、トンネル間土砂除去装置Gの後方の弾性シール部材30は、原型(ベース部31からリップ部32が立ち上がった状態)を保ちながら、発進エントランス17に形成された切欠き部(図示せず)を通過する。
【0040】
次に、
図4および
図5を参照しながら、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して近接または離間した状態でのトンネル間土砂除去装置Gの形状および作用を説明する。
【0041】
図4および
図5に示すように、トンネル推進時には、支持板72を、枠体56の基端面に当接した状態で固定しておく。これによって、バネ部材71は圧縮された状態となり、スクレーパ部材50は、先行トンネル10b側に常時付勢された状態となり、その先端部が後行トンネル10aの外表面から突出している(使用位置)。トンネル推進時は、スクレーパ部材50の前面先端部は常に先行トンネル10bの表面に当接して摺動する。ここで、後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接すると、
図4に示すように、スクレーパ部材50が収容穴55の奥に押し込まれて、バネ部材71がさらに圧縮される。一方、後行トンネル10aが先行トンネル10bから離間すると、
図5に示すように、バネ部材71の復元力によってスクレーパ部材50が収容穴55から押し出されて突出し、スクレーパ部材50が先行トンネル10bの表面に当接した状態を保持する。
【0042】
前記したように後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接または離間した、いずれの状態であっても、スクレーパ部材50は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとの離間距離に追従して収容穴55から出没し、その先端部が先行トンネル10bに当接した状態で推進する。これによって、弾性シール部材30の前端部の前方には常にスクレーパ部材50が位置することになるので、弾性シール部材30の前方の土砂を払いのけて除去することができる。これによって、弾性シール部材30の通過位置から土砂が排除されて通過空間が形成されるので、弾性シール部材30の前端部が保護される。なお、弾性シール部材30がトンネルの側部に設けられ、土砂が比較的軟弱な場合には、押し退けられた土砂が弾性シール部材30の通過位置に土砂が流れ込むことがあるが、この土砂は、スクレーパ部材50で一旦押し退けられてほぐされているので、弾性シール部材30の強度で十分に押し退けることができる。さらに、スクレーパ部材50は、先行トンネル10bの表面に付着している土砂(掘削機Kが掘削できなかった土砂)を払いのけることができるので、弾性シール部材30と先行トンネル10bの表面との密着性が高まり、シール性能の向上を図れる。
【0043】
また、スクレーパ部材50が、出没方向の先端側が基端側よりも後行トンネル10aの推進方向の後方になるように傾斜して配置されているので、土砂に対して傾斜した状態で推進する。これによって、土砂が、スクレーパ部材50に先行トンネル10b側に斜めに押されてその位置からずれ易くなるので、弾性シール部材30の前方位置から効率的に押し退けられる。
【0044】
さらに、本実施形態では、スクレーパ部材50の長辺L1を含む面50a(
図1参照)が弾性シール部材30のリップ部32の基端側に位置し(
図3参照)、短辺L2を含む面50b(
図1参照)が弾性シール部材30のリップ部32の先端側に位置している(
図3参照)ので、リップ部32の背面(先行トンネル10bに対向する面)側に多くの土砂が押し流される。これによって、リップ部32の腹側(ベース部31と対向する側)には、少量の土砂が流れ込むだけである。流れ込んだ土砂は、シール収容溝15の端部のスペースに流れるので、リップ部32の内側には土砂が入り込まず、ベース部31とリップ部32との間に土砂が詰まってしまうことを抑制できる。
【0045】
スクレーパ部材50の前面の法線P1は、先行トンネル10b側から見て後行トンネル10aの推進方向に対して傾斜している。すなわち、後行トンネル10aの表面に平行な直線であって、シール収容溝15の幅方向(弾性シール部材30の幅方向)に対して傾斜する直線を基準線Qとしたとき、スクレーパ部材50の前面は、基準線Qと平行である。本実施形態では、スクレーパ部材50の断面長方形の一方の対角線L3が、弾性シール部材30の幅方向に対して概ね平行になるようになっている。なお、スクレーパ部材50の前面は、断面長方形の前方側の長辺L1を含む面50aと、前方側の短辺L2を含む面50bとから構成されているが、本実施形態の面50aと面50bは、いずれも上記の条件を満たしている。スクレーパ部材50は、面50aと面50bの接続部(角部)が推進方向の前端となる。つまり、面50aと面50bは、それぞれ弾性シール部材30の幅方向外側に向かうにつれて、推進方向位置が後方になる。これによって、スクレーパ部材50が推進すると、土砂がスクレーパ部材50の先端部52に押されて弾性シール部材30の幅方向両側に掻き分けられる(
図7の(c)の太線二点鎖線の矢印参照)。なお、
図7の(c)において、「55a」は、収容穴55を区画するプレートを示す。
【0046】
また、枠体56の先端部には、シール材57が設けられているので、スクレーパ部材50が出没しても、バネ部材71の収容位置や函体の内側に地下水や泥土が浸入するのを防止できる。これによって、バネ部材71に泥土が噛みこむことがなく、常に所望のバネ力を発揮できる。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、前記実施形態に係るスクレーパ部材50は、断面矩形形状に形成されているが、これに限定されるものではない。弾性シール部材30の幅方向に渡って広がる形状であれば、例えば、断面平行四辺形状、断面円形状、楕円形状、多角形状等、他の形状であってもよい。断面平行四辺形状にする場合には、短辺が推進方向に平行になるように配置するのが好ましい。また、長辺は推進方向後方に向かうにつれて、リップ部の基端側に傾斜するように配置するのがよい。
【0048】
また、前記実施形態では、スクレーパ部材50を、その軸線方向が後行トンネル10aの表面に直交する線P2に対して傾斜するように配置しているがこれに限定されるものではない。
図10に示すように、スクレーパ部材50の軸線方向が、後行トンネル10aの表面に直交する方向に沿うように、スクレーパ部材50を配置してもよい。この場合、スクレーパ部材50の先端面が、前端面から後方に向かうに連れて後行トンネル10a側に近くなるように傾斜している。スクレーパ部材50の先端部には、ブロック状の弾性部材層51が設けられている。弾性部材層51は一定の圧力で先行トンネル10bの表面に押圧される。このような構成によれば、スクレーパ部材50の先端面に傾斜をつけたことで、バネ部材71の付勢力を集中的に作用させることができる。これによって、スクレーパ部材50と先行トンネル10bとの密着性が高くなり、先行トンネル10bの表面に付着した土砂を効率的に取り除くことができる。
【0049】
さらに、スクレーパ部材50を出没させる出没手段70は、前記実施形態のようにバネ部材を用いる構成に限定されるものではなく、例えば、油圧や水圧を利用した流体圧シリンダー等を用いた他の機構を用いてもよい。流体圧機構を用いる場合は、一定の流体圧(弾性シール部材30の前方の土砂によってスクレーパ部材50が押し戻されない圧力)でスクレーパ部材を先行トンネル側に付勢しておき、流体圧が上限値(スクレーパ部材50が先行トンネル10bの表面を損傷させない圧力の上限値)以上になると開弁する安全弁を設けるようにすればよい。
【0050】
また、本実施形態では、トンネル間土砂除去装置Gをトンネル函体の前端部に設けている(
図8参照)が、トンネル函体の前方に設けられる掘削機Kに設けてもよい。この場合、掘削機Kに収容穴を形成して、そこにスクレーパ部材を収容する。