特許第5740207号(P5740207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許5740207タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
<>
  • 特許5740207-タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740207
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20150604BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20150604BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150604BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20150604BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150604BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20150604BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08L15/00
   C08K3/36
   C08K5/54
   C08K3/04
   C08L97/00
   B60C1/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-114984(P2011-114984)
(22)【出願日】2011年5月23日
(65)【公開番号】特開2012-241158(P2012-241158A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 晋作
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280807(JP,A)
【文献】 特開2009−079077(JP,A)
【文献】 特開2009−108308(JP,A)
【文献】 特開2008−308615(JP,A)
【文献】 特開2010−242023(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/059193(WO,A1)
【文献】 特開2005−220187(JP,A)
【文献】 特開2005−002259(JP,A)
【文献】 特開平11−060816(JP,A)
【文献】 特開2010−248282(JP,A)
【文献】 特開平11−060810(JP,A)
【文献】 小松公栄、山下晋三,ゴム・エラストマー活用ノート,株式会社工業調査会,1999年 8月15日,増補改訂版,第158頁、第159頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
C08J 3/00− 3/28
C08J 99/00
B60C 1/00− 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基及びカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を持つスチレンブタジエンゴム及び/又はポリブタジエンゴムからなる変性ジエン系ゴムに、シリカと、シランカップリング剤と、リグニン誘導体と、カーボンマスターバッチとを混合してなるゴム組成物であって、
前記カーボンマスターバッチは乳化重合スチレンブタジエンゴムにヨウ素吸着量が60〜130g/kgのカーボンブラックを混合してなるものであり、
前記変性ジエン系ゴムの配合量(A)に対する前記カーボンマスターバッチ中の前記乳化重合スチレンブタジエンゴムの配合量(B)の比が質量比でB/A=0.3〜0.9であり、
ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックとシリカの総量がゴム成分100質量部に対して40〜100質量部であり、かつカーボンブラックとシリカの総量に占めるシリカの割合が40〜80質量%であり、
前記リグニン誘導体の配合量がゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部である
ことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンマスターバッチ中に含まれるカーボンブラックの配合量が、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックの配合量の50質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記リグニン誘導体が、リグニンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の配合量がシリカ100質量部に対して2〜25質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンマスターバッチ中の前記乳化重合スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が前記変性ジエン系ゴムのスチレン含量よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記カーボンマスターバッチ中の前記乳化重合スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度が前記変性ジエン系ゴムのガラス転移温度よりも低いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッドに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、低燃費性に寄与する転がり抵抗性能とともに、湿潤路面におけるグリップ性能であるウェット性能を向上することが求められている。しかしながら、一般に両性能は二律背反の関係にあり、転がり抵抗性能とウェット性能の2つの特性を同時に満足させることは困難である。これら2つの特性を両立させるために、充填剤としてシリカが配合されている。シリカは、一般にゴム成分中に分散しにくいことから、シランカップリング剤を配合して分散性を向上させているが、なお分散性が不十分であり、その特性を十分に発揮し切れているとは言い難い。
【0003】
シリカの分散性を向上するために、混合エネルギーを高めたり、シリカのストラクチャーや粒子径を変更したり、更には、ジエン系ゴムに水酸基やアミノ基等を導入した変性ゴムを用いることが試みられている(例えば、下記特許文献1,2参照)。
【0004】
また、下記特許文献3には、シリカの分散性を向上させて転がり抵抗性能を改善するために、ジエン系ゴムにリグニンスルホン酸塩等のリグニン誘導体を配合することが開示されている。
【0005】
これらの従来技術では、シリカの分散性向上による転がり抵抗性能とウェット性能の向上にある程度の効果は認められるものの、その効果は必ずしも十分とは言えない。
【0006】
一方、下記特許文献4には、転がり抵抗性能とウェット性能を向上するために、ガラス転移温度の高いスチレンブタジエンゴムからなる油展ゴム成分Aと、ガラス転移温度の低いスチレンブタジエンゴムからなるゴム成分Bにカーボンブラックを混入してなり前記油展ゴム成分Aよりもムーニー粘度の高いカーボンマスターバッチと、シリカとを混合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。この文献では、シリカを含有する油展ゴム成分Aと、カーボンブラックを含有するゴム成分Bとを、ゴム組成物中にそれぞれ適度な相溶性を有しながら適度な不均一状態にて偏在させることにより、各ゴム成分の特性を発揮させると記載されている。しかしながら、ムーニー粘度の違いのみでは、シリカを油展ゴム成分Aに良好に分散させることはできず、転がり抵抗性能とウェット性能の改善効果も不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第96/23027号
【特許文献2】国際公開第03/029299号
【特許文献3】特開2009−108308号公報
【特許文献4】特開平11−60816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを改善することができるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基及びカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を持つスチレンブタジエンゴム及び/又はポリブタジエンゴムからなる変性ジエン系ゴムに、シリカと、シランカップリング剤と、リグニン誘導体と、カーボンマスターバッチとを混合してなるゴム組成物である。前記カーボンマスターバッチは、乳化重合スチレンブタジエンゴムに、ヨウ素吸着量が60〜130g/kgのカーボンブラックを混合してなるものである。前記変性ジエン系ゴムの配合量(A)に対する前記カーボンマスターバッチ中の前記乳化重合スチレンブタジエンゴムの配合量(B)の比は、質量比でB/A=0.3〜0.9である。また、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックとシリカの総量がゴム成分100質量部に対して40〜100質量部であり、かつカーボンブラックとシリカの総量に占めるシリカの割合が40〜80質量%である。そして、前記リグニン誘導体の配合量がゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部である。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、かかるゴム組成物を用いてなるトレッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンマスターバッチを用いてカーボンブラックの分散性を向上することができるとともに、リグニン誘導体と変性ジエン系ゴムの組合せによりシリカの分散性を向上することができるので、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例と比較例についての転がり抵抗性能とウェット性能の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係るゴム組成物は、(a)シリカと反応性ないし親和性のある官能基を持つ変性ジエン系ゴムに、(b)シリカと、(c)シランカップリング剤と、(d)リグニン誘導体と、(e)カーボンマスターバッチを混合してなるものである。シリカとともにリグニン誘導体を用いることで、変性ジエン系ゴム中におけるシリカの分散性を向上することができ、変性ジエン系ゴムの官能基とシリカとの相互作用により両者を効率よく結合させることができる。一方で、変性ジエン系ゴムとともにリグニン誘導体を用いたものにおいて、更に他のジエン系ゴムをブレンドした場合、当該他のジエン系ゴムにはカーボンブラックが分散しにくく、補強性が損なわれるおそれがある。これに対し、本実施形態であると、予めカーボンブラックを分散させたカーボンマスターバッチを用いることにより、変性ジエン系ゴムとブレンドするジエン系ゴム中におけるカーボンブラックの分散性を向上することができる。このように、充填剤であるシリカ及びカーボンブラックの分散性を改善することができるので、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを顕著に改善することができる。
【0015】
上記(a)の変性ジエン系ゴムとしては、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基及びカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を持つスチレンブタジエンゴム(SBR)及び/又はポリブタジエンゴム(BR)が用いられる。これらの官能基は、シリカのシラノール基(Si−OH)と相互作用があるものとして知られているものである。ここで、相互作用とは、シリカのシラノール基との間で化学反応による化学結合又は水素結合することを意味する。このような官能基を持つ変性ジエン系ゴムを用いることにより、リグニン誘導体と併用することと相俟って、分散性の向上したシリカを上記相互作用により変性ジエン系ゴムに対して効率よく結合させて、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを改善することができる。
【0016】
該官能基において、アミノ基としては、1級アミノ基だけでなく、2級アミノ基でもよい。アルキルシリル基としては、モノアルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基のいずれでもよい。アルコキシシリル基は、シリル基の3つの水素のうち少なくとも1つがアルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)で置換されたものをいい、これには、トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基が含まれる。これらの官能基は、スチレンブタジエンゴム又はポリブタジエンゴムのポリマー末端に導入されていてもよく、あるいはまたポリマー鎖中に導入されてもよい。
【0017】
このような官能基を有する変性ジエン系ゴム自体は公知であり、その製造方法等は限定されるものではない。例えば、アニオン重合で合成されたスチレンブタジエンゴム又はポリブタジエンゴムを変性剤で変性することで、上記官能基を導入してもよく、あるいはまた、上記官能基を有する単量体を、ベースポリマーを構成する単量体であるスチレンやブタジエンとともに共重合することでポリマー鎖に導入してもよい。具体的には、ヒドロキシル基変性ジエン系ゴムについては、例えば上記特許文献1に開示された方法により作製することができる。アミノ基変性ジエン系ゴムについては、例えば上記特許文献2に開示された方法により作製することができる。カルボキシル基変性ジエン系ゴムについては、例えば特開平5−255408号公報等に開示された方法により作製することができる。
【0018】
該変性ジエン系ゴムとしては、溶液重合により得られたスチレンブタジエンゴム及び/又はポリブタジエンゴムであることが好ましく、より好ましくは溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)である。かかる変性SSBRについて、スチレン含量(St)は特に限定されないが、10〜45質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜40質量%である。また、そのガラス転移温度(Tg)は−50〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは−40〜−20℃である。ここで、スチレン含量は、HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定される値である。
【0019】
上記(b)のシリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0020】
上記(c)のシランカップリング剤としては、特に限定されず、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィドなどのスルフィドシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを用いることができる。
【0021】
上記(d)のリグニン誘導体は、シリカの分散性を向上させるものであり、リグニンスルホン酸塩が好ましく用いられる。リグニンスルホン酸塩は、リグニン本来のフェノール性のヒドロキシル基とともに、スルホン酸基を有するので、シリカの分散性をより向上することができる。なお、リグニン誘導体は、サルファイトパルプ法により得られたものでもよく、また、クラフトパルプ法により得られたものであってもよいが、好ましくはサルファイトパルプ法から得られたリグニンスルホン酸塩を用いることである。リグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルコールアミン塩等が挙げられ、これらの少なくとも一種を含んで使用することができる。好ましくは、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、バリウム塩などが挙げられ、これらの混合塩でもよい。
【0022】
リグニンスルホン酸塩は、単糖類或いは多糖類などの糖類を含むものでもよい。糖類としては、木材成分のセルロース、またセルロースの構成単位であるグルコース、またはグルコースの重合体、例えば、ヘキソース、ペントース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース、アラビノース、リキソース、リボース、タロース、アルトロース、アロース、グロース、イドース、デンプン、デンプン加水分解物、デキストラン、デキストリン、ヘミセルロースなどをそれぞれ挙げることができる。リグニンスルホン酸塩中の糖類の含有量は、0〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。また、精製により糖類を除去したモノであってもよい。
【0023】
上記(e)のカーボンマスターバッチとしては、スチレンブタジエンゴムに、ヨウ素吸着量が60〜130g/kgのカーボンブラックを混合してなるものが用いられる。このようにカーボンブラックを予めスチレンブタジエンゴムに混入させてなるマスターバッチを用いることにより、カーボンブラックの分散性を向上することができる。すなわち、上記変性ジエン系ゴムを用いる場合、とりわけその官能基がシリカだけでなくカーボンブラックに対しても相互作用のあるアミノ基である場合に、シリカとともにカーボンブラックをそのまま添加すると、カーボンブラックは該変性ジエン系ゴムとブレンドする他のジエン系ゴム(スチレンブタジエンゴム)には入りにくく分散性に劣るが、予めマスターバッチ化しておくことにより、該スチレンブタジエンゴムにカーボンブラックを均一に分散させることができる。一方で、シリカは、リグニン誘導体と変性ジエン系ゴムの上記官能基によって該変性ジエン系ゴムに効果的に取り込まれ、該変性ジエン系ゴム中において均一に分散される。このように、それぞれのゴム成分に充填剤であるシリカとカーボンブラックが均一に分散化されるので、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを顕著に改善することができる。
【0024】
該カーボンマスターバッチに用いるスチレンブタジエンゴムとしては、乳化重合により得られたもの(ESBR)が好ましく用いられる。かかるESBRについて、スチレン含量(St)は、上記(a)の変性ジエン系ゴムよりも大きいことが好ましく、特に限定されないが15〜45質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。また、そのガラス転移温度(Tg)は、上記(a)の変性ジエン系ゴムよりも低いことが好ましく、特に限定されないが−60〜−35℃であることが好ましく、より好ましくは−55〜−40℃である。
【0025】
該カーボンマスターバッチに用いるカーボンブラックは、ヨウ素吸着量(IA)が60〜130g/kgであり、この範囲内のものを用いることにより、転がり抵抗性能とウェットスキッド性能のバランスを向上することができる。ヨウ素吸着量が小さすぎると、ウェット性能や耐摩耗性が低下し、逆に大きすぎると、転がり抵抗性能が低下する。ヨウ素吸着量は、より好ましくは80〜120g/kgであり、更に好ましくは100〜120g/kgである。カーボンブラックのヨウ素吸着量は、ASTM D1510に準拠して測定される。
【0026】
該カーボンマスターバッチにおいて、カーボンブラックの配合量は、特に限定されないが、スチレンブタジエンゴム100質量部に対して30〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜100質量部である。該カーボンマスターバッチには、プロセスオイルなどのオイルを含有させてもよい。オイルの配合量は、特に限定されないが、スチレンブタジエンゴム100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5〜70質量部である。
【0027】
該カーボンマスターバッチは、スチレンブタジエンゴムと、カーボンブラックと、必要に応じてオイルとを混合して調製することができる。混合に際しては、慣用の方法を採用することができ、例えば、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて混合することが好ましい。
【0028】
本実施形態のゴム組成物において、ゴム成分としての(a)変性ジエン系ゴムと(e)カーボンマスターバッチ中のスチレンブタジエンゴムとの配合比は次のように設定される。すなわち、変性ジエン系ゴムの配合量(A)に対するカーボンマスターバッチ中のスチレンブタジエンゴムの配合量(B)の比は、質量比で、B/A=0.25〜1とされる。B/Aが0.25未満であると、カーボンマスターバッチとして配合されるスチレンブタジエンゴムの配合量(B)が少なくなりすぎて、カーボンブラックの分散性向上効果が損なわれる。逆に、B/Aが1を超えると、変性ジエン系ゴムの配合量(A)が少なくなって、シリカの分散性向上効果が損なわれる。B/Aは、より好ましくは下限が0.3以上、更に好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.5以上であり、上限は0.9以下である。
【0029】
本実施形態のゴム組成物において、ゴム成分は、上記(a)変性ジエン系ゴムと、上記(e)カーボンマスターバッチ中に含まれるスチレンブタジエンゴムとからなるが、これらに加えて他のジエン系ゴムを含んでもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤトレッド用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。上述した本実施形態の効果をより良く発揮するため、これら他のジエン系ゴムの配合量は、ゴム成分中に占める割合として30質量%以下(即ち、ゴム成分100質量部中において30質量部以下)が好ましく、より好ましくは20質量%以下である。
【0030】
本実施形態のゴム組成物において、カーボンブラックとシリカの総量(即ち、全フィラー総量)は、ゴム成分100質量部に対して40〜100質量部であることが好ましい。全フィラー総量が40質量部未満では、タイヤトレッド用としての補強性を確保することが難しく、耐摩耗性に劣る。全フィラー総量が100質量部を超えると、転がり抵抗性能を確保することが難しくなる。全フィラー総量は、60〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは70〜100質量部である。
【0031】
また、該全フィラー総量に占めるシリカの割合は、25〜80質量%であることが好ましい。シリカの割合が25質量%未満であると、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスを確保することが難しくなる。シリカの割合が80質量%を超えると、上記(e)成分中のスチレンブタジエンゴムの補強性が損なわれる。シリカの割合は、より好ましくは30〜70質量であり、より好ましくは40〜60質量%である。特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対するシリカの配合量は、20〜70質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜60質量部である。
【0032】
本実施形態のゴム組成物において、上記カーボンブラックには、上記(e)のカーボンマスターバッチとして配合されるものの他に、上記(a)の変性ジエン系ゴムに対して(b)〜(d)の各成分とともに直接混合するものが含まれてもよい。上述した本実施形態の効果をより良く発揮させるため、カーボンマスターバッチ中に含まれるカーボンブラックの配合量は、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックの配合量の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50〜90質量%である。
【0033】
本実施形態のゴム組成物において、上記(c)のシランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ100質量部に対して2〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量部である。シランカップリング剤の配合量が少なすぎると、シリカの分散性向上効果に劣り、逆に、25質量部を超えて配合しても更なる効果の改善は小さく、不経済である。
【0034】
本実施形態のゴム組成物において、上記(d)のリグニン誘導体の配合量は、上記シリカの分散性向上効果を有効に発揮するために、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜7質量部である。
【0035】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。例えば、第1混合段階で、(a)変性ジエン系ゴムに、(b)シリカ、(c)シランカップリング剤、(d)リグニン誘導体及び(e)カーボンマスターバッチとともに、加硫剤と加硫促進剤を除く他の添加剤を加えて混合し、その後、得られた混合物に、最終混合段階で、加硫剤と加硫促進剤を加えて混合することにより、ゴム組成物を調製することができる。
【0037】
このようにして得られるゴム組成物は、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、好ましい態様として接地面を構成するゴムに用いる場合、単層構造のものであれば、トレッド部の全体が上記ゴム組成物からなることが好ましく、また2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例10,11及び13は参考例である。
【0039】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1,2に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。表中の各成分は以下の通りである。
【0040】
・未変性SBR1:未変性ESBR(St=37質量%、Tg=−40℃)、34質量部油展ゴム、JSR(株)製「SBR0122」
・CMB1:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−53℃)/カーボンブラック(IA=120g/kg)/オイル=100/52/10(質量比)、ISP社製「ISP4684」
・CMB2:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−51℃)/カーボンブラック(IA=118g/kg)/オイル=100/60/20(質量比)、三菱化学(株)製「Diapol S960」
・CMB3:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−53℃)/カーボンブラック(IA=90g/kg)/オイル=100/82.5/62.5(質量比)、ISP社製「ISP1848」
・CMB4:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−53℃)/カーボンブラック(IA=71g/kg)/オイル=100/52/10(質量比)、ISP社製「ISP1606L」
・CMB5:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−51℃)/カーボンブラック(IA=36g/kg)/オイル=100/90/20(質量比)、三菱化学(株)製「Diapol S920」
・CMB6:カーボンマスターバッチ、ESBR(St=23.5質量%、Tg=−49℃)/カーボンブラック(IA=145g/kg)/オイル=100/52/12(質量比)、三菱化学(株)製「Diapol S970」
【0041】
・未変性SBR2:未変性ESBR(St=23.5質量%、Tg=−51℃)、JSR(株)製「SBR1502」
・変性SSBR1:アミノ基変性SSBR(St=20質量%、Tg=−35℃)、JSR(株)製「HPR350」
・変性SSBR2:ヒドロキシル基変性SSBR(St=36質量%、Tg=−35℃)、37.5質量部油展ゴム、旭化成(株)製「タフデンE580」
・変性SSBR3:カルボキシル基変性SSBR(St=24質量%、Tg=−26℃)、37.5質量部油展ゴム、ランクセス社製「PBR4003」
・NR:RSS#3
【0042】
・カーボンブラック:三菱化学(株)製「ダイヤブラックN339」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=205m2/g)
イル:(株)ジャパンエナジー製「プロセスNC140」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、デグサ社製「Si75」
・リグニン誘導体:リグニンスルホン酸ナトリウム、日本製紙ケミカル(株)製「バニレックスN」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
【0043】
表中、未変性SBR1及び変性SSBR2,3の配合量について、( )内の値は、油展ゴム中におけるゴムポリマー分の量(質量部)であり、CMB1〜6の配合量について、( )内の値は、カーボンマスターバッチ中におけるゴムポリマー分の量(質量部)である
【0044】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して試験片を作製し、ウェット性能と転がり抵抗性能と摩耗性能を評価した。各評価方法は、以下の通りである。
【0045】
・ウェット性能:東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み±1%、温度0℃で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウェット性能に優れることを意味する。
【0046】
・転がり抵抗性能:東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み±1%、温度60℃における損失係数tanδを測定し、その逆数について比較例1の値を100とした指数(「比較例1のtanδ」×100/「各試験片のtanδ」)で示した。指数が大きいほど、tanδが小さく、転がり抵抗性能(即ち低燃費性)に優れることを意味する。
【0047】
・摩耗性能:JIS K6264に準じて、ランボーン摩耗試験機を用いて、荷重3kg、スリップ率20%、温度23℃で摩耗量を測定し、その逆数について比較例1の値を100とした指数(「比較例1の摩耗量」×100/「各試験片の摩耗量」)で示した。指数が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
結果は表1,2に示す通りであり、コントロールである比較例1に対し、リグニン誘導体のみを添加した比較例2や、単にカーボンマスターバッチを用いた比較例3では、ウェット性能と転がり抵抗性能の向上効果が不十分であった。また、リグニン誘導体とともにカーボンマスターバッチを用いた比較例4では、変性SSBRを使用していないため、リグニン誘導体でシリカの分散性が改善されても、未変性のSBRではシリカと相互作用せず、そのため、ウェット性能と転がり抵抗性能の改善効果が不十分であった。変性SSBRとともにカーボンマスターバッチを用いた比較例5、及び、リグニン誘導体とともに変性SSBRを用いた比較例6でも、比較例4と同様に、ウェット性能と転がり抵抗性能の向上効果は不十分であった。
【0051】
これに対し、変性SSBR及びリグニン誘導体とともにカーボンマスターバッチを用いた実施例1〜8であると、耐摩耗性を悪化させることなく、ウェット性能と転がり抵抗性能のバランスが大幅に向上していた。なお、実施例6ではウェット性能については、比較例1と同等であったが、転がり抵抗性能が顕著に改善されており、そのため、両性能のバランスに優れている。変性SSBRとマスターバッチ化するSBRの比率を変更した実施例9,10でも、また、フィラー総量を減量した実施例11,12でも、同様に、ウェット性能と転がり抵抗性能のバランスが大幅に向上していた。また、シリカ比率を下限付近の29.4質量%に設定した実施例13、及びシリカ比率を上限付近の75.3質量%に設定した実施例14でも、同様に、ウェット性能と転がり抵抗性能のバランスが大幅に向上していた。
【0052】
一方、カーボンマスターバッチ中のカーボンブラックのヨウ素吸着量が小さすぎる比較例7では、転がり抵抗性能には優れていたものの、ウェット性能が大幅に悪化しており、耐摩耗性にも劣っていた。また、カーボンマスターバッチ中のカーボンブラックのヨウ素吸着量が大きすぎる比較例8では、ウェット性能は向上したものの、転がり抵抗性能が大幅に悪化しており、両性能のバランスに劣るものであった。
【0053】
図1は、上記実施例及び比較例についての転がり抵抗性能とウェット性能の関係を示したグラフであり、グラフ中の右上に行くほど両性能のバランスに優れたことを意味する。図示されるように、比較例1〜8では、転がり抵抗性能とウェット性能につき、一方が改善されると他方が悪化するという二律背反の関係のままであったが、実施例1〜14であると、この関係を打ち破って、両性能が改善傾向にあり、顕著な効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドに好適に用いることができる。
図1