特許第5740256号(P5740256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740256
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/04 20060101AFI20150604BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150604BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20150604BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20150604BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20150604BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20150604BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20150604BHJP
   G01N 21/64 20060101ALN20150604BHJP
【FI】
   C01B19/04 CZNM
   C09K11/06
   C09K11/08 G
   C09K11/56CPC
   C09K11/88CPA
   B82Y40/00
   B82Y30/00
   !G01N21/64 F
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-195266(P2011-195266)
(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公開番号】特開2013-56790(P2013-56790A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 仁
(72)【発明者】
【氏名】岩城 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】金 大貴
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−008451(JP,A)
【文献】 特開2005−272516(JP,A)
【文献】 特開2005−306713(JP,A)
【文献】 特開2009−161680(JP,A)
【文献】 特開2010−058984(JP,A)
【文献】 特開2003−221229(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/035569(WO,A1)
【文献】 特表2011−528624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C01G1/00−23/08
C09K11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を構成する原子を提供するイオン源と、前記ナノ粒子に配位する親水性の配位子と、を水系溶媒中で混合してpH調整を行うことにより、前駆体溶液を生成する混合工程と、
前記混合工程で生成された前駆体溶液を、1気圧より高圧に加圧された条件下で100℃より高温に加熱してナノ粒子を生成し、凝集による沈殿が生じる前に前記加圧及び加熱を停止する加熱工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程における前記加圧及び加熱を、前記凝集による沈殿が始まると実験的に確認された反応時間の80〜95%の時間で停止することを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程終了後の前駆体溶液に、前記混合工程で生成された前駆体溶液を更に追加し、再び前記加熱工程を実行する作業を、繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体溶液の追加及び前記加熱工程の再実行を5回以上繰り返すことを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程では、前記前駆体溶液を200℃以上に加熱することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記配位子がN−アセチル−L−システインであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSeとを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSとを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSeとSとを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子に関し、詳しくは、製造されるナノ粒子の粒径を均一化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を吸収して発光するナノ粒子の製造方法としては、ナノ粒子を構成する原子(Zn,Se等)を提供するイオン源をアミン類等の有機溶媒中で反応させるいわゆるホットソープ法が知られている(例えば、特許文献1参照)。ところが、有機溶媒中でナノ粒子を生成した場合、その有機溶媒の廃棄処理を誤るとPRTR法に抵触する可能性がある。また、有機溶媒中でナノ粒子を生成した場合、一般的に疎水性の配位子が用いられるため、得られたナノ粒子も水溶性溶媒への分散が難しい。
【0003】
これに対して、水系溶媒中でナノ粒子を生成すれば、溶媒の処理が容易になるばかりでなく、親水性の高いナノ粒子が得られる。ナノ粒子の親水性が高いことは、産業応用上重要である。例えば、ナノ粒子を医療やバイオサイエンス分野における蛍光マーカとして用いるためには、ナノ粒子の親水性が高いことが必要となる。水系溶媒中でナノ粒子を生成する方法としては、ナノ粒子を構成する原子を提供するイオン源を含む水溶液を、100℃近くで還流しながら反応させるいわゆる還流法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−262138号公報
【特許文献2】特開2006−291175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、還流法によってナノ粒子を製造した場合、特許文献2の段落0054にも記載のように、粒径の分布は、分散の標準偏差を15%程度にしか抑制することができなかった。これは、還流法では100℃以下の低温でナノ粒子が生成されるため、粒径のばらつきが大きくなるからと考えられる。図6に模式的に示すように、一般的に、ナノ粒子のバンドギャップ(ENERGY)は粒径と密接な関連があり、特に粒径が1nm〜5nmの範囲でナノ粒子のバンドギャップは大きく変化する。このため、ナノ粒子の粒径外1nm〜5nmの範囲でばらつくと、各ナノ粒子の発光波長もばらつき、光学的な応用価値が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、親水性の高いナノ粒子を水系溶媒中で生成するナノ粒子の製造方法、及びその方法で製造されたナノ粒子において、粒径のばらつきを抑制することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達するためになされた本発明のナノ粒子の製造方法は、ナノ粒子を構成する原子を提供するイオン源と、前記ナノ粒子に配位する親水性の配位子と、を水系溶媒中で混合してpH調整を行うことにより、前駆体溶液を生成する混合工程と、前記混合工程で生成された前駆体溶液を、1気圧より高圧に加圧された条件下で100℃より高温に加熱してナノ粒子を生成し、凝集による沈殿が生じる前に前記加圧及び加熱を停止する加熱工程と、を含むことを特徴としている。
【0008】
本願出願人は、ナノ粒子を構成する原子を提供するイオン源とそのナノ粒子に配位する親水性の配位子とを水系溶媒中で混合してpH調整した前駆体溶液からナノ粒子を生成する場合、1気圧より高圧に加圧された条件下で100℃より高温に加熱するいわゆる水熱合成法を応用すると、粒径のばらつきが抑制されることを発見した。本発明では、混合工程で得られた前記前駆体溶液を、加熱工程によって水熱合成法でナノ粒子を生成しているので、得られるナノ粒子の粒径のばらつきを良好に抑制することができる。
【0009】
なお、粒径のばらつきを一層良好に抑制し、かつ、一層粒径の大きいナノ粒子を製造するためには、ナノ粒子の凝集による沈殿が生じる直前に前記加圧及び加熱を停止するのが望ましい。例えば、前記加熱工程における前記加圧及び加熱を、前記凝集による沈殿が始まると実験的に確認された反応時間の80〜95%の時間で停止するとよい。
【0010】
また、前記加熱工程終了後の前駆体溶液に、前記混合工程で生成された前駆体溶液を更に追加し、再び前記加熱工程を実行する作業を、繰り返してもよい。少量の前駆体溶液を追加して前記加熱工程を実行する作業を繰り返せば、一層粒径の大きいナノ粒子を製造することができる。そして、その場合、前記前駆体溶液の追加及び前記加熱工程の再実行を5回以上繰り返すと、効果が一層顕著になる。
【0011】
また、前記加熱工程では、前記前駆体溶液を200℃以上に加熱するとよく、その場合、得られるナノ粒子の粒径のばらつきを一層良好に抑制することができる。
また、前記配位子としては、メルカプト酢酸,メルカプトプロピオン酸,メルカプトこはく酸等、種々のものが使用できるが、前記配位子としてN−アセチル−L−システインを使用するのが一層望ましい。その場合、前駆体溶液のpHを小さくしたときにもナノ粒子が凝集するのを抑制することができる。
【0012】
また、前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSeとを含んでもよく、前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSとを含んでもよく、前記ナノ粒子を構成する原子としてZnとSeとSとを含んでもよい。これらの場合、ナノ粒子としてZnSe,ZnS,またはZnSeSを製造することができる。従って、その場合、ナノ粒子がCdを含まないため、その廃棄が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例としてのナノ粒子の製造方法を表す模式図である。
図2】第1実施例における加熱時間の影響を表すグラフである。
図3】第2実施例における前駆体溶液添加量の影響を表すグラフである。
図4】第1実施例においてpHを変更した場合の影響を表すグラフである。
図5】第1実施例を混晶に適用した場合の影響を表すグラフである。
図6】一般的なナノ粒子の粒径とバンドギャップとの関係を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を、具体的な実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0018】
[第1実施例]
先ず、本願出願人は、次のようにして前駆体溶液1(図1参照)を調整した。すなわち、100mlの超純水中にZnイオン源となる過塩素酸亜鉛2mmolと配位子となるN−アセチル−L−システイン(以下、NACという)9.6mmolとを添加し撹拌した。次いでpH調整用の水酸化ナトリウムを適量添加して弱アルカリ性に調整し、Seイオン源としてNaHSeを注入した。その後、塩酸を少しずつ添加しながらpHを5.0(少なくとも7未満)に調整した(混合工程)。
【0019】
得られた前駆体溶液1を、図1に矢印Aで示すように、オートクレーブ10を用いて加圧,加熱した。図1に示すように、オートクレーブ10は、圧力計11と圧力弁13とを備えた金属蓋15が、耐熱ガラス製の反応容器17に装着された構造を有している。また、反応容器17の周囲には、円筒状の保護用金網19が設けられている。このようなオートクレーブ10は、例えば、「ティニクレーブ」(商品名:スイス、ブッヒ社製)として市販されている。
【0020】
反応容器17に10mlの前駆体溶液1を挿入したオートクレーブ10を、オイルバス20に挿入し、高圧下(例えば6気圧)で200℃に加熱した後、大気中で室温まで冷却した(加熱工程)。なお、図示省略したが、オイルバス20は、攪拌子をマグネティックスターラで回転させて使用した。加熱時間(反応時間)を50分としたところ、図1に矢印Bで示すように、反応容器17内の溶液50には、ZnSeナノ粒子51が分散していた。
【0021】
加熱中、溶液50を適宜採取して、ZnSeナノ粒子51の吸収スペクトルを測定した。結果を図2に示す。図2に示すように、50分加熱した場合のZnSeナノ粒子51の平均粒径は、スペクトルの吸収ピークが3.5eVにあることから平均粒径(直径)は3.5nm程度と見られ、その吸収ピークの半値幅から、粒径のばらつきは5%程度と見られる。なお、加熱時間を5min,10min,20minとした場合には、吸収ピークの半値幅が若干大きくなるが、これらの場合、ZnSeナノ粒子51の粒径も小さく、図6に示すように粒径の変化によるバンドギャップ(ENERGY)の変化も大きいことを考慮すれば、これらの場合も比較的良好に粒径のばらつきが抑制されたということができる。
【0022】
また、前述の加熱時間が50分を超えると(例えば、51分となると)ZnSeナノ粒子51の凝集による沈殿が生じることが実験的に確認されているが、本実施例では、沈殿が生じる直前で加圧及び加熱を停止しているので、粒径のばらつきを一層良好に抑制し、かつ、一層粒径の大きいZnSeナノ粒子51を製造することができる。
【0023】
[第2実施例]
次に、図1に示すように、前述のように50分の加熱で得られた溶液50に、更に0.5mlの前駆体溶液1を添加し、矢印Cに示すように、オートクレーブ10による200℃で5分の加熱を前述のように実行した。そして、この矢印B,Cに対応する処理を繰り返すことによって、ZnSeナノ粒子51の大粒径化を図った。こうして前駆体溶液1を順次添加しながら、各段階の吸収スペクトルを測定したものを図3に示す。なお、図3には、各スペクトルのピークに対応した粒径も記載した。
【0024】
図3に示すように、前記矢印B,Cに対応する処理を繰り返すことにより、吸収スペクトルのピークが低エネルギ側にシフトし、ZnSeナノ粒子51が大粒径化することが分かった。これは、第1実施例の工程によって製造されたZnSeナノ粒子51の核に、Zn,Seが積層されることによって、大粒径のZnSeナノ粒子51が生成されたものと考えられる。そして、その処理を6回繰り返すことにより(#7:添加量3.0ml)、平均粒径が5.2nmのZnSeナノ粒子51を製造することができた。
【0025】
[実施例の効果及びその変形例]
以上説明したように、前記各実施例では、前駆体溶液1を100℃より高温に加熱するいわゆる水熱合成法でZnSeナノ粒子51を生成しているので、得られるZnSeナノ粒子51の粒径のばらつきを良好に抑制することができる。従って、前記各実施例で得られたZnSeナノ粒子51は、発光波長のばらつきも少なく、光学的な応用価値が極めて高い。更に、前記各実施例で得られたZnSeナノ粒子51は、前述のように水系溶媒中で生成されているため親水性が高く、医療やバイオサイエンス分野における蛍光マーカとしても良好に用いることができる。
【0026】
しかも、前記各実施例では、前記水熱合成法をオートクレーブ10によって実行しているので、その水熱合成法が極めて簡便に実行でき、ZnSeナノ粒子51を一層容易に製造することができる。特に、前記各実施例で使用したオートクレーブ10は、耐熱ガラスからなる反応容器17を利用しているので、ステンレス製の反応容器17を利用した場合に比べて前駆体溶液1によく熱が伝わり、更に、加熱中の前駆体溶液1の様子が外部から容易に確認できるといった効果も生じる。
【0027】
また、前記各実施例では、前駆体溶液1のpHを5.0に調整した上でZnSeナノ粒子51を生成しているので、粒径のばらつきを一層良好に抑制することができる。図4は、前駆体溶液1のpHを異ならせて、前記第1実施例と同様に平均粒径35nmのZnSeナノ粒子51を製造した場合の吸収スペクトルを表している。図4に示すように、pHが6,7,8と大きくなるに従って、ピークがブロードになり、粒径のばらつきが大きくなることが分かる。
【0028】
また、配位子としては、メルカプト酢酸,メルカプトプロピオン酸,メルカプトこはく酸等、種々のものが使用できるが、前記各実施例では配位子としてNACを使用しているので、前述のようにpHを小さくしたときにもZnSeナノ粒子51が凝集するのを良好に抑制することができる。
【0029】
第2実施例では、少量の前駆体溶液1を追加して前記水熱合成を行う工程を繰り返しているので、ZnSeナノ粒子51の核が徐々に成長し、一層粒径の大きいZnSeナノ粒子51を製造することができる。更に、第2実施例の前記工程を更に繰り返すことで粒径が10nm,20nmのZnSeナノ粒子51を製造した場合、ZnSeナノ粒子51の操作性が向上し、例えば規則的に並べたり、特定のところに吸着させたりできる場合があり、一層応用性が向上する。
【0030】
また、本発明は前記各実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、本発明は、ZnSeナノ粒子に限らず、ZnSナノ粒子や、Mn等がドープされた波長変換ナノ粒子や、ZnSeとZnSとの混晶からなるZnSeSナノ粒子など、種々のナノ粒子の製造に応用することができる。なお、前記列挙した各種ナノ粒子は、Cdを含まないため、その廃棄が容易になる。図5は、第1実施例と同様の方法(pH等の条件は適宜変更した)によって製造したZnSeとZnSとの混晶からなるナノ粒子に対して、Se:Sの比による光吸収スペクトルの変化を表している。図5に示すように、混晶比によって、バンドギャップエネルギーを広範囲で変化させることができた。更に、第2実施例で後から添加する前駆体溶液1を、ZnSを含むものに変更することにより、ZnSeナノ粒子51からなるコアシェルの表面をZnSで覆った構成のナノ粒子を製造してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…前駆体溶液 10…オートクレーブ 17…反応容器
20…オイルバス 51…ZnSeナノ粒子
図6
図1
図2
図3
図4
図5