(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施の形態.
図1は、本発明の第1の実施の形態における定着装置10を備えた印刷装置1の構成例を示す図である。印刷装置(画像形成装置とも称する)1は、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリおよびMFP(Multifunction Periphral)などである。但し、定着装置10を備えたものであれば、上記以外の印刷装置であってもよい。
図1に示す印刷装置1は、カラー画像を形成するものであるが、単色の画像を形成するものであってもよい。
【0012】
印刷装置1は、現像剤像が形成される媒体(例えば印刷用紙)2を積載して保持する給紙カセット71を備えている。印刷装置1は、また、給紙カセット71の媒体2を給紙するフィードローラ72と、このフィードローラ72によって給紙された媒体2を所定のタイミングで画像形成ユニット(後述)に搬送するレジストローラ対73とを備えている。給紙カセット71、フィードローラ72とレジストローラ対73は、媒体供給手段を構成している。印刷装置1内には、媒体供給手段により供給された媒体2が搬送される、媒体搬送路が設けられている。
【0013】
媒体搬送路に沿って、ここでは図中右から左に、画像形成ユニット(画像形成部)6BK,6Y,6M,6Cが配列されている。画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cは、画像情報に応じて、ブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの現像剤像をそれぞれ形成するものであり、印刷装置1の本体に着脱可能に取り付けられている。画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cは、現像剤を除いて共通の構成を有しているため、画像形成ユニット6C(シアン)の構成について説明する。
【0014】
画像形成ユニット6Cは、静電潜像担持体としての感光体ドラム61を備えている。感光体ドラム61は、
図1において時計回り(a方向)に回転する。感光体ドラム61の回転方向(a方向)に沿って、帯電装置62と、露光装置63と、現像装置64と、クリーニング装置65とが順に配置されている。
【0015】
帯電装置62は、例えば帯電ローラであり、感光体ドラム61の表面を一様に帯電させる。露光装置63は、例えばLED(発光ダイオード)ヘッドであり、一様に帯電された感光体ドラム61の表面を露光して静電潜像を形成する。現像装置64は、所定の色の現像剤(トナー)を用いて、感光体ドラム61の表面の静電潜像を現像し、現像剤像(トナー像)を形成する。クリーニング装置65は、現像剤像の転写(後述)後に感光体ドラム61の表面に残った現像剤を除去する。なお、静電潜像担持体は、感光体ドラム61の代わりに、例えばベルト形状のものを用いても良い。
【0016】
画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cに対向するように、転写ユニット(転写部)8が配置されている。転写ユニット8は、無端状の転写ベルト81と、この転写ベルト81が張架されたローラ82,83と、転写ベルト81を介して各画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cの感光体ドラム61に対向する4つの転写器84とを備える。
【0017】
ローラ82は、転写ベルト81を駆動する駆動ローラであり、ローラ83は、転写ベルト81に一定の張力を付与する従動ローラである。ローラ82の回転により、転写ベルト81は、その表面に媒体2を保持して、矢印bで示す方向に移動する。転写器84は、例えば転写ローラであり、各感光体ドラム61の表面に形成された現像剤像を媒体2に転写するための転写電圧が付与されている。
【0018】
画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cの下流側(
図1における左側)には、現像剤像を媒体2に定着する定着装置10が配置されている。定着装置10の具体的な構成については、後述する。
【0019】
定着装置10の下流側には、現像剤像の定着が完了した媒体2を排出口75に向けて搬送する排出ローラ群74が配置されている。また、印刷装置10の上部には、排出口75から排出された媒体2を積載する積載部76が設けられている。
【0020】
次に、本実施の形態における定着装置10について説明する。
図2は、定着装置10の基本構成を示す図である。
図3は、定着装置10の主要な構成要素を示す分解斜視図である。
【0021】
定着装置10は、定着ローラ16と、この定着ローラ16から離間して配置された熱伝達部材(熱伝達部)12と、これら定着ローラ16および熱伝達部材12に張架されたベルト15(定着部材)とを備えている。定着装置10は、さらに、定着ローラ16に対して熱伝達部材12とは反対の側に、加圧ローラ17(加圧部材)を備えている。加圧ローラ17は、ベルト15を介して定着ローラ16に押圧されている。
【0022】
以下の説明では、定着ローラ16の軸方向をY方向とし、鉛直方向をZとする。Y方向およびZ方向に直交する方向をX方向とする。XY面は水平面であり、また、X方向は、媒体2が定着装置10を通過する際の進行方向である。
【0023】
Z方向において、上方を+Z方向とし、下方を−Z方向とする。また、定着装置10を媒体2が通過する際の媒体2の進行方向を+X方向とし、その反対方向を−X方向とする。また、+X方向を向いて左手方向を+Y方向とし、右手方向を−Y方向とする。
【0024】
熱伝達部材12は、例えばアルミニウムなどの熱伝導性の良好な金属により形成され、定着ローラ16側(下側)に凹となる略円弧状の断面を有し、定着ローラ16の軸方向に延在している。熱伝達部材12は、定着ローラ16と反対側の面(上面)が曲面部120をなしており、この曲面部120がベルト15の内周面に接している。熱伝達部材12の定着ローラ16側の面(下面)には、所定の幅を有し、定着ローラ16の軸方向に延在する平面部123(
図6(B))が形成されている。
【0025】
熱伝達部材12の平面部123には、抵抗線発熱体11が固着されている。また、熱伝達部材12の平面部123と抵抗線発熱体11との間には、熱伝達グリス19が塗布されている。熱伝達グリス19は、半固体状であり、抵抗線発熱体11と熱伝達部材12の平面部123との間の微小な空隙を埋めることにより、両者の熱伝達効率を高めている。
【0026】
図4および
図5は、抵抗線発熱体11の構成を示す斜視図および分解斜視図である。
図3に示したように、抵抗線発熱体11は、定着ローラ16(
図3)の軸方向(Y方向)に長く形成されている。また、抵抗線発熱体11は、
図5に示すように、例えば金属製の平板部材である基板115に、その長手方向に延在する抵抗線110を設けたものである。抵抗線110に電流が流れることにより発熱する。
【0027】
また、抵抗線110は、ガラスなどの絶縁体からなる上下一対の保護層112によって挟み込まれて保持されており、抵抗線110の電流が基板115や他の部材に流れないように構成されている。また、抵抗線110は、抵抗線発熱体11の長手方向端部に形成されたコンタクト部111に、配線部113を介して接続されている。コンタクト部111は、コネクタ(図示せず)を介して、制御部から電流の供給を受ける。
【0028】
図6(A)および
図6(B)は、熱伝達部材12を上方および下方から見た斜視図である。
図6(A)に示すように、熱伝達部材12は、上述したように、ベルト15と接触する曲面部120を有し、その反対面に平面部123を有している。また、熱伝達部材12の長手方向の一端には、熱伝達部材12の表裏を貫通する孔122(低熱伝達領域)が形成されている。
【0029】
熱伝達部材12の幅方向の一端には、支軸121が形成されている。支軸121は、熱伝達部材12の長手方向両端から外側に突出している。この支軸121は、後述するサイドプレート20L,20R(
図8)の孔26L,26Rに保持されるものである。
【0030】
図7および
図8は、定着装置10の構成を示す斜視図および分解斜視図である。
図8に示すように、定着装置10は、定着ローラ16の軸方向(Y方向)両側に位置する左右一対のサイドプレート20L,20Rを有している。サイドプレート20L,20Rには、熱伝達部材12の支軸121に係合する孔26L,26Rが形成されており、これにより熱伝達部材12は支軸121を中心として揺動可能に支持される。
【0031】
また、サイドプレート20Rには、抵抗線発熱体11のコンタクト部111側の端部を挿通する穴27が形成されている。抵抗線発熱体11のコンタクト部111は、穴27を介して、サイドプレート20Rの外側に突出する。
【0032】
サイドプレート20L,20Rの間には、支持板14が取り付けられている。支持板14は、その長手方向の両端を、サイドプレート20L,20Rの取り付け孔28L,28Rに係合させることで固定されている。
【0033】
支持板14上には、複数の付勢部材13が均等に配設されている。付勢部材13は、例えばコイルばねであり、抵抗線発熱体11を上方(+Z方向)に付勢している。付勢部材13の付勢により、抵抗線発熱体11が、熱伝達部材12の平面部123に圧接される。加えて、この付勢部材13の付勢により、熱伝達部材12が支軸121を中心として揺動し、熱伝達部材12の曲面部120がベルト15の内周面を押圧し、ベルト15に張力を付与する。
【0034】
ベルト15は、ポリイミドの基材の外周にシリコーンゴムの弾性層を形成し、さらにその表層をPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)チューブで被覆したものである。ベルト15は、上述したように、熱伝達部材12と定着ローラ16とに張架され、図示しない保持部材によって長手方向の位置が規制されている。
【0035】
図9は、定着装置10の構成を示す断面図である。なお、この断面図は、後述する
図10に示す線分A−Aにおける断面図に相当する。定着ローラ16は、芯金部161と、その外周面に形成された弾性層162とを有している。芯金部161の両端部(軸部)は、定着ローラ回転軸受23L,23Rを介して、サイドプレート20L,20Rに取り付けられている。芯金部161の長手方向の一端には、定着ギア25が取り付けられている。定着ギア25には、図示しない駆動機構から動力が伝達され、定着ローラ16が回転する。
【0036】
加圧ローラ17は、芯金部171と、その外周面に形成された弾性層172とを有し、その表層はPFAチューブ(図示せず)で被覆されている。芯金部171の両端部(軸部)は、加圧ローラ回転軸受24L,24Rを介して、加圧ローラ軸受支持部材21L,21Rに取り付けられている。加圧ローラ軸受支持部材21L,21Rは、Y方向に変位可能に、サイドプレート20L,20Rに組み付け付けられている。
【0037】
また、加圧ローラ軸受支持部材21L,21Rは、例えばコイルばねからなる押圧部材22L,22Rにより、+Z方向に押圧される。この押圧により、加圧ローラ17の弾性層172が、ベルト15を介して定着ローラ16の弾性層162に圧接され、ニップ部18(
図2)が形成される。
【0038】
図10は、定着装置10の構成を示す上面図である。
図10に示すように、ベルト15の幅(Y方向寸法)L1は、熱伝達部材12の長さL2よりも短く、熱伝達部材12の長手方向の一端部(孔122を含む部分)が露出するようになっている。
【0039】
また、
図2および
図10に示すように、ベルト15の内周面に接するように、温度センサ151が設けられている。温度センサ151は、媒体2の走行範囲、より具体的には、ベルト15の幅方向(Y方向)の略中央部に配置されている(
図10)。
【0040】
温度センサ151は、ベルト15の温度を検出し、定着装置10の制御部(図示せず)に温度情報を送信する。定着装置10の制御部は、温度センサ151の温度情報に基づき、抵抗線発熱体11に流れる電流を制御し、ベルト15の温度を所定の温度に保つ。
【0041】
次に、本実施の形態の印刷装置1および定着装置10の動作について、
図1,2を参照して説明する。
オペレータが印刷装置1の電源を投入して、画像形成を開始する操作を行うと、フィードローラ72が給紙カセット71内の媒体2を一枚ずつ給紙し、その媒体2をレジストローラ対73が転写ユニット8に搬送する。媒体2は、転写ベルト81に吸着保持されて搬送され、画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cを順に通過する。
【0042】
各画像形成ユニット6では、感光ドラム61がa方向に回転し、帯電装置62が感光体ドラム61の表面を一様に帯電する。さらに、露光装置63が感光体ドラム61の表面を露光して、画像情報に応じた静電潜像を形成する。次いで、現像装置64が、感光体ドラム61の表面に形成された静電潜像を現像剤により現像し、現像剤像を形成する。感光ドラム61の表面に形成された現像剤像は、転写器84により、転写ベルト81上の媒体2の表面に転写される。転写後に感光ドラム61の表面に残留している現像剤は、クリーニング装置65によって除去される。
【0043】
媒体2が画像形成ユニット6BK,6Y,6M,6Cを通過することにより、ブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの現像剤像が媒体2に順次転写される。その後、媒体2は、転写ユニット8から定着装置10に搬送される。
【0044】
定着装置10の制御部は、媒体2上に転写された現像剤像を定着するのに十分な熱量を発生するように、抵抗線発熱体11の抵抗線110に電流を流し、ジュール熱により抵抗線110が発熱する。
【0045】
また、抵抗線110への通電開始と同時に、図示しない駆動機構から定着ギア25に動力を伝達し、定着ローラ16の回転を開始する。定着ローラ16の回転開始に伴い、定着ローラ16に接しているベルト15および加圧ローラ17も回転を開始する。
【0046】
抵抗線発熱体11が発生した熱は、熱伝達グリス19を介して熱伝達部材12に効率よく伝達され、熱伝達部材12の曲面部120からベルト15に伝達される。このとき、ベルト15には、現像剤像を定着するのに十分な熱量が熱伝達部材12から伝達される。定着ローラ16と共に回転するベルト15は、ニップ部18において、加圧ローラ17との間で媒体2を加熱・加圧する。これにより、媒体2に転写された現像剤像が、媒体2に定着される。
【0047】
定着装置10において現像剤像が定着された媒体2は、排出ローラ群74により搬送され、排出口75から排出されて積載部76に積載される。これにより、定着装置10を有する印刷装置1による画像形成(印刷)が完了する。
【0048】
次に、抵抗線発熱体11の抵抗線110に過電流が流れた場合について説明する。
図11(A)は、定着装置10の一部を拡大して示す断面図である。抵抗線発熱体11の抵抗線110に過電流が流れると、この抵抗線110により発生した熱は、熱伝達部材12に伝達されて拡散する。
【0049】
しかしながら、抵抗線110のうち、熱伝達部材12の孔122に対向する部分(抵抗線部分110H)は、熱伝達部材12と接していないため、熱伝達部材12への熱の伝達(拡散)が少ない。そのため、この抵抗線部分110Hは、抵抗線発熱体11の中で最も高温となる。同様に、抵抗線110を保持する保護層112のうち、熱伝達部材12の孔122に対向する部分(保護層部分112H)は、保護層112の中で最も高温となる。
【0050】
そのため、抵抗線110を流れる過電流により、抵抗線部分110Hの温度が抵抗線110および保護層112の気化温度に達すると、
図11(B)に模式的に示すように、孔122に対向する抵抗線部分110Hと保護層部分112Hが気化して消失し、回路が遮断される。これにより、抵抗線110には電流が流れない状態となり、抵抗線発熱体11の発熱が停止する。
【0051】
このように、抵抗線110の過加熱時には、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hが断線するため、速やかに回路を遮断することができる。そのため、定着装置10の温度を想定温度範囲内に収めることができる。
【0052】
特に、抵抗線110のうち、過加熱時に断線する部分(抵抗線部分110H)が特定されているため、断線が生じる温度などを設計により正確に決定することができる。
【0053】
また、抵抗線110において気化して消失する部分(抵抗線部分110H)は、ベルト15の幅方向外側にあるため、ベルト15を取り外すことなく、目視により簡単に回路の遮断を視認することができる。
【0054】
なお、ここでは、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hと保護層部分112Hが、加熱時に液化の状態を経ずに気化するが、このような構成には限定されない。例えば、抵抗線部分110Hと保護層部分112Hが、液化の状態を経て気化してもよいし、あるいは、液化した状態で表面張力の作用で2つに分断されることにより回路を遮断してもよい。
【0055】
また、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hと保護層部分112Hの全体が一気に気化してもよいし、孔122の中心に位置する部分が気化してもよい。すなわち、回路を遮断する(抵抗線110に電流が流れない状態にする)ことができればよい。
【0056】
以下、本実施の形態における具体的な構成例について説明する。
抵抗線発熱体11は、長さ350mm、幅10mm、厚さ0.6mmのステンレス製の基板115上に、ガラス製の保護層112を形成し、その上に銀とパラジウムの合金で線幅2mm、厚さ0.2mmの抵抗線110を形成し、さらにガラス製の保護層112で覆ったものである。抵抗線110の出力は、1000Wである。
【0057】
熱伝達グリス19は、シリコーンオイルに酸化亜鉛の粉末を混合し、熱伝達性を向上させたものを用いる。熱伝達部材12は、アルミニウムの押し出し材であるA6063を用い、厚さは1mmとし、曲面部120の曲率半径は25mmとし、幅(X方向寸法)は30mmとする。平面部123の幅は10.2mmとし、孔122の内径は10mmとする。
【0058】
付勢部材13としては、5つのコイルばねを用い、4kgfの押圧力で抵抗線発熱体11を+Z方向に押圧する。
【0059】
ベルト15は、厚さ0.1mmのポリイミドの基材の外周に、厚さ0.2mmのシリコーンゴムの弾性層を形成し、さらにPFAチューブで被覆したものとする。定着ローラ16等に張架する前の状態で、ベルト15の内径は40mmである。
【0060】
定着ローラ16の外径は25mmとし、シリコーンスポンジからなる弾性層162の厚さは2mmとする。また、加圧ローラ17の外径は25mmとし、シリコーンゴムからなる弾性層172の厚さは2mmとし、その表層はPFAチューブで被覆する。
【0061】
加圧ローラ17の芯金部171の両端(軸部)は、上述したように加圧ローラ軸受支持部材21L,21Rによって支持されており、押圧部材22L,22Rにより+Z方向に20kgfの押圧力で押圧されている。
【0062】
なお、定着装置10は、図示しないPET(ポリエチレンテレフタレート)製の樹脂カバーにより、上記の各構成要素を囲んでおり、ユーザが定着装置10を安全に把持できるように構成されている。
【0063】
このような構成において、抵抗線発熱体11の抵抗線110に電流を流すと同時に、定着ローラ16を65rpmで回転させる。抵抗線発熱体11で発生した熱は、熱伝達部材12を介して効果的にベルト15に伝達され、さらにニップ部18に伝達される。抵抗線110への通電開始から、ニップ部18の温度が170℃(良好な定着が可能な温度)まで上昇するまでの時間は、15秒程度である。
【0064】
これにより、A4横送り印刷時(A4サイズの媒体を短手方向に搬送する)において、印刷速度30PPM(Page Per Minutes)程度の良好な定着が可能となる。正常な運転動作(ニップ部18の温度が約170℃)では、抵抗線発熱体11の温度は200℃程度であり、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hの温度は280℃程度である。
【0065】
この状態で、抵抗線発熱体11に過電流が流れた場合には、過電流の流れた時間を30秒間とすると、抵抗線発熱体11の温度は500℃程度に上昇し、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hの温度は800℃程度まで上昇する。
【0066】
熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hの温度が800℃程度まで上昇すると、抵抗線部分110H上にあるガラス製の保護層112(保護層部分112H)が化学反応と共に気化して消失し、抵抗線部分110Hも気化して消失する。これにより、回路が遮断され、抵抗線発熱体11の発熱が停止する。
【0067】
また、熱伝達部材12の孔122の内径が10mmであるため、抵抗線部分110Hが気化して消滅することにより、少なくとも4mm程度以上の空隙部が生じる。これにより、抵抗線部分110Hの回路切断の目視確認が容易になる。
【0068】
また、孔122の縁の近傍では、熱伝達部材12からの放熱のため、抵抗線部分110Hと保護層部分112Hの温度が(孔122の中心と比較して)上昇しにくいため、孔122の縁の近傍の抵抗線部分110Hと保護層部分112Hを消失させずに残すことにより、抵抗線110と熱伝達部材12(アルミニウム製)との絶縁性の確保が容易になる。
【0069】
加えて、回路の遮断までの加熱時間が30秒程度と短いため、定着装置10のカバー部材(PET)の温度は80℃程度までしか上昇していない。そのため、定着装置10のカバー部材の溶解や熱変形を生じることはない。
【0070】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態によれば、抵抗線発熱体11に接触する熱伝達部材12に孔122(他の領域よりも熱伝導効率の低い低熱伝達領域)を設けたことにより、抵抗線110に過電流が流れた際に、孔122に対向する抵抗線部分110Hを断線させ、速やかに発熱を停止することができる。そのため、定着装置10のカバー部材を始めとする周辺部材を、熱による損傷から保護することができる。
【0071】
なお、この第1の実施の形態では、熱伝達部材12に孔122を設けたが、孔122に相当する部分に、熱伝達効率が低下するような部材(熱伝達部材12とは異なる材質で形成された部材)を配置してもよい。
【0072】
第2の実施の形態.
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図12(A)および(B)は、第2の実施の形態における定着装置で用いる熱伝達部材201を、上方および下方から見た斜視図である。第2の実施の形態は、熱伝達部材201の構成において、第1の実施の形態と異なるものである。図において、第1の実施の形態と同一の構成要素には、同一の符号を付す。
【0073】
第2の実施の形態の熱伝達部材201は、第1の実施の形態で説明した熱伝達部材12と同様、ベルト15の内周面に当接する曲面部120を有し、その反対側に平面部123を有している。また、熱伝達部材201の幅方向の一端部には、熱伝達部材201を揺動可能に支持する支軸121を有している。
【0074】
但し、第2の実施の形態の熱伝達部材201は、第1の実施の形態の孔122に対応する位置に、凹部202(低熱伝達領域)を有している。この凹部202には、樹脂層(例えば、フッ素系のコーティング層)203が形成されている。
【0075】
図13は、第2の実施の形態における定着装置200の一部を拡大して示す断面図である。第2の実施の形態では、抵抗線発熱体11の抵抗線110のうち、熱伝達部材201の凹部202に対向する抵抗線部分110Hが、熱伝達部材201に接していないため、最も熱の拡散が少ない。そのため、抵抗線発熱体11に過電流が流れると、凹部202に対向する抵抗線部分110Hの温度が最も高温となり、例えば800℃程度まで上昇する。そして、この抵抗線部分110Hが、凹部202内の樹脂層203の一部と共に気化して消失し、回路を遮断する。
【0076】
このとき、凹部202に形成された樹脂層(例えばフッ素系コーティング層)203のため、抵抗線110Hが気化する際に、樹脂層203の気化せずに残った部分により、熱伝達部材201(アルミニウム製)への電流のリークを防止することができる。そのため、凹部202を、第1の実施の形態で説明した孔122(例えば10mm)よりも小さく構成することができる。その他の構成および動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0077】
なお、凹部202に形成する樹脂層203は、フッ素系コーティング層に限らず、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂など、耐熱性を有する樹脂を用いることができる。
【0078】
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態によれば、熱伝達部材201に凹部202(他の領域よりも熱伝導効率の低い低熱伝達領域)を設けることにより、抵抗線110に過電流が流れた際に、当該凹部202に対向する抵抗線部分110Hを断線させ、速やかに発熱を停止することができる。そのため、定着装置10のカバー部材を始めとする周辺部材を、熱による損傷から保護することができる。
【0079】
第3の実施の形態.
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図14は、第3の実施の形態における定着装置300の基本構成を示す図である。
図15は、定着装置300の抵抗線発熱体11、熱伝達部材12および付勢補助部材301を、下方から見た分解斜視図である。
図16は、定着装置300の一部分を拡大して示す断面図である。各図において、第1の実施の形態と同一の構成要素には、同一の符号を付す。
【0080】
図14に示すように、この第3の実施の形態では、抵抗線発熱体11の付勢部材13(コイルばね)側に、付勢補助部材301を設けている。付勢補助部材301は、長尺の板状部材であり、抵抗線発熱体11への付勢力を長手方向に亘って均一化する作用を有する。付勢補助部材301は、また、熱伝達部材12の孔122と対向する位置に、孔122と同形状の孔302(低熱伝達領域)を有している。
【0081】
また、熱伝達部材12の孔122と付勢補助部材301の孔302とは、
図16に示すように、ベルト15の幅方向の内側に位置している。但し、孔122,302の位置は、通紙範囲(媒体2が通過する範囲)よりも外側にあることが好ましい。
【0082】
抵抗線発熱体11は、熱伝達部材12および付勢補助部材301の両方に接しており、抵抗線発熱体11の発生した熱は、熱伝達部材12および付勢補助部材301に伝達される。但し、熱伝達部材12の孔122に対向する抵抗線部分110Hは、付勢補助部材301の孔302にも対向しているため、熱伝達部材12にも付勢補助部材301にも熱が伝達されない。
【0083】
このように構成されているため、抵抗線発熱体11に過電流が流れた際には、抵抗線部分110Hの温度は、第1の実施の形態よりも早く上昇し、保護層112と共に気化して消失し、回路が遮断される。すなわち、より速やかに回路を遮断することができる。他の構成および動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0084】
また、熱伝達部材12の孔122と、付勢補助部材301の孔302は、
図16に示すようにベルト15の幅方向内側に位置しているため、抵抗線部分110Hが外気にさらされず、従って、通常動作時の温度の維持が容易である。
【0085】
以上説明したように、本発明の第3の実施の形態によれば、熱伝達部材12の孔122と、付勢補助部材301の孔302とを、抵抗線発熱体11を介して互いに対向する位置に設けたことにより、抵抗線発熱体11に過電流が流れた際に、第1の実施の形態よりも速やかに、回路を遮断することができる。
【0086】
この第3の実施の形態は、第2の実施の形態と組み合わせても良い。この場合には、熱伝達部材12の代わりに、
図12の熱伝達部材201を用いることができる。
【0087】
また、
図16には、熱伝達部材12の孔122と付勢補助部材301の孔302をベルト15の幅方向内側に配置した構成を示したが、上述したように抵抗線部分110Hの温度上昇を促進する効果が得られる構成であれば、熱伝達部材12の孔122と付勢補助部材301の孔302を、第1の実施の形態と同様に、ベルト15の幅方向外側に配置することも可能である。
【0088】
第4の実施の形態.
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。
図17は、第4の実施の形態における定着装置で用いる抵抗線発熱体401の構成を示す分解斜視図である。図において、第1の実施の形態と同一の構成要素には、同一の符号を付す。第4の実施の形態は、抵抗線発熱体401の構成において、第1の実施の形態と異なるものである。
【0089】
第4の実施の形態の抵抗線発熱体401は、抵抗線402の端部近傍に、他の領域よりも断面積の小さい領域(小断面領域)403を有している。この小断面領域403は、熱伝達部材12の孔122に対向する位置に設置される。小断面領域403の周囲の空気は、同じ体積の金属よりも熱容量が小さいため、抵抗線402は、熱容量が小さくなる形状を有することになる。抵抗線発熱体401の他の構成は、第1の実施の形態で説明した抵抗線発熱体11と同様である。
【0090】
抵抗線402の抵抗は断面積に反比例するため、抵抗線発熱体401の抵抗線402に過電流が流れると、抵抗線402の小断面領域403での発熱が最も多く、従って最も高温になる。さらに、この小断面領域403は、熱伝達部材12の孔122に対向しているため、第1の実施の形態でも説明したように熱の拡散が少なく、従ってさらに高温になる。そのため、第1の実施の形態よりも速やかに回路を遮断することができる。他の構成および動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0091】
以上説明したように、本発明の第4の実施の形態によれば、熱伝達部材12の孔122に対向するように、抵抗線発熱体401の抵抗線402に小断面領域403を設けることにより、過電流が流れた際に、より速やかに回路を遮断することができる。
【0092】
また、この第4の実施の形態は、第2または第3の実施の形態と組み合わせても良い。第2の実施の形態と組み合わせる場合には、熱伝達部材12の代わりに、
図12の熱伝達部材201を用い、第3の実施の形態と組み合わせる場合には、
図15の付勢補助部材301を用いることができる。
【0093】
第5の実施の形態.
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。
図18は、第5の実施の形態における定着装置500のベルト501の構成を示す斜視図である。
図19は、第5の実施の形態における定着装置500の基本構成を示す図である。各図において、第1の実施の形態と同一の構成要素には、同一の符号を付す。第5の実施の形態は、ベルト501の構成において、第1の実施の形態と異なるものである。
【0094】
第5の実施の形態のベルト501は、第1の実施の形態で説明した熱伝達部材12の作用も有するように構成されている。すなわち、ベルト501は、ポリイミドの基材の内周面に、熱伝達性の高い金属層503を有している。なお、ポリイミドの基材の外周面にシリコーンゴムの弾性層を有し、その表層をPFAチューブで被覆している点は、第1の実施の形態のベルト15と同様である。
【0095】
ベルト501の軸方向端部近傍の内周面には、金属層503のない環状の領域(すなわち、内周面にポリイミド層が露出している領域)502が形成されている。この領域502は、ベルト501の内周面において、他の領域よりも熱伝達効率の低い低熱伝達領域に相当する。
【0096】
図19に示すように、定着装置500は、熱伝達部材12を有さないため、定着ローラ16と抵抗線発熱体11との間にベルト501を張架した構成となる。抵抗線発熱体11は、付勢部材13(コイルばね)の付勢力により、ベルト501の内周面(金属層503)に押し当てられる。
【0097】
抵抗線発熱体11の抵抗線110に過電流が流れると、抵抗線発熱体11の熱はベルト501に伝達されて拡散するが、ベルト501の熱伝達効率の低い領域502に対向する部分(抵抗線部分110H)は、熱拡散が少ないため最も高温となる。抵抗線部分110Hが所定の温度に達して気化により消失すると、回路が遮断される。他の構成および動作は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0098】
以上のように、本発明の第5の実施の形態によれば、ベルト501が、熱伝達部材12の作用を有するように構成されているため、第1の実施の形態と同様の回路遮断を、より少ない構成部品で実現することができる。
【0099】
なお、この第5の実施の形態は、第3または第4の実施の形態と組み合わせてもよい。第3の実施の形態と組み合わせる場合には、
図15の付勢補助部材301を用い、第4の実施の形態と組み合わせる場合には、
図17の抵抗線発熱体401を用いることができる。
【0100】
上述した第1〜第5の実施の形態では、ニップ部18を形成するための加圧部材として加圧ローラ17を用いたが、加圧ローラ17の代わりに、例えば摺動性の加圧部材を用いてニップ部18を形成してもよい。また、第1〜5の実施の形態では、ベルト15(501)の内側に定着ローラ16を配置してニップ部18を形成していたが、さらに他の加圧部材を設置し、複数の部材でニップ部18を形成してもよい。
【0101】
また、第1〜第5の実施の形態では、抵抗線発熱体に過電流が流れた際の回路を遮断する構成について説明したが、回路を遮断しない構成にも利用することができる。例えば、熱伝達部材の低熱伝達領域(例えば熱伝達部材12の孔122)を、ベルトの通紙範囲(媒体2が通過する範囲)内に設定することで、ニップ部のベルト幅方向の温度分布を均一化するといった温度調整に利用することができる。
【0102】
第1〜第5の実施の形態で説明した特徴は、適宜組み合わせることができる。例えば、第1の実施の形態における熱伝達部材12の孔122は、ベルト15の幅方向内側に設けているが、第3の実施の形態(
図16)で説明したようにベルト15の幅方向外側に設けてもよい。