【実施例1】
【0016】
まず、デュープレクサについて説明する。
図1は、デュープレクサの構成を示す機能ブロック図である。
【0017】
当該デュープレクサにあっては、受信端子Trxとアンテナ端子Tantとの間に受信フィルタ50が接続されている。送信端子Ttxとアンテナ端子Tantとの間に送信フィルタ52が接続されている。そして、アンテナ端子Tantと受信フィルタ50および送信フィルタ52の少なくとも一方との間に整合回路54が配設されている。
【0018】
かかる構成に於いて、受信フィルタ50はアンテナ端子Tantに入力された受信信号をフィルタリングして受信端子Trxに出力する。一方、当該受信フィルタ50は、送信信号を抑圧することにより、送信信号が受信端子Trxに出力されることを抑制する。
【0019】
一方、送信フィルタ52は送信端子Ttxに入力された送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子Tantに出力する。当該送信フィルタ52は、受信信号を抑圧することにより、受信信号が送信端子Ttxに出力されることを抑制する。
【0020】
受信信号と送信信号は異なる周波数帯域であり、受信フィルタ50と送信フィルタ52とは異なる通過帯域を有する。
【0021】
整合回路54は、アンテナ端子Tantと受信フィルタ50および送信フィルタ52との間のインピーダンスを整合させる。送信−受信間アイソレーション特性は、送信端子Ttxから受信端子Trxへの信号の漏れの程度を示す。送信−受信間アイソレーション特性が劣化すると、送信信号が送信端子Ttxから受信端子Trxに漏れやすくなる。
【0022】
本発明の実施例1に係るデュープレクサの断面構造を、
図2に示す。当該断面は、後述する
図3(a)に於けるX−X断面に相当する。
【0023】
図2に示されるように、実施例1に係るデュープレクサ100は、配線基板10、受信フィルタチップ20、送信フィルタチップ22および金属封止部26を具備している。
【0024】
配線基板10は、2層の酸化アルミニウムを主体とするセラミック材或いは樹脂材からなり、その上面、層間ならびに下面には、金属層が選択的に配設されている。
【0025】
即ち、上層の絶縁層10bの上面には、フィルタチップの電極が接続される電極端子12と、当該電極端子12から離間し、且つ絶縁層10bの上面周縁部近傍に於いて当該電極端子12を囲繞して配設された環状金属層14を具備している。
【0026】
また、絶縁層10bと下層の絶縁層10aとの間、即ち層間には、配線金属層16が選択的に配設され、更に下層の絶縁層10aの表面(下面)には、外部接続用電極端子(フットパッド)18が選択的に配設されている。
【0027】
そして、前記電極端子12、環状金属層14、配線金属層16ならびに外部接続用電極端子18との間は、絶縁層10a、10b中に選択的に配設された層間接続用導体(図示せず)により接続されている。環状金属層14は、接地電位とされる外部接続用電極端子18に接続されている。
【0028】
かかる電極端子12、環状金属層14ならびに配線金属層16は、銅(Cu)、銀(Ag)或いは金(Au)などにより形成される。
【0029】
そして、当該配線基板10の上面には、受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22が銅からなるバンプ24を介してフリップチップ実装されている。即ち、当該フィルタチップの活性領域(フィルタ形成面)は、配線基板10の上面に対向して配置されている。
【0030】
受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22は、その周囲を金属封止部26により囲まれている。かかる金属封止部26は、錫(Sn)−銀(Ag)−銅(Cu)半田からなり、その内側面はフィルタチップの側面に接し、且つその下面は前記環状金属層14に接している。
【0031】
そして、受信フィルタチップ20、送信フィルタチップ22および金属封止部26上には、コバールからなるキャップ板28が配設されている。
【0032】
即ち、受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22は、キャップ板28および金属封止部26をもって形成されるキャビティ29内に受容され、配線基板10をもって封止されている。
【0033】
更に、金属封止部26およびキャップ板28は、ニッケル(Ni)からなる保護膜30により被覆されており、当該保護膜30も前記環状金属層14に接している。
【0034】
かかる構成によれば、金属封止部26、キャップ板28ならびに保護膜30を用いて受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22を封止することにより、樹脂封止に比べ気密性の高い封止が可能であり、また高いシールド効果を具備している。
【0035】
また、キャップ板28および保護膜30を用いることにより、当該デュープレクサ100を電子機器内搭載用基板などに実装する際に、加えられる熱に起因して金属封止部26が変形することを、防止・抑制することもできる。
【0036】
尚、バンプ24を構成する材料としては、銅以外に、金または半田を用いることができる。また、金属封止部26としては、前述の錫−銀−銅以外の半田または金属を用いることができる。
【0037】
更に、キャップ板28および保護膜30は、前述の如き金属の他、絶縁体を用いることもできる。但し、キャップ板28および保護膜30の融点は金属封止部26の融点より高いことが好ましい。加えて、配線基板10は、必要に応じて単層または3層以上の構成が選択される。
【0038】
実施例1に係るデュープレクサ100における、配線基板10の上面を
図3(a)に示し、当該配線基板10の下面を上方から透視した状態を
図3(b)に示す。
【0039】
図3(a)においては、搭載される受信フィルタチップ20、送信フィルタチップ22の外形を、太い破線で描く矩形をもって示している。
【0040】
そして、当該受信フィルタチップ20、送信フィルタチップ22それぞれの直下に位置する配線基板10の上面には、アンテナ電極Pant、受信電極Prx、送信電極Ptxおよびグランド電極Pgndが、それぞれ電極端子12をもって形成されている。
【0041】
受信フィルタチップ20におけるアンテナ電極、受信電極ならびにグランド電極は、バンプ24(
図2参照)を介して、アンテナ電極Pant、受信電極Prxおよびグランド電極Pgndに接続されている。一方、送信フィルタチップ22におけるアンテナ電極、送信電極ならびにグランド電極は、バンプ24を介して、アンテナ電極Pant、送信電極Ptxおよびグランド電極Pgndに接続されている。
【0042】
即ち、アンテナ電極Pant、受信電極Prx、送信電極Ptxならびにグランド電極Pgndは、信号等を伝搬する信号線路として機能すると共に、受信フィルタチップ20ならびに送信フィルタチップ22をフリップチップする際の搭載・固定用パッドとして機能する。
【0043】
そして、配線基板10の上面においては、その周縁部に沿って環状金属層14が所定の幅をもって配設され、アンテナ電極Pant、受信電極Prx、送信電極Ptxおよびグランド電極Pgndなど、複数の電極端子12を囲繞している。
尚、
図3(a)にあっては、配線基板10の下面に配置された電極端子18を細い破線をもって示している。
【0044】
一方、配線基板10の下面には、
図3(b)に示される様に、送信端子Ttxとして機能する送信フットパッドFtx、受信端子Trxとして機能する受信フットパッドFrx、アンテナ端子
Tantとして機能するアンテナフットパッドFantおよびグランド端子として機能するグランドフットパッドFgndが、それぞれ電極端子18をもって形成されている。
【0045】
送信フットパッドFtx、受信フットパッドFrx、アンテナフットパッドFantおよびグランドフットパッドFgndは、配線基板10の配線金属層16および層間接続用導体(ビア)15を介して、対応する送信電極Ptx、受信電極Prx、アンテナ電極Pant或いはグランド電極Pgndと電気的に接続される。実施例1においては、受信電極Prxは1つであり、受信信号は、不平衡信号である。
【0046】
また、前記環状金属層14は、層間接続用導体15を介して、グランドフットパッドFgndに電気的に接続される。
【0047】
ここで、受信フットパッドFrxならびに送信フットパッドFtxに最も近い環状金属層14の辺を第1の辺40、当該第1の辺40に対向する辺を第2の辺42とする。
【0048】
そして第1の辺40の幅を幅W1、第1の辺40と受信電極Prxとの最短距離を距離d1、第2の辺42とアンテナ電極Pantとの最短距離を距離d2とする。
【0049】
実施例1のデュープレクサとして、受信フィルタ50を、圧電薄膜共振器を用いたラダー型フィルタをもって構成し、送信フィルタ52を、弾性表面波共振器を用いたラダー型フィルタをもって構成した。
【0050】
かかる受信フィルタチップ20のチップサイズLr1×Lr2を1.0mm×0.79mm、送信フィルタチップ22のチップサイズLt1×Lt2を1.0mm×0.79mmとした。
【0051】
また、配線基板10の外形寸法L1×L2を2.0mm×2.5mmとした。更に、第1の絶縁層10aおよび第2の絶縁層10bの膜厚を、それぞれ0.089mmとした。
【0052】
そして、前記環状金属層14の幅W1を0.15mmとし、距離d1および距離d2を、それぞれ0.40mmおよび0.30mmとした。
【0053】
一方、比較例に係るデュープレクサ110における配線基板10Sの上面の形態を、
図4に示す。
【0054】
図4に示されるように、比較例に係るデュープレクサ110においては、環状金属層14の幅W1を0.47mm、距離d1および距離d2をそれぞれ0.08mmおよび0.15mmとした。
【0055】
受信フィルタチップ20のチップサイズLr1×Lr2、送信フィルタチップ22のチップサイズLt1×Lt2、配線基板10のサイズL1×L2、および絶縁層10aおよび10bの膜厚は実施例1と同一とした。その他の構成も実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0056】
実施例1および比較例に係るデュープレクサについて、送信−受信アイソレーション特性を測定した。送信帯域は1850MHz〜1910MHz、受信帯域は1930MHz〜1990MHzを選択した。
【0057】
実施例1におけるデュープレクサならびに比較例におけるデュープレクサのアイソレーション特性を、
図5に示す。図示されるように、本発明の実施例1におけるデュープレクサは、比較例に比べ、送信帯域における減衰量が増加しており、送信−受信アイソレーション特性が明らかに向上している。
【0058】
この様な送信−受信アイソレーション特性からして、送信−受信アイソレーション特性の劣化の要因として、送信フットパッドFtxと環状金属層14とが電磁結合し、また環状金属層14と受信電極Prxとが電磁結合することにより、信号が送信フットパッドFtxから受信電極Prxに漏れることが考えられる。
【0059】
環状金属層14の幅W1が広い場合、送信フットパッドFtxと環状金属層14との電磁結合が生じ易く、また、環状金属層14と受信電極Prxとが電磁結合し易い。
【0060】
一方、環状金属層14と受信電極Prxとの距離が近いと、環状金属層14と受信電極Prxとは電磁結合し易い。
【0061】
よって、環状金属層14の第1の辺40と受信電極Prxとの最短距離d1が幅W1より大きいことが好ましい。さらに、距離d1が幅W1の1.5倍以上であることがより好ましく、距離d1が幅W1の2倍以上であることがさらに好ましい。
【0062】
受信フィルタチップ20においては、受信パッドとアンテナパッドは、両パッドとの間の干渉を抑制するために、離れて設けられる。このため、受信パッドとアンテナパッドとは、受信フィルタチップ20の対角線上に設けられる。
【0063】
従って、かかる受信フィルタチップ20を、環状金属層14内に配置する場合、受信電極Prxと環状金属層14との距離を離すようにすると、アンテナ電極Pantと環状金属層14との距離は近づいてしまう。
【0064】
この様な場合、環状金属層14の第1の辺40と受信電極Prxとの間の最短距離d1が、環状金属層14の第2の辺42とアンテナ電極Pantとの間の最短距離d2よりも大きいことが好ましい。さらに、距離d1が距離d2の1.5倍以上であることがより好ましく、距離d1が距離d2の2倍以上であることがより好ましい。
【0065】
実施例1のように、金属封止部26が環状金属層14に接触し、受信フィルタおよび送信フィルタを封止する場合、環状の金属の体積が大きくなるため、環状金属層14および金属封止部26を介した送信信号の漏れが大きくなる。
【0066】
よって、金属封止部26を有する場合に、実施例1のような配置を行なうことが好ましい。
【0067】
実施例1においては、配線基板10はその平面形状が四角形(矩形)である。この様な場合、受信フットパッドFrx、送信フットパッドFtxおよびアンテナフットパッドFantのそれぞれの間の間隔を大きくするためには、受信フットパッドFrxと送信フットパッドFtxを、環状金属層14の第1の辺40の両端近傍に配置し、一方、アンテナフットパッドFantを、前記第1の辺40に対向する第2の辺42の、中央部に配置することが好ましい。
【0068】
配線基板10は平板状である場合、環状金属層14と受信電極Prxとの結合が大きくなる。よって、実施例1の配置を行なうことが好ましい。
【0069】
受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22は、配線基板10にフェースアップ実装されていてもよい。しかしながら、デュープレクサの小型化のためには、受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22は、配線基板10にフリップチップ実装されていることが好ましい。
【0070】
送信フィルタ52および受信フィルタ50として、弾性表面波共振器または圧電薄膜共振器を用いたフィルタを用いることができる。また、受信フィルタ50および送信フィルタ52として、ラダー型フィルタまたは多重モードフィルタを用いることができる。
【0071】
また、環状金属層14は、アンテナ電極Pant、受信電極Prx、送信電極Ptxおよびグランド電極Pgndの少なくとも一部を囲っていればよい。しかしながら、金属封止部26を用い、受信フィルタチップ20および送信フィルタチップ22を気密封止するためには、環状金属層14は、アンテナ電極Pant、受信電極Prx、送信電極Ptxおよびグランド電極Pgndを完全に囲んでいることが好ましい。そして、当該環状金属層14は、少なくとも1つの層間接続用導体15を介してグランドフットパッドFgndに電気的に接続される。