特許第5740419号(P5740419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5740419鋼板の赤外線加熱方法、加熱成形方法、赤外炉および車両用部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740419
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】鋼板の赤外線加熱方法、加熱成形方法、赤外炉および車両用部品
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/00 20060101AFI20150604BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20150604BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20150604BHJP
   C21D 1/34 20060101ALI20150604BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   B21D24/00 M
   B21D22/20 H
   B21D22/20 Z
   C21D9/00 A
   C21D1/34 R
   C21D1/18 C
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-18877(P2013-18877)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-147963(P2014-147963A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2013年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】和田 亮造
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300584(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0060623(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/120123(WO,A1)
【文献】 特表2013−503748(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0320968(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2548975(EP,A1)
【文献】 独国特許発明第102009051822(DE,B3)
【文献】 国際公開第2011/091983(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/156084(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102006054389(DE,A1)
【文献】 特開2011−99567(JP,A)
【文献】 特開2011−255413(JP,A)
【文献】 特許第4575976(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00−26/14
C21D 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線照射により鋼板をA3点以上の温度まで一様に赤外線加熱する全体加熱工程と、
前記全体加熱工程後、引き続き同位置にある前記鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、前記鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する温度分布制御工程と、
を含む、ことを特徴とする赤外線加熱方法。
【請求項2】
前記温度分布制御工程では、前記第1の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力に対して、前記第2の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力を相対的に低下させる、ことを特徴とする請求項1記載の赤外線加熱方法。
【請求項3】
前記温度分布制御工程後の成形工程において、前記第1の領域は急冷されて焼入れされ、前記第2の領域は焼入れされない、ことを特徴とする請求項1記載の赤外線加熱方法。
【請求項4】
前記成形工程において、前記第1および第2の領域の冷却目標温度は共通であることを特徴とする請求項3記載の赤外線加熱方法。
【請求項5】
前記全体加熱工程および前記温度分布制御工程において、
前記鋼板の一面に向かって赤外線が照射されると共に、
前記鋼板の他面には、前記一面に向かって照射された赤外線の反射光が照射される、
ことを特徴とする請求項1記載の赤外線加熱方法。
【請求項6】
前記温度分布制御工程において、
前記第1の領域は、A3点以上からA3点プラス10%の範囲に加熱され、
前記第2の領域は、A1点未満からA1点マイナス10%の範囲に加熱される、
ことを特徴とする請求項1記載の赤外線加熱方法。
【請求項7】
赤外線照射により鋼板をA3点以上の温度まで一様に赤外線加熱する全体加熱工程と、
前記全体加熱工程後、引き続き同位置にある前記鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、前記鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する温度分布制御工程と、
前記温度分布制御工程後、前記第1の領域は、臨界速度以上で急冷および成形されて焼入れされ、前記第2の領域は、前記臨界速度未満で冷却および成形される、成形工程と、
を含む、ことを特徴とする鋼板の加熱成形方法。
【請求項8】
請求項7記載の鋼板の加熱成形方法によってプレス成形され、一つの部品内に強度の異なる前記第1および第2の領域を有することを特徴とする車両用部品。
【請求項9】
鋼板の一面に対向する出力調整自在な複数の赤外線ランプと、
前記鋼板の他面に対向し、赤外線を反射する反射面と、
前記複数の赤外線ランプの出力を、前記複数の赤外線ランプと前記鋼板との位置関係に応じて設定する一又は複数のコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、赤外線照射により前記鋼板をA3点以上まで一様に赤外線加熱した後、前記複数の赤外線のランプの出力を制御して、引き続き同位置にある前記鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、前記鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する、
ことを特徴とする赤外炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の赤外線加熱方法若しくは鋼板の加熱成形方法及びそれらの方法によって製造された車両用部品並びに赤外炉に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費向上を目的とする車体の軽量化又は衝突安全性に対するニーズの高まりに伴い、車体部品の製造方法として、ダイクエンチ工法が注目されている。ダイクエンチ工法は、加熱された鋼板を、プレス金型で成形と同時に急速冷却することにより、鋼板を焼入れする工法である。
【0003】
また、車体部品に関しては、高強度部品と低強度部品を溶接して一つの部品を製造する手間を省くため、一つの部品内に強度の変化を持たせたいという要求がある。このような部品は、高強度部によって強度が確保され、低強度部は加工し易いという利点を有している。
【0004】
また、鋼板を焼入れするために鋼板を加熱する方法として、赤外線加熱方法が注目されている。赤外線加熱方法は、ワークに赤外線を照射して、ワークに赤外線を吸収させることにより、ワークを発熱させる方法である。
【0005】
以上の背景技術に関連する特許文献を以下に紹介する。
【0006】
特許文献1には、鋼板と赤外線ランプの間に所定の形状を有するプレート材を配置すること、および、鋼板のプレート材で覆われていない側の少なくとも一部の加熱強度分布を、鋼板の前記プレート材で覆われている側の加熱強度分布と異なるよう設定すること、が提案されている。
【0007】
特許文献2には、プレス成形工程で、鋼板の冷却到達温度を部分的に変化させることにより、鋼板を部分的に焼入れする方法が提案されている。
【0008】
特許文献3には、プレス成形型に部分的に冷却路を設けることにより、鋼板を部分的に焼入れする方法が提案されている。
【0009】
特許文献4には、鋼板の加熱状態を領域ごとに制御するため、マトリックス状に配置された複数の赤外線ランプのうち、所定列のランプの出力を低くし、他列のランプの出力を高くする赤外線加熱装置が提案されている。図9は、この特許文献4の赤外線加熱装置による鋼板の温度履歴を示すグラフである。
【0010】
図9中、加熱工程70およびそれに続く成形工程71における、鋼板の高温設定部(1000℃)の温度変化を第1の温度推移線75aで示し、同鋼板の第1の低温設定部(600℃)の温度変化を第2の温度推移線75bで示し、同鋼板の第2の低温設定部(300℃)の温度変化を第3の温度推移線75cで示す。
【0011】
図9中の第2および第3の温度推移線75b,75cを参照すると、加熱工程70において、第1および第2の低温設定部は、それらの最終的な目標温度(600℃、300℃)にそれぞれ到達した後は、それ以上の温度に加熱されない。すなわち、鋼板は一様に加熱されない。
【0012】
特許文献5には、加熱炉内で通電加熱または高周波誘導加熱によって鋼板を部分的に加熱した後、鋼板をダイクエンチする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4575976号公報
【特許文献2】特開2005−161366号公報
【特許文献3】特開2002−241835号公報
【特許文献4】特開2011−99567号公報
【特許文献5】特開2009−22995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献2又は3のように、鋼板を部分的に焼入れするため、プレス成形型内で鋼板に温度差を形成する場合には、プレス成形型の構造が複雑になり、又焼入れしたい領域が異なる複数種の部品に対応するのに手間がかかる。
【0015】
また再度図9を参照すると、特許文献4のように、低温設定部をその最終的な目標温度を超えて加熱しない場合、高温設定部から低温設定部へ流入する熱量が多くなり、高温設定部の温度が低下して、所望の強度特性分布を得ることができないおそれがある。また、低温設定部の加熱温度が低い場合、成形工程後に大きなスプリングバックが生じ、形状凍結性が低下するおそれがある。
【0016】
したがって、所望の特性分布を持った鋼板の製造に貢献すると共に、鋼板の成形工程の省力化と成形設備の簡素化に貢献できる鋼板の赤外線加熱方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の視点において、下記の手段が提供される:
赤外線照射により鋼板をA3点以上の温度まで一様に赤外線加熱する全体加熱工程;
全体加熱工程後、引き続き同位置にある鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する温度分布制御工程。
【0018】
第2の視点において、下記の手段が提供される:
赤外線照射により鋼板をA3点以上まで一様に赤外線加熱する全体加熱工程;
全体加熱工程後、引き続き同位置にある鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する温度分布制御工程;
温度分布制御工程後、第1の領域は、臨界速度以上で急冷および成形されて焼入れされ、第2の領域は、前記臨界速度未満で冷却および成形される、成形工程。
【0019】
第3の視点において、下記の手段が提供される:
第1の視点に基づく第2の視点に係る鋼板の加熱成形方法によってプレス成形され、一つの部品内に強度の異なる第1および第2の領域を有する車両用部品。
【0020】
第4の視点において、下記の手段が提供される:
鋼板の一面に対向する出力調整自在な複数の赤外線ランプ;
鋼板の他面に対向し、赤外線を反射する反射面;
複数の赤外線ランプの出力を、これら複数の赤外線ランプと鋼板との位置関係に応じて設定する一又は複数のコントローラ;
赤外線照射により鋼板をA3点以上まで一様に赤外線加熱した後、複数の赤外線のランプの出力を制御して、引き続き同位置にある鋼板に照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、鋼板に、A3点以上の温度を持った第1の領域と、A1点未満の温度を持った第2の領域と、を形成する。
【発明の効果】
【0021】
上記各視点は、所望の特性分布を持った鋼板の製造に貢献すると共に、鋼板の成形工程の省力化と成形設備の簡素化に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態1を説明する工程図である。
図2】実施形態2に係る赤外炉の基本構造を説明するブロック図である。
図3】(A)〜(C)は、実施形態2に係る全体加熱工程を説明するための動作図である。
図4】(A)〜(C)は、実施形態2に係る温度分布制御工程を説明するための動作図である。
図5】実施形態3に係る加熱工程および成形工程における鋼板の温度履歴を示すグラフである。
図6】鋼のCCT図(連続冷却変態線図)である。
図7】(A)〜(C)は、実施形態5に係る赤外炉の構造およびこの赤外炉によって加熱されたワークの特性分布を図示する模式図である。
図8】実施形態6の実験結果を示すグラフである。
図9】特許文献4の赤外線加熱装置による、鋼板の温度履歴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態によれば、鋼板全体が一旦はA3点以上まで一様に加熱されることにより、その後、鋼板の第2の領域が部分的に温度低下制御されても、十分な成形性および形状凍結性を確保することができ、成形後のスプリングバックが抑制される。
【0024】
このように鋼板全体が一旦はA3点以上まで一様に加熱されることにより、すなわち、低温設定部である第2の領域も一旦は、所定の高温まで加熱されることによって、高温設定部である第1の領域と低温設定部である第2の領域の間に生じる熱勾配が小さくなり、第1の領域から第2の領域へ流入する単位時間当たりの熱量が減少する。これによって、第1の領域において第2の領域に隣接する部分の温度が設定温度未満になることが抑制されるため、第1と第2の領域の間に不可避的に形成される両領域の中間的な特性をもった徐変部が小さくなる。かくして、強度分布に関する高精度な要求に対応できる、シャープな特性変化を持った部品が得られる。
【0025】
また、成形工程前に、一つの鋼板内に異なる特性を形成するために必要な準備、例えば、焼入れされる第1の領域と焼入れされない第2の領域との間に、所定の温度差が予め形成されるため、成形工程において、この温度差を形成するための特別なプロセスを実行したりすることを省くことができる。かくして、普通に急冷ないし冷却すれば、設計通りに部分的に焼入れ強化された鋼板が得られ、又、成形設備においては、この温度差を形成するための特別な要素を省くことができる。
【0026】
一実施形態に係る赤外炉は、近赤外線の照射によって鋼板を加熱する赤外線加熱装置であって、鋼板全体を一旦オーステナイト温度域まで加熱したあと、一部の近赤外線の照射を抑制あるいは停止することにより、鋼板に温度分布を与える。鋼板をこの赤外炉から搬出する際における鋼板の温度分布の設定によって、簡素な成形工程を経て、所望する強度特性分布を持った鋼板が得られる。特に、近赤外線による加熱は、近赤外線のエネルギ密度が高いため、ガス炉のような雰囲気加熱とは異なり、鋼板への赤外線照射量の部分的な増減によって、高低差をもった温度分布を形成するのに適している。
【0027】
温度分布制御工程において、第1と第2の領域に温度差を形成するため、好ましくは、第1の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力に対して、第2の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力を相対的に低下させる。例えば、第2の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力を、全体加熱工程時の出力に対して2〜8割程度、4〜6割程度に減少させる。場合によっては、第2の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプの出力をオフしてもよい。また、赤外線を遮蔽する物体ないし赤外線を一部透過する物体を、所定の赤外線ランプと鋼板の間に挿入することによって、温度分布制御を行うこともできる。なお、温度分布制御工程を開始するタイミングは、鋼板の温度を検出するセンサ、あるいは、加熱経過時間を計るタイマより得ることができる。
【0028】
好ましくは、全体加熱工程および温度分布制御工程において、鋼板の一面に向かって赤外線が照射されると共に、同鋼板の他面には、該一面に向かって照射された赤外線の反射光が照射される。反射光による加熱によって、第2の領域の予期せぬ温度低下が防止される。
【0029】
赤外線ランプは、エネルギ密度が高く、比較的狭い範囲の面加熱に適した近赤外線を放射することが好ましい。好ましい波長の範囲は0.8〜2μmである。近赤外線は、上述したようにエネルギ密度が高く、近赤外線による直接的な加熱は、ガス炉などを用いた雰囲気加熱に比べて、鋼板を短時間で加熱することができ、さらに、鋼板の部分的加熱に関しても有利である。なお、場合によっては、波長の比較的長い赤外線を用いることも可能である。
【0030】
赤外線ランプとしては、各種形状のランプを用いることができるが、中でも、安価で、赤外炉への装着が容易な長管型を用いることが好ましい。本発明によれば、長管型を用いても、一つの部品に十分な特性の変化を形成することができる。
【0031】
赤外線ランプの出力強度は、投入する電力量、又は、赤外線を発光する陰極線に流れる電流量を調整することによって、制御することができる。
【0032】
赤外線加熱および本発明の熱処理に適した鋼板としては、例えば、亜共析鋼、ボロン鋼板、GA鋼板およびGI鋼板が例示されるが、部分的な熱処理が可能なものであれば、その他のものでもよい。
【0033】
好ましくは、鋼板の一面に対向して一又は複数の赤外線ランプを配置し、同鋼板の他面に対向して反射面を設ける。反射面は、鏡面や光沢面のように、赤外線の反射率が高いことが好ましい。反射率は、60%以上が好ましく、さらには、70%以上、80%以上、90%以上が好ましい。反射面は、例えば、各種金属メッキ、例えば、金メッキ又は銀メッキから形成することができる。
【0034】
一又は複数の冷却材によって、鋼板の他面を局所的に冷却してもよい。これによって、鋼板の特性をスポット的に変化させることができる。
【0035】
複数の赤外線ランプは、鋼板の輪郭ないし所望の特性分布に応じて、平面的あるいは立体的に配置することが好ましい。
【0036】
好ましくは、温度分布制御工程後の成形工程において、第1の領域は急冷されて焼入れされ、第2の領域は冷却されるが焼入れはされない。
【0037】
好ましくは、第1の領域は、A3点以上からA3点プラス10%の範囲に加熱され、又第2の領域は、A1点未満からA1点マイナス10%の範囲に加熱される。さらに、下記に、加熱工程の最終局面における、第1の領域の制御目標温度範囲の一例、および、第2の領域の制御目標温度範囲の一例を提示する。なお、これらの目標温度は、鋼板の組成や寸法効果、或いは、炉開放時ないし炉から成形装置への搬送中の温度低下を考慮してやや温度を高めに設定するなどして、最適化することが好ましい。
(1)第1の領域ないし一様加熱時の目標温度範囲:Ac3〜1000℃、Ac3〜980℃、Ac3〜950℃、Ac3〜925℃、Ac3〜900℃。
(2)第2の領域の最終目標温度範囲:500℃〜Ac1、600〜780℃、650〜750℃、700〜725℃。
【0038】
好ましくは、一つの鋼板はAc3点(オーステナイト変態点)以上の温度まで一様に加熱され、次に、同鋼板の第1の領域はAc3点以上の温度を維持するよう加熱され、第2の領域はAc1点未満に温度制御される。なお、Ac3点は、全体がオーステナイト化する温度であり、Ac1点は、オーステナイトが初析する温度である。
【0039】
なお、上述の各形態は、本発明の効果が達成される限り、適宜組み合わせることが可能である。
【0040】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる図面参照符号は、理解を助けるために、図面中の要素に便宜上付記したものであって、本発明を図示の態様に限定することを意図するために用いるものではない。
【0041】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る加熱工程と成形工程を説明するための工程図であって、加熱工程および成形工程における鋼板の温度履歴を図示している。
【0042】
図1を参照すると、一枚の鋼板Wに、高強度な第1の領域R1と比較的低強度で高延性な第2の領域R2の作り分けが要求されている。加熱工程20において、まず、赤外線照射により、鋼板Wは、A3点以上まで、例えば、850℃まで、一様に赤外線加熱される。この工程を全体加熱工程(一様加熱工程)20aと称する。全体加熱工程20a後、引き続き同位置にある鋼板Wに照射されている赤外線の強度を部分的に低下させ、鋼板に、A3点以上の温度を維持している第1の領域R1と、A1点未満の温度、例えば、600℃の第2の領域R2と、を形成する。この工程を温度分布制御工程20bと称する。このような温度分布が付与された鋼板Wを迅速に成形工程21に移送し、急冷ないし冷却とプレス成形を同時に実行する。これを、ダイクエンチと称する。
【0043】
成形工程21において、第1および第2の領域R1,R2は共に、例えば、100℃に到達するまで冷却される。しかし、冷却開始時の温度は、第1の領域R1はA3点以上であるのに対して、第2の領域R2は、A1点未満であるため、第1の領域R1の第1の冷却速度V1は第2の領域の第2の冷却速度V2よりも高くなる。そして、第1の冷却速度V1が、マルテンサイト変態のための焼入れ臨界速度(25℃/sec)よりも高くなり、第2の冷却速度V2が、焼入れ臨界速度よりも低くなるよう、加熱工程20終了時の温度分布と成形工程21終了時の共通温度を設定することにより、焼入れされた高強度な第1の領域R1と、焼入れされずに高延性で低強度な第2の領域R2とを含む一つの鋼板Wを得ることができる。
【0044】
[実施形態2]
本実施形態2では、上記工程を好適に実施できる赤外炉およびそれによる加熱工程の一例を説明する。図2は、実施形態2に係る赤外炉の基本構造を説明するブロック図である。
【0045】
[赤外炉の基本構造]
図2を参照して、実施形態2に係る赤外炉10の基本構造を説明する。赤外炉10は、鋼板Wの一面に対向する複数の赤外線ランプ1と、鋼板Wの他面に対向し、赤外線を反射する反射面3と、複数の赤外線ランプ1の出力を個別に設定可能なコントローラ4と、を備えている。コントローラ4は、複数の赤外線ランプ1のオンオフ制御および出力制御を行う。赤外炉10において、鋼板Wの一面に入射する赤外線の強度は、鋼板Wの位置に応じて可変できる。
【0046】
このような、鋼板Wの一面上における入射強度の部分的な調整は、出力調整自在な複数の赤外線ランプ1の局所的な出力調整、又は、赤外線を遮蔽する物体5、或いは、これらの手段の併用によって達成することができる。物体5としては、網目構造や半透明のセラミックス、又は、多孔質セラミックス等を用いることができ、例えば、所望の透過率を有する曇り石英ガラスを用いることができる。また、物体5は、鋼板Wに所望される特性分布に対応して各種の平面的又は立体的形状に形成することができる。
【0047】
なお、複数のコントローラ4を、複数の赤外線ランプ1に一対一に設け、赤外線ランプ1の出力強度を個別に調整してもよい。また、鋼板Wを下から複数のピンによって支持する場合には、複数の赤外線ランプ1は図2に示すように上方に配置することが好ましく、鋼板Wを上から吊り下げる場合には、複数の赤外線ランプ1を下方に配置することが好ましい。一又は複数のコントローラ4は、後述する各種実施形態において、複数の赤外線ランプ1の出力調整用に適宜用いることができる。
【0048】
ここで、反射面3の設置によって生じる効果を、実験結果を参照しながら説明する。
【0049】
図2に示したように、鋼板Wの一面側にのみ複数の赤外線ランプ1を設け、鋼板Wの他面側には反射面3を配置した場合、すなわち、片側加熱の場合と、鋼板Wの一面側と他面側の両方に複数の赤外線ランプ1を配置した場合、すなわち、両側加熱の場合とで、厚み1.6mmのボロン鋼板の昇温速度を測定した。同時に、このボロン鋼板の一面と他面との温度差を測定した。なお、両側加熱は、二倍の個数の赤外線ランプ1を要するため、片側加熱と比べて約2倍の電力量を要する。
【0050】
室温から900℃に到達する時間は、片側加熱の場合には31.4秒であり、両側加熱の場合には29.6秒であり、両者の昇温速度に有意な差はなかった。したがって、片側加熱により、省エネルギを達成しつつ、十分に短い鋼板の昇温時間が得られることがわかった。また、片側加熱の場合でも、ボロン鋼板の一面と他面との温度差は5℃以内に抑制されていた。この温度差は、温度制御上、問題のないレベルである。
【0051】
次に、図2に示した実施形態2に係る赤外炉10による鋼板Wの加熱方法を説明する。図3(A)〜(C)は、実施形態2に係る全体加熱工程を説明するための動作図である。図4(A)〜(C)は、上記全体加熱工程後の温度分布制御工程を説明するための動作図である。
【0052】
[全体加熱工程]
図3(A)および図3(B)を参照すると、全体加熱工程では、複数の赤外線ランプ1のうち、鋼板Wの第1の領域R1に対向する複数の赤外線ランプ1aと、鋼板Wの第2の領域R2に対向する複数の赤外線ランプ1bは、いずれも高強度の赤外光2aを放射する。したがって、第1および第2の領域R1,R2の一面には高強度の赤外光2aが入射し、同時に、鋼板Wの他面には、反射面3からの反射光2cが入射する。これによって、図3(C)に示すように、鋼板Wは一様に加熱される。
【0053】
[温度分布制御工程]
図4(A)および図4(B)を参照すると、上記全体加熱工程に引き続く温度分布制御工程では、複数の赤外線ランプ1のうち、鋼板Wの第1の領域R1に対向する複数の赤外線ランプ1aは引き続き高強度の赤外光2aを放射する一方、鋼板Wの第2の領域R2に対向する複数の赤外線ランプ1bは低強度の赤外光2bを放射する。したがって、第1の領域R1の一面には高強度の赤外光2aが入射し、第2の領域R2の一面には低強度の赤外光2bが入射し、同時に、鋼板Wの他面には、反射面3からの反射光2cが入射する。
【0054】
図4(C)を参照すると、このような赤外線加熱によって、鋼板Wには、A3点以上の温度を有する第1の領域R1と、A1点未満の温度を有する第2の領域R2とが形成される。そして、図1に示した成形工程21、特に、ダイクエンチ工程において、第1の領域R1は、急冷により焼入れされて高強度および高硬度となり、第2の領域R2は、冷却されるが焼入れはされずに低強度および低硬度となる。なお、第1の領域R1と第2の領域R2の間には、徐変部Tが形成される。徐変部Tは、第1の領域R1と第2の領域R2の間の中間的な特性を有している。
【0055】
この徐変部Tは、比較的幅が狭く形成される。その理由は、第2の領域R2に対向している複数の赤外線ランプ1bもオンされることにより、又、反射面3からの反射光2cが鋼板Wの他面に入射することにより、第1の領域R1と第2の領域R2の温度差が余分に拡大されることが防止され、第1の領域R1から第2の領域R2への単位時間当たりの熱流束が減少し、第1の領域R1において第2の領域R2に隣接する部分の温度がA3点未満になることが抑制されるからである。
【0056】
[実施形態3]
本実施形態3では、実施形態2の赤外炉10によって赤外線加熱され、続いて、実施形態1で説明したようにダイクエンチされる鋼板の温度履歴を説明する。図5は、実施形態3の加熱工程および成形工程における鋼板の温度履歴を示すグラフである。図6は、鋼のCCT図(連続冷却変態線図)である。
【0057】
図5中、焼入れ強化される第1の領域R1(図4(C)参照)の温度変化を第1の温度推移線25aで示し、焼入れ強化されない第2の領域R2(図4(C)参照)の温度変化を第2の温度推移線25bで示す。
【0058】
図1図4(A)〜(C)、図5および図6を参照すると、鋼板Wは温度分布制御工程20bにおいて下記のように加熱された状態で、次工程の成形工程21へ搬送される。すなわち、鋼板Wの第1の領域R1が後の成形工程21で焼入れ臨界速度を上回る冷却速度で冷却できるよう、かつ、鋼板Wの第2の領域R2がA1点未満の温度となり後の成形工程21で焼入れ臨界速度を下回る冷却速度で冷却できるよう、鋼板Wは加熱される。
【0059】
成形工程21において、第1の領域R1は、図6に示すマルテンサイト変態に係る臨界冷却速度(CCR)よりも高い速度冷却されることによって高強度化され、第2の領域R2は、臨界冷却速度(CCR)よりも低い速度で冷却されることによって、ベイナイトを中心とする組織、或いはフェライトを中心とする組織となり、低強度ないし高延性化される。このように、鋼板Wを赤外炉10から搬出する際の温度設定により、所望の強度特性分布を持った鋼板Wを得ることができる。
【0060】
[実施形態4]
本実施形態4では、下記の表1に、鋼板の第1および第2の領域の温度履歴設定の一例を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1中、0〜80秒の間が加熱工程であり、80秒以降が成形工程(ダイクエンチ工程)である。加熱工程中、0〜40秒の間が全体加熱工程であって、第1および第2の領域R1,R2は、一様に900℃まで赤外線加熱される。加熱工程中、40〜80秒の間が温度分布制御工程であって、第2の領域R2の温度は900℃から600℃まで低下している。そして、成形工程において、冷却目標温度は、第1および第2の領域R1,R2ともに100℃である。
【0063】
[実施形態5]
本実施形態5では、以上説明した加熱工程を好適に実施できる赤外炉の一例を説明する。図7(A)〜(C)は、実施形態5に係る赤外炉の構造およびこの赤外炉によって加熱されたワークの特性分布を図示する模式図である。
【0064】
図7(A)を参照すると、実施形態5は、冷却材7を用いたことを特徴としている。以下の実施形態5の説明においては、主として、本実施形態5と前記実施形態2の赤外炉の相違点について説明し、両実施形態の共通点については、適宜、実施形態2の説明を参照するものとする。
【0065】
図7(A)を参照すると、実施形態5の赤外炉10は、鋼板Wの他面を局所的に冷却する冷却材7,7を備えている。図7(B)および(C)を参照すると、赤外線加熱によって、低出力の複数の赤外線ランプ1bに対向する鋼板Wの左端部に加えて、冷却材7,7がそれぞれ当接した部分も第2の領域R2,R2となり、これら第2の領域R2,R2の周囲も徐変部Tとなり、残部が第1の領域R1となる。
【0066】
なお、冷却材7としては、セラミックスやナトリウムを封入した金属体などの温度吸収部材を用い、それをワークWの他面に接触させることができる。このような温度吸収部材を、ワークWを支持するピンとして用いてもよい。また、冷却材7として、水やエアを、ワークWの他面側に配置されたノズルから噴出させてもよく、これらを、上述の金属体と併用してもよい。
【0067】
[実施形態6]
ここで、領域の設定温度(例えば、約400〜900℃)に応じた赤外線ランプの出力調整方法の一例を実験結果に基づいて説明する。赤外線加熱される鋼板としては、厚み1.6mm、長さ100mm、幅80mmのボロン鋼板を用い、その中央に熱電対を取り付け、複数の赤外線ランプから出力される赤外線の強度を約50〜100%の間で変えて赤外線加熱をそれぞれ行い、ボロン鋼板の温度変化をそれぞれ測定した。
【0068】
図8は、実施形態6の実験結果を示すグラフであって、鋼板に対する赤外線入射強度の違いによる、鋼板の加熱温度の違いを示すグラフである。図8を参照すると、赤外線ランプの出力調整によって鋼板の温度を自在に設定できること、さらに、複数の赤外線ランプの部分的な出力調整によって鋼板の複数の所定領域の温度を自在に設定できることが分かる。
【0069】
なお、以上説明した複数の実施形態は、特に断り書きがない限り、併用することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態等を説明したが、本発明は、上記した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の基本的な技術的思想を逸脱しない範囲で、更なる変形、置換又は調整を加えることができる。
【0071】
なお、上記の特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。また、本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、車両用部品ないし車体部品、例えば、各種ピラー、サイドメンバ、又は、ドアの構成部品であるインパクトバー等の熱処理ないし加熱成形に好適に利用される。
【符号の説明】
【0073】
1 複数の赤外線ランプ
1a 第1の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプ
1b 第2の領域に対向する一又は複数の赤外線ランプ
2a 第1の領域に対向する赤外線ランプから放射される赤外光、高強度の赤外光
2b 第2の領域に対向する赤外線ランプから放射される赤外光、低強度の赤外光
2c 反射光
3 反射面
4 コントローラ
5 物体
7 冷却材
10 赤外炉、赤外線加熱装置
W 鋼板、ワーク
R1 第1の領域、高強度部、焼入れ強化部
R2 第2の領域、低強度部、低硬度部、
T 徐変部、遷移部
20 加熱工程
20a 全体加熱工程,一様加熱工程
20b 温度分布制御工程
21 成形工程
25a 第1の領域R1の温度推移線
25b 第2の領域R2の温度推移線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9