特許第5740440号(P5740440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740440
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】ラックバー
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/04 20060101AFI20150604BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20150604BHJP
   B21K 1/76 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   F16H19/04 Z
   B62D3/12 503Z
   B21K1/76 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-151977(P2013-151977)
(22)【出願日】2013年7月22日
(62)【分割の表示】特願2009-105222(P2009-105222)の分割
【原出願日】2009年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-231512(P2013-231512A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2008-112938(P2008-112938)
(32)【優先日】2008年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】山脇 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−086243(JP,A)
【文献】 特開2005−030545(JP,A)
【文献】 特開2001−163228(JP,A)
【文献】 特開平07−277207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/04
B21K 1/76
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、
軸部と、
この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、
前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、
前記歯部の歯先及び歯底のR形状は少なくとも1つの楕円により形成されていることを特徴とするラックバー。
【請求項2】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、
軸部と、
この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、
前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、
前記歯部の歯先のR形状は円により形成された後、軸方向に沿った面で切除されたものであることを特徴とするラックバー。
【請求項3】
記歯部内部の金属流動は、歯底から前記ピニオンギアと噛み合う領域で連続で、前記面で非連続に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のラックバー。
【請求項4】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、
軸部と、
この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、
前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、
前記歯部の歯先及び歯底のR形状は少なくとも1つの楕円により形成された後、軸方向に沿った面で切除されたものであることを特徴とするラックバー。
【請求項5】
前記歯部内部の金属流動は、前記ピニオンギアと噛み合う領域で連続で、前記面で非連続に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のラックバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーステアリング装置等に使用されるラック&ピニオンギアに用いられるラックバーに関し、特にレイアウトの自由度を大きくするとともに、耐久性・強度を高めることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を操舵するためのステアリング装置は、ステアリングシャフト側のピニオンギヤと、左右の車輪を接続するタイロッド側に、ラックが形成されたラックバーとを備えており、これらピニオンギヤとラックにより、ハンドルから伝達される回転操舵力をギヤボックスで左右の横力に変換してこれを車輪に伝達し、キングピン回りの回動力を車輪に作用させるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、ステアリング装置の操舵量はラックバーの歯部が形成されるラック歯形成部の軸方向長さによって定まる。
【0004】
一方、ラックバーの製造工程において、圧入転造時の素材の金型の凹部に対する均等な金属流動を得ることで強度を高める手法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−253190号公報
【特許文献2】特開2002−86243号公報(段落番号[0028]及び図8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したラックバーでは、次のような問題があった。すなわち、図14に示すように、ラックバー100の両端は、タイロッド(不図示)に接続されるためのロッド部101が形成されている。なお、図14中Qは、ピニオンギアが噛み合う範囲を示している。ラック歯形成部102のうちロッド部101との境界付近には、歯部103を形成することができず、十分な操舵量を確保することができなかった(図14中破線104参照)。
【0007】
一方、歯部103自体の構成は、図15に示すように、歯先・歯底の形状は異なるR形状となっている。図15中F0は歯先、S0は直線部、B0は歯底を示している。また、直線部S0の長さをストレート長L0とする。歯先F0と直線部S0及び直線部S0と歯底B0とは所定のR形状に沿って接続されている。このR形状で接続するのは、鍛造等により歯部103を形成する際や歯型の寿命を向上させるためである。R形状はその半径が大きいほど歯型寿命の向上やピニオンギアとの滑らかな噛み合いを得ることができるが、歯先と歯底との間の直線部の長さ(ストレート長)L0が短くなる。直線部は直接ピニオンギアの歯面から回転力を伝達される部分であるため、ストレート長L0が短いと接触面積が小さくなり、歯部103の耐久性・強度が十分ではなかった。
【0008】
また、歯型は成形回数(ショット数)が増えると、歯成形時に歯型の歯底R部に発生する高い応力により微細なクラックが生じる。このため、ラックバー100の肉が入り込み、歯先F1にバリが発生する。バリが発生すると、ラックバーが不良品となるため、歯型を新しいものに交換しなければならなかった。
【0009】
そこで本発明は、歯部の設けられる範囲を十分に得ることで操舵量を大きくすることができるラックバー、ストレート長を確保することで耐久性及び強度を十分に保ち、しかも歯型の長寿命化を図ることができるラックバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のラックバーは次のように構成されている
ニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、軸部と、この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、前記歯部の歯先及び歯底のR形状は少なくとも1つの楕円により形成されていることを特徴とする。
【0011】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、軸部と、この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、前記歯部の歯先のR形状は円により形成された後、軸方向に沿った面で切除されたものであることを特徴とする。
【0012】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、軸部と、この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、前記歯部内部の金属流動は、歯底から前記ピニオンギアと噛み合う領域で連続で、前記面で非連続に形成されていることを特徴とする。
【0013】
ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、軸部と、この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部と、前記軸部の両端側に設けられたロッド部とを備え、前記歯部の歯先及び歯底のR形状は少なくとも1つの楕円により形成された後、軸方向に沿った面で切除されたものであることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯部の設けられる範囲を十分に得ることで操舵量を大きくすることができ、ストレート長を確保することで耐久性及び強度を十分に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るラックバーが組み込まれたステアリング装置を示す斜視図。
図2】同ラックバーを示す平面図。
図3】同ラックバーの歯部の要部形状を示す説明図。
図4】同ラックバーの製造工程の一例に係る芯金の要部を示す側面図。
図5】同芯金が適用される中空ラックバー製造装置を示す断面図。
図6】同芯金が挿入された状態の中空ラックバーを示す断面図。
図7】同ラックバーの製造工程の別の例に係る芯金の要部を示す側面図。
図8】同芯金を用いる中空ラックバー製造装置を示す図であって、金型及び芯金ホルダーまわりを芯金が挟持された状態で示す断面図。
図9】同中空ラックバー製造装置の金型及び芯金ホルダーまわりを芯金受け渡し状態で示す断面図。
図10】同中空ラックバー製造装置の金型及び芯金ホルダーまわりを芯金の圧入が完了した状態で示す断面図。
図11】本発明の第2の実施の形態に係るラックバーの歯部の要部形状を示す説明図。
図12】本発明の第3の実施の形態に係るラックバーの歯部の要部形状を示す説明図。
図13】各種形状の歯部のストレート長を比較して示す説明図。
図14】一般的なラックバーの一例を示す平面図。
図15】同ラックバーの歯部の要部形状を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るラックバー20が組み込まれたステアリング装置10を示す斜視図、図2はラックバー20を示す平面図、図3はラックバー20の歯部22a,22bの要部形状を示す説明図である。
【0017】
ステアリング装置10は、ハンドル(操舵部材)11に連結されたステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12に連結されるとともに、先端にピニオンギア13aを有するピニオン軸13と、ピニオンギア13aに噛み合わされるラックバー20とを備えている。ラックバー20はさらにタイロッド30、30を介して前車輪WR、WLに接続されている。
【0018】
ラックバー20は、中実あるいは中空丸棒から形成された軸部21と、この軸部21の中央に設けられたラック歯形成部22と、軸部21の両端側に設けられ、ラック歯形成部22の外径と異なる外径を有するロッド部23とを備えている。
【0019】
ラック歯形成部22は、ピニオンギア13aと噛み合う複数の歯部22a,22bが軸方向Cに沿って並設されている。また、歯部22aのピニオンギアと接触する接触面Eが軸方向Cに対して斜めに配置されている。また、両端に位置する歯部22bは、その接触面Eに沿った長さが他の歯部22aより短く形成されている。
【0020】
歯部22a,22bの断面は、図3に示すように、歯先F1・直線部S1・歯底B1とから形成されており、歯先F1と直線部S1及び直線部S1と歯底B1とは所定のR形状に沿って接続されている。このR形状は楕円であり、直線部S1側を長軸の頂部、歯先F1・歯底B1側を短軸の頂部に近づくように形成されている。
【0021】
なお、図2中Qは、ピニオンギア13aが噛み合う範囲を示している。
【0022】
このような形状で歯部22a,22bが形成されていると、直線部Sのストレート長LがR形状を正円とした場合より長くすることができ、ピニオンギア13aとの接触面積を大きくすることができる。このため、操舵力の伝達をより広い接触面積で行うことができるため、歯部22a,22bの耐久性及び強度を十分に保つことができる。また、ピニオンギア13aが歯部22bにも噛み合うので、噛み合い強度も十分に保つことができる。
【0023】
例えば、R形状を半径2mmの正円とした場合に比べ、長軸2mmの楕円とした場合はストレート長を0.39mm長くすることができる。なお、製品によって異なるが、R形状は楕円同士の組合せや、楕円と円の組合せとしてもよい。
【0024】
図4図6は、上述したラックバー20の製造工程の一例を示す図である。図4は芯金110を示す側面図、図5は芯金110が用いられる中空ラックバー製造装置200を示す要部断面図である。なお、図5中Pは鉄製のパイプ(中空素材)を示している。また、図5中110Aは、芯金110と同じ構成の芯金を示している。パイプPは上述したラックバー20として用いられるものである。
【0025】
芯金110は、半円形状の棒材111を備えている。棒材111は、最初にパイプPに挿入される圧入方向の先端側に位置する先端部112と、駆動装置に連結された基端部113とを備えている。
【0026】
この棒材111には、上面は全体としては平坦であるが、棒材111の軸方向に沿って3つの突起部121,122,123が一体に設けられた平坦部111aが形成されている。一方、棒材111は平坦部111aと反対側に位置する背面側でパイプPの内周面と密接しており、鍛造工程中はバイプPの内周面との密接を維持しながらパイプPの軸方向における直線移動が可能である。また、パイプPの中空部の最小断面領域よりも小さい最大断面領域を有している。すなわち、後述するように、パイプPの上面が平坦化され、平坦部Paが形成された後であっても円滑に移動できるような大きさに形成されている。棒材111の突起部121〜123とは反対側に位置する背面側には、パイプPを中空ラックバーとして用いる場合に、外周面側から案内するための案内部材との摺動面に対応する範囲Q(軸を中心にして120〜150°)にわたって外周押圧面114が形成されている。
【0027】
各突起部121〜123は、緩やかなテーパ状の案内面が形成されており、成形時の流動抵抗に関わらず芯金110のスムーズな動きが得られるようになっている。
【0028】
次に、この芯金110を用いる中空ラックバー製造装置200の構成について説明する。中空ラックバー製造装置200は、鉄製パイプPを保持する下型210及び上型220とを備えている。中空ラックバー製造装置200は、下型210及び上型220に保持されたパイプPの内部空洞に芯金110を圧入させることによりパイプPの肉を後述する歯型230に向けて内径側から張出させることで中空のラックバー20を製造する装置である。
【0029】
下型210は横断面において半円形の内周面211を備え、この半円形の内周面211にパイプPが載置される。上型220はその上側の内面が所定長さに亘って長さ方向に間隔をおいた歯型230を着脱自在に備えており、転写鍛造によりパイプPの上面における所定長さの部位に歯型230の凹凸に応じてラックを形成することができる。
【0030】
このように構成された中空ラックバー製造装置200及び芯金110,110Aを用いてパイプPの鍛造加工を行う。
【0031】
予め、別の型を用いて中央部を中凹状に平潰し、中凹の半円形状としたパイプPを用意する。このパイプPを上型220及び下型210間に保持し、パイプPの平坦部Paが歯型230に当接させる。
【0032】
この状態においてパイプPに対する芯金110の圧入が開始される。芯金110はその先端112よりパイプPの中空部に導入される。そして、テーパ状の案内面を介して最初の突起部121がパイプPの平坦部Paの内側面に作用し、パイプPの肉は歯型230の歯形に向けて張出される。そして、芯金110の圧入が続けられることにより順次突起部122,123による肉の張出しを受け、圧入鍛造が行われる。次に、後退方向に芯金110を移動する。続いて、芯金110Aを圧入することで、交互に圧入鍛造を行う。このとき、芯金110,110Aには、外周押圧面114が形成されているため、パイプPの下側の面は、R形状が作りこまれていく。
【0033】
なお、この後、同様にして、突起部の突出量を僅かに大きくした芯金110を用いて圧入鍛造を行う。以降、同様にして芯金110のサイズを少しずつ大きく変えつつ、所定の工程を繰り返すことで、最終的な加工が完了する。最終的に、芯金110の高さは芯金圧入によりパイプPの肉が歯型230の凹凸に対応して十分に張出されたラックの転写鍛造を完了する。
【0034】
図7図10は、同ラックバーの製造工程の別の例を示す図である。図7は芯金セットの1つである短尺型の芯金110Bを示す側面図、図8図10は同芯金セットを用いる中空ラックバー製造装置300を示す図である。図8は金型及び芯金ホルダまわりを芯金が挟持された状態、図9は金型及び芯金ホルダまわりを芯金受け渡し状態、図10は金型及び芯金ホルダまわりを芯金の圧入が完了した状態で示している。図10において、図7と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0035】
芯金110Bの棒材111の長さは、後述する歯型313の歯部の長さの半分以下と短い。
【0036】
中空ラックバーの製造装置300は、金型310、複数の芯金110Bのセットを収納する芯金ホルダ320、第1の芯金押棒330、第2の芯金押棒340、及び芯金ガイド350等を備えている。
【0037】
金型310は、鉄製パイプ材Pを保持する下型311及び上型312とを備えている。下型311は横断面において半円形の内周面311aを備え、この半円形の内周面311aにパイプ材Pが載置される。上型312はその上側の内面が所定長さに亘って長さ方向に間隔をおいた歯型313を着脱自在に備えており、転写鍛造によりパイプ材Pの上面における所定長さの部位に歯型313の凹凸に応じてラックを形成することができる。
【0038】
芯金ホルダ320は、金型310の片側、例えば図8図10において金型310の右隣にのみ配置されている。図8図10に示すように芯金ホルダ320は複数の保持孔321を有している。これらの保持孔321はパイプ材Pが延びる方向に芯金ホルダ320を貫通していて、その内部に芯金110Bが個別に収容されている。収容された芯金110Bは、金型310に対する適正な姿勢で、かつ、不用意に脱落しないように図示しない板ばね等により保持されるようになっている。芯金ホルダ320に支持された各芯金110Bは、金型310に対して第1の芯金押棒330が挿脱される側に位置されている。
【0039】
芯金ホルダ320はホルダ駆動部(不図示)により移動される。この駆動が行われるたびに、複数の保持孔321の内の一つが順次選択されて互いに合わさったパイプ材Pの一端に対向される。そのため、芯金ホルダ320に支持された芯金110Bを順次パイプ材P内に出し入れすることが可能である。このために、ホルダ駆動部で芯金ホルダ320を図8図10中上下方向(縦方向)に一定ピッチずつ移動させている。しかし、これに代えて、横方向(図8図10を描いた紙面の表裏方向)に移動させてもよい。或いは、芯金ホルダー320を回転可能に設けて、ホルダー駆動部で所定角度ずつ回転させることもできる。
【0040】
第1の芯金押棒330の先端側は、金型310に保持されたパイプ材Pに対して挿脱自在に形成されている。その際、芯金110Bを伴って金型310に保持されたパイプ材Pに挿入される。なお、図8図10中符号360は管状の押棒ガイドを示している。
【0041】
第2の芯金押棒340の先端側は、金型310に保持されたパイプ材Pに対して挿脱自在に形成されている。
【0042】
図8図10に示すように芯金ガイド350は、金型310と芯金ホルダ320との間に、かつ、金型310に寄せて配置されている。この芯金ガイド350は、金属等からなりその厚み方向に貫通した通孔351を有している。通孔351は金型310に保持されたパイプ材Pの中空部に連通されている。
【0043】
次に、以上の構成の中空ラックバー製造装置300を用いて中空のラックバーを製造する手順を説明する。セットされたパイプ材Pは金型310内に配置され、パイプ材Pの他端側は金型310から突出される。又、型締めによって、下型311及び上型312とで挟持されるとともに、平坦部Paに歯型313が当接される。
【0044】
このセット作業の前又は後に、芯金ホルダ320を動作させて、それに収容された複数の芯金110Bの内の一つを、芯金ガイド350の通孔351に対向した状態に保持する。これとともに、通孔351に対向した芯金110Bの右端に第1の芯金押棒330の先端を係合させる。
【0045】
次に、第2の芯金押棒340がパイプ材P内に挿入され、第2の芯金押棒340の先端がパイプ材P及び芯金ガイド350の通孔351を挿通して、この通孔351に対向している芯金ホルダ320内の芯金110Bの左端に当たるようになる。したがって、通孔351内の芯金110Bがその軸方向両端からこれら両端に接した第1の芯金押棒330と第2の芯金押棒340とで挟持される。
【0046】
この後、第1の芯金押棒330が、芯金ホルダ320の保持孔321及び芯金ガイド350の通孔351を通って、図9に示すように金型310に保持されたパイプ材P内に挿入される。
【0047】
この時、芯金110Bは、第1の芯金押棒330と第2の芯金押棒340とで挟持された状態のままで、第1の芯金押棒330により押圧されてパイプ材P内に圧入される。この圧入により、芯金110Bの突起部121〜123による肉の張出しを受け、圧入鍛造が行われる。芯金110Bの圧入は、図10に示すように芯金110Bが平坦部Paから抜けきらない状態で終了する。
【0048】
次に、第1の芯金押棒330が引き戻される。この時、第2の芯金押棒340が芯金ホルダ320に向けて移動される。これにより、芯金110Bは、この芯金110Bの両端に接した第1の芯金押棒330と第2の芯金押棒340とで挟持された状態のまま、第2の芯金押棒340により押圧されてパイプ材P及び芯金ガイド350の通孔351を通って芯金ホルダ320に内に押し戻される。この場合にも、芯金110Bの突起部121〜123による肉の張出しを受け、圧入鍛造が行われる。
【0049】
この後、芯金ホルダ320を動かして、次に突起部の突起量が大きい芯金110B及びこれが収容された保持孔321を芯金ガイド350の通孔351を通してパイプ材Pの開口部に対向させる。
【0050】
そして、次に使用する芯金110Bを挟持した状態とした後に、同様にして、芯金110Bは、第1の芯金押棒330と第2の芯金押棒340とで挟持された状態のままで、第1の芯金押棒330により押圧されてパイプ材P内に圧入し、一往復させる。こうした手順を順次繰り返すことによって、パイプ材Pに金型310の歯型313に対応したラックを有した中空のラックバー20を製造する。
【0051】
最後に、使用した最後の芯金110Bを芯金ホルダ320に戻した後に、第2の芯金押棒340をパイプ材Pから抜出してから、金型310を開く。
【0052】
上述したように、本実施の形態に係るラックバー20を有するステアリング装置10によれば、歯部22a,22bが設けられる範囲を長くすることができ、操舵量を大きくすることができる。また、歯部22a,22bのストレート長Lを確保することで耐久性及び強度を十分に保つことができる。また、上述したような中空ラックバーの製造方法のため、歯型230の方を作りこんでおけば、歯部22bのようなラック歯を容易に形成することができる。
【0053】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係るラックバーの歯部42a,42bの要部形状を示す説明図である。なお、歯部42a,42bは、上述した歯部22a,22bと同じ位置に設けられるものであり、その断面形状のみが異なっている。その他の部分は共通しているので、詳細な説明は省略する。
【0054】
歯部42a,42bの断面は、歯先F2・直線部S2・歯底B2とから形成されている。なお、図11中P2は仮歯先を示している。
【0055】
ここで、歯部42a,42bの形成工程について説明する。すなわち、歯型(不図示)による転写鍛造後は、仮歯先P2が形成される。仮歯先P2と直線部S2及び直線部S2と歯底B2とは1つ円のR形状に沿って接続されている。なお、仮歯先P2は後工程において切削加工により削除され、実際には歯先F2が歯先となる。
【0056】
また、歯部42a,42b内部の金属流動は、歯底からピニオンギア13aと噛み合う領域、すなわち直線部S2では連続で、仮歯先P2を切除した面で非連続に形成されることになる。したがって、切除によって歯部42a,42bの強度が低下することはない。
【0057】
このような形状で歯部42a,42bが形成されていると、切削加工により除去した分だけ歯部の高さを低減することができるため、仮歯先P2を残した場合に比べて直線部S2のストレート長L2をより長くすることができ、ピニオンギア13aとの接触面積を大きくすることができる。このため、操舵力の伝達をより広い接触面積で行うことができるため、歯部42a,42bの耐久性及び強度を十分に保つことができる。また、ピニオンギア13aが歯部42bにも噛み合うので、噛み合い強度も十分に保つことができる。したがって、例えば電動パワーステアリング装置等の大きな応力がかかる中空ラックバーの採用が可能になる。
【0058】
一方、歯型がその成形回数(ショット数)の増大によりクラックが生じて、仮歯先P2にバリが生じても、後工程において切削加工で除去するため、歯部42a,42bを高品質に保つことができる。また、歯型を長期間使用することができることとなる。したがって、切削工程の追加によるコスト高よりも歯型の長寿命化によるコスト低減の効果が大きくなる。
【0059】
図12は、本発明の第3の実施の形態に係るラックバーの歯部52a,52bの要部形状を示す説明図である。なお、歯部52a,52bは、上述した歯部22a,22bと同じ位置に設けられるものであり、その断面形状のみが異なっている。その他の部分は共通しているので、詳細な説明は省略する。
【0060】
歯部52a,52bの断面は、歯先F3・直線部S3・歯底B3とから形成されている。なお、図12中P3は仮歯先を示している。
【0061】
ここで、歯部52a,52bの形成工程について説明する。すなわち、歯型(不図示)による転写鍛造後は、仮歯先P3が形成される。仮歯先P3と直線部S3及び直線部S3と歯底B3とは所定のR形状に沿って接続されている。このR形状は楕円であり、直線部S3側を長軸の頂部、仮歯先P3・歯底B3側を短軸の頂部に近づくように形成されている。なお、仮歯先P3は後工程において切削加工により削除され、実際には歯先F3が歯先となる。
【0062】
また、歯部52a,52b内部の金属流動は、歯底からピニオンギア13aと噛み合う領域、すなわち直線部S3では連続で、仮歯先P3を切除した面で非連続に形成されることになる。したがって、切除によって歯部52a,52bの強度が低下することはない。
【0063】
このような形状で歯部52a,52bが形成されていると、切削加工により除去した分だけ歯部の高さを低減することができるため、仮歯先P3を残した場合に比べて直線部S3のストレート長L3をより長くすることができ、ピニオンギア13aとの接触面積を大きくすることができる。このため、操舵力の伝達をより広い接触面積で行うことができるため、歯部52a,52bの耐久性及び強度を十分に保つことができる。
【0064】
したがって、上述した歯部42a,42bと同様の効果を得ることができる。
【0065】
図13は、各種形状の歯部のストレート長を比較して示す説明図である。図中の数値の単位はmmである。図13中左側から、比較例としての歯部(H0)、第1の実施形態に係る歯部22a,22b(H1)、第2の実施形態に係る歯部42a,42b(H2)、第3の実施形態に係る歯部52a,52b(H3)を示している。ここで、各歯部H0〜H3の高さを3mm、歯部の歯底における幅を2.1mm、歯底のRを0.5mmに共通化して、各直線部S0〜S3のストレート長L0〜L3を比較した。
【0066】
ここで、比較例の歯部H0においては、半径1mmの円に沿って歯先が形成されている。ここで、歯先の面取りのため0.7mm分だけストレート長L0が短くなる。また、歯部H1においては長径2mm、短径1mmの楕円に沿って歯先が形成されている。ここで、歯先の面取りのため0.41mm分だけストレート長L1が短くなる。歯部H2、歯部H3では、歯先の面取りによって短くなる分は、それぞれ0.098mm、0mmと非常に少ない。
【0067】
したがって、各歯部H0〜H3のストレート長L0は2.142mm、L1は2.433mm、L2は2.744mm、L3は2.842mmとなった。すなわち、歯部52a,52b(H3)のストレート長L3が最も長くなった。
【0068】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、歯部の設けられる範囲を十分に得ることで操舵量を大きくすることができるラックバー、ストレート長を確保することで耐久性及び強度を十分に保つことができるラックバーが得られる。
【符号の説明】
【0070】
10…ステアリング装置、11…ハンドル(操舵部材)、13…ピニオン軸、13a…ピニオンギア、20…ラックバー、21…軸部、22…ラック歯形成部、22a,22b,42a,42b,52a,52b…歯部、23…ロッド部、F0〜F3…歯先、S0〜S3…直線部、B…歯底、L0〜L3…ストレート長。
図1
図2
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