(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記血液貯留部は、全血を貯留する全血貯留部と、該全血貯留部に無菌的かつ気密に連結され、前記全血貯留部に貯留された全血より分離された多血小板血漿を貯留する血漿貯留部と、を備え、
前記超音波発振子収容部は、前記血漿貯留部に設けられる請求項1記載の血清調製装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている方法は、血液の検査を目的とするため、容量の小さな採血管から血清を調製することを前提としている。特許文献1に開示の方法を用いて血清を調製する場合、幹細胞の培養に必要な量を確保するためには、何度も調製操作を行わなければならず、実用に適さない。
【0006】
また、細胞培養の培養効率は、血清中に含まれる細胞増殖因子の量に依存する。仮に一度に多量の血清を得ることができたとしても、細胞増殖因子の量が少なければ、培養効率を向上させることは困難である。
細胞増殖因子は血小板に含有されており、そこから放出される細胞増殖因子の量は、血小板の活性状態に依存し、血小板の活性状態は血小板の鮮度に依存する。特許文献2に開示されている方法は、血液をガラスビーズと接触させることで血小板を自発的に活性化させる方法であるため、使用する血液が古ければ、血液中の血小板の量から推測される量の細胞増殖因子を得ることは困難であり、高い培養効率を奏することが可能な血清を一度に大量に得ることができない。
【0007】
また、特許文献2の方法は、血液をガラスビーズと接触させることにより、血小板を活性化させると同時にガラスビーズに血液凝固因子を付着させ、除去していく。そのため、献血で採取された血液のように、抗凝固処理された血液では、血液凝固因子をガラスビーズに付着させて除去することはできないため、このような血液に対して適用することは比較的難しい。
【0008】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、使用する血液の鮮度に拘らず高い培養効率を奏することが可能な血清を、一度に大量に得ることができる血清調製方法及び血清調製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、古い血液であっても、血小板の細胞膜を破壊することにより、血小板の量から推測される量の細胞増殖因子を得ることが可能であること、即ち血小板が含有しているほぼ全ての細胞増殖因子を得ることが可能であること、また、抗凝固処理が施された血液であっても、所定の処理を行うことにより使用することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下の発明である。
【0010】
(1)少なくとも血小板を含有する血液から血清を調製する血清調製方法であって、前記血液中の血小板の細胞膜を破壊する処理を行う血小板処理工程を有する血清調製方法。
【0011】
(2)前記血小板処理工程は、前記血液に、熱処理、超音波処理、遠心分離処理、加圧・減圧処理又はガラスビーズによる混和・撹拌処理の少なくともいずれかの処理を行う工程である(1)記載の血清調製方法。
【0012】
(3)前記血液として、抗凝固処理が施された血液を用いる(1)又は(2)記載の血清調製方法。
【0013】
(4)前記血小板処理工程を経た血液中の易熱性タンパク質を析出させる析出工程を更に有する(1)〜(3)のいずれかに記載の血清調製方法。
【0014】
(5)前記析出工程により析出した前記易熱性タンパク質を除去する除去工程を更に有する(4)記載の血清調製方法。
【0015】
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の血清調製方法により調製された血清。
【0016】
(7)少なくとも血小板を含有する血液から血清を調製する血清調製装置であって、前記血液を貯留する血液貯留部と、該血液貯留部に無菌的かつ気密に連結され、前記血液貯留部に貯留された血液より分離された血清を収容する成分収容部と、を備える血清調製装置。
【0017】
(8)前記血液貯留部は、全血を貯留する全血貯留部と、該全血貯留部に無菌的かつ気密に連結され、前記全血貯留部に貯留された全血より分離された多血小板血漿を貯留する血漿貯留部と、を備える(7)記載の血清調製装置。
【0018】
(9)前記血液貯留部は、多血小板血漿を貯留する血漿貯留部である(7)記載の血清調製装置。
【0019】
(10)前記血液貯留部と前記成分収容部とは、これらを分離及び接続可能な接続部により接続される(7)〜(9)のいずれかに記載の血清調製装置。
【0020】
ここで、本発明における「血液」とは、少なくとも血小板を含み、血球(赤血球、白血球)と液体成分である血漿(血清)からなる全血、及びこれらの少なくとも1種を含んだ液体(例えば成分献血で採取された血液)をいう。
また、「血清」とは、採取した血液を放置すると流動性が低下し、その後に赤い凝固塊(血餅)から分離される淡黄色の液体、又は細胞増殖因子を多く含む淡黄色の血液の液性成分をいう。
また、「多血小板血漿」とは、通常の全血中の血小板濃度よりも、より多くの血小板を含む血液の液性成分をいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、使用する血液の鮮度に拘らず、高い培養効率を奏することが可能な血清を、一度に大量に得ることが可能な血清調製方法及び血清調製装置を提供することが可能となる。
また、本発明によれば、例えば成分献血で採取された血液のように、抗凝固処理が施された血液であっても血清を調製することが可能となるため、体調上の問題から全血を採取することが困難な患者であっても、身体に負担をかけることなく血清を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略するが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0024】
<第1実施形態>
[血清調製方法]
本発明は、少なくとも血小板を含有する血液から血清を調製する血清調製方法であって、前記血液中の血小板の細胞膜を破壊する血小板処理工程を有する血清調製方法である。
【0025】
血小板が自発的に放出することができる、細胞増殖因子の量は、血小板の鮮度に依存する。血液中の血小板には「活性が高く、若い血小板」と「活性が低く、老いた血小板」が混在し、「若い血小板」は自発的に放出することができる細胞増殖因子の量も多い。採血から時間が経つほど「老いた血小板」の量も多くなるため、古い血液を用いて血清を製造すれば、細胞増殖因子の量が少ない血清となってしまう。しかしながら、本実施形態に係る発明によれば、血小板の細胞膜を破壊する「血小板処理工程」を設けることにより、使用する血液(血小板)の鮮度に関わらず、血小板の量から想定されるほぼ全ての細胞増殖因子を得ることができる。これによって培養効率の高い血清を得ることができる。
【0026】
「血小板処理工程」としては、血液に熱処理、超音波処理、遠心分離処理、加圧・減圧処理等、物理的な負荷をかける処理を施すことが挙げられる。中でも、効率よく細胞膜を破壊することができることから、熱処理や超音波処理を行うことが好ましい。熱処理としては具体的には、凍結融解処理が挙げられる。
凍結融解処理は、凍結と融解の工程を少なくとも1回以上行う処理である。凍結工程における凍結温度は、−196℃〜−1℃、好ましくは−80℃〜−5℃であり、凍結状態保持時間は、容量によって異なるが1秒以上であることが好ましい。また、融解工程における融解温度は、0℃〜56℃、好ましくは4℃〜37℃であり、融解状態の保持時間は容量によって異なるが1秒以上であることが好ましい。
【0027】
また、超音波処理は、その対象物に対する超音波を音圧計にて測定したとき、5mV以上の音圧が得られるという条件で5分間〜60分間、好ましくは10分間〜30分間超音波処理を行う。本発明において、超音波は、通常の超音波発生装置を用いて発生させる。
遠心分離処理は、血液を血液バッグ等の容器に収容し、この血液が収容された容器を、10000〜100000G、5〜600分の条件で遠心分離を行う。なお、血小板処理工程として、遠心分離処理を採用する場合には、血液として多血小板血漿を用いることが好ましい。
【0028】
また、加圧・減圧処理は、血液に3〜275MPaの比較的高い圧力を加え、その後減圧する操作を少なくとも1回行う。これにより、効率よく血小板の細胞膜を破壊できる。
物理的な負荷をかける処理としては、例えば、血液中にガラスビーズを混和させ、このガラスビーズが混和された血液を、遠心分離機等により撹拌する混和・撹拌処理が挙げられる。
【0029】
これらの血液処理工程は、採取された血液が貯留されている血液バッグ等の容器に、そのまま施すことが好ましい。これによって採血又は処理された血液が外気に触れて汚染されてしまうのを防止することが可能となる。また、容器を移し変える必要がないため、工程を簡略化することが可能となる。
【0030】
本実施形態において、「血液」は少なくとも血小板を含有していれば、全血であっても、多血小板血漿のように、一部の血液成分であってもよく、特に限定されるものではない。当該血液は、例えば採血管により採取された数ml程度の血液であってもよいが、一度に多量の血清を製造する場合には、所謂血液バッグにより採血された数百ml〜数千mlの血液を用いることが好ましい。
また、献血で採血された血液のように、抗凝固処理が施されたものであってもよい。ここで、「抗凝固処理」とは、採取した血液にCPD液(Citrate−Phosphate−Dextrose solution)やACD−A液(Acid−Citrate−Dextrose−A solution)等の抗凝固剤を添加することをいう。抗凝固剤は予め採血された血液を貯留する血液バッグに添加されていることが好ましい。この抗凝固剤は、「血小板処理工程」を経た後の血液に、塩化カルシウム等に由来するカルシウムイオンを添加して中和することにより除去してもよい。
【0031】
本実施形態では、採取された血液に、抗凝固剤が添加されているため、このままではフィブリノゲン等の易熱性タンパク質を含有する血液成分ができあがってしまうことになる。血清が易熱性タンパク質を含有したままであると、フィブリンの析出が起こり、細胞培養をすることが困難になってしまう。そのため、上記血小板処理工程を経た血液は、「析出工程」により易熱性タンパク質を析出させ、その後の「除去工程」により当該易熱性タンパク質を除去することが好ましい。
これによって抗凝固剤が添加された血液を用いた場合であっても、上記のような薬剤を添加することなく、易熱性タンパク質を除去することが可能となる。易熱性タンパク質としては、フィブリノゲン、補体成分が挙げられる。
なお、上述の血液処理工程と同様の理由から、当該「析出工程」も、採取された血液が貯留されている血液バッグや採血管等の容器にそのまま施すことが好ましい。
【0032】
「析出工程」としては、加温処理が挙げられる。加温条件は、用いる血液の鮮度や量によって異なるが、通常45℃〜65℃であることが好ましく、50℃〜60℃であることがより好ましく、55℃〜60℃であることが最も好ましい。また加温時間としては、10分から60分であることが好ましく、20分から50分であることがより好ましく、30分から40分であることが最も好ましい。これによって易熱性タンパク質を容易に析出させることが可能となる。また、補体を失活させることが可能であるため、調製された血清を改めて非働化する必要がなく、工程を簡略化することができる。このような理由から、加温処理は、所謂非働化と同様の条件(56℃で30分間加温)で行ってもよい。
【0033】
「除去工程」としては、遠心分離、ろ過等の処理を行うことが挙げられる。遠心分離の条件は、調製した血清の量及び分離する成分の種類によって設定されるものであるが、例えば4400(G)×6分、22(℃)に設定されることが好ましい。また、ろ過は、例えばオープニング径200μmのフィルターによってろ過することが好ましい。
【0034】
<第2実施形態>
本実施形態では、抗凝固剤を添加しない状態で血清を調製する点が第1実施形態と異なる。
本実施形態では、血小板処理工程を経た血液は、血小板のみならず、赤血球や白血球の細胞膜も破壊された所謂溶血状態になる。そのため、赤血球中のヘモグロビンや白血球中のDNA及びRNAを取り除くために、血小板処理工程と析出工程の間に、赤血球と白血球に由来する成分を除去する処理を行う。具体的には、吸着カラムやフィルター等を用いて除去する。なお、ヘモグロビンを取り除く場合には吸着カラムを用いることが好ましく、DNA及びRNAを取り除く場合にはフィルターを用いることが好ましい。
【0035】
<第3実施形態>
[血清調製装置]
次に、上述した本発明の血清を調製する血清調製装置について説明する。
本発明の血清調製装置は、少なくとも血小板を含有する血液から血清を調製する血清調製装置であって、前記血液を貯留する血液貯留部と、この血液貯留部に無菌的かつ気密に連結され、前記血液貯留部に貯留された血液より分離された血清を収容する成分収容部と、を備える血清調製装置である。以下、本実施形態に係る血清調製装置について、詳細に説明する。
【0036】
図1は、本実施形態に係る血清調製装置1を示す図である。この血清調製装置1は、血液貯留部10、成分収容部20を主な要素として構成されている。血液貯留部10は対象者の全血を貯留する全血貯留部11、及び全血から分離された多血小板血漿を貯留する血漿貯留部12から構成されている。このうち、全血貯留部11は、可撓性を有する樹脂材料、例えば、軟質ポリ塩化ビニルからなる2枚のシートが外縁部110aで融着されることで袋状に形成された本体部110から構成されている。血漿貯留部12も全血貯留部11と同様に、軟質ポリ塩化ビニルからなる。
なお、全血貯留部11は、内部に抗凝固剤が充填されている、所謂血液バッグや分離バッグであってもよい。血液貯留部10の内部は前もって滅菌処理が施されている。本実施形態においては、予め抗凝固剤が添加されたものを用いている。
【0037】
成分収容部20は、6つの袋体21〜26から構成されており、各々が全血貯留部11と同様に、軟質ポリ塩化ビニルからなる。これらは血液貯留部10と同様に、前もって滅菌処理が施されている。
【0038】
図1に示すように、全血貯留部11の本体部110における上縁端には、その接続口に2本のチューブ41,42が気密接続されている。そのうちのチューブ41は血液を導入するための導入路の役割を担っているため他端には、採血針30あるいは採血針と接続可能な接続部が接続されている。もう一方のチューブ42は、チューブ43〜47、51〜57及び分岐体61〜66を介して各袋体21〜26に接続されている。これらは血液を導出するための導出路の役割を担っている。これらのチューブ41〜47、51〜57については、柔軟性を有した樹脂材料、例えば、軟質ポリ塩化ビニルから構成されている。ここで、成分収容部20の袋体21〜26と各チューブ51〜57についても、気密接続されている。
【0039】
全血貯留部11と血漿貯留部12、及び血漿貯留部12と各袋体21〜26は、各チューブ42〜47、51〜57を介して、内部の空間が外部環境と隔絶された状態、即ち、気密状態で接続されている。また、各チューブ42〜47、51〜57と各分岐体61〜66とについても、内部における血液成分が流通する領域が外部環境と隔絶された状態に接続されている。接続方法としては、溶剤接着、熱溶着あるいは超音波溶着等が挙げられる。
【0040】
図1には図示していないが、本発明の第1実施形態に係る血清調製装置1では、各チューブ42〜47、51〜57の所要の箇所をクランプで挟むことで血液及び抽出された血清を導出する際に、その流路を切り替えることができる構成となっている。
【0041】
<血清調製操作について>
上記構成を有する血清調製装置1を用いた血清調製操作について、
図1及び
図2〜3を用いて説明する。なお、特に断りがない限り、符号は
図1に記載の符号である。
【0042】
図2に示すように、上記血清調製装置1を用いた血液分離操作は、大別して10の工程(S1〜S10)から構成されている。
【0043】
まず、操作の第1段階としては、採血針30を対象者(患者)に刺し、血液を採取する。この際、採血針30から採取された血液は、チューブ41を介して、下方に位置する全血貯留部11に貯留される(以下、貯留工程S1とする)。ここで、全血貯留部11に採取された血液が、血漿貯留部12の方に流れ込まないように、チューブ42における全血貯留部11との境界近傍には、破断可能な隔壁(図示せず)が備えられている。あるいはチューブ42は、クランプ等を用いて全血貯留部11の根元側で経路が閉鎖されている。貯留工程S1は、採血時における患者の体調等を考慮して、所要量を採取して終了する。ここでいう所要量とは、患者の体格や体調に問題がない場合には200〜600(ml)程度である。
【0044】
なお、採血に際しては、献血の際に広く使われている採血機等を用いることもできる。
【0045】
次いで、対象者から採血針30を抜針し、採血針30と全血貯留部11とを連結しているチューブ41の一部を溶断し、同時にその溶断端を溶着する(以下、第1溶断工程S2とする)。なお、チューブ41の溶断には、溶断機(所謂シーラー)を用いて溶断してもよい。
【0046】
次いで、全血貯留部11中の全血から血漿(以下、本実施形態では多血小板血漿とする)を分離する(以下、第1分離工程S3とする)。分離方法としては、遠心分離、ろ過、又はそれらの組み合わせ、等が挙げられる。本実施形態では、遠心分離を行う。遠心分離の条件は、貯留された血液の量及び分離する成分の種類によって設定されるものであるが、例えば1100(G)×6(min.)、24(℃)に設定されることが好ましい。なお、遠心分離を行う際は、血清調製装置1を折りたたんで遠心分離機にかけることが好ましい。
【0047】
次いで、分離された多血小板血漿を、血漿貯留部12に移す(以下、第1移送工程S4とする)。本工程は、
図3を用いて説明する。
【0048】
図3に示すように、分離された多血小板血漿71を、血漿貯留部12に移送しようとする場合には、クランプ90を用いてチューブ43の経路を閉鎖しておき、この状態で全血貯留部11の外側に設置した加圧機80をもって、全血貯留部11を加圧(F1)する。上述のように、全血貯留部11に気密接続されたチューブ41は、貯留工程S1が終了した時点で、その途中41aが溶断され、かつ同時にその端部及び近傍41bが溶着されている。
【0049】
よって、加圧F1を受けることによって、分離によって抽出された上清部分である多血小板血漿71の一部は、チューブ42、分岐体61及びチューブ51を介して血漿貯留部12に移送される。
なお、チューブ43の経路閉鎖は、柔軟性を有するチューブ43を、クランプ90の円板91とベース92との間で挟むことにより行われる。
【0050】
多血小板血漿71を移送した後に全血貯留部11に残った赤血球等の血液成分は、生理食塩水等で希釈してドナーに返却することができる。また、残った血液成分に赤血球保存液を加え、一定期間保存後に、例えば細胞移植時にドナーに返却することができる。
【0051】
図2に戻って、血漿貯留部12に多血小板血漿71が充填された後、チューブ42を溶断及び溶着する(以下、第2溶断工程S5とする)。この溶断及び溶着は、第1溶断工程S2と同様の方法を用いて行われる。
【0052】
次いで、血漿貯留部12移送された多血小板血漿中の血小板の細胞膜を物理的に破壊する(以下、血小板処理工程S6とする)。血小板処理工程S6としては、遠心分離処理、超音波処理、熱処理、加圧・減圧処理、ガラスビーズによる混和・撹拌処理等が挙げられる。本実施形態では、血小板処理工程は、熱処理としての凍結融解処理により血小板の処理を行う。凍結融解処理は、血清調製装置1全体を−80℃で60分間凍結させ、その後37℃まで昇温させ20分間保持することを3回繰り返して行う。
血小板処理工程S6により、血小板の細胞膜が破壊され、血小板の中の細胞増殖因子が放出される。これによって、血小板又は血液の鮮度に拘らず、血小板が含有している全ての細胞増殖因子を得ることができる。
【0053】
次いで、血小板処理工程S6を経た血液中の易熱性タンパク質を析出させる(以下、析出工程S7とする)。析出処理は、上記血小板処理工程S6を経た血漿貯留部12を、加温処理することにより行われる。本実施形態において、加温処理は、56℃で30分間行われる。析出工程S7によって易熱性タンパク質だけではなく、補体も失活化させることが可能となる。補体を失活化させることにより、培養細胞への影響を軽減することが可能となる。
なお、析出工程S7における加温処理は血清調製装置1全体を加温してもよい。
【0054】
次いで、析出工程S7により析出した易熱性タンパク質を除去する(以下、除去工程S8とする)。除去方法としては、ろ過、遠心分離又はこれらを組み合わせて行う方法等が挙げられる。本実施形態では、4400(G)×6分間遠心分離を行う。遠心分離を行う際は、血清調製装置1全体を遠心分離機にかけることが好ましい。ろ過を行う場合には、
図1中のチューブ43の一部に、フィルターを予め組み込んでおけば、後述する第2移送工程を行いつつ、析出した易熱性タンパク質を除去することが可能となる。
【0055】
次いで、上記除去工程S8により分離された血清を、成分収容部20のそれぞれの袋体21〜26に移送する(第2移送工程S9)。移送方法は第1移送工程S4と同様に、血漿貯留部12の外側に圧力をかけて、調製した血清を押し出す方法が好ましい。血清はそれぞれの袋体21〜26に、収容することができる。なお、調製した血清の量が少ない場合には、チューブ44〜47のいずれかをクランプ等で閉じて使用する袋体21〜26の数を調製してもよい。
【0056】
成分収容部20に血清を移送した後、チューブ52〜57を溶断及び溶着する(以下、第3溶断工程S10とする)。この溶断及び溶着は、第1溶断工程S2と同様の方法を用いて行われる。
【0057】
本実施形態によれば、採取された血液から血清を外気に触れさせることなく、無菌的に製造することが可能となる。これによって、採血から血清調製までの一連の工程を外気に触れることなく行うことが可能であるため、微生物による汚染のリスクを低減させることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、血小板処理工程S6における熱処理として、凍結融解処理の例を示した。しかしながら、本発明における熱処理は、凍結融解処理に制限されない。例えば、熱処理として加温処理を行っても、本発明の効果を達成することができる。血小板処理工程S6の加温処理は、例えば、血清調製装置1全体を56℃で60分間加温処理することにより行われる。これにより、血小板の細胞膜が破壊され、血小板の中の細胞増殖因子を得ることができる。また、血小板処理工程S6において、56℃で60分間の加温処理することにより、上記析出工程S7の工程を同時に行うことができる。これにより、血清調製工程の一連の工程の短縮化を図れる効果がある。
【0059】
なお、本発明に係る血清調製装置は、ヒトの血液だけではなく、げっ歯類、家畜類、霊長類等の哺乳類の血液にも使用することが可能であるため、非ヒト用血液成分分離装置として使用することも可能である。
【0060】
<第4実施形態>
図4及び
図5は、本発明の第4実施形態に係る血清調製装置1Aを示した図である。本実施形態においては、血液貯留部10Aが、全血貯留部と血漿貯留部とで構成されておらず、一つの袋体で構成されており、血液貯留部10Aが多血小板血漿を貯留する血漿貯留部12Aのみから構成されている点が、第3実施形態と異なる。
図4において、血漿貯留部12Aには、例えば成分献血で採取された多血小板血漿が貯留されることになる。この場合、チューブ42Aと血漿貯留部12Aは、始めは接続されていない。使用する際には、チューブ42Aを接続部70に差込み、血漿貯留部12A側のチューブ42A’と連結する。なお、採血時に使用されていたチューブ41Aは、予め溶断されていることが好ましい。接続部70としては、例えば挿入具の挿脱にともなって弁体のスリット状開口部が開閉する機能を有する気密性の高い混注ポート(日本国特許第3389983号等参照)を備えた構成が挙げられる。
なお、本実施形態において、
図6に示すように、血漿貯留部12Aとチューブ42Aとが、接続部70を介さず、予め一体的に接続されてなる構成であってもよい。
このような構成にすることによって、献血のように外部で採取された血液を使用することが可能となる。また、成分献血で採取された血液を使用することができるため、体調上の問題から全血を採取することができない患者でも血清を容易に調製することができる。なお、本実施形態におけるその他の構成は、第3実施形態に係る血清調製装置と同様であるためその他の部分についての説明は省略する。
【0061】
<第5実施形態>
図7及び
図8は、本発明の第5実施形態に係る血清調製装置1Bを示した図である。
本実施形態においては、血液貯留部10Bが血漿貯留部12Bのみから構成されており、この血漿貯留部12Bに超音波を発生させる超音波発振子13を収容可能な超音波発振子収容部14が設けられている点が、第1実施形態と異なる。
【0062】
超音波発振子収容部14は、一端が閉鎖され他端が開放された筒状部材15が、血漿貯留部12Bの上縁部から、袋状に形成された本体部120Bの内部側に突出するように配置されて形成されている。筒状部材15は、閉鎖された一端側が本体部120Bの内部側に突出するように配置される。
超音波発振子13は、棒状であり、筒状部材15の開放された一端側から中空部内に挿入される。即ち、本実施形態では、筒状部材15の中空部が超音波発振子収容部14を構成する。
【0063】
筒状部材15の中空部の形状は、超音波発振子13の外形と略同一である。これにより、超音波発振子13を超音波発振子収容部14に収容した場合に、超音波発振子13が筒状部材15に密着する。
超音波発振子13は、接続線を介して超音波発生装置本体16に接続されており、この超音波発生装置本体16に設けられたスイッチを作動させることにより、超音波を発振する。
【0064】
以上のような構成とすることで、超音波発振子13より発生する超音波を、本体部120Bの内部に収容された全血に直接負荷できる。これにより、効率的な血清調製操作が可能となる。その結果、血清調製操作にかかるエネルギー負荷を軽減でき、また、血清調製にかかる時間の短縮が可能となる。
また、超音波発振子収容部14を、血漿貯留部12Bの内部空間と外部空間とが隔絶された状態で接続できる。これにより、血漿貯留部12Bの内部空間の無菌性を確保しつつ、血小板処理工程を行うことが可能となる。
【0065】
更に、超音波発振子収容部14を、血清調製装置1Bの血液貯留部10Bとしての血漿貯留部12Bに設ける構成としたことにより、血小板処理工程としての超音波処理に用いる超音波発振子13を血清調製装置1Bに容易に着脱でき、血清調製操作が容易となる。また、小型の超音波発生装置を使用でき、血清調製装置1Bの省スペース化を図ることができる。
【実施例】
【0066】
〔実施例1〜4、比較例1、参考例1及び2〕
血小板処理工程における、血小板の細胞膜を破壊する方法の検討を行った。
まず、全血から多血小板血漿を分離する。始めにヒト血液10mlに、CPD液を1.4ml添加し、20℃のもと3500rpmで8分間遠心分離(遠心分離機:株式会社久保田製作所製)を行った。次いで、分離された血漿層とバフィーコート層を分離し、20℃のもと800rpmで8分間遠心分離を行い、上澄みを多血小板血漿として分離した。これを試験用の検体とした。
【0067】
上記多血小板血漿をそれぞれ1mlずつ容器に分与し、以下の処理を行った。なお、比較例1に記載の処理方法は、特許文献2(特許第3788479号)に記載の方法である。
(実施例1)−80℃で10分間凍結させ、その後37℃で融解させる処理を3回実施
(実施例2)超音波処理を15分間実施
(実施例3)超音波処理を30分間実施
(実施例4)直径1mmのガラスビーズを多数加えた容器の中で10分間激しく撹拌する処理を実施
(比較例1)直径4mmのガラスビーズ5個と27.8w/v%の塩化カルシウムを10μl添加し、37℃で30分間加温処理を実施
(参考例1)14000Gで10分間遠心分離を1回実施
(参考例2)14000Gで10分間遠心分離を3回実施
【0068】
上記処理後、3500rpmで10分間の遠心分離を行い、得られた上澄み(血清)について細胞増殖因子の定量を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0069】
実施例1の凍結融解処理を施したものや実施例4のガラスビーズを添加して撹拌する処理を施したものでは、従来の方法(比較例1)とほぼ同等の量の細胞増殖因子を得ることができた。一方、実施例2,3の超音波処理を施したものでは、ヒトの血清が有する細胞増殖因子の上限値に近い量の細胞増殖因子を得ることができた。
【0070】
次いで、実施例2,3において、超音波の処理時間と血小板残存率(%)の関係を検討した。
図9は、超音波処理時間と血小板数の関係(n=5)を示した図である。これより15分間の超音波処理で殆どの血小板の細胞膜が破壊されることが分かった。