特許第5740722号(P5740722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5740722アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740722
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品
(51)【国際特許分類】
   C08B 13/00 20060101AFI20150604BHJP
   B01D 71/22 20060101ALI20150604BHJP
【FI】
   C08B13/00
   B01D71/22
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-541880(P2013-541880)
(86)(22)【出願日】2011年3月9日
(65)【公表番号】特表2014-503624(P2014-503624A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】KR2011001622
(87)【国際公開番号】WO2012077860
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0123480
(32)【優先日】2010年12月6日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500323513
【氏名又は名称】三星精密化学株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG FINE CHEMICALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】カン,ギュン・ドン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジン・キュ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒュン・ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミン・ジュ
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03592672(US,A)
【文献】 特開2009−114397(JP,A)
【文献】 特開2011−057959(JP,A)
【文献】 Macromolecules,1987年,20(10),pp.2413〜2418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,000〜1,000,000ダルトンの分子量、20〜38°の接触角、及び50〜100MPaの引っ張り強度を有するアセチル化セルロースエーテル。
【請求項2】
1〜2のアルキル基置換度(DS)、0.08〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有する請求項1に記載のアセチル化セルロースエーテル。
【請求項3】
メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルが、アセチル化されて形成された請求項1に記載のアセチル化セルロースエーテル。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のアセチル化セルロースエーテルを含む物品。
【請求項5】
前記物品は、水処理用メンブレンである請求項4に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品に係り、さらに詳細には、1,000〜1,000,000ダルトンの分子量、20〜45°の接触角、及び50〜100MPaの引っ張り強度を有するアセチル化セルロースエーテル及びそれを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理用メンブレンの素材は、高い親水性、耐塩素性及び引っ張り強度を有さなければならない。具体的には、親水性が高いほど膜汚染が低減し、耐塩素性が高いほど汚染した膜が損傷なしに洗浄され、引っ張り強度が高いほど長期間の使用時にも膜が圧力に耐えることができる。
【0003】
従来、引っ張り強度と耐塩素性とは低いが、親水性が高く、膜汚染を減らすことによって、洗浄周期を延ばすことができる酢酸セルロースや、親水性は低いが、耐塩素性が高くて洗浄に有利なポリフッ化ビニリデン(PVDF:polyvinylidene difluoride)が水処理用メンブレンの素材として主に使われた。
【0004】
しかし、酢酸セルロースは親水性に優れ、膜汚染を最小化することができる長所を有しているが、機械的強度が低いという問題点がある。すなわち、酢酸セルロースは、製造時に、原料物質であるセルロースの結晶構造を破壊しながら、アセチル化反応を進めなければならないので、無機酸のような極性触媒を使用する。これによって、セルロースの主鎖が切断され、最終生成された酢酸セルロースは、分子量が小さく、機械的強度が著しく低いという問題点がある。
【0005】
また、ポリフッ化ビニリデンは機械的強度及び耐塩素性は優秀であるが、親水性が低いので、それを含むメンブレンは容易に汚染され、それにより頻繁な洗浄が要求されるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、1,000〜1,000,000ダルトンの分子量、20〜38°の接触角、及び50〜100MPaの引っ張り強度を有するアセチル化セルロースエーテルを提供するものである。
【0007】
本発明の他の目的は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む物品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアセチル化セルロースエーテルの特徴は、1,000〜1,000,000ダルトンの分子量、20〜38°の接触角、及び50〜100MPaの引っ張り強度を有する点にある。
【0009】
前記アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0.08〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有する。
【0010】
前記アセチル化セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルがアセチル化されて形成されたものであってもよい。
【0011】
本発明の他の側面は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む物品を提供する。
【0012】
前記物品は、水処理用メンブレンであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアセチル化セルロースエーテルは、製造過程で原料物質であるセルロースの重合度(DP:degree of polymerization)がほとんど低減しないので、酢酸セルロース(例えば、三酢酸セルロース)とは異なり、高分子量を有するという利点がある。また、前記アセチル化セルロースエーテルは水には不溶性であるが、有機溶媒には容易に溶解され、酢酸セルロースよりは親水性にすぐれ、ポリフッ化ビニリデンよりは機械的強度にすぐれるために、既存の水処理用メンブレン素材を代替することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のアセチル化セルロースエーテル(acetylated cellulose ether)及びそれを含む物品について詳細に説明する。
【0015】
本発明のアセチル化セルロースエーテルは、1,000〜1,000,000ダルトン(Dalton)の分子量、20〜45°の接触角、及び50〜100MPaの引っ張り強度を有する。本明細書で、「接触角」とは、前記アセチル化セルロースエーテルで製造されたフィルムが、水と接触しているとき、水の自由表面が前記フィルムの平面となす角度を意味する。また本明細書で、「引っ張り強度」とは、前記アセチル化セルロースエーテルで製造されたフィルムの引っ張り強度を意味する。
【0016】
前記アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアルキル基置換度(DS)、0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)、及び1〜2のアセチル基置換度(DS)を有することができる。
【0017】
前記アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアルキル基置換度(DS)及び0〜1のヒドロキシアルキル基置換度(MS)を有するセルロースエーテルがアセチル化されて形成されたものであってもよい。ここで、アルキル基は、1〜16の炭素数を有することができる。前記アセチル化セルロースエーテルの製造時の出発物質として、セルロースが使用され、前記置換度(DS,MS)の範囲を有するセルロースエーテルが使用されてもよい。
【0018】
前記アセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアセチル基置換度(DS)を有することができる。
【0019】
前記アルキル基置換度(DS)の範囲、及び前記ヒドロキシアルキル基置換度(MS)の範囲を有するセルロースエーテルをアセチル化すれば、水には溶解されず、アセトンのような有機溶媒には良好に溶解され、高分子量を有して機械的強度にすぐれるアセチル化セルロースエーテルを得ることができる。これについては、後述することにする。
【0020】
前記アセチル化セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種のセルロースエーテルがアセチル化されて形成されたものであってもよい。
【0021】
また、前記アセチル化セルロースエーテルをアセトンに溶解させた溶液(アセチル化セルロースエーテルの濃度:2重量%)の粘度は、ブルックフィールド粘度計で測定するとき、20℃及び20rpmの条件で、5〜100,000cpsである。前記粘度が前記範囲以内であるならば、前記アセチル化セルロースエーテルの機械的強度が優秀である。
【0022】
前記アセチル化セルロースエーテルは、180〜250℃の溶融点を有することができる。前記溶融点が前記範囲以内であるならば、前記アセチル化セルロースエーテルは、射出のような溶融加工に適用される。
【0023】
以下、本発明のアセチル化セルロースエーテルの製造方法について詳細に説明する。
【0024】
まず、セルロースの水酸基をエーテル化してセルロースエーテルを製造する。すなわち、セルロースのエーテル化反応によって、セルロース構造内の水酸基のうち一部をブロッキングしたり、あるいは前記水酸基中の水素を他の置換体で置換することによって、セルロースエーテルを形成する。このとき、セルロースの主鎖は切断されずに維持されるが、セルロース内の水素結合が破壊され、前記セルロースが非結晶構造に変換されるために、高分子量の水溶性セルロースエーテルが得られる。その後、前記製造された水溶性セルロースエーテルに含まれた水酸基中の水素原子をアセチル基(CHCO)で置換し(この置換反応をアセチル化という)、水不溶性アセチル化セルロースエーテルを製造する。下記化学式1及び2に、セルロースの基本反復単位である無水グルコース(anhydroglucose)が、順にエーテル化及びアセチル化され、アセチル化セルロースエーテルの基本反復単位に転換される過程を示している。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
化学式1は、セルロースがエーテル化されてヒドロキシアルキルアルキルセルロースに転換された後、前記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがアセチル化され、アセチル化セルロースエーテルに転換される過程を示したものである。
化学式2は、セルロースがエーテル化されてアルキルセルロースに転換された後、前記アルキルセルロースがアセチル化され、アセチル化セルロースエーテルに転換される過程を示したものである。
【0028】
化学式1で、R及びRは、互いに独立して、H、CH、CHCHOHまたはCHCH(CH)OHであり、Rは、HまたはCHである。
【0029】
化学式2で、R及びRは、それぞれHまたはCHであり、前記R及びRのうち少なくとも一つは、CHである。
【0030】
本明細書で、置換度(DS:degree of substitution)とは、無水グルコース単位当たりアルキル基またはアセチル基に置換された水酸基の平均個数を意味する。無水グルコース単位当たり最大3個の水酸基が存在するので、単官能性置換体で置換される場合には、理論的な最大置換度(DS)は、3である。しかし、多官能性または重合性の置換体は、無水グルコース単位に含まれた水酸基の水素と反応するだけでなく、自体とも反応するので、置換度(DS)が3に限定されるものではない。また、本明細書で、置換度(MS:degree of molar substitution)とは、無水グルコース単位当たり多官能性または重合性の置換体のモル数を意味する。このような置換度(MS)の理論的な最大値は、存在しない。
【0031】
本発明のアセチル化セルロースエーテルは、セルロースエーテルに存在するほとんどの水酸基中の水素が疎水性基であるアセチル基で置換されたものであってもよい。従って、前記アセチル化セルロースエーテルは、水には溶解されないが、有機溶媒には溶解される性質を有する。
【0032】
一方、本発明の物品は、前記アセチル化セルロースエーテルを含む。このような物品は、例えば水処理用メンブレンであってもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1〜5、7〜、比較例3
実施例1〜5、7〜9、比較例3:アセチル化セルロースエーテルの製造
撹拌器が装着された3L反応器に、セルロースエーテル200g、酢酸1,400g、酢酸ナトリウム300g及び酢酸無水物600gを投入した後、200rpmで撹拌しながら、85℃で8時間反応させてアセチル化セルロースエーテルを製造した。このとき、酢酸は溶媒として使用され、酢酸ナトリウムは触媒として使用された。次に、反応器内容物を18L凝固浴(coagulating bath)に噴射して凝固させた後、きれいな水で5回洗浄した後で乾燥させた。各実施例で使用したセルロースエーテルのメチル基置換度(DS)、ヒドロキシプロピル基置換度(MS)、ヒドロキシエチル基置換度(MS)、及び各セルロースエーテルに含まれた無水グルコース単位当たり使用された酢酸無水物のモル比を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
〔比較例1〕
三酢酸セルロース(CTA)の準備
三酢酸セルロース(Eastman A435−85)を準備した。
【0037】
〔比較例2〕
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の準備
ポリフッ化ビニリデン(Kynar flex 761)を準備した。
【0038】
〔評価例〕
評価例:アセチル化セルロースエーテルの物性評価
実施例1〜9で製造されたそれぞれのアセチル化セルロースエーテル試料、比較例1の三酢酸セルロース(CTA)試料、及び比較例2のポリフッ化ビニリデン(PVDF)試料のアセチル基置換度、水との接触角、引っ張り強度及び/または分子量を、それぞれ下記のような方法で測定して下記表2に示す。
【0039】
(アセチル基置換度の測定)
1〜5、7〜、比較例3のアセチル化セルロースエーテル試料、及び比較例1の三酢酸セルロース試料のせっけん化反応によって形成されるガラス酢酸をアルカリで滴定し、前記各試料のアセチル基置換度(DS)を測定した(ASTMD871−96)。
【0040】
(接触角及び引っ張り強度の測定)
実施例1〜5、7〜9及び比較例1〜の各試料10gをジメチルホルムアミド(DMF)90gに溶解させた後、前記製造された溶液10gを採取し、ガラス板の上に2mm厚にキャスティング(casting)した後、真空オーブンで乾燥させた。このとき、真空オーブンの温度を60℃に維持し、最終乾燥したフィルムの厚みは、0.2±0.02mmであった。
【0041】
(1)接触角の測定
前記製造された各フィルムをきれいな水と接触させた状態で、接触角測定器(KSV、Theta optical tensiometer)を使用し、水と各フィルムとの接触角を測定した。ここで、接触角が小さいほど、親水性が高いということを意味する。
【0042】
(2)引っ張り強度の測定
前記各フィルムの引っ張り強度を、引っ張り強度測定器(インストロン社、No.5569)を使用して測定した。
【0043】
(分子量の測定)
前記各試料について、サイズ排除クロマトグラフィ(アジレント社、HP1100)を使用して重量平均分子量(Mw)を測定した。具体的には、各試料0.1gを100gのジメチルホルムアミド(HPLCグレード)に溶解させた後、ジメチルホルムアミドを移動相にし、25℃の温度及び10ml/分の流速の条件下で測定した。
【0044】
【表2】
【0045】
表2を参照すれば、実施例1〜5、7〜、比較例3で製造されたそれぞれのアセチル化セルロースエーテルは、1〜2のアセチル基置換度(DS)を有する一方、比較例1の三酢酸セルロースは2を超えるアセチル基置換度(DS)を有すると分かった。また、実施例1〜5、7〜、比較例3で製造されたそれぞれのアセチル化セルロースエーテルは、比較例1の三酢酸セルロースに比べ、接触角が小さくて親水性が高く、引っ張り強度及び分子量は大きいと分かった。また、実施例1〜5、7〜、比較例3で製造されたそれぞれのアセチル化セルロースエーテルは、比較例2のポリフッ化ビニリデンに比べ、接触角が小さくて親水性が高く、引っ張り強度が大きいと分かった。
【0046】
本発明は、実施例を参照して説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まらなければならないのである。