特許第5740758号(P5740758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5740758-破片加速装置 図000006
  • 特許5740758-破片加速装置 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740758
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】破片加速装置
(51)【国際特許分類】
   F41F 7/00 20060101AFI20150611BHJP
   F41B 3/02 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   F41F7/00
   F41B3/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-201059(P2013-201059)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-68520(P2015-68520A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛省技術研究本部長
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】柳田 保雄
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019784(JP,A)
【文献】 米国特許第02996060(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41F 7/00
F41B 3/02 − 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に相対する上壁及び下壁を備え、前記上壁に2つの弾性体止めが取り付けられて、前記2つの弾性体止めの間に破片放出用の孔が構成される外枠と、
前記上壁及び前記下壁の間を上下に延びて、上端が前記弾性止めに固定され、下端が前記下壁に固定されるガイドワイヤーと、
前記ガイドワイヤーに挿通されて、前記ガイドワイヤーに沿って上下に連なる複数の弾性体とを備え、
前記複数の弾性体は、下段の前記弾性体ほど、質量が大きく、
最上段の前記弾性体は、上部に破片設置用の窪みが形成され、
前記2つの弾性体止めは、前記破片放出用の孔の径が、前記破片設置用の窪みに設置される破片の径より大きく、前記最上段の弾性体の径よりも小さくなるように配置され、
前記複数の弾性体を上方に移動させた後、前記複数の弾性体を落下させた場合には、最下段の前記弾性体が前記下壁に衝突して、この後、上向きに反発した前記最下段の弾性体が上段の前記弾性体に衝突することで、上向きに反発した下段の前記弾性体が上段の前記弾性体に衝突することが連続的に生じるとともに、前記最上段の弾性体が前記2つの弾性体止めに衝突することで、前記複数の弾性体が停止して、前記破片設置用の窪みに設置された前記破片が、前記2つの弾性止めの間にある前記破片放出用の孔から上方に放出される破片加速装置。
【請求項2】
前記ガイドワイヤーは、直線状に延びる請求項1の破片加速装置。
【請求項3】
滑車と、
引き上げ用ワイヤーとをさらに備え、
前記滑車は、前記上壁に取り付けられて、前記外枠の外側に位置し、
前記引き上げ用ワイヤーは、前記弾性体止めの孔に通されて、一方側部分が前記外枠の内側に位置し、他方側部分が前記外枠の外側に位置し、
前記引き上げ用ワイヤーの一方側端は、前記最下段の弾性体の側面に接合され、
前記引き上げ用ワイヤーの他方側部分は、前記滑車に巻き掛けられ、
前記引き上げ用ワイヤーの他方側端を引っ張り、前記最下段の弾性体を引き上げた場合には、この引き上げによって、下段の前記弾性体が上段の前記弾性体を押し上げることで、前記複数の弾性体が上方に移動する請求項1又は2に記載の破片加速装置。
【請求項4】
滑車と、
引き上げ用ワイヤーと、
分離用ワイヤーとをさらに備え、
前記滑車は、前記上壁に取り付けられて、前記外枠の外側に位置し、
前記引き上げ用ワイヤーは、前記弾性体止めの孔に通されて、一方側部分が前記外枠の内側に位置し、他方側部分が前記外枠の外側に位置し、
前記引き上げ用ワイヤーの一方側端は、前記最上段の弾性体の側面に接合され、
前記引き上げ用ワイヤーの他方側部分は、前記滑車に巻き掛けられ、
前記分離用ワイヤーには、前記複数の弾性体の側面が順次接合されて、
前記引き上げ用ワイヤーの他方側端を引っ張り、前記最上段の弾性体を引き上げた場合には、この引き上げによって、前記分離用ワイヤーが他の前記弾性体を上方に牽引して、前記他の弾性体が上方に移動するとともに、前記分離用ワイヤーが伸張することで、前記複数の弾性体が所定の間隔をあけて分離する請求項1又は2に記載の破片加速装置。
【請求項5】
前記引き上げ用ワイヤーの他方側端の引っ張りにより、前記複数の弾性体を上方に移動させた後、前記引き上げ用ワイヤーの他方側端の引っ張りを解除して、前記複数の弾性体を落下させることで、前記最下段の弾性体を前記下壁に衝突させて、前記下段の弾性体が上段の弾性体に衝突することを連続的に生じさせることが可能であり、
前記複数の弾性体を上方に移動させた状態では、前記連続的な弾性体の衝突が生じる際に3つ以上の前記弾性体が同時に衝突しないような距離で、前記複数の弾性体が分離している請求項4に記載の破片加速装置。
【請求項6】
前記複数の弾性体の反発係数は、0.7以上0.9未満であり、
前記複数の弾性体の質量は、上段の弾性体の質量が下段の弾性体の質量の3分の1となるように設定される請求項1乃至5のいずれかに記載の破片加速装置。
【請求項7】
前記複数の弾性体の反発係数は、0.9以上であり、
前記複数の弾性体の質量は、上段の弾性体の質量が下段の弾性体の質量の2分の1となるように設定される請求項1乃至5のいずれかに記載の破片加速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体の衝突を利用した破片加速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、破片の衝突で装備品及び人員に生じる損傷を評価するために、破片を加速させる装置を用いて、破片を目標に衝突させる実験が行なわれている。特許文献1,2には、上記の破片加速装置の例として、火薬やガスの燃焼で生じるエネルギーにより破片を加速させる装置が開示されている。これらの装置は、装置ごとに限定された形状、材質、及び質量の破片を加速するものであり、目的とする実験の性質に応じて様々な性能のものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−323785公報
【特許文献2】特開2005−262959公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に開示されるような従来の破片加速装置では、加速可能な破片の形状、材質及び質量が装置ごとに限定されており、任意の破片を加速させることができない。また、火薬やガスの燃焼で生じるエネルギーにより破片を加速させるようにしていることで、破片速度の調整が困難であった。また、破片を加速するごとに火薬やガスを消費するため、火薬やガスの消費を考慮した上で、実験を行う必要があった。
【0005】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであって、その目的は、資材を消費することなく、任意の形状、材質、及び質量の破片を、目標とした速度に加速できる破片加速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の観点に係る破片加速装置は、上下に相対する上壁及び下壁を備え、前記上壁に2つの弾性体止めが取り付けられて、前記2つの弾性体止めの間に破片放出用の孔が構成される外枠と、前記上壁及び前記下壁の間を上下に延びて、上端が前記弾性止めに固定され、下端が前記下壁に固定されるガイドワイヤーと、前記ガイドワイヤーに挿通されて、前記ガイドワイヤーに沿って上下に連なる複数の弾性体とを備え、前記複数の弾性体は、下段の前記弾性体ほど、質量が大きく、最上段の前記弾性体は、上部に破片設置用の窪みが形成され、前記2つの弾性体止めは、前記破片放出用の孔の径が、前記破片の径より大きく、前記最上段の弾性体の径よりも小さくなるように配置され、前記複数の弾性体を上方に移動させた後、前記複数の弾性体を落下させた場合には、最下段の前記弾性体が前記下壁に衝突して、この後、上向きに反発した前記最下段の弾性体が上段の前記弾性体に衝突することで、上向きに反発した下段の前記弾性体が上段の前記弾性体に衝突することが連続的に生じるとともに、前記最上段の弾性体が前記2つの弾性体止めに衝突することで、前記複数の弾性体が停止して、前記破片設置用の窪みに設定された破片が、前記2つの弾性止めの間にある前記破片放出用の孔から上方に放出される。
【0007】
好ましくは、前記ガイドワイヤーは、直線状に延びる。
【0008】
好ましくは、滑車と、引き上げ用ワイヤーとをさらに備え、前記滑車は、前記上壁に取り付けられて、前記外枠の外側に位置し、前記引き上げ用ワイヤーは、前記弾性体止めの孔に通されて、一方側部分が前記外枠の内側に位置し、他方側部分が前記外枠の外側に位置し、前記引き上げ用ワイヤーの一方側端は、前記最下段の弾性体の側面に接合され、前記引き上げ用ワイヤーの他方側部分は、前記滑車に巻き掛けられ、前記引き上げ用ワイヤーの他方側端を引っ張り、前記最下段の弾性体を引き上げた場合には、この引き上げによって、下段の前記弾性体が上段の前記弾性体を押し上げることで、前記複数の弾性体が上方に移動する。
【0009】
好ましくは、滑車と、引き上げ用ワイヤーと、分離用ワイヤーとをさらに備え、前記滑車は、前記上壁に取り付けられて、前記外枠の外側に位置し、前記引き上げ用ワイヤーは、前記弾性体止めの孔に通されて、一方側部分が前記外枠の内側に位置し、他方側部分が前記外枠の外側に位置し、前記引き上げ用ワイヤーの一方側端は、前記最上段の弾性体の側面に接合され、前記引き上げ用ワイヤーの他方側部分は、前記滑車に巻き掛けられ、前記分離用ワイヤーには、前記複数の弾性体の側面が順次接合されて、前記引き上げ用ワイヤーの他方側端を引っ張り、前記最上段の弾性体を引き上げた場合には、この引き上げによって、前記分離用ワイヤーが他の前記弾性体を上方に牽引して、前記他の弾性体が上方に移動するとともに、前記分離用ワイヤーが伸張することで、前記複数の弾性体が所定の間隔をあけて分離する。
【0010】
好ましくは、前記引き上げ用ワイヤーの他方側端の引っ張りにより、前記複数の弾性体を上方に移動させた後、前記引き上げ用ワイヤーの他方側端の引っ張りを解除して、前記複数の弾性体を落下させることで、前記最下段の弾性体を前記下壁に衝突させて、前記下段の弾性体が上段の弾性体に衝突することを連続的に生じさせることが可能であり、前記複数の弾性体を上方に移動させた状態では、前記連続的な弾性体の衝突が生じる際に3つ以上の前記弾性体が同時に衝突しないような距離で、前記複数の弾性体が分離している。
【0011】
好ましくは、前記複数の弾性体の反発係数は、0.7以上0.9未満であり、前記複数の弾性体の質量は、上段の弾性体の質量が下段の弾性体の質量の3分の1となるように設定される。
【0012】
好ましくは、前記複数の弾性体の反発係数は、0.9以上であり、前記複数の弾性体の質量は、上段の弾性体の質量が下段の弾性体の質量の2分の1となるように設定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の破片加速装置によれば、最上段の弾性体の窪みに、加速させる破片を載せるようにしていることで、加速させる破片の形状、材質、及び質量が制限されない。このため、任意の形状、材質及び質量の破片を加速可能である。
【0014】
また、火薬やガス等の資材を要せずに、破片を加速できるため、資材の消費を考慮することなく、破片を目標に衝突させる実験を行うことができる。
【0015】
また、破片の速度は、弾性体の数、質量、及び反発係数や、最下段の弾性体と下壁との間の間隔により決定されるため、弾性体の数や、最下段の弾性体と下壁との間の間隔を変更したり、弾性体を交換して弾性体の質量や反発係数を変更することで、破片の速度を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る破片加速装置を示す外観図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る破片加速装置を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態に係る破片加速装置を、図1を参照して説明する。第1実施形態に係る破片加速装置1は、上下に連なる複数の弾性体4を落下させて、該落下の衝撃により複数の弾性体4を連続的に衝突させて、最上段の弾性体4Aに載せた破片Hを加速させるものである。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態に係る破片加速装置1は、外枠2と、ガイドワイヤー3と、弾性体4A,4B,4C,4D,4Dと、滑車5と、引き上げ用ワイヤー6とを備える。
【0019】
外枠2は、箱状を呈するものであって、下壁2aと、側壁2bと、上壁2cとを備える。下壁2aは床面に載置される。側壁2bは下壁2aから立設する。上壁2cは、側壁2bに支持されて、下壁2aと上下に相対する。
【0020】
外枠2の上壁2cには、2つの弾性体止め7が取り付けられており、2つの弾性体止め7の間に破片放出用の孔8が構成される。また、2つの弾性体止め7のうち、一方には、引き上げ用ワイヤー6を通すための孔があけられている。
【0021】
外枠2の側壁2bには、横方向に貫通する開口部(図示せず)が形成されており、該開口部を通じて、ガイドワイヤー3や弾性体4A,4B,4C,4D,4Dを、外枠2の内側に入れたり、外枠2の外側へ出すことができる。
【0022】
ガイドワイヤー3は、弾性体4A,4B,4C,4D,4Dの運動を上下方向のみに制限し、弾性体4A,4B,4C,4D,4Dの軌道を安定させるためのものである。ガイドワイヤー3は、上壁2cと下壁2aとの間を上下に直線状に延びる。ガイドワイヤー3の上端は、弾性止め2に固定される。ガイドワイヤー3の下端は、下壁2aに固定される。
【0023】
弾性体4A,4B,4C,4Dは、それぞれ高反発性材質の固体からなる。高反発性材質とは、反発係数が0.7以上であり、外部から弾性限度内の力を加えて形状が変化しても力を取り去ると、元の形状に戻る性質を意味する。弾性体4A,4B,4C,4Dは、例えば、上記高反発性材質のゴムから形成される。
【0024】
弾性体4A,4B,4C,4D,4Dは、それぞれ貫通孔を有しており、弾性体4A,4B,4C,4D,4Dの貫通孔にそれぞれガイドワイヤー3が挿通されることで、弾性体4A,4B,4C,4Dはガイドワイヤー3に沿って上下に連なる。
【0025】
弾性体4A,4B,4C,4Dは、下段の弾性体ほど、質量が大きい(図1の例では、最下段の弾性体4Dの質量>3段目の弾性体4Cの質量>2段目の弾性体4Bの質量>最上段の弾性体4Aの質量となる)。最上段の弾性体4Aの上部には、破片設置用の窪み9が形成される。
【0026】
なお、図1では、4つの弾性体4A,4B,4C,4Dがガイドワイヤー3に挿通される例を示しているが、ガイドワイヤー3に挿通される弾性体4の数は、必要とする破片Hの速度に応じて、任意の複数に決定され得る。
【0027】
また、弾性体4との摩擦によるエネルギーの減少を小さく抑えるために、ガイドワイヤー3には、潤滑剤が糊塗される。
【0028】
2つの弾性体止め7は、弾性体4A,4B,4C,4Dを外枠2の外側に放出させないように押さえて、破片Hのみを放出させるためのものである。2つの弾性体止め7は、破片放出用の孔8の径が、破片Hの径より大きく、最上段の弾性体4Aの径よりも小さくなるように配置される。
【0029】
破片放出用の孔8の上方には、破片Hを衝突させる目標Mが設置される。目標Mは、外枠2と一体である支持部材10によって支持される。なお、外枠2と別体の支持部材によって、目標Mが支持されてもよい。
【0030】
滑車5は、上壁2cの上面に取り付けられて、外枠2の外側に位置する。
【0031】
引き上げ用ワイヤー6は、弾性体止め7の孔に通されて、一方側部分が外枠2の内側に位置し、他方側部分が外枠2の外側に位置している。引き上げ用ワイヤー6の一方側端は、最下段の弾性体4Dの側面に接合される。引き上げ用ワイヤー6の他方側部分は、滑車5に巻き掛けられる。
【0032】
上記の引き上げ用ワイヤー6によれば、その他方側端を引っ張ることで、最下段の弾性体4Dが引き上げられる。そして、この引き上げによって、下段の弾性体4が上段の弾性体4を押し上げて、弾性体4A,4B,4C,4Dが上方に移動する。
【0033】
また、引き上げ用ワイヤー6の他方側部分が滑車5に巻き掛けられることで、上記の引き上げ用ワイヤー6を引っ張る操作を容易に行うことができる。
【0034】
また、滑車5との摩擦によるエネルギー減少を小さくするために、引き上げ用ワイヤー6には、潤滑剤が糊塗される。
【0035】
以上の破片加速装置を用いて、破片Hを目標Mに衝突させる実験を行なう場合には、まず、ガイドワイヤー3や弾性体4A,4B,4C,4Dを外枠2内に設置する作業が行なわれる。この際には、まず、弾性体4A,4B,4C,4Dの貫通孔にガイドワイヤー3を挿通する。ついで、ガイドワイヤー3や弾性体4A,4B,4C,4Dを、側壁2bの開口(図示せず)から外枠2内に挿入して、ガイドワイヤー3の上端を弾性体止め7に固定し、ガイドワイヤー3の下端を下壁2aに固定する。これにより、ガイドワイヤー3や弾性体4A,4B,4C,4Dが外枠2内に設置されて、ガイドワイヤー3が上壁2cと下壁2aとの間で上下に延び、弾性体4A,4B,4C,4Dがガイドワイヤー3に沿って上下に連なった状態になる。
【0036】
ついで、側壁2bの開口(図示せず)或いは上壁2cの孔8から、破片Hを外枠2内に入れて、破片Hを最上段弾性体4Aの窪み9に設置する。また、弾性体4Dに接合されている引き上げ用ワイヤー6を、弾性体止め7の孔に通して、滑車5に巻き掛ける。
【0037】
ついで、引き上げ用ワイヤー6の他方側端を引っ張り、弾性体4A,4B,4C,4Dを上方に移動させて、弾性体4A,4B,4C,4Dを所定の高さに位置付ける。
【0038】
ついで、引き上げ用ワイヤー6による引っ張りを解除して、弾性体4A,4B,4C,4Dを落下させる。これにより、最下段の弾性体4Dが下壁2aに衝突し、この後、上向きに反発した最下段の弾性体4Dが、上段の弾性体4Cに衝突する。この衝突により、上向きに反発した下段の弾性体4が上段の弾性体4に衝突することが生じて(すなわち、弾性体4Cが弾性体4Bに衝突することや、弾性体4Bが弾性体4Aに衝突することが生じて)、下段の質量の大きい弾性体4から上段の質量の小さい弾性体4への運動量の移行が起こり、上段の弾性体4の速度は下段の弾性体4の速度よりも大きくなる。そして、上記の衝突が連続して起こることにより(すなわち、弾性体4Cが弾性体4Bに衝突することに連続して、弾性体4Bが弾性体4Aに衝突することにより)、上段の弾性体4ほど加速が大きくなり、破片Hが窪み9に載せられた最上段の弾性体4Aで、最も大きな加速が生じる。そして、最上段の弾性体4Aが2つの弾性体止め7に衝突することで、弾性体4A,4B,4C,4Dが停止して、最上段の弾性体4Aと共に加速された破片Hが、2つの弾性止め7の間にある孔8から上方に放出されて、目標Mに衝突する。
【0039】
第1実施形態の破片加速装置1によれば、最上段の弾性体4Aに形成した窪み9に、加速させる破片Hを載せるようにしていることで、窪み9の大きさや形状等を調整することで、任意の形状、材質及び質量の破片Hを最上段の弾性体4Aに載せることができる。したがって、任意の形状、材質及び質量の破片Hを加速することが可能である。
【0040】
また、火薬やガス等の資材を要せずに、破片Hを加速させることができる。このため、資材の消費を考慮することなく、目標Mに破片Hを衝突させる実験を行うことができる。
【0041】
また、破片Hの速度は、弾性体4の数、質量、及び反発係数や、最下段の弾性体4と下壁2cとの間の間隔(最下段の弾性体4の落下高さ)により決定されるため、弾性体4の数や、最下段の弾性体4と下壁2cとの間の間隔を変更したり、弾性体4を交換して弾性体4の質量や反発係数を変更することで、破片Hの速度を調整することができる。
【0042】
例えば、反発係数が全て0.95である13個の弾性体4をガイドワイヤー3に上下に挿通させて、これら弾性体4の質量を、下側の弾性体4から順に、25000g、12500g、6250g、3125g、1562g、781g、390g、195g、97g、48g、24g、12g、3gとする条件(上段の弾性体質量が下段の弾性体質量の約2分の1とした条件)で、上記13個の弾性体4を落下させて、最上段の弾性体4に載せた質量3gの破片Hを加速させる場合には、最下段の弾性体4と下壁2cとの間の間隔と、破片Hの速度とは以下の表1に示す関係になる。
【0043】
【表1】
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係る破片加速装置を、図2に基づいて説明する。第2実施形態に係る破片加速装置20は、複数の弾性体4を上方に移動させた状態で、複数の弾性体4を分離させるようになっており、この特徴から、落下の衝撃で複数の弾性体4が連続的な衝突を生じる際に、3つ以上の弾性体4が同時に衝突しないようになっている。
【0045】
第2実施形態に係る破片加速装置20は、外枠2と、ガイドワイヤー3と、弾性体4A,4B,4C,4Dと、滑車5と、引き上げ用ワイヤー21と、分離用ワイヤー22とを備える。外枠2と、ガイドワイヤー3と、複数の弾性体4と、滑車5とは、図1に示すものと同様の構成を有する。したがって、これらについての詳細な説明を省略する。
【0046】
引き上げ用ワイヤー21は、弾性体止め7の孔に通されて、一方側部分が外枠2の内側に位置し、他方側部分が外枠2の外側に位置している。引き上げ用ワイヤー21の一方側端は、最上段の弾性体4Aの側面に接合される。引き上げ用ワイヤー21の他方側部分は、滑車5に巻き掛けられる。
【0047】
分離用ワイヤー22には、弾性体4A,4B,4C,4Dの側面が順次接合される。図2の例では、分離用ワイヤー22の一端に弾性体4Aの側面が接合され、分離用ワイヤー22の中間部における一端寄りの位置に弾性体4Bの側面が接合され、分離用ワイヤー22の中間部における他端寄りの位置に弾性体4Cの側面が接合され、分離用ワイヤー22の他端に弾性体4Dの側面が接合されている。
【0048】
上記の引き上げ用ワイヤー21及び分離用ワイヤー22によれば、引き上げ用ワイヤー21の他方側端を引っ張ることで、最上段の弾性体4Aが引き上げられる。そして、この引き上げによって分離用ワイヤー22が他の弾性体4B,4C,4Dを上方に牽引して、他の弾性体4B,4C,4Dが上方に移動するとともに、分離用ワイヤー22が伸張することで、弾性体4A,4B,4C,4Dが所定の間隔をあけて分離する。
【0049】
第2実施形態に係る破片加速装置20を用いて、破片Hを目標Mに衝突させる実験を行なう場合には、第1実施形態と同様の作業で、ガイドワイヤー3や、分離用ワイヤー22が接合されている弾性体4A,4B,4C,4Dを外枠2内に設置し、破片Hを最上段の弾性体4Aの窪み9に設置する。また、弾性体4Aに接合されている引き上げ用ワイヤー21を、弾性体止め7の孔に通して、滑車5に巻き掛ける。
【0050】
ついで、引き上げ用ワイヤー21の他方側端を引っ張り、弾性体4A,4B,4C,4Dを上方に移動させて、弾性体4A,4B,4C,4Dを所定の高さに位置付ける。この際には、分離用ワイヤー22が伸張することで、弾性体4A,4B,4C,4Dが所定の間隔をあけて分離する。
【0051】
この後、引き上げ用ワイヤー21による引っ張りを解除して、弾性体4A,4B,4C,4Dを落下させる。これにより、最下段の弾性体4Dが下壁2aに衝突して、この後、上向きに反発した最下段の弾性体4Dが、上段の弾性体4Cに衝突する。この衝突により、上向きに反発した下段の弾性体4が上段の弾性体4に衝突することが連続的に生じる(すなわち、弾性体4Cが弾性体4Bに衝突することに連続して、弾性体4Bが弾性体4Aに衝突することが生じる)。この際には、落下前の弾性体4A,4B,4C,4Dが所定の間隔をあけて分離していたことで、2つの弾性体4の衝突が終了して、2つの弾性体4が完全に分離した後、次の衝突が起こる(すなわち、弾性体4D,4Cの衝突が終了して、弾性体4D,4Cが完全に分離した後、弾性体4C,4Bの衝突が起こり、弾性体4C,4Bの衝突が終了して、弾性体4C,4Bが完全に分離した後、弾性体4B,4Aの衝突が起こる)。
【0052】
そして、最上段の弾性体4Aが2つの弾性体止め7に衝突することで、弾性体4A,4B,4C,4Dが停止して、最上段の弾性体4Aと共に加速された破片Hが、2つの弾性止め7の間にある孔8から上方に放出されて、目標Mに衝突する。
【0053】
第2実施形態係る破片加速装置20によれば、上述したように、2つの弾性体4の衝突が終了して、2つの弾性体4が完全に分離した後、次の衝突が起こるため、3つ以上の弾性体4が同時に衝突しない。このため、下段の質量の大きい弾性体4から上段の質量の小さい弾性体4へ運動量の移行が完全に行われる。したがって、破片Hを十分に加速することができる。
【0054】
なお、ガイドワイヤー3に挿通させる弾性体4の数は任意の複数とすることができ、弾性体4の数や、最下段の弾性体4と下壁2cとの間の間隔(最下段の弾性体4の落下高さ)を変更したり、上方への移動時に複数の弾性体4が分離する距離(以下、分離距離)を変更したり、弾性体4を交換して弾性体4の質量や反発係数を変更することで、破片Hの速度を調整することができる。
【0055】
また、分離用ワイヤー22における各弾性体4の接合位置を調整することで、上記の分離距離を調整することができ、弾性体4が球体である場合には、分離距離は、下記の式で求められるa12に設定される。
【0056】
【数1】
【0057】
上記の式は、2つの弾性球4の間の分離距離を求める式である。3つ以上の弾性球4を用いる場合には、上記の式に代入する数値を変更することで、各々の弾性球4間の分離距離を求めることができる。
【0058】
例えば図2に示すように、4つの弾性球4A、4B、4C、4Dを使用する場合には、弾性体4Aと弾性体4Bとの分離距離は、式のm、m、R、R、E、E、v、v、V12に、弾性体4Aと弾性体4Bの質量や半径やヤング率やポアソン比や、弾性体4Aと弾性体4Bとの相対速度を代入して求めることができる。また、弾性体4Bと弾性体4Cの分離距離は、式のm、m、R、R…に、弾性体4Bと弾性体4Cの質量や半径等を代入して求めることができる。また、弾性体4Cと弾性体4Dの分離距離は、式のm、m、R、R…に、弾性体4Cと弾性体4Dの質量や半径等を代入して求めることができる。
【0059】
なお、上段の弾性体4と下段の弾性体4との相対速度V12を正確に求めるには別途計算を行う必要があるが、分離距離a12を求める場合には、簡易的に
【0060】
として計算を行う。弾性体4の実際の分離距離が、上記の式で求められた分離距離a12以上である場合は、3つ以上の弾性体4が同時に衝突することがなく、破片Hが十分に加速される。
【0061】
例えば、形状が球形であり、密度、ヤング率、ポアソン比、反発係数が1.1g/cm、2.5MPa、0.48、0.95である13個の弾性体4をガイドワイヤー3に上下に挿通させて、弾性体4の質量を、下側の弾性体4から順に、25000g、12500g、6250g、3125g、1562g、781g、390g、195g、97g、48g、24g、12g、3gとした条件(上段の弾性体4の質量が下段の弾性体4の質量の約2分の1とした条件)で、上記13個の弾性体4を1mの高さから落下させて、最上段の弾性体4に載せた質量3gの破片Hを加速させる場合には、上記の式により、表2に示す分離距離が算出される。そして、下記表2に示すように分離距離が設定された場合には、破片Hを200m/sまで加速させることができる。
【0062】
【表2】
【0063】
なお、上記第1及び第2実施形態では、効率的に破片Hを加速させるために、弾性体4の質量の組み合わせが適宜設定され得る。ここで効率的とは、弾性体4の総質量を一定とした場合に破片Hの最終的な速度を大きくできることを意味する。弾性体4の反発係数が0.7以上0.9未満の場合における最も効率的な組み合わせは、上段の弾性体4の質量が下段の弾性体4の質量の約3分の1、つまり、弾性体4の質量比が下側から順(質量の大きいものから順)に、…:27:9:3:1に設定される。なお、最上段の弾性体4については、加速させる破片Hと最上段の弾性体4との合計質量が、下段(2段目)の弾性体4の質量の約3分の1に設定される。また、弾性体4の反発係数が0.9以上の場合における最も効率的な組み合わせは、上段の弾性体4の質量が下段の弾性体4の質量の約2分の1、つまり、弾性体4の質量比が下側から順(質量の大きいものから順)に、…:8:4:2:1に設定される。弾性体4の質量比は、これらの値に近くなるように設定することが好ましい。なお、最上段の弾性体4については、加速させる破片Hと最上段の弾性体4との合計質量が、下段(2段目)の弾性体4の質量の約2分の1に設定される。加速する破片Hに応じて、最上段の弾性体4を交換できるように、最上段の弾性体4は、質量が異なるものを複数用意しておくことが好ましい。
【0064】
また、弾性体4の形状は球形であることが好ましい。これは、落下の衝撃で弾性体4を上方に反発させることが可能になることや、弾性体4の反発係数が大きくなることや、適切な分離距離を計算で算出可能となることを理由とする。
【0065】
また、弾性体4の各貫通孔にガイドワイヤー3を通すことが、破片Hの運動の妨げとならないように、弾性体4の各貫通孔は、中心軸からずれた位置に対称に複数開けることが好ましい。
【0066】
また、外枠2の下壁2aは、水平に延びていることが好ましい。このようにすることで、下壁2aへの弾性体4の衝突により、弾性体4を上方に反発させることができる。また、ガイドワイヤー3の固定手段として下壁2aに突起を設けることなく、ガイドワイヤー3の下端を下壁2aに固定することで(突起を使用せずに、ガイドワイヤー3の下端を下壁2aに固定することで)、より確実に弾性体4を上方に反発させることができる。
【0067】
また、第2実施形態では、引き上げ用ワイヤー21及び分離用ワイヤー22により、弾性体4A,4B,4C,4Dを上方に移動させ、また、該上方に移動した弾性体4A,4B,4C,4Dを分離させるようにしたが、手で弾性体4B,4C,4Dを持ち上げて、弾性体4B,4C,4Dを上方に移動させたり、弾性体4B,4C,4Dを手で分離させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,20 破片加速装置
2 外枠
2a 下壁
2c 上壁
3 ガイドワイヤー
4A,4B,4C,4D 弾性体
5 滑車
6,21 引き上げ用ワイヤー
7 弾性止め
8 破片放出用の孔
9 破片設置用の窪み
22 分離用ワイヤー
H 破片
図1
図2