特許第5740764号(P5740764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740764
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】サーメット
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20060101AFI20150611BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20150611BHJP
   C22C 29/04 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C22C1/05 G
   B23B27/14 B
   C22C29/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-268735(P2010-268735)
(22)【出願日】2010年12月1日
(65)【公開番号】特開2012-117121(P2012-117121A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦博
(72)【発明者】
【氏名】内野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】千村 雅啓
(72)【発明者】
【氏名】松田 一臣
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−223666(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0137219(US,A1)
【文献】 特開2005−272878(JP,A)
【文献】 特開平11−012758(JP,A)
【文献】 特開平05−178666(JP,A)
【文献】 米国特許第05694639(US,A)
【文献】 特開平02−022453(JP,A)
【文献】 特開平11−172361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜 8/00
C22C 29/00〜29/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを主成分とする硬質相と、NiおよびCoを含む金属結合相とを具えるサーメットであって、
前記硬質相が前記金属結合相により結合されてなる基部と、
前記基部の表面に、前記金属結合相の一部で構成される金属層とを具え、
前記金属層は、CoよりもNiの質量%における含有量が多く、
前記基部の厚み方向の中央部における金属結合相は、NiよりもCoの質量%における含有量が多いサーメット
【請求項2】
前記金属層におけるNiとCoの質量%における含有量比Ni/Coが、1<Ni/Co≦5を満たし、
前記中央部の金属結合相におけるCoとNiの質量%における含有量比Co/Niが、2≦Co/Ni≦4を満たす請求項1に記載のサーメット。
【請求項3】
前記基部の金属結合相におけるCoの質量%での含有量は、前記金属層側よりも前記中央部の方が多い請求項1または請求項2に記載のサーメット。
【請求項4】
前記金属層の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のサーメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具の構成材料に適したサーメットに関するものである。特に、金属とろう付けした際の接合強度に優れるサーメットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具の基材材料として、チタン(Ti)を主成分とする硬質相を、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)といった鉄族元素で結合したサーメットが利用されている。このサーメットを工具として使用する際、サーメット製のチップを鋼などの金属製ホルダーにろう付けすることで、サーメットとホルダーを接合している。
【0003】
特許文献1には、サーメットに関するものではないが、サーメットのように金属材料と接合し難い超硬合金を金属材料に接合する技術が記載されている。具体的には、切削用の超硬合金からなる刃物に銅メッキ(金属層)を施し、その形成された銅メッキ皮膜と非接合金属をハンダ付けすることで、超硬合金を被接合金属にろう接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−335766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の技術をサーメットに適用して、サーメットと金属とを接合し易くするためにサーメットの表面に金属層を被覆し、その金属層を介してろう付けすることが考えられる。しかし、その場合、次のような問題がある。
【0006】
(1)金属層形成に伴う被覆作業の煩雑性
サーメットを切削工具として使用する際、金属材料とサーメットを接合し易いようにサーメットの表面に金属層をメッキ、溶射、あるいはイオンプレーティングなどにより別途被覆する必要があるため、その被覆作業が煩雑である。
【0007】
(2)接合強度不足
金属層をサーメットの表面に別途被覆すれば、ある程度金属材料とサーメットとの接合強度を改善できるが、その金属層はサーメットの表面にサーメットと界面を介して不連続に形成されている。そのため、両者の接合強度が不十分な場合もあり、さらなる接合強度の向上が求められていた。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、別途金属層の被覆作業が不要の上、金属との接合強度に優れるサーメットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のサーメットは、Tiを主成分とする硬質相と、NiおよびCoを含む金属結合相とを具える。そして、上記硬質相が上記金属結合相により結合されてなる基部と、上記基部の表面に、上記金属結合相の一部で構成される金属層とを具える。上記金属層は、CoよりもNiの含有量が多い。上記基部の厚み方向の中央部における金属結合相は、NiよりもCoの含有量が多い。
【0010】
本発明のサーメットによれば、基部の表面に金属結合相の一部で構成される金属層を具えることで、基部と金属層との界面を介することなく連続して形成された構成とすることができる。その金属層をサーメットと金属材料との接合に利用するので、別途金属層を形成する作業が不要となる。
【0011】
上記金属層は基部の表面に金属結合相の一部で構成されているので、金属材料と接合させたとしても、金属層が基部から剥離し難い上に、上記金属層は、CoよりもNiの含有量が多いので、金属材料との濡れ性が高く、金属材料との接合強度を向上させることができる。
【0012】
そして、基部の厚み方向の中央部における金属結合相は、NiよりもCoの含有量が多いので、基部の靭性を向上させることができる。
【0013】
本発明サーメットの一形態として、上記金属層におけるNiとCoの含有量比Ni/Coが、1<Ni/Co≦5を満たし、上記中央部の金属結合相におけるCoとNiの含有量比Co/Niが、2≦Co/Ni≦4を満たすことが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、金属層におけるNiとCoの含有量比Ni/Coを1超とすることで、金属材料にサーメットをより強固に接合することができる。また、上記含有量比Ni/Coを5以下とすることで、金属層におけるNiの含有量が多くなりすぎない。そのため、基部の金属結合相におけるNiの含有量を、硬質相との濡れ性が低下しない程度とすることができるので、硬質相を強固に結合することができる。
【0015】
上記中央部の金属結合相におけるCoとNiの含有量比Co/Niを2以上とすることで、基部の靭性をより向上することができる。また、上記含有量比Co/Niを4以下とすることで、基部の金属結合相におけるCoの含有量が多くなりすぎず、硬質相との濡れ性の低下を抑制し硬質相を十分に結合することができる。そのため、高い靭性を維持できると共に、硬度の低下を低減して、高い強度を維持することができる。
【0016】
本発明サーメットの一形態として、上記基部の金属結合相におけるCoの含有量は、上記金属層側よりも上記中央部の方が多いことが挙げられる。
【0017】
上記の構成によれば、金属材料との接合強度をより向上させることができる。
【0018】
本発明サーメットの一形態として、上記金属層の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下であることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、上記金属層の厚みを0.1μm以上とすることで、金属材料と強固に接合することができる。また、上記金属層の厚みを5.0μm以下とすることで、厚くなりすぎず、金属材料との接合強度の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のサーメットは、別途金属層の被覆作業が不要で、その上、金属との接合強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るサーメットの概略断面図である。
図2】試験例で接合強度を調べるための試験方法の説明図であって、ホルダーにサーメットをろう付けにより接合した概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1を参照して本発明の実施の形態を説明する。先に、サーメット1を説明し、その後、その製造方法について説明する。
【0023】
<<サーメット>>
本発明のサーメット1は、Tiを主成分とする硬質相20が、NiおよびCoを含む金属結合相21iにより結合されてなる基部2と、基部2の表面に金属結合相21iの一部である金属結合相21oで構成される金属層3とを具える。
【0024】
<基部>
《材料》
[硬質相]
{組成}
本例では、基部2における硬質相20は、Ti元素を主成分とする化合物からなる。このTi化合物は、代表的には、Tiの炭化物(TiC)、Tiの窒化物(TiN)及びTiの炭窒化物(TiCN)から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。また、Ti化合物は、Tiと、周期律表4a、5a、6a族のTiを除く少なくとも一種の金属元素とを含んだTi複合炭化物、Ti複合窒化物、Ti複合炭窒化物から選択される1種の化合物が挙げられる。具体的なTi複合化合物は、(Ti、W)(C、N)、(Ti、W、Mo)(C、N)、(Ti、W、Mo、Ta、Nb)(C、N)、(Ti、W、Nb)(C、N)、(Ti、W、Mo、Ta)(C、N)、(Ti、W、Mo、Zr)(C、N)などが挙げられる。上記の化合物からなる硬質相20のサーメット1全体に対する含有量は70質量%以上とすることが好ましい。そうすることで、金属結合相21が多くなりすぎず、硬度の低下を抑制するので、耐摩耗性の低下を抑制することできる。その上、硬質相20を金属結合相21により十分に結合できるので、耐欠損性の低下をも抑制することができる。
【0025】
上記基部2中のTi化合物は、芯部20c(内部)とその周辺部20pとでTi濃度が異なる有芯構造の粒子を含むものとする。更に、単一の組成から構成された単独粒子(例えば、TiCN)を含んでもいてもよい。具体的な有芯構造のTi化合物としては、例えば、{芯部20c:TiCN、周辺部20p:(Ti、W、Mo)(C、N)}、{芯部20c:(Ti、W)(C、N)、周辺部20p:(W、Ti、Mo、Ta)(C、N)}などが挙げられる。特に、有芯構造のTi化合物は、その外周部のTiの含有量が内部のTiの含有量よりも少なく、かつその外周部のWの含有量が内部のWの含有量よりも多い構造であることが好ましい。後述するように有芯構造のTi化合物の粉末を原料に用いることで、得られたサーメット中にも、同様な組成の有芯構造のTi化合物や、或いは別の組成となった有芯構造のTi化合物が存在し易い。これら硬質相20の焼結後における粒子(有芯構造の粒子の場合、周辺部を含む大きさ)の平均粒径は、0.5〜5.0μmが好ましい。上記平均粒径の測定は、SEM(Scanning Electron Microscope)、EBSD(Electron Back−Scatter Diffraction)を利用して、取得した画像を市販の画像解析ソフトを用いて解析することで容易に行える。
【0026】
[金属結合相]
{組成}
基部2における金属結合相21iは、NiとCoを含む鉄族金属で構成する。この金属結合相21iはNiとCoの他に、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0027】
このNiとCoの合計含有量が、サーメット1全体に対しては、6質量%以上30質量%以下であることが好ましい。そして、上記NiとCoの合計含有量は、金属結合相21iに対しては、80質量%以上であることが好ましい。このように、サーメット1全体に対する上記合計含有量を6質量%以上とすることで、基部2の靭性を向上することができ、上記合計含有量を30質量%以下とすることで、耐摩耗性の低下を抑制することができる。一方、金属結合相21iに対する上記合計含有量を、80質量%以上とすることで、硬質相20との濡れ性を高くすることができる上に、耐食性を向上することができる。
【0028】
この金属結合相21iにおけるNiとCoの含有量は、NiよりもCoの方が多い。このようにCoの方が多いことで、基部2の靭性を高めることができる。
【0029】
このNiとCoの含有量の関係において、特に上記中央部の金属結合相21iにおけるCoとNiの含有量(質量%)の比Co/Niが、2≦Co/Ni≦4を満たすことがより一層好ましい。上記含有量比Co/Niを2以上とすることで、基部2の靭性をより向上することができる。上記含有量比Co/Niを4以下とすることで、基部2の金属結合相におけるCoの含有量が多くなりすぎず、硬質相20との濡れ性の低下を抑制して、硬質相2と十分に結合することができる。そのため、高い靭性を維持できると共に、硬度の低下を低減して、高い強度を維持することができる。この含有量比Co/Niの調整は、例えば原料に用いるCo粉末やNi粉末の添加量を調整することで行える。
【0030】
さらに、この金属結合相21iにおけるCoの含有量が、基部2の中央部の方が、基部2における金属層3側に比べて多いことが好ましい。ここでいう基部2における金属層3側とは、基部2のうち、基部2と後述する金属層3との境界の隣接領域とする。具体的には、EDX(Energy−dispersive X−ray Spectroscopy)分析によりCoの分析ができる程度の領域である。つまり、金属結合相21iにおけるNiの含有量は、基部2の中央部よりも、基部2における金属層3側の方が多いことになる。そうすることで、CoよりもNiの含有量が多い金属層3を形成し易い。したがって、基部2の中央部のCoの含有量を、金属層3側に比べて多くすることで、金属層3はCoよりもNiの含有量が多くなることから、金属材料との接合強度を向上することができる上に、基部2の靭性も向上することができる。
【0031】
上述した金属結合相21iにおける含有量比Co/Ni、および、基部2の中央部および金属層3側の金属結合相21iにおけるCoとNiの含有量はEDX分析により測定することができる。
【0032】
(その他の元素や化合物)
この基部2には、モリブデン(Mo)を含んでいてもよい。Moを含有する場合、Moは、通常、硬質相20の周辺部20pと金属結合相21iの中に固溶して存在することで硬質相20と金属結合相21i、特にTi化合物とNiとの濡れ性を高められることから、硬質相20の粒子の周囲に金属結合相21iの構成成分が十分に存在することができ、サーメット1の靭性を向上できる。このMoの含有量は、サーメット1全体に対して0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。Moの含有量が0.01質量%以上であると、上述のようにサーメット全体として濡れ性を向上して、硬度や靭性を向上でき、2.0質量%以下とすることで、硬質相の芯部と周辺部との境界を通る亀裂の進展を抑制して、期待する耐欠損性を得ることができる。Moのより好ましい含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下である。
【0033】
《厚み》
この基部2の厚みは、サーメット1の全体の厚みから、後述する金属層3の厚み分を引いた値とする。
【0034】
<金属層>
金属層3は、鋼などの金属材料からなるホルダーにサーメット1を接合する際に利用するためのもので、基部2の表面に上記金属結合相21iの一部からなる金属結合相21oで構成されている。そのため、金属結合相21iと金属層3とは界面を介することなく連続して形成された構成である。この金属層3は、後述するような厚みを有し、かつ、硬質相の含有量が少ない、あるいは、全くない層である。硬質相の含有量が少ないとは、例えば10質量%以下のことを言う。
【0035】
《材料》
[組成]
この金属層3を構成する金属結合相21oは、上述した金属結合相21iの一部であるので、含有元素は上述したものと同じであるが、金属層3の金属結合相21oにおけるNiとCoの含有量が上記金属結合相21iと異なる。
【0036】
この金属層3全体におけるNiとCoの合計含有量は、上記金属結合相21iと同様80質量%以上であることが好ましい。そして、この金属結合相21oでは、その合計含有量においてCoよりもNiの含有量が多い。そのため、耐食性に優れるとともに、金属材料にサーメット1を接合する際、金属層3はNiの方が多いことで、金属材料との濡れ性が高く、金属材料との接合強度を向上できる。例えば、その接合がろう材を使用するろう接合の場合、Niが多いことで耐熱性にも優れるので、ろう付けの際の熱で金属層3が劣化することを抑制することもできる。
【0037】
上記NiとCoの含有量の関係において、このNiとCoの質量%における含有量比Ni/Coが、1<Ni/Co≦5を満たすことが特に好ましい。上記含有量比Ni/Coを1超とすることで、金属材料にサーメット1をより強固に接合することができ、上記含有量比Ni/Coを5以下とすることで、金属層3におけるNiの含有量が多くなりすぎない。そのため、金属層3に隣接する基部2においても、金属結合相21iにおけるNiの含有量を、硬質相20との濡れ性が低下しない程度有することができるので、硬質相20を強固に接合することができる。この金属層3における含有量比Ni/CoもEDX分析により測定することができる。
【0038】
《厚み》
この金属層3の厚みは、上述したように金属材料と接合することができる程度有していればよい。金属層3の厚みは、SEM、EBSDなどを利用して、取得したサーメット1の断面画像から判断することができる。具体的には、まず、一つの検査視野を、10μm角とし、断面の幅方向(深さ方向と直交する方向)に離れて3つ以上の視野を採る。その検査視野において、サーメット1の表面から硬質相までの距離を測定する。但し、この検査視野内で硬質相が見られない場合は、硬質相が見られるまで、上記検査視野を断面の深さ方向に適宜な間隔でずらして検査を行う。その際、前の検査視野と隣接するように検査視野をずらしてもよいし、部分的に重複するようにしてもよい。そして、一つの視野において測定距離数は、5本以上とする。その検査を視野毎に行い、全ての測定距離の平均値を金属層3の厚みとする。この検査は、理論上、幅方向における視野数、または、測定距離数の少なくとも一方を多数とするほど上記平均値を所定の値に収束させることができるため、その収束値をこの検査視野を採った金属層3の厚みとすることが好ましい。また、取得した画像から硬質相と金属結合相の領域をコンピュータで認識して自動計測してもよいし、必要に応じて縦断面の原画像に二値化処理などの画像処理を施してもよい。より正確に金属層3の厚みを測定する場合、上記検査視野において、EDX分析にてサーメット1の表面からライン分析を行い、各元素の回折ピークを測定する。ここでは、1視野におけるライン分析のライン数を7本以上として、その検査を断面の幅方向に離れて3つ以上の視野を採って行う。そして、サーメット1の表面から硬質相成分、例えばTiの回折ピークが得られた位置までの距離を算出し、その算出した値のうち各視野における最大値および最小値を除いて全視野の測定値の平均値をとる。つまり、各視野における上記ライン分析の有効測定値はライン数で5本以上とする。その平均値を金属層3の厚みとする。
【0039】
このように測定した金属層3の厚みは、凡そ、0.1μm以上5.0μm以下程度である。この厚みが0.1μm以上であることで、金属材料と強固に接合することができ、5.0μm以下であることで、過度に厚くなりすぎない。この金属層3の厚みは、少なくとも硬質相20の平均粒径の半分程度有していれば、金属材料との接合の際、強固に接合し易くなるので好ましい。
【0040】
<<サーメットの製造方法>>
サーメットは、一般に、原料の準備→原料の粉砕及び混合→成形→焼結→冷却という工程で製造される。本発明サーメットは、上記工程において、特に冷却工程における冷却条件を調整することで製造することができる。
【0041】
《原料の準備》
原料には、周期律表4、5、6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属と、炭素(C)及び窒素(N)の少なくとも1種の元素との化合物からなる化合物粉末と、結合相を構成する粉末、代表的にはNiとCoを含む鉄族金属粉末とを用いる。粉末の大きさは、硬質相の粒子の大きさを考慮して適宜選択するとよい。
【0042】
《粉砕及び混合》
次いで、上記原料粉末を粉砕および混合する。その際、粉砕時間を長くすると、粉末を微細にすることができ、サーメット中に微細な硬質相粒子を生成し易い傾向にある。但し、粉砕時間が長過ぎると、再凝集したり、微細になり過ぎて核となる化合物が形成され難くなったりする恐れがある。好ましい粉砕及び混合時間は、8時間以上36時間以下である。
【0043】
《焼結》
粉砕および混合した原料粉末をプレス成形したのち、焼結して硬質相を金属結合相で結合した成形体を作製する。このプレス成形時の圧力は、0.5t/cm(約49MPa)以上2.5t/cm(約245MPa)以下が好ましい。このプレス後の焼結において、焼結温度を高くし過ぎると、硬質相を構成する粒子が成長して、サーメット中に粗大な粒子が多く存在し易くなる恐れがある。そのため、焼結温度は、1400℃以上1600℃以下とすることが好ましく、焼結時間は、0.5〜3.0時間とすることが好ましい。この焼結において、焼結温度を所定の時間保持する際、雰囲気を真空、又はアルゴン(Ar)や窒素(N)といった不活性ガス雰囲気下で、13.3Pa以上1330Pa以下の雰囲気圧下とすることが好ましい。
【0044】
《冷却》
焼結して得られた成形体を冷却する。その際、冷却速度を遅くするとよく、具体的には8℃/min以下とするとよい。従来の冷却では、焼結温度から1200〜1000℃程度まで、8℃/min以下の冷却速度で冷却し、それ以降は8℃/min以上で急冷していたが、本例では、焼結温度から800℃程度まで8℃/min以下の冷却速度で、冷却を施すことが好ましい。このように冷却速度を遅くすることで、基部2の表面に、金属結合相21iの一部である金属結合相21oで構成される金属層3を具えることができ、この冷却速度が遅いほど、金属層3は厚くなる傾向にある。この成形体を冷却する際、ArまたはNといった不活性ガス雰囲気で冷却することが好ましい。特に、不活性ガス雰囲気下において雰囲気圧を6.7kPa以上26.6kPa以下とすることが好ましい。
【0045】
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0046】
(1)サーメットは、基部の表面に金属結合相の一部で構成される金属層を具えることで、基部の金属結合相と金属層との界面を介することなく連続して形成された構成とすることができる。そのため、その金属層を金属材料との接合に利用できるので、別途金属層を形成する作業が不要となる。
【0047】
(2)基部の表面に具える金属層は、基部を構成する金属結合相の一部で構成されているため、基部から金属層は剥離し難く、鋼などの金属材料からなるホルダーに強固に接合することができる。その上、この金属層は、CoよりもNiの含有量が多いので、金属材料との濡れ性が高く、金属材料との接合強度を向上させることができる。
【0048】
(3)上述した製造方法によれば、硬質相が金属結合相により結合されてなる基部の表面に、金属結合相の一部で構成される金属層を具えることができる。特に、その金属層は、基部における金属結合相と界面を介することなく連続して形成されている。そのため、金属との接合強度に優れるサーメットを製造することができる。
【0049】
<試験例>
サーメットからなる試料1〜5、101〜105を作製し、各試料の金属との接合強度を測定する。まず、表1に示す原料粉末を同表に示す配合割合(質量%)となるように秤量・配合し粉末No.1〜5、101〜105を用意した。
【0050】
【表1】
【0051】
用意した各粉末をアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に、ステンレス製のポットに装入し、粉砕および混合(湿式)を行った。粉砕および混合後、乾燥して得られた混合粉末にパラフィンを少量添加した後、金型を用いて147MPa(1.5t/cm)の圧力でプレス成型して、60×20×20mmの角状チップからなる成形体を作製した。得られた各成形体をそれぞれ、450℃に加熱してパラフィンを除去した後、真空で室温から1250℃まで昇温し、表2に示す条件でその後の焼結、冷却を行い、サーメット試料1〜5、101〜105を得た。その際、各試料とも、同表の冷却速度で同表の焼結温度から冷却温度まで冷却し、その冷却温度以降は、いずれの試料も8℃/min以上の冷却速度で冷却を施した。
【0052】
【表2】
【0053】
得られた各試料に対してSEMで断面観察を行った。その結果、試料1〜5には、硬質相と金属結合相からなる基部の表面に金属結合相からなる金属層の形成が見られた。一方、試料101〜105には、基部のみで、その表面に金属層の形成が見られなかった。ここで、試料1〜5において、金属層の厚みおよび成分組成をEDXでライン分析を行うことにより測定した。特に成分組成においては、試料の中央部の金属結合相におけるCo:Niの含有量比、基部の金属層側の金属結合相におけるCo:Niの含有量比、金属層におけるCo:Niの含有量比を測定した。ここでいう金属層側とは、基部と金属層との境界から基部側に1μmの地点を表す。また、硬質相の平均粒径も同時に測定し、合わせて表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
続いて、これら各試料に関して接合強度を測定するために、図2に示すように、鋼製台座4にそれぞれAgろう材5を使用して接合する。その際、試料1〜5は形成された金属層を台座4に対面して、試料101と102は直接台座4にそれぞれろう接合した。一方、試料103〜105は、表4に示す被覆条件でNiからなる金属層を別途被覆してから、そのNi被膜を台座4に対面して、それぞれろう接合する。つまり、同表に示す被覆方法でNiからなる金属層を被膜後、同表の加熱温度と雰囲気ガスの環境下において、同表に示す時間加熱する。そうすることで、金属層を試料の表面に接着し易くする。また、このとき試料103〜105に別途被覆した金属層の厚みをSEMで断面観察し、組成成分をEDXでライン分析を行うことにより測定した。その結果も合わせて表3に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
そして、接合した各試料に対して、図2に示す矢印方向にせん断応力を負荷し、試料が剥がれるまでの値をそれぞれ測定して、ろう付け面積で割った値を算出し、その値を接合強度とした。その結果を5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
上記接合強度試験により、試料1〜5は接合強度に優れることが判明した。これは、試料1〜5は、基部の表面に形成された金属層が、基部を構成する金属結合相の一部で構成されたからであると思われる。つまり、基部の金属結合相と金属層とは界面を介することなく連続して形成しているためである。そのため、金属層が基部から剥離しにくい上に、その金属層はNiの含有量がCoよりも多いため、金属材料との濡れ性に優れることから接合強度に優れると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のサーメットは、金属製のホルダーに接合して使用する切削工具の構成材料に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 サーメット
2 基部
20 硬質相 20c 芯部 20p 周辺部
21 21i、20o 金属結合相
3 金属層
4 台座
5 ろう材
図1
図2