(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740768
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】筒形電流ヒューズの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 69/02 20060101AFI20150611BHJP
H01H 85/045 20060101ALI20150611BHJP
H01H 85/143 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
H01H69/02
H01H85/045 A
H01H85/143
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-100281(P2011-100281)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-234624(P2012-234624A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】コーア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【復代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(72)【発明者】
【氏名】笠原 忠一
(72)【発明者】
【氏名】豊住 晃之
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和行
(72)【発明者】
【氏名】塩沢 正
【審査官】
佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06147585(US,A)
【文献】
米国特許第05235307(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0298577(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/00−85/62
H01H 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス筒体内部の貫通孔に斜めに可溶体ワイヤを張る構造の筒形電流ヒューズの製造方法において、
前記ワイヤを前記貫通孔に通して固定する際に、前記筒体両端面の貫通孔縁部にハンダを予め形成し、前記ワイヤを前記ハンダで固定することを特徴とする筒形電流ヒューズの製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤを前記貫通孔に通して固定する際に、前記ワイヤを前記筒体両端面に沿って引っ張り、前記筒体両端面の前記ハンダに前記ワイヤを固定するとともに、前記ワイヤを破断することを特徴とする請求項1に記載の筒形電流ヒューズの製造方法。
【請求項3】
前記筒体端面上にハンダ円板を配置し、前記ハンダ円板上から前記貫通孔にジグで打ち抜くことで、前記筒体端面の前記貫通孔縁部にリング上のハンダ部分と該ハンダ部分から延びる前記貫通孔内周面のハンダ部分からなる前記ハンダを形成することを特徴とする請求項1に記載の筒形電流ヒューズの製造方法。
【請求項4】
前記ハンダは鉛フリーで硬度のあるSn−Cu4〜15%のハンダを用いて形成することを特徴とする請求項1に記載の筒形電流ヒューズの製造方法。
【請求項5】
セラミックスの筒体と、該筒体の両端に固定された電極キャップと、前記筒体の内部に設置され前記電極キャップ間に張架した可溶体のワイヤを備えた筒形電流ヒューズであって、
前記筒体の端面から前記筒体の内面に亘って形成されたハンダを備え、
前記ワイヤの端部を前記ハンダの前記筒体の内壁面からの延長面を超える端面上で固着し、前記ワイヤの端部は前記筒体の外周部まで及んでいないことを特徴とする筒形電流ヒューズ。
【請求項6】
前記ワイヤが貫通孔縁部を覆うハンダとキャップ内に装填したハンダとが溶融し、一体となったハンダで固定されていることを特徴とする請求項5に記載の筒形電流ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の基板に表面実装して用いるのに好適な筒形電流ヒューズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等へ表面実装が可能な小型電流ヒューズは、従来から様々な形式のものが提案されている。例えば、特許文献1には、内部に貫通孔を設けた筒形のセラミックスからなるケース本体に可溶体ワイヤを張架し、その両端に金属製のキャップを嵌着させた筒形電流ヒューズが開示されている。
【0003】
特許文献2には、セラミックスからなるケース本体と蓋を嵌着して形成した、直方体状のケース内部の中空空間に、可溶体ワイヤを張架したものが開示されている。この筒形電流ヒューズでは、複雑なケース本体と蓋の構造によってコストアップになるという問題がある。
【0004】
これに対し、特許文献1に記載の筒形電流ヒューズはセラミックス筒体内部の貫通孔に斜めに可溶体ワイヤを張る構造であるので、セラミックス筒体自体の構造は比較的単純である。しかしながら、係る構造の電流ヒューズには以下の問題がある。即ち、セラミックス筒体貫通孔では縁部が適度の丸み(曲率半径R)を介してセラミックス筒体端面につながることが好ましいが、この適度の丸み(曲率半径R)を均一に形成することが製造上難しい。
【0005】
実際のセラミックス製品では曲率半径Rが異なり、曲率半径Rのほとんど無い貫通孔縁部が垂直に近い(角が鋭くなっている)場合がある。この場合、可溶体ワイヤに張力を与えつつ張架する時に、セラミックス筒体の貫通孔内周縁部(角部)でワイヤが擦れるため、ワイヤに傷を付けてしまう問題が有る。そして、ワイヤに傷が付き、太さが変わると抵抗が変わり、その部分に電流が集中して溶断特性が安定しない、最悪の場合には機械的ストレスで切れてしまうこともあり得る。
【0006】
また、ワイヤに傷を付けないために緩く張架すると、キャップを嵌着し、はんだ溶融時にワイヤが弛んでしまい、ワイヤ長さが安定しないばかりか、ワイヤがセラミックス筒体内部壁面に付着することで溶断特性が安定しない不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−342623号公報
【特許文献2】特開平8−162000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、セラミックス筒体端面の貫通孔縁部でワイヤを傷をつけずに、セラミックス筒体の貫通孔に斜めに可溶体ワイヤを張り、該ワイヤに張力を付与した状態で該ワイヤの端部を前記筒体端面に固定することができる筒形電流ヒューズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の筒形電流ヒューズは、セラミックス筒体11内部の貫通孔12に斜めに可溶体ワイヤ16を張る構造の筒形電流ヒューズの製造方法において、ワイヤ16を貫通孔12に通して固定する際に、筒体11の貫通孔12の縁部にハトメ状のハンダ15が形成されていることを特徴とする(
図5参照)。これにより、ワイヤ16が接触する貫通孔12の縁部を、セラミックスと比較して柔らかいハンダの滑らかな曲面Rとすることができ、ワイヤ16に掛かるストレスを低減でき、ワイヤ16の損傷を防止できる。
【0010】
また、可溶体ワイヤ16を貫通孔12に通して固定する際に、ワイヤ16をセラミックス筒体11の端面に沿わせて引っ張り、筒体11の端面のハンダ15にワイヤ16を加熱して溶着するとともに、ワイヤを切断することを特徴とする(
図5参照)。これにより、ワイヤ16に張力をかけた状態で貫通孔12内部に斜めに弛み無く張ることができ、ワイヤ16の弛みに基づく溶断特性の劣化を防止できる。さらに、ワイヤ16が筒体端面のハンダ15部分で切断されるので、ワイヤ16を筒体外周面に引き出す必要がなくなり、筒体11自体の構造を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セラミックス筒体端面にハトメ状のハンダを形成し可溶体ワイヤを張架し切断した段階の断面図である。
【
図2】セラミックス筒体端面に円板状のハンダ板を配置した断面図である。
【
図3】筒体端面に配置したハンダ板の貫通孔部分を覆う部分をジグで打ち抜く断面図である。
【
図4】ハトメ状のハンダを形成した段階の断面図である。
【
図5】可溶体ワイヤを張架し、切断する段階の断面図である。
【
図7】筒体端部にキャップを嵌着する段階の断面図である。
【
図8】筒体端部にキャップを嵌着する段階の斜視図である。
【
図9】筒体端部にキャップを嵌着し、ハンダ接合した段階の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図10を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0013】
図1は本発明の筒形電流ヒューズの概要を示す。このヒューズはセラミックスの筒体11と、該筒体の両端に固定された電極キャップ18と、筒体の内部貫通孔12に設置され電極キャップ18,18間に斜めに張架した可溶体のワイヤ16を備えた筒形電流ヒューズであって、筒体11の端面から筒体11の内面に亘って形成されたハトメ状のハンダ15を備え、ワイヤ16をハンダ15の筒体の端面側で(仮止め)固着したことを特徴とする。
【0014】
そして、ワイヤ16の端部は筒体11の外周部まで及んでいない。すなわち、ワイヤ16の端部は筒体11の端面上に設けたハンダ15に固定され、固定された部分で切断されている。ワイヤ16の端部は、後のキャップ18の固定時に、貫通孔12の縁部を覆うハンダ15とキャップ18内に装填したハンダ19とが溶融し、一体となったハンダ20でキャップ18の内面に接続固定される(
図7、
図9参照)。
【0015】
これにより、従来はワイヤを筒体の外周面に引き出し、外周面に設けた溝等に収容し仮止めしていたが、ワイヤに張力を与えた状態で、ワイヤの端部をハンダ15に固定し切断できる。従って、ワイヤに張力を与えた状態で、斜めに弛み無く張ることができると共に、従来の筒体外周面に設けた溝等が不要となり、構造を簡素化した筒形電流ヒューズが得られる。
【0016】
図2乃至
図10は本発明の一実施例の筒形電流ヒューズの製造方法を示す。まず、
図2に示すように、内部に貫通孔12を備えた外形が略角柱状のセラミックス筒体11を準備する。そして、筒体11の端面上に円板状のハンダ板13を配置する。ハンダ板13は、筒体縁部になめらかな曲面Rを形成するために硬度があり、かつ鉛フリーであるSn−Cu4〜15%のハンダを用いて形成することが好ましい。
【0017】
そして、
図3に示すように、ハンダ板13上から貫通孔12にジグ(ポンチ)14で打ち抜く。これにより、ハンダ板13が変形し、
図4に示すように、セラミックス筒体11の端面の貫通孔12の縁部(角部)にリング状のハンダ部分15aと、該ハンダ部分15aから貫通孔の内周面に延びたハンダ部分15bからなる、ハトメ状のハンダ15が形成される。上述のように板状のハンダをジグ14で打ち抜くことで、筒体11の開口部分がハンダ15で覆われ、筒体11の端面から内壁面に亘って滑らかな曲面Rが形成される。図示の例は筒体11の片端面のみを示すが、ハンダ15を筒体11の両端面に形成する。
【0018】
次に、
図5に示すように、可溶体ワイヤ16を貫通孔12内に斜めに張架する。具体的には、筒体11を図示しないジグで保持し、筒体11の貫通孔12にワイヤ16を通す。ワイヤ16の両端部を保持し、セラミックス筒体の端面に対してワイヤ16の両端部を略平行にかつ反対の方向に張力Fを付与する。すなわち、ワイヤ16の図示しない端部では、図示する端部の張力Fと略平行にかつ反対の方向に張力を付与している。ワイヤ16は、張力Fで張った状態でハンダ15に接触し、張力Fを保持している。ワイヤ16は張力Fを受けつつハンダ15に摺接するが、ハンダ15は硬質のハンダであり、内周縁部に滑らかな曲面Rが形成されているので、従来のセラミックス筒体の角部と比較して、擦れて損傷する量を低減できる。なお、張力Fはワイヤ16が弛まない程度に張れる弱い張力で充分である。
【0019】
この段階でヒータチップ17の先端をハンダ15a上の可溶体ワイヤ16に接触させる。ワイヤ16のヒータチップ先端の接触部分は、瞬間的にハンダの融点以上に加熱される。かかる加熱により、ワイヤ16はハンダ15aに融着し、また、ヒータチップの先端部分においてワイヤが軟化する。ワイヤ16は張力Fで引っ張られているので、ヒータチップの先端部分、即ち軟化した部分でワイヤが切断される。
図6はワイヤ16の切断後の状態を示す。この状態でワイヤ16はその端部16aがセラミックス筒体11の端面上に固定され、張力Fを維持しつつ、貫通孔12内に斜めに弛み無く張られる。図示の例はセラミックス筒体11の片端面のみを示すが、ワイヤ固定部16aをセラミックス筒体11の両端面に形成する。ハンダ15はヒータチップ17の押さえ圧力と加熱により変形し、貫通孔12内部に突出する。突出したハンダ15はワイヤ16を包むと同時に貫通孔12を充填する。
【0020】
なお、電流ヒューズの製造方法において、ワイヤの切断には種々の方法がある。まず、刃物で切断する方法がある。なお、刃物で切断する場合は刃寿命があるので定期的に交換する必要がある。次に、引張り荷重で切断する方法がある。ただし、この場合、例えば最大ワイヤ径では1kgの荷重が必要になり設備的に大掛かりとなり、また、破断荷重がワイヤ全体にかかるためにワイヤが延びてしまうと同時に破断箇所が一定しない恐れがある。ワイヤを潰して切断する方法もある。ただし、ワイヤに曲り等の損傷を与え特性低下になるという問題がある。上記方法ではワイヤを押さえる力とハンダ付けの熱を利用してワイヤの軟化点で張力により切断するので、ワイヤを損傷するという問題が生ぜず、簡易な設備構成で容易に切断が可能である。
【0021】
次に、
図7と8に示すように、内部にハンダ19を含むキャップ18をセラミックス筒体11の両端部に嵌着する。
図8においてはワイヤ端部16aが露出している状態を示すが、
図6等に示すようにハンダ15aによりワイヤ端部16aの全部または一部が覆われる。そして、キャップ18を加熱してハンダ19,15を溶融し、ワイヤの端部16aをキャップ18に接合する。この状態を
図9に示す。ここで、ハンダ20はハンダ19,15が溶融して形成されたものである。このキャップ嵌着の工程で本発明の電流ヒューズの製造工程が完了する。なお、この時点でワイヤ16は
図6に示す状態から多少弛むが、弛み量は僅かである。そして、ワイヤの端部16aが同質のハンダ19,15によりサンドイッチ状に固定されるので、有機質等を含まず、溶断特性を良好なものとすることができる。また、キャップ18には
図10に示すように凸部18cを形成しておいてもよい。これにより、筒体11の端部に嵌着したキャップ18が抜けにくくなる。なお、
図7、
図10ではキャップ内部のハンダ19が図示されているが、最初に形成するハトメ状のハンダの量がワイヤ16とキャップ18を接続するのに充分であれば、キャップ18内部のハンダ19を省略しても良い。
【0022】
上述した電流ヒューズの製造方法によれば、筒体端面の貫通孔縁部にハンダをジグで打ち抜き形成することで、ハンダの内周縁部には、下地セラミックス筒体の縁部(角部)の形状にかかわらず、滑らかな曲面Rが形成される。これにより、ワイヤが接触する貫通孔縁部を滑らかな曲面Rとすることができ、且つセラミックスと比較して柔らかいハンダとすることができ、ワイヤ固定時のワイヤに掛かるストレスを低減でき、ワイヤの損傷を低減できる。また、ハトメ状のハンダで内周縁部を覆う上述の方法と、セラミックス筒体の内周縁部及び外周縁部に予め適度の丸み(曲率半径R)を形成する構造とを併用することがより好ましい。
【0023】
さらに、ワイヤを貫通孔に通して固定する際に、ワイヤを筒体端面に沿わせて引っ張り、筒体端面のハンダにワイヤを固着するとともに、ワイヤを切断することで、ワイヤに張力をかけた状態で貫通孔内に斜めに弛み無く張ることができる。これにより、ワイヤの弛みによる貫通孔内壁面への接触等に基づく溶断特性の劣化を低減できる。
【0024】
さらに、ワイヤの固定時に、ワイヤが筒体端面のハンダ部分で切断される。これにより、ワイヤを筒体外周面に引き出す必要がなくなり、特許文献1で必要とされる溝2が不要となり、筒体自体の構造を簡素化でき、製造工程を簡素化できる。従って、本発明によれば、自動化が容易な工程で、溶断特性のバラツキの少ない筒形電流ヒューズの量産が可能である。
【0025】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、表面実装に好適な筒形電流ヒューズの製造に利用可能である。