特許第5740863号(P5740863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740863
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】空気圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   F04B39/00 104D
   F04B39/00 107A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-172278(P2010-172278)
(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公開番号】特開2012-31788(P2012-31788A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】古田土 誠一
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−144666(JP,A)
【文献】 米国特許第06349630(US,B1)
【文献】 特表平05−502712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内を往復し、前記シリンダとともに圧縮室を画成するピストンと、
前記シリンダの径方向から前記圧縮室に向けて屈曲する屈曲部と、該屈曲部から延びて前記シリンダの内周部と当接し、前記シリンダと前記ピストンとの間をシールする当接部と、を有する環状のリップリングと、
前記屈曲部の前記圧縮室と反対側に配設され、前記屈曲部と当接するサポートリングと、
一端部がモータにより駆動されるクランク軸と接続され、他端部が前記ピストンに固定されるコンロッドと、
を備え
前記コンロッドの前記他端部は、前記ピストンの外周よりも前記シリンダの径方向外側に突出し、前記ピストンとともに前記リップリング及び前記サポートリングを挟んで支持する段差部を有し、
前記ピストンの往復方向において、前記サポートリングの、前記屈曲部と当接する部分と反対側の部分は、前記段差部と当接する、
ことを特徴とする空気圧縮機。
【請求項2】
前記サポートリングには、前記屈曲部と当接し、前記屈曲部と略等しい曲率を有する曲面が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気圧縮機。
【請求項3】
前記サポートリングは、前記リップリングと略等しい熱膨張率を有する材料から構成される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の空気圧縮機。
【請求項4】
記コンロッドの前記他端部の外径は、前記サポートリングの外径よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空気圧縮機。
【請求項5】
シリンダと、
前記シリンダ内を往復し、前記シリンダとともに圧縮室を画成するピストンと、
前記シリンダの径方向に延びる平板部と、該平板部から延びて前記シリンダの径方向から前記圧縮室に向けて屈曲する屈曲部と、該屈曲部から延びて前記シリンダの内周部と当接し、前記シリンダと前記ピストンとの間をシールする当接部と、前記屈曲部の前記圧縮室と反対側に形成された支持部と、を有するリップリングと、
一端部がモータにより駆動されるクランク軸と接続され、他端部が前記ピストンに固定されるコンロッドと、
を備え、
前記コンロッドの前記他端部は、前記ピストンの外周よりも前記シリンダの径方向外側に突出し、当該他端部の端面は前記ピストンとともに前記リップリングの前記平板部を挟んで支持し、当該端面の前記シリンダの径方向外側に環状に窪んだ段差部を有し、
前記ピストンの往復方向において、前記支持部の、前記屈曲部と反対側の部分は、前記環状に窪んだ段差部と当接する、
ことを特徴とする空気圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動式の空気圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気工具等の動力となる高圧の圧縮空気を生成する空気圧縮機として、段階的に圧力を上げていく多段式往復動圧縮機が一般的に用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、空気を圧縮するピストン方式には、往復揺動型のロッキングピストンと、コンロッドの先端に設けられた圧縮ピストンピンに回動自在に設けられた非揺動型のピストンとが知られている(例えば、特許文献2参照)。このうち、往復揺動型のロッキングピストンは、非揺動型のピストンと比べて部品点数が少なく軽量であるため、振動や騒音が小さいというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−185648号公報
【特許文献2】特開2009−8039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、往復揺動型のピストンでは、ピストンとシリンダ間をシールするための薄い板状のリップリングが用いられる。そのため、高圧力の圧縮空気を生成しようとすると、大きな変形によるリップリングの破断や、摩耗による空気漏れが発生するおそれがあるため、高圧の圧縮空気を生成する空気圧縮機には使用できなかった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、リップリングの耐久性を向上させることが可能な空気圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る空気圧縮機は、
シリンダと、
前記シリンダ内を往復し、前記シリンダとともに圧縮室を画成するピストンと、
前記シリンダの径方向から前記圧縮室に向けて屈曲する屈曲部と、該屈曲部から延びて前記シリンダの内周部と当接し、前記シリンダと前記ピストンとの間をシールする当接部と、を有する環状のリップリングと、
前記屈曲部の前記圧縮室と反対側に配設され、前記屈曲部と当接するサポートリングと、
一端部がモータにより駆動されるクランク軸と接続され、他端部が前記ピストンに固定されるコンロッドと、
を備え
前記コンロッドの前記他端部は、前記ピストンの外周よりも前記シリンダの径方向外側に突出し、前記ピストンとともに前記リップリング及び前記サポートリングを挟んで支持する段差部を有し、
前記ピストンの往復方向において、前記サポートリングの、前記屈曲部と当接する部分と反対側の部分は、前記段差部と当接する、
ことを特徴とする。
【0007】
前記サポートリングには、前記屈曲部と当接し、前記屈曲部と略等しい曲率を有する曲面が形成されていてもよい。
【0008】
前記サポートリングは、前記リップリングと略等しい熱膨張率を有する材料から構成されてもよい。
【0009】
記コンロッドの前記他端部の外径は、前記サポートリングの外径よりも小さくてもよい。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る空気圧縮機は、
シリンダと、
前記シリンダ内を往復し、前記シリンダとともに圧縮室を画成するピストンと、
前記シリンダの径方向に延びる平板部と、該平板部から延びて前記シリンダの径方向から前記圧縮室に向けて屈曲する屈曲部と、該屈曲部から延びて前記シリンダの内周部と当接し、前記シリンダと前記ピストンとの間をシールする当接部と、前記屈曲部の前記圧縮室と反対側に形成された支持部と、を有するリップリングと、
一端部がモータにより駆動されるクランク軸と接続され、他端部が前記ピストンに固定されるコンロッドと、
を備え、
前記コンロッドの前記他端部は、前記ピストンの外周よりも前記シリンダの径方向外側に突出し、当該他端部の端面は前記ピストンとともに前記リップリングの前記平板部を挟んで支持し、当該端面の前記シリンダの径方向外側に環状に窪んだ段差部を有し、
前記ピストンの往復方向において、前記支持部の、前記屈曲部と反対側の部分は、前記環状に窪んだ段差部と当接する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リップリングの耐久性を向上させることが可能な空気圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る空気圧縮機の外観図である。
図2】カバーを取り外した空気圧縮機の外観図である。
図3図2の矢印A方向から見た空気圧縮機の外観図である。
図4図3の切断線B−Bにおける圧縮空気生成部の断面図である。
図5】2段目圧縮装置の要部拡大断面図である。
図6】高圧側リップリングの外観斜視図である。
図7図5の要部拡大図である。
図8】サポートリングの外観斜視図である。
図9】(a)は従来の空気圧縮機における要部断面図、(b)は従来の空気圧縮機におけるリップリングの腰折れ状態を説明するための要部断面図である。
図10】(a)〜(c)は、本実施形態の変形例に係る要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る空気圧縮機を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る空気圧縮機1の外観図、図2はカバー2を外した状態の空気圧縮機1の外観図、図3図2の矢印A方向から見た空気圧縮機の外観図である。図2、3に示すように、空気圧縮機1は、駆動部100と、空気タンク部200と、制御回路部300と、圧縮空気生成部400と、持ち運び用ハンドル3と、防振支持用ゴム足4とから構成される。
【0014】
駆動部100は、例えば直流モータ等から構成され、クランクシャフト440(図4参照)を介して直流モータの回転運動を圧縮空気生成部400のピストンの往復運動に変換することにより、圧縮空気生成部400を駆動する。駆動部100の駆動回路は、制御回路部300により制御される。また、駆動部100とともに圧縮空気生成部400を間に挟むようにして冷却ファン110が設けられる。冷却ファン110は、駆動部100の回転軸に取り付けられ、圧縮空気生成部400を通風冷却する。
【0015】
空気タンク部200は、平行に配置された1対の円筒状の空気タンク211、212等から構成される。空気タンク211、212は、圧縮空気生成部400で生成され、空気通路250を通って供給される圧縮空気を貯留する。供給された圧縮空気は、空気タンク211、212内で、例えば3.0〜4.2MPaの圧力を有する。なお、空気タンク211、212は、連通管及びマニホールドを介して連通しているため、空気タンク211、212内部の圧力は略同一に維持される。また、空気タンク211、212には、安全弁(逃がし弁)が取り付けられ、空気タンク211、212内の圧力が異常に高くなった場合にその内部の圧縮空気の一部を外部に吐出させることで異常な圧力上昇を防止する。そして、空気タンク211、212内に貯留された圧縮空気は、減圧弁221、222で所定の圧力に減圧された後、圧縮空気取出口(カプラ)230に接続されたホース(図示せず)を介して釘打機等の空気工具(図示せず)に供給される。また、カプラ230の近傍には圧力計240が取り付けられており、カプラ230から取り出される圧縮空気の圧力を監視できる。
【0016】
制御回路部300は、主電源スイッチ310と、表示部と、スイッチング素子等が配置された回路基板とから主に構成され、主電源スイッチ310からの操作信号等に基づいて、駆動部100の直流モータのオン・オフを制御する。表示部は、例えば、タンク圧力や過負荷の警告をLED等により表示する。
【0017】
図4は、図3の切断線B−Bにおける圧縮空気生成部400の断面図である。圧縮空気生成部400は、図4に示すように、1段目圧縮装置410と、2段目圧縮装置420と、クランクケース430と、クランクシャフト440と、から構成される。1段目圧縮装置410と2段目圧縮装置420はクランクシャフト440を介し、対向するように配置される。1段目圧縮装置410は、アルミニウム合金等の金属材料から形成された低圧側シリンダ411、低圧側ピストン412、低圧側コンロッド413等から構成される。また、2段目圧縮装置420は、アルミニウム合金等の金属材料から形成された高圧側シリンダ421、高圧側ピストン422、高圧側コンロッド423等から構成される。低圧側ピストン412及び高圧側ピストン422は、それぞれ低圧側コンロッド413及び高圧側コンロッド423を介してクランクシャフト440に連結されている。この構成により、クランクシャフト440の回転運動が、低圧側シリンダ411内における低圧側ピストン412の往復運動、及び高圧側シリンダ421内における高圧側ピストン422の往復運動に変換される。
【0018】
次に、1段目圧縮装置410における低圧側シリンダ411と低圧側ピストン412間のシール構造について説明する。なお、以下の説明では、低圧側ピストン412の摺動方向のうち、クランクシャフト440が収容されているクランク室441から、低圧側シリンダ411と低圧側ピストン412とにより画成される低圧側圧縮室414に向かう方向(圧縮工程時における低圧側ピストン412の移動方向)を上方向、その反対を下方向とする。
【0019】
低圧側ピストン412は、円板状に形成され、その下面には、下方向に円柱状に突出する突出部が形成されている。また、低圧側コンロッド413の上面は低圧側ピストン412の突出部が嵌合する凹部が形成されている。低圧側ピストン412の突出部は、後述する環状の低圧側リップリング415が挿通された状態で、凹部に嵌合する。そして、低圧側ピストン412は、ボルト416により低圧側コンロッド413に固定される。
【0020】
低圧側リップリング415は、低圧側ピストン412と低圧側シリンダ411との間をシールするためのものである。低圧側リップリング415は、環状に形成され、その内縁部は、低圧側ピストン412と低圧側コンロッド413の上部との間に挟持される。低圧側リップリング415の外縁部は、低圧側シリンダ411の径方向から上向きに屈曲し、低圧側シリンダ411の内周部と当接する。これにより、圧縮工程時において、圧縮空気の圧力により、低圧側リップリング415の屈曲部分が下方向の圧力を受けると、外縁部がより強く低圧側シリンダ411の内周部と当接する。このようにして、低圧側リップリング415は、低圧側圧縮室414をシールする。
【0021】
また、低圧側リップリング415は、例えば、PTFE(Polytetrafluoroethylene)といったフッ素樹脂により形成される。これにより、低圧側シリンダ411の内周部との摩擦を小さくすることができ、摺動性を向上させることができる。
【0022】
次に、2段目圧縮装置420における高圧側シリンダ421と高圧側ピストン422間のシール構造について説明する。なお、以下の説明では、高圧側ピストン422の摺動方向のうち、クランクシャフト440が収容されているクランク室441から、高圧側シリンダ421と高圧側ピストン422とにより画成される高圧側圧縮室424に向かう方向(圧縮工程時における高圧側ピストン422の移動方向)を上方向、その反対を下方向とする。
【0023】
図5に、図4における2段目圧縮装置420の要部拡大図を示す。高圧側ピストン422は、円板状に形成され、その下面には、下方向に円柱状に突出する突出部422aが形成されている。また、高圧側コンロッド423の上面は高圧側ピストン422の突出部422aが嵌合する凹部423aが形成されている。さらに、高圧側コンロッド423の凹部423aの外側には、後述する環状のサポートリング425が配設される段差部423bが形成されている。高圧側ピストン422の突出部422aが後述する環状の高圧側リップリング415が挿通され、さらに高圧側コンロッド423の段差部423bにサポートリング426が配設された状態で、高圧側ピストン422の突出部422aが高圧側コンロッド423の凹部423aに嵌合する。そして、高圧側ピストン422は、ボルト427により高圧側コンロッド423に固定される。
【0024】
高圧側リップリング425は、高圧側ピストン422と高圧側シリンダ421との間をシールするためのものである。図6に高圧側リップリング425の外観斜視図、図7図5の要部拡大図を示す。高圧側リップリング425は、図6、7に示すように環状に形成され、後述するサポートリング426と、高圧側ピストン422と、高圧側コンロッド423の上面とにより挟持される平板部425aと、平板部425aから上向きに屈曲する屈曲部425bと、屈曲部425bから延びて高圧側シリンダ421の内周部と当接する当接部425cとから一体的に構成されている。このような構成により、圧縮工程時において、圧縮空気の圧力により、屈曲部425bが下方向の圧力を受けると、当接部425cがより強く高圧側シリンダ421の内周部と当接する。このようにして、高圧側リップリング425は、低圧側リップリング415と同様に、高圧側圧縮室424をシールする。
【0025】
また、高圧側リップリング425は、例えば、PTFEといったフッ素樹脂により形成される。これにより、高圧側シリンダ421の内周部との摩擦を小さくすることができ、摺動性を向上させることができる。
【0026】
さらに、高圧側リップリング425の屈曲部425bの下方には、サポートリング426が配設されている。図8にサポートリング426の外観斜視図を示す。サポートリング426は、図8に示すように環状に形成され、下方向の圧力による高圧側リップリング425の変形を抑えるように高圧側リップリング425(特に屈曲部425b)を支持するものである。また、サポートリング426は、高圧側コンロッド423の上部に環状に形成された段差部423bに配設される。
【0027】
また、サポートリング426の高圧側リップリング426と当接する面には、高圧側シリンダ421の径方向から上方向に湾曲する曲面426aが形成されている。具体的には、曲面426aは、高圧側リップリング425の屈曲部425bの下面と略等しい曲率を有する。このような曲面426aが高圧側リップリング425の屈曲部425bの下面と当接することにより、サポートリング426は、高圧側リップリング425の屈曲部425bを下方向の圧力に対して良好に支持することができる。
【0028】
また、図5に示すように、サポートリング426の外径は、高圧側シリンダ421の内径よりも小さく、サポートリング426の外周部と高圧側シリンダ421の内周部との間には隙間が形成される。この隙間は、高圧側リップリング425が後述する腰折れをおこして隙間に入り込むことが可能なほどの距離がないことが好ましい。
【0029】
また、サポートリング426の外径は、高圧側コンロッド423の上部の外径よりも大きい。これにより、揺動しながら高圧側ピストン422及び高圧側コンロッド423が高圧側シリンダ421内を往復動する際、サポートリング426が高圧側シリンダ421の内周部と接触することにより、金属製の高圧側コンロッド423が高圧側シリンダ421の内周部に接触することが妨げられる。
【0030】
また、サポートリング426の内周部と段差部423bとの径方向の隙間は、高圧側リップリング425がその隙間に陥没しない程度に小さい。また、段差部423bの高さは、サポートリング426の厚みと略一致する。このように形成されることにより、高圧側リップリング425の平板部425a及び屈曲部425bを安定した状態で支持することができる。
【0031】
また、サポートリング426の厚みは、高圧側シリンダ421からの径方向の荷重、及び摺動時の摩擦力により座屈しない程度に厚みがあることが好ましい。これにより、高圧側リップリング425を良好に支持することができる。
【0032】
サポートリング426は、例えば、PTFEといったフッ素樹脂により形成される。これにより、高圧側シリンダ421の内周部との摩擦が小さくすることができ、摺動性を向上させることができる。また、サポートリング426は、高圧側リップリング425と略等しい熱膨張率を有する材料から構成されていることが好ましい。これにより、圧縮工程時において吸収した熱によりサポートリング426及び高圧側リップリング425が膨張しても、サポートリング426は高圧側リップリング425の屈曲部425bを曲面426aにおいて支持し続けることができる。
【0033】
以上のように構成される圧縮空気生成部400における動作について説明する。まず、1段目圧縮装置410は、クランクケース420の内部を経由して低圧側圧縮室414に吸い込まれた外部空気(大気圧)を圧縮し、1段目配管を介して、2段目圧縮装置420に圧縮空気を供給する。2段目圧縮装置420は、1段目圧縮装置410から供給される圧縮空気を、高圧側圧縮室424において、例えば3.0〜4.5MPaの許容最高圧力まで圧縮し、空気通路250を介して、空気タンク211、212に圧縮空気を供給する。
【0034】
次に、本実施形態に係る高圧側リップリング425及びサポートリング42の動作について説明する。
【0035】
まず、低圧側圧縮装置410の構成を用いて、低圧側リップリング415のようにサポートリングにより支持されない従来のリップリングに高圧力がかかる場合の動作について図9を用いて説明する。図9(a)は、低圧側リップリング415の低圧側ピストン412の摺動方向の一部断面図である。圧縮工程時において、図9(a)に示すような低圧側リップリング415に、例えば0.5〜1.5MPaといった低い圧力がかかる場合、低圧側リップリング415は、その圧力に抗して下方向への変形を抑え、低圧側圧縮室414をシールし続けることができる。しかし、例えば3.0〜4.5MPaといった高い圧力がかかる場合、高圧力と低圧側シリンダ411との摩擦力により、低圧側リップリング415は図9(b)のようにいわゆる腰折れ状態となり、低圧側シリンダ411と低圧側リップリング415との間に隙間が形成されて圧縮空気が漏れるため、圧縮比が低下する。
【0036】
次に、高圧側圧縮装置420において、サポートリング426により支持される高圧側リップリング425に高圧力がかかる場合の動作について説明する。高圧側リップリング425は、図7に示すように、その屈曲部425bにおいて、下方に配設されたサポートリング426により支持されている。従って、圧縮工程時に高圧側リップリング425に下向きに高圧力がかかっても、図9(b)のような腰折れ状態にならず、当接部425cにおいて、高圧側シリンダ421と当接し続けることができる。そのため、高圧側リップリング425は、高圧側圧縮室424をシールし続けることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る空気圧縮機1において、高圧側リップリング425の屈曲部425bの下方にサポートリング426を配設することにより、圧縮工程時における下方向の圧力による高圧側リップリングの変形を抑えることができ、高圧側リップリングの変形により形成された隙間からの圧縮空気の漏れを防ぎ、高圧側圧縮室424を良好にシールすることができる。
【0038】
また、本実施形態において、サポートリング426は、高圧側リップリング425の屈曲部425bと略等しい曲率を有する曲面426aにおいて屈曲部425bと当接するため、高圧側リップリング425の屈曲部525を下方向の圧力に対して良好に支持することができる。
【0039】
また、本実施形態において、サポートリング426は、高圧側リップリング425と略等しい熱膨張率を有する材料から構成されているため、圧縮工程時に吸収した熱により膨張しても良好に高圧側リップリング425を支持し続けることができる。
【0040】
また、本実施形態において、高圧側ピストン422が固定された高圧側コンロッド423の上側端部の外径は、サポートリング426の外径よりも小さいため、高圧側コンロッド423が揺動しても、サポートリング426が高圧側シリンダ421と接触し、高圧側コンロッド423は高圧側シリンダ421に接触しない。従って、互いに金属製である高圧側コンロッド423と高圧側シリンダ421との接触による損傷を防止することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。例えば、上記の実施形態では、高圧側リップリング425の当接部425cの形状は、高圧側シリンダ421の軸方向断面において略等しい厚さを有するように形成されているが、高圧側リップリング425の厚みはこれに限られない。例えば、図10(a)に本実施形態の変形例に係る高圧側リップリング525とサポートリング426の断面図を示す。ここで、上述の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。図10(a)に示すように、高圧側リップリング525の当接部525cは、外側に向かうにつれ薄くなるように形成されてもよい。このように形成されることにより、高圧側リップリング525の当接部525cが容易に変形しやすくなるため、高圧側ピストン422が傾いても、高圧側リップリング525外側が圧縮空気の圧力を受けて高圧側シリンダ421の内周壁に密着しやすくなり、空気の漏れを防止しやすくなる。
【0042】
また、上記の実施形態において、高圧側リップリング425とサポートリング426とは別部品として構成されている。このように別部品として構成されることは、製造や部品交換が容易であるといった面から好ましいが、一体として構成されてもよい。具体的には、例えば図10(b)に示すように、高圧側リップリング625は、上記の実施形態と同様の平板部625a、屈曲部625b、当接部625cとともに、支持部625dが一体として形成されていてもよい。支持部625dは、屈曲部625bの下側に形成され、下方向の圧力による高圧側リップリング625の屈曲部625bの変形を抑えるように高圧側リップリング625の屈曲部625bを支持する。このように、高圧側リップリング425とサポートリング426とを一体に構成することで、部品点数を少なくすることができる。
【0043】
また、上記の実施形態において、サポートリング426の外周面は高圧側シリンダ421の内周面と略平行となるように形成されているが、サポートリング426の外周面の形状はこれに限られない。例えば、図10(c)に示すように、サポートリング726の外周面を外径方向に凸形状となるような円弧状に形成してもよい。これにより、サポ−トリング726の磨耗を防止することが可能となる。これは、図7に示すようにサポートリング426の外周面が高圧側シリンダ421の内周面と略平行である場合、高圧側ピストン422が傾くことで、同時にサポートリング426も傾き、サポートリング426の外周上部426cや外周下部426dが高圧側シリンダ421に強く接触する為である。
【符号の説明】
【0044】
1 空気圧縮機
2 カバー
3 持ち運び用ハンドル
4 防振支持用ゴム足
100 駆動部
110 冷却ファン
200 空気タンク部
211、212 空気タンク
221、222 減圧弁
230 圧縮空気取出口(カプラ)
240 圧力計
250 空気通路
300 制御回路部
310 主電源スイッチ
400 圧縮空気生成部
410 1段目圧縮装置
411 低圧側シリンダ
412 低圧側ピストン
413 低圧側コンロッド
414 低圧側圧縮室
415 低圧側リップリング
420 2段目圧縮装置
421 高圧側シリンダ
422 高圧側ピストン
422a 突出部
423 高圧側コンロッド
423a 凹部
423b 段差部
424 高圧側圧縮室
425 高圧側リップリング
425a 平板部
425b 屈曲部
425c 当接部
426 サポートリング
426a 曲面
525 高圧側リップリング
525c 当接部
625 高圧側リップリング
625a 平板部
625b 屈曲部
625c 当接部
625d 支持部
726 サポートリング
図1
図2
図3
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図10