特許第5740871号(P5740871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5740871異種金属材料の接合方法及び異種金属材料接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740871
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】異種金属材料の接合方法及び異種金属材料接合体
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   B23K20/12 360
   B23K20/12 364
   B23K20/12 344
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-194541(P2010-194541)
(22)【出願日】2010年8月31日
(65)【公開番号】特開2012-50996(P2012-50996A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100078765
【弁理士】
【氏名又は名称】波多野 久
(74)【代理人】
【識別番号】100078802
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 俊三
(74)【代理人】
【識別番号】100130731
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 修
(74)【代理人】
【識別番号】100150957
【弁理士】
【氏名又は名称】松長 純
(72)【発明者】
【氏名】畑山 智信
(72)【発明者】
【氏名】四谷 剛毅
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−225476(JP,A)
【文献】 特開2008−221339(JP,A)
【文献】 特開2008−030096(JP,A)
【文献】 特開平10−137952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が異なる異種金属材料における高融点材料と低融点材料とを、高融点材料を上側に低融点材料を下側にそれぞれ重ね合せて接合予定位置に位置づけ、
前記上側の高融点材料の上面から鋼製で丸棒形状に形成された回転ツールを回転させながら軸方向に押し当てて前記高融点材料内に挿入し、
且つ、この回転ツールの先端の挿入位置を、前記高融点材料が突き破られないように、前記回転ツールの先端が前記高融点材料と前記低融点材料との合せ面から前記高融点材料側に0.05mm〜0.6mmの距離の位置にあるように調整し
前記高融点材料を前記高融点材料と前記回転ツールとの摩擦熱により、また前記低融点材料を前記高融点材料と前記回転ツールとの前記摩擦熱の伝熱により、それぞれ前記回転ツール近傍で部分的に軟化させて塑性流動化し、これらの塑性流動化された高融点材料と低融点材料の前記回転ツール近傍部分を、前記回転ツールの回転により部分的に撹拌して前記高融点材料と前記低融点材料とを摩擦撹拌接合させることを特徴とする異種金属材料の接合方法。
【請求項2】
前記回転ツールは、鋼製で丸棒形状に形成されており、直径が3mm〜10mmに設定されたことを特徴とする請求項1に記載の異種金属材料の接合方法。
【請求項3】
前記回転ツールの回転数は、75rpm〜750rpmに設定されたことを特徴とする請求項1に記載の異種金属材料の接合方法。
【請求項4】
前記高融点材料が鉄材または鋼材であり、低融点材料がアルミニウム材であることを特徴とする請求項1に記載の異種金属材料の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異種金属材料の接合方法により高融点材料と低融点材料とが接合されて得られた異種金属材料接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属材料を摩擦撹拌接合により接合する異種金属材料の接合方法、及びこの接合方法により得られる異種金属材料接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
異種金属材料、特に鋼材とアルミニウム材の接合は、一般に溶融溶接や、リベットなどの機械的接合などによって行われている。
【0003】
ところが、溶融溶接では入熱量が大きいため、鋼材とアルミニウム材の界面に脆弱な金属間化合物(FeAl、FeAlなど)が生成されてしまい、接合強度が低下するという課題がある。また、リベットやボルト等を用いた機械的接合では、接合のためにリベットなどの資材が必要になり、コストが上昇してしまう。
【0004】
そこで、近年では、被接合材を溶融させずに軟化させ、塑性流動化して固相接合する摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)を用いて、鋼材とアルミニウム材を接合させる研究が進められている。この摩擦撹拌接合では、一般的な工具鋼で作製されたFSWツールを用い、このFSWツールをアルミニウム材のみに接触させて、鋼材とアルミニウム材とを摩擦撹拌接合している(例えば特許文献1、特許文献2など)。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の摩擦撹拌接合では、接合面に酸化防止膜(Znメッキ)が被覆された鋼材と、アルミニウム材とを重ね合わせ、FSWツールをアルミニウム材に回転させながら押し当てて挿入し、摩擦熱によりアルミニウム材及びZnメッキを軟化して塑性流動化し、Znメッキを取り除いて鋼材の表面に新生面を露出させ、塑性流動化したアルミニウム材と鋼材の新生面とを固相接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−34879号公報
【特許文献2】特開2006−239720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、FSWツールを鋼材に接触させず、アルミニウム材のみに接触させる摩擦撹拌接合では、鋼材とアルミニウム材とが十分に撹拌されないので、高い接合強度を得ることができない。つまり、FSWツールをアルミニウム材に接触させて挿入させた場合、アルミニウム材の融点直下まで温度上昇すると、このアルミニウム材が軟化して塑性流動化し、FSWツールとの摩擦が低下する。このため、これ以上の発熱(摩擦熱)が得られず、鋼材を塑性流動化させ得る温度まで温度上昇させることができないので、アルミニウム材のみが撹拌されることになる。このため、鋼材とアルミニウム材とが十分に撹拌されず、高い接合強度を得ることができないのである。
【0008】
また、一般的な工具鋼で作製されたFSWツールを、従来の手法で回転させながら鋼材に接触させた場合には、FSWツールが摩耗したり、摩擦熱により破損する恐れがある。
【0009】
鋼材と接触させても摩耗や破損が生じにくいPCBN(多結晶立方晶窒化ホウ素)などの特殊な材質によるツールを用いることも考えられるが、ツール自体が高価であり、摩擦撹拌接合のコストが上昇してしまう。
【0010】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、異種金属材料の接合強度、特に剥離強度を向上できる異種金属材料の接合方法及び異種金属材料接合体を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、摩擦撹拌接合用の回転ツールの損傷を防止できる異種金属材料の接合方法及び異種金属材料接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る異種金属材料の接合方法は、融点が異なる異種金属材料における高融点材料と低融点材料とを、高融点材料を上側に低融点材料を下側にそれぞれ重ね合せて接合予定位置に位置づけ、前記上側の高融点材料の上面から鋼製で丸棒形状に形成された回転ツールを回転させながら軸方向に押し当てて前記高融点材料内に挿入し、且つ、この回転ツールの先端の挿入位置を、前記高融点材料が突き破られないように、前記回転ツールの先端が前記高融点材料と前記低融点材料との合せ面から前記高融点材料側に0.05mm〜0.6mmの距離の位置にあるように調整し、前記高融点材料を前記高融点材料と前記回転ツールとの摩擦熱により、また前記低融点材料を前記高融点材料と前記回転ツールとの前記摩擦熱の伝熱により、それぞれ前記回転ツール近傍で部分的に軟化させて塑性流動化し、これらの塑性流動化された高融点材料と低融点材料の前記回転ツール近傍部分を、前記回転ツールの回転により部分的に撹拌して前記高融点材料と前記低融点材料とを摩擦撹拌接合させることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る異種金属材料接合体は、前述に記載の異種金属材料の接合方法により高融点材料と低融点材料とが接合されて得られたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る異種金属材料の接合方法及び異種金属材料接合体によれば、回転ツールを高融点材料側から挿入することにより、この高融点材料を軟化して塑性流動する温度まで発熱させ、この熱が伝熱することで、低融点材料が軟化して塑性流動する。このため、高融点材料及び低融点材料を回転ツールにより部分的に十分に撹拌できるので、これらの両材料を高い接合強度で接合できる。また、回転ツールの挿入位置を高融点材料が突き破られない位置に調整するので、高融点材料と低融点材料との接合面積を良好に確保でき、これら両材料の接合強度、特に剥離強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る異種金属材料の接合方法における一実施形態が適用された摩擦撹拌接合方法の実施状況を示す概略側面図。
図2図1の摩擦撹拌接合方法により得られた摩擦撹拌接合体(軟鋼板とアルミニウム展伸板との接合体)の接合部の外観を示す写真。
図3図2の接合部周囲の断面を示し、(A)が断面写真、(B)が図3(A)を模式的に示す断面図、(C)が図3(A)のIIIC部の拡大断面写真、(D)が図3(A)のIIID部の拡大断面写真。
図4図1の摩擦撹拌接合方法により得られた摩擦撹拌接合体(軟鋼板とアルミニウム鋳造板との接合体)の接合部周囲の断面を示し、(A)が断面写真、(B)が図4(A)のIVB部の拡大写真、(C)が図4(A)のIVC部の拡大写真、(D)が図4(A)のIVD部の拡大写真。
図5図1の摩擦撹拌接合方法により得られた摩擦撹拌接合体(軟鋼板とアルミニウムダイカスト板との接合体)の接合部周囲の断面を示し、(A)が断面写真、(B)が図5(A)のVB部の拡大写真、(C)が図5(A)のVC部の拡大写真、(D)が図5(A)のVD部の拡大写真。
図6】摩擦撹拌接合体の剥離強度と回転ツールの挿入深さとの関係を示すグラフ。
図7】摩擦撹拌接合体の剥離強度と回転ツールの直径との関係を示すグラフ。
図8】従来の摩擦撹拌接合方法の実施状況を示す概略側面図。
図9図8の摩擦撹拌接合方法により得られた摩擦撹拌接合体の接合部周囲の断面を示し、(A)が断面写真、(B)が図9(A)を模式的に示す断面図。
図10図2及び図3に示す摩擦撹拌接合体15と図9に示す摩擦撹拌接合体100に関し、剥離強度及び十字引張強度を比較して示すグラフ。
図11】強度試験を説明する図であり、(A)が十字引張強度試験の説明図、(B)が剥離強度試験の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る異種金属材料の接合方法における一実施形態が適用された摩擦撹拌接合方法の実施状況を示す概略側面図である。本実施の形態の摩擦撹拌接合方法は、融点が異なる異種金属材料(高融点材料と低融点材料)を、回転ツール13を用いて重ね点接合させるものであり、高融点材料としては鉄材、特に融点が約1500℃の鋼材11が、低融点材料としては、融点が約580〜650℃のアルミニウム材(アルミニウム合金を含む)12が用いられる。ここで、アルミニウム材12は、A6061などの展伸材に限らず、AC4CHなどの鋳造材や、ADC12などのダイカスト材などであってもよい。
【0018】
本実施の形態の摩擦撹拌接合方法では、まず鋼材11とアルミニウム材12とを重ね合せて接合予定位置に位置づける。このとき、鋼材11が上側に、アルミニウム材12が下側にそれぞれ位置づけられる。
【0019】
次に、回転ツール13を回転させながら鋼材11に押し当てて挿入させる。ここで、回転ツール13は、SKD61などの工具鋼や金型鋼製であり、直径が3mm〜10mmの丸棒形状に形成されたものである。また、回転ツール13の回転数は、75rpm〜750rpmに設定されている。
【0020】
回転ツール13を鋼材11に挿入させるときの挿入位置は、鋼材11が突き破られない位置に調整される。具体的には、この回転ツール13の挿入位置は、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に距離L(L=0.05mm〜0.6mm)の位置にあるように調整される。
【0021】
上述のように摩擦撹拌点接合を行なうことで、鋼材11を回転ツール13との摩擦熱により、またアルミニウム材12を前記摩擦熱の伝熱により、それぞれ回転ツール13近傍で部分的に温度上昇させて軟化させ、塑性流動させる。そして、これらの塑性流動化された鋼材11及びアルミニウム材12の回転ツール13近傍部分を、回転ツール13の回転により撹拌し、鋼材11とアルミニウム材12とを摩擦撹拌点接合させる。
【0022】
この摩擦撹拌点接合により得られる異種金属材料接合体としての摩擦撹拌接合体15、18、21を、図2及び図3図4並びに図5にそれぞれ示す。
【0023】
図2及び図3に示す摩擦撹拌接合体15は、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板(引張強度270MPa)と、アルミニウム材12としての板厚1mmのA6061アルミニウム展伸材(引張強度300MPa)とを重ね合せて、下記の接合条件下で、鋼材11(裸軟鋼板)とアルミニウム材12(アルミニウム展伸板)とを摩擦撹拌点接合して得られたものである。上記接合条件は、SKD61製で直径6mmの丸棒形状の回転ツール13を用い、この回転ツール13の回転数を500rpmとし、回転ツール13の挿入速度を20mm/分とし、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に0.3mmとなる位置まで回転ツール13を鋼材11に挿入し、回転ツール13の挿入完了からこの回転ツール13を引き抜くまでの保持時間を1秒としている。
【0024】
この摩擦撹拌接合体15では、回転ツール13による鋼材11(裸軟鋼板)側の撹拌部16Aと、アルミニウム材12(アルミニウム展伸板)側の撹拌部16Bとが接合されて接合部17が形成される。このうち、図3(C)及び(D)に示すように、アルミニウム材12側の撹拌部16Bでは、組織が微細化されて強度が高められていることが分かる。
【0025】
また、図4に示す摩擦撹拌接合体18は、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板と、アルミニウム材12としての板厚2mmのAC4CHアルミニウム鋳造材とを重ね合せて、下記の接合条件下で、鋼材11(裸軟鋼板)とアルミニウム材12(アルミニウム部鋳造板)とを摩擦撹拌点接合して得られたものである。また、図5に示す摩擦撹拌接合体21は、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板と、アルミニウム材12としての板厚6mmのADC12アルミニウムダイカスト板とを重ね合せ、下記の接合条件下で、鋼材11(裸軟鋼板)とアルミニウム材12(アルミニウムダイカスト板)とを摩擦撹拌点接合して得られたものである。
【0026】
摩擦撹拌接合体18及び摩擦撹拌接合体21を得るための摩擦攪拌点接合時の前記接合条件は、SKD61製で直径6mmの丸棒形状の回転ツール13を用い、この回転ツール13の回転数を500rpmとし、回転ツール13の挿入速度を20mm/分とし、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に0.4mmの位置になるように回転ツール13を鋼材11に挿入し、回転ツール13の挿入完了からこの回転ツール13を引き抜くまでの保持時間を1秒としたものである。
【0027】
図4に示す摩擦撹拌接合体18の場合も、回転ツール13による鋼材11(裸軟鋼板)側の撹拌部19Aとアルミニウム材12(アルミニウム鋳造板)側の撹拌部19Bとが接合されて接合部20が形成される。このうち、特にアルミニウム材12側の撹拌部19Bでは、図4(D)に示すように、アルミニウム材12の表面(図4(B)に表示)及びアルミニウム材12の内部(図4(C)に表示)に比べて組織が微細化され、強度が高められていることが分かる。尚、図4(B)、(C)及び(D)におけるアルミニウム材12内の黒色部分はシリコンを示す。
【0028】
図5に示す摩擦撹拌接合体21の場合も、回転ツール13による鋼材11(裸軟鋼板)側の撹拌部22Aと、アルミニウム材12(アルミニウムダイカスト板)側の撹拌部22Bとが接合されて接合部23が形成される。このうち、特にアルミニウム材12側の撹拌部22Bでは、図5(D)に示すように、アルミニウム材12の内部(図5(B)に表示)及びアルミニウム材12の表面(図5(C)に表示)に比べて組織が微細化されて、強度が高められていることが分かる。
【0029】
図1に示す前述の摩擦撹拌点接合において、回転ツール13の挿入位置を、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に距離L(L=0.05mm〜0.6mm)の位置にあるように調整する理由は、回転ツール13との摩擦熱により軟化した鋼材11と、摩擦熱が伝熱されることで軟化したアルミニウム材12とが、回転ツール13により十分撹拌されて、高強度な接合が可能になるからである。つまり、前記距離Lが0.05mm未満では、鋼材11とアルミニウム材12との接合中に鋼材11が回転ツール13に突き破られてしまい、接合部17の接合面積が減少して剥離強度が著しく低下する。また、前記距離Lが0.6mmを超えた場合には、摩擦熱がアルミニウム材12へ十分に伝熱されず、回転ツール13によるアルミニウム材12の撹拌量が小さくなって、接合強度が低下してしまう。
【0030】
例えば、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板と、アルミニウム材12としての板厚1mmのA6061アルミニウム展伸板とを重ね合せ、回転ツール13の先端13Aと、鋼材11とアルミニウム材12の合せ面14との距離Lを変化させて、鋼材11とアルミニウム材12とを摩擦撹拌点接合した。このときの接合条件は、SKD61製で直径6mmの丸棒形状の回転ツール13を用い、この回転ツール13の回転数を500rpmとし、回転ツール13の挿入速度を20mm/分とし、回転ツール13の挿入完了からこの回転ツール13を引き抜くまでの保持時間を1秒としている。得られた各摩擦撹拌接合体15について、図11(B)に示す剥離強度試験を実施し、その結果を表1及び図6に示す。ここで、剥離強度試験片はJIS Z3144に準じたものとした。
【0031】
表1及び図6に示すように、回転ツール13の先端13Aを鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14よりも鋼材11側に0mm、0.7mmの各位置となるように回転ツール13を鋼材11に挿入した摩擦撹拌接合体15では、剥離強度はそれぞれ0.12kN、0.20kNと低い値であった。これに対し、回転ツール13の先端13Aを、鋼材11とアルミニウム材12との接合面14よりも鋼材11側に0.05mm〜0.6mmの各位置になるように回転ツール13を鋼材11に挿入した摩擦撹拌接合体15では、剥離強度が0.25kN以上の高い値を示し、鋼材11とアルミニウム材12とが高い接合強度で接合されていることが分かる。
【0032】
【表1】
【0033】
また、図1に示す摩擦撹拌点接合において、回転ツール13を直径3mm〜10mmの丸棒形状とした理由は、回転ツール13と鋼材11との接触による過剰な発熱(摩擦熱)を抑制して回転ツール13の摩耗や破損を防止し、且つ鋼材11とアルミニウム材12との接合強度を確保するためである。つまり、回転ツール13の直径が10mmを超えた場合には、鋼材11と回転ツール13との接触による発熱が過大になって回転ツール13が摩耗または破損する。また、回転ツール13の直径が2mm以下では、鋼材11とアルミニウム材12との接合部17の接合面積が小さくなり、強度が実用上低くなるため、回転ツール13の直径を3mm以上としているのである。
【0034】
例えば、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板と、アルミニウム材12としての板厚1mmのA6061アルミニウム展伸板とを重ね合せ、回転ツール13の直径を変化させて、鋼材11とアルミニウム材12とを摩擦撹拌点接合した。このときの接合条件は、SKD61製で丸棒形状の回転ツール13を用い、この回転ツール13の回転数を500rpmとし、回転ツール13の挿入速度を20mm/分とし、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に0.3mmとなる位置まで回転ツール13を鋼材11に挿入し、回転ツール13の挿入完了からこの回転ツール13を引き抜くまでの保持時間を1秒としている。得られた各摩擦撹拌接合体15について、図11(B)に示す剥離強度試験を行った結果を図7に示し、各摩擦撹拌点接合終了後における回転ツール13の状態を表2に示す。この場合にも、剥離強度試験片はJIS Z3144に準じたものである。
【0035】
表2に示すように、回転ツール13の直径が11mm以上の場合には、回転ツール13と鋼材11との発熱(摩擦熱)が過大になり、回転ツール13に摩耗損傷が見られる。また、図7に示すように、回転ツール13の直径が2mm以下の場合には、鋼材11とアルミニウム材12との接合部17の接合面積が小さくなってしまい、接合強度(剥離強度)が低下していることが分かる。直径が3mm以上の回転ツール13を用いることが、接合強度の観点から望ましいことが分かる。
【0036】
【表2】
【0037】
更に、図1に示す摩擦撹拌点接合において、接合時における回転ツール13の回転数を75rpm〜750rpmとした理由は、回転ツール13と鋼材11との接触による過大な発熱(摩擦熱)を抑制して、回転ツール13の摩耗及び破損を抑制し、且つ鋼材11とアルミニウム材12との接合強度を確保するためである。つまり、回転ツール13の回転数が750rpmを超えてしまう場合には、鋼材11との接触による回転数ツール13の発熱が過大になり、回転ツール13に摩耗または破損が生じる。また、回転ツール13の回転数が75rpm未満の場合には、回転ツール13と鋼材11との接触による発熱が過小になって、鋼材11とアルミニウム材12との接合強度が低下してしまうからである。
【0038】
例えば、鋼材11としての板厚1mmの裸軟鋼板と、アルミニウム材12としての板厚1mmのA6061アルミニウム展伸板とを重ね合せ、接合時の回転ツール13の回転数を変化させて、鋼材11とアルミニウム材12とを摩擦撹拌点接合した。このときの接合条件は、SKD61製で直径6mmの丸棒形状の回転ツール13を用い、この回転ツール13の挿入速度を20mm/分とし、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に0.3mmとなる位置まで回転ツール13を鋼材11に挿入し、回転ツール13の挿入完了からこの回転ツール13を引き抜くまでの保持時間を1秒としている。回転ツール13の回転数の変化により得られた各摩擦撹拌接合体15について、接合状態を観察した結果を表3に示す。
【0039】
表3に示すように、回転ツール13の回転数が50rpmでは、鋼材11と回転ツール13との接触による発熱(摩擦熱)が過小であって、鋼材11とアルミニウム材12との接合が不十分であった。これに対し、回転ツール13の回転数が75rpm〜750rpmの場合には、鋼材11とアルミニウム材12との接合が良好であった。また、回転ツール13の回転数が800rpm以上では、鋼材11とアルミニウム材12との接合が良好であったが、鋼材11と回転ツール13との接触による発熱が過大になって、回転ツール13に摩耗が見られた。
【0040】
【表3】
【0041】
次に、図2及び図3に示す摩擦撹拌接合体15と、従来の摩擦撹拌接合方法(特許文献1)により得られる摩擦撹拌接合体100(図9)とにおいて、剥離強度及び十字引張強度を比較する。
【0042】
上述の従来の摩擦撹拌接合方法は、図8示すように、鋼材101としての板厚1mmのZnメッキ鋼板101と、アルミニウム材102としての板厚4mmのA6061アルミニウム展伸板とを重ね合せ、下記の接合条件下で、摩擦撹拌接合ツール(FSWツール)103をアルミニウム材102側から挿入し、摩擦撹拌点接合により接合したものである。尚、符号106は、Zn(亜鉛)メッキ層を示す。
【0043】
上記接合条件は、ショルダ径Sが12mmで、プローブ径Pが5mm、プローブ長さMが3.5mmの摩擦撹拌接合ツール103を用い、この摩擦撹拌接合ツール103をアルミニウム材102側から挿入し、摩擦撹拌接合ツール103の回転数を1500rpmとし、摩擦撹拌接合ツール103の挿入速度を20mm/分とし、摩擦撹拌接合ツール103の挿入量を3.7mm(即ち摩擦撹拌接合ツール103の先端103Aが鋼材101とアルミニウム材102との合せ面104からアルミニウム材102側に0.3mmとなる位置)とし、摩擦撹拌接合ツール103の挿入完了からこの摩擦撹拌接合ツール103を引き抜くまでの保持時間を2秒としている。
【0044】
上述の従来の摩擦撹拌点接合(図8)により得られた摩擦撹拌接合体100(図9)では、符号105が接合部を示す。この摩擦撹拌接合体100と、図2及び図3に示す摩擦撹拌接合体15とのそれぞれについて、図11に示す剥離強度試験及び十字引張強度試験を行った。このとき、剥離強度試験片はJIS Z3144に、十字引張強度試験片はJIS Z3137にそれぞれ準じたものを用いた。これらの強度試験結果を表4と図10にそれぞれ示す。
【0045】
本実施の形態の摩擦撹拌点接合により得られた摩擦撹拌接合体15は、従来の摩擦撹拌点接合により得られた摩擦撹拌接合体100に比べて、剥離強度が約3倍、十字引張強度が約1.5倍に向上している。
【0046】
【表4】
【0047】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(5)を奏する。
【0048】
(1)回転ツール13を鋼材11側から挿入することにより、この鋼材11を軟化して塑性流動する温度まで発熱させ、この熱が伝熱することでアルミニウム材12が軟化して塑性流動する。このため、これらの塑性流動化された鋼材11及びアルミニウム材12を回転ツール13により、この回転ツール13近傍において部分的に十分に撹拌できるので、これらの鋼材11及びアルミニウム材12を高い接合強度で接合できる。
【0049】
(2)回転ツール13の挿入位置を鋼材11が突き破られない位置、つまり回転ツール13の先端13Aを鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に0.05mm以上の位置に調整するので、鋼材11とアルミニウム材12との接合部17の接合面積を良好に確保できる。この結果、これらの鋼材11とアルミニウム材12との接合強度、特に剥離強度を向上させることができる。
【0050】
(3)回転ツール13の挿入位置を、回転ツール13の先端13Aが鋼材11とアルミニウム材12との合せ面14から鋼材11側に距離L(L=0.05mm〜0.6mm)の位置にあるように調整するので、鋼材11とアルミニウム材12とを共に、摩擦熱により軟化させ、回転ツール13により十分撹拌させることができる。この結果、鋼材11とアルミニウム材12との接合強度を向上させることができる。
【0051】
(4)回転ツール13が直径3mm〜10mmの丸棒形状に形成されたので、特に回転ツール13と鋼材11の摩擦による発熱を抑制して、回転ツール13の摩耗及び破損を防止できる。
【0052】
(5)接合時における回転ツール13の回転数が75rpm〜750rpmに設定されたので、特に回転ツール13と鋼材11との摩擦による発熱を抑制して、回転ツール13の摩耗及び破損を防止できる。
【0053】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、回転ツール13として、図8に示すようなショルダ部を有する摩擦撹拌接合ツール(FSWツール)を用いてもよい。ただし、この場合には、ショルダ部が鋼材11に接触すると発熱により早期に摩耗してしまうため、このショルダ部を鋼材11に接触させないことが望ましい。
【符号の説明】
【0054】
11 鋼材(高融点材料)
12 アルミニウム材(低融点材料)
13 回転ツール
13A 先端
14 合せ面
15 摩擦撹拌接合体(異種金属材料接合体)
16A、16B 撹拌部
17 接合部
18 摩擦撹拌接合体(異種金属材料接合体)
19A、19B 撹拌部
20 接合部
21 摩擦撹拌接合体(異種金属材料接合体)
22A、22B 撹拌部
23 接合部
図1
図6
図7
図8
図10
図11
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