特許第5740873号(P5740873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5740873
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】トランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/00 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   H01F31/00 G
   H01F31/00 E
   H01F31/00 H
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-197511(P2010-197511)
(22)【出願日】2010年9月3日
(65)【公開番号】特開2012-54488(P2012-54488A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸司
(72)【発明者】
【氏名】廣中 純
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 敬
(72)【発明者】
【氏名】大田 智嗣
【審査官】 田中 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−189352(JP,A)
【文献】 特開2006−032659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 30/00 − 30/04
H01F 30/08
H01F 30/12 − 30/14
H01F 36/00 − 37/00
H01F 38/02
H01F 38/08 − 38/12
H01F 38/16
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々コイルが巻回された複数の独立した筒状のボビンと、これらボビンを収納する絶縁素材からなるケース本体と、このケース本体の外周に配設されたコア部材とを備えてなり、
各々の上記ボビンは、上記コイルが巻回される筒状の巻線部と、この巻線部の軸線方向両端に一体成形された鍔部とを備え、
かつ上記ケース本体は、上記巻線部の外周を囲繞する環状の側板と、上記鍔部の端面に対向して上記巻線部の孔部側に延出するとともに上記孔部に連通する開口部が形成された端面板とが一体成形され、
上記側板の内壁面には、隣接する上記ボビンの上記鍔部間に介装される絶縁壁部が、当該ボビンの全周にわたって形成されていることを特徴とするトランス。
【請求項2】
上記コア部材は、上記ケース本体の上記端面板および側板の外周を囲繞する外部コアと、上記開口部内に挿通される内部コアとを備えてなることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電気機器類において、比較的大きな電流が流れる高圧仕様の昇圧トランス等として用いて好適なトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高圧・大電流仕様のトランスにおいては、コイル間に所定の絶縁距離を確保する必要がある。このため、従来、コイル同士を上記絶縁距離を満足し得る所定の長さ離間させたり、上記コイルの露出面をテープ等の絶縁被覆によって覆ったり、上記コイルのボビンに中敷きとなる壁部を設ける等の構造が採用されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、1次コイルおよび2次コイルが巻回されるボビンの中央部外周に、上記1次コイルおよび2次コイルの間に突出する環状の中鍔を形成し、かつケースの底部に、上記中鍔が係合するとともに上記2次コイルの外周を囲繞する絶縁カバーを一体に形成して、上記ボビンの外周および筒状部内に配置した磁性材と上記ボビンとを、ケース内に収納することにより、上記中鍔と絶縁カバーとによって1次コイルと2次コイルとの間の絶縁距離を確保したトランスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−302438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このようなコイル間に所定の絶縁距離を確保する様々な構造を備えた従来のトランスにあっては、いずれも構造の複雑化や製品サイズの大型化、さらには製造時における組み立て工数の増加によるコスト高騰を招くという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、構造の複雑化や製品サイズの大型化を招来することなく、簡易な構造によって、所望の絶縁距離を容易に確保することができるとともに組み立ても容易になるトランスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係るトランスは、各々コイルが巻回された複数の独立した筒状のボビンと、これらボビンを収納する絶縁素材からなるケース本体と、このケース本体の外周に配設されたコア部材とを備えてなり、各々の上記ボビンは、上記コイルが巻回される筒状の巻線部と、この巻線部の軸線方向両端に一体成形された鍔部とを備え、かつ上記ケース本体は、上記巻線部の外周を囲繞する環状の側板と、上記鍔部の端面に対向して上記巻線部の孔部側に延出するとともに上記孔部に連通する開口部が形成された端面板とが一体成形され、上記側板の内壁面には、隣接する上記ボビンの上記鍔部間に介装される絶縁壁部が、当該ボビンの全周にわたって形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
さらに、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、上記コア部材が、上記ケース本体の上記端面板および側板の外周を囲繞する外部コアと、上記開口部内に挿通される内部コアとを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1または2に記載の発明においては、1次コイルが巻回されたボビンと2次コイルが巻回されたボビンとを、独立した部材として形成し、これらのボビンを収納するケース本体の内壁面に、隣接する上記ボビン間に突出する絶縁壁部を当該ボビンの全周にわたって形成しているために、隣接するボビン間に、上記絶縁壁部の突出量の約2倍の長さの絶縁距離を確保することができる。
【0011】
そして、このケース本体の外周に、コア部材を配置している結果、ケース本体内のボビンに巻回されているコイルと、上記コア部材との間にも、上記ケース本体を絶縁板として容易に所定の絶縁距離を確保することが可能になる。
【0012】
また、この種のトランスを大電力用として用いる場合には、大電流を流すために、コイルとして平角電線等の線径が太い線材を用いる必要があるが、従来の1つのボビンに1次コイルおよび2次コイルの巻線部が形成されたトランスにおいては、上記線材のスプリングバック現象等により、上記巻線部への巻回が困難であった。
【0013】
これに対して、本発明に係るトランスにおいては、1次コイルが巻回されるボビンと2次コイルが巻回されるボビンとを、互いに独立した部材として形成しているために、上記コイルとして上述した太い線材を用いた場合にも、各々容易に巻回作業を行うことが可能になる。
【0014】
このように、上記トランスによれば、構造の複雑化や製品サイズの大型化を招来することなく、簡易な構造によって、所望の絶縁距離を容易に確保することができるとともに、大電力仕様に対応すべく、コイルとして太い線材を用いた場合にも、当該線材を個々のボビンに巻回して、各々ケース本体内へ組み込めば良いために、組み立ても容易になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態におけるケース本体およびボビンの形状を示す一部省略した分解斜視図である。
図2】本実施形態に用いられるコア部材の形状を示すもので、(a)は分解斜視図、(b)は組み立てた状態の斜視図である。
図3】本実施形態の全体形状を示す斜視図である。
図4】ケース本体のボビンとの形状に基づく絶縁距離を示す断面視した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図4は、本発明に係るトランスの一実施形態を示すもので、このトランスにおいては、ケース本体1内に、複数組(本実施形態においては2組)の同形状のボビン2が収納されている。ここで、ボビン2は、筒状の巻線部3と、この巻線部3の軸線方向両端部に一体成形された平板環状の鍔部4とによって概略構成されている。そして、このボビン2は、対向する平行部2aと、この平行部2aの両端部間を繋ぐ半円弧状部2bとによって扁平な筒状に形成されており、平行部2a同士は、互いの中央部間に一体形成された隔壁兼補強板部2cによって連結されている。
【0017】
これにより、このボビン2の巻線部3の裏面側には、平行部2a、半円弧状部2bおよび隔壁兼補強板部2cによって画成された2つの孔部5が形成されている。また、巻線部3のコイル巻回面には、鍔部4間の中央位置に、当該巻線部3を2つの巻線空間3a、3bに分割する仕切板6が一体に形成されている。この仕切板6は、鍔部4と同一の外周形状に形成されており、その所定箇所には、上記巻線空間3a、3bを連通させる切り欠き部6aが形成されている。
【0018】
そして、一方のボビン2の巻線部3に、1次コイル7(図4参照)が巻回されている。この1次コイル7は、本実施形態においては平角電線が用いられており、当該平角電線は、仕切板6の切り欠き部6aを介して一方の巻線空間3aと他方の巻線空間3bとに交互に巻回されるα巻によって、巻線部3に巻回されている。また、他方のボビンの巻線部3には、平角電線からなる2次コイル8(図4参照)が同様にして巻回されている。
【0019】
他方、ケース本体1は、絶縁性を有する合成樹脂によって成形されたもので、ボビン2の巻線部3に巻回された1次コイル7および2次コイル8を外周側から囲繞する筒状の側板10と、この側板10の軸線方向両端部に一体成形されて、ボビン2の鍔部4の外面と対向する端面板11とから概略構成されたものである。ここで、端面板11は、中央部に巻線部3の孔部5と連通する開口部が形成された環状に形成されている。
【0020】
さらに、このケース本体1には、側板10の内壁面であって、かつ端面板11間の中央位置に、当該側板10から内方に突出する環状の絶縁壁部12が形成されている。この絶縁壁部12は、当該ケース本体1の内方に突出する一対の絶縁板13と、これら絶縁板13の内端縁間を塞ぐ底板14とにより断面コ字状に形成されている。
【0021】
これにより、ケース本体1内には、端面板11と絶縁壁部12との間に、各ボビン2の収納溝部15が形成されている。また、絶縁壁部12の絶縁板13間には、外周側に開口する凹部12aが形成されている。
そして、このケース本体1は、2組のボビン2の各々半分を収納する一対の分割体1a(図1では、その一方のみを示す。)が、互いの分割面において接合一体化されることにより構成されている。
【0022】
さらに、ケース本体1の側板10における円弧部分には、内部に収納したボビン2の各々の巻線空間3a、3bに連通して、1次コイル7または2次コイル8の端部7a、8aを引き出すための切り欠き部10a、10bが穿設されている。なお、図中符号7b、8bは、各々1次コイル7の端部7aまたは2次コイル8の端部8aに接続された端子金物である。
【0023】
そして、このケース本体1の外周には、2組のコア部材16が配置されている。このコア部材16は、図2に示すように、一対のE型コア16aが対向配置されることにより全体として日字状に形成されたものである。すなわち、各E型コア16aは、ケース本体1の端面板11をその短手方向に横断するように囲繞し、かつ側板10の幅寸法の約半分を囲繞するコ字状の外部コア17と、この外部コア17の内面中央から突出して、ケース本体1の開口部を介して一方のボビン2の孔部5内に挿入される内部コア18とから構成されている。
【0024】
次いで、上記構成からなるトランスの組み立て手順について説明する。
先ず、2組のボビン2の一方の巻線部3に、1次コイル7をα巻きによって巻回し、その端部を各々巻線空間3a、3bから外部に引き出して端部7aに端子金物7bを接続する。同様にして、他方のボビン2の巻線部3に、2次コイル8をα巻きによって巻回し、その端部を各々巻線空間3a、3bから外部に引き出して端部8aに端子金物8bを接続する。
【0025】
次いで、図1に示すように、ケース本体1の分割体1aにおける一方の端面板11と絶縁壁部12との間に形成された収納溝部15に、1次コイルを巻回したボビン2の半分を収納し、他方の端面板11と絶縁壁部12との間に形成された収納溝部15に、2次コイルを巻回したボビン2の半分を収納する。なお、図1においては、ケース本体1の分割体1aおよびボビン2の形状を示すために、2次コイルを巻回したボビン2および1次コイル7の図示を省略してある。
【0026】
次いで、上記一方のケース本体1の分割体1aから露出する2組のボビン2の半分を、他方の分割体1a内に収納し、これら分割体1a同士を接合一体化することにより、2組のボビン2を収納したケース本体1が完成する。この際に、ボビン2に巻回した1次コイル7および2次コイル8の端部7a、8aを、ケース本体1の側板10に形成した切り欠き部10a、10bから外部に引き出し、端部に端子金物7b、8bを固定する。ちなみに、本実施形態においては、1次コイル7および2次コイル8が、各々ケース本体1の長手方向の反対側に引き出されている。
【0027】
そして次に、2組のコア部材16について、各々のコア部材16を構成する一対のE型コア16aの内部コア18を、各々ケース本体1の両端面板11側から内部の孔部5内に挿入して、外部コア17の対向面を当接させ、両外部コア17を、例えばテープ19等によって互いに接着・固定することにより、図3に示すように、これら2組のコア部材16をケース本体1の外周に配設する。
【0028】
以上の構成からなるトランスにおいては、1次コイル7が巻回されたボビン2と2次コイル8が巻回されたボビン2とを、独立した部材として形成し、これらのボビン2を収納するケース本体1の側板10の内壁面に、隣接するボビン2間に突出する絶縁壁部12をボビン2の全周にわたって形成している。このため、図4に示すように、隣接するボビン2の1次コイル7および2次コイル8間に、図中点線で示すように、絶縁壁部12の突出量の約2倍、より正確には、少なくともボビン2の鍔部4の外周縁から絶縁壁部12の底板14間での長さの2倍の絶縁距離Lを確保することができる。
【0029】
また、同図に示すように、このケース本体1の外周に、コア部材1を配置しているために、ケース本体1内のボビン2に巻回されている2次コイル8と、コア部材1との間にも、少なくともボビン2の鍔部4の外周縁からケース本体1の端面板11の内周縁までの長さに相当する絶縁距離L2を確保することができる。
【0030】
加えて、1次コイル7が巻回されるボビン2と、2次コイル8が巻回されるボビン2とを、互いに独立した部材として形成しているために、1次コイル7や2次コイル8として本実施形態に示した平角電線のような、太い線材を用いた場合にも、容易に各ボビン2に巻回作業を行うことが可能になる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、ケース本体1内に、独立した2組のボビン2を収納するとともに、ケース本体1の内壁面に上記ボビン2間に介装される絶縁壁部12を形成した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、上記ケース本体1内に、各々コイルが巻回された3組以上のボビン2を収納し、互いに隣接するボビン2間に、同様の絶縁壁部12を介装する場合にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
各種の電気機器類において、高圧仕様の昇圧トランス等として利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 ケース本体
2 ボビン
3 巻線部
4 鍔部
5 孔部
7 1次コイル
8 2次コイル
10 側板
11 端面板
12 絶縁壁部
16 コア部材
16a E型コア
17 外部コア
18 内部コア
図1
図2
図3
図4